去年、全世界で6,300万部売れた大ベストセラーが映画化されて公開された。タイトルは、『FIFTY SHADES OF GREY』。日本語で言うと、「グレイ氏の50の影」ってところだろうか? ま、意訳すると「50の顔を持つグレイ氏」ってことかな。映画公開前から一部で話題になっていたと思うが、わたしとしては、劇場に観に行くつもりにはなれず、そのうちWOWOWで放送されたら見てみようかな、ぐらいの位置づけであった。なんでも、アメリカでは、主婦が書いた女性向けのエロ小説として「マミー・ポルノ」と呼ばれているらしいことも事前情報で聞いていたし、まあ要するに、日本的に言うとレディースコミック的なものだろう、というのがわたしの認識であった。そして先週WOWOWで放送があり、ほほう、アレか、と思ってさっそく観てみたわけであるが、これがまた実に、えええっ!? と言わざるを得ない妙な映画であることを確認した次第である。

 もはや物語の大筋は上記の予告で示されている。が、もうちょっと細かく説明すると、以下のようなお話であった。
 主人公アナ(アナスタシア)は、バンクーバーに住む大学4年生で、卒業間近。ついでに言うと、文学部在籍の若干地味目のVirginガールである。そんな、少々奥手の彼女は、ある日、ルームメイトが風邪でダウンしてしまったために、代役として、シアトルにあるとある大企業のCEOの元へ、大学新聞用のインタビューに出かけることになる。そのCEOは27歳で威圧感バリバリの男。イケメンかどうかはわたしとしては微妙だと判定するが、まあ、イケメンなんでしょうな。そして、とにかくスーパー金持ち野郎である。こんな風に出会った二人が恋に落ちるわけだが、そのイケメン金持ちCEOには、とある変態趣味があって、ドS野郎だったと。そして恋人にはなれないが、オレの可愛いM嬢として、セフレ契約して欲しい、ついてはまず秘密保持契約(NDA)を結ぼう、そして性奴隷契約もぜひ検討していただけまいか、という流れになる。とりあえずアナは、この関係を誰にもしゃべらないというNDAには即サイン。それから変態CEOの、これでもかという金にモノを言わせた攻勢が続き、本契約を迫っていくお話である。
 サーセン。かなり偏見に満ちた要約だが、おそらく既にこの映画を見た方なら、何ら間違っていないという事に同意していただけるのではないだろうか。なお、性奴隷、という言葉はわたしが勝手に用いたものではなく、実際、劇中でSEX-SLAVEという言葉が出てくる。というわけで、とにかく、な、なにーっ!? とか、えええっ――!? というリアクションが連続する映画であった。なので、見所は、変態CEOによるアナ攻略のスーパーリッチ攻撃と、アナのどうしようかしら的お悩み振りであろうと思う。とにかく、ヘリでいきなりバンクーバーに現れてシアトルの自分の超豪華ペントハウスに連れ込んだり、アナの愛車(おんぼろのVWビートル)を勝手に売り払って新車のAUDI(チラッとしか出ないのできちんと確認できてないが、たぶんAUDIのA3セダンだと思う)プレゼントするし、そもそも一番最初のプレゼントは、アナが文学部の学生だと知って、アナが大好きなThomas Hardy「テス」の初版本を贈ったりするし(調べてみたらどうやら2,800$ぐらいらしい。30万円チョイなのでそんなに高くなかった) 、とにかく金がかかってる。平凡人の男であるわたしとしては、ただただ呆然である。すげえ。ここまでやったら完全にもう、普通はドン引きだぜ、と逆に心配になるレベルである。パソコンがぶっ壊れててメール送れないの、というアナに余裕でMac Book Airをプレゼントするぐらいならまだ許せるというか、そのぐらいならオレでもやるかもな、なんて思いながら観ていたが、まあどんどん凄いことになっていく。もちろん、ヒロイン・アナも、ちょっとこれはやりすぎっショ、と思いながらも、ちゃっかり受け取ったりして、おまけに実際のところ初めて会った時からもう変態CEOに心惹かれているので、もはや時間の問題ですな、とわたしは二人の顛末を冷めた思いで見物させていただいた。しかし、なかなかアナも踏ん切りがつかない。というのも、実はアナはまだ男性経験ゼロだったのだ。しかしさすが変態。その告白を聞いての行動が迷いなしである。
 アナ「わたし……男性経験がないの……」
 変態「えっ!? な、なんだって!? 今までどうやって生きて来たの!? いい男だっていたでしょ!!」
 アナ「……(頬を赤らめうつむく)……」
 変態「……そうか……じゃ、まずその問題を解決しようか(ニヤリ)」
 というわけで、いきなり初体験開始である。そして変態の(ニヤリ)のいやらしいことと言ったら、何も持たざるわたしとしてはもうぐぬぬと憤死寸前である。ズバリ言うと、この後、アナは何度もヤることになるのだが、なんというか……観ていて実に痛々しいというか、残念であった。純情ガールになんてことするんだこの変態!! と、だんだん憎しみすらわいてくる。
 そして、わたしが一番この映画で、な、なんだってーーー!!? と呆然としたのは、物語のエンディングである。えええっ!? ここで終わり!? うっそお!? あれでしょ、エンドクレジット後におまけ映像というか何かあるんでしょ!? と思い、即早送りをしてみたところ、そのまま終わってしまったのである。この、わたしをしてあっけにとらせたエンディングは、どうなったのかはここでは書かない。興味のある方はぜひ観ていただきたい。
 実際のところ、なぜイケメンCEOがド変態になってしまったかといった背景は、本人の口からほのめかされるが、全く説得力がない。加えていうと、この変態野郎がいかにして起業し、大企業にまで成長させたかもさっぱりわからないし、変態のビジネスにおける有能さも全く納得性がない。可愛いアナを追いかけてばかりの変態男に大企業経営が出来るのか心配になるほどである。
 だが、散々書いてきてアレですが、恐らくそんなことはどうでもいいのだろう。何しろこの作品は、もう完全に漫画なのだから。カッコ良くてスタイリッシュであることが一番重要で、読者の妄想を掻き立て、いいなー、こんな王子様が現れたらなあ……と女性に思わせれば勝ち、というものであろう。完全に対象読者から外れているわたしが何を言っても何の意味もなかろうとは自覚している。ので、散々なことを書いたけれど、この映画を観た女性が、うっとりできるならそれはそれで十分以上にアリである。ので、ぜひとも女性の意見を聞きたいものである。
 さて、役者陣をチェックしておくと、まず、ヒロイン・アナを演じたDakota Johnsonちゃんである。はっきり言ってとても可愛い女優だと思う。かの、Melanie GriffithDon Johnsonの娘さんである。1989年生まれの現在26歳。Melanie Griffithはその後離婚して、Antonio Banderasと再婚したのでBanderasは義父にあたる。まあそんな生まれの彼女だが、演技ぶりは良かったと思う。非常に悪くない。若干奥手の純情ガールぶりはかなり可愛いと思った。そして一方の変態CEOだが、Jamie Dornan氏33歳である。役柄としてはド変態だが、実のところ演技ぶりは悪くない。わたしとしては、最初に書いた通りそれほどのイケメンとはちょっと思えないが、ド真面目にド変態を演じている様は、実に決まっていてある意味スタイリッシュである。今後の活躍を期待したい若手とわたしは記憶することにした。なんでも、Keira Knightlayの元カレだそうだ。ぐぬぬ……やっぱコイツ許せんな……。オレのキーラになにしてくれちゃってんだこの野郎!!
 あと、監督ですが、Sam Taylor-Johnson(48歳)という女性監督だそうで、全然知らない人だけれど、女性監督だったのか、というのは、絵作りやエッチシーンの美しさに関して、なるほど、とうなづけるところであった。なお、テイラー・ジョンソン? と聞いて、むむ? と調べてみたところ、なんとあの、『KICK-ASS』や『GODZILLA』、『Avengers :Age of Ultoron』でお馴染みのAaron Taylor-Johnson君25歳の奥さんだそうですよ。歳の差23歳の姉さん女房のようですな。まあ、蛇足でした。

 というわけで、結論。
 この『FIFTY SHADES OF GREY』という映画は、わたしとしては非常に妙な、まさしくCEOのセリフにあるようにSingularな映画であったが、世の女性がこの映画を観てドキドキして楽しい時間を過ごせるなら、全くもってアリであろうと思うので、どなたか女性でこの映画をご覧になった方は、ぜひ感想を聞かせてください。なお原作は三部作で、次回作は、変態がどうして変態になったのか、のカギを握る女性が出てくるそうですよ。以上。

↓ 続編。実は結構読んでみたい。あのエンディングの後が超気になる。