先週、劇場へ『CRIMSON PEAK』を観に行って、このBlogにも記事を書いたのだが、書き終わって、あれっ!? そういえば、主演の二人、Tom Hiddleston氏とMia Wasicowskaちゃんが一緒に出てる映画があったな、と思い出した。確かヴァンパイアものだったような、うーん、観たような、いや、WOWOWで録って、観たけど最初の30分ぐらいで寝ちゃって、それっきりかも、という事が判明したので、この期にもう一度最初から最後まできちんと観てみることにした。 それが日本では2013年12月に公開された『ONLY LOVERS LEFT ALIVE』という作品である。HDDを漁ってみたら、こんなこともあろうかと、ちゃんとまだ残してあった。さすが、抜かりない男としておなじみのわたしである。と、お約束の自画自賛をかましておこう。

 監督は、Jim Jarmusch。80年代後半から90年代に非常に活躍した男で、もちろん21世紀の今も現役監督して作品を発表しているのだが、ご存知の方も多いように、基本的にこの男の撮る作品は極めてシャレオツなイキフンが随所に漂っており、わたしは彼のすべての映画を見ているわけではないけれど、あまり好きな監督ではない。もちろん、その空気感は好きな人にはたまらん類のものであろうし、わたしも例えば『Night on Earth』(邦題:ナイト・オン・ザ・プラネット)という作品などは結構好きである。当時まだ若かったWinona Ryderちゃんが非常に可愛かったのを思い出す。
 しかし、やっぱり本作『ONLY LOVERS LEFT ALIVE』も、シャレオツ臭が全編から漂う「雰囲気満喫」ムービーであった。この映画、上映時間は122分だが、おそらくわたしなら、100分ほどに凝縮・編集できると思う。なにしろ、それっぽい無用なシーンが多く、雰囲気は抜群だけど、もうちょっと早く物語を進めてくんねーかなー、と思うことしきりである。ただ、繰り返すが、それが悪いというわけでは決してない。本作も、非常に質感高く、役者の演技も上等でなかなか面白かった。
 物語は、どうやら数百年、正確には良くわからないがひょっとしたら1000年以上、生き続けている吸血鬼、ヴァンパイアのお話である。本作に登場する吸血鬼は4人いて、主人公、その妻、二人が信頼するおじいちゃん吸血鬼、それから、妻の妹の若い吸血鬼(数百歳以上なので、あくまで若く「見える」だけ)、の4人である。
 主人公は、デトロイト在住で、音楽を愛し、21世紀の今では人を襲って血を吸う事のリスクを十分承知していて、悪徳医者から血を買って飲んで生活している。その生活スタイルは、とてもひっそりしていて、昼は寝ていて夜活動するわけだけれど、プロとして楽曲制作を自宅で一人でやっているのだが、秘密保持契約を結んだ若い代理人(この人は純粋な人間。主人公が吸血鬼であることは知らない)が、いろいろ代わりにやってくれている状況。ただ、その孤独な生活は、どうやら主人公の精神を苦しめ、実は密かに主人公はもう死にたがっているんじゃないかという事がほのめかされる。
 妻は、タンジールに住んでいて、近くには信頼するおじいちゃん吸血鬼が住んでいて、血はそのおじいちゃんが調達してくるものを分けてもらっている。もちろん、彼女も人を襲うリスクは避けていて、実際のところ、彼女も主人公も、現状では人類にとってほぼ無害と言っていいだろう。そしておじいちゃん吸血鬼は、小説を書いているらしいという事がチラッと描かれる。
 面白いのは、人類史上における偉大な音楽や文学作品は、実は彼らが創造したもので、それを人間に教えて発表させたという設定だ。シェイクスピアやシューベルトの作品は、この主人公やおじいちゃん吸血鬼が生み出したものなんだそうだ。へえ、そりゃ面白いとわたしは思った。それから、もう一つ設定として、ちょっとだけ重要(だけど具体的な説明はほとんどない)なのは、どうも吸血鬼が飲用する「血」は、現代の人間は穢れていて、飲むとマズイらしい。場合によっては、そんな穢れた血を飲むと、体調が悪くなってしまうらしい。一番美味いのはRHマイナスのO型だそうで、その血を調達するのが年々難しくなっているらしいことも描かれる。また、どうやら吸血鬼は、モノに触れるとその来歴などが分かるようで、一種のサイコメトラー的な力も持っているらしいことも描かれる。なので、基本的に外出時は常に手袋を着用している。
 ただ、ちょっと観ていて良く分からなかったのは、この主人公と妻がどうして遠く離れた地に住んでいるのか、ということだ。なんとなくほのめかされるが、どうもピンとこなかった。いずれにせよこの二人は愛し合っていて、日夜iPhoneのFaceTimeで顔を見ながら通話していると。で、主人公がやけに元気がないので、妻がデトロイトにやってくると。で、二人でひっそりとした生活を送ろうとするのだが、そこに、妻の妹がやって来る。問題はこの妹である。極めて天真爛漫なゆとりガールで、もちろん主人公はそんな妹の性格を知っているし、どうやら89年前(?)にもひどい目に遭ったらしく、大嫌いで顔も観たくないと思っていると。妹は、「えー、89年前のこと、まーだ怒ってるの!? 何それウケる―www」と、まったく反省していないとんでもないゆとり吸血鬼である。この構造は、なんだか昭和の男と平成GALの会話のようで、わたしは大いに面白かったし、ゆとりガールに対して大いに腹が立った。そして物語は、主人公がせっかく築き上げた落ち着いた生活を、このお騒がせゆとりガールにぶっ壊されてしまい……というものである。
 
 で。役者陣である。
 まず主人公吸血鬼を演じたのが、『CRIMSON PEAK』の記事でも散々書いた、マイティ・ソーの出来の悪い弟ロキでおなじみのTom Hiddleston氏。今回は、そのたたずまいや表情が非常に吸血鬼っぽくてとても良かった。今回はだめんずではないので、安心してください。
 妻を演じたのは、Tilda Swinton様。現在御年55歳。この人は人外の存在というオーラがとても強い、非常に独特の雰囲気のある方ですね。今回もとても良かった。 たぶん、わたしがこの人を初めて知ったのは、『Constatine』において天使ガブリエルを演じたときだと思う。人じゃないという凄い存在感は、この人ならではのものでありましょう。『The Chronicles of Narnia』の「白い魔女」が一番有名かな。高貴なオーラというか、人外の存在を演じさせたら、この人に勝る役者はそうそういないと思います。
 そしておじいちゃん吸血鬼を演じたのは、Jim Jarmusch作品の常連Sir John Hurt氏。御年75歳。わたしにとってこの人は、『The Elephant Man』のジョン・メリックであり、かの『ALIEN』で一番最初にフェイス・ハガーに寄生されて、チェスト・バスターが胸から飛び出して殉職するケイン役でおなじみだが、もうあれから35年近く経ち、すっかりいい感じのおじいちゃん役が多いですな。イギリスが誇る名優で、去年、ナイトの称号を授かったそうですが、現在がん闘病中だそうです。
 で、問題の天真爛漫ガールを演じたのが、『CRIMSON PEAK』でもヒロインを演じたMia Wasikowskaちゃん。平成生まれの現在26歳。彼女は何気にかなり多くの役をこの5年間に演じているが、一体、本来の彼女の性格はどうなんでしょうな。一度話をしてみたいものである。その機会は永遠に訪れないと思うけど。
 あと、調べてみて今驚いたのだが、主人公の若い代理人を演じたのは、Anton Yelchinじゃないか!! ええと、この人はですね、JJ版の『STARTREK』で、エンタープライズ号の操縦士チェコフを演じてる若者です。それから、『Terminator4』ではカイル・リース役も演ってましたな。あー全然気が付かなった。抜かったわ……。

 というわけで、結論。
 『ONLY LOVERS LEFT ALIVE』という映画は、Jim Jarmusch節の炸裂したシャレオツ映画ではあるけれど、今回はかなり面白いです。この映画も、Tom Hiddleston氏を愛してやまない淑女の皆様におすすめできるし、そうでない普通の映画好きの方にもオススメできると思います。ぜひ、レンタルや配信でご覧ください。以上。
 
↓ この映画、観てないんだよな……早くWOWOWで放送してくれないかなあ……。Mia Wasikowskaちゃん主演のオーストラリア大陸横断(?)ロードムービー。観たい……!!
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