わたしは正真正銘、男である。中学高校は男子校で過ごし、好きなマンガは何かと聞かれれば、そんなの『北斗の拳』に決まってんだろうが! と答える、おっさんである。
 そして、わたしはかれこれ20年以上、いわゆるエンターテインメント業界、コンテンツ業界に身を置いているわけだが、仕事としてもそうだし、個人的にも、ずっと、「女性ファンをがっちり抱える」コンテンツに非常に興味があった。何でそんなに人気があるんだ? という単純な疑問である。なので、わたしはこれまで、少女マンガを読み漁って勉強してみたり、一時はBLも読んでみたし、ハーレクイーンすら読んだことがある。実際に読んでみて、まずどんなものを知ってみるのが重要だと思うからそうするわけだが、さすがにBLなどはまったく理解の外にあるわけで、そういうときは、実際のファンの女性に話を聞いてみないと、消化できない場合がある。まあ、そういうものは、そもそも最初から、ファンの女性に「どれ読んでみればいいかな? お勧めはどの作品?」と聞いてからはじめるので、いきなり自己流で勉強をしても、埒が明かないものだ。幸い、わたしの周りには仕事柄そういう「熱心なファン」がたくさんいるので、この分野ならあの人に聞いてみるか、みたいな、わたしの脳内にはオタク生息マップが出来ているので、意見を聞く人材には事欠かない状況でもあった。
 
 で。
 わたしが2010年から調査を始めて、完全にミイラ取りがミイラになっているカテゴリーがある。それが禁断の王様(女王?)カテゴリーに属する『宝塚歌劇』である。実は、宝塚に至る前に、わたしがはまっていたカテゴリーがあった。それは、いわゆる「2.5次元ミュージカル」と呼ばれるもので、要するに、コミックを原作としたミュージカルで、中でも最大規模を誇り、一番初めの公演から既に10年以上も世の女子を熱狂させているのが『テニスの王子様ミュージカル』、通称『テニミュ』だ。なお、マンガが2次元、そして生身のミュージカルが3次元、ということで、両者が融合しているために「2.5次元ミュージカル」と称されている。
 わたしが『テニミュ』を初めて観たのが2007年。週刊少年ジャンプを30年以上読み続けているわたしは、無論のこと原作である『テニスの王子様』は知っているし、そのミュージカルなるモノがやけに人気だと言うことも知っていた。ならば一度見てみたいものだと、わたしのネットワーク内に存在する『テニミュ』に足しげく通っている女子を探し、今度一緒に連れて行ってくれ、と頼んで、それから数ヵ月後にやっと連れて行ってもらったのが始まりだ。
 結論としては、驚いた。そして面白かった。なんだよ、すげえすげえ、これは面白い、と思った。イケメン学芸会と揶揄されていた当時、実際に観てみると、確かに歌などは、冷静に聞くとこれはひどいwという場合もあるが、キャストの頑張っているさまは、やっぱり生で観ている観客にもしっかり伝わるもので、ははあ、なるほど、これは人気があるのもうなずける、と納得できるものであった。
 なお、わたしを連れて行ってくれた女子によると、「下手なことはもちろん十分に分かっている。けど、なんというか親の気分になるっていうか、頑張れって思えてくるの」という事らしい。なるほど、いわゆる母性本能をくすぐるものと理解していいのかもしれない。というわけで、わたしは『テニミュ』にその後10回ぐらいは行ったと思う(「DREAM LIVE」、通称ドリライ2回含む)。
 このような背景からわたしは、俄然「ミュージカル」というものに興味を持ち、その後いろいろなミュージカルを見るようになるのだが、そこで立ちはだかったのが、誰もがその存在を知っている『宝塚歌劇』という巨人だ。それまでわたしは、wowowでの放送で何度か『宝塚歌劇』の公演を観たことがあったが、正直、ちょっとピンとこなかった。やはり生でないとダメかもな、と思ったわたしは、なんとしても「ヅカ」を一度生で観てみたいと熱望し、これまたわたしのネットワーク内に存在する、ヅカファンのお姉さまたちにコンタクトを取ったのである。「おれ、一度生でヅカを観てみたいんすよね」、と。
 やはり、自分が大好きなものに興味を持ってくれると、誰でも嬉しいものだと思うが、わたしがお願いしたお姉さまは、ごくあっさりチケットを用意してくれ(思えばすげえいい席だった)、わたしのヅカ探求の道は2010年1月に始まったのである。最初の衝撃は今でもはっきり覚えている。わたしのヅカ初体験は、星組公演で、そのときの主役である、いわゆるTOPスター柚希礼音さんに完全にFall in LOVEしてしまったのだ。
 たぶん、わたしが柚希さん(愛称:ちえちゃん)に感じたカッコよさは、ヅカファンのお姉さまたちが感じるものとはちょっと違うんだと思う。わたしは、あくまでちえちゃんを女性として愛しており、ちえちゃんの醸し出す男オーラも、あくまで女性の魅力の一部として受け取っていた。わたしにとってちえちゃんは、あくまでも完全に女子なのだ。

 はっ!? いかん!! ちえちゃんのことを語りだすと96時間ぐらいは必要だから、この辺でとめておこう。ともかく、First Contactから5年ほどが過ぎたが、今ではわたしは、年間7~8公演ぐらい観にいくほどのヅカファンになってしまったわけである。

 で、『エリザベート』だ。


 ファンなら誰でも知っているが、そうでない人はまったく知らないと思うのでちょっとだけ解説しよう。『エリザベート』というミュージカルは、元々ウィーンで初演がなされたドイツ語ミュージカルである。それを日本語化したものなのだが、日本の初演は宝塚歌劇なのである。1996年の初演以降、今のところ8回再演され、公演回数は通算800回、観客動員200万人を突破した、『ベルサイユのバラ』に次ぐ人気タイトルと言っていいだろう。その後、2000年からは男性キャストを交えた東宝ミュージカル版も、何度も再演されており、非常に高い人気を誇るコンテンツとなっている。
  わたしは、ヅカファン暦5年の、まだまだ駆け出しの身分なので、『エリザベート』という作品が高い人気を誇っていることは知ってはいたものの、宝塚版を初めて観たのは、2014年版の花組公演だ。花組の新TOPお披露目となるその公演は、わたしはほかの公演を知らないので、すさまじくカッコよく大満足だったが、どうやらベテランのヅカファンのお姉さまたちから見ると、まあ、みりおちゃんのトート様はかわいかったわね、まあいいんじゃない? 程度の扱いらしい。そうなんだ、マジか、と歴戦のお姉さまたちの厳しい目には、ただただ敬意を表するばかりである。(注:みりおちゃん=明日海りおさんという花組TOP男役、トート様=ドイツ語のDer Tod。英語で言うとDeathの意味。エリザベートの主役たる冥界の王。恐ろしくカッコいい)

 とりあえず、『エリザベート』という作品が、非常に曲もよく、ビジュアルイメージもすばらしい作品であることは、2014年に認識した。これは面白い。
 そして2015年、今度は東宝版の再演が始まり、まったく同じ話を、男性キャストを交えたものとしてみる機会を得た。そして昨日行ってきたわけである。

 キャストを見て、わたしは、おお、マジか! と嬉しくなったことがある。
 それは、主役であるエリザベートと、もう一人の主人公、冥界の王トート閣下の二人が、わたしのよく知る役者だったからだ。まず、エリザベートの蘭乃はなさん。彼女は、まさに2014年にわたしが観た花組公演でもエリザベートを演じた女優だ。わたしが見た花組公演は、まさに彼女の退団公演だったのだ。退団後も、持ち前の可愛さとダンス力を武器に、女優として活躍中だが、わたしが非常にお世話になっているヅカファンのお姉さま曰く、まだまだね、今回の公演はWキャストでエリザベートを演じる花總まりさんのほうが断然上よ、とおっしゃっていたので、世間的にはそうなのかもしれない。が、昨日の公演での蘭乃はなさんは、宝塚版とは違う発声で、一部苦戦している部分もあったのは確かだが、宝塚版とはまた別のエリザベートを見事に演じきっていたと思う。十分にすばらしかった。
 そして、トート様である。宝塚版では当然TOP男役の「女性」が演じていたわけだが、今回トート様に扮するのは、城田優という若手俳優である。この男、世間的にはまだ認知が低いかもしれない、が、わたしにとって彼は、『テニミュ』における2代目手塚部長なのだ。わたしは彼が手塚部長を演じた公演を生で観ていないのだが、わたしが『テニミュ』道にはまる前に、指南してくれた女子から「これを観ておいてください。予習として。」と渡されたDVDが何枚もあって、その中で、おお、こいつ、抜群に歌がうまいな、つーかデカイ! そしてカッコいいじゃん! と思っていたのがまさに、城田優だったのである。わたしが観たDVDの中では、2005年の氷帝学園との試合の公演が一番クオリティが高く面白かったが、その時の手塚部長役が、城田優だ。一人だけ抜群に歌がうまく、一人だけ頭ひとつデカイ。城田優はなんと身長190cmもある。とにかく目だってカッコよかったのを鮮明に覚えている。なお、この2005年の公演は、今観てみるとすごい豪華キャストだ。現在すっかり人気俳優となった、斎藤工も出演している(カッコいいが歌は下手なのが残念)し、ライバル校の部長、跡部役は加藤和樹が演じている(彼は歌もうまい)。加藤和樹はその後、仮面ライダーに出たり、現在ではミュージカルにも結構出ている俳優で、知名度はまだ低いかもしれないが、非常に人気は高い。
 そんな、テニミュ時代から抜群に歌のうまかった城田優が、トート様を演じるとなれば、わたしとしてはもう、あれから10年……よく頑張って努力してきたのう……と、もはや孫を愛でるおじいちゃんのように思わざるを得ない。だから、昨日はもう、楽しみで楽しみで仕方なく、勇んで劇場に向かったのでした。
 そして、劇場でキャストを見てみたら、もう一人、テニミュOBを見つけた。エリザベートの息子である、ルドルフ皇太子を演じた古川雄大君。彼もまた、4代目青学メンバーとして、天才不二周助を演じた経験を持ち、わたしは彼の出た公演を生で観ている。
 このように、わたしとしては本当に久しぶりに観るキャストが、今を懸命に、おそらくは不断の努力を続けてきた姿を見ることができて、その意味でも大変感慨深く、とても楽しめたのであった。また、今回は、ルキーニを演じた山崎育三郎という才能あふれる俳優も知ることが出来た。彼もいいね、すごくいい。
 ミュージカルというものは、今の日本では一部の熱心なファンに支えられてはいるものの、メジャーコンテンツと言っていいか微妙な位置にあるエンターテインメントだが、今後、才能あふれる俳優たちがどんどん育ち、もっともっと、メジャーな王道コンテンツになることを祈ってやまない。

 というわけで、結論。
 東宝版『エリザベート』は、すっごい良かったです。
 もう公演は終わってしまうが、また再演の機会があれば、ぜひ、劇場へGO!!


↓ こちらは宝塚版。みりおちゃんは可愛い。そして可愛いは正義ッ!
『エリザベート ―愛と死の輪舞―』 [Blu-ray]
宝塚歌劇団
宝塚クリエイティブアーツ
2014-11-06