わたしは映画オタクなので、洋画を見る時は字幕以外考えられない。その理由は……当たり前すぎて説明がむしろ難しいのだが、要するに役者本人の声が聞けないと意味がないと思うから? ではないかと思う。まあ、理由はどうあれ、もはや字幕以外で観る選択肢は0%、皆無である。
 しかし、わたしが今日観てきた作品は、どういうわけか役者のしゃべる中国語Verは上映されておらず、なぜか日本語吹替版しか上映されていないようで、極めて遺憾ながら、やむを得ず日本語吹替版を観てきたのだが、まあなんというか、結論から言うと、恐ろしく違和感があって、吹替ってこうなっちゃうんだっけ? と、子供のころテレビの映画放送で見慣れていたはずの日本語吹替作品に、深く失望したのである。
 そう、わたしが今日観た映画は、日本語タイトル『空海 ―美しき王妃の謎―』というタイトルで公開されている、中国語原題『妖猫傳』という作品だ。タイトルコール?には英語でも『Legend of the Damon Cat』と付されていたのだが、ズバリ言うと、実のところ物語としては全く想像していなかった捜査ミステリー風味で、非常に興味深いものであったものの、その中国語原題や英語のタイトルの方が作品にぴったり合っていて、むしろ日本語タイトルの方が異常な違和感を醸し出しており、その点でも非常に、「なんか変」な気持ちがずっと続く作品であった。そして、正直に告白します。わたし、途中で5分ぐらい寝ちゃった……映画館で寝たのは、超久しぶりで、そんな自分にショックだよ……。。。

 上記予告はご覧になりましたか? 主役の空海を演じる染谷将太くんもきちんと中国語をしゃべって……いやいや、この声は染谷くんじゃなくて、白楽天の彼か。でも、どうして、なぜ、字幕版を上映しないのか? 確かに、今やすっかり洋画の売れない日本においては、吹替えの需要は高いのだろうことは想像できる。しかし、この映画のメイン客層は、100%おじさんおばさんであり、もっと言えばおじいちゃんおばあちゃんなわけで……事実、わたしが今日観てきた劇場内もそんな客層だったので、そんな高齢客に、高橋一生氏の声がウリになるのだろうか……、とわたしにはよくわからない。しかも、わたしは確かに高橋氏の最大の魅力はその「声」にあると思っているが、本作の吹替ぶりは、まったく話にならないとダメ出ししたい出来であったように思う。まあ、配給の東宝&KADOKAWAによるマーケティング的判断だろうけれど、わたしとしては中国語&日本語字幕で本作は観たかったと思う。この「なんか変」な違和感のある吹替えによって、本作の魅力は、少なくともわたしにとっては半分以下に減じてしまっているように思われた。これはアカンわ。
 で、物語である。わたしは夢枕 獏氏の原作は読んでいないので、冒頭に記した通り全く想像していなかった展開をたどる物語であった。
 時は804年~805年の、空海、後に「弘法大師」の諡号で知られることになる青年(当時31歳)がエリート僧侶の遣唐使としてに留学しているころである。ある日、空海は当時の世界最大の都市長安で、病に苦しむ皇帝(第12代徳宗皇帝だっけ?)の元に、病平癒の祈祷のために宮廷へ招かれる。しかし空海が駆けつける目の前で皇帝は崩御、そしてその死の場には、謎の「猫」の影があった。時を同じくして、皇帝守護隊の隊長(?)の家にも、同じように謎の「猫」が現れており、なにやら怪しげな空気が漂っていた。皇帝の死に立ち会った空海は、その場に皇室の記録係として同席していた白楽天(後に「長恨歌」で玄宗皇帝と楊貴妃の物語を歌い、超メジャー詩人になる)とともに「猫」の謎を解くための捜査を開始する。そしてその「猫」を追ううちに、二人は40年前に唐にいた阿倍仲麻呂の日記を入手し、鍵は玄宗皇帝時代の楊貴妃の死にあることを突き止めるのだが、そこには驚愕の事実が―――てなお話である。
 要するに、この物語は空海がホームズ、白楽天がワトソン、のようなバディ推理ミステリーで、物語自体はなかなか面白い。また、巨額の予算を投入したセットも見応えがある。そしてもちろん、役者陣も、熱演だったと思う。しかし、わたしにはどうにも性に合わない中華風味がきつすぎて、あまり心から楽しめなかったのである。それはわたしの好みの話なので、中華風味が気にならない人なら十分以上に楽しめるとは思うのだが……やっぱりわたしはダメであった。
 わたしが胸焼けしてしまう中華風味とは、ズバリ言うと、CGの使い方というか……画面そのものに現れるカット自体だ。カメラアングルというか……まあ、演出そのものですな。何と言うか、うまく説明できないのだが、なんか不自然なんすよね。大げさと言えばいいのかな……独特の風味がどうしても好きになれないんすよね……ただし、これは明確に申し上げておきたいのだが、CGの出来自体、すなわち、CGの本物感、に関しては、明らかに日本のレベルを凌駕していて、実にオブジェクトの質感が見事なCGであることは間違いない。このレベルのCGを描ける日本の映画スタジオは存在していないと断言できる。ゲームの世界のCGは日本も負けていないけれど、映画としてのCGは、悔しいけれど中国の方が数段上なのは間違いなかろう。虎や鶴といった生物オブジェクトも、大変上質な描画で大変見事であった。ただまあ……ここまで絶賛しておいてアレですが、肝心の「猫」は……毛並みなどは非常に高品位としても、その表情は若干微妙だったかもな……。
 というわけで、キャスト陣についてまとめて終わりにしたいのだが、残念ながら日本語吹替えのため、はっきり言って中国人キャストの皆さんの芝居ぶりが良かったのかどうか、わたしには良くわからない。一つ言えることは、前述のように吹替ぶりがどのキャラクターもイマイチであったとわたしには感じられてしまった結果、なんだかかなり、うーーーん……な演技に見えてしまった。ので、日本人キャストを少し触れるだけで終わりにしたい。やっぱり、セリフ回しが演技のキモなので、本人の声でないとダメだと思うな……。
 ◆空海:演じたのは染谷将太くん。なんでも、中国本土では染谷くん演じる空海が、常に笑みを浮かべていることに批判が多いそうだが、わたしには全く問題ないように見えた。たしかに、とりわけ前半の空海は常に笑みを浮かべている。が、その笑みは何とも絶妙な、仏像めいたアルカイックスマイルで、お遍路を完遂したわたしとしては、おお、弘法大師様だよ……南無大師遍照金剛……と思わずつぶやいてしまうような空海ぶりであったように思う。なお、中盤で、阿倍仲麻呂の日記を手に入れるために訪れた場所で、松坂慶子さん演じる未亡人との会話部分だけ、きっちり口とセリフが合った日本語演技でありましたな。そうなんです。それ以外はきっちり中国語のようで、口の動きとセリフ音声が合ってなくて、そんな点もやっぱりわたしには違和感が感じられてしまった。彼の中国語での演技を堪能したかったよ……。
 ◆阿倍仲麻呂:演じたのは阿部寛氏。そのローマ人のような彫の深い端正な容貌は誰がどう見ても阿部氏だが、阿倍仲麻呂がどんな男だったのかさっぱり知識のないわたしとしては、とりわけ違和感はなく、またその確固たる意志のみなぎる眼力は迫力があって、大変良かったと思う。
 ああ、いかん、もう書くことがなくなってしまった……。

 というわけで、わたしのBlogでは異例に短いけどもう結論。
 日中合作映画『空海―美しき王妃の謎―』、中国語タイトル『妖猫傳』を観てきたのだが、まずタイトルからして中国語版の方がしっくり内容に合っているし、やっぱり全編日本語吹替というのもわたしにはやけに違和感を感じずにはいられない出来栄えに思え、要するに、なんか変、であり、いまいちであった。ただ、物語自体はなかなかの変化球で、かなり興味深く、なにより空海、弘法大師様を演じきった染谷将太くんはお見事であったと思う。なので一層のこと、染谷くんがきっちり中国語で演技をし、中国人キャストの皆さんの中国語演技も観てみたかった……。わたしには、豪華俳優陣?を起用した吹替版は、まったく心に響くものがなく、ただただ、なんか変なの、という感想しか持ち得なかったのである。実にもったいないというか、残念す。つうか、これ以上はもう、言いたいことは特にありません。以上。

↓ 原作を読めってことなのかなあ……読む気にならないす。今のところは。あ、原作は4巻にもわたる長いお話なんすね。てことは、映画版はかなり縮小濃縮されてたのかな……。