こりゃまたわっかんねえ映画だなあ……というのが、わたしの偽らざる感想である。
 先日、夜、もう寝るべか、と部屋の電気を消して電子書籍を読もうとベッドに横になった時、突然HDDデッキが動き出し、何かを録画し始めた。お? なんじゃ? と思ったものの、わざわざ確認することはせず、その時は放置したのだが、翌日、そういや昨日の夜は何を録画したんだろうとふとチェックしてみると、なにやら『ロブスター』なる映画が録画されているのを発見した。
 『ロブスター』……どんな映画だっけ? と考えること3秒ほど。すぐに、あ、ひょっとしてアレか? 独身者が虐げられていてカップルにならないと動物だか何だかに変身させられちゃうっていう、あのへんな話か? とすぐに記憶がよみがえった。ははあ、やっとWOWOWで放送されたのか。ならばちょっと観てみるか。というわけで、再生を開始した。結論から言うと、この物語には様々なメタファーめいた、いわば裏の意味がたぶんあるわけだけれど、ズバリ言ってわたしの好みには全く合わず、なんだか……ガッカリであった。以下、いつも通りネタバレまで書くかもしれないので、気にする方は読まないでください。

 とまあ、そういうわけで、物語は基本的に上記予告の通りである。
 が……実のところ、作品の中ではほとんど何も説明されないので、実際良くわからないことが多い。物語は、冒頭50代ぐらいの疲れた表情の女性が運転する車内の映像から始まる。そしておもむろに車を止め、銃を取り出し車外へ出る。するとそこには、草を食んでいる2頭のポニーがいて、何の脈絡もなく、そのうちの1頭に銃を向け、3発発砲、ポニーを殺す。なんのこっちゃである。そして、場面はどうにもさえない男が妻と別れ、ライトバンに乗せられてホテルへ到着し、私物をすべて取り上げられ、説明を受けるシーンに代わる。服や必要なものはすべて支給する。滞在日数は45日。その期間内にカップルにならないと動物?に変身させられてしまうのだが、あなたは何になりたい?と質問を受ける。どうやら男が連れてきたわんこは、自分の兄貴(が犬に変えられてしまった姿)らしい。「ロブスターがいい。100年生きるっていうし、海も好きだし。死ぬ直前まで生殖能力があるし」「いい選択ね」とまあこんなやり取りがあって、じゃあ、初日は拘束するから、と、左腕をベルトに拘束され、その体制ではズボンも脱げずにやっとこさ、ベッドに入る。そして翌朝から、奇妙な滞在記が始まるーーーてなお話だ。
 良くわからないのだが、どうやら「独身者」は虐げられているというか、完全に人権をはく奪されているらしく、街に住むことは許されていないようで、そういった「不法独身者」というか「野良独身者」は、森にコロニー?を築いて暮らしているらしく、ホテル滞在者は、その森に住む野良独身者たちを麻酔銃で「捕獲」すると、滞在日が1日増える、らしいことも語られる。ちなみに、森には動物に変えられちゃった元人間と思われる動物たちが結構うろうろしていて、森の中にラクダがいたり、やけにシュールな絵面であった。
 そして動物に変えられてしまう、というのも、全く説明がなく、何らかの謎テクノロジーによるもののようで、劇中1回だけ、「THE TRANSFOMATION ROOM」なる部屋は出てくるが、どんな仕掛けなんだかさっぱりだ。魔法なのか科学技術なのか、一切触れられないままである。
 かと言って、街には全く普通に現代文明が築かれており、独身でない(=結婚している)なら普通に生活しているようで、意味不明なディストピア的な世の中でもない。ただ単に、独身=アウト、という全くの不条理世界である。しかも、その街とホテル、それから野良独身者たちが住まう森、の地理的な位置関係がまったく良くわからない。後半、主人公は、ホテルから脱走し、野良独身者の群れに加わるのだが、その野良独身者たちには女性のリーダーがいて、恋愛禁止の妙に厳格なルールの元に暮らしている。しかし、そこでは完全野宿のホームレススタイルで生きているのに、たまに、その女リーダーはきちっとビジネススーツに着替えて、街にある実家に帰って、良くわからないけれど両親にちゃんとやってるところを見せたりもする。しかもテクテクと徒歩で街へ向かうわけで、どれだけ遠いのかとか、まったく良くわからない。街に行く理由は……生活物資の調達なのかな、あれは?
 というわけで、要するに、まったく理解できないルールに縛られた人々を描いている物語である。
 これを現代社会に当てはめると、「政府の意味不明な方針・法律に対してまったく疑問を持たずに、ある意味Naivに通常の生活を送っている人」、それから、「きちんと考えてその謎ルールに異を唱え、世間から逸脱している人」、という構造のような気もするし、まともに考えたが故に周りからはアウトサイダーだと見做されてしまうと、こういう扱いを受けることになる、みたいなメタファーなのかしら、ということは確かに想像できる。できるけど……浅いというか……突拍子もないというか……回りくどいというか……はっきり言って全く心に響かない。
 恐らくわたしの心に響かなかった理由は、以下の2点のような気がする。
 1)独身=悪、結婚しないと動物にしちゃうぞ法、の成立の背景が全く不明である点
 どんな悪法であれ、一応はその背景というか思惑があるはずで、反対するにはその成立理由を論破する必要があると思うのだが、その点について何の説明もないので、どうもキャラたちの動機が理解できない。嫌なら結婚すればいいじゃん。例え仮想結婚であろうと、お相手候補をあてがってくれるんだから。もし、きちんとしたこの法の成立背景が語られていればそう思うかもしれないし、めちゃめちゃな理論ならふざけんな、と世界観を理解できるかもしれないけれど、そこが語られなければ戸惑うしかない。そして、そういう背景を理解せずに、単に表層の現象だけで政府批判をすることは、どっかの野党のような愚かさの極みであり、わたしには全く共感できない。想像するに、結婚しないと動物にしちゃうぞ刑のアイディアありきで、細かいことは何も考えていなかったのではなかろうか……。確かに抜群に面白いアイディアであることは大いに認めます。コメデイにした方が良かったんじゃね……?
 2)主人公の男がクズ過ぎる。
 これは演技のせいでなく純粋に脚本的な問題だろう。この映画を観て、主人公の男の心理を理解できる人っているのかな? いや、いるだろうけど、わたしにはできなかった。だって、主人公は、とりわけ動物にしちゃうぞ法に対して異論を持っているわけではなく、かと言って独身でいたいとも思っていない。なぜならちゃんとホテルで女性を口説こうとするし。上手くいかないのは自分に魅力がないせいで、せっかく知り合った男が晴れて女性とカップルになったら露骨に妨害活動するし。何なの一体。そもそもなんで脱走したんだコイツ? いや、脱走したのは、せっかくホテルでカップル契約した非情な女性をぶっ殺したからだろうけど(そしてぶっ殺したのは、犬に変身させられてしまった兄貴を殺されたからだろうけど)、野良独身者グループに参加した意味も分からない。おまけに、そこでは恋愛禁止なのに、あっさり変な女性に恋しちゃって、今度は野良独身者グループの女リーダーをぶっ殺そうとするし。わたしには主人公の心理が全く意味不明で大変イライラした。思うに、この主人公は実に動物的なのではなかろうか。要するに、食って、寝て、SEXする。それだけが主人公の行動原理で、そこに人間的な心情はほとんどなく、自らの欲を妨害する存在を避ける・排除する、というだけだったような気がする。つーか、やけにSEXに対してだけは貪欲で、実に気持ちが悪い。ビジュアル的にも非常にキモ男で、一言で言うと、クズ野郎、ではなかろうか。なので、まったく心に響かなかった。
 
 というわけで、残念ながらこの映画はわたしには全く楽しめなかったのだが、出演キャスト陣はなかなか有名どころが揃っていた。まず、主人公のキモ男を演じたのは、ミスター・富士額でお馴染みのCollin Farrell氏である。元々アイルランドのダブリン出身のFarrell氏であるが、どうやら本作はほとんどをダブリンで撮影したらしいですな。本作では、ぱっと見ではFarrell氏には見えない、実にキモチ悪い、中年の腹の出たキモいおっさんで、おそらくは大多数の女子は、生理的に無理、と評するのではなかろうか。ただそれは、Farrell氏の役作りが完璧であるが故で、実際、演技としては素晴らしいと言えると思う。まったく共感できないけれど、まさしくそういうキャラを目指したのでしょうな。
 次。森に住まう謎の野良独身者グループの女リーダーを演じたのが、フランス美女でお馴染みのLéa Seydoux嬢。この女子はホントに独特な微妙なツラというか……『007 SPECTRE』では、微妙ツラだけど妙にエロカワイイのが大変極上であったけれど、本作では無表情で全く笑わない、リーダー然とした女子を熱演されていたと思う。なんでまた彼女はフランス語をしゃべるシーンがあったんだろう? いや、そりゃ彼女がフランス人だからだけど、なんなんだ? あれか? 実は世界観的に、既にヨーロッパ全土で「独身は動物に変えちゃうぞ法」が支配しているってことなのか? フランス語を喋らせる必然性があったのか、わたしには全くわかりません。
 次。主人公の数日前?にホテルに収容され、主人公とちょっと友達になるも、さっさとホテル内で一番かわいい女子とよろしくやって、主人公に露骨に恋路を妨害される変な男を演じたのが、若き「Q」でお馴染みのBen Whishaw君。私生活ではLGBTだそうですが、それで思い出したけど、本作における独身=悪、という風潮は、要するにきっとなんらかの人口減少にあって、生殖し人類を存続させることが最も重要とされている的な世の中なのかな、とわたしは思っていたのだが、ホテルに収容される際に、LGBTでも全然OKらしいことが語られるので、どうも生殖が最優先ではない、みたいである。その点も実にふわっとしていて、わたしは実にイライラした。なお、Ben君の、なんというか……若き「Q」で見せたような、いかにも現代の若者めいたキャラの芝居は非常に良いと思います。
 次。Ben君同様に、主人公とほぼ同時期にホテルに収容されて主人公とちょっと仲良くなるおっさんを演じたのが(ええい……!役名が一切ないから説明するのがめんどくさい!)John C. Reilly氏。もう大ベテランでかなり多くの作品で見かけるおっさんですな。最近では『KONG:Skull Island』にも出てましたね。本作での役は……主人公に利用されちゃう、と言っていいのかな、まあとにかく気の毒な、そして全くモテなそうな、キモイおっさんでしたね。
 最後。主人公が惚れてしまう、野良独身者キャンプにいた目が悪い女性を演じたのがRachel Weiszさん。この方も、元々大変な美人なのに、本作では若干薄汚れてぱっと見ではRachelさんとすぐに分からないような容貌でした。わたしがこの方で一番印象深いのは、『Enemy at the Gates(邦題:スターリングラード)』で、Jude Law氏演ずる主人公と恋に落ちる女性役ですかねえ。あの、兵舎でのHシーンはやけにエロかったすね。全然関係ありませんが、この方は最強イケメン007でお馴染みのDaniel Craig氏の奥さんす。

 というわけで、もう書くことがなくなったので結論。
 WOWOW放送されたので、ふと観てみた映画『THE LOBSTER』という作品は、まったくわたしの趣味には合わなかった。しかし、どうも世間的には、こういう雰囲気重視のシャレオツ系?映画を喜ぶ風潮があり、RottenTomatoesをはじめとしてやけに評価は高いようである。おまけになんと、アカデミー脚本賞にもノミネートされているわけで、本作を楽しめなかったわたしの理解力が劣っているんじゃねえかという気もしなくもない。そりゃあね、すべて説明しろとは思わないよ。でも、せめて主人公の行動は理解したいわけで、そこの共感なしには、わたしとしては面白いとは全く思えないのである。一言で言うと、キモイす。なのであまりオススメはできないす。以上。

↓ なんとなく主人公のビジュアル的なダサさ加減で、この映画を思い出した。こちらは最高に面白いです。
her/世界でひとつの彼女(字幕版)
ホアキン・フェニックス
2014-12-03