昨日の夜、19時くらいに家に帰って、飯食って風呂に入り、20時くらいになったところで、もはや何もすることがなく、読む本はあるけどなんとなく本を読む気になれず、一体全体、わが生命活動は何のために機能しているのだろうか、と深刻な謎にぶち当たり、こうして生きていることを含め、何もかもがどうでもよくなったわたしだが、そういう時は映画を観るに限るので、最近どんなのをWOWOWで録画したっけ……と、さっそくHDD内を捜索してみた。
 すると、まあ録画したはいいが、ホントにオレ、これらを全部観るのだろうか……?  という完全に自らの行動を否定する思いにとらわれたわけだが、またHDDの整理しねえとな……というため息とともにスクロールしていくと、一つの映画のタイトルに目が留まった。そのタイトルは、『しあわせへの回り道』というもので、どんな映画か全く記憶にない。タイトルから想像できる物語は、おそらくは中高年を主人公として、きっと生き急いだ人生を顧みて、回り道したっていいじゃない、的な人生に気づいてめでたしめでたしであろう、というものであった。もちろんそれはわたしの完全なる予断であって、実際はわからない。とりあえず、なんでこれを録画しようとしたんだっけな? という謎を解くべく、まずは再生ボタンを押して観はじめてみた。その結果、ほぼ最初の数分で謎が解けた。この作品は、映画館で予告を観て、ふーん、面白そうかも、と思った作品だったことを思い出した。
 主役?は、イギリスが誇る名優Sir Ben Kingsley氏。元々はRoyal Shakespeare Companyで活躍していたが、映画ではほぼデビュー作の『GANDHI』において、タイトルロールのマハトマ・ガンジー氏を演じていきなりアカデミー主演男優賞を受賞し、以来数々の作品に出演している大ベテランだ。その彼が、たぶん超久しぶりにインド人役を演じた作品で、彼扮するインド人タクシードライバーが、アメリカ人中年女性に運転を教える映画だ。
 ああ、これか、というわけで、わたしは本格的に視聴を始めたのである。

 まあ、上記予告でその雰囲気は分かると思うが、実際のところ、わたしの予断はおおよそのところは合っていた。そして、すげえ感動したとか、超面白かった、というわけではないし、それなりにツッコミどころはあるのは確かなのだが、結論としてはまあまあ面白かったと思う。
 まずどんな物語かざっとまとめてみると、たしか50代(正確な年齢は忘れた)の主人公、ウェンディは売れっ子の女流書評家としてそれなりに上流な生活を送っていたのだが、ある日突然、夫から離婚を切り出される。夫曰く、君は俺より本が大事なんでしょ、俺がいなくても全く平気だし、俺もさっさと(浮気相手の)若い女とヤリまくりたいから別れようぜ、というなかなかヒドイ理由であった。勿論納得のいかないウェンディは、泣き・怒り・悲しみ、と激しい反応を示すが、残念ながら夫サイドは取り付く島もなく、離婚協議へまっしぐら。そんなしょんぼりな状態のウェンディは、夫に離婚を切り出された日に乗ったタクシーに忘れ物をしてしまうが、ドライバーは律儀にそれを翌日届けてくれる。ふと見ると、そのドライバーは、日中はドライビングスクールの先生として働いているようで、名刺をもらい、はたと、そうだ、運転を習ってみようかしら、と思いつく。というのも、ウェンディはマンハッタンのアッパー・ウェスト(ええと、セントラルパークの左側、すね)に暮らしており、これまでまったく車が必要になることがなかったため、免許を持っていなかったのだ。折しも娘は大学を休学して遠く離れた農場で働いている。いままでは、夫が運転担当だったけれど、いっちょ、娘の下に、自分が運転して行ってみようかしら、てなことである。そして、律儀なインド人ドライバーに運転を習ううちに、これまでの人生を振り返りながら、新しい道に向かって前進するのだった……的な物語である。そしてサイドでは、インド人ドライバーのこれまでの過酷だった人生や今の生活ぶりが描かれ、二人の心の交流が描かれていく、とまあそんな映画である。ええと、結構テキトーなまとめです。
 こんな物語なので、ウェンディサイドのお話と、インド人サイドのお話があるわけだが、わたしはやっぱり、Sir Kingsley氏の演じるインド人の物語に非常に興味を持った。ダルワーンという名の彼は、元々インドで大学教授として教鞭をとっていたのだが、シク教徒であり、かつてインドにおいて政治的弾圧が激しかった時に両親を殺され、自身はアメリカに政治亡命してきた過去があり、現在はれっきとしたUS-Citizenである。だけど、シク教徒はターバンが戒律上の義務なのでやたらと目立ち、US国内でも差別はあまり前のように受けてきたのだが、そんなひどい状況でも、教養ある男として法を守り真面目に生きてきた、というキャラである。そんな彼が、運転が怖くてたまらないウェンディに、「止まるな。アクセルを踏むんだ。そして前へ進め」と辛抱強く教えることで、ウェンディは運転も何とかできるようになり、さらには、人生も前へ進むに至る、とまあ、非常に美しい展開となる。なので、観ていて不快なところはほぼなく、大変気持ちの良い映画、であった。
 なお、本作は、「The New Yorker」誌上に2002年に掲載されたエッセイが原作となっているそうで、原作は小説ではなく、エッセイストの体験談なんだそうだ。へえ~。
 わたしとしては、一番の見どころは、この脚本にほれ込んだというウェンディ役のPatricia Clarkson女史と、元インド人のダルワーンを演じたSir Kngsley氏、この二人の演技の素晴らしさだろうと思う。二人とも、大変素晴らしい芝居ぶりで、とても好感が持てた。まず、Patriciaさんは、現在57歳だそうだが、たいへんお綺麗で、落ち込みまくって髪ぼさぼさでも、何となく品があるし、決めるおしゃれな服装もよく似合っているし、また、免許試験合格の時のはじける笑顔も大変良い。きっと若いころはかわいい女子だったんだろうな、という面影は十分感じられる。キャリアとしてはもちろん大ベテランで、わたしははっきり言ってこの方を全然覚えていないのだが、今さっきWikiを見たら、わたしはこの方の出演している映画を10本以上観ているようで、なんともわたしの情けない記憶力に失望である。最近では、日本で全く売れなかった『The Maze Runner』シリーズにも出てたみたい。オレ……ちゃんと観てるんだけどなあ……くそう。
 そして一方のSir Kingsleyは、もう相当な数の作品でわたしも見ているが、この人はイギリス人であり、当然Queen's Englishが母国語なのに、本作では非常に訛りの強い、いわゆるヒンディッシュで、とてもそれが、日本人的には聞き取りやすいというか、特徴ある英語をしゃべっていて、やっぱ芸達者ですなあ、と変なところがわたしの印象に強く残った。キャラクター的にも、大変良かったと思います。あ、そうだ、もう一人、わたしの知っている役者が出てました。ええと、ちょっと前に観て、このBlogにも感想を書いた、Tom Hanks氏主演の『A Hologram for the King』(邦題:王様のためのホログラム)でに出てきた女医さんを演じたSarita Choudhuryさんが、今回はダルワーンと結婚するためにはるばるインドからやってくる女性として出演されてました。この方は大変特徴ある顔なので、すぐわかったっす。そして顔、で言うと、この顔は誰かに似てるんだよな……と非常に気になったのが、ウェンディの娘として登場する若い女子で、さっきなんていう女優なんだろう、と調べたら、名をGrace Gummerさんと言い、な、なんと、大御所Meryl Streepさんの娘だよ! 確かに! 確かに顔が似てるかも! 娘が役者をやってるなんて全然知らなかったわ。
 最後、監督について記して終わりにしよう。監督は、スペイン人のIsabel Coixetという女流監督で現在54歳だそうだ。わたしも観た有名な作品としては、『My Life without Me』(邦題:死ぬまでにしたい10のこと)かな。他にも有名な作品があるけれど、わたしが観たことあるのはその1本だけみたい。画面がとても明るい光にあふれてるのが特徴かも。とても明るい(雰囲気の話じゃなくて、物理的に光量が多い)映像で、そんな点も、作品全体の雰囲気には合っていたような気もします。

 というわけで、結論。
 たまたまWOWOWで放送されたのを録画して観てみた映画、『Learning to Drive』(邦題:しあわせへの回り道)は、その邦題が非常に安直というか、それっぽすぎて若干アレですが、お話としては、まあその甘い日本語タイトルから想像できるような、いいお話でありました。激烈に感動したとか超おすすめ、というつもりは全くないけれど、ま、嫌いじゃないぜ、こういうお話も。こういう作品をぼんやり観て過ごす時間も、悪くないと思います。以上。

↓ 懐かしい……中学生だったと思います。今はなき有楽座という、現在日比谷シャンテがある場所に存在したデカイ映画館で観ましたなあ……チャリをぶっ飛ばして観に行ったような気がする……。
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2010-04-16