年末にWOWOWで録画した映画を整理していて、あ、こんなの録ったっけ、と観た映画が結構あるのだが、その中のひとつが、この映画であります。原題は『Children of Men』、人類の子供たち、と訳せばいいのだろうか?日本での公開タイトルは『トゥモロー・ワールド』である。

 2006年の公開なので、もう9年前と古い映画だからなのか、日本語字幕入りの予告が見当たらなかった。監督は、この映画の7年後に、『GRAVITY』で世界を驚かすことになるAlfonso Cuaron。この監督は、『Harry Potter』シリーズの第3作『Prisoner of Azkaban』でも見せたように、ステディカムの名手(?)と言っていいと思うのだが、とにかく、これは一体どうやって撮ったんだ? というような映像を見せる男である。とにかく、CGを絶妙に使って長回しに見せる特殊な技能を得意としている。
 『GRAVITY』を観た人なら覚えているだろう。異常にワンカットが長い。正確に言うと、長く見える、のだが、とにかくカメラが止まらない長回し(に見える)ショットを使うのだ。『GRAVITY』でも、冒頭の5分ぐらいは一切カメラが止まらないし、エンディングで地球に帰還したライアン博士が着水して、必死に水面に上がって、立ち上がるまで、の一切もカメラが止まらない、ように見せている。凄い演出技術である。わたしは、やたらと短いカットを繋いだり、手持ちカメラで撮影したブレブレの画を繋げて臨場感を出していると勘違いしている監督が大嫌いなのだが、このCuaronという男は違う。きっちりとステディカムで役者を捕らえながら、ブレなく動き回る画を明確に捕らえる。こいつは本物だ、とわたしは以前から思っていた。

 本作『Children of Men』でも、そういう超長回し、に見える画がいくつか入っている。実は、わたしはそれらのシーンを本当の長回しで撮ったのだと勘違いしていたが、Wikiによれば、シーンを繋げるCG処理などで、うまーーく長回しに見せているのだそうだ。全然気が付かなかった。超自然。これは本当にすげえと仰天した。
 この映画を観てから、ぜひWikipediaの解説を読んでみて欲しい。Julianne Moore扮する反政府組織のリーダーが襲撃されるシーンと、最後の方の壮絶な戦闘シーン、この二つは本当に圧巻ですよ。わたしは観ていて、本気で長回しワンカットだと思ったので、一体全体これはどうやって撮ったんだ!? ともう大興奮したほどだ。いはやは驚いた。この映画は、そういう映像技術の面でわたしの度肝を抜いたわけで、正直、物語的にはイマイチだけど、観終わって本当に大満足であった。劇場に観に行かなかったことが悔やまれる。

 で。物語はというと、原因はさっぱり不明だけど、全人類が生殖能力を失ってしまい、子をなすことがなくなって久しい世界が舞台。たしか、西暦2027年。で、全人類で最も若い18歳の男が死亡するところから物語が始まる。世界は滅びへ向かいつつあり、イギリスだけがまだ政府機能が生きていて、厳格な鎖国政策によって国境を封鎖している状況の中、主人公は政府組織に属する公務員だが、ある日、元妻の反政府組織のリーダーに、国内移動許可証を入手することを頼まれる。まったく気が進まないながらも、やむなく協力する主人公は、元妻と行動を共にする黒人女性が「妊娠している」ことを知り、驚愕する。その女性を、「ヒューマン・プロジェクト」という船に引き渡すというのだが、その過程にはいくつもの難関が待っていて――というお話である。

 主人公を演じたのは、Clive Owen。はっきり言ってイケてないし、結構な作品に出演しているものの、特に印象に残らないイギリス男である。なんかこの人は、いつも頭から血を流しているような印象がわたしにはあるが、まあ、なんとなくいつもピンチに陥っている困った顔の男だ。ま、どうでもいい。
 元妻を演じたのは、前述の通りJulianne Moore。わたしはこの女優もそんなに好きではない。別に嫌いではないし、彼女にはまったく罪はないのだが、『Hannibal』で主人公クラリス・スターリング役を前作『The Silence of the Lambs』でアカデミー主演女優賞を獲ったJodie Fosterから引き継いだ時の演技が、わたしとしてはまったくクラリスにふさわしくない、と思ってしまって以来、どうも偽クラリスとしか思えなくなってしまった。ホントごめんなさい。
 役者的に一番印象的なのが、なんと凄いロンゲで登場するMichael Caineであろう。『The Dark Knight』などでみせるようなイギリス紳士的なイメージがお馴染みだが、一瞬、誰? と思うほどの容貌で驚いた。渋いいい役で出ています。それから、『12Years a Slave』で主役を張ったChiwtel Ejiofor君が、反政府組織のナンバーツーで出てきますな。あと、その部下に、『Pacific Rim』で主役のパイロットを演じたCharlie Hunnam君がこれまたロンゲで誰だか分からないような顔で出てきますので、ちょっとだけチェックしてやってください。凄い好戦的なイヤな野郎のあいつです。

 しかし、この映画が示す2027年の世界は非常に恐ろしい世界だと思う。子供が生まれないと言うことは、確実に世界はあと100年も持たないと言うわけだ。そういえば先月だったかに、中国が「一人っ子政策」をやめる、というニュースが報道されていたと思うが、まあ今更でしょうな。人口が減少して、生産人口の割合が減れば、確実に国力は低下する。もちろん現代日本が抱える、おそらくは最大の社会的問題であろう。ま、中国の一人っ子政策も、実際のところ有名無実で、金で何とでもなると聞いたこともあるし、地方ではとっくに無視されているとも聞いたことがある。まあ、あの国がどうなろうとどうでもいいが、この映画で示された未来で、一番ありそうだとわたしが思ったのが、国家が自殺を認めていることだ。しかも安楽死できる薬剤を頒布しているらしい。これって……あと何10年かすれば、日本でも認められるのではなかろうか。死ぬ権利を国家が認める事態。それは介護や老後破産など、もはや絶望しか見えないこの国では、本当に起こりうる事態なのではなかろうか、と、結構わたしは本気で思います。まあ、そうなったら人類絶滅のカウントダウンですかね。

 というわけで、結論。
 『Children of Men』という映画における、監督Alfonso Cuaron氏の卓越した技術と、物語の背景となる世界観は、一見の価値アリだと思います。もの凄い技術だと思う。『GRAVITY』でアカデミー監督賞を受賞して以後、さらにどんな作品を獲るのか、楽しみに待っていようと思います。以上。

↓まさか観てない人はいないですよね? 超名作。凄い。ぜひとも3Dで観ていただきたい。そして、この映画の邦題を「ゼロ・グラビティ」とした配給社はセンスゼロと言わざるを得まい。この映画のタイトルは、あくまで『グラヴィティ=重力』です。
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2014-04-23