POV(=Point of View Shot=主観ショット)映画と言えば、世の中的には『The Blair Witch Project』をその筆頭として挙げる人が多いと思うが(根拠なし。たぶん)、わたしの趣味としては圧倒的に『Cloverfield』の方が好きである。あの映画を最初に劇場で観たときは、コイツは凄い映画だ、と大興奮であった。わざわざセントラルパークへ行って、ラストの橋を探してみたりしたほど、あの映画はわたし好みである。
 あの映画が公開されたのが2008年。だからもう8年も前になるわけだが、昨日の金曜日から公開された『10 Cloverfield Lane』という映画は、そのタイトルからして当然関連が予想され、わたしも確か今年に入ってから(去年末だったかも)、突如としてその映画の存在が明らかになったときから 、こりゃあ観ないとダメでしょ、と決め付け、さっそく今日、土曜の朝8:50の回を観てきたわけである。が、結論から言うと、これは劇場で観る必要はなかった。WOWOWで放送されるのを待ってりゃ十分だったな、というわけで、ミスタードーナツでドーナツを買ってさっさと帰ってきた次第である。ズバリ、イマイチであった。

 上記予告は、一番初めに公開されたもので、もう観てきた今から思うと、時系列もめちゃめちゃで、実にそれっぽいシーンを繋げただけものだということが分かる。まあ、だからこそわたしも観に行きたくなったわけだが、残念ながらわたしの期待を大きく下回ったのは、大変残念だ。
 この予告で示されるとおり、この映画は基本的にはこの3人、女性、デブ、ヒゲ青年しかでてこない。正確に言うと、なにやら逃げてくる女性とかも出てくるけれど、物語的にはこの3人だけと言っていいだろう。あ、あと、エンドクレジットを観ていて、えっ!? マジで!? と驚いたのは、冒頭、女性が車を運転しながら電話を受けるシーンがあるのだが、その元彼氏の声は、Bradley Cooper氏だったようだ。これは全然確認できないので、同姓同名の別人かもしれないし、わたしの空目かもしれない。少なくとも映画を観ている最中ではまったく気が付かなかった。あ、ちゃんとIMDbにはクレジットされてるから間違いないみたいだな。
 さてと。物語をごく簡単にまとめると、主人公の女性が、彼氏と別れて荷物をまとめて車に積み、どこかへ向かうところから物語は始まる。どうも最初の家はNYCっぽいが、ともかくかなり田舎のほうにあっという間にカメラは移る。ズバリ言うと、わたしが傑作だと思っている『Cloverfield』と違い、POVではない。で、運転している彼女は、夜、とある田舎道で事故を起こす。で、気が付くと、なにやらよくわからない地下室にいて、最初は拘束されているけれど、その地下室の主らしいデブに出会う。あっさり拘束は解かれるものの、外は「攻撃」を受け、大気は「汚染」されているため、外に出ちゃあダメだという衝撃の事実を聞かされる。もちろんそんなことは信じられない主人公。しかしその地下室には、もう一人、左腕を怪我したヒゲの青年もいて、彼の話によると、それは事実であり、ここに無理やりつれてこられて監禁されて腕を怪我したのではなく、「ここに避難させてもらおうと押し入るときに怪我をした」のだと言う。
 そして、デブの話によると、「攻撃」してきたのは何者か分からない。ロシアなんだか火星人なんだか不明であると。そして、そのデブやヒゲ青年の話を裏付けるような出来事も起こり、かくして、3人の奇妙な生活が始まるのだった――てなお話である。
 
 なので、話のポイントは、この避難生活がいつまで続くのか、脱出できるのか、敵は何者なのか、という点になるわけだが、これらのポイントはほぼ何も解答が得られず、正直なところ、残念ながらわたしには、主人公の女性もデブもまったく共感できなくて、ヒゲ青年はとてもいい奴だったけれど、観ていてずっとイライラしっぱなしであった。
 まず、デブ、であるが、実に気持ちが悪い不気味な男で、実際どうやらクソ悪党だったようだが(ただし、確実な解答は描かれないので、この脚本では女性の思い込みという線も捨てきれないような気がする)、まあ、実際のところ結果的には観客が肩入れしたくなるようなところはほぼない。後半、ひげをそってすっきり顔で迫ってくるのは、女性からしたらもう、生理的にアウトだろうと思う。
 そして主人公の女性であるが、なかなか機転の利く頭の回転の良さは見られるが、何というか、その頭のよさ故に、なんだろうけれど、人間的に好きになれない。話を聞かないし、やめろと言ってるのにやるし、これも結果的に、ではあるが、実に自己中心的で先を見通す思慮深さは皆無である。わたしはこういう女子が一番嫌いだ。なので、わたしとしてはこの主人公も、『Cloverfield』のラストのように、悲劇的なBAD-ENDで終わるのかな、と思ったら、実に、極めて、安っぽい、希望を思わせる中途半端なエンディングで、わたしはもう即、席を立とうと思ったぐらいだ。まあ、ひょっとしたらラストに何らかのおまけ映像でもあるのか、と、グッとこらえてエンドクレジットを眺めることにしたので、Bradley Cooperの名前を見つけることが出来て、そこだけは収穫であったけれど、わたしがほんの少しだけ期待したおまけ映像なんてものはなく、最後まで観る意味はほぼなかったといえる。
 何よりわたしが参ったのが、その地下室での生活ぶりが実に陳腐で退屈なのだ。実際、キャラクターたちもそりゃあやることがないわけで、退屈であろうと思う。思うけれど、デブの本性をじわじわと見せるような脚本よりも、もっときちんと、攻撃してきた謎の存在に迫る方向の物語をわたしは観たかった。だって、デブの話なんてこれっぽっちも興味ないし、それじゃあ、タイトルに『Cloverfield』を入れた意味、まったくないじゃんか。
 そう、この映画、タイトルこそ『Cloverfield』が入っているけど、2008年公開のわたしの好きな映画『Cloverfield』とは、ほぼ関係ない。いや、もうこれは「ほぼ」じゃ済まされないな。100%関係がないとわたしは断言してもいいと思う。ラストで現れる謎クリーチャーが、『Cloverfield』で出てきた怪物と共通していると言いたいのかもしれないけれど、造形はまったく違う。おまけに、『Cloverfield』に出てきた怪物は、突如Manhattanに上陸して無秩序にNYCを破壊したけれど、今回はどうも統率された群れであり、どうも何らかの意志があるようで、性格も全然違う。これじゃあ、まったく別モンだろうに。マジ勘弁して欲しいと思った。
 ちなみに、一応製作にはJJ Abraham氏の名前が入っているけれど、どうなんだよJJ……あんた、本当にこの映画のタイトルに『Cloverfield』を含ませてよかったと思ってるのか……?

 というわけで、わたしは大変憤っている。
 とにかく、脚本が悪い。普通の作劇的な点で言えば、実にしっかりまとまっていて、レベルは高いことを認めるのにやぶさかではないが、わたしが気に入らないのは、何故この物語に『Cloverfield』というタイトルを含ませたのか、という点だ。誰だって期待するよね。あのManhattanを破壊したアイツがまた出てくるのかと。
 なので、わたしが脚本家であったなら、主人公の女子は、あの事件から逃げてきたという設定にしたと思う。そしてデブも、変態殺人鬼にせず、軍事教練を受けた屈強な青年にチェンジだ。そしてヒゲ青年は、そうだなあ、10歳から14歳ぐらいまでの少女にしたと思う。そして謎生命体の秘密を探る的な展開にしたと思う。要するに『ALIENS』のヒックス・リプリー・ニュートのフォーメーションが良かったのではなかろうか?
 ま、それも言うだけ詐欺だし、こうしてあらめて文字にしてみると、それもありがち過ぎて面白くねえかもな、と自分でも思ったので、もうこれ以上は言わないけれど、まあとにかく、ガッカリな作品であった。
 最後に、役者について短く書いて備忘録としておこう。
 まず主役の女子を演じたのが、Mary Elizabeth Winstead嬢だ。結構いろいろな作品に出ている方だが、わたしがこの人で覚えているのは、『DIE HARD 4.0』で、マクレーン刑事の娘として出てきて大活躍したことと、2011年版の『The Thing』(邦題:遊星からの物体X:ファーストコンタクト)での主演ぐらいしかない。正直に結論だけいうと、わたしの好みではありません。以上。ちなみに、彼女は、この映画のタイトルが『Cloverfield』になることは、撮影中は全然知らなかったとどこかのインタビューで語ってました。あと、そういやこの人、昨日ここで書いたTONY賞の授賞式にプレゼンターで出てましたっけね。
 そしてデブおやじを演じたのが、ベテランのJohn Goodman氏で、この人もいろいろな作品に出ているからな……うーん、特に書くことがないっす。そして最後、かわいそうなヒゲ青年を演じたのがJohn Gallagher Jr.氏。わたしはこの人を全然知らないのだが、今、Wikiを観てちょっと驚いた。この人、2007年にTONY賞を獲ってるんすね。作品は『Spring Awekening』。今年のTONYではリバイバル・ミュージカル作品賞にノミネートされた『春の目覚め』の初演キャストなんだ。へえ~。
 なお、監督はまったく知らないド新人のDan Tractenbergという方でした。正直、腕前としてはごく標準。とにかく今回は脚本がイケてないので、ちょっと気の毒かも。今後、素晴らしい作品を獲ってくれることを期待したい。

 というわけで、結論。
 わたしは2008年の『Cloverfield』が大好きだから勇んで観に行ったわけだが、まあ、これはWOWOWで十分だったかな。もし続編的な期待をしている方がいれば、それは残念ながらまったく叶わない期待だと申し上げておきたいと思う。もっともっと面白い物語が考えられただろうに……実に残念です。以上。

↓ 本家は非常にイイ。観てない人はぜひ。
クローバーフィールド/HAKAISHA スペシャル・コレクターズ・エディション [Blu-ray]
リジー・キャプラン
パラマウント ホーム エンタテインメント ジャパン
2013-07-19