というわけで、US国内で大ヒット中の『DEAD POOL』をやっと観てきた。
 日本でも、公開土日は結構稼ぎ、恐らくは15億は越える、そして20億もあり得なくない、というような数字で開幕したわけだが、わたしは平日の夜の渋谷TOHOシネマズでいつもの通りボッチ鑑賞としゃれ込んでみたところ、さすがに渋谷だけあって、歳若い男女カップルで意外と賑わっていたのを目撃したのである。
 しかし、である。残念ながら劇場でゲラゲラ笑っているのはわたしだけ、渋谷の若者どもは実におとなしくスクリーンを見つめるという奇妙な状況でもあった。まあ、そりゃそうだろう、と思う。何しろこの映画、恐ろしく玄人向けであり、少なくとも映画道の有段者クラスでないとまったく笑いどころが分からない、極めて難しい映画だな、とわたしは思ったからだ。これは……映画道三段ぐらいの黒帯じゃないと、まあ、まったく面白くないでしょうな。というのがわたしの結論である。ちなみにわたしも、結構な頻度で繰り出されるギャグにかなり笑わせてもらったが、まあ、正直、全然人におススメしたくなるような作品ではなかったというのが正直な感想だ。というわけで、以下、ネタバレ全開です。

 まず、DEADPOOLがしゃべりまくる細かいネタは、映画道黒帯でないと意味が分からないだろうし、それを公式サイトで「トリビア」としてまとめているのは、まあ、実際のところ、無駄な努力だろう。誰も事前に読みはしないし、映画を観ている最中に理解しないと面白くもなんともないので、ド素人のゆとりKIDSには通じるはずもない。そもそも、「解説」される時点でギャグとしてはもう寒いだろうし。それよりも、最低限、以下の2つのポイントを知らないと、ダメだと思う。おそらく、渋谷に集う平成ゆとりKIDSたちは、劇場でのリアクションから察するに、まったく知らないのだろう。つまりは、残念ながら20th Century FOXは、日本におけるプロモーションの方向性を完全に誤っているんだろうな、と思った。

 1)そもそも、DEAD POOLって何者?
 原作的な詳しい設定は、Wikiでも読むか、パンフレットを買って読んでいただくとして(パンフレットはかなり詳しい解説があるので、大変読み応えアリ)、ま、要するに「X-MEN」に出てくる、(人工的に作られた)ミュータントだということである。この点で、早くも日本の平成KIDSたちには、頭の中に「?」が浮かぶことだろう。すなわち、「X-MENって?」「ミュータントって?」という根本的な「?」だ。コレが分かってないと話にならないと思う。が、めんどくさいのでもうここではそれらについて説明しません。
 そして恐らく、20th Century FOXも、日本でそれら(US国内ではまったく説明を要しないで当たり前に知っていること)を説明することは完全にあきらめたのだと思う。故に、妙なDEADPOOLの言動だけ告知し、一人称を「俺ちゃん」と訳すことで平成KIDSどもに向けたある意味でのローカライズを意図したと思うのだが、それではダメだ。まったく本質からズレていると言わざるを得ない。
 おそらく、この映画を楽しんでもらうには、別に原作を読んでもらわなくてもいいので、少なくとも映画の「X-MEN」シリーズの何本かを観ておくべきであろうと思う。なので、わたしが20th Century FOXの関係者なら、おそらく過去の映画を期間限定でもいいから、いろいろなWebサイトで無料配信して、まずはタダでも観て知ってもらうことを優先したと思う。そしてもっと「X-MEN」について認知を広め深める方向のプロモーションを企画しただろう。もうとっくに投資回収されている映画だし、夏には本編の『X-MEN:Apocalypse』の公開が迫っているのだから。きちんと、まずは基盤となる「X-MEN」を知らしめるべきだったとわたしは思う。
 思うに、今回の作品を楽しむには、映画版の「X-MEN」シリーズは全部観なくていけれど、最低限『X-MEN』『X-MEN2』『X-MEN Origins:Wolvarine』ぐらいは観ておいたほうがいいんじゃないかな。「1」を観れば、だいたい「X-MEN」が何なのかぼんやり分かるだろうし、『Wolvarine』には、まったく違う性格のDEADPOOL(となる前のWeapon-X)も出てるし。しかも演じたのは今回DEADPOOLを演じたRyan Reynolds氏本人だし。これらを観ていれば、今回の背景も少し理解が深まるのは間違いなかろう。今回出てくる全身金属のミュータントであるコロッサスは「X-MEN」の映画で言うと『3』と『Days of Future Past』にも出てくるしね。あ、『2』にも出てたっけ。
 しかし、DEADPOOLに関していえば、今回の映画での性格が、原作的には一番近いと言っていいと思う。何しろ、彼に備わった能力で、他にない唯一の力(?)と言えるものが、「第4の壁の突破」能力だからだ。普通の人には、なんのこっちゃ? だよね。そう、彼は、自分がコミック世界のキャラであることを認識していて、(作品世界と現実世界の壁を突破して)頻繁に読者に向けて語りかけるのだ。これがまあ、今回の映画でも炸裂していて、頻繁にカメラに向かって(=観客に向かって)ペラペラしゃべりまくるわけである。なお、彼のあだ名である「Merc with a mouth」とは、「おしゃべりな傭兵」のことで、Merc=Mercenary=傭兵である。コミックのタイトルでもあります。
デッドプール:マーク・ウィズ・ア・マウス (ShoPro Books)
ヴィクター・ギシュラー
小学館集英社プロダクション
2013-09-28

 とにかくおしゃべり野郎なのは、今回の映画の通りで、まあ、無理やりミュータントにされちゃったかわいそうな、そしてイカレた男なんだけれど、れっきとしたMARVELキャラなので、Avengersにも参加したことがあるし、なにかとSPIDER-MANとも絡んでくるおかしな野郎である。ちなみに、今回の映画でもさんざん銃で撃たれても治っちゃったり、腕が生えてきたりするけれど、これは、原作的な設定では、Wolvarineの能力(=治癒能力=ヒーリング・ファクター)を注射されているから。今回、ラストで恋人の前でマスクを取ったらその下にHugh Jackman氏の写真を顔に貼り付けていたというシーンがあるけど、あそこは爆笑していいシーンです。えっ!? ここまで書いても何故笑えるか分からない!? もう……あなた……なんでこの映画を観に行こうと思ったの……? その方がオレにはわからんわ!! わたしはもちろん吹きました、が、館内シーン、でした。
 というわけで、それなりの知識がどうしても必要な映画であることは間違いないと思います。
 
 2)そもそも、演じたRyan Reynolds氏って誰?
 この点については、まあ、あまり重要ではないとは思うけれど、上で書いた通り、【既に別の映画で1回DEAD POOLを演じていること(ただし性格は全然違う)】と、【DCヒーローのGreenLantarnを演じた】ということだけ知っていればいいかなと思う。これは、映画道・黒帯でなくとも既に知っている人も多い事実であろう。ごく初歩的な常識と言ってもいい。もっとも、この常識を知っていても、それほどDEADPOOLが面白くなるわけではないので、自分で書いておいてアレですが、実際どうでもいいかもしれない。今回、緑のコスチュームは勘弁、と言っているのは、もちろんGreen Lantarnのことだ。しかし、このギャグにはわたしはちょっとイラッとした。お前、自分の出た映画批判するぐらいならなんで出たんだよ、嫌なら断れよ!! と思ってしまったわけで、わたし的には映画『Green Lantarn』はそれほど酷評されるいわれはないと思っている。あの映画、相当真面目に作られていると思うのだが……。問題は、そもそもの原作がイマイチなだけで、映画としては十分アリだと思う。なお、ギャグネタがらみの『Blade3』に出演してたことはもうどうでもいいや。
 しかし……そもそもこの人、イケメン……なんですかね? わたしにはちょっと分からんというか……なんか、若干特徴がありますよね。何なんだろう……若干寄り目なのかな? 正直、わたしの審美眼からすれば、この人はどっちかっつーとイケてないと思うのだが、おそらく、わたしがこの人の芝居で一番印象的だったのは、Sandra Bullockさんと出演した『The Proposal』じゃなかろうか。日本での公開タイトルは『あなたは私の婿になる』という作品で、どうやら世間的評価は低い作品のようだが、わたしは、まあロマンチックコメディとして結構面白かったと思っている。

 というわけで、以上のことを知らない平成KIDSどもが観て楽しめたのかどうかはわたしには良く分からない。なので、そういう背景をまったく考慮せずにこの映画はどうだったのか、と考えると、はっきり言えばごく普通のB級アクション以上のものではないと言えるだろうと思う。物語を要約するとこうなる。
 街の傭兵として生きる男が、ある日とある女性と恋に落ちる。が、これまたある日、自分が重篤なガンにかかっていることも判明する。すると、ある男が、ガンを治せる方法がありますよ、と近づく。胡散臭い野郎で得体が知れないけど、まあ、それじゃお願いしますわ、とその男の元へ行く。すると、謎の注射をされる。そして、注射した謎物質を活性化させるためには、肉体的な苦痛を与えないとダメ、とあと出しじゃんけんで言われ、拷問される。で、散々拷問を受け、どういうわけかあらゆる傷も治っちゃう無敵BODYを手に入れる。が、その代償として、全身ケロイドめいたagryな姿に。どういうこっちゃ、あの野郎、ゆるさねえ、オレの顔と体を綺麗に戻しやがれ!! と復讐する。
 とまあ、こんなお話である。ね、普通ッショ。つか、B級臭がぷんぷん漂ってますな。それでも、やっぱり面白くて笑えるのは、どう考えても、主人公DEADPOOLがX-MENキャラで有名だからという理由以外ないと思うのだが、それを知らない人が観て面白いのか、わたしにはさっぱり分からんのである。会話としての面白さは、連射されるギャグの元ネタが分からないとダメだろうし、物語的な面白さはそもそもの背景を知らないとわからんだろうし……しかし映像はとても良かったし、その点では、低予算映画と言ってもやはり非常にクオリティは高くて、見ごたえは十分である。本作は、どうやら予算規模は5800万$(=約62億円)だそうで、今やMARVELヒーロー映画は1.5億$~2億$が当たり前なので、邦画の予算からすれば62億円は巨額で邦画なら10本は撮れてしまうけれど、ハリウッド的には、普通かやや安いぐらいの予算規模といえるだろう。
 また、ストーリー展開も、大乱闘のワンシーンから、なんでこんなことになった? と時が巻き戻る形式で、実際良くあるパターンではあるが、これはいわゆるハードボイルド小説なんかでよく使われる手で、主人公の一人称によるぼやきも含め、意外とDEADPOOLというキャラクターにマッチしていて、小気味良い演出であったと思う。まあ、その辺も、平成ゆとりKIDSどもにはまったく通じないと思いますが。

 というわけで、もう飽きてきたのでぶった切りで結論。
 映画『DEADPOOL』という作品は、はっきり言って玄人向けである。映画道・三段以上の黒帯所持者向けであり、白帯の初心者には太刀打ちできないと思う。なので、まずはきちんと勉強してから観てもらいたい作品だな、と思うのである。ちなみに、なんですが、わたしが一番笑ってしまったのは、「ワムじゃねえよ、ワァムッ!だよ!! もう、わかってねぇなー」という台詞でした。まったくその通りだと思います。以上。

 ※2016/06/20追記:3週目までで興行収入的には15億を超えているようなので、さんざんわたしは日本の若者にはどうなんだろう、と書いてきたけれど、全然平気のようで、きっちり売れている模様。そういうもんなんだなあ……わかってねえのはわたしでした。


↓ そもそも、映画道・黒帯の有段者にとって、DEAD POOLと聞いたら先にこっちが思い浮かぶはずです。こちらは、わたしとしてはシリーズで一番……イマイチかなあ……。わたしは字幕絶対主義者ですが、イーストウッドの古い作品は、やっぱり「不機嫌なルパン」こと山田康雄さんに限りますね。
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2010-04-21