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 もう1年以上前に、US版予告を観て、うおお、コイツは超面白そうだぜ!と思っていた映画がある。しかし、日本では一向に公開される気配がなく、こりゃあお蔵入りで、そのうちWOWOWで放送されないかなあ、と待っていたところ、US公開から1年3か月経ったおとといの金曜日からようやく日本公開の運びとなった。ので、今日、さっそく観てきた。
 その作品のタイトルは、『SWISS ARMY MAN』。とんでもなく奇想天外な物語で、わたしは観ながら結構笑ってしまったのだが、結論から言うとラストは若干微妙で、ちょっとまだわたしはこの映画を消化しきれていないというか、若干胃もたれしているところである。
 ところで、タイトルの意味を理解するには、コイツのことを知っていないと困るのだが、まあ、男なら絶対に知っていると思う、↓これである。

 そう、いわゆる「スイス・アーミー・ナイフ」、通称「十徳ナイフ」といういろんな機能が搭載された、アウトドア野郎なら必ず1本は持っているアレである。なんとこの映画は、「死体」をこの十徳ナイフのように便利に使っちゃう、漂流サバイバル映画であった。というわけで、以下、確実にネタバレ全開で書くことになると思うので、気になる人は絶対に読まない方がいいと思います。これは何も知らないで観に行った方が面白いと思うので。観てから、読んでください。

 というわけで、まずは上記予告を観てもらいたい。もう大変なことになっている。わたしはUS版の予告を観て、な、なんだこれ!? と超興味を抱いたのだが、この予告からわたしは、前述のように「漂流サバイバル映画」だと思ったものの、いきなりで恐縮だけど、まずは前言撤回である。そう、実は全然「漂流サバイバル映画」ではなかったのだ。無人島&海、は、実は冒頭の5分ぐらいしか出てこない。冒頭はもう予告にある通りで、船が難破し(?)、小さな無人島で絶望とともに首を吊ろうとしていた男がふと見ると、波打ち際に人影が。慌てて駆け寄ってみると、すでに完全に死んでいる。が―――その死体は、豪快な音を立ててオナラをしており、何だよこれ……と見ていると、どんどん波にさらわれて死体が海の方に流れていく。しかも、ケツからは、ブビビビビ……とガスが放出されていて、おい、ちょっと待って、もしかして……と死体に飛び乗ると、死体はまるでジェットスキーのように、ガスパワーで海を豪快に駆けていくではないか! ひゃっほう! これで助かったぜ! というのが予告にある通りだが、あっさり男はバランスを崩して海に投げ出され……気が付くと陸地に打ち上げられていた。けれど、一体全体ここはどこ? というわけで、男は助けを求めて、陸地に分け入って行く。死体を背負いながら……てなお話であった。ちなみにここまで、開始10分ほどである。
 なので、冒頭だけが海&小島で、物語の本筋は、ほぼ森の中である。とにかく死体が便利すぎて、そのあたりの描写は、もう笑うしかない奇想天外なシュールな映像となっていくのだが、とある怪現象が起きてからは、かなりその趣は変わってくる。そうなのです。完全なる死体なのに……どういうわけかしゃべりだす、のだ。死体なのに!
 この、死体がしゃべるメカニズムは、ズバリ言うとラストまで一切説明はない。わたしは、実はこれは夢オチ的なエンディングで、死体がしゃべっていると思っているのは主人公の男だけで、なにか幻想のようなものを見ているだけなんじゃないのかしら、と思っていたのだが、どうもそうではない、らしい。そしてしゃべる死体との会話も、どんどんシュールになっていく。生前の記憶のない死体に、いろいろ教えていく主人公。そして主人公のこれまでの人生も語られていく。そして極めて残念ながら、その人生が全く共感できないものなんだな……なので、中盤からは、死体を使った笑えるシーンにはゲラゲラ笑ってしまうものの(これって不謹慎?)、主人公がバスで出会った美女に対する想いが観客に提示されていくにつれて、はっきり言ってわたしはドン引きになっていくという残念な状況となった。
 どうも、主人公が海で遭難した理由、もっと言えばなんで船で海に出でたのか、も、はっきりとはわからない。どうやら主人公は、とにかくコミュ障で、人と関わるのが苦手であったようだ。そして舞台はどうやら西海岸で、冒頭の無人島&海は太平洋の孤島らしい。よって、場面が変わってからの森は、西海岸のロスだかシスコのあたりのようなのだが、ともかく、主人公は全く見知らぬ美女に一方的に惚れ、そして美女に娘も旦那もいることは知っていたようなので、軽いストーカー野郎といってもよさそうだ。そんな見知らぬ美女をスマホの壁紙にしているのだから、まあ、ちょっと問題アリな男と言わざるを得ないだろう。
 あれっ!? なんだか書いていてドンドンつまらない映画のような気がしてきた。
 しかし、間違いなく笑えて面白かったのだが、冷静に考えると、結局のところ、この映画でわたしが面白かったのは、死体を便利な道具として使うという1点に集約されるわけで、そういう意味で完全なる一発ネタムービーだったのかもしれない。やたらと、さわやかな青春ムービー的なキャッチコピーで宣伝されているような気がするが、わたしには全くさわやかには感じられず、とりわけ感動もなかったのは事実だ。
 恐らく、わたしがこの映画で一番感動(?)したのは、「死体」を演じたDaniel Radcliffeくんのスーパー熱演であろうと思う。とにかくすごい! 完璧な「死体」であり、この渾身の「死体」の演技だけでも、この映画は観る価値があると思う。しかも、ケツ毛もじゃもじゃのケツもさらして、Harry Potterのイメージはもう完全にぶっ壊しており、わたしとしてはもう、順調なおっさん化を遂げたRadcliffeくんの姿には実に感動した。下品と言わないでいただきたい。だって人間だもの!
 そして主人公たる男を演じたPaul Danoくんもなかなかの熱演だった。彼は、かなりの出演作をわたしは観ているはずだけれど、正直あまり覚えにないかなあ……冒頭ではヒゲもじゃな彼が、中盤以降はすっきりした顔で出てくるのだが、そのスッキリした顔を観ても、ちょっとピンとこなかった。なお、どうやってひげをそったのかは、ぜひ本編を観て確認いただきたい。もちろん使ったのは、超便利な「死体」だが、どの部位を使ったかは書かないでおこう。若干……じゃあ済まないか。かなりドン引きな髭剃りなので。ちなみに、主人公が故郷への方向を知る道しるべになるモノも、死体の一部の謎反応によるものなのだが、それがナニかも書きません、つーか下品すぎて書けません。
 あと、主人公が一方的に(?)好きになった女性、を演じたのがMary Elizabeth Winslead嬢だが、この人、なんか老けたか? この人で思い出すのは『Die Hard 4.0』のマクレーン刑事の娘役とか、『The Thing(邦題:遊星からの物体X:ファーストコンタクト)』や、去年みて失望した『10 Clover Field Lane』など、結構わたし的にはおなじみの女優だが、本作では、顔を観ても一瞬誰だか分からなかったぐらい、何となく印象が違って見えました。なんでだろうな……自分でも良く分からんです。
 最後は監督についてメモして、もう終わりにしよう。この奇想天外な物語の監督・脚本を担当したのは、クレジット上ではDanielsと表示されていたけれど、Daniel Sceinert氏とDaniel Kwanという二人のダニエルさんのコンビだそうだ。正直知らない方々です。まあ、長編初作品らしく、そのアイディアは凄い、と思うけれど、どうして死体にしゃべらせたのか……その点だけ、わたしには良く分からないし、実際必要なかったのではないかという気も非常にする。あくまで、主人公の一人語りで十分だったのではなかろうか……どうなんだろう……ちょっとマジでわたしには良く分からんです。

 というわけで、もう全然まとまらないので結論。
 最初にUS版予告を観た時から超期待していた『SWISS ARMY MAN』が、US公開から1年3か月経ってやっと日本でも公開されたので、早速観てきたわたしだが、映画としては、全然想像していたものとは違っていたのは間違いない。全然漂流サバイバルじゃないし。そして、物語は実に微妙なお話であったことも事実だ。しかしそれでも、わたしはこの映画を観に行ったことを1mmも後悔していない。なぜなら、「死体」を演じたDaniel Radcliffeくんの演技が凄まじく素晴らしいからだ。その1点だけは保証できる。死体を使った数々の面白描写にも、相当笑わせてもらったし。だが、この映画が万人にお勧めかというと、これは無理だろうと思う。まず、相当な下ネタが多いし、そもそも死体をこんな風に扱うなんて、と真面目な人なら眉を顰めるかもしれないし。なので、まあ、とにかく予告を観て気になるなら観に行った方がいいし、予告の段階で、何じゃこりゃ、と嫌悪感を感じたならやめておいた方が無難だと思う。あ、それは当たり前か。サーセン。なんだかまだ、わたしはこの映画に対して消化不良で、全然うまくまとめられませんでした。以上。

↓ わたしは実は「漂流サバイバル映画」はジャンルとして結構好きで、今のところそのジャンルで最高峰は、この映画だと思います。とにかく壮絶。そしてカッコよく、悲しい……。




 昨日の夜の21時ころ、ふと、何もやることがなく、かつ、寝るには早いか、という、恐ろしく人生についての絶望を感じるような一瞬を味わってしまったわたしであるが、もういっそこのまま明日が訪れなければいいのに……という悲哀を胸に抱きながらも、まあ、なんか映画でも見るか、とWOWOWで撮り貯めたHDDを捜索してみたところ、とある映画が録画されていて、じゃ、これでも観るか……という気になった。あぶねえ。うっかり黄泉の国への誘惑に負けるところだったぜ。
  観た映画のタイトルは、『Victor Frankenstein』。かの有名な、フランケンシュタイン物で、そのタイトルを観て、わたしは電撃的に、あ、あの映画か、と思い出した。この映画での主役は、ハリー・ポッターでお馴染みのDaniel Radcliffくん。いまや順調におっさん化が進み、非常にこの先の更なるおっさん化が楽しみな逸材であり、わたしは結構彼の演技は高く評価している。そんな彼がフランケンシュタインを演じるのかな? とUS版予告を見て思い、こいつはちょっと気になるなと思っていたのだが、どういうわけか一向に日本で公開されず、今調べたところ、日本ではなんと屈辱?のビデオスルーだったそうだ。というわけで、わたしとしてはWOWOWで放送されることを知って、よーし、WOWOWよ、偉いぞ!と思い、録画をセットしたのである。ま、録画セットしたことは完璧に忘却の彼方に霧散していたけれど。

 探してみたら一応、DVD販売用のFOX公式の字幕入り予告があったので貼っとくか。
 しかし……ホント、なんというか毎回書いているような気がしますが、FOXの予告編のセンスのなさは何なんだろうな……普通の人が上記予告動画を見て、おっとこの映画は見たいぜ、って思いますか? 何が何やら? さっぱりわからないと思うんだけど……ひでえなこれは……。ちなみに下のが字幕なしのUS版公式予告だが……ま、尺が長くなっただけで、あまり変わらないか……つまりFOXジャパンではなくて、そもそものFOX本体がダメってことだな、こりゃ……。

 ま、いいや。ちなみに、US本国でもホントにこの数字?と信じられないほど全く売れず、おそらくは散々な興行で赤字は確実であろうと思われる。何しろこの映画、観た限りではかなりの予算規模であろうことが想像できるほど、相当金を使っているのは間違いないと思う。それでこの成績じゃあ……まずいなこりゃ……と全くの余計なお世話だけれど、実に心配だ。
 物語の舞台は19世紀のロンドン。日本で言うと幕末から明治の世である。もう、この時点で、セットや衣装、美術に金がかかるのは確定的に明らかであろう。そしてこの時代設定および場所設定からして明らかなことは、完全にMary Shelley女史による原作小説『Frankenstein』とは全く別物ということだ。そしてわたしはてっきり、Danielくん自身が怪物を演じるのかしらと勘違いしていたのだが、それもまた、まるで違っていたのである。これは予告をちゃんと見れば分かるので、単にわたしの思い込みであった。
 本作の物語を簡単にまとめてみよう。
 Danielくん演じるイゴールは、サーカスでピエロを担当していた身寄りのない男で、その背中のせむし男ぶりから人間扱いされないような可哀想な奴隷的立場にあった。しかし実は明晰な頭脳と、人体に関する特殊な(?)目をを持っていて、それを見抜いた医師ヴィクター・フランケンシュタイン先生(正確に言うと医学生なので、医者の卵)の手引きで、哀れなサーカスでの生活から脱出することに成功する。そしてそのフランケンシュタイン先生の手で、背中の腫瘍(というより膿疱?)を除去し、姿勢矯正ギプスのようなものを着用して、髭も剃って髪も整え、さらにはちゃんとした服を着ることで、あっさり、ぱっと見では元背むし男とはわからないような、小ざっぱりしたイケメンに変身する。そんな、大恩が出来たフランケンシュタイン先生の研究を、イゴールは助手として手伝い始めるのだが、先生の研究とは、死体を寄せ集めてつなぎ合わせることで、死を超越しようとする背徳的なものであり、ついにその研究は、イゴールの協力のもととうとう現実に―――的な展開である。1994年のKenneth Branagh監督による『Frankenstein』はかなり原作に忠実だったと思うけど、本作はまるで違うお話でした。
 まあ、要するに物語としては原作のフランケンシュタインの話に、SF的な科学的要素をチョイ足ししたような感じで、それなりにはきちんと整っているとは思う。また、美術的な部分でも前述のようにきちんと金がかかっているし、おまけに役者陣もきっちり一流どころを揃えていて、けっして手抜き感は感じられないと言ってもいいだろう。ただなあ……なんというか……B級臭がぷんぷんするのはどうしてなんだろうか……。結局はやっぱり物語なのかなあ……トンデモストーリーであるのは間違いなかろうし。あと、クリーチャーデザインかなあ……人造人間が完成する前に、犬だったか猿だったかで、プロトタイプが作成されるのだが、それが80年代後半の、『THE FLY』的なクリーチャーデザインっぽさがあるんだよなあ……それがなんというか、すげえセンスが古いんすよね……でもあれ、CGだよね? 一部はパペットだったような気もするけど、あの動きはCGだよな……。
 ま、とにかく、結論から言えば、正直イマイチでした。
 ただ、やっぱり役者陣には触れておかないとイカンだろう。実際、主役のDanielくんは大変熱演だったと思う。やっぱりとても上手だと思うな、この人は。若干背が低いかな、という点はまあ、あまり瑕疵にはならないと思う。なんか骨格が骨太で、イギリス人にしてはちょっと珍しいような、顔も体も四角いような特徴あるルックスですな。いや、そうでもないか、若干なで肩?なので、シルエットはTom Cruise氏に似てますね、そういえば。わたしは、Danielくん主演の『Swiss Army Man』がものすごく観たいのだが、これも日本では公開されないのかなあ……ずっと待ってんだけどなあ……くそう。WOWOWで放送されないかなあ……。
 そしてDanielくんを救う医者のマッドサイエンティストであるフランケンシュタイン先生を演じているのが、今やX-MENのヤング・プロフェッサーXでお馴染みのJames McAvoy氏37歳。彼もイギリス(スコットランド)人ですな。彼は今回のような、狂気を目に宿した役が得意のような気がしますね。現在US公開中で結構ヒットしている新作の『SPLIT』の日本公開が待ち遠しいですな。なんでも23人の人格を持つ、多重人格サイコキラー(?)の役だそうで、わたしとしては観るぜリストに入っています。がしかし……監督が珍ムービーを量産することで有名なM Night Shyamalan監督だからな……うかつに期待するとイタイ目に合うから気を付けないとな……。
 あと3人、わたしが知っている役者が出ていたので、取り急ぎ備忘録として手短に紹介しておこう。フランケンシュタイン先生の父親で厳格な貴族のお爺ちゃんを演じたのが、わたしが密かに名作だと思っている『ALIEN3』で、リプリーと一瞬親密になるけど中盤であっさり退場(=エイリアンにブっ殺された)してしまった医師を演じた、Charles Dance氏だ。今はもう70歳だって。『ALIEN3』ももう25年前だから仕方ないか……。目つきが変わってなくて、一発でわかった。そして、フランケンシュタイン先生の怪しげな実験を執拗に調査する警官を演じたのが、TVシリーズ『SHERLOCK』でモリアーティを超にくったらしく演じたAndrew Scott氏。この人も、特徴ある顔なので一発でわかるすね。最後。この人は、わたしは顔は観たことあるけど誰だっけ……と調べないと分からなかったのだが、Danielくん演じる哀れなイゴールと恋におちる可憐な女子を演じたのがJessica Brown-Findlay嬢27歳。だいぶ前にこのBlogで取り上げた『Winter's Tale』のヒロインですな。大変お美しい方です。
 で、さっき、監督は誰なんだ、と調べたら、これまたこのBlogでかなり前に取り上げた『PUSH』を撮ったPaul McGuigan監督だった。あっ! この監督、TVの『SHERLOCK』も監督してるんだ。そうなんだ。へえ~。知らなかった。まあ、残念ながら『PUSH』同様、本作もわたしとしては微妙判定です。サーセン。

 というわけで、結論。
 ふとしたきっかけで観てみた『Victor Frankenstein』という映画は、役者陣はなかなか豪華だし、セットや衣装もきっちり金がかかっており、面白そうじゃん、と期待したのだが、どういうわけか全編に漂うB級感がぬぐい切れず、お話そのものもなかなかのトンデモストーリーで、判定としては微妙、と言わざるを得ない。おっと? 脚本を担当したのはMax Landis氏なんだ!? へえ~! 彼は、映画監督John Landis氏の息子で、わたしが激賞している『Chronicle』もこの人の脚本なのだが……残念ながら今回はイマイチでありました。以上。

↓ くそーーー……とっくに発売になってるじゃんか……観たい……買っちゃおうかしら……。

↓ おまけに予告も付けとこう。傑作の匂いがすげえするんですけど。

 このBlogを書き始めた時、一番最初の記事でも宣言しているが、わたしが世界で一番好きな作家は、ダントツでStephen King氏である。たまーーーに、「これは……どうだろう……」という作品もあるにはあるが、基本的に全作品大好きだし、King氏の作品が日本語訳されれば、もう文庫化まで待たずに発売日に即買う作家の一人である。
 しかし、King氏の作品は、もう最高に面白い小説なのに、残念ながら日本ではイマイチ売れていないのが現実であろう。とはいえ、イマイチ小説が売れていないここ日本においても、その名声は、もはや紹介の必要はあるまい。全世界的なベストセラー作家であり、数多くの作品が映画化されているので、映画ファンにもおなじみのはずだ。まあ、映画は結構な頻度で珍ムービー化されることも多いので、それもまたやや残念ではある。
 だが、もっと残念なのは、そのStephen King氏に、恐ろしく才能あふれた小説家の息子が存在し、その作品が超面白いという事がまるで世間に知られていないことである。
 その才能あふれる息子の名は、Joe Hill。ちなみに次男長男(姉と弟がいる第二子)である。
 既に日本でも彼の小説は4作品翻訳されているのだが、極めて残念というか腹立たしいことに、わたしの嫌いな出版社のTOPクラスである小学館から刊行されていて、まるで売る気のない営業活動によって、ほとんどの本屋さんに置かれていないのである。小学館文庫って、なんで全然見かけないんだろうな……ホント頭にくる。
 というわけで、Joe Hill氏は、最高級に素晴らしい作品を創作しているにもかかわらず、日本ではほぼ知られていないというのが現実で、4年前、とある作品が日本で発売になる!! という事を知って、喜び勇んで発売日に本屋さんに行っても、4軒目でやっと発見して購入したという残念な状況にある。その、わたしが発売日に4軒回ってようやく発見購入した小説が、これ。
ホーンズ 角 (小学館文庫)
ジョー ヒル
小学館
2012-04-06

 タイトルは、『HORNS』といい、めっぽう面白く、たいへん楽しませてもらった小説なのだが、なんとその『HORNS』が、Harry Potterでお馴染みのDaniel Radcliffe君主演で映画になる!! と知った時のわたしの歓喜は、今でも忘れがたく記憶している。なので、撮影スナップが公開されたり、US版予告が公開されたり、と徐々にわたしのテンションは上昇していったのだが、どういうわけかUS本国でも全然公開される気配がなく、あれ――!? と思っていたところ、やっと2014の10月にUS公開され、まったくヒットすることなく消え去り、当然こりゃあ日本で公開されることはなかろう、と深い絶望を味わい、もういっそ、US版のBlu-ray買っちまおうかしら……と悩むほどだったのだが、去年2015年の5月に、ごく小規模でひっそりと日本公開もされ、あまりに公開規模が小さくて、わたしが観に行く間もなくあっという間に終了していたのである。
 が、さすがオレの愛するWOWOW。先週、とうとうWOWOWでの放送があり、わたしとしては3年越しにようやく観ることができたわけであります。結論から言うと、原作からかなり違うけれど、映画としてはきっちりまとまっていて、むしろ原作より分かりやすく、Radcliffe君の熱演もあって実に面白かったのである。しっかし彼も、大人になったというか、順調におっさん化してますな。大変いいことだと思います。

 物語は、大体上記予告の通りである。愛する女性が殺され、あまつさえその犯人と町中から疑われることになった青年、イグ。やけになって酔っ払って、全然別の女と夜を共にしてしまい、罪悪感と自己嫌悪と二日酔いの頭痛に見舞われて目覚めると、額になにやら1対の「角(HORNS)」が生えてきている。ビビるイグは(原作だと小便をしていてふと鏡に映る角に気づき、あまりにびっくりして、足にぶっかけちゃう)、その女性にヤバい、どうしよう!? つか何なんだこれ!? と「角」を見せる。しかし、女性の反応は実に奇妙だった。「なにその角、超イイじゃん!! つか、あたし、このドーナツが超食いたいんだけど、食っていいかな!? もう全部食べちゃっていい!?」 なに言ってんだこの女? つか、この「角」を見てお前、何とも思わないのかよ!? とツッコミつつも、イグは、女に、「そんなに食いたきゃ食えばいいだろ!!」と言う。すると女は、「角」のことはどうでもいい、とばかりに、やったー!! と満面の笑みでドーナツをバクバク食べ始める。なんなんだコイツ……という思いで、イグはまず病院へ行く。するとそこでも、誰もが「角」を認識するのだが、それよりも、「自分が今思っている欲望」をぺらぺら喋り出すという謎現象が起こるのだ。待合室で隣に座っていた女性は「ああ、もう今すぐ離婚して、ゴルフのコーチとヤりまくりたいわ。いいかしら? あなた知ってる!? 黒人のナニは本当にデカイのよ、うふふ」なんて言い始めるし、受付のおばちゃんは待合室で騒ぎまくるガキの親に対して「そのくされガキをとっとと外へ連れ出しなさいよ、このあばずれが!! って怒鳴りつけてやっていいかしら?」と聞いてくる有様だ。さらに看護婦さんも「うちの旦那が浮気してるの。相手の車のシートに、ウンコしてやっていいかしら?」と真顔で聞いてくるし、医者も、「うおーー集中できない……うちの娘の友達のナンシーなんだがね、そのケツが超そそるケツしてるんだよ……」と言い出す始末である。わたしは原作を読んでいる時、この冒頭の、皆さんの欲望の吐露には大変笑わせてもらった。いや、笑うところじゃないんですけどね。わたしがStephrn Kingの作品で何より好きなのが、こういったDirty Word満載の会話部分で、そこんところはきっちり息子にも遺伝しており、わたしとしては大変喜ばしく思います。
 ちょっと面白いのが、イグの「角」の前では、どうやら誰もが「自分の後ろ暗い欲望」を話し出してしまうのだが、イグが、「いいんじゃない、どうぞどうぞ」と言うと、やったー!! とすぐにその欲望を実行し始めてしまうのに対し、イグが「いやあ、それはどうだろうな……」と言うと、そうだよね……ダメだよね……としょんぼりしてしまうわけで、このあたりの人々の心の中の思いが非常に面白いと感じた。これはほぼ原作通りです。ただ、この面白設定は、後半はあまり活かされてないような気がするけれど、とにかく、この「角」の謎能力によって、イグは周りの人々の「知りたくなかった」本音まで半ば強制的に知らされ、そして、後半は逆にこの謎能力を使って、愛する彼女を殺した犯人を捜す、とまあ、そんな物語である。
 なので、本作の見どころは、登場人物たちの「心の中だけで思っている秘密の欲望」を聞かされるイグの可哀想な運命と、果たして恋人は何故、誰に殺されたのかというミステリー部分の謎解きであろうと思う。わたしとしては、この映画は複雑な原作小説のエッセンスを上手に濾過して美しくまとめ上げてあり、非常に分かりやすくなっていると思った。やっぱり、映像で見るとダイレクトに分かるという利点が存分に発揮されていると思う。まあ、謎解き部分は意外とシンプルで単純ではあるけれど、それでいて結構グッとくる秘密が最後に明かされて、何気に感動も出来る良作だとわたしは感じた。この映画はわたしはかなり好きです。

 で、おそらくそういった、物語的な面白さに加えて、役者がかなり上手いのがこの映画のもう一つのポイントであろうと思う。ちょっと役者を紹介しておこう。
 まず、主役のイグを演じたのが、最初に書いた通りHarry PotterことDaniel Radcliffeくん26歳。お、7月生まれらしいから、来月27歳すね。いやあ、彼は今回とても良かったと思う。ただまあ、彼=Harryであるとして譲れない方には若干ショックかな。タバコ吸ってるし、飲んだくれてるし、なんか汚いし。でも、大変上等な芝居ぶりだったと思う。今日、2016/06/24からUS公開される『Swiss Army Man』という作品が超面白そうなんですよ。なんと演じるのは「死体」の役ですw 凄いよね。一応、US版予告貼っときますので、見ておいてほしいのだが、無人島に漂着した男が、同じく漂着した死体を「超便利なスイス・アーミーナイフ」のように様々なことに使うという、一体どう考えればそんな面白設定が浮かぶのか見当もつかない、凄い作品ですな。

 はーーー……すげえ。これ、笑っていいんだよな……? 日本公開が楽しみです。
 さて次に紹介したいのは、やはり殺された彼女・メリンを演じたJuno Templeちゃん27歳であろうと思う。彼女でわたしが一番覚えているのは、『The Dark Knight Rises』において、セリーナ(=キャットウーマン)の子分(?)と言うか仲間の女泥棒として出てきた時の演技なんだよな……なんか、とても幼く見えて色気もあるという独特の雰囲気をお持ちの可愛い女優だと思う。今回も、やたらと幼く見えてPureな、ある意味高貴?というか世間知らずのNobleなお嬢さん、という空気を醸し出していて、大変可愛らしかった。『Maleficent』においては、オーロラ姫を育てる3人の妖精のうちの一人(青い妖精)を演じてましたな。彼女は今度もチェックしておきたいと思うぐらい、今回は可愛らしかったと記録に残しておこう。
 そして彼女のお父さんを演じたのが、超ベテランのDavid Morse氏62歳。もうそこら中で観かけるベテランすね。なんかいつも、軍服を着ているような印象がありますが、この人、Stephen King原作の映画に3つ出てるみたいすね。一番有名でわたしもはっきり覚えているのは、やっぱり『The Green Mile』でしょうな。Tom Hanks氏演じる刑務所の所長の、頼れる心優しい相棒の看守さんでしたな。デカい人です。ちなみに残りの二つは『The Langoliers』と『Hearts in Atlantis』です。ともに、原作・映画両方面白いです。
 で、主人公イグの兄貴(ヤク中のミュージシャン)テリーを演じたのがJoe Anderson氏34歳。なかなかのイケメン(?)というか微妙フェイスだが、芝居ぶりはなんともインチキで情けない兄貴を好演していたと思う。この人は……どうやら闘うパパでお馴染みのLiam Neeson主演作『The GREY』に出てたようだが……記憶にないっすね……あれかな、やたらと文句ばかり言う強気な野郎かな? サーセン。覚えてないす。
 あと一人。主人公&兄貴と一緒に子供時代からの仲間のリーを演じたのがMax Minghella君30歳。なんか、どことなく東洋人っぽい貌ですが、お母さんが香港出身らしいすね。お父さんは有名な映画監督のAnthony Minghella氏だそうです。えーと、アカデミー作品賞を獲った『The English Patient』の監督っすね。へえ~。※2016/06/28追記:さっき知ったのですが、Anthony Minghella監督は2008年に亡くなってるんですね。そうなんだ……知らなかった……。
 で、これらキャストのいい芝居ももちろんなのだが、劇中で何度も出てくる、主人公と仲間たちの子ども時代をそれぞれ演じた子役たちがですね、これまたかなりイイのです。調べてみるとTV系の子役たちみたいですな。もう面倒だから名前はあげませんが、大変子役の芝居も良かったという事は記録として残しておくことにしたい。

 というわけで、もう長いので結論。
 わたしが世界で一番好きな小説家はダントツでStephen King氏である。そしてその次男、Joe Hill氏の才能は紛れもなく本物である。そしてさらに、Joe Hill氏原作の『HORNS』という映画は、原作を読んでなくても楽しめる、大変面白い作品である。と思う。たぶん。ちなみに、US国内の評価は、結構低いので、この映画を誉めているのはわたしだけかもしれません。ので、鵜呑みにしない方がいいかも……。以上。

↓ Joe Hill氏の新作はこれ。超読みたい……早く日本語で出てほしい……元部下のA嬢は、さっそくKindleで読み始めたそうで、実にうらやましい……英語に不自由しないって、ホントいいですなあ……。

 
 

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