昨日、25歳の若者と話をしていて、最近の君のおすすめコミックといえば何を挙げるかね? と質問したところ、この作品が今僕が一番好きな漫画です、と教えてもらった漫画があり、ほほう、そうか、ならば! とさっそく電子書籍版を買って読んだのがこの作品である。


 講談社の「デザート」という少女漫画誌に連載中の、『僕と君の大切な話』という作品である。まあ、いつも通り講談社は第1話を無料公開しているので、公式Webサイトでまずは読んでもらった方がいいだろう。1話と2話が読めるようです。こちら→http://go-dessert.jp/kc/bokukimi/index.html
 お、プロモーション動画も公開されているようだから貼っとくか。

 というわけで、第1話・2話を読み、さらに上記動画を観れば、もはやわたしが何も言わなくともどんな作品なのかはお分かりいただけるものと思う。読書好きでクールな東くん(ただしショックなことに成績は悪いことが(2)巻で判明。おまけに眼鏡も実は伊達らしい)。そしてそんな東くんが大好きでたまらない相沢さん。この二人が、帰りの駅でおしゃべりするだけの漫画(正確に言うと学校の出来事なんかもあるので、駅で話しているだけだけではない)、なので、ドラマチックな展開のようなものは、現状ではまだないようだけれど、その会話の内容が大層面白い、というわけである。
 このような作品だと、よくあるパターンとしては、男子か女子のどちらかが、学内カーストで上位に位置するようなモテモテ人間で、他方がカースト底辺のぱっとしないタイプであり、そのギャップがドラマを生むようなお話が多いような気がする。しかし、本作では、東くんもそれなりにイケメンで友達も普通にいるし、相沢さんも、大好きな東くんに対してはかなりのストーカー体質ではあるものの、実際可愛くて問題があるわけでもない。要するにはた目から見ると、実に美男美女カップルで何の問題もないというか、劇的な何かが起こるような気配はないように思う。
 だが……まあ、読んでもらえばわかる通り、何も問題ないはずなのに、どうも二人の想いは交差しそうで、しない。いや、読んでいる読者とすれば、もう完全に二人はイチャイチャしているというか、お互いが大好きであることは確定的に明らかなのだが、二人はお互い、まだ恥ずかしさが勝ってしまって、仲が進展しない。そりゃあそうだ。彼らはまだ高校2年生で真面目で、まったくの子供だし。そんな、初々しいカップルの会話が物語の中心になるわけだが、これがまたものの見事にかみ合わない。そんなギャップというかすれ違いが笑える、という作品である。
 基本的に男の考えと女子の考え方が違うのは当たり前だが、東くんの生真面目な正論が、普通の女子高生の相沢さんに通じるはずもなく、読んでいて実に微笑ましい。相沢さんは、東くんの話を「へんてこ理論」と思っているのだが、わたしは男なので、東くんの発言はいちいちごもっともというか、理解はできてしまう。おそらく、それを相沢さんが飲み込めるようになるには、あと5年か10年は年を取らないと無理だろう。いや、年齢の問題じゃあないか。女子は永遠に理解不能かもしれないな。これは、東くんも同様で、東くんにも相沢さんの主張する女子の気持ちがさっぱりわからない。ゆえに、東くんは、ぼそっとこんな一言を漏らす。これは上記試し読みの第2話からの引用だ。
 「はあ…常々思っていたことだけど やっぱり僕と君ら女性とは同じ星の人間とは思えない」
 普通はこんなことを好きな男子から言われたら、がっくりするだろうし、あるいはカチンとくるのではなかろうか。しかし、相沢さんの素敵なところは、こんなバッサリ扉を閉じられてしまっても、実に乙女らしいリアクションをしてくれるのである。
 「…でも ならどうして拒まないの? 助けてくれたり こうして話してくれたり なんだか期待してしまうわ」
 相沢さん!!! それはね、東くんが君のことが好きだからですよ!! わたしも、多分に東くん的な部分があるような気がするので、東くんに代わって全て解説して教えてあげたくなりますね。当然、東くんだって、相沢さんにそんなにしょんぼりと言われたら、閉じた扉も開きますよ。ここでの東くんの言葉は、非常にカッコイイというか、わたしでもこんなセリフは言えないぞという大人っぽいものだ。
 「…いや そりゃあまあ普通無視はしないだろう(人として) ただ…誰であれ何の話であれ 自分から会話を閉ざすようなことはしたくないんだ 例えば僕と君が違う星の人間だとして それをつなぐのは言葉だろう だったら こちらから閉ざしてしまうのは余りにもったいない それに 相沢さんとの会話は あまりに自分と違ってなんだか面白い」
 まあ、こんな返事をしてもらえたら、相沢さんもそりゃあ嬉しいでしょうよ。そしてこの第2話のラストがとてもイイですな。せっかくいい雰囲気だったのに、あちゃー……! みたいな、とても笑えるナイスなオチでした。こんな感じで毎話大変楽しめます。
 この作品は現在単行本では(2)巻まで発売されているが、この後、二人の会話は学校内でのお昼休みのお弁当タイムに移り、結構キャラクターも増えてくる。そこで描かれる学校内での東くんの様子や、相沢さんのめげない気持ちなど、実に読んでいて楽しい漫画であることは間違いないと思う。特に、2巻で語られる、どうして相沢さんは東くんを好きになったのか、という話はとても良かった。わたしは大変気に入りました。教えてくれたK君、ありがとう!
 最後に、著者ろびこ先生に関して軽くメモしておくか。ろびこ先生は、アニメ化もされた『となりの怪物くん』で世間的には大変おなじみの方らしいけれど、わたしはアニメも観てなかったし原作コミックも読んでいないので、今回初めてろびこ先生の作品を体験したわけだが、実に絵柄も良く、見開きで描かれる二人の空気感も非情に素晴らしいと感じた。漫画力の大変高い、実力派とお見受けしました。お、『となりの怪物くん』は実写映画にもなるんすね。来年公開予定か。大活躍ですな。

 というわけで、さっさと結論。
 わたしより20歳以上若い青年に教えてもらった『僕と君の大切な話』という作品は、ある意味イマドキであり、ある意味古典的な、大変面白い少女漫画であった。こういう漫画を読むとわたしはいつも、あ―おれも共学に通ってたらなーと思う。まあ、男子校には男子校でしか味わえない青春もあるので、別にどっちがいいなんて全く言えないけれど、そうじゃなかった自分の人生、って奴は、わたしのようなおっさんであっても、つい考えてしまいますな。まあ、ノスタルジーってやつですよ。ともあれ、この『僕と君の大切な時間』という作品は大変面白く、今後も単行本を買い続けようと存じます。実に面白い! 以上。

↓ 全14巻か……今から追うのはちょっとハードル高いか……面白そうなので読みたい……。