Terry Gilliam監督と言えば、かのMonty Pythonのメンバーであり、その独特の映像美と妙な未来風景だったり心象風景だったり、とにかく一風変わった世界観を見せてくれることでお馴染みのイギリス人(うそ!この人、元々はアメリカ人だったんだ!! 知らなかった!!) 監督である。わたしは正直、あまり好きな作風ではないのだが、中学生ぐらいに、今はなき松戸輝竜会館という映画館で、何故か『幻魔大戦』と二本立てだった『TIME BANDITS(邦題:バンデットQ)』を30年以上前に観て以来なので、わたしとしてはこの監督の作品を観てきた歴史は結構長い。
 現在監督は75歳だそうだから、当時はまだ40歳そこそこだったんですな。あの『バンデットQ』は非常に面白かったけれど、以降、『BLAZIL(未来世紀ブラジル)』や『The Fisher King(フィッシャーキング)』『12Monkeys(12モンキーズ)』など、映画オタクどもを熱狂させる名作を数多く世に送り出している偉大な監督のうちの一人だが、いかんせん、その映像と物語は非常に癖があって、フツーの人をまったく寄せ付けない強烈な個性が発揮されているため、たぶん、単純に物語を追うだけでは「なんのこっちゃ?」とポカーンとせざるを得ない作品が多い。
 しかし世の人々は、「全然意味わからなかった」と素直に言うと、映画オタクどもに鼻で笑われて小馬鹿にされてしまうため、それを恐れて、分かったような分からないような、微妙な反応をするのが普通だろう。だが、安心してほしい。分かったようなことを抜かすオタク野郎の大半が、「分かったオレってカッコイイでしょ!!」というアピールがしたいだけのめんどくさい系の人間であるので、逆に、「あーなるほどねーふーん」と棒読みのリアクションでもしてあげれば十分である。そして、そいつとはもう、なるべく付き合わないことをお勧めする。
 というわけで、そのGilliam監督が2013年に発表したとある作品は、その製作段階からかなり話題になっていたのだが、日本では全然公開されず、こりゃあお蔵入りになっちまったのかな、とわたしは思っていた。しかし、いつの間にか、去年2015年の今ぐらいの時期だったとおもうけれど、ひっそり公開されていて、わたしが気が付いた時にはもう東京での公開が終わる寸前で、劇場に観に行きそびれてしまっていた。が、さすがWOWOW。先日、Gilliam監督の作品をまとめて放送しながら、その最新作も放送してくれたので、わたしも録画し、昨日の夜ぼんやりと見てみたのである。
 タイトルは『THE ZERO THEOREM』。日本語で言うと、「ゼロの定理」と訳せばいいのだろうか、日本での公開タイトルは『ゼロの未来』という作品で、結論を最初に言ってしまうと、いかな映画オタクのわたしでも、正直さっぱりわけが分からん映画なのであった。

 一応、上記予告の通り、明確にストーリーはある。なので、雰囲気重視の、シャレオツ系自己満映画では決してない。なので、そういう意味での意味が分からないという方向ではない。単純に、時代や人物の背景が全く説明がないからわからんのであり、また、主人公が挑む「ゼロの定理」がどういうものか、良くわからんのだ。
 どうやら、作中のキャラクターの会話を聞いていると、どうも、万物の行く先はすべて混沌というブラックホールに飲み込まれ、1点(=ゼロ次元)に集約される、という事の証明をしたいようなのだが、そこは現代の賢い人ならピンとくる話なのかもしれないし、わたしも、へえ、なるほど? と思っていて観ていても、どうも実感として良くわからなった。
 しかし、その映像や設定など、結構面白い部分がたくさんあって、この映画を観てわたしはさっぱりわからんと結論付けたけれど、それでもやはり、これは面白い、と唸る部分はたくさんあったのである。
 わたしが面白いと思った部分を二つだけ紹介しよう。
 ■VRを進化させるのはやっぱりエロの力だ!!
 今現在、特にゲーム業界においては、「VR」が大変な流行で、鼻息荒く開発している会社が大変多いが、ゲーム好きなY君に言わせると、「VR」で一番重要なのはその映像やヘッドセット的な視覚効果装置ではなく、「入力インターフェイス」にあるんだそうだ。確かにそりゃそうだとわたしも同意である。どんなに映像的に没入感があっても、そのVR世界での操作コントローラー的なものが、例えばキーボードとか、ゲームコントローラーのようなモノから入力してたのでは話にならんし。
 で、この映画では、おそらく舞台は未来のロンドンなんだと思うが、やはりVRは日常的なものらしく、どうも、VRセックスが普通に普及しているようで、そのための「VRスーツ」なるものが出てくるのである。これがですね、まあ、全身スーツなんですが、ビジュアル的に非常におっかしいんだな。たとえて言うとですね、任天堂キャラでお馴染みの、「チンクル」っぽいんだな。とんがり頭でお馴染みの彼です。まあ、チンクルは緑だけど、この世界のVRセックス用(?)のVRスーツは赤なので、色は違うんすけど、なぜ頭(フード?)を尖らせたのか、Gilliam監督に聞いてみたいものだ。わたしはこのVRスーツのデザインを見て、「もう……これ、チンクルじゃねーか!!」と非常に笑ってしまった。まあ、全身スーツが今後開発されるかは分からないけれど、エロが今後のVR開発の原動力となるのは、結構真実ではなかろうか。
 ■エンティティ―解析
 主人公は、予告では天才プログラマーと説明されているけれど、正確に言うと「エンティティ―解析のプロ」である。これはコンピューターサイエンスに詳しくないとちょっと分からない言葉だと思うし、到底ど素人のわたしには上手く説明できないのだが、この映画で非常に面白いのが、いわゆる「Entity-Relationship Model(=実態関連モデル)」が、3Dポリゴンで描かれた広大な空間で表現されていて、その解析作業もまるでゲームのように描かれているのである。しかも、入力系も現代の我々が使うようなキーボートとマウスではなく、なんだろうあれは、一番近いのは、任天堂のWii-Uのゲームパッドかな? とにかく、そういったゲーム機のコントローラー的なものなのである。おそらく、あの解析作業の映画的表現は、本物のコンピューターサイエニストが観たら、かなり興奮するんじゃなかろうか、と思った。
 というわけで、相変わらずGilliam監督の描く映像美は、極めて独特で大変興味深いのだが、そういう意味で面白いとわたしは思うけれど、残念ながら物語的に不明な(勿論意図的に一切説明されていないだけ)部分が多くて、こりゃあ、フツーの人は見てもさっぱりわからんだろうな、と思うわけである。実際、わたしもさっぱりである。
 さて、最後にキャストをちょっとだけ紹介しておこう。
 主人公を演じたのが、Christoph Waltz氏である。Tarantino作品で2回のオスカー助演男優賞を受賞した男なので、まあ演技派と言ってよかろうと思う。今回はスキンヘッド&全裸での熱演であった。そしてこのキャラクターで特徴的なのは、自分を指す一人称に、「We=我々」を使うことであろう。その理由はちょっとだけ語れるが、サーセン、わたしは正直良くわからなかったです。
 そして、主人公が癒しを求める(??)、派遣されてきた女子を演じるのがMelanie Thierry嬢。全然知らない方ですな。フランス人だそうで、わたしとしてはほぼ初見の方であった。まあ、大変お綺麗な方です。芝居ぶりは、まあ、普通に良かったと思う。
 で、主人公が務める会社の「マネジメント」と呼ばれる謎の存在の社長を、Matt Damon氏が演じていたが、ほとんど出番はナシで、それよりも、その息子で、主人公の元に助っ人として派遣されてくる若者「ボブ」を演じたLucas Hedges君が非常に良かった。キャリアは始まったばかりのようだが、結構いろいろな作品に出ているようなので、今後の注目株かもしれない。おそらく、イケメンに成長すると思われます。その他、有名どころでは、ハリーポッターシリーズの「ルーピン先生」でお馴染みのDavid Thewlis氏や、リアルBLスターとしてお馴染みのBen Whishaw氏、SWのキャプテンファズマでお馴染みとなったGwendoline Christieさんあたりが超チョイ役で出ていたりしました。

 調べてみたところ、そうやらUSAでは極小規模公開しかされていないようで、まったく売れなかったようだし、評価的にもかなり低いようで、Giliam監督の今後が大変心配だ。わたし、『Lost in La Mancha』は観てないんすよね……。詳しいことはリンク先を見て下さい。

 というわけで、結論。
 久しぶりに見るTerry Giliam監督の作品『THE ZERO THEOREM』は、相変わらずの圧倒的な映像と独特のセンスから生まれる世界観は大変見ごたえがあるけれど、正直良くわかりません。なので、フツーの人は、とりあえず手を出さない方が良いかと思います。そして、この映画を執拗に勧める映画オタクが身の回りにいる場合は、心の中で、うぜえ、と思いながら、「今度観とくよー」と棒読みで返事をしてあげて下さい。以上。

↓ やっぱり一番面白いと思うけどな……わたしは実は『BLAZIL』はあまり好きではありません。
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2016-03-16