昨日の夜、録画していた映画を観ていたところ、HDDレコーダーが何かを録画し始めようと起動したので、何を録画するんだっけ、とそっちを確認したところ、とある映画を録画しようとしているらしいことが判明した。全く記憶にない映画だが、これはいったいどんな映画だっけなと、再生していた方を止めて、放送をそのまま見てみようという気になった。
 冒頭に登場する男は、『Money Ball』でアカデミー助演男優賞にノミネートされた太っちょでおなじみのJonah Hill氏だ。 わたしはコメディもシリアスもイケるコイツの芝居ぶりはとても好きなので、どんな映画だろうと観始めたのだが、すぐに場面はメキシコに移り、続いて頭もよくてイケメンでおなじみのJames Franco氏が出てきた。ほほう、これは面白そうだ、というわけで、そのまま最後まで見てみた次第である。録画してるのに。
 その映画のタイトルは、『True Story』。本当の話、という意味の本作は、日本語Webサイトがないので日本で劇場公開されたのかよく分からないけれど、 結論から言うとなかなか見ごたえがあって重苦しい映画であった。へえ、こんな映画があったんだなあ、という思いである。しかし、さっき調べてみたところ、格付けサイトRottenTomatoesあたりでは評価は低いので、ちょっとUS本国では微妙判定のようだ。まあ、どうやら完全に実話ベースのお話のようだし、実際、最終的に嘘か真実かわかりにくい面もあり、一般受けは難しかったのかもしれない。一部はちょっと美化しているような面もきっとあるのだろう。まあ、それは観終ったあとで知ったことなので、とりあえず置いておくとして、観ながらわたしは、これは……ジャーナリストが観たら痛いだろうな……と思った。この物語は実はベースで、登場キャラクターは実在の人物だそうだ。

 物語は大体上記予告の通りである。ただ、本編でカットされたのか、見かけなかったシーンもあるような……気もする。まあいいか。Jonah Hill氏演じる物語の主人公、マイケル・フィンケルはNY TIMESの記者。冒頭はとある取材シーンだ。そして続くシーンでは舞台はメキシコ。そこで現れる男が、同じくTIMESの記者を名乗ってドイツ人女性をナンパするシーンが描かれる。そして再びカメラは主人公へ。NYに戻り、取材の結果書いた記事が表紙を飾ってうれしい主人公だが、すぐに上層部に呼ばれ、記事は真実なのか、問われる。しかし、記事は、複数の少年に起こったことを、一人の少年に起きたかのように「ねつ造」されたものだった。そしてTIMESをクビになり、失意のもとに、妻の住む(?別居していたのか、よく分からない)モンタナ州へ移る。そしてこの失意の帰郷と同時進行で、メキシコで女性をナンパしていた男が殺人犯として逮捕拘留されるシーンも描かれる。そして、地元でいろいろなメディアに再就職をしようとしてもうまくいかない主人公のもとに、一本の電話がかかってくる。ローカル新聞社の記事からの電話で、会って話を聞いてみると、クリスチャン・ロンゴという男が妻子を殺して逮捕された、そしてその男は、NY TIMESの記者、マイケル・フィンケルを名乗って逃亡していたというのだ。全く初耳の出来事に、主人公マイケルは、ロンゴに会いに行くのだが……てな展開である。
 そしてこの先は、監獄での二人の面会シーンや法廷シーンがメインになっていく。どうして自分の名前を名乗ったのか? 君の記事のファンだったんだ、君は本当にやったのか? 今は言えない――というように、会話しながら、主人公マイケルはどんどんロンゴの取材にのめりこんでいく。そしてこの取材を本にして、ジャーナリストとして再起する野望も膨らんでいく。そして最後に迎えるのは、かなり残酷な「真実」であった、とまあそんなお話でした。
 ポイントとなるのは、二人の男の目的が、一致しているようで全く一致していない点、であろうか。
 まず、主人公マイケルが一番望んでいることは、この独占取材の結果、本を出版してジャーナリストとしての名声を取り戻したいという思いだろうと想像する。要するに取材は手段だ。そして、この取材の根底には、ロンゴへの共感と信頼がある。しかし残念ながらその基盤はひどくもろい。裏切られたらパーである。
 そして、殺人容疑者ロンゴの目的は――ここが実に難しい話だ。おそらく様々な解釈があるだろう。あるキャラクターは、単なる自己顕示欲で、マイケルは利用されているだけだという。それはそうかも、である。また一方では、裁判に有利なように操作しようとしているだけ、というキャラクターもいる。それもまた、そうかも、である。しかしそれでも、マイケルはどんどんとロンゴにのめりこんでいく。そうさせていくロンゴの言動は、作為なのか天然なのか、観ている観客にはよく分からない状態だが、ロンゴが一番望んでいることは、おそらく自分の人生の物語を語ることであり、マイケルとの接触はそのための手段であったと言えそうである。
 一方で、どんどんロンゴにのめりこんでいくマイケルを、一番近くで観ている妻は心配している。本当に、夫は正しく状況を見ているのか、そして、そもそもロンゴは人殺しなのかどうか。夫であるマイケルは、ロンゴが本当にやったのかどうか、それは問題ではないという。ここが非常に難しいところだ。おそらくマイケルの意図は、有罪であれ無罪であれ、彼の話は聞くに値すると思っている。なぜなら、「人を引き付ける物語」だと思うからだ。しかし妻は、ロンゴが有罪を認めた後で、Carlo Gesualdoの音楽を例えにして、語る。「彼の音楽は素晴らしい。けれど、Gesualdoは人殺しであり、そのことを決して忘れてはダメ」であり、ロンゴの話が興味を引くからと言って、彼が殺人者である事実は変わらない、と。
 だから妻は、夫であるマイケルにはそんな人殺しの取材はしてほしくないし、その結果、ロンゴの審理に影響が出るような書き方、すなわち、マイケルが記者として常に心がけてきた「人を引き付けるような」書き方をしてはダメだ、と思うのだ。
 ジャーナリストして、マイケルは「人を引き付ける」ために、意識的に、故意に、複数の少年の話をあたかも一人の少年の話にまとめ上げて、ねつ造記事としてクビになったわけだが、その嘘を、マイケルは反省している。そしてさらに、マイケルはロンゴに対する取材の結果執筆した本を、嘘は書いていないと信じている。そしてロンゴも、嘘をついているつもりは全くないし、事実、たぶん嘘は言っていないはずだ。
 この点で、マイケルのジャーナリズムは客観ではなく主観であることが明白だ。人の関心度の高さで記事の価値を測るわけだから、結局のところ金のため、であろう。まあ、それが悪いという話ではなくて、嘘はダメだけど金になる話じゃないとダメ、というのは、もはやどのジャーナリストも無意識に思っていることなんじゃなかろうかと思う。その点が、わたしが観ていてマイケルに共感できないポイントだと思う。わたしにはむしろ、全く天然で、単に自らの人生を人に知ってもらいたいと思っている(ように見える)ロンゴの方に興味がわく。
 物語の結末を観るに、ロンゴが殺人を犯したのは確実なんだろうし、実際の事件も、ロンゴは現在も投獄されているそうだ。何なんだろう、結局心神喪失ってやつなのかな。同情の余地はないし、まぎれもない人殺しだけど、ロンゴの語りには、まさしく人を引きつけるものがあるように感じる。
 そう思うのは、おそらくJames Franco氏の演技の素晴らしさ故、であろう。実に演技は上等で、素晴らしかった。そしてもちろんマイケルを演じたJonah Hill氏もいい。ついでに言うと、マイケルの妻を演じたFelicityJones嬢もとてもいい。このところ大作続きだが、こういう地味な作品にも出ていたんですな。とてもしっかりした演技で彼女も素晴らしかったすね。相変わらずのデカい前歯が大変愛らしいですな。

 というわけで、もう何が何だか分からなくなってきたので強引に結論。
 実在の事件をもとにした『Ture Story』という作品は、そのタイトル通り「真実」をテーマにしている物語だが、その「真実」というものは、人によって違うものであり、とりわけ、ジャーナリストにとっての「真実」は、まあ、極端に言えば「金こそすべて」なのかもしれないすな。その辺は、じつにモヤッとするものの残る映画であった。しかし役者陣の熱演は確かなもので、素晴らしかったのは間違いない。まあ結局……わたしはこの映画が面白かったのかどうか、うーーん……微妙……いや、面白かったのかな。はい、面白かったと思います。今年最後のレビューなのに、パッとしねえ記事になっちまったなあ……。以上。

↓ Jonah Hiil氏といえば、やっぱりこれでしょうな。こちらは最高に面白い。