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 はーーー……面白かった……。
 なんのことかって? それは、わたしの年に1度(?)のお楽しみである、『暗殺者グレイマン』シリーズの新刊が発売になったので、わーい!とさっそく買って読み、味わった読後感であります。わたしの愛する早川書房様は、とうとう紙の文庫本と同時発売で電子書籍版をリリースしてくれたので(これまでは1週間後ぐらいだった)、大変ありがたいすね。
 というわけで、わたしが待ちに待っていた新刊の日本語でのタイトルは、『暗殺者の追跡』。英語タイトルは『MISSION CRITICAL』という、Mark Greaney先生による「暗殺者グレイマン」シリーズ第8作目であります。いやあ、結論から言うと今回も最高でした。つうかですね、先日書いた通り、わたしはもう、最初の人物表を見た時点で大興奮ですよ! なんとあの、ゾーヤが! ゾーヤの名前が人物表にあるじゃあないですか!! 本作シリーズは、その主人公ジェントリーの、人殺しのくせに妙に良心のあるキャラ設定が大変面白いわけですが、まあ基本的に悪党は即ぶっ殺せの恐ろしい男である一方で、女子に対しては全くの朴念仁かつ純情ボーイぶりがおかしいという面もあるわけです。その朴念仁ジェントリーが、2作前の物語で出会い、お互い惚れちゃった超ハイスペック女子がいて、けど、俺と一緒にいると危険だぜ、男は黙ってクールに去るぜ、みたいな態度で別れたものの、1作前ではもうずっと、その女子のことをクヨクヨと思い悩み、これじゃあイカン、ちゃんとしろ、オレ! と涙ぐましい決断(?)のもとに、超危険なシリアに潜入するヤバいミッションに取り組んできたわけですが……そのウルトラ美女、ゾーヤが待望の再登場!! となれば、もうファンとしては大興奮間違いなしなわけです。たぶん!
 というわけで、わたしとしては人物表をみて、な、なんだってーーー!? ゾーヤ再登場かよ! しかもザックも当然出るみたいじゃねえか! コイツは最高だぜ! と即、読みふけったわけですが、その結論が冒頭の、「はーーー……面白かった……。」であります。控えめに言って最高でした。
暗殺者の追跡 (上) (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2019-08-20

暗殺者の追跡 (下) (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2019-08-20

 というわけで、まずは物語をざっと紹介しますか。いつも通り、もうネタバレにも触れてしまうと思うので、まずは作品を読んで、興奮してから以下をお読みください。

 はい。じゃあいいでしょうか?
 物語は冒頭、CIAの用意したビジネスジェットに乗り込む我らがグレイマン氏の様子が描かれます。CAの女子もなかなかデキる工作員っぽく、まあ、DCまでの空路を寝て過ごそう、と思ったグレイマン氏。しかし、どうも他にも乗客(もちろんCIA工作員チーム)が乗り込んできて、おまけに偉そうに指図され、チッ、めんどくせえ……と思いながら勝手にしろと一人寝入るグレイマン氏。しかし飛行機はDCの前に、イギリスに立ち寄ると、同乗していたグループは一人の「捕虜」を抱えており、イギリス政府にその捕虜を渡そうとしたところで、謎の武装集団に捕虜を奪われてしまうというオープニングアクションが描かれます。※追記:すっかり忘れてたけど、前作のラストを読んでみると、どうやらこのオープニングは、前作ラストから時間的に繋がってるのかな、という気もしました。
 そして一方そのころ、US本国では、愛しのゾーヤがCIAのセーフハウスで、数カ月間にわたり収容されていて、グレイマン氏が大嫌いなスーザンが、なにやらゾーヤを教育?中であった。しかし、うっかりスーザンがゾーヤにとある写真を見せたことで、ゾーヤはセーフハウスを脱走する決意を固め、行動に移そうとした矢先に、謎の武装集団がそのセーフハウスを強襲。ゾーヤは辛くも脱出に成功、自らの「やらねばならないこと」のためにUSを脱出しまんまとロンドンへーーー。
 となればもう、我々読者としては、グレイマン氏とゾーヤが、いつ、どのように、再会するのか、とワクワクしてページをめくる手が止まらないわけですが、グレイマン氏は飛行機を襲った連中を追い続け、ゾーヤはとある人物を追い続け、とうとう、再会に至って、最初にしたことはもう抱き着いて熱いキス! な展開で、読者としてはもうずっと夢に見ていた「最強のカップル」が動き出すのです。
 さらに! 逃走したゾーヤを当然CIAは追跡するわけですが、それよりも、二つの事件はCIAに「モグラ=内通者」がいることを示しているわけで、マット・ハンリーとスーザンがモグラ探しに放った「第3の男」、暗号名「ロマンティック」もまたロンドンへ! となるわけです。そして、この「ロマンティック」も、最初に登場した時点で我々読者が「キターー!」と思うような知ってる人物なんすよ。いや、登場前から、言及された時点で、まさかアイツか? と思ったわけですが、もうですね、例えて言うならアベンジャーズ並みと言って差し支えないと思うっすね!! イカン、書いててまた興奮してきたわ!
 とまあ、大筋としては、CIAにモグラがいて、そいつのせいでとある悪党が暗躍するのを阻止しようとするアベンジャーズの3人なわけですが、その悪党の計画が極めて危険で、いったいどうなる、という緊張感が続く物語となっております。さらに、その悪党は、実はーーという正体も、まあ誰しも途中で気が付くと思うけれど、その正体や動機もまた丁寧に(?)描かれていて、わたしとしてはシリーズで一番面白かったような気もします。ただ、動機に関してはちょっと逆恨みというか……よくわからんかも。そして最終的な決着も、最後の大バトルはごちゃごちゃしちゃったような気もするし、サーセン、ちょっとほめ過ぎたかもっす。
 ただ、とにかくグレイマン氏とゾーヤの夢の共演は最高に興奮したし、「ロマンティック」合流後のやり取りも実に良かったすねえ! キャラクターが実にお見事で、その点では本当に非の打ちどころなく最高だったと思います。いやー、ほんと面白かったすわ。
 それでは、恒例のキャラ紹介と行きますか。関係性が分かりやすいように、まずはこの人から行ってみるか。
 ◆マット・ハンリー:元US-ARMYデルタの特殊部隊(グリーンベレー)に所属していた軍人で、現在は太鼓腹のCIA工作部門本部長。シリーズに何度も登場しており、グレイマン氏を信頼しているほぼ唯一の味方。本部長に昇進してから、CIA長官の暗黙の了解のもと、「ポイズン・アップル」計画という極秘プログラムを運営中。それは、「記録に残らない任務」をこなす凄腕工作員を運用するプログラムで、グレイマン氏がその筆頭として計画されている。今回、マットは唯一事件を正しく理解していて、ラストの大バトルでは戦闘にも参加! 太鼓腹のくせに!
 ◆スーザン・ブルーア:マットの部下で、CIA局員。グレイマン氏や「ポイズン・アップル」を構成する工作員たちのハンドラー(=管理官)。これまでのシリーズ通り、スーザンはマットのことも大嫌いだし、グレイマン氏のことも大嫌い。ついでに言うと読者のわたしもスーザンは大嫌い。でも、一応ちゃんと仕事はするので許してもいいんだけど……基本的に彼女は危険な任務は大嫌いだし出世したい気持ちが強すぎて、今回、何度かマットやグレイマン氏を裏切ろうと行動に出る……けど、すべて不発で、ラスト大バトルでは負傷。正直わたしとしては、まったく好きになれないので、ざまあ、です。
 ◆コートランド(コート)・ジェントリー:通称「グレイマン」と呼ばれるシリーズの主人公。CIAでの暗号名では「ヴァイオレーター」。ポイズン・アップル1号として、スーザンにこき使われるが、スーザンとのやり取りもいいっすねえ! スーザンの無茶振りに、こいつ、絶対俺に死んでほしいと思ってんだろ、と思いながら「あんたと一緒に仕事をすると、スリル満点だな」と返すコートは最高です。そしてゾーヤを前に「俺は恥ずかしがり屋なんだ」とか抜かす純情ボーイ、グレイマン氏に乾杯! すね。前作では、ゾーヤのことが忘れられずクヨクヨしていたグレイマン氏ですが、今回は再会してやる気十分、本領発揮の超人ぶりですが、本作でもまた、手ひどくやられて何度も満身創痍になります。良く生きてたな……ホントに。そういや、ロンドンということで、今回も第1作のハンドラー、フィッツロイおじいちゃんも登場します。そして第1作でグレイマン氏が守り抜いたあのかわいい双子も! なお、わたしはずっと書いてきたように、今回もグレイマン氏=セクシーハゲでお馴染みのJason Statham氏のイメージで読んでました。が、今回もちゃんと髪がある描写アリで、断固異議を唱えたいと存じますw コートはハゲじゃないと!w
 ◆ゾーヤ・ザハロフ:2作前、グレイマン氏がようやくCIAと緊張緩和(デタント)して、請け負った仕事で出会った、元ロシアSVRの工作員。27歳(?)で身長170cmほどだそうです。以前語られていたかまるで覚えてませんが、お母さんはイギリス人なんすね。そしてUCLAに通っていた過去もあるんだとか。そうだったっけ? 身体能力が高く、射撃や格闘なども当然こなすハイスペック美女。その2作前の物語では、最終的にCIAの資産となることに同意し、その際、表向きは死亡したことになっていた。が、US本国でCIA資産として、ポイズン・アップル2号、暗号名「アンセム」としての教育(?)を受けているところだった。今回のゾーヤの最大のモチベーションは、死んだはずの父が生きていることを見抜き、父は生きているならどこにいるのか、何故、死んだ偽装をしたのか、の謎を解くこと、そして父の野望を知った後半は、その恐ろしい計画を阻止することに全力を尽くす。しかしゾーヤはいいですなあ! わたしは、冒頭のセーフハウスで初めて登場した時のゾーヤは、まるで『TERMINATOR2』のサラ・コナー初登場シーンのようだと思いました。ビジュアルイメージは、正直あまりピンと来なかったけど、絶対美人だよね。途中まで、ああ、こりゃあゾーヤは最後まで生き残れないな……と思ったオレのバカ! 今回のラストも、とてもグッときます! なお、スーザンがラストで負傷したのは、スーザンがどさくさに紛れてグレイマン氏を殺そうと銃を向けたからで、ゾーヤに撃たれたからです。まあ、ざまあっすな。
 ◆ザック・ハイタワー:元ジェントリーの所属していたCIA特別活動部のチームリーダー。だが、いろいろヘマをやって(すべてジェントリーのせい)、解雇されていたが、3作前(かな?)でヴァイオレーター狩りに呼び戻される。どうやら以後はマットとスーザンの配下として、ポイズン・アップル3号として活躍していたらしいのだが、「ロマンティック」という暗号名なのが気に入らないご様子なのが笑える。「ナイト・トレイン」と呼ばれたいのだが、誰もそう呼んでくれなくて拗ねるザックが最高です。なので、ラストのジェントリーとの会話には、わたしはとてもグッときました。ザックとジェントリーは、お互いの「腕」はよく知っていて信頼している間柄ですが、状況次第で敵になったり仲間になったりと、とにかく敵に回すと恐ろしいけど、味方としては最も頼りになる男すね。今回初対面の時は、「おまえをシックスと呼ぶやつが、ほかにいるか、間抜け?」といつもの調子でとてもワクワクしました。ザック、あんたも最高だよ、きょうだい!
 ◆ジェイソン:今回初登場の、CIAロンドン支局在籍の若者。とてもイイキャラだったし、何度も助けてくれて活躍したのに、ホント残念な最期を……今回、わたしとしては一番気の毒です。
 ◆ジェナー、トラバースたち現役のCIA特別活動部地上班のメンバー:彼らはザックやジェントリーとも顔なじみで、久々?登場。でも一部メンバーは残念なことに……
 ◆フォードル・ザハロフ:ゾーヤの父親。元々GRU長官(だったっけ?)のスパイの元締めだったが、若き頃出会ったイギリス女子と恋に落ち、結婚。一人息子とゾーヤという子宝に恵まれるが、妻をイギリスの諜報部に殺され(ロシアスパイたちのイギリス浸透のために語学や文化を教える教官を務めていたため)、その復讐に燃え、死んだことにしてイギリスへ移住。しかし、自分のうっかりミスで息子(ゾーヤの兄)も亡くし、おまけにゾーヤも死んだ(ことになっていた)ことで、理性のタガがブッ飛び、恐ろしい計画を実行に移す決断をする今回のラスボス。イギリス人としての偽名はデイヴィット・マーズ。若干、その動機はスケールが小さいというか……まあ、完全なる逆恨みと言わざるを得ないでしょうな……。
 ◆プリマコフ:ロンドンの暗黒街を仕切るロシアンマフィアの頭目。イギリス人としての偽名はロジャー・フォックス。冷酷でかなり頭のいい男。しかしラストは意外とあっけなく……。まあ、もっと苦しんでほしかったと思うほどの悪党でした。
 ◆ハインズ:プリマコフ(フォックス)の専属ボディーガード。元ボクサー。超強くて、今回2回、グレイマン氏をボッコボコにする活躍を見せる。ま、もちろん最後はやられますが。コイツはとてもキャラが立ってましたなあ! なんだか80年代の007映画に出てくる悪党っぽかったすね。グレイマン氏がこれほどタイマンでやられたのは珍しいぐらい、ボッコボコにされました。まあ、やられたグレイマン氏は、ゾーヤに甲斐甲斐しく手当てしてもらって、ちょっと嬉し気でしたけどねw
 ◆元薔美:ジャニス・ウォンを名乗る北朝鮮人。細菌学者。狂信者。殺人BC兵器を作って喜んでいるのが怖い。ラスト近くでCIAに拘束されたはずだけど、その後の運命は不明。どうなったんすかねえ? ま、US本国でずっと監獄入りなのかな……。
 とまあ、こんなところでしょうか。
 今回は本当に、いろいろグッとくるシーンがあって、ちょっといくつか引用しておこうと思います。
 <第1作で守り抜いた女の子が元気でいるのを見たグレイマン氏>
 ふたりを見ていると目が潤みそうになるのを、ジェントリーはこらえた。
 ※わたしも目が潤みそうになったよ、コート!
 <ハインズにボコられて、ゾーヤに手当てしてもらって(ついでに熱いSEXして)目覚めたグレイマン氏が隣で寝ているゾーヤを見て思ったこと>
 ジェントリーがこの世でいちばんやりたいのは、転がってゾーヤの上になり、愛撫で目覚めさせることだったので、こんな状態にした大男のボクサーを呪った。
 ※コート、お前の気持ちはよくわかるぜ!w
 <目覚めたゾーヤに、コーヒーを渡しながらグレイマン氏が思ったこと>
 「インスタントだよ」いってから、すぐに後悔した。「うまいインスタントなんだ」あまり上手な取り繕いかたではなかったが、ジェントリーは色事が得意ではなかった。
 ※へったくそ!w コート、がんばれ!w
 <兄の死の真相を知って、善良な兄はあなたに似てたわ…とゾーヤが言ったのを聞いて>
 「それは、おれの自分に対する見方とはちがう(=つまりおれは善良じゃない)」
 ゾーヤは涙をぬぐった。「わたしのほうが、あなたをよく理解しているのよ。あなたは、自分が善人の最後の生き残りだということに気づいていない」
 ※これを聞いたグレイマン氏は仕事の話を再開させちゃいますが、おいコート! ここはゾーヤを抱きしめる場面だぞ! 
 <ゾーヤは、自分が父を殺す!と燃えていたのに、グレイマン氏にその役を奪われ……>
 「あなたなんか大嫌い!」ゾーヤは叫んだ。
 「あとにしろ。このコードは?」
 ※おいコート、ここもゾーヤを抱きしめるとこだぞ! 爆弾処理より先に!w
 <カンカンに怒っているゾーヤに、もう一度、話をしに行こうとするとザックが現れ……>
 「おまえのためを思っていっているんだ、きょうだい。おまえたちふたりはうまくいくかもしれんが、きょうはぜったいにだめだ、おれは彼女と話した。目つきを見た。いまあのドアをはいっていっても、いい結果にはならない。断言する。作戦休止だ、シックス。このままにしておけ」
 ※今回のザックはずっとグレイマン氏を助けてくれたし、恋のアドバイスまでくれるとは、ザック、ありがとうな、きょうだい!

 というわけで、もうクソ長いので結論!
 わたしの大好きな『暗殺者グレイマン』シリーズの最新刊が、今年も早川書房様から発売になりました。毎年8月の楽しみとして、わたしはずっと待っていたのですが、とにかくもう、冒頭の人物表だけで大興奮しましたね! そして物語もその期待を裏切ることなく最高でした!! 超面白かったす!!! まあ、きっといずれは映像化されるでしょうが、その時はマジで主役をJason Statham兄貴にお願いしたいです! そしてザックはやっぱりStephen Lang氏ですかねえ、わたしのイメージは。ゾーヤは誰がいいのかなあ……ちょっと、ビジュアルイメージがわかないんすよね……ロシア美女ってことで、ザキトワちゃん的なイメージを持ったんですが、もっとクールで気が強そうじゃないとダメかな……ゾーヤ役には誰がいいか、いいアイディアがあれば教えてください! 以上。

↓ どうやらUS本国では、全く別の新刊が出たっぽいすね。第3次世界大戦勃発的な物語?のようです。きっとおれたちの早川書房様が翻訳してくれるはず!
Red Metal (English Edition)
Mark Greaney
Sphere
2019-07-16

 はーーー……面白かった……。
 なんのことかって? それは、わたしの年に1度(?)のお楽しみである、『暗殺者グレイマン』シリーズの新刊が発売になったので、わーい!とさっそく買って読み、味わった読後感であります。わたしの愛する早川書房様は、紙の文庫本で出した1週間から10日後に電子書籍版をリリースするので、紙の文庫が8月21日に発売になって、わたしも本屋さん店頭にて現物を手に取って、くっそう早く読みてえ! けど、あとチョイ我慢だ! と歯を食いしばって耐え、その後8月31日になって電子版が配信開始されたので、すぐさまポチってむさぼるように?読んだのである。しかし早川書房様はホント素晴らしいですな。US発売が2月で、6カ月後にはもう日本語版を出してくれちゃうのだから、マジで他の版元も見習ってほしいものだ。内容的に時事問題が絡んでいるので、どっかの版元のように2年とか時間をかけていては話にならないのである。新潮社、アンタのことだよ!
 というわけで、わたしが待ちに待っていた新刊の日本語でのタイトルは、『暗殺者の潜入』。英語タイトルは『AGENT IN PLACE』という、Mark Greaney先生による「暗殺者グレイマン」シリーズ第7作目である。いやあ、結論から言うと今回も、コートの野郎は相当ヤバい目に遭うものの、ラストへの展開は気持ちよかったすねえ! エピローグは、若干今後への引きのような、ちょっとモヤッとしたエンディングだったけれど、大変面白かったです。おっとヤバイ! これだけでもうネタバレか? 今回はとにかくキッツイ状況で、本当に大丈夫かしらと心配しながら読んでいたのだが、まあ、そりゃあ、大丈夫っすわな。今回も非常に楽しめました。
暗殺者の潜入 上 (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2018-08-31

暗殺者の潜入 下 (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2018-08-31

 ところで今、わたしは思いっきり「面白かった」と能天気な言葉を書いてみたのだが、描かれている物語はまったくもって「面白い」じゃあすまされない、極めて凄惨で血まみれな状況である。なにしろ、今回の舞台は、現在世界で最もヤバイ国、シリア、である。この時点でもう、ヤバすぎることは想像に難くない。しかし、読み始めておそらく小1時間で、今回主人公のグレイマンことコートランド・ジェントリーが、何故シリアと関わるのか、何故単身シリアへ潜入するのか、が判明すると、我々読者としてはもう、正直、「コート、お前って奴は……」と若干呆れつつも、こりゃあヤバイことになってきたな……(ニヤリ)、と妙に心躍ってしまうのではなかろうか。
 そうなのです。もう、さんざんこのBlogで過去作の感想を書いている通り、本シリーズ「暗殺者グレイマン」という作品群は、その主人公に最も特徴があって、まあ、いわゆるハリウッド的な、超凄腕暗殺者であるグレイマン氏は、完全なる人殺しなのでBAD GUYであるはずなのに、おっそろしく人が良く(?)、妙な正義感、あるいは良心、のような「自分ルール」を持つ男で、しかもその自分ルールゆえにどんどんピンチに陥って、どんどん傷も負い、血まみれになっていく男なのである。
 なので、今回の作戦(というか依頼)も、常識的な判断からすれば、シリアに潜入するなんて選択はあり得ないだろうに、グレイマン氏は、何かと文句を言いながら、どちらかというと全く行きたくない、けど、もう、しょうがねえなあ! 的な心境を抱きつつ、死地へと赴くわけです。
 まあ、本作からいきなり読む人はいないと思うけれど、既にシリーズを読んでいる我々としては、グレイマン氏のそんなところに、痺れ、憧れちゃうわけだが、それがどんな読者でも感じるかというと、それはかなりアヤシイことだと思う。ふと冷静に考えるとかなり荒唐無稽だし。でも、こういう、グレイマン氏のような「自らの納得の元に行動する男」のカッコ良さ?は鉄板ですよ、やっぱり。
 あとこれは全くどうでもいいことだが、わたしは第1作目を読んだ時から、どういうわけか、グレイマン氏のビジュアルイメージとして、完全にセクシー・ハゲでお馴染みのJason Statham兄貴に固定されてしまっており、前作で、グレイマンはハゲじゃなかった!というわたしにとっては超残念な描写があったけれど、今回読むときもやっぱり、わたしの脳裏ではコート=Statham兄貴の公式は崩れませんでした。映像化するなら絶対、つうか、この世でコートランド・ジェントリーを演じられるのはStatham兄貴しかいないと思います。
 とまあ、わたしのジェントリー愛はこの辺にして、今回のお話を簡単にまとめておこう。
 物語は冒頭、かの悪名高きISIS団に捕らえられたグレイマン氏が、いよいよ射殺される1秒前の状況が描かれる。そして、どうしてこうなった? と、その1週間前にさかのぼると、舞台はヨーロッパ、フランスのパリのど真ん中?である。フランスのファッションショーに出演するスペイン人のモデル。なんと彼女は、シリアの大統領の愛人であり、おまけに男児を出産しているという恐らくはあり得ない設定だ。そして彼女を拉致し、彼女の持つ情報を利用しようとする亡命シリア人反政府組織の医者夫婦。この夫婦はまったくのド素人だが、夫婦を支援しているフランスの元情報機関の男が、とあるハンドラー経由でグレイマン氏を紹介し、グレイマン氏は、金のため、というのも勿論あるけど、ほとんど反シリアのボランティアめいた動機から、拉致の依頼を受諾し、あっという間にその依頼を果たす。しかし、シリアの情報機関に雇われているスイス人クソ野郎の魔の手は伸び、一方でスペイン人モデルは情報提供に協力してもいいけど、そうなったらシリアのダマスカスに残してきた赤ん坊がヤバいので、現地へ潜入し、無事に連れてきてくれたら協力する、という無茶難題を吹っ掛ける。そしてその無茶に、我らがグレイマン氏が、しょうがねえなあ、くそッ!と行動を開始するのだがーーーてなお話である。サーセン。超はしょりました。
 わたしが今回、一番マジかよ、と驚いたのは、グレイマン氏の心情だ。な、なんと! グレイマン氏は、前作でぞっこんLOVEってしまったロシア美女、ゾーヤのことが忘れられず、悶々としていたのであります!! なんてこった! コート、お前も男だったんだな……!!
 「これは2カ月ぶりの仕事だった。それまでずっと身を隠していた。(略) 精神面で一歩踏み外しているという不安があったからだ。精神を鈍らせていたのは、PTSDや振盪症や若年性痴ほう症ではなく……もっと心を衰弱させることだった。それは女だった。(略) だが彼女への思いは残っていて、彼女と会う前とは自分が変わってしまったのではないかという気がした。(略)ジェントリーはそれをくよくよ考えていた。」
 どうですか、このグレイマン氏の心情は! 最高じゃないですか! そんなことザック(元上官)に知られたら、「シックス、お前の純情に乾杯! でも、だからと言ってシリアに行くのはイカレてるぞ、きょうだい」って絶対言われるぞ!
 要するにグレイマン氏は仕事に没頭することで愛するゾーヤのことを忘れたい、そしてさらに言うと、グレイマン氏は「シリア政府に対抗する戦いを支援するために何かやりたいと、ジェントリーはずっと前から考えていた」ため、今回の物語となったわけです。ホントこの人、いい人すぎるわ……。
 で。問題はシリアの状況だ。今回の物語は、あとがきによれば本当に現在のシリアの泥沼をかなりリアルに描いているようで、数多くの勢力が入り乱れる、極めて複雑なSituationである。現実世界の、いわゆる「シリア騒乱」に関してはWikiを読んでもらう方がいいだろう。わたしもここで説明するのはもうあきらめた。一応簡単にまとめると、(本作では)一番の悪党がシリア大統領で、政府軍(SAA)を持っているし、さらにイランとロシアが支援していると。で、さらに数多くの私兵団(=いわばギャング組織)や、雇われている民間軍事企業が政府側にいて、一方の反政府組織は、自由シリア軍(FSA)やアルカイダ系の連中や、かのISIS団もいて、さらにISIS団をつぶそうとするクルド人たちもいて、アメリカやイスラエル、トルコ、フランス、イギリスなどが反政府側を支援しつつ、クルド人たちにはアメリカもロシアも支援している、ような状況である。ダメだ、説明しきれない。
 恥ずかしながらわたしが全く知らなくて、へえ、そうなんだ!? と驚いたのは、そもそものシリアという国に関してだ。シリアって、宗教的にはかなり寛容、つまり大統領はキッチリスーツを着て、ひげもスッキリ剃って、街行く人も普通にジーンズだったり、女性もヒジャーブを着用してない場合も普通に多いんすね。そして首都ダマスカスのビジネス街は近代的なビルが立ち並んでるんですな。まあ、だからこそイスラム原理主義からは攻撃対象になるわけだけど、考えてみれば当たり前、かもしれないけど、全然イメージと違っていたことはちょっと驚きであった。これはわたしがまるで無知でお恥ずかしい限りであります。そうなんすね……なるほど。
 というわけで、恒例のキャラまとめをしておこうかな。
 ◆コートランド・ジェントリー:主人公で我らがグレイマン氏。通称コート、別名ヴァイオレーター、あるいはシックス。今回、普通なら2回は間違いなく死んでます。今回のグレイマン氏のシリア潜入方法がすごかったすな。なんとドイツ人の民間軍事企業経営者に接触して、シリア政府側の傭兵(=契約武装社員=コントラクター、あるいは武装警備員=オペレーター)となってシリアに入国するわけですが、当然、ドイツ人経営者は、えっと、グレイマンさん、ウチの仕事は、あなた様向きじゃないっすよ……? あなたの「倫理の掟」は知ってるっすよ? どういういきさつで悪役に代わったんすか? と思わずグレイマン氏に質問しちゃうシーンがあったのがちょっと笑えました。なので、表向きは政府側なんだけど、それを出し抜いて赤ん坊誘拐も同時にやってのけてしまうグレイマン氏の大活躍は、大変お見事でありました。そして仲間となる傭兵どものイカレ具合も、グレイマン氏からすると容認できるものではなく、いつぶっ殺し合いになるんだろう……という緊張感も良かったすね。しかしなあ、次は是非とも再びゾーヤに登場してもらいたいですなあ……!
 ◆シリア大統領&正妻シャキーラ&愛人ビアンカ:大統領と正妻シャキーラの間にはもう愛情は薄いものの、大統領にとってシャキーラはスンニ派であるため、政治的重要性が高く、またシャキーラは、ロンドン生まれでヨーロッパで青春を送った女性で、社交性が高く、「砂漠のバラ」と呼ばれるほどの美貌で、そういう意味でも、大統領にとっては「使える駒」でもある。一方でシャキーラにとっては、大統領夫人としての社会的ステータスと経済的な富のためにも、大統領は欠かせないという関係性にある。のだが、男児に恵まれず、将来的な心配をしていたところに、愛人が男児出産という事態になって、このままでは自分の地位が……と焦っており、愛人ビアンカを殺したいと思っているわけだ。そしてビアンカは、元々シリア生まれだけどスペイン育ちでモデルとして活躍してるところをシャキーラの仲介で大統領と出会い、子をもうけてしまう。そしてシリアの内情には全く疎かったため、現状の泥沼を知って情報を渡してもいいというところまで行くけれど、その条件として赤ん坊の脱出を突き付ける、とまあそういう感じです。なんつうか、アレっすね、この3人の関係は、豊臣秀吉&北政所ねね様&淀君の関係に似ているような気がしますね。
 ◆セバスティアン・ドレクスラ:スイス人で世界各国で悪いことばっかりしていた悪党。現在はスイスのプライベートバンクに雇われていて、莫大な金をその銀行に預けているシャキーラを守るために、銀行がシリアに派遣した諜報員。よく考えると、このドレクスラも悪党だけど、一番最悪なのはこのプライベートバンクであるのは間違いなさそう。ドレクスラはシャキーラにビアンカを殺すことを命じられるが、一方で大統領からはビアンカを保護して無事にシリアに連れて帰れとも指令を受け、何とかして自分が生き残る道を模索するある意味苦労人の悪党。結構、計画は杜撰というか行き当たりばったりかも。ま、事態が流動的すぎてしょうがないか。しかし、ドレクスラの最期は……どうなんすかねえ……まあ、後の作品で復讐の鬼となってグレイマン氏の前に現れるのは確実のような気がしますなあ……。
 ◆ヴァンサン・ヴォラン:フランス人で元フランス情報機関の男。69歳だっけ?かなり年はいってる。亡命シリア人夫婦にグレイマン氏を紹介した男。ただし、見通しは甘いし、情報精度も低く、ドジを踏みまくって、グレイマン氏をカンカンに怒らせてしまう。悪気は全くなかったのにね……。よって、グレイマン氏としてはヴォランに対しても、殺意を持っているが、グレイマン氏の恐ろしさをよーく知っているヴォランは、サーセンした! と後半かなり頑張って、一応殺されずに済む。ラスト、グレイマン氏がヴォランに言うセリフがカッコ良すぎなんすよ……。もう二度と会うことはない。会うとしたら、おれが送り込まれたときだ、的な。
 ◆傭兵軍団:シリアでグレイマン氏の同僚となるコントラクターたち。一般人でも虐殺上等な、イッちゃってる人々。当然グレイマン氏から見ると外道。気の毒な運命に……。
 ◆マット・ハンリー:グレイマン氏が唯一信頼(?)している男。前作からCIA国家秘密本部本部長。下巻の超絶ピンチに、マットと連絡がついた時はもう、これからグレイマン氏の反撃のターンだぜ! とわたし的には大変盛り上がりました。
 ◆スーザン・ブルーア:CIA局員で現在のグレイマン氏の管理官(ハンドラー)。基本的にグレイマン氏のことが大嫌い。そしてグレイマン氏はもっとスーザンが嫌い。わたしも、スーザンは嫌いっす。なんか出世欲旺盛な嫌な女に見えるので……。今回は数行だけ、一番ラストで登場する。次回作はまたCIAの作戦なんすかね……。

 とまあ、こんなところかな。おおっと、もうクソ長いし、書きたいこともない……と思うので終わりにします。

 というわけで、結論。
 わたしの大好きなMark Greaney先生による「暗殺者グレイマン」シリーズ最新作、『AGENT IN PLACE』(邦題:暗殺者の潜入)が発売になったので、さっそく買い求め、上下巻やっと読み終わったす。電子書籍の記録によると、上巻423分、下巻319分だったらしい。結論としては、大変楽しめました。いやあ、グレイマン氏のゾーヤへの思いが、意外というか最高ですね! そしてシリアに関しては、本書を読んだことをきっかけにいろいろ調べてみたけれど、なんつうか……本当に人類は殺し合うしかないんだなあと思うと、暗澹たる気持ちになりますな。グレイマン氏を必要としない世界はやって来るんすかねえ……。まあ、現実世界にはグレイマン氏はいないけれど、いないことを喜ぶべきか、嘆くべきか、良くわからんすな。とりあえず、グレイマン氏にまた1年後、会えることを楽しみに待ちたいと存じます。もう、次が来年2月にUS発売されることは決まってるらしいすよ。早川書房様ならまた、来年の今頃、日本語版を出してくれるはず! よろしくお願いします! 以上。

↓ 状況が理解できるようななんかいい本ないすかねえ……池上さん、お願いしますよ!

 先日、待ちに待った最新刊発売のニュースを見つけて、よーし!新刊キタ! とやおら興奮した作品がある。が、ちょっと調べたところ、紙の本が8月24日に発売になるのはいいとして、電子書籍版の発売に関しては一切何も書いていなかったので、ちょっとマジかよ……またお預けか? としょんぼりしていたところ、紙の発売の1週間後には電子書籍版も発売となり、喜んですぐさま購入した。さすがわたしの愛する早川書房さまである。
 というわけで、本Blogの読者にはお馴染みの(たぶん)、「暗殺者グレイマン」こと、コート・ジェントリー氏が約1年ぶりに帰ってきた! のであります。日本での邦題は『暗殺者の飛躍』。英語タイトルは『GUNMETAL GRAY』という、Mark Greaney氏による「暗殺者グレイマン」シリーズ第6作目にして最新刊がようやく日本で発売になったのでありました。やったー!
暗殺者の飛躍 上 (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2017-08-31

暗殺者の飛躍 下 (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2017-08-31

 もう、のっけから結論を申し上げると、今回も大変面白く、実に興奮いたしました。あのジェントリー氏が、作戦中に出会ったロシアSVR要員のウルトラハイスペック美女と本気LOVEですよ! マジかよコート! お前、大丈夫か!? といろいろな点で心配になったし、こりゃあこの美女には完全に死亡フラグ立ってんじゃねえかなー、とか、下衆な勘繰りをしながら読んだオレのバカ! と自分をののしりたい気分です。
 最終的には、ややほろ苦い結末ではあったけれど、実に見事なエンディングで、大変面白かった。つか、あれっ!? サーセン、いきなりいろいろなネタバレをブチかましてしまったような気がするけれど、以下もネタバレ全開になる可能性が高いので、気になる方はまず本作を読んでからにして下さい。自己責任でお願いします。
 さて。まずはこのシリーズについては、もう軽い説明でいいよね? 今までの1作目から5作目まではこのBlogに散々書いてきたので、そちらをご覧ください。一応、直近の5作目の記事のリンクだけ以下に置いておきますので。
 ◆グレイマンシリーズ第5弾『BACK BLAST』(邦題:暗殺者の反撃)はこちらへ
 お話は、元CIAの準軍事工作員だったコート・ジェントリーという男が、ある日CIAから「目撃次第射殺=Shoot on Sight」指令を下されてしまい、逃亡、その後、裏社会で「グレイマン」と呼ばれる凄腕のアサシンになって活躍するお話で、前作の第5弾で、とうとう「そもそも何故CIAはジェントリーを殺したいのか」の謎が明かされ、なんとかその窮地を脱して、非公式にはそのSoS指令は解除、晴れてお咎めなし、の身に戻ったところまでが描かれた。
 そしてこのシリーズの最大の特徴は、主人公のジェントリーというキャラクターが大変おかしな野郎だという点にある。彼は、超凄腕かつ超冷酷なんだけれど、妙な正義感というか良心を持ち、そのイイ人であるがゆえに、いろいろピンチに陥ったりするという、読者からすると純然たる人殺しなのに、妙に憎めない野郎である。そしてその「グレイマン」のあだ名の由来は、会って話をしても、後に「あいつどんな顔してたっけ?」と思い出せないような平凡かつ存在感の超薄い男であるため、「姿なき暗殺者」という意味で「グレイマン」と呼ばれているわけだ。
 で。今回のお話は、実際第5巻の続きで、晴れて自由を得たグレイマン氏が、今度は古巣であるCIAから仕事を引き受け大活躍するお話である。早川書房様のWebサイトにあるあらすじを勝手にパクって貼っておこう。要するにこんなお話だ。
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 <上巻>黒幕を倒し、CIAのグレイマン抹殺指令は解除された。彼はフリーランスとしてCIAの仕事を請け負うことになり、逃亡した中国サイバー戦部隊の天才的ハッカー、范の行方を突き止める任務を帯びて香港に赴く。囚われの身となっていた元雇い主に再会したグレイマンは、中国の目を欺くため、元雇い主を通じて中国総参謀部から范を暗殺する仕事を引き受けることになるが……
 <下巻>香港犯罪組織との乱闘の末、ベトナムのギャングが天才的ハッカー、范をかくまっていると知ったグレイマンは、ホーチミン市に入る。だがロシアのSVR(対外情報庁)の秘密精鋭部隊も范を拉致すべく、密かに行動していた! 范をめぐりグレイマンとSVRは、ベトナム、さらにタイのギャングと争奪戦を繰り広げる。そして、CIAの作戦の裏に隠された衝撃の事実が! 新たな展開でますます白熱する冒険アクション!
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 というわけで、以下、いつものようにキャラ紹介しながら、ストーリーもごく簡単にメモしておこう。全員は紹介できないので、わたしが印象に残った人々だけです。
 ◆コートランド・ジェントリー:作中ではコート・ジェントリーと名乗る場合が多い。我らが主人公グレイマン氏に関しては上記に述べた通り。今回、ジェントリーの性格を良く表している文章はこれかな。
「ジェントリーの道義心は、そばに味方がいないような状況で、フィッツロイが一人で死ぬようなことを許してはならない、と告げた。フィッツロイのために戦おう。CIAがそれに不賛成だというなら……CIAなどクソくらえだ」
 そう、今回、グレイマン氏は、フィッツロイおじいちゃんのために奮闘するのであります。フィッツロイおじいちゃんは、第1作目でのジェントリーのハンドラー(雇い主)で、とてもいい人で信頼関係も厚かったのだが、おじいちゃんの愛する孫娘を人質に取られ、ジェントリーを断腸の思いで敵に売ったことがあって、ジェントリーとしては、まあ状況的にしょうがないと思いつつも、もう仕事はできない相手、と思っていたのです。でもその後、2作目で助けてもらって、ジェントリーとしては「借りのある男」なわけですよ。今回は背景が超複雑で、作戦も込み入っていて回りくどくて、グレイマン氏は今回も大変な目に遭います。しかし、まさかグレイマンin LOVEとは驚いたなあ! グレイマン氏は、第3作目で、メキシコで出会った旧友の妹に一瞬本気LOVEとなるも、ラストではその女子に対して、俺はなんて言って別れを告げたらいいんだ……とかくよくよしてたらあっさり、「わたし、修道女になるわ!」と先制パンチを喰らい、あえなく、お、おう……と振られてしまったことがあったけれど、今回は、完全に両想いというか超お似合いの殺し屋カップルの誕生で大興奮です。なお、わたしはいつも読んでいるとき、ジェントリーのビジュアルイメージとしてセクシーハゲでおなじみのJason Statham兄貴を思い浮かべているのだが、本作では久しぶりに(?)ジェントリーの容姿に関する描写がチラッとあって、どうやらハゲではないようです。むしろ若干イケメンなのかも。えー!w
 ◆ゾーヤ・ザハロワ:ロシアSVR所属。身長170cmほどで、超美人で、身体能力も非常に高く、スナイパー訓練も受けていて、実際かなり強い女子。SVRの「ザスロン」という屈強な男たちの軍事チームの統制官だったのだが、チームの荒くれ者たちは女子の言うことなどまったく聞かず、おまけに作戦の失敗を押し付けられ、無能な男たちにうんざりしていたところで、ジェントリーに捕まり、中国や現地ヤクザを間に挟んだ敵の敵は味方、ということで、二人の愛の炎が燃え上がっちゃう展開です。しかし、グレイマンがまた非常にお優しいため、ラストではゾーヤはCIAのアセットとなることを承諾し、グレイマンとはお別れとなってしまう。非常にもったいないけど、ジェントリーも、オレと一緒にいたら不幸になるぜ的な想いが強くて、カッコつけて別れるラストは結構グッと来たすねえ! 彼女には是非とも今後のシリーズでまた会いたいですな!
 ◆氾 講(ファン・チアン):中国サイバー部隊のハッカー野郎。見た目普通のオドオド青年。今回は彼の争奪戦で、中国、CIA、ロシアSVR、そしてベトナムやタイの現地ヤクザ軍団、さらにはイタリアの「ンドランゲタ」というマフィアまで絡んできて、壮絶な氾くん争奪戦の殺し合い繰り広げられる。で、肝心の氾くんは、まあ基本ゆとり小僧なのだが、実際気の毒な青年で、彼の亡命の動機は、中国は恐ろしい国、ということを読者に刻み込んでくれるおっかないものであった。本当かどうか知らないが、「家族抵当」というものがあって、軍の機密情報を扱う人間になると、家族を上海の施設に強制移住させられるそうで、待遇としてはとてもいいので喜ぶ家族もいるんだけど、実際のところ完全な人質であり、何かあれば家族が殺される、みたいなことになっているらしい。で、范くんは、両親が死んだことで「家族抵当」を失ってしまったため(ただし両親の死はイギリスSISが仕組んだものだった)、「あいつは家族抵当がないから裏切るぞ、ならその前に殺してしまおう」と見なされることが確実になり、亡命を決意する。しかし范くん自身は、中国に敵対するような仕事はしたくない、むしろ愛国心があるぐらいで、アメリカもロシアも行きたくない、僕は台湾に行きたいんだ、という、まぁ完全に甘ちゃんな主張をするに至る。台湾に行ったって確実に中国に殺されるだけなのにね。で、我らがグレイマン氏は、この范くんの気持ちに痛く同情して、じゃあ台湾に連れてってやるよと言うぐらい仲良くなるのだが、ラストではそれが叶わず、ほろ苦いエンディングになってしまったのはこの辺の事情であります。でも、確実に氾くんは、この結末が唯一の生きる道だったと思うな。
 ◆CIAの人々:今回出てくるのは、シリーズではお馴染みのマット・ハンリーと、前作でグレイマンを狩るチームの指揮を執った、若干クソ女のスーザン・ブルーア。今回はスーザンがグレイマンのハンドラーとして作戦の指示をし、報告を聞く立場にあるのだが、前作でもわたしはこの女が嫌いだったけれど、今回もやっぱり好きになれそうにありません。望むのは自らの出世だけなんだもの。そして、グレイマン氏唯一の味方でもあった、マットは、前作のラストに大出世してしまったため、今回ジェントリーと、お前はそんな奴だったのかよ! 仕方ないだろ、この立場ではこうするしかないんだ! 的な口論も発生する。実は今回の作戦は、元をたどると、前作のラスボスたる悪党のカーマイケルがやりかけていた仕事で、マットとしてはどうしてもそのしりぬぐいというかケリを付けなきゃならない立場にあって、俺だってこんな作戦は嫌だ、と思っている。そしてCIAといえば……当然、ジェントリーの元上官でお馴染みのザック・ハイタワーも出てきますよ! どこで出てくるかは書きません。そして出てきた時はわたしは大変興奮しました。完全にグレイマン側の視点で読んでいる読者としては、ザックのいつも通りの態度が超イラつく!
 ◆中国人民解放軍の人々:今回、中国は虎の子のハッカーには逃げられるは、人民解放軍の精鋭たちは殺られるわで、実際かなり損害は大きい。そんな人民解放軍チームの司令官が戴 龍海(タイ・ロンハイ)というおっさんで、彼が無能なのか、状況が厳しすぎたのか、グレイマンにいいように騙されたのか、判定は微妙だけど、戴自身もかなり冷血な男なので、若干ざまあ、ではある。ただ、彼もこんな失敗続きでは粛清されるのは間違いなく、要するに中国人は、常に失敗したら殺される、という恐怖を抱いているわけで、それは実際気の毒ではある。ラストは華麗なる転身(?)で良かったねw
 ◆ロシアSVR強襲チーム「ザスロン」の面々:ヴァシーリーという男がリーダーで、まあ頭の堅いおっさん。ただし超強いのは間違いなく、要するにCIAのSADチームのリーダー、ザック・ハイタワーのロシア版的な人物であった。彼らももう、散々な目に合う。
 ◆現地ヤクザども:今回、ベトナムの「野生の虎」と名乗るヤクザ団体と、タイのチャムルーン・シンジケートというのが出てくる。双方ともに、結局は痛い目に合うのだが、恐ろしいのは、おそらく表の顔は普通にビジネスマンで、地方自治体や軍とも完全癒着していてやりたい放題な連中という点だろう。まあ、やっぱりわたしはベトナムもタイも行きたい国じゃあないかな……たとえ呑気な観光客としてでも、ほんの1本裏に行けば恐ろしいというのがちょっとリアルに怖いすね……。いや、でもまあそれは日本でも同じで、我々が知らないだけのことかもなあ……。

 はーーー長く書きすぎた。それだけ興奮して楽しんだということで、お許しいただきたい。しかし、なんというか、日本で平和に日々をぼんやり送っている我々読者としては、恐らくはきっと、日本国内でもこういう諜報活動が行われているんだろうな、ぐらいの想像しかわかないが、どうなんだろうなあ、日本でも実は派手なドンパチが行われていて、それを一般人はまったく知らされていないんでしょうかねえ……。いずれにせよわたしが思うのは、CIAもSVRも人民解放軍も、それぞれのキャラクターはそれぞれの自国の利益のために戦い、死んでいったわけで、実際のところ誰が悪者だとか、言えないような気がするんすよね。まあ、そりゃあ地元ヤクザ連中は純粋に金や自分自身の利益のためなので、悪党と言って良さそうだけれど、やっぱり人類は争いや戦争を克服することは未来永劫にないだろうな、と思うわたしでありました。

 というわけで、いい加減に結論。
 約1年ぶりの新刊、Mark Greaney氏による「暗殺者グレイマン」シリーズ待望の新作『GUNMETAL GRAY』(邦題:暗殺者の飛躍)が発売になったので、やったーーと喜び勇んで買い求め、さっそく読み終わったのだが、実に今回も楽しめる作品であった。前作でようやくCIAによる殺害指令が解かれた主人公グレイマン氏は、義のために戦うちょっと妙な凄腕アサシンだが、今回も大変な大活躍であった。あ、そういえば、いつもボロボロに傷だらけ&血まみれになるグレイマン氏だが、そういえば今回はそれほど深刻な怪我はなかったすね。そしてなんといっても、グレイマン in LOVEな展開は実に楽しめましたな。お相手のゾーヤも大変良いキャラで、どうか今後も登場してほしいと思う。そして、やっぱり中国は恐ろしい国! 以上。

↓ 次のGreaney氏の日本での新刊は、きっと「ジャック・ライアン」シリーズのこれかな。眠れる熊でお馴染みのロシア大統領ヴォローギン氏がやらかすお話のはずです。

 4月から5月にかけて、わたしはMark Greaney氏による「暗殺者グレイマン」シリーズを立て続けに読んでとても興奮し、楽しく(?)読ませていただいたわけだが、この度、そのシリーズ最新作が発売になり、さっそく購入し、おととい読み終わった。いやー、大変興奮する物語で、とても面白かった。
 一応、今までの経緯をおさらいしておくと、かの有名な「ジャック・ライアン」シリーズが、その生みの親であるTom Clancy氏の早すぎる逝去に伴い、巨匠からバトンを引き継いで、「ライアン」シリーズを現在書いているのがMark Greaney氏である。で、「ライアン」の最新作から、完全にGreaney氏単独クレジットで発売され、読んでみたところ大変面白かったので、この新しい著者、Greaney氏とは何者なんだろう、と調べたら、わたしの大好きな早川書房から「暗殺者グレイマン」シリーズと言う作品を発表していることを知ったので、じゃ、読んでみるか、という事になったのである。
 で、読んでみた。ら、わたしのようなハリウッド・アクションが大好きな人間は大変楽しめる、非常に面白い作品だったのである。このBlogで取り上げた記事のリンクと、いつも冒頭に書いている基礎知識を自分用に貼っておこう。手抜きでサーセン。
 1作目『暗殺者グレイマン』の記事はこちら
 2作目『暗殺者の正義』はこちらの記事へ。
 3作目『暗殺者の鎮魂』の記事はこちら
 4作目『暗殺者の復讐』の記事はここ
 上記記事内でも何度も書いている通り、このシリーズの最大の特徴は、主人公コート・ジェントリーこと暗殺者グレイマンのキャラクターにある。彼は、数々の伝説的な仕事をやってのけた凄腕殺し屋として諜報業界=Intelligence Communityでは誰もが知る有名人なのだが、スーパー影の薄い、印象に残らない男ゆえに、その正体は業界的には謎に包まれている。で、元々は、CIAの軍補助員工作員で、どういう理由か不明なまま、Shoot on Sght=「目撃次第射殺」の指令が下ってしまって、5年にわたってCIAから逃げているという設定になっている。だけど、妙な正義感があって、悪党しかその手に掛けないという「自分ルール」を持っていて、変にいい人過ぎるが故にどんどんピンチに陥り、血まみれになりながらなんとか勝利するというのがどうもパターンのようだ。冷徹なんだか、いい奴なんだか、もう良くわからないのだが、読者から見れば、その「自分ルール」故に、まあとりあえず応援はしたくなるという不思議な男である。そして最終的に事件はきっちり解決し、読後感としてはいわゆるカタルシス、すっきり感があって大変面白いとわたしは思っている。
 そしてこれも何度でも書くが、外見的な描写はあまりないのだけれど、わたしは彼のビジュアルイメージとしては、勝手にJason Statham兄貴か、Mark Strong伯父貴をあてはめ、絶対マッチョのセクシーハゲだと確信している。ピッタリだと思うな、たぶん。

 というわけで、5作目となるのが、おとといわたしが読み終わった最新作『暗殺者の反撃』である。
暗殺者の反撃〔上〕 (ハヤカワ文庫 NV)
マーク・グリーニー
早川書房
2016-07-22

暗殺者の反撃〔下〕 (ハヤカワ文庫 NV)
マーク・グリーニー
早川書房
2016-07-22

 さてと。本作は、前作のラストシーンからの続きで、ジェントリーがとうとう逃げることをやめ、過去と対決するためにUS本土に降り立ち(ずっと世界中を逃げていたので、帰国したのも5年ぶり。しかも今回の舞台はほぼずっと、Washington DC)、ずっとシリーズ最大の謎とされていた、何故CIAは、ジェントリーに対して「目撃次第射殺」の指令を下したのか、の答えが出る物語だった。なので、わたしとしてはもう、超興奮しながら読んだわけです。
 今回は上下本で、過去最大ボリューム。そしてジェントリーは今回、ほとんど失敗しないで比較的ストレートに話は進む。実は今までの物語は、お人良し故にピンチになったり、信じたばっかりにひどい目に遭ったり、せっかくの目的地に到着してもまるで無駄足だったり、と、読んでいて、お前何やってんだよ!! と思わず突っ込みたくなるぐらい、まあとにかくひどい目に遭ってばかりだったので、実は若干読んでいてストレスを感じていたというか、イライラすることもあったのだが、もう今回はそういう失敗はほぼなくて、非常に気持ちよかったですな。

 じゃ、今回も、主要人物をあげて、いつかすっかり内容を忘れたときのための備忘録とするか。
 ◆コート・ジェントリー:フロリダ州出身。30代。裏社会では「グレイマン」と呼ばれ恐れられているが、CIAでのコードネームは「シエラ6」。主に「シックス」と呼ばれていた。そして現在のCIAのターゲットネームは「違反者(ヴァイオレーター)」。とにかく、本人的には正義を遂行しているだけで、悪党は基本的に即ぶっ殺す、恐ろしい男。今回、深夜のコンビニ勤務の黒人女性を守るために、自らが危険になるとわかっていても悪党をあっという間に3人殺したりする。そのせいで隠れ家がばれてしまうリスクがあるのに。そんな奴ですよ、グレイマンは。実に律儀でまじめな男です。本作では、前作(第4作目)で貸しのできた、モサドの手引きで5年ぶりに合衆国の土を踏む。あと、今回初めて、父親が登場する。そしてその父が登場する場面が結構グッとくるというか、泣ける!! 
 ◆ザック・ハイタワー:次に紹介するのは誰にしようかと悩んだけど、この人にしよう。この人は、ジェントリーのCIA時代の所属部隊「Golf Sierra」、通称「Goon Squad(=特務愚連隊)」のチームリーダー。コードネームは「シエラ1」あるいは「ワン」。彼はシリーズ第2作目にも登場した男で、ジェントリーの腕も人柄も一番よく知っている、けど、ジェントリーを殺せという指令が出たならそれを遂行するまで、という態度のプロフェッショナル。勿論、ジェントリー並に強い(はず)。第2作目でジェントリーに助けられてはいるんだけど、かなりひどい目に遭っていて、その2作目の任務のめちゃくちゃぶりからCIAを解雇されてしまっていたが、腕を見込まれてCIAのヴァイオレーター狩りに召集される。彼は敵なのか味方なのか!? というのも本作のポイントの一つ。元上官だけあって、わたしは二人の会話が好きで、特にザックがジェントリーに「・・・だぜ、きょうだい」と平仮名で呼ぶのが非常に好き。わたしのザックのビジュアルイメージは、完全にStephen Lang氏ですね。あの、『Avatar』の悪党の大佐です。
 ◆マット・ハンリー:ジェントリーたちGolf Sierraを運用していたCIAの元上司。第3作目で、メキシコで危うく殺されそうになったジェントリーを単身助けた(ただし、助けたことがCIA内部で彼を窮地に陥らせてしまうので、ジェントリーはマットの腹を撃って、仲間じゃないと見えるようにした。未だに撃たれたことに怒ってる)ことがある。ジェントリーの実力も人柄もよくわかっている唯一の味方といってもいい男。元軍人だが、今は太鼓腹。そして現在ではCIA特殊活動部(SAD=Special Activities Division の略か?)の部長にまで昇進している。カーマイケルが大嫌い。なお、マットはジェントリーに対する「目撃次第射殺」の原因を、正確には知らない。わたしのマットのビジュアルイメージは、若いころのOliver Platt氏ですね。
 ◆アンディ・ショール:ワシントンポストのDC担当記者。本作で一番最初の事件を偶然取材。かわいそうな青年。
 ◆キャサリン・キング:ワシントンポストのベテラン調査報道記者。誠実?な女性。アンディがネタを持ち掛け、以後二人で取材に駆け回る。そして最終的に非常に大きな役割を担う。もし映画化されるならキャサリン役はぜひとも、我が愛しの女神ことCate Blanchettさまにお願いしたいですな。
 ◆デニー・カーマイケル:CIA国家秘密本部本部長。政治任命されるCIA長官よりも現場の実権を握るラスボス。ジェントリーに「目撃次第射殺」指令を出した張本人。彼がなぜ、ジェントリーを殺そうとしているのか、が、本作最大の謎。非常に面白かった。
 ◆ジョーダン・メイズ:カーマイケルの手下の副本部長。実際のところ、彼はジェントリー抹殺の本当の理由を知らず、使われただけの可哀想な人。
 ◆スーザン・ブルーア:ヴァイオレーター対策グループの作戦指揮官として今回初登場の女性。有能、だけどずる賢いと言っていいのでは? 好きになれそうもない。が、端々に、とにかくいい女であるような描写をされている。彼女は悪党一派だと思うんだけどなあ……彼女の最終的な立ち位置だけが、わたしとしては本作の唯一の不満点。
 ◆ムルキン・アル・カザス:サウジアラビア王国の諜報機関のアメリカ支局長。どうやらカーマイケルとは密約があるようで……ヴァイオレーター狩りにサウジの勢力も参戦。
 ◆リーランド・ハビット:第4作目で執拗にグレイマンを追った民間軍事企業の社長。前作でジェントリーにこっぴどくやられた人。基本的にとんでもない悪党だけれど、かわいそうな運命に……。

 まあ、主要なキャラクターは以上かな。
 今回は、いつものわたしの記事のようにネタバレ満載で物語を紹介すると、ちょっともったいないというか興味がそがれる恐れがあるので、やめておきます。とにかく、いきなり本書を読む人はいないだろうから、あくまでシリーズを読んできたという前提で書きますが、今回の話で、ジェントリー=グレイマン=ヴァイオレーター=シックスは、長年の謎が解けてスッキリするのは間違いない。けれど、その秘密を知る過程で、何度もくじけそうになり、あるいは不完全な情報を得て、心が折れそうになったり、おまけに今回もかなり早い段階で大けがを負うのでまたもボロボロですが、それでも、いつもの不屈の精神力で何とか切り抜けていく様子は大変楽しめます。
 とくに、ラストのミッションはもうワクワクものですよ。非常にカッコイイし、映像映えすると思う。一番最後のアレって、『The Dark Knight』で出てきたアレですよね? いや、アレじゃわからんと思うけれど、読み終わったらわたしが何を言ってるか、分かると思います。もうホント、すげえ男ですよ。大変楽しめました。

 最後に、わたしの大好きな早川書房へ感謝を述べておきたい。電子書籍版を紙の本の発売から1週間とすぐに出してくれてありがとうございました。でも、せめて自社ページで、電子版はいつ発売、って告知ぐらい打っといてください。もう、何度、本屋さんの前で、紙で買っちまおうか……と悩んだことか。いや、早川ならオレの期待に応えてくれる!! はず!! と何の根拠もなく信じてよかったす。
 それから、シリーズを読んできたファンの皆さんに、これだけはネタバレだけど言わせていただきたい。確実に、シリーズは新たな展開でまだ続く可能性大ですよ!!! 楽しみすね!!

 というわけで、結論。
 「暗殺者グレイマン」シリーズ最新作は、とうとう最大の謎が判明する注目の作品です。シリーズを読んできた方は、今すぐ、本屋さんに行くか、どこかでポチッて下さい。読まない理由は何一つありません。最高です。
 以前も書いた通り、Greaney氏のWebサイトには
 A feature film adaptation of The Gray Man is in development by Columbia Pictures, with Joe and Anthony Russo of Captain America, Winter Soldier, to direct.
 とありますので、映画化を心から楽しみに待つのが、正しいファンの姿だと思います。監督がルッソ兄弟なんて、もう傑作になることは間違いなしですな。超楽しみですが、ジェントリー役は、絶対にJason Statham兄貴でよろしくお願いします!!! 以上。
 
↓ 一応、Kindle版のリンクも貼っときます。わたしは愛用している電子書籍販売サイトBOOK☆WALKERで買って読みました。
暗殺者の反撃 上 (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2016-07-31

暗殺者の反撃 下 (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2016-07-31

 というわけで、現在日本で出版されている『暗殺者グレイマン』シリーズの4作目、『暗殺者の復讐』を読み終わった。
 1作目『暗殺者グレイマン』の記事はこちら
 2作目『暗殺者の正義』はこちらの記事へ。
 3作目『暗殺者の鎮魂』の記事はこちらです。
 手抜きだが、前回書いたことを、はじめにコピペしておこう。
 何度も書いている通り、亡くなったTom Clancy氏から「ジャック・ライアン」シリーズのバトンを受け取ったMark Greaney氏によるこのシリーズの最大の特徴は、主人公コート・ジェントリーこと暗殺者グレイマンのキャラクターにある。彼は、妙に正義感があって、悪党しかその手に掛けないという「自分ルール」を持っていて、変にいい人過ぎるが故にどんどんピンチに陥り、血まみれになりながらなんとか勝利するというのがどうもパターンのようだ。冷徹なんだか、いい奴なんだか、もう良くわからないのだが、読者から見れば、その「自分ルール」故に、まあとりあえず応援はしたくなるという不思議な男である。そして最終的に事件はきっちり解決し、読後感としてはいわゆるカタルシス、すっきり感があって大変面白いとわたしは思っている。
 そしてこれも何度でも書くが、外見的な描写はあまりないのだけれど、わたしは彼のビジュアルイメージとしては、勝手にJason Statham兄貴か、Mark Strong伯父貴をあてはめ、絶対マッチョのセクシーハゲだと確信している。ピッタリだと思うな、たぶん。
  で、第4作目となる『暗殺者の復讐』である。
暗殺者の復讐 (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2014-05-23

 もういきなりだけど、結論から言おう。シリーズで一番面白かった。
 もう、シリーズを読み続けてきた人ならお馴染みだが、この4巻目の冒頭時点で、主人公グレイマン=コート・ジェントリーは、4つの勢力から命を狙われる身だ。
 1)アメリカ合衆国政府(というよりCIA):グレイマンの出身国であり出身団体。だが、なぜShoot on Sight(目撃次第射殺=SoS)指令が出され、お尋ね者になっているか、その謎は明かされていない。
 2)シドという名のロシアン・マフィアのボス:2作目冒頭でのグレイマンのハンドラー(調教者=雇い主)。2作目で見事にグレイマンに裏切られた。超怒っている。
 3)ローラングループ:多国籍企業。1作目の敵。1作目でグレイマンにコテンパンにされたが、ラストでグレイマンを雇っていたはず(だが、どうも2作目にはいる前に喧嘩別れしたのか、シドに売ったのかよくわからない)。怒っている理由はもうわたし、良く覚えてません。
 4)マドリガルという名のメキシカン・カルテルのボス:3作目で、グレイマンと手を組む邪悪な男。最後にグレイマンに裏切られて激怒中。You Tubeに、絶対ぶっ殺してやるかんなー!! 覚えとけよ!! という動画をUPしてるアホな人。
 とまあ、こんな感じに、そこら中から命を狙われており、今回、物語は、ロシアのマフィアのボスであるシド暗殺作戦から始まる。グレイマンとしては、もう逃亡生活に疲れちゃっており、さっさとケリをつけられる奴から片付けちまおう、と思ったらしく(?)、最初のターゲットに選ばれたシドは、ま、当然もうアウトですわな。正確に言うと、敵の敵は味方というわけで、シドを殺したがっている連中もやっぱり多く、その「敵の敵」から依頼を受けたという設定だったと思う。しかしこの冒頭も、これまた非常に派手な、映像栄えしそうなオープニングアクションで大変読み応えアリである。
 しかしこの派手なアクションを、上空から無人機で一部始終観ている存在がいた。
 今回のメインの敵はコイツらで、その正体はCIAから業務をアウトソーシングしている民間軍事企業である。CIAが出来ない汚れ仕事を請け負う彼らの目的は、あくまでCIAが払う懸賞金であって、志的には高くはないし、やり方も汚い。いわゆるcollateral damage=副次的損害=全然無関係な人々が巻き添えで死ぬこと、もまったく厭わない、純粋なバウンティハンターどもだ。
 というわけで、シドをぶっ殺した次に、そいつらがやってくる。が、グレイマンを救う謎の男が暗躍し、窮地を脱することに成功する。ただし、読者的にはその正体は別に謎ではなくて、コードネーム「デッドアイ」という、グレイマンを追うバウンティハンター企業に属する独行工作員で、その身分は最初から明かされていて、あくまでも、その「目的」が謎となっている。何故助けたのか、グレイマンに接近した目的は何なのか。
 まあ、普通の読者なら、このデッドアイがグレイマンの敵であることはさっさと分かるとは思うが、どうしてまた、味方を殺してまでグレイマンに接近してくるのかが良くわからない。この点は、実はわたしは結構イライラした。非常に回りくどく慎重で、そしてそれ故に、我らがグレイマンは結構あっさり信用しかけてしまうのだ。
 しかし……ホントに何度でも言うけれど、グレイマンはイイ奴過ぎるんすよね……。敵に決まってんだろうがと読者は分かっているのに、うっかり信用しそうになるグレイマンは、ホントあんた、今まで良く生きてこられたな……と心配なレベルである。もちろん、今回はデッドアイが実に巧妙なクソヤローだったので仕方ないとはいえ、結果的にまたしてもグレイマンは満身創痍であり、血まみれである。
 ただ、デッドアイの正体が判明してからの後半は非常に良かった。今回はイスラエルのモサドもこの騒動に介入してくるし、そのモサドの女性が非常にキャラが立っていて、大変良かった。だがしかし! ちょっと展開としては、「ジャック・ライアンシリーズ」の、Greany氏による最新作『米朝開戦』における、フランス人エージェントの彼女と同じ運命をたどってしまったのが極めて残念であった。そしてラストは、またもやグレイマンのいい人ぶりが自らを救うという、情けは人のためならず的な展開となって、クソヤローを無事にぶっ殺すことが出来たし、エンディングのエピローグではとうとう、グレイマンIn ワシントンDCで、ついに次の巻ではシリーズ最大の謎に挑むのか!? という前触れまで描いてくれて、大変楽しめる作品であったと思う。
 しかし、やっぱりグレイマンクラスの男でも、モサドだけはヤバイという認識なんですな。また、今回は民間軍事企業のハイテクチームが大活躍して、結構簡単にグレイマンは居所がバレることになる。顔認証はテクノロジーとしてもはやお馴染みだけれど、「歩容」という言葉があるんですなあ。つまり、歩き方、歩く癖、を記憶させておいて、世界各国の監視カメラ映像から、人物を特定する技術なのだが、確かにそういう技術もあるんだろうと想像は付くものの、相当膨大なデータだろうし、作中でも相当な数の「疑わしい候補」が出てきてしまうけれど、現代の世界の諜報業界(=インテリジェンス)においては実用化されてるんだろうなあ、という気はする。また、本作では「ドローン」も大活躍し、グレイマンを追い詰めたりするわけで、こういったいわゆるハイテクガジェットは、確かにTom Clancyの後継者に指名されたGreany氏の本領発揮というところなんだろうと思った。
 しかし、重ね重ね、モサドの女性の残念な運命はもったいないというか、実際悲しい結末だった。『米朝開戦』でもそうだったけれど、このGreanyという作家は結構キャラを使い捨てちゃう人なんですかね? だとしたら、ちょっとファンとしては残念だなあ、と思いました。ともあれ、物語はシリーズで一番面白かったと思います。また、まったくどうでもいい話ですが、今回の敵、デッドアイは、わたしの脳内では、何故かずっとJeremy Renner氏の顔が浮かんでいました。MCUで言うところのHawkeyeのあの人です。彼は『Mission:Impossible』シリーズのレギュラーにもなったし、「ボーン・シリーズ」番外編の『The Bourne Legacy』では主演を務めていて、なんか不敵な頭の回る凄腕工作員ということでこの人が頭に浮かんだのだろうか? それとも、単にDead EyeとHawkeyeと音的に似てただけかな? 自分でも良くわかりませんが、皆さんの頭には誰が浮かんだか、教えてください。しかし、グレイマンがハゲ・マッチョであることはわたし的には譲れないところですw

 というわけで、結論。
 「暗殺者グレイマン」シリーズ第4作『暗殺者の復讐』は、ちょっと中盤イライラするけれど、大変面白かった。シリーズを読んで来た方は、必読だと思います。そして、シリーズ最新作『BACK BLAST』は、もうUS本国では発売になってますので、早川書房さんの翻訳が発売されるのを楽しみに待ちましょう。以上。
 ★2016/06/30追記:さっすがオレたちの早川書房!!  新刊の告知がされてました!!!
マーク・グリーニー
早川書房
2016-07-22

 まだ書影はないようですが、あとチョイで日本語版が出ますね!! ホント、早川書房は分かってらっしゃる!! 今度は上下本みたいすね。楽しみ!!!



↓ くそう……我慢できないから買っちまうか……。あ、Kindle版はあさって発売だ!!
Back Blast (English Edition)
Mark Greaney
Sphere
2016-05-19

 というわけで、このところずっと読んでいる「暗殺者グレイマン」シリーズの3作目、『暗殺者の鎮魂』を読み終わった。
 1作目『暗殺者グレイマン』の記事はこちら
 2作目『暗殺者の正義』はこちらの記事へ。
 上記でも何度も書いている通り、このシリーズの最大の特徴は、主人公コート・ジェントリーこと暗殺者グレイマンのキャラクターにある。彼は、妙に正義感があって、悪党しかその手に掛けないという「自分ルール」を持っていて、変にいい人過ぎるが故にどんどんピンチに陥り、血まみれになりながらなんとか勝利するというのがどうもパターンのようだ。冷徹なんだか、いい奴なんだか、もう良くわからないのだが、読者から見れば、その「自分ルール」故に、まあとりあえず応援はしたくなるという不思議な男である。そして最終的に事件はきっちり解決し、読後感としてはいわゆるカタルシス、すっきり感があって大変面白いとわたしは思っている。
 そしてこれも何度でも書くが、外見的な描写はあまりないのだけれど、わたしは彼のビジュアルイメージとしては、勝手にJason Statham兄貴か、Mark Strong伯父貴をあてはめ、絶対マッチョのセクシーハゲだと確信している。ピッタリだと思うな、たぶん。
  で、第3作目となる『暗殺者の鎮魂』である。
暗殺者の鎮魂 (ハヤカワ文庫NV)
マーク・グリーニー
早川書房
2013-10-25

 今回のお話は、前作の数か月後から始まる。前作の作戦により、完全にCIAからも、そしてロシアのヤクザからも、命を狙われる身となってしまったグレイマン。南米のアマゾン川の奥地に身を隠していたが、そこも強襲され、逃走するオープニングアクションがあり、舞台はブラジルから中米を抜け、メキシコに移る。しかし、逃亡中のグレイマンはメキシコのバスターミナルで、ふと一つのニュースを見てしまう。それは、かつて自分の命を救ってくれた男が死亡し、しかも悪党として報道されていたのだ。
 普通、冷徹な暗殺者で、いろんな勢力から命を狙われている男なら、そのまま逃走を続けるだろう。が、我らがグレイマンは、勿論そんなことはしない。律儀なことに、わざわざその男の墓参りに出かけるグレイマン。そして未亡人となった女性(妊娠中)の一家に歓迎されてしまい、あまつさえ、死んだ命の恩人が常に気に掛けていた、妹に出会って若干惚れてしまう。そして、恩人を殺したカルテルのボスが、イカレた狂信者で、未亡人とお腹の胎児を狙って殺し屋を放っていた――的な展開である。こうまとめると、なんだそりゃ、と思われるような物語かもしれないが、まあそんな展開で、未亡人一家と妹を守るために、グレイマンがまたも血みどろの戦いを行うのが本書のあらすじである。正直、基本的にずっとピンチ続きで、読み終わって疲れました。
 今回、わたしが面白いと思った、読みどころポイントを、自分用備忘録としていくつかまとめておこう。
 ■(事実なのか知らんが)メキシコは恐ろしい国!!
 今回の敵は、いわゆる麻薬カルテルである。メキシコのカルテルの恐ろしさは、もうそこら中で描かれているのである意味おなじみだが、まあ、とにかく人命が安い国だという事が本書でも嫌というほど描写される。そして軍も警察も、国家ですら、癒着しており、どうにもならんというのがかの国の現状のようだ。もちろん、普通の市民は善良に暮らしていても、だれがどこでカルテルとつながっているかさっぱり分からないからタチが悪いのだが、どうやら、善良な人々は、「アメリカ人どもが麻薬を欲しがるから(=需要があるから)悪いんだ!!」と思っているらしい。まあ、確かにそれはそうかも、であろう。何しろ麻薬ビジネスは100円のコーラを400,000円で売るようなもので、ボロ儲けだし。なので、今回グレイマンの敵となるカルテルのボスは、常にイタリア製スーツを着こなす優男で、完全にビジネスマンであり、しかもまっとうなビジネスも数多く行っているため、ちょっとした自国の人気者でもある。加えて、メキシコ軍人として戦闘訓練を受けていて、US-Armyでも訓練をしっかり受けた経歴があって、まあとにかく、目を合わせちゃダメな人である。そういった男がボスを務める組織を敵に回すのだから、もちろんグレイマンは満身創痍で、おまけに今回は、超ヤバイ拷問も喰らう。あれはもう、、読んでるだけで痛そうですね。
 ■グレイマン、初(?)の非単独行動
 いつもは完全に一匹狼で単独で戦うのがこれまでのパターンだったが(正確には前巻後半は共同作戦ではある)、今回のグレイマンは未亡人一家を守りながらの団体行動である。しかも未亡人一家はすぐお祈りをしたがって、さっさと行動したいグレイマンは何度も、早くしろよ……とイライラすることになってしまう。この辺は、ハリウッドB級アクションが大好物なわたしには、よく見かける光景だけれど、どうなんだろう……ちょっと、敵もグレイマンも、無計画すぎるし、隙がありすぎのような気がしてならない。おまけに!! 今回、初めてグレイマンin LOVEですよ!! まあ、グレイマンの愛に不器用な様はかなり良かったっすね。しかも、わたしはかなり笑ってしまったのだが、物語のラスト近くで、彼女が大好きなのに、オレの生き方に彼女を巻き込むわけにはいかない、一体どうやって別れを告げたらいいんだ……と悩むグレイマン氏に、彼女は告げる。「わたし、修道女になるわ!!」 おそらく描写にはないけれど、あっさり振られたグレイマン氏がガクーーーッとズッコケたことは想像に難くない。まったく、不器用な人ですよグレイマン氏はw
 ■CIAは敵か味方か?
 前作で、完全に再びCIAを怒らせ、Shoot on Sight(目撃次第射殺せよ=SoS)指令が継続中のグレイマンだが、まだ、本作最大の謎(?)である、「そもそも何故グレイマンはCIAから狙われなければいけないのか、過去に何が起こったのか」は本作でも解明されなかった。が、今回、前作で名前だけ登場していた、グレイマンのかつての上司が登場する。この彼はかなりいいキャラクターでしたね。今後も登場するかもしれないけれど、残念ながら彼も、上層部のいきさつは知らないようで、過去に何が起こったかは知らないようでした。これ、次の4作目を読んでも解明されず、ずっと引っ張るのではなかろうか……。
 ■グレイマン、再び敵を増やすの巻
 事件は、後半で、敵カルテルと対抗するために、その敵であるライバルの組織とグレイマンが手を結ぶ展開になる。グレイマン曰く、手を組むことにしたそのライバル組織のボスは「理性的な人間の想像するもっとも邪悪な人間像を具現している男」なんだそうだが、そんな男とがっちり握手。しかも2回。まあ、手段は問わないということだけれど、実のところ、グレイマンは彼らもまた道具としてしか見ておらず、最後はまんまと騙して、結局手を結んだ組織からも命を狙われることになってしまうのがわたし的にはかなり良い展開だと思った。この、最後のシーンはかなりカッコイイです。
 (裏切られた組織のボス)「殺してやる」
 (グレイマン)「順番を待てよ、カウボーイ」
 (裏切られた組織のボス)「いずれだれかがお前を殺る。それは分かっているはずだ」
 (グレイマン)「わかっている。そのだれかになれなかったのを悔しがる人間が、おおぜいいるはずだと思うと、胸がすくんだよ」
 いいっすね、この余裕というか、強がりぶりは。これ、絶対Jason Statham兄貴に演じてもらいたいなあ……超カッコイイと思うんだけどな。
 というわけで、今回もまた血まみれであり、さらに敵を増やしたグレイマン氏。果たして次はどんな戦いになるのか、まだあらすじすらチェックしていないので全くわからないけれど、さっさと読んでしまおうと思います。

 というわけで、結論。
 「暗殺者グレイマン」シリーズ第3弾、『暗殺者の鎮魂』は、これまでと違って団体行動での逃走劇で、ちょっと調子が狂うグレイマンの様子がほほえましい部分もありますが、基本的には今まで通り血まみれで、敵がメキシカン・カルテルという事で、相当な数の死者が出ます。ので、おそらくはもう、これは普通の人には全くおススメできません。ハリウッドB級アクション好きには大変楽しめると思いますが、ちょっと普通の人には無理かな。あと、原題の『BALLISTIC』というタイトルは、日本語で言うところの「弾道(学)」という意味だと思うけれど……うーーーん、ちょっと読み終わっても内容的にピンと来ない。どこに引っ掛けてるんだろう……分からんす。以上。

↓ 今のところの日本語での最新作が、このシリーズ第4弾。この先の5巻はUS国内で2016/02/16に刊行されたばかりの模様です。
暗殺者の復讐 (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2014-05-23

 というわけで、何週間か前に読み、ここでも紹介した『暗殺者グレイマン』。
 読んだきっかけは、著者のMark Greaney氏が、亡くなった巨匠Tom Clancy氏の後を継いで「ジャック・ライアン」シリーズを書き、その最新作『米朝開戦』が結構面白かったわけで、ならばGreaney氏のデビューシリーズを読んでみるか、と思ったからである。まあ、そのシリーズ1作目の『暗殺者グレイマン』は、期待は裏切らない面白さであった、というのが結論である。
 で。正直なところ、相当派手なドンパチもので、ちょっと荒唐無稽が過ぎるような気もしなくはないが、主人公たる「グレイマン」のキャラクターは大変好ましく、凄腕の殺し屋の癖に、妙な良心を持ち合わせていて、悪党しか殺さないというちょっとハリウッドタッチなキャラクターであることを知った。これはちょっと、先を読む必要があるな、と思い、シリーズ4冊のうち残りの3冊をすかさず買い、読み始めたわけである。昨日の夜、2作目である『暗殺者の正義』を読み終わったのだが、これまた、なんというか……普通とちょっと違う、妙にいい人な暗殺者が、そのいい人であるが故にピンチに陥る場面が多く、良くこれまで生きてこられたな、と心配になるレベルで、結果的に、またしても満身創痍で激しく血まみれになる小説であった。
暗殺者の復讐 (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2014-05-23

 この作品は、前作のラストで、グレイマンの新たな調教者(ハンドラー)となった男から、一つのミッションを押し付けられ、遂行するところから始まる。 そしてそのミッションも、ごくあっさりクリアするのだが、またいい人ぶりを発揮して付け入られ手痛く負傷するグレイマン。まったく本当にあんた、凄腕なんですか? と若干心配になるが、ともかくグレイマンは、現在のハンドラーが嘘をついていたことを知って非常に不愉快になると。で、お前とはもうこれまでだ、と退職願いに会いに行くと。しかし、そこで次のミッションを提示される。それは、スーダン大統領の暗殺。これは現ハンドラーのロシア人が、ロシア政府から請け負ったもので、アフリカで虐殺を行っているこの大統領を暗殺する指令は、ロシアにとって石油利権が絡んでおり、極めて重要なものらしい。そしてグレイマンから見ても、その大統領は悪党であり、殺すべき人間であると。で、準備を始めるグレイマンだが、現ハンドラーはまったく信用できないので、独自に安全なところに身を隠そうとする……のだが、今度はあっさりCIAの準軍事チームに拉致される。グレイマンは、過去に何かがあったようで、CIAを解雇され、「目撃次第射殺(Shoot on Sight)」指令が出ている。拉致したのはグレイマンのかつてのチームリーダーだった。いよいよ年貢の納め時か、と思うグレイマンに、元リーダーが一つのオファーを出す。スーダン大統領を生け捕りにせよ。殺すな、という指令はグレイマンを混乱させる。殺してはスーダンの混乱は悪化してしまう。生け捕りにして、国際刑事裁判所(ICC)に差し出すことをアメリカ合衆国は望んでいて、成功の暁には、SoS指令も解除し、CIAに復帰させる、と破格の条件を出してくる。昔の仲間に恨みはなく、むしろ会えて嬉しいグレイマン。ロシアのミッションをこなすフリをして、CIAが介入して大統領の身柄を押さえられた、そして伝説の殺し屋グレイマンも、ずっとその命を狙っていたCIAに消された、という筋書きにすればいいと提案される。業界的にグレイマンをCIAが狙っていることはだれでも知ってるので、それでうまくいくさ、というシナリオである。
 というわけで、グレイマンはロシアの作戦を遂行するフリをしてCIAの作戦を遂行しようとするわけだが、まったく計画が計画通りに進まず、これまたひどい回り道をしながらいよいよ大統領拉致に向かうわけだが、CIAの作戦もまったく機能せず、どんどんと思わぬ方向に進んで行き、果たしてミッションは無事クリアできるのか、というお話である。
 問題は、作戦が思うとおりに行かない原因が、ほとんどすべてグレイマンのお人好しのせい、という点にある。まず、前半のICCの女性とのエピソードは、グレイマンのいい人ぶりを理解するにはアリだけれど、ズバリ、最終的に物語としてはまったく不要のもので、そのせいで大勢の無辜の人が死んでしまったことを思えば、相当無駄なアクションだったとしかいえないような気がする。そして後半のメインミッションは、主にCIAの現地アセットが無能だったことに起因しているとはいえ、ちょっと無理ゲーが過ぎると思うし、グレイマンの正義がどうもカラ回りしているような気がする。なんともナイーヴというか、青臭いというか……ホント、良くこれまで生きてこられたな、とさえ思えるわけで、こういった、「グレイマン」という冷徹な暗殺者が見せる人間性のようなものは、この物語の長所でもあり短所でもあるのだろう。そのバランス調整が、前巻のときも書いたが一番難しいところだろうと思う。
 結論から言えば、今回は若干バランスがいい人方向に振れていて、ちょっと問題アリのような気がしなくもない。また、Tom Clancy作品のように、現代の政治状況とかいろいろな知識を得られるような部分も少なく、はっきり言えば、若干ファンタジーめいているとさえ言えると思う。ただ、グレイマンが発揮するいい人ぶりは、「情けは人のためならず」というわけで、最終的にはグレイマンを救うことにもなり、この点は日本人的に観ると、やっぱりグレイマンを嫌いにはなれないというか、まあとりあえず、生き延びることが出来て良かった良かっただし、まあ、うーーん……今回も、グレイマンがCIAを解雇された理由は判明しなかったけれど、これはまた次の巻も読めってことと思うことにしたい。
 しかし、これも前巻のときに書いたけれど、グレイマンのビジュアルイメージは完全にJason Statham兄貴か、Mark Strong伯父貴なんだよな……絶対マッチョのセクシーハゲだと思うのはわたしだけだろうか。いずれにせよ、正直ちょっとアレな部分も多い本作だが、とりあえず残り2冊、シリーズは全部読もうと思います。まだ物語の核心たる、何故グレイマンはCIAを解雇されたのか、が判明していないし、本作で結局CIAのSoSは解除されず、むしろ全力で追われる立場に陥ってしまったので、果たしてグレイマンに安息の日がやってくるのか、その活躍を今後も楽しみにしようと思う次第である。

 というわけで、結論。
 「グレイマン」シリーズ第2巻の『ON TARGET』(邦題:暗殺者の正義)は、かなり荒唐無稽な部分と、作中でも言われる通りまるで『Black Hawk Down』のようにどんどんと状況が悪化する市街戦が混ざり合った、血まみれなアクション小説であった。この小説を楽しむには、たぶん、アクション映画が大好きか、翻訳ものの海外アクションものを読むのが好きとか、そういった素養が必要な気がする。普通の人がいきなり読んで面白いと思えるか良くわかりません。が、わたしはもちろん大好物なので、十分楽しめました。今後のシリーズも読もうと思います。以上。

↓3作目がこれらしい。今度はどうやらメキシコ麻薬戦争がからむようで……楽しみですな。
暗殺者の鎮魂 (ハヤカワ文庫NV)
マーク・グリーニー
早川書房
2013-10-25

 先日読み終わった「ジャック・ライアンシリーズ」の最新作『米朝開戦』は、既に巨匠Tom Clancy氏が亡くなった後に発売されたもので、その作品はClancy氏が亡くなる数作前から、共著者としてクレジットされていたMark Greaney氏の初・単独著作として刊行されたわけである。そして内容としては、まったく心配のない安定の面白さであったことは、既にこのBLOGでも紹介したのだが、ところで一体、Mark Greaney氏とは何者か? という事が気になったので調べてみたところ、既にいくつか著作があって、おまけにとっくにそれらの作品は、わたしの好きな出版社上位クラスに位置する早川書房から、日本語訳も発売されている事実を知った。
 ならば読まねばなるまい。
 というわけで、調べたらちゃんと電子書籍でも発売されていたので、全く躊躇することなく1冊買ってみた。どうも、シリーズ化されているようで、まずは1巻を読まないと話になるまい。というわけで、わたしが買って読んだ本は、『THE GRAY MAN』(邦訳:「暗殺者グレイマン」)である。
暗殺者グレイマン
マーク グリーニー
早川書房
2014-06-10

 どうやらこの作品は、US本国では2008年に上梓されたらしく(※最初にClancy氏との共著となった『ライアンの代償』が2011年発行なので、それより前ということになる)、日本語版が早川書房から出版されたのは2012年であり、ま、要するに結構前である。わたしもそれなりに本を読んでいる男のつもりだが、まあ、ホントに知らない作品もいっぱいあるものである。そりゃ当たり前か。
 というわけで、現代は電子書籍なる便利なものが発明されているので、読みたいと思った時に即買って読み始めることが可能な、ちょっとしたサイバー感あふれる時代だ。なので、わたしもすぐに読み始めた。結論から言うと、非常に派手なドンパチがあって、世界各国凄腕暗殺者バトルロイヤル的なお話で、若干わたしは、これってあり得るか……? ううむ……。と、手放しでは興奮できなかったものの、主人公のキャラクターは極めて良く、これはもうちょっとシリーズを読み続けてもいいな、と思った次第である。
 お話は、「グレイマン」と呼ばれる主人公が、イラクでアルカイダの戦闘員を片付けるところから始まる。時代的に2008年刊行だから、まだISはいないし、あのアルカイダ指導者も存命な時代である。しかし、その狙撃は、自身の請け負った依頼とは違うもので、撃墜された米軍ヘリの乗員を助けるため、の行動であり、この冒頭で、「グレイマン」なる主人公が、プロの凄腕暗殺者であるにもかかわらず、「許せない悪党を放っておけない」性格であることが明示される。主人公は、その正体を悟られない、誰でもない人間として行動できるからこそ「グレイマン」と呼ばれているにもかかわらず、仕事に関係のないことはしないで立ち去るべきだと自覚しているのに、どうやらそういった、ある種の良心を、そしてその良心に基づく正義を、自らに持つ男であるらしい。
 わたしはこの冒頭から、わたしの脳裏には主人公のビジュアルイメージとして、セクシーハゲでお馴染みのJason Statham兄貴、または、これまた同じセクシーハゲのMark Strong氏あたりを想像した。まあ、きっと、常に眉間にしわを寄せた、強面のハゲでしょうな、と根拠なく思った次第である。つか、この作品はもうとっくに、Statham兄貴の主演で映画になってんじゃね? と思えるほど映画っぽい展開なので、調べてみたところ、どうやらまだ映画にはなっていないようだ。同名の映画は存在するけれど、全く関係ない別モノっすね。おっと!! Greaney氏自身のWebサイトによると、この『THE GRAY MAN』は、コロンビアピクチャーズで映画化が進行してるっぽいですな。しかも監督・脚本は、『CAPTAIN AMERCA:CIVIL WAR』が公開間近のAnthony & Joe Russoの兄弟じゃないか!! これ、マジかな!? やっべえ。超・楽しみですな。
 さてと。物語をざっと紹介すると、主人公GRAY-MANことコート・ジェントリーは10代のうちからSWAT教官だった父の影響で銃器の取扱法や格闘術を身に付け、CIAの工作員として活躍するも、何かが起こったらしく、CIAからBurn Notice(解雇通告)を受け、あまつさえShoot on Sight(目撃次第射殺)の指定まで喰らってしまったらしい。この辺は、かのJASON BOURNEっぽい設定だけれど、一体何があったのかは今回の1巻目では一切説明がないので、シリーズを読み続ければいずれそれが分かるのかもしれないが、とにかく現状では不明である。で、その後、イギリスの民間セキュリティ会社に雇われ、以来そこで汚れ仕事を専門にやっている男という設定である。そして、前述のように、彼は極めて困難な暗殺を成し遂げたり、また一方で、彼が殺す相手は、誰がどう見ても100%悪党だけ、ということで、その世界でも非常に有名な男になるのだが、誰もその正体は知らず、ただ単に、「GRAY-MAN」という超一流暗殺者がいる、という事だけ世に広まっているという状況である。で、その民間警備会社の社長のおじいちゃんだけを信頼しているわけだが、冒頭のアクションで自分のために用意されていた逃走経路をなくしてしまい、一人でイラクからトルコへ逃げるところから物語は始まる。しかし、トルコで無事に迎えに来た仲間と合流するも、仲間がいきなり襲ってくると。実は、GRAY-MANが行った仕事によって怒り狂ったアフリカの政治家が、GRAY-MANをぶっ殺せと吠えていて、信頼するおじいちゃんも家族を拉致されて、GRAY-MANを売るしかない立場に陥ってしまっていたと。そして、GRAY-MANは信頼するおじいちゃんはもうどうでもいいし、よくもオレのこと売りやがったなと怒り心頭なのだが、そのおじいちゃんの孫娘も拉致されていると聞いて、数年前に仲の良くなった思い出のある、あの娘を死なせるわけにはいかない!! と決意して、助けに行く、とまあそんなお話である。そんな性格の主人公なので、読者の共感は得られやすいと思う。
 しかし、おそらく本作で一番難しいのは、そのバランスだろう。娘(確か8歳かそこらのちびっ子)が拉致されているのがフランスのノルマンディーで、GRAY-MANがトルコからフランスへ至る道筋には、GRAY-MANの首に掛けられた賞金目当ての各国特殊部隊の精鋭が待ち受けており――というわけで、そこら中で大バトルが勃発すると。そして毎回満身創痍になり、かつまた、偽造パスポートや武器の調達など、明確にそこへ行く理由があるにもかかわらず、ほとんど無駄足になってしまう過程は非常に新鮮。主人公も、チクショー、無駄足だった!! と反省するのだが、ちゃんと理由があってのことなので、読者的にはGRAY-MANの行動はきちんと理解できるため、ストーリー的には無駄には思えず、相当なピンチの連続も何とか乗り越えていく姿は、非常に微妙なバランス調整がなされている。強すぎたりスーパーマン過ぎたり、あるいは一方でバカすぎると、読んでて冷めてしまうし、敵も弱すぎてはダメだし、極めてこのバランス調整は難しいと思うが、主人公GRAY-MANが妙に義理堅い、良心を備えているという点が核となっているので、まあなんとか、わたしとしては最後まで楽しめた。
 しかし、やはり世界各国の殺し屋たちが、こんな行動をするとはちょっと思えないので、その点は、なんというか、ハリウッド映画的な嘘っぽさが漂っていることは否めないだろう。また、GRAY-MANがちょっと強すぎるような気がするが、ハリウッドアクション映画が大好物なわたしには、かろうじて許せる範囲内ではあっても、この小説を読んで、誰もが面白いと思うかどうかはちょっとばかり自信はない。この辺の作風は、若干、Tom Clancy氏とは違うような気はする。恐らく、Tom Clancy作品よりも、一番の悪党=敵の描写、というか敵のモチベーションがあくまで金、なので、動機が弱いのかな、という気がする。GRAY-MANの戦いは別に世界を救うためではないし、敵の邪悪さも、所詮は金目当てなので、レベルが低いのがちょっと違うという事かもしれない。
 どうでもいいことだが、GRAY-MANを追う各国特殊部隊の中で、一番強いキャラとして設定されているのが韓国の暗殺者だというのも新鮮だった。そういう暗部は、当然どこの国にもあると想像するけれど、果たして日本にも存在してるのだろうか? 陸自レンジャーかな? どうだろう? 元陸自レンジャーの古い友人がいるけれど、あいつ、わたしより体力ないからな……。マラソンやチャリンコレースであいつに負けたことないしな、と平和に思うわたしは、そういう恐ろしい世界とは無縁に暮らしていることを喜ぶべきだろう。やっぱり、そういうのは小説の中だけにしておいて、現実世界では真面目に生きましょう。それが一番ですな。
 
 というわけで、結論。
 まあ、いずれにせよ、こういった小説になれ親しんでいるわたしとしては、大絶賛はできないまでも、十分楽しめました、という感じなので、続きはまた、電子書籍のセールの時期に買って読もうかな、というのが結論です。以上。

 ↓ 続きはいずれそのうちに読もう。これが2作目、らしい。
暗殺者の正義
マーク グリーニー
早川書房
2014-06-10
 

 最初に表明しておくが、こう見えてわたしは女性が大好きであります。
 しかし。散々映画や芝居を観たり、漫画や小説を読んだりしているわたしが、気に入ったり、誉めるのは大抵において男であり、その点であらぬ嫌疑を持たれないようにお願いしたいのだが、現状のハリウッドスターの中では、セクシーハゲでおなじみのJason Statham氏はわたしが非常に気に入っている男の一人である。何しろカッコイイ。いや、わたしの審美眼からすると、別にイケメンとはちっとも思わない、つーかむしろ若干ブサメンなのではという気もするが、それでも、この野郎はいつも渋くてイカすのである。
 わたしは、尊敬と愛をこめて、Jason Statham氏を兄貴と呼んでいるが、彼は、常に眉間にしわを寄せ、強面でバッタバッタと悪い奴をぶっ飛ばす役で、たまーに悪役も演じるが、結果的にはいつも同じような役ばかりを選んで演じており、往年のSchwarzenegger御大やStallone隊長のように、何か血迷ってコメディに挑戦するなどといった暴挙は見せず、一貫してStatham兄貴はおっかないおっさんを演じ続けている。今のところは。
 世にセクシーハゲというジャンルを切り拓き、おそらくは、セクシーハゲ世界選手権大会開催の折には、Druce WillisやNicolas Cage、あるいはMark Strongといった、そうそうたるワールドクラスのハゲオヤジどもと熾烈な優勝争いを演じるに違いない逸材であり、髪の心配を常に抱えて不安な思いをしている世の男たちに勇気と希望を与えてくれる星(スター)として輝いていることも間違いない。
 そんなJason Statham兄貴であるが、実にコンスタントに、年に1~3本は確実に主演映画が公開されるのだが、いかんせん、わたしの大好きなB級グルメ作品であるため、公開規模が小さく、やべえ!! 新作来た!! とやおら興奮しても、近所のシネコンでの上映がなく、結果的にWOWOWでの放送待ち、と相成る作品が非常に多いのが残念である。というわけで、先日わたしが観た『HOMEFRONT』という映画も、その予告を観たときは絶対観てえ!! と激しく思ったものの、あっという間に公開終了で見逃してしまっていた作品なのであった。
 
 日本公開が2014年8月で、WOWOWで放送されたのも今年の夏ごろ(?)とずいぶん前なので、超今さらなのだが、先日のHDD大調査によって発掘された一品で、やっべえ、そういや観てねえ!! ということが判明したので、第一優先で観たわけであるが、内容は、ズバリ言うと上記に張り付けた予告で98%ぐらい語られている。
 潜入捜査官として、とある麻薬組織を見事お縄にした兄貴。ただ、最後の捕り物の際に、明確にギャングの親分に裏切り者とバレてしまい、また、親分のバカな息子も、兄貴は助けたかったのにぶっ殺してしまった。まあそれはバカ息子がバカだったから仕方ないのだが、何とも後味の悪い逮捕劇になってしまったと。
 で、物語は(確か)2年後。捜査官を辞め、名前を変え、とある田舎で愛する小学生の娘と平和に暮らす兄貴。しかし閉鎖的な小さい町では、やたらと兄貴は目立つ存在で、娘もクソ不細工なデブガキにいじめを受ける。が、さすが兄貴の娘、きっちり護身術を伝授されており、デブの鼻っ面に見事に正拳をクリーンヒットさせ一発KO。しかし、そこからがマズかった。デブの母親がとんでもないモンスターペアレントで、学校に怒鳴りこみ、そして兄貴にも喧嘩を売って来ることに。が、当然兄貴に勝てるはずもなく、麻薬を密造している自分の兄に、「アイツ、超むかつくんだよ、マジでやっちゃってよ、兄ちゃん」と依頼。その悪党兄は、ぜんぜん気乗りしなかったのだが、ちょっと忍び込んで書類を漁っていたところ、ステイサム兄貴の過去を知ることになってしまい……というお話である。
 まず、この映画の見どころポイント<1>は、冒頭の潜入捜査官時代のステイサム兄貴の髪型だ。な、なんとロン毛wなんですよね。しかも全く似合っていないw。むしろ、若干プレデター的な趣すらある、いわゆる落武者系である。やばしww。わたしとしては、もう本当にこれだけで、この映画は非常に満足である。
 そして、見どころポイント<2>は、何気にいい役者を使っている点である。その、麻薬密造をしている悪党兄を演じているのは、James Francoである。かの『SPIDER-MAN』シリーズでGreen Goblin Jr.としておなじみのイケメンだが、コイツはかなり才能ある野郎で、演技も非常に上質だし、何よりこいつは勉強が大好きらしく、UCLAやニューヨーク大学などを卒業してから、イェール大学の大学院にも通ってるインテリ野郎である。何本か監督したり脚本書いたりもしており、きっと将来もっとすごいことを成し遂げるのではないだろうかとわたしはにらんでいる有望株である。で、コイツの悪い癖(?)とわたしが思うのは、すごいB級作品に突然出ては、これまたひどいブッ飛んだキャラクターをたまーに演じることがあり、今回はドシリアスとはいえ、別にこの役にJames Francoを使う必要ないのでは……と思ってしまうよな、イケメンの無駄遣いである。もうちょっと、役を選んでいいと思うんだこの人は……でもまあ、James Francoの素晴らしいゲス野郎ぶりによって、ステイサム兄貴のカッコ良さがより一層輝いたと思うので、作品にとっては大変良かったと思う。ちなみに、James Francoの彼女的存在として出てくるゲス女を、Winona Ryderが演じており、かつての美少女もずいぶんと……と思わなくもないが、まったくもってこの映画にはもったいないというか、彼女ももう少し仕事を選んでいいと思うんだ……オレ……『Beetlejuice』とか『Edward Scissorhands』のころは大ファンだったんだぜ……。
 最後、見どころポイントというか要チェックポイント<3>ですが、この作品は、Slvester Stallone隊長による脚本であるという事実だ。こちらの動画をご覧いただきたい。

 この動画で語られている通り、Statham兄貴は『EXPENDABLE』シリーズ以降、Stallone隊長に非常に気に入られており、元々自分が主演するつもりで書いた脚本を、Stallone隊長はStatham兄貴に託したわけである。十中八九、こんなやり取りがあったことは間違いなかろう。
 隊長「いやーいい脚本書いちゃったなー」
 兄貴「オッス隊長、なんすかそれ?」
 隊長「おう、Jasonか。まーたオレ、いいの書いちゃったぜ」
 兄貴「オッス、マジすか」
 隊長「おうよ、今回のはよ、すげえ強ええ男が娘守って大暴れよ」
 兄貴「オッス、マジすか」
 隊長「おうよ。でも、今ふと思ったんだけど、娘がいるって、オレが演じるにはちょっと年取りすぎちったかもな」
 兄貴「オッス、マジすか」
 隊長「おうよ。どうすっか、書き直すかな……つかさ、お前、やる?」
 兄貴「オッス、マジすか。ちょっと読ませてもらっていいすか」
 隊長「おうよ、読んでみろや」
 兄貴「オッス、あざっす。つかこれ最高っすね」
 隊長「おうよ、いいだろ?」
 兄貴「オッス、オレ、やらしてもらいます!!」
 隊長「よっしゃ、じゃあ、オレが制作やったるわ」
 みたいな。ちなみに、上の動画でStallone隊長が語っているストーリーと、出来上がった映画は全然別物になっています。その点がわたしは大変笑ってしまいましたとさ。

 というわけで、結論。
 現状のハリウッド映画界において、Jason Stathamという男は非常に稀有な才能を持ったハゲである。やっぱり、80年代アクション映画が大好物なわたしとしては、今後もStatham兄貴を、正当伝承者として応援して行かざるを得まい。 そして、『HOMEFRONT』という映画は近年のStatham兄貴の映画の中でもかなり上位にランクしていい作品だと思います。以上。

↓ Statham兄貴の最高傑作はどれだろうな……ありすぎて難しいけど、やっぱりこれでしょうか……。
トランスポーター [Blu-ray]
ジェイソン・ステイサム
KADOKAWA / 角川書店
2014-06-27

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