今日は朝から映画を2本はしごしてきた。他にやることないのかよ、と我ながら残念なお知らせだが、そりゃあ、あるといえばありますよ? けど、映画を観ることが優先されるのである。それが映画オタクとしての現実なのだ。と、強がっておこう。はあ……。生きててもいいことないので、映画でも観て現実逃避しているのかもしれないな……わたしの場合は。
 というわけで、今日わたしが観てきたのは、『DOWNSIZING』と『THE SHAPE OF WATER』の2本だ。両作とも、ズバリ結論を言うと、期待以上ではなかったような気がする。なんか……残念です。それでは、観た順番に、まずは『DOWNSIZING』から書いていこう。

 わたしが劇場で何度も観た予告が見当たらないので、上記のものを張っておきます。ほかの予告は結構、ええっ!? とわたしが劇場で驚いたネタバレが含まれていたので、貼るのはやめときました。
 といいつつ、わたしもネタバレを書いてしまうと思うので、以下はまだ見ていない人は読まない方がいいと思います。ここらで退場してください。
 さてと。物語は、上記動画にある通り、人間を約7%(身長180cm→12.8cm)に縮小してしまう謎技術が発明された世界で、縮小されることを選択した一人の男の身に起こる悲喜劇を描いた作品だ。わたしはそのぐらいのぼんやりした知識しか予習していなかったので、次々に描写される「DOWNSIZING」技術とその結果としての小人生活のうさん臭さに、かなりの頻度で、心の中で突っ込みが発動してしまう事態となったのである。この作品はコメディだろうから、笑えればいいのだろうけど、結構深刻ですよ、この話は。
 ◆DOWNSIZING技術の原理:一切説明ナシ。謎の薬物を点滴投与して、謎の電子レンジめいた装置に入れて、チンするだけで出来上がり、である。その手軽さにわたしは笑っちゃった。まあ、映画としてそんな細かいことを説明する必要なんてないので、説明ナシ、は十分アリだろう。しかし、「小さくなる」と聞いてわたしが真っ先に思い出したのが、わたしの大好きなMARVELヒーロー『ANT-MAN』なのだが、なぜ、ANT-MANがフルフェイスのヘルメット&マスクを着用しているかご存知ですか? 第一にはピム粒子充填のためだけどそれはどうでもいいとして、実は、体を縮小化したことで、酸素分子が逆にデカすぎて、肺に直接摂取することができないから、そして微細なホコリなんかが縮小した体にはデカすぎて肺に詰まっちゃうから、それを防ぐためにマスクをしてるという設定なんすよね(ただしどう処理しているかの説明はANT-MANにもない)。そういった、生理科学的な説明も一切ないのはちょっと残念に思った。自らの体(細胞)が小さくなる=他の自然界に存在する物質は逆にがデカくなる、ということなわけで、何らかのケアをしないと、確実に呼吸器系・循環器系が適応できずに生きていけないと思うのだが……一切そういう説明はなかった。死んじまうぞ……。
 ◆小さくなったら超リッチ!のうさん臭さ:普通に考えて、確かに、自らが消費する食料やその他物品の物理的な量は減るだろう。そりゃそうだ。だけど、だからって、金持ちになるなんてあり得るか? まず第一に、小人たちは経済的にも物質的にも、自立できていない。間違いなく普通サイズの人間の世話が必要だ。たしかに、小人コロニーは自立しているように描写されてはいたが、小人サイズの服だって家だって食べ物だって、自給自足しているとは思えない。仮に自給自足しているとしても、小人社会の経済活動が普通に行われれば、金はそれなりにかかるだろう。そもそもは、人口爆発による地球環境の破壊を防ぐために発明された技術だけど、普通サイズの人間なしに生きていけないなら、意味なくね? DOWNSIZING技術の会社も、普通サイズの人間なしには運営不能なわけで、この辺の説明も、一切ナシ、であった。小人がリッチなのは、あくまで普通サイズの人間がいるからで、それと比較するとリッチ、という相対的な価値観だと思う。だとすれば……そもそものDOWNSIZING技術発明の趣旨に反してるじゃん。おかしくね? まあ、だからこその、あのエンディングにならざるを得なかったのだとわたしは思うし、あのエンディングは、実際のところ、人類滅亡が前提なので、なんというか……生きててもいいことねえな、という、わたしが常に感じる悲観的未来を象徴しているかのようであった。なお、本作のエンディングに関しては、もう書く気になれません。
 ◆小人と普通サイズの共存は可能か?:おそらく無理だろうとわたしは直感的に感じた。世界から戦乱がなくなることはないわけで、小人化した人間はその武力も縮小してしまうわけだし、まあ、ズバリ踏みつぶされたら終わりだ。だって、7%に縮小した状態というのは、逆に言うと自分以外が約14倍にデカくなるってことなわけで、えーと、例えば身長130cmの小学生が、小人化した人から見たら18メートルのガンダムぐらいデカく見えるってことだぜ? そりゃもう、あかんすわな。
 また、劇中では、小人化を決意した主人公夫婦が小人化される直前に開催された送別会が描かれ、そこに、酔っ払いが「へえ、そりゃ結構なこった、でも、小人の権利は普通サイズと一緒なのか? 社会貢献しないで自分の小人コロニーに閉じこもって、税金だってほとんど払わないのに? それなのにお前らに選挙権があるっつーの?」と、至極まっとうな疑問を振りかざして絡んでくるシーンがある。これは恐らく将来的な火種として決して解消されない、普通サイズVS小人たちの対立を予感させるものだと思う。そりゃそうだよな。実に危ういとしか思えない。また、どうやらこのDOWNSIZING技術の機密情報は、もう既に全世界に公開されているっぽい描写だったが(世界中の各地で縮小化は行われている)、作中でも描かれた通り、国によっては政治犯などの反政府思想の持ち主を強制的に小人にしてしまうという非人道的な利用も行われているらしく、事態はもう非常に深刻だと思う。

 まあ、上記はわたしは感じた謎のほんの一端だが、本作はほぼそういった謎についての回答を用意していない。これが、完全なるコメディーで明るい物語なら、そんな説明はなくても別に問題ないのだが……意外と本作はシリアスな問題が取り上げられていて、どうにも笑ってすます気にはなれなかったのである。わたしが結構驚いたのは、小人となって夢のような贅沢三昧の暮らしを送る、かと思いきや、小人社会にも厳然たる「持てる者と持たざる者」の階層社会になっていて、小人コロニーに貧民層の集まる汚い場所があったり、全然楽しいだけじゃない現実が描かれてゆくのだ。まあ、冷静に考えれば、小人社会であっても、誰かがごみ収集だってしないといけないし、遊んで暮らせるわけもないわけで、じゃあ、どうしてまた小人になってまでそんな仕事に従事する人々がいたんだ? という謎もわたしの頭には浮かんできてしまう。それも、一切回答ナシ、である。
 たぶん、この映画に求めるのはそんな夢の生活とその裏に暮らす貧民層、みたいな社会の縮図(文字通りの縮図!)なんかではなかったように思う。なので、後半は全く笑えない展開で、映画として実に微妙な作品になってしまったような気がした。ついでに言うと、上映時間135分は明らかに長い。テンポが非常に悪く感じられたのは、きっとわたしだけじゃあないと思う。
 わたしが言いたいのは、数々の謎に答えてほしい、というものではなく、そういう謎を感じさせないような明るい話だったらよかったのにね、ということだ。なんか……この人類縮小化というネタは、80年代にEddy Murphy氏主演で作ったら楽しく笑える作品になりそうだったのにね。そう考えると、ちょっと残念だ。
 
 なんだか文句ばっかりになってしまったので、最後に意外と真面目な物語を真面目に、時に明るく演じてくれた役者陣を紹介して終わりにしよう。役者陣は全く素晴らしい熱演だったので、わたしとしては一切文句はありません。
 ◆ポール:主人公。元の職業は食肉加工会社?専属の理学療法士(作業療法士か?)。夫婦で小人化を決意して、小人化して、目が覚めても、なかなか妻が現れない。どうしちゃったんだろ? と思っていたら、なんと妻が超土壇場で「やっぱりやめる!」と逃げてしまい、あえなく離婚。小人化したことをずっと後悔する失意の毎日を送る羽目に……演じたのは、マーク・ワトニー博士でお馴染みのMatt Damon氏。しかし……小人化する際、歯の詰め物とかそういった生体以外のものを全部外すというのは分かるとして(それらのものは縮小化されないので外しておかないとヤバいという設定)、なんで全身の毛を剃る必要があったんだろうか?? 毛髪は縮小できないのかな? うっそお? 0.1mmぐらい髭とか生えてたらどうすんだよ。そんな点も一切説明ナシ、であった。
 ◆オードリー:ポールの妻。髪をそられ、眉毛を片方剃られたところで、ビビッてばっくれるひどい人。前半30分で出番終了。演じたのはおととしの夏、大復活した女性版『GHOST BUSTERS』のリーダー役でお馴染みのコメディエンヌ、Kristen Wiigさん。この人、結構可愛いと思うんだ……。
 ◆ドゥシャン:小人化されたポールの住むマンション?の上階に住む、パーティー大好き人間。演じたのは助演男優賞ハンターとしてお馴染みのChristoph Waltz氏。今回のはじけたパーリィピーポー役は大変良かったすね! 非常に楽し気に演じておられましたな。さすがの演技派すね。
 ◆ユルゲン博士:DOWNSIZING技術を発明したノルウェー人医師。いや、スウェーデン人だっけ? ともかく、演じたのは、あの! わたしが原作小説を読んで大感動した『幸せなひとりぼっち』の映画版で主役のオーヴェおじさんを演じたRolf Lassgård氏ですよ! わたしは冒頭の発明完成シーンから、あれっ!? 今の博士、ひょっとして? と気が付き、後半、主人公が会いに行った博士として出てきて、やっぱりこの人は! オーヴェおじさんだ! と確信に至った。ハリウッドデビューおめでとう!
 ◆ノク・ラン・トラン:ベトナムで反体制思想の持ち主として収監され、強制的に小人化された気の毒な女性。テレビの箱に潜り込んで?アメリカに亡命。その時の劣悪な環境で左足を失った。演じたのは、Hong Chauさんという方で、ひどくなまりのある、いかにもな英語だったけれど、この方はタイ生まれだけど現在はれっきとしたUS国籍のアメリカ人だそうです。よーく見ると、かなり可愛いお方とお見受けしました。

 というわけで、結論。
 予告を見て、これは面白そうだと思ったので観に行った『DOWNSIZING』という映画なのだが、実際に観てみたところ、どうもコメディーとしてはやや半端ではじけ切れておらず、意外とまじめな方向に話は進むという予想外の物語であった。縮小化技術そのものについては、別の細かいことまで描けとは全く思わないよ? でも、そこから発生するいろいろな「?」については、説明してほしいわけではなくて、そういう「?」を感じさせない物語にしてほしかったと思う。そのような数々の「?」を考えさせてしまった時点で、この映画は微妙としかわたしには判定できないす。もったいない……ホント、かつてのEddy Murphy主演作のような、腹を抱えてゲラゲラ笑える物語をわたしは期待していたのだが……残念ながらその期待はかなえられなかったす。ま、役者陣には何の罪はないので、役者陣に関しては素晴らしかったと賞賛の拍手を送りたいと存じます。以上。

↓ 例えばこれとか。最高に笑えるんすけどね……。