すっげえものを観た。
 4日前に、わたしの尊敬してやまない作家の先生からメールがポロリンと来て、おや、お久しぶりっす、と内容を読んでみると、「ぽっかりスケジュールが空いたのだが、暇ならちょいと飯でもどうか?」とのことであった。半年ほどお会いしていない方だったので、「オッス、承知っす」と即レスし、昨日銀座で会ったところ、これから映画館へ行こう、とのこと。「映画? ええと、イイっすよ。何観るんすか?」と連れて行かれたのが、東銀座の東劇である。というわけで、わたしが昨日観たのは、いわゆる「ゲキ×シネ」という劇団☆新感線の公演を撮影し、映画館で上映するもので、演目は『蛮幽鬼』という作品であった。
 2009年に上演され、ゲキ×シネとしても2010年に公開されている作品なので、超いまさらなのだが、わたしは昨日、初めて観た。これが大変面白く、とにかく熱くて大興奮。わたしは、こりゃあすげえ、ともう完全脱帽せざるを得ないのであった。

 物語は、一人の男の復讐譚である。中国と思われる国に留学していた4人の男。リーダー格の男が殺され、主人公はその犯人として逮捕抑留される。残りの二人が、「アイツが犯人だ!!」と証言したゆえである。そんな主人公が、監獄から10年後に脱出し、二人への復讐のために故国へ舞い戻ってくるという話で、どうやら『モンテ・クリストフ伯』をベースにしたお話らしい。
 しかし、物語的には、観ていてちょっと主人公や周りのキャラクターが迂闊すぎるというか、えええっ!? と思えるような行動を取るので、意外と突っ込みどころは多々あるし、客席へ向けたギャグがちょっと過剰なのでは、と言うような部分もあるのだが、もう、はっきり言うと、そんなこたあどうでもいいというか、そんな点を突っ込むのはもう野暮の極みであろう。とにかく、凄まじい熱量で圧倒的なのである。
 このゲキ×シネというものはわたしは初めて観たのだが、役者の表情も良く見えて、生での熱量には恐らく及ばないだろうけれど、生で遠い席にいたら全然見えないような役者の細かな表情まで見れる点は明らかにメリットであろう。しかし、それでもやはり、わたしとしては、これはライブで観たかった。これ、生で観ていたらもう、ぐったり疲れるというか、確実に興奮はさらに倍増していただろうなと思う。なので、生で見られなかったのは実に残念に思う。わたしは特に劇団☆新感線のファンではないので、全然この作品を知らなかったのだが、セットや衣装もかなり金がかかっているし、非常にクオリティは高い。恐らくは、日本の演劇界において別格クラスの存在であろうということは想像に固くない。高い人気が、高いクオリティに支えられたものであろうことは、作品を観ればよく分かる。とにかく、何度も言うが、熱量が凄まじいのだ。この恐ろしく超ハイカロリーな作品を支えているのは、おそらくは役者陣の汗だくな熱演であろうと思う。
 しかし残念ながら、全然詳しくないわたしは、出演している役者も知らない方が多く、もうちょっと予習してから観るべきだったという気もしている。だがこの作品は、新感線の方ではない、有名な俳優も多く出演していて、わたしはとりわけ以下の4人の役者の熱演に圧倒されたのである。
 恐らくは主役から紹介すべきだとは思うが、わたしが一番驚き、すげえと思ったのは、早乙女太一氏だ。名前と顔は知っていても、わたしは彼の演技を初めて観た。そして驚愕した。この人は、おっそろしく殺陣が華麗で美しく、相当な技量を持っていることを初めて知った。これはカッコイイ。しかも、さっき調べたところによれば、早乙女氏は1991年生まれ。現在24歳だが、この作品当時の2009年は18歳と言うことになる。すげえ。とにかく美しい。恐らくはダンスも相当な使い手なのではないかと思わせる華麗な殺陣は、わたしが知る限りにおいてナンバーワンだと思った。ただ、台詞回しは舞台では完璧なものの、ちょっと映像作品向きではないような気もする。声が非常にカッコ良く、まるで声優のような台詞回しだが、自然さが求められる映像作品ではどうなのか、気になるので今後、注目して行きたいと思う。とにかく、殺陣が素晴らしい役者である。
 そして主役は、上川隆也氏である。これまたわたしは全然知らなかったのだが、元々この方はキャラメルボックス出身で、演劇人なんですな。そうだったんだ。さんざんテレビドラマや映画でお馴染みだが、彼の演技も、思い起こすと、映像よりも舞台栄えのするもののように思う。今回もうずっと汗だく。滑舌も素晴らしく非常に聞き取りやすい。基礎がきっちり訓練されていて、素晴らしい熱演だった。
 さらに、この作品には近年とみに活躍が目立つ堺雅人氏がとあるキーキャラクターを演じている。笑顔で人を殺す暗殺者ということで、これはまあ、いつもお馴染みの堺氏の演技であったが、わたしは野暮を承知で言うけれど、彼の野望や行動原理が最初からバレバレで、ちょっと主人公が迂闊すぎだろ、というか、別に驚きはなく、物語としてはとりわけ共感はできなかった。ただし、演技は凄まじく高品位なもので、物語の世界に引きずり込まれることは間違いない。すっげえです。熱が。
 最後、ヒロインを演じたのが稲森いずみ嬢である。このところあまりお見掛けしないような気もするが、物語の進展にしたがってどんどんと重要な役割となるヒロインを熱演しており、非常に素晴らしかった。美人ですなあ、はやり。線は細いけれど若干背が高いですね。まあ、華奢な体でゴツイ男たちの中で見劣りしない堂々たる演技ぶりだったと思うし、流す涙は生のライブでは到底分からなかっただろうと思うと、ゲキ×シネではアップで見られたので、この点ではゲキ×シネの大きな優位性を感じることが出来た。
 なお、脚本は、新感線の座付脚本家としてお馴染みの中島かずき氏。元・双葉社の「クレヨンしんちゃん」の担当編集としても有名だが、2010年に退職したんだそうですな。逆に言うと2010年までは社員だったわけで、よくもまあ、そこまで精力的な活動が出来たものだと驚きである。わたし的に中島氏は「仮面ライダーフォーゼ」の脚本家としてお馴染みだが、特徴(?)として、小さな役のキャラクターにもしっかり性格付け・動機が設定されており、且つ又物語が常に熱い(=これは要するに、キャラの台詞がいちいちカッコ良くてグッと来るからなんだと思う)、そんな作品を書く人だというのがわたしの認識である。本作でも、その熱さやキャラの隅々まで行き渡る性格付けは本当にお見事でした。素晴らしい作品だったと思います。

 というわけで、今日は短いけれど結論。
 何の予備知識もなく突然観ることになったゲキ×シネ『蛮幽記』は、想像をはるかに超えたスケールと熱演で、ものすごいカロリーの高いエンターテインメントであった。とにかく凄かった。マジでこれはライブで、生で観たかった。まだまだわたしも勉強が足りないですなあ。全然知らなかったことが実に悔やまれる思いであった。以上。

↓ 一応、DVDは出ています。が、これは大スクリーン&爆音で観るべきだと思うな。