普段わたしはいかにも教養ありげに、そしてクソ偉そうにこのBlogを書いているわけだが、実のところ結構苦手分野というか全然知らないことも多く、その度にせっせと勉強しているインチキ野郎である。そして、わたしが一番自分の性に合わないというか、どうもピンと来ないため、ほとんど知識として蓄積できていない分野が、イタリアのルネサンス期である。もちろんその歴史的背景などは興味深いし、宗教観などもそれなりに勉強したつもり、ではいる。けれど、どういうわけかイタリアのルネサンス期に関しては、あまり興味が持てないでいる。自分でも理由は良くわからない。多分食わず嫌いだと思うのだが、何なんだろう、あまりに巨人すぎるというか、天才文化で民衆から離れているように感じるからなのか(それが正しいのかどうかすら良く分かっていない)……。実際、わたしとしては宗教革命以降の16世紀以降の方が断然興味深い。
 というわけで、日ごろ海外翻訳ミステリーが大好きな男として周囲にはお馴染みのわたしなのに、2004年に日本でDan Brown氏による『The Da Vinci Code』が出版されたときは、全然読んでみたいと思わなかった。未だ自分の心理が良くわからないが、「ダ・ヴィンチ」と聞いて何故か敬遠してしまったらしい。そして続くシリーズも、当然(?)未読である。その結果、周りの人々にはこぞって、面白いから読め、つーか君が読んでいないなんて超意外!! とまで言われる始末であった。
 なので、映画化されたときも、それほど観たいとは思わなかったものの、M君が大絶賛で絶対に観るべきとうるさかったので、結局映画は観た。そして映画2作目の『Angels & Damons』も、一応観た。結論としては、もちろん面白かった、けれど、どうも良くわからない部分がいくつかあって(例えば、わたしは未だに『Da Vinci Code』で冒頭の人体図に模した死体の意味が良くわかっていない。ヒントを残すために瀕死の状態で素っ裸になってポーズをとって息絶えたってこと?)、絶賛とまではいかない感想であった。これはひとえに、わたしの理解力のなさに起因するものであって、作品の責任ではないと思う。全然勉強せずに観たわたしが悪い。
 というわけで、この度、映画版シリーズ第3弾『INFERNO』が公開されたわけだが、こんなテンションのわたしなので、今一つ超観たいぜ的なワクワク感はなく、いわば義務的に劇場へ向かったのであるが、本作は前2作に比べてかなりトリッキーな展開で、かなりワクワクドキドキ感は高かったものの、想像するに、おそらくは原作をかなり短縮・濃縮したものなのではないかという気がする。おまけに、わたしは情けないことに、Dante の『神曲』も、3回挑戦して3回とも最後まで読めずに挫折したダメ人間なので、実際、若干良くわからないところが残るという、これまでの2作と同じような感想を持つに至った。うーん、やっぱり原作未読だとキツイのかも? そして、これはどうでもいいことですが、原作的には『INFERNO』は、ラングトン教授シリーズ第4弾で、3作目の『The Lost Symbol』を飛ばしての映画化である。原作読んでないので、その飛ばした理由は全然知りません。映像化すると途方もなく金がかかりそう、とかそういうことなのかしら?

 というわけで、今回もラングトン教授inイタリア、である。物語の大筋は、上記予告の通りである。わたしはちょっと勘違いしていて、今回は謎のウィルス(上記予告では「菌」という字幕だけど、ウィルスだと思うのだが……)を巡る争奪戦なのかな、と思って劇場に向かったわけだが、実のところ争奪戦というよりも、既に今回の事件の首謀者は死んでおり、首謀者がどこかに仕掛けたウィルスを探し当てる、いわば宝探しゲームであった。全然宝じゃないけど。
 そして今回は、肝心のラングトン教授が、病院で目を覚ますところから物語は始まる。自分はアメリカにいると思っている教授は、目を覚まし、窓の外を見ると、まぎれもないフィレンツェの街並み。あれっ!? オレ、なんでフィレンツェにいるんだっけ? と、どうも記憶にない。おまけに頭に傷を負っている。聞けば銃撃の痕らしい。おまけに冒頭から、病院には謎の刺客が現れて銃をぶっ放してくる。ナンデ? 一体何が!? という状況からのスタートだ。 そして病院の女医さんを相棒に病院を脱出し、謎の「地獄絵図」の幻視に悩まされながら、段々と記憶を取り戻しつつ、謎のウィルスの仕掛けられた場所へと迫っていく――というのがお話の大筋である。
 なので、ポイントは、一体なぜ、ラングトン教授はフィレンツェにいたのか、なぜ命を狙われているのか、そして、ラングトン教授をフィレンツェに派遣したのはどの勢力なのか、ということになる。
 今回は、ラングトン教授と同じように、ウィルスを確保しようとする勢力がいくつかあって、金のために確保しようとしている(ように見える)連中、そしてウィルス拡散を防ぎたいWHOチームがラングトン教授を追いかけてくる。そしてラングトン教授は、いつもの超博識な頭脳でピンチを切りぬけ、核心に迫っていくわけだが、結局この映画は、その博識さが一番の観どころになってしまっているように感じられた。
 なので、肝心の、首謀者の主張である人類半減計画(正確には人口半減計画)が、どうにも薄っぺらに感じられる。首謀者の主張は、このまま人類の人口が増え続ければやがて地球は破滅に至る、だから今、勇気をもって半分にしちゃおう、という中2病めいたもので、ある意味、シャア的な、いろいろな作品でお馴染みのものだ(そしてどうやら、ウィルスの正体については原作と違うみたい(?)。おまけにエンディングも全然違うらしい)。なので、わたし個人としては、その主張に、実はある程度賛同できるのだが、やはり常識的に考えればどうにも軽い。そして、どう考えても回りくどい。まるで阻止されることを願っているようかのな回りくどさが、わたしにはどうもピンと来なかった。さっさと実行しちゃえばよかったのに。そしてこれはどうでもいいけれど、WHOがあんな重武装の戦闘部隊を保有しているのもわたしは全く知らなかった。アレって、本当に実在するんだろうか? どうなんだろう……まあ、存在するんだろうな、きっと。
 というわけで、結局本作も、わたしとしては「きっと原作読んだらもっと面白いんだろーなー……」という感想しか持ちえず、であった。
 ただし、いつも通り、映像は完全に本物ぞろいで、その点の観ごたえは十分以上の迫力である。まあそれが映画の醍醐味なんでしょうな。すっげえところでよく撮影出来たなー、と思うようなショット満載である。しかし、いつもこういう映画を観ると思うのだけど、イタリアの美術館や博物館や世界遺産的なところって、あんなにも警備がザルなものなのだろうか? あまりに楽勝すぎて、ホント心配になる。日本でもあんなに簡単に「関係者以外お断り」の場所に忍び込めるものなんですかね? やってみたことないし、わざわざやってみたいとも思わないけれど、ラングトン教授が博識で、そこら中の抜け穴や出口に詳しいのはいいとしても、潜入が楽勝すぎてびっくりしました。欧米人よ……もうチョイ、仕事熱心&セキュリティ万全な方がいいと思うな……。

 で。役者陣は相変わらず豪華というか、見事な演技者ぞろいである。
 もう主役のラングトン教授を演じたTom Hanks氏はもう何も書かなくてもいいすよね? ホントにまあ、相変わらずの大活躍ですな。先日の『SULLY(邦題:ハドソン川の奇跡)』では来日したそうですが、うちの会社の近所の蕎麦屋に来たそうで、一度生Hanks氏と出会ってみたいものです。この人、身長どのくらいなんでしょう? 結構デカいすよね? あ、Wikiに書いてあった。185cmか。やっぱデケエすね。
 そして今回わたしが、実のところこの映画を観に行った最大の動機でもあるのが、教授とともに逃げる女医さんを演じたFelicity Jones嬢33歳を観ることでした。もう皆さんご存知の通り、公開が1か月後に迫った『ROUGE ONE―Star Wars Story』で主役の「ジン」を演じるのが彼女なわけで、わたしは彼女の顔は『The Theory of Everything』の時しか思い出せないので、今回じっくり観て見たかったのです。オックスフォード出身の才媛ですな。前もどこかで書きましたが、まず声が大変可愛らしいと思う。そして、今回じっくり見て、わたしは彼女の、若干出っ歯気味な、リスっぽいデカイ前歯が大変気に入りました。実に可愛いすね。ええ、わたしはそういう、変態じみた視点で女性を観察する男なので、口を閉じているのにチラッと覗く前歯にわたしはもう大興奮ですよ。変態でサーセン。
 ほかには、事件の首謀者の大富豪を演じたのがBen Forster氏36歳。この方の顔を見て、わたしが真っ先に思い出したのは、『X-MEN:Last Stand』で演じたミュータント、エンジェルすね。あの時と比べると、当たり前だけど若干歳を取りましたな。それから、この人が一番カッコイイのはやっぱり『LONE SURVIVOR』のアクセルソン兵曹の役じゃなかろうか。もの凄く悲しいけど壮絶にカッコ良かったすね……。若干チャラ目の言動ながら、最後まで立派でした。おっと!? マジか! わたしは観ていない映画なんだけど、『疑惑のチャンピオン』でLance Armstrong役を演じたのが彼なんだ。そうかーーー。自転車ロードレース好きとしては超観たかったんだけどなあ……。WOWOW放送を待つか……。
 あと二人。WHOフランス支局員の怪しい男を演じたのがOmar Sy氏38歳。彼で一番有名なのは、もちろん出世作の『Intouchables』。日本語タイトル「最強のふたり」は日本でも大ヒットしましたね。そして非常に面白かった映画です。ちなみに彼も、『X-MEN』でミュータントを演じてますが、アレはちょっと能力的に微妙だったすね。ほかにも、ずっと前にこのBlogでレビューを書いた『Good People』だとか、『JURASSIC WORLD』なんかにも出てましたな。結構活躍中です。
 ラストに紹介するのは、今回謎の組織を率いて教授を追う男を演じたIrrfan Khan氏49歳。49歳!? なんだよ、わたしよりチョイ上なだけじゃん。もっと全然年上かと思ってた。この方はインドの方ですが、特徴的な顔なので、わたしが真っ先に思い出したのはやっぱり『Slumdog Millionaire』の警部すね。そしてこの方も、『JURASSIC WORLD』に出てましたな。役名は忘れたけれど、パークの社長(?)で、社長なのに意味なく自らヘリで討伐隊に出発して、あえなくプテラノドン(だっけ?)の群れに遭遇して撃墜される、良くわからない最期を迎えたあの人、すね。今回彼が演じたキャラクターが、非常に怪しく、いい人なのか悪者なのか、というのも物語のキーになってます。
 そして、監督はシリーズ3作すべてを撮っているRon Howard氏62歳。今年の初めに観た『In The Heart of Sea』もそうだったけれど、実に堅実というか、職人的な監督ですな。とりわけ凄いと思わせずに、実はかなり凄い映像を本物のように撮る監督、とわたしは思っています。例えば今回の、教授がフラッシュバックで時折見ることになる「地獄絵図」の映像は、アレは何気に凄く金もかかってるしエキストラも考えたら相当大規模な撮影だったんじゃなかろうか。そういうのをまったくメインストーリじゃないところでチラッとしか使わないのに、きちんと撮っているのは流石だなあと変なところでグッときました。あと、そうだ、本作の音楽を担当しているのはHans Zimmer氏58歳でした。58歳で若手というのはアレですが、現在の映画音楽作家の中では、若手ナンバーワンでしょうな。特徴的な重低音の不協和音のようなな使い方(うまく表現できない!)は今回ももちろんあります。
 
 はー。いい加減長いので、ぶった切りですが結論。
 ラングトン教授映画シリーズ第3弾『INFERNO』を観たが、やはり、どうも原作の方が面白いんじゃないかしら、という気がしてならない。また、ひょっとしたら原作を読んだ方は、超絶賛する人と、原作の持ち味が薄れていると怒る人と、二分されるような気もする。単純に映画としてどうだったか、と聞かれると、十分面白かったと言うにやぶさかではないけれど、どうなんだろう、人類半減計画(人口半減計画)って……日本のアニメや漫画ではまったくもってありがちというか、おなじみだからなあ……それならもうチョイ、計画は単純にして実行できたんじゃね? と思ってしまいました。まあ要するに、そこまで首謀者は絶望していたわけではなく、人類の愛ゆえに計画し、そして愛によって倒されたかったということかもしれないですな。ラオウ様的に。いろいろ解釈は許容されると思います。以上。

↓ これは4回挑戦して4回目でようやく読了できた、とわたしの25年前の日記に書いてあった。どうも読みにくく、コイツのせいでルネサンス期のイタリアが苦手になったような気がしてならない……。
デカメロン
ボッカッチョ
河出書房新社
2012-10-11