このBlogを書き始めた一番最初の記事の冒頭で宣言した通り、わたしが世界で最も好きな小説家はStephen King大先生である。これはもう何度も書いてきたことだが、とにかく面白い。たまーに、微妙作もあるのは認めよう。だけど、やっぱりダントツナンバーワンでStephen King先生の作品が好きだ。
 まあ、日本の小説家の先生の中にも、King先生のファンを公言している作家はいっぱいいるし、ちょっとインターネッツなる銀河を彷徨えば、わたしよりはるかに凄い、重度のKing先生のファンの方もいっぱいおられるのは間違いないのだが、残念ながらKing先生の作品は、それほど日本で売れるわけではなく、新刊が出てもあっさり品切れ重版未定という名の絶版に追い込まれるわけで、とにかく見かけたら買うべし、が掟である。そんなファンの中で、おそらく人気TOP5に入るのではないかとわたしが根拠なく勝手に思っている作品、それが文春文庫から出ている『IT』である。
IT〈1〉 (文春文庫)
スティーヴン キング
文藝春秋
1994-12-01

 文春文庫版で全4巻にわたる長いお話だが、わたしも当然20年近く前に読んでいるし、その後10年ぐらい前に1回読み直したことがある作品だ。わたしとしては、長編で言うとこの『IT』よりも『THE STAND』の方が大好きなのだが、この『IT』は映像化も当然過去になされている(TVミニシリーズ)作品である。そもそも出版されたのもずっと前だし。
 だが、この度、どういう経緯か知らないが、今再びその『IT』が劇場映画となって帰ってきた。しかも、9月から公開されているUS国内はおろか全世界でも、おそらくは大方の予想を超える超ウルトラ大ヒットである。US国内ではすでに3億ドルを突破し、日本以外の全世界でも3億ドルを超え、合計6億7千万ドル(1$=114円として765億円)を既に超えて大ヒットとなった新・映画版『IT』。わたしとしては、早く日本で公開にならねえかな……と待つこと2か月。いよいよ今日から公開となったのでさっそく観てきたのだが、結論から言うと、わたしのオレ的2017年ナンバーワンかもしれないほどの出来の良さで、ウルトラ大ヒットも納得の仕上がりとなっていた。実に面白かった。そして実にハイクオリティであった。
 以下、ネタバレ全開になるはずなので、知りたくない人は読まないでください。

 まず、どうでもいいことからメモしておくと、日本公開タイトルは、何やらセンスのない邦題が付いているが、全く不要なので本Blogでは一切その邦題を記さないことにする。この映画は『IT』であり、日本語で言うなら「それ」、強いてタイトルとして表記するなら『イット』とカタカナで表記する以外になかろうと思う。つまらん邦題はゴミ箱行きでよかろう。
 そして、King先生による原作を読んだことがある人なら、絶対に思うのは、「あの長大な物語をいかにして2時間チョイに収めたのだろうか?」という疑問であろうと思う。わたしも実際、それが一番気になっていたし、どういう脚本になったのかについて最も興味を持っていた。
 この点について、もうのっけから書いてしまうが、King先生の『IT』という小説は、過去の少年時代編(1957~58年)と、大人になった現代編(1984~85年)、に分かれているのだが、今回の映画版は、完全に「大人編」を切り捨て、「子供時代編」のみに絞って描かれていた。しかも今回の少年時代編は1988~89年に改変されていた。これは大胆といえば大胆だが、かえってストレートに物語が進行し、結果的には大成功だったのではないかと思う。ちなみに、エンディングで「CHAPTER:1」と出るので、「大人編」を「CHAPTER:2」として今後製作するのかもしれない。何しろ本作は、製作予算3500万ドル(=約40億円)と、ハリウッド基準では低予算であるため、もはや黒字は確実で、同じ規模なら続編を3本ぐらい製作できるほど稼いだのだから。そして、時代を1988~89年に変更したのは、その27年後(※27年周期、が重要なのは後に書きます)がまさしく2015~2016年と現代にするためではないかと思う。要するに、大人編を作る気満々ってことと理解してもよいとわたしは確信している。
 さて。以下物語を追ってみよう。なお、今回はあえて、映画版のみを話題とし、原作小説とどう違っていたかは記さないものとする。なぜなら……ええ、正直に告白しよう。比較できるほど原作小説の細部を覚えてないからです。サーセン。
 物語の舞台は、King作品では超おなじみのメイン州にある町、デリーである。もうKing先生の作品では、同じくメイン州「キャッスルロック」と同じくらい舞台になっている町で、架空の町だ。デリーに住む少年、ビル・デンブロウ君13歳は、1988年の10月の雨の日、弟のジョージーを失う。ジョージーは、ビルの作ってあげた紙の船を雨の中流して遊んでいて、行方不明になってしまったのだ。それから数カ月、デリーの町では少年少女の失踪が相次ぎ、ジョージーの死を受け入れられないビルは、仲間の「負け犬クラブ」のさえない少年たちと、デリーの町の地下を流れる下水道に調査に向かうのだが、そこには恐るべき「それ」が棲んでいて……てなお話である。
 とにかくこの作品の面白さは、やっぱり「負け犬クラブ」のダメ少年たちと、紅一点の勇気ある少女べバリーのキャラにあると言っても良いだろうと思う。そして、超おっかないピエロの格好をした謎の「それ」、ペニーワイズの恐怖がヤバいのだ。わたしは今回の映画で、ペニーワイスのビジュアル的な怖さも凄いと思ったし、やっぱり少年少女たちキャストの熱演がとても素晴らしかったと思う。また、演出も、闇と光、それからカメラアングルあたりは、ホラーとして古典的かもしれないけど、非常にハイクオリティだったと称賛したいと思う。また、いままで脳内で描いていたデリーの町を実際の映像で見せられるとこうなるんだ、というのも非常に興味深かったし、ジョージーの原作での忘れられないセリフ「お兄ちゃん、プカプカ浮かぼうよ……」も、実際の映像で「浮かんで」いる様が観られてわたしは大興奮であった。
 というわけで、以下、キャラ紹介とキャストについてまとめておこうと思う。
 ◆ビル・デンブロウ:演じたのはJaeden Lieberher君。2003年生まれらしいから14歳かな。ビルは、吃音のある少年で、ひょろっとして色白な、若干虚弱少年だが、愛する弟が死んだのは(行方不明になったのは)自分のせいだと心を痛めている。勇気は十分で、なんとなく学校の「負け犬クラブ(Losers Club)」のリーダー的存在。彼は大人になってホラー作家として成功する(くどいけど今回の映画は子供時代のみ)。
 ◆べバリー:演じたのはSophia Lillisちゃん15歳。2002年生まれだそうです。目鼻立ちの整った美人に成長する可能性大ですな。べバリーは、学校のイケてる派の女子たちからいじめられていて、おまけに、お父さんがクソ野郎(原作小説でもそうだったか思い出せない……)という気の毒な境遇にあるが、彼女もまた度胸の座った勇気ある少女。とあるきっかけで負け犬クラブの仲間に。クラブの紅一点で、実はビルもべバリーも、お互いが大好き。べバリーは大人になってからファッションデザイナーとして大成する。なお、ビルとべバリーは、なんとKing大先生の『11/22/63』にちらっとゲスト出演している。まさかまたビルとべバリーに会えるとは思ってもいなかったので、『11/22/63』を読んだときは大興奮しましたな。※追記:間違えた!さっきチラッと『11/22/63』をパラパラ流し読みしたところ、ビルじゃなくてリッチーとべバリーが出てくるのが正解でした。サーセン。間違ってました。
 ◆リッチー:演じたのはFinn Wolfhard君。リッチーはメガネのおしゃべり少年でずっとDirty Word連発で下ネタギャグをかます突っ込み役。ビルと一番仲がいいんじゃなかったかしら。大人になってからはLA住まいのDJとして暮らす。
 ◆エディ:演じたのはJack Dylan Grazer君。この子はイケメンにの成長するんじゃないかなあ。エディは喘息もちで超過保護?なお母さんの元、常に薬を持ち歩いている少年だが、結構毒舌で喧嘩っ早くて活発とも言えそう。病弱には見えない。薬やバイ菌に詳しくみんなの傷の手当担当。後半、自分も腕を骨折し、そのギプスに、薬局のブス女にLOSERと書かれてしまい、SをVに自分で書き直す(LOVER)涙ぐましい努力をする。大人になった彼はたしかNYCでリムジン会社を経営してるのではなかったかな。
 ◆スタンリー:演じたのはWyatt Oleff君。彼はなんと『Guardians of the Galaxy』の冒頭の少年時代のピーター・クィルを演じた子ですって。全然気が付かなかった。で、スタンリーはユダヤ教のラビの息子。結構おどおど君だが仲間の中では明るく元気。負け犬クラブ内ではいつも慎重派。大人になったスタンは裕福な会計士だったかな。
 ◆ベン:演じたのはJeremy Ray Taylor君。ベンは、太っちょの転校生で友達がいなくて、いじめられているところを負け犬クラブのみんなに助けてもらって仲間入り。図書館に入り浸っていて、べバリーに恋心を抱いていた。詩を送っちゃうような内気な少年。大人になったベンはすっかりスリムに変身、建築家として成功している。なお、ベンが図書館でデリーの歴史を調べているときに、どうやら「27年周期」でデリーでは大量に人が死ぬ事件が起きたり失踪事件が相次いでいたらしいことを発見する。
 ◆マイク:演じたのはChosen Jacob君。マイクは原作で黒人少年という設定だったか覚えていないけど、羊を飼育する農家の少年で、大人になってからも唯一、デリーで暮らしている。彼もまたいじめられているところを、負け犬クラブのみんなに助けてもらい一番最後に仲間入り。大人編は、デリーにいまだ住んでいる彼からの電話で物語は始まる。
 こうしてみると、大人編もぜひ映画化してほしいものですなあ! 現代に置き換わるはずだから、メールとかFACEBOOKとかで連絡とるような描写に変わるんだろうな……。
 そして、少年編で本作は終わってしまったので、実際のところ、真のエンディングには達していない。重要な「亀」がチラッと出てきたのは、原作小説を知らない人には全く印象に残らなかっただろうと思うし、「それ」の真の姿も出てきていないというべきだろう。
 だが、それでも本作はとても面白かった。むしろ、大人編は結構トンデモ系なお話になってしまうような気もするので、純粋にホラーとしては少年時代編のみに絞ったのはとても良かったようにも思う。少年時代という事で、本作は同じKing先生の『Stand by me』的な空気感というプロモーションを見かけたような気がするけれど、お話の構造としては、大人編と少年時代編が分かれている『DREAM CATCHER』の方が近いと思う。そしてその『DREAM CATCHER』も映画化されたけれど、かなりキツイ、トンデモ珍ムービーになってしまったのは、ひょっとしたら大人編・子供時代編を一気に描いたからなのではなかろうか……まあ、『DREAM CATCHER』は明確に分けられないだろうから仕方ないけどね……。
 で、最後に、本作を撮った監督をメモしておこう。
 本作を撮ったのが、Andrés Muschietti氏というアルゼンチンの方だ。キャリアとしては、まだ本作が長編2作目だそうで、1作目は『MAMA』というホラーだそうだ。待てよ……この映画、わたしWOWOWで観たかもしれないな……Jessica Chastin嬢が主役だったらしいから、観てるかも。

 これか……いや、これは観てないなあ……怖そう……。ま、とにかく、『IT』における演出技法としては実に正統派というか古典的で、実にしっかりとられた作品だと思う。ペニーワイスの怖さはもう、ホントヤバいすよ。映像が実にクリアというか、ピントがきっちり合っているというか……非常に見やすく、光と闇のコントラストがはっきりしている印象を受けた。たぶんこのことは、King先生の作品においては重要なことで、光の先、日常のちょっと隣に怪異が棲まうという空気感を醸成するのに貢献していたように感じた。この監督が撮る、ホラー作品以外も観てみたいと思います。
 あ、なんだ、もうすでにIMDbに、『CHAPTER:2』がアナウンスされてますね。2019年公開か……これは楽しみだ!

 というわけで、まとまらないので結論。
 わたしが世界で最も好きな小説家はStephen King先生である! このことはもうこのBlogで何度も書いてきた。そんなわたしが、映画『IT』を楽しみにしていないわけがない。そして実際に観てきて、わたしの期待は十分かなえられたと断言できる。大変面白かったし、実にクオリティの高い作品であった。長大な原作を、「少年時代編」のみに集中した選択も実に効果的だったと思う。もしこの映画を観て、負け犬クラブの彼らに「その後」があることを知らない方は、今すぐ原作小説を読んでほしい。つーかわたしも読みたくなってきたのだが、本棚にどういうわけか3巻だけないんだよな……誰かに貸しっぱなしなんだろうな……くそう! あ、ちゃんと電子書籍版が出てるじゃないか! いつの間に……この映画に合わせて10月に電子版を出してたのか……これはさっそく買うしかないすね。以上。

↓ というわけで、電子書籍版が出てました。
IT(1) (文春文庫)
スティーヴン・キング
文藝春秋
2017-10-03

IT(2) (文春文庫)
スティーヴン・キング
文藝春秋
2017-10-03

IT(3) (文春文庫)
スティーヴン・キング
文藝春秋
2017-10-03

IT(4) (文春文庫)
スティーヴン・キング
文藝春秋
2017-10-03