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 なんつうか、観終わった瞬間、ああ、こりゃあ前作のScott Derrickson監督は手ぇ引くわ、とわたしは思った。それほど、前作とはもう全然変わっちゃったな、という作品になり果てており、わたしとしてはかなり残念に思っている。
 なんのことかって? わたしの大好きなMarvel Cinematic Univers最新作、『DOCTOR STRANGE IN THE MULTIVERS OF MADNESS』の、偽らざる感想である。この映画は、わたしとしてはMCUの中でも相当下位に位置するイマイチ作品だったと言わざるを得ないのが1回観て感じた結論だ。
 まずは予告を貼っておこう。Disneyの公式予告はすぐ削除されちゃうので、公式じゃないところにUPされたものを貼っときます。

 本作の予告は、公開が近づくにつれ、だんだん情報量が増えて行ったわけで、わたしも新しい予告を観るたびに興奮は高まっていたのは間違いない。うおお、マジ早く観てーぜ! と、本当に超楽しみに昨日はIMAX Leser 3D版を観に、劇場に向かったわけだが……。。
 本作の感想を、どうまとめたものかと思案したのだが、やはりもう、ポイントごとに箇条書きで書き連ねてゆくしかないと思うので、さっそく初めてみようと思います。
 もちろん、ネタバレには配慮せずに、思ったことを書いてゆくので、また見ていない方はこの辺で退場してください。検索してこんなBlogを読んでいる暇があったら劇場へ今すぐ行くべきです。さようなら。

 はい。それではよろしいでしょうか。行きます。

 ◆テレビシリーズの視聴が必須な物語
 わたしとしては、MCUというシリーズは、その名の通り「Cinematic」である点が大いに魅力であり、あくまで「映画館の大画面・大音量で観るべき」作品だと思っていたけれど……『END GAME』以降、Disneyは、自らの配信サービス「Disney+」において、『WandaVision』『The Falcon and the Winter Soldier』『LOKI』『What IF...?』といったミニシリーズの展開を始めたのは周知の事実であろう。
 これらのDisney+で展開する物語があくまで補完的な物語であるなら、それはそれでファンサービス的な意味で存在意義はあると思うし、実際、その制作予算規模はまさしく「Cinematic」であるので、文句を言うつもりはないけれど、わたしとしては、当面はDisney+に加入する必要はないだろう、と思っていたのに、本作は完全に「それらを観ていないとついていけません」という物語になってしまったのは、率直に言って残念だと思う。
 そう、本作を観る際には、もう完全に『WandaVision』を観ていることが前提となっているのだ。
 しかし、わたしがある意味憤っている(?)のは、実はそのことではない。わたしも、予告を観た時に、ああ、こりゃあ、Disney+に加入して予習しとかねえとアカンな、と思って、ちゃんと予習はバッチリな状態で劇場に向かったのに……本作は、『WandaVision』をある意味無意味にしちゃっている点が、実に腹立たしいのだ。
 その『WandaVision』は、短くまとめると、Visionを喪い、精神に異常をきたしたワンダが謎の「カオス・マジック」を「無意識」に発動して街を丸ごと、そこに住む人たちを巻き添えにして、閉鎖空間に閉じ込め、夢想していた理想の結婚生活を送る、が、ラストで自分が間違ってた、と改心して街と囚われていた人々を開放してめでたしめでたしとなるという、はっきり言って夢オチに近いような、なんとも微妙な物語だったわけだけど、本作では、なんと、その「夢想の結婚生活で出来た想像上の双子の子供をどうしても取り戻す」という夢想の夢想に囚われて、恐怖の大魔王に転生してしまったというお話なのである。もちろん、『WandaVision』の真のエンディングは、子供を忘れられないワンダがスカーレットウィッチの姿で「ダークホールド」を読み解いているシーンで終わったわけだけど、それでも、あれっ!? 反省したんじゃねえの? うそでしょ!? そんなバカな! とわたしは開始20分で思ったし、ワンダがカマータージの魔術訓練生たちを無慈悲にぶっ殺しまくるところで、もう完全に心が冷えました。あのワンダが、とんでもねえキャラに成り下がってしまったことに、心から残念に思う。わたしはてっきり、ワンダを操る真の悪党(例えばマルチバースの扉をどうしても開きたい征服者カーンの手先とか)が存在していて、最終的にはワンダとドクターがそいつを倒す、という物語を期待したのに、全くそんなことはなく、最初から最後まで、ワンダ一人が今回のVillainでした。ホント残念。
 なので、主人公であるはずのドクターは、巻き込まれて事態の収拾に必死で動く、という、スパイディ騒動と同じ構造で、気の毒な大人として描かれているのだ。ついでに言うと、Disneyが公式サイトにUPしているあらすじも、とんでもない嘘で、この点も実に問題があると思う。あくまで、核心を避けて、観客の興味を引くような、「ミスリード」ならもちろんアリだし、問題ないけれど、今回は完全なる嘘なので、そりゃあもう、ナシ、インチキとの誹りを免れようがない、ヒドイあらすじだと言わざるを得ないだろう。
 Disneyが公式で曰く、「最も危険とされる禁断の呪文によって“マルチバース”と呼ばれる謎に満ちた狂気の扉が開かれた」とあるが、実際、ドクターはそんな魔法は使わないし、「何もかもが変わりつつある世界を元に戻すため」に戦う物語でもない。さらに「もはや彼ら(=ドクター&ワンダ)の力だけではどうすることもできない恐るべき脅威」でもないし、「驚くべきことに、その宇宙最大の脅威はドクター・ストレンジと全く同じ姿」もしていない。
 もう観てきた人なら、なんだこのインチキ文章は!? と誰しも思うのではなかろうか。ひどいよなあ。。。本当に。
 ◆新キャラ「アメリカ・チャベス」
 まず、「マルチバース」の扉を開くのは、ドクターの呪文ではなく、新キャラであるアメリカ・チャベスの能力であり、そしてその能力を得るために、狂った(=Madnessな)ワンダが彼女を追い掛け回す、というのが本作の本筋だ。
 ワンダは「妄想の妄想」である我が子が元気にしている「別の宇宙」へ行くために、その扉を開く力がどうしても欲しい、そのためなら人殺しも全くいとわない、という完全にイカレた女になってしまったのが本当に残念でならない。
 そして一方のアメリカ・チャベスはというと、子供時代に、蜂に刺されてうっかりきゃーー!と「感情を爆発」させてしまった時に、マルチバースの扉を開いてしまい、母を失ったそうで、もう何じゃそりゃとツッコミたくなるような過去を持っている少女だ。
 まあ、そのうっかりな過去はどうでもいいし、「身の危険が迫ると別の宇宙に通じる扉を開いて逃げ込む」という設定は、それはそれで受け入れてもいいと思う。そして以来、彼女は72の宇宙を渡り歩いているそうで、とある宇宙でワンダの放った化け物に追われ、その宇宙に存在するドクターに助けられてあと一歩というところで追いつかれ、我々の住む宇宙に逃げ込んできて、我々が知るドクターに助けられた、というオープニングは、非常に見ごたえもあったし、極めて映像も素晴らしかったと賞賛したいと思う。
 なので、アメリカ・チャベスに関しては何の問題もないし、わたしとしては全然アリだ。
 けどなあ……。恐るべき脅威、宇宙最大の脅威は「スカーレット・ウィッチ」になり果てたワンダだし、何もかも変わりつつある世界を元に戻すための戦いは、どうやら次回以降(?)のようだし、とにかくもう、なんというか……ガッカリとしか言いようがありません。
 ◆まったく無意味に登場し、しかも弱すぎて泣けた「イルミナティ」
 本作では、予告の段階から、とあるキャラの登場がほのめかされていて、マジかよ!?と我々を歓喜させていた。それは、あの! 『X-MEN』のプロフェッサーXでお馴染みの、チャールズ・エクゼビアの登場だ。そしてモルドのセリフで「イルミナティ」が現れること、さらに『What IF...』で活躍したキャプテン・カーターの登場もほぼ確定していて、一体全体、どのように物語にかかわるのだろう? と我々を興奮させていたわけだが……登場した「イルミナティ」は、さらに驚くべきことに「ファンタスティック4」のリーダー、ゴム人間でお馴染みのリード博士、さらに「インヒューマンズ」の「しゃべるとヤバい」ことでお馴染みのブラックボルトまで登場するというファン感涙の驚きをもたらせてくれたのに……その弱さはもう、悲観の涙にくれるしかないほどのゴミキャラで、登場した意味は完全にゼロ、ならば出て来ないでほしかったとさえ思う程、ひどい扱いであった。ブラックボルトの死に方、ありゃもう笑うしかないよ……。
 強いて言えば、それほどスカーレット・ウィッチに変貌したワンダが、バランスブレイカーなレベルで強すぎたわけだが、その時点でやっぱり間違っていると思うし、脚本的に0点だと言わざるを得ないと思う。ひどいよね、実際。何のために出てきたのか。。。こういう点が、MCUにかかわってきた前作のDerrickson監督が、手を引いて降板した原因ではなかろうか。。。
 ◆Sam Raimi監督を起用した意味
 なので、本作の脚本は、ある意味これまでMCUとは無関係、だけど、マーベルコミックを知っていて、腕の立つベテラン監督に任せるしかなかったのだろうと思う。その意味で、Sam Raimi監督はきっちり仕事をしたと評価すべきだろう。とりわけ、誰しも感じたと思うけれど、悪の大魔王になり果てたワンダ、に操られた、別の宇宙で平和に暮らしていたワンダ、が血まみれで足を引きずりながら(=もうその様は痛ましくてかわいそうで悲しい!)ドクターたちを追いかけるシーンは、もうRaimi監督の真骨頂であるホラー映画そのままだし、どうでもいいけどRaimi監督の盟友Bruce Campbelll氏もちゃっかり登場するなど、映画としての演出や映像としてのクオリティは極めてハイクオリティで、その点は素晴らしいと思う。けれど……こんな物語(=脚本)を許容したのは、完全にMCUを統括するKevin Feige氏の責任だろう。
 ◆MCUとしての整合性
 そしてKevin Feige氏の責任という点では、例えば『LOKI』において、「Madness」という言葉は重要な意味があったのに、本作ではほぼその意味が踏襲されていないし、これだけの事態がワンダに起こるのであれば、当然『WandaVision』で登場して、ラストでどっかに飛んで行ってしまった通称ホワイト・ヴィジョン、元のVisionの記憶をすべて引き継いだはずの(?)The Visionが介入してこないものおかしいし(そもそもワンダは想像上の息子たちよりも最愛のVisionについて何も思わないのも、わたしとしては悲しい)、ついでに言えばNYCであれだけの騒動が起こったのなら、新キャップことサムの登場もあり得たはずで(スパイディが出て来ないのも変だけど、版権上無理なのは理解できる)、MCUの最大の魅力である「共通した世界観」が機能していない点が、非常に問題だと思う。どうも,MCUのPhase4は、かつてのような緻密に計算された大きな観点がみられず、劣化しつつあるように思えてならない。
 マルチバースという言葉も、結局は「なんでもアリ」のための方便に過ぎず、どうもわたしには、『END GAME』や『LOKI』で言及された「時間の分岐」と、今回の「マルチバース」なるものが同じことを意味しているのか、全く分からなくなってしまった。さらに言うと、いまだに『Shang-Chi』や『ETERNALS』も今後どのように絡んでくるか見えないところがあって、かつてのように「インフィニティ・ストーン」という共通アイテムによって、大きな一本の軸となっていたものが、Phase4においては現状見当たらないのは実に残念だ。
 まあ、おそらくは、数年後に「そういうことだったのか!」と我々を驚かせてくれることになる……のだろうと、今は期待するしかないけれど……なんというか、もう宇宙を創った神様は出てくるわ、死後の世界だとか、神話の世界だとか、別の宇宙(マルチバーズ)だとか、もはや我々「人類が頑張って何とかする」領域を超えてしまっているのは明らかで、そんな物語が面白くなるのかどうか、かなり不安な状態だ。
 そう言えば昨日完結した『MOON KNIGHT』も、もはや完全なるファンタジーで、歯切れも悪く、どう理解したらいいか分からん物語で幕切れだったのも、なんか……不安を増幅させているように思う。はっきり言って、Disney+で配信されているシリーズは(What IF以外)どれも2時間半でまとめれば面白い映画になり得る物語、なのに、TVで全6~9回と長く、どうでもいいような部分もあって、正直ノれないっすな。。。
 ◆理解されないドクターが不憫……。
 わたしは常々、優れた人がわざわざ優れていない人のレベルに降りて、へりくだる必要はないと思っている。なので、ドクターに関して公式で「上から目線」とか表現されるのが好きではない。だって、実際に明らかに「上」な凄い人なんだから、そりゃ当たり前じゃん、と思うからだ。
 もちろん、ドクターは、凄い優れた人間であるにもかかわらず、ちゃんと善良でイイ人なわけで、トニーと同様に、いくら優れていても間違いは犯すし、自分が間違ってたと思えばきちんと改心して、より善い人間であろうと努力しているわけです。わたしとしては、そんなドクターを分かってやってくれよ、と思うのだが……本作では冒頭でいきなり、かつての恋人、ドクター・クリスティーン・パーマーが「別の男と結婚する」その結婚式に参列するシーンから始まる。これはツラいよなあ。。。わたしは男なので、ドクターのつらさ、ドクターが感じる淋しさは心に刺さるし、かと言ってクリスティーンを責めるつもりはないけれど、せめて、全世界でクリスティーンだけは、ドクターのことを理解してくれている人であってほしかったと思った。この点は女性目線だと違うのかもな……。
 ちなみに、本編終了後のおまけ映像に、いきなりCharlize Theron様! が登場したのはビビったすねえ! わたしは詳しくないけど、あのキャラはダークディメンジョンの支配者ドルマムゥ(=ドクター1作目に出てきたアイツ)の妹の娘、つまり姪っ子のクレアというキャラらしいすね。そしてクレアはドクターの弟子であり恋人、になるらしいので、もうクリスティーンはMCUに出て来ないのかもしれないすね。。。はあ、ホント、あんなに頑張ったドクターが不憫でならないす。。。
 
 とまあ、こんな感じ……だろうか。
 そういえば、ワンダや後にドクターも使えるようになる「ドリーム・ウォーク」なる呪文は、別の宇宙の自分を操るというものだったけど、わたしとしてはジョジョ第7部『Steel Ball Run』でお馴染みの「Dirty Deeds Done Dirt Cheap」=D4Cに似てると思ったすね。別次元の自分を連れてくるアレです。まさしくワンダの行為は「いともたやすく行われるえげつない行為」でしたな。

 というわけで、結論。
 超期待したMCU最新作『DOCTOR STRANGE IN THE MULTIVERS OF MADNESS』をさっそく観てきたのだが……昨日の夜、ざっと調べたところでは、大絶賛しているレビューが多いみたいなので、ちょっとわたしにはその心理が理解しがたいのだが、わたしはワンダが狂った理由である、愛するものを喪った痛みに共感することは全くできない。そのような痛みは、わたしもとっくに経験済みであり、それを克服できない人間はいないと思うし、克服できるのが人間だと思うからだ。スパイディのピーター・パーカー君はキッチリそれを克服して前に進み、「大人」になったわけで、ワンダの精神的な幼さ、あるいは、究極のわがまま? は、到底人類が許せるものではないし、もう明確に、人類の敵であると断罪せざるを得ず、これまで描かれてきたワンダというキャラを崩壊させるものだと思う。こんな形でワンダがMCUから退場するなんて……人間であることを自らの意志でやめてしまったワンダ。その点が、極めて残念だ。
 そして事態を収拾させるために頑張ったドクターは本当に素晴らしいし、スパイディ騒動だって全くドクターの責任ではなく、むしろ冷静に対処しようとしたのを邪魔されたわけで、ホント、ドクターを理解してくれない世の中はひどいと思う。
 つうか、なんだかPhase 4に入って、MCUはどんどん変な方向に行っているような気がしてならないですな。。。まあ、数年後、あっさりと、「やっぱりMCUは最高だぜ!」と感想を述べている自分がいそうな気がするし、そう思わせてほしいものです。次は『THOR:Love and Thunder』ですな。まあ、正直あまり期待してませんが。。。そして『LOKI』のシーズン2が超楽しみっすね! 
 そして、わたしが今回、劇場に行って、それもIMAX-3Dで観て良かった! と思った最大の事件は……『AVATAR』新作の3D映像を観ることが出来たことっすね! 超キレイ!! そして超3D! コイツはマジで超期待できそうっすよ!! 以上。

↓ もはやどうしても、Disney+加入は待ったナシです。


 最近、ガンアクションの派手な映画がちょっと流行りなのだろうか。いや、そんなのはずっと昔からあるのだから、別に最近の流行りじゃあないか。強いて言うなら、最近流行っているのは、容赦ない血まみれアクション映画、というべきかもしれない。
 いわゆる「レーティング」というものが映画やTV放送には存在していて、それは法律ではまったくなく、単なる業界内の自主規制ルールなわけだが、要するに、やれ暴力だの、やれ猥褻だの、といった文句を言う人々に対して、いやいやいや、我々はちゃんとそういうのをチェックしてますよ、だからこの映画は15歳以上は観ちゃダメよと警告してまっせ、という言い訳、あるいは自己防衛をするもので、とにかく、予防線を張っているという腰抜け的な意味で、なんか興ざめなものである。はっきり言ってそんな規制の外にいる我々おっさんにはどうでもいいものだが、そういった規制によって、どうも一時期、映画やTVからは血が吹き出たり、あるいは女性のヌードをほとんど目にすることがなくなっていったような気がするけれど、ここ最近は、むしろCGの発達によって、手足がもげたり、銃で撃たれた時の血しぶきエフェクトも派手で、なんだかどんどん過激になっているような気さえする。
 というわけで、今日わたしが観てきた映画『ATOMIC BLONDE』という作品は、US公開時のレーティングはR15+である。だが、ここ日本においては特に指定なし、で公開されており、きっと中学生当時のわたしが観たら大興奮な、血まみれ&ヌードシーンアリの、スパイアクション映画であった。ただし、物語に関しては、正直わたしが勝手に想像していた物語とは全くの別物で、その点に若干驚きつつも、結論としては少々キレが悪いというか、どうも冗長?で、スッキリしない微妙作であった。うーん……たぶん、脚本的にやや凝りすぎ? のキャラ造形で、さらに現代時制と、数日前の事件の回想という枠構造そのものが若干ストーリーのテンポを悪くしているような気もした。結果、どうもわたしには「キレが悪い」ように感じたのである。
 以下、ネタバレに触れる可能性が高いので、気になる人は今すぐ立ち去ってください。

 というわけで、物語はほぼ上記予告のとおりである。ただし、映像は相当恣意的に時系列を無視してそれっぽいシーンを編集して作られており、セリフとシーンが別なものもかなりある。ちなみに、上記予告内で「Asshole(クソ野郎)」と主人公がつぶやくシーンは、本編では「Cocksucker」であった。
 ま、そんなことはともかく。本作の舞台となる時は1989年11月、場所はベルリンである。そう、かのベルリンの壁崩壊の数日前、イギリスMI6の諜報員がソヴィエトKGBに殺害される事件が起こる。東ドイツ(DDR)の秘密警察、通称シュタージにMI6やCIAの活動中のスパイの詳細が記録されたマイクロフィルムがもたらされ、それをシュタージに潜り込ませていた資産から受け取ることに成功したものの、KGBに奪われてしまったのである。しかしそのフィルムがモスクワへ運ばれては超マズイわけで、すぐさまMI6は、近接格闘にも長けた女スパイ、ロレーンをベルリンへ派遣、現地のMI6諜報員パーシヴァルと組んでそのフィルム奪還せよ、と指示するのだが、ロレーンのベルリン派遣さえもKGBには悟られており、到着したとたんにピンチに陥るのだが―――てなお話である。
 こういう流れは、わたしの大好きな海外翻訳ミステリーでは実にありがちで、実際わたしも大好物なのだが、登場する各キャラクターは、ほとんどが「実は彼・彼女は……」といった裏切りをしていて、素直に共感できるキャラクターがどうも少なかったように思う。何と言うか……しつこいぐらいにキャラの行動原理には裏があって、若干やりすぎのようにわたしには感じられた。
 わたしの好みとしては、小説であれば読者、映画であれば観客、の期待や信頼を裏切らないキャラクターが、様々なピンチを持ち前の技量と心意気で乗り切るようなお話の方が、やっぱり共感できるし、ラストもスッキリすると思うのだが、本作はどうもそういうわけにはいかず、行動も遅いし、それほど頭が切れるキャラでもないため、結構観ていてイライラする。ロレーンは、ベルリンへ出動する前に「誰も信頼するな」と言われて送り出されるわけだが、まさしく誰も信頼できない。そして、観客としては、実はロレーンさえ信頼できないのである。この、ロレーンの「実は……」が明かされるのは本当に一番最後なので、正しい観客としての態度は、「そうだったのか!」と驚き膝を叩くべきなんだろうとは思う。けれど、わたしは「なーんだ、やっぱりな」という気持ちの方が強まってしまい、若干がっかりしたことは記録に残しておきたいと思う。
 ただ、本作は、わたしとしては物語自体には上記のように文句を言わざるを得ないものがあったものの、演出や音楽、そして役者陣の熱演はかなり高品位で、映像としての見ごたえやカッコ良さ?はとてもレベルが高かったと思う。
 たとえば、主人公ロレーンを演じたCharlize Theron様がとにかくいちいちカッコイイ! のだ。これはもう間違いない。ロレーンはベルリンについて早々、迎えに来た二人の男がKGBであることを見抜いてぶっ飛ばすのだが(それが予告にある赤いハイヒールでボコボコにするカーアクション)、その背景にはDavid Bowie版の「Under Pressure」が流れていて、そういうアクションシークエンスにはほぼ必ず、当時のヒット曲が使われている。また、今回はTheron様の超絶な格闘シーンもふんだんで、しかもそのアクションシークエンスもやけに長回しな一発撮り、に見える編集がなされている。本当に一発撮りなのか、編集やCGによるマジックなのか良く分からないが、とにかく大迫力である。とりわけ、後半のスパイグラスというキャラを守っての大乱闘は凄い出来で、こういう点は大絶賛したい。
 だた、その反面で、ちょっとしつこいというか、なかなか格闘のケリがつかないのは、やや冗長にも感じられた要因なのかもしれない。まあ、女性なので攻撃が軽くて一発では効かず、とにかく相手が何度も立ち上がってくるので、リアルではあるのかもしれないな……そういう点は、普通の映画のように主人公の一発で相手がKOされるようなものの方がインチキ臭いかもしれないけれど……とにかくしつこいよ、もう! とも感じられた。
 というわけで、以下、主なキャラ紹介と役者紹介でまとめておこう。
 ◆ロレーン・ブロートン:演じたのは上記の通りCharlize Theron様。本作の主人公でイギリスMI6の腕利き諜報員。美しくカッコイイ。演技としてはもう文句なしのクールで危険な女性。どうやら、冒頭で殺害されるMI6の男とは、過去恋人だったらしい。その格闘スキルは超一流で、とにかく殴る蹴るのシーンが満載。ただし、若干頭の回転は問題アリかも……もうチョイ、すべてお見通しよ、的なキャラであってほしかった。そして本作では、Theron様は結構堂々脱いでました。おまけに、フランスの女性諜報員との百合Hシーンなんかもあります。しかしその正体はーーーラストに明かされます。
 ◆パーシヴァル:演じたのはJames McAvoy氏。ワーグナーのオペラ「Parsifal」や円卓の騎士の一人としてもお馴染みの名前ですが、実はわたし、このパーシヴァルがコードネームなのか本名なのか、良く分からなかった。そしてキャラクターとしても、彼の真の狙いは若干分かりにくかったように思う。MI6ベルリン支局の男でロレーンに協力しているように見えるが実は……な展開。そしてその実は……も、さらに実は……とミスリードを誘う複雑なキャラ。
 ◆デルフィーヌ:演じたのは、最近いろんな作品に出て売り出し中のSofia Boutella嬢。とにかく太くキリっとした眉毛が魅力的なフランス美女。あれっ!? マジかよ!? Wikiによるともう35歳だって。完全に20代だと思ってたのに! 今回彼女も脱いでおりまして、Theron様との百合Hのお相手が彼女です。フランスDGSEのベルリン支局所属(?)。大変セクシーな美女であったけれど残念な結末に。
 ◆メルケル:ロレーンを支援する現地工作員。わたしは彼もどこに所属している男なのか、若干良く分からなかった。ドイツ人であることは間違いないけど、東ドイツ人なのか西ドイツ人なのか、実はわたしには良く分かっていない。たぶん東ドイツ人で、西側のスパイをしているってことだと思うけど、どうなんだろう。演じたのは、Bill Skarsgård氏27歳。その名の通りスウェーデン人。彼は、2週間後に日本で公開となる『It』で、あのペニーワース(あの超おっかないピエロ)を演じているので、わたしとしては超注目です。
 ◆スパイグラス:東ドイツシュタージ所属、だけど西側のスパイ。演じたのはEddi Marsan氏。この人は、Robert Downey Jr.氏版の『Sherlock Holmes』でレストレード警部を演じた方すね。
 ◆エリック・グレイ:MI6幹部。ロレーンの上司。イマイチ使えない奴(?)。本作は、ある事件の当事者としてロレーンを聴取をしているのが現在時制で、その事件そのものが聴取中の回想として描かれる形式になっていて、チョイチョイ、この聴取側であるエリックが出てくる形になっているのだが、それが若干、物語のテンポを悪くしているように感じた。演じたのはToby Jones氏。まあ、特徴のある顔なので、結構いろいろな作品でお馴染みですが、そうだなあ、わたしとしては、彼はやっぱり『CAPTAIN AMERICA』に出てくるヒドラの悪い博士役が一番覚えてますな。
 ◆カーツフィールド:ロレーンの聴取に同席するCIAの男。作戦中、CIAはほぼ関係していないのだが、実は……という展開。演じたのはJohn Goodman氏。それこそそこらじゅうの作品に出ているベテランですな。

 最後に、監督についてメモして終わりにしよう。本作を撮ったのはDavid Leitch氏。もともとスタントマン→スタントコーディネーターとしてのキャリアが長い人で、数多くの作品に参加しているらしいが、監督としては、クレジットはされてないけれど、わたしの大好きな『John Wick』を共同監督した方だそうですな。単独監督作品としては本作が初めてだそうで、そのアクションはスタントマン出身だけに、大変見ごたえはあります。何と現在、『DEADPOOL2』を制作中だそうですね。

 というわけで、結論。
 実はわたしは、本作は『John Wick』女版、的な凄腕暗殺者が活躍する物語かと思いきや、意外と正統派なスパイアクションであった。しかし、キャラの行動が若干わかりづらく、ちょっと盛りすぎな脚本だったようにも感じ、観終わった後、何となくキレが悪かったな、と感じたのである。しかし、そのアクションや演出、背景に流れる音楽など、センスはかなり上質であったことも、また確かであろうと思う。でもなあ、わたしの好みではなかったかな……わたしとしては、『John Wick』のような単純一直線なお話の方が好きだし、もっと主人公には、何もかもお見通しだぜ的な頭のキレる人物像を期待したかったす。なので、結論としては、若干イマイチだったかも、というのがわたしの偽らざる感想です。以上。

↓ ジョンさんは最高です。早く「3」が観たいすなあ。


 日本における2013年の洋画興行において、おそらく業界関係者が一番驚いた作品は、なんと42.3億もの興行収入を上げた『TED』であろう。わたしも、こういう下ネタ満載のアメリカンギャグ映画が売れるとは全然思ってもみなかった。事実、 公開時は253スクリーンとやや小さめの規模で封切られ、3.2億、3.3億、2.98億と恐ろしく好調な週末興収を稼ぐに至って4週目からは373スクリーンにまで拡大され、その後も順調に興収を重ねたという近年まれに見る「後伸びヒット」をかました作品である。まあ要するに、当初はまったく期待されていなかった作品がグイグイ伸びたという非常に珍しい映画だ。
 監督したのは、Seth MacFarlane。いかにもモテそうにない愉快なおっさんだが、この『TED』はUS国内では2012年の6月公開で2億ドル以上の大ヒットとなり、2013年のアカデミー賞授賞式の司会を務めることとなった。しかし、生来の空気を読まないギャグ体質が残念ながら顰蹙を買い、本人ももう二度とアカデミー賞の司会はやらんと言っているようで、わたしもその年のアカデミー賞授賞式をWOWOWの中継で見たけれど、確かにひどかった。
 ま、そんなSeth MacFaelane氏だが、『TED』の大ヒットを受けて 調子に乗って制作した映画が『A Million Ways to Die in the West』(邦題:荒野はつらいよ~アリゾナより愛をこめて~)である。WOWOW放送を録画しておいた奴を、今日やっと観てみた。

 残念ながらこの映画は、US本国でも4313万ドルと、『TED』の5分の一程度しか稼げなかったし、日本でもまったく売れなかった作品である。あまりに売れなくてあっという間に公開が終わってしまったのでわたしもすっかり見逃してしまっていたのだが、改めて観てみて、なるほど、こりゃアカンと思った次第である。
 物語は、1882年アリゾナを舞台に、彼女に振られてふてくされて引きこもる羊飼いのまったくイケてないおっさん主人公が、街にやってきた悪党をやっつける話である。脚本的には特に見るところもなく、とにかくストーリーに関係ないギャグがそこらじゅうにちりばめられた、Seth MacFarlaneの、Seth MacFarlaneによる、Seth MacFarlaneのための映画であった。そのノリはまさしく悪ノリであり、ギャグもほぼすべてうんこ、SEX、人種差別的なもので、実に下品きわまる映画であった。別にわたしも下ネタに抵抗があるわけではないし、ギャグはギャグとして十分受け止めることのできる男だと思っているが、いかんせん、やりすぎというか、残念ながらまったく面白くないのが致命的である。
 この作品がWOWOWで放送されたのが1月4日なのだが、その日は放送をわたしは観ていたものの、開始19分で寝てしまい、おとといの夜、また観てみようと思って73分ぐらいのところでまた寝てしまい、ようやく今日、3度目にしてやっと最後までちゃんと見た。まあ、そんな映画です。
 この、Seth MacFarlaneという男は、脚本も書くし声優もやればアニメーター、歌手もこなすなど、恐ろしく才能あふれる男なのだとは思うが、ちょっとね……ちょっと無理です、わたしは。ただまあ、すべて確信犯としてやっているわけで、ファンはきっといるのだろう。実際、『TED』は大ヒットしたわけだし。まあ、去年公開された『TED2』は、US本国で8100万ドルに留まり、前作の半分以下に落ちてしまった。ただ日本では25億も稼いだのかな。それは非常に立派な数字である。ちなみにわたしは『TED』はそれほど面白いとは思っていないので、どうでもいいです。この人は。

 じゃあ、なんでわざわざ録画までして観たかというと、出演者がかなり豪華だからである。まず、主人公を振る元彼女を演じているのは、わたしが大好きな三大ハリウッド美女の一人、Amanda Seyfriedちゃんである。『TED2』でもヒロインを演じた彼女だが本作では、またひどい役で、彼女と言えばその大きな目がチャームポイントだが、「このギョロ目女が!!」とひどい言われようであった。そして主人公と恋に落ちて(?)拳銃のコーチをしてくれる女性を演じたのが、MADMAXのフェリオサでお馴染みのCharlize Theronで、本作でも非常に綺麗な美人さんであった。彼女は非常に良かったです。可愛くてカッコイイ。なんでまた主人公のようなイケてない男に恋に落ちたのかは全く理解できなかったけど。そして悪党を演じたのが、マスター・クワイ=ガン、あるいは戦うお父さん・ブライアン・ミルズこと、Liam Neeson氏である。しかしまた、なんでこの映画に出ることをOKしたんだろうか……と思うぐらいひどい扱いで、ケツ出しで失神するぐらいなら5万歩譲ってよしとしよう、だけど、そのケツにお花をブッ刺されて放置されるって……ここはさすがに笑わせてもらいました。そして、恋敵のイヤミな金持ちをNeil Patrick Harrisが演じていて、彼はブロードウェー・ミュージカルの活躍でも有名で、何度もTONNY賞授賞式の司会をしている男だ(2015年も彼でしたね)。本作では、これはたぶんミュージカルが元ネタなのでは? というギャグも多かったのだが、残念ながらわたしにはよく分からなかった。
 そのほか、カメオ出演でいろいろな有名役者が出ていて、おそらくはSeth MacFarlaneがそれだけUS本国では愛されキャラなんだろうな、ということは察することが出来た。チラッと、Back to the Futureのドク本人も出てくるし、今年公開の『DEAD POOL』でお馴染みのRyan Reynoldsも出てたし、ラストはJamie Foxxも当たり役Djangoの姿で出てくるし。まあ、そういう楽屋落ちめいたワイワイガヤガヤ感も、はっきり言って鼻につくと言うか、一人でよがってろ!! というわけで、わたしとしては冷める一方であった。

 というわけで、結論。
 『A Million Ways to Die in the West』、邦題『荒野はつらいよ~アリゾナより愛をこめて~』は、ちょっと日本人にはかなりのビーンボールで、悪球好きの岩鬼でも手が出せない、相当な大暴投であろうと思う。よって、普通のストライクゾーンの持ち主は、黙って見送るほうがよさそうだと思います。以上。

↓ 『TED』ならまだ普通の人にもかろうじて通じるんですが……。サーセン。『2』は観てないです。
テッド&テッド2 ブルーレイ・パック(初回生産限定) [Blu-ray]
マーク・ウォールバーグ
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
2016-01-20

 

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