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 以前、わたしが敬愛する、とある女性の作家先生とメシを食っているとき、こんな話を聞いた。
 「男と女の恋愛に対する想いの違いを教えてあげる。女はね、【上書き保存】なの。そして男は【名前をつけて保存】するわけよ。分かるでしょ? 女はどんどん上書きして、心の中にはひとつの最新Verしか持ってないのよ。でも、男は、過去の恋愛をひとつずつご丁寧に取っておくでしょ。おまけに、たまに眺めてはその思いにふけって、ちょこちょこ勝手に修正して美化するもんだから、女はイラッとするわけ」 
 こんな話をしたのは、わたしが『母と暮せば』を観て大いに感動したと興奮しながら話していた時だったと思う。確か、「オレが死んだら、そりゃあ恋人には幸せになってもらいたいけど、でも、完璧忘れられるのも淋しいすねえ……」、なんてことを話しているときだったと思う。その先生は、ズバリ「ああ、そりゃあダメよ、女は忘れる生き物よ」みたいな話から、上記のことをわたしに話してくれたのだが、 わたしはこれを聞いて、なるほど、確かに、超思いあたるっすね、みたいなことを返したと思う。実に、頷けてしまったわたしだが、果たして世の女性たちも、そんなの当たり前だと肯定するのだろうか。
 というわけで、おとといの14日(木)の夕方、そろそろ定時になろうとしているときに、おっと、そういや今日は14日、トーフォーの日で映画が安く観られる日じゃねえか、と気がつき、帰りにぶらりと日比谷シャンテに映画を観に行ったわたしである。
 観た作品は、『BROOKLYN』。今年のアカデミー賞で、主演のSaoirse Ronanちゃんが主演女優賞にノミネートされた作品で、作品賞と脚色賞にもノミネートされた作品であり、わたしもずっと見たいと思っていたのだが、やっと日本でも公開になったものの、公開規模が小さく、こりゃあWOWOW待ちかな……と劇場へ行くことをあきらめかけていたのだが、トーフォーの日だし、ちょうど時間もぴったり合う、というわけで観てきたわけである。そして結論から言うと、大変素晴らしかった。実にいい作品で、全女性に強くお勧めしたいと思う。

 上記予告にある通り、US本国でも非常に評価は高く、わたしの評価も高かったのでお勧めしたい映画なのだが、まずは物語を簡単に説明してみよう。まあ、大きな流れは、予告編の通りである、が、もっと密度が高くて、もっともっと面白かった。
 舞台は1950年代。アイルランドの片田舎に住む主人公・エイリッシュは、優しく美しいお姉ちゃんのローズと、お母さんの3人暮らし。父は既に亡く、エイリッシュは、恐ろしくいや~なクソバアアの経営する雑貨屋で日曜だけ勤務するパート暮らしである。何故賢い彼女がそんなパートをやっているかというと、ズバリ当時のアイルランドには仕事がないためだ。お姉ちゃんはとある工場(?)で会計士としてきっちり働いていて、二人の仲はとてもいい。そんなエイリッシュに、お姉ちゃんが懇意にしているNY在住の牧師のコネで、NYで働き、NYに住むというチャンスが訪れる。母やお姉ちゃんと別れるのは本当に悲しいけれど、嫌味で悪意に満ちたクソババアのもとで働くよりずっといい。というわけで、エイリッシュは一大決心の元、NYへ旅立つ――というのが物語の始まりである。このお姉ちゃんとの関係がとても美しくて、船で出発するエイリッシュを見送るシーンでわたしは早くも泣きそうである。泣いてないけど。
 旅客機なんてない当時、もちろんのことながら船旅である。しかし慣れない彼女は思いっきり船酔いして、まあ大変な目に遭う。そこで出会う、洗練された女性がとてもいい。ちょっと世間慣れして浮ついた風でいて、実はとても面倒見が良くて、エイリッシュにいろいろアドバイスし、何とか船旅もマシなものになっていく。入管審査では、おどおどしたりしてはダメ、毅然とするのよ。咳は絶対にしちゃあだめ。隔離されて送還されるわ。なんて、いろいろ教えてくれる、「大人の女性」。この女性はその後一切物語に登場しないのだが、観ているわたしに非常に強い印象を残してくれたし、エイリッシュの心にも強く残ることになる。
 そしてようやく着いたNY、BROOKLYN。慣れない環境や仕事に、あっさりホームシックにかかり、すっかり笑顔が消えてしまうエイリッシュ。お姉ちゃんからの手紙にうえ~~んと泣いちゃう姿に、わたしはまたも一緒に泣きたくなったよ。悲しいつーか、エイリッシュの表情は、もう全世界の男ならば放っておけないものを感じるはずだ。しかし、それでも、4人の先輩同居人や寮母さん的な(?)おばちゃんたちは(女子たちはちょっと意地悪だったり、寮母さんも若干おっかないけれど)、根はとてもいい人たちだし、NYでの仕事を紹介してくれた牧師さんも大変善良で、学費を出してあげるから、ブルックリン大学の夜間コースで簿記の勉強してみたらどう? なんて、多くの人の善意に支えられて、エイリッシュも何とか頑張っていく。エイリッシュも、非常にド真面目な女の子なので、実に応援したくなる健気さだ。
 で。エイリッシュは、あるときから急に明るく元気になる。
 分かりますよね。恋ですよ、恋!
 寮母さん公認のダンスパーティーで知り合った、イタリアから移民でやってきた若者、トニーとの出会いがエイリッシュに再び笑顔を取り戻させるわけですな。そしてまたトニーもイイ奴なんですよ。エイリッシュの学校が終わる時間には頼んでないのに迎えに来てくれるような優しい奴で、そりゃあもちろん下心もあるんだろうけれど、一切そんな風は見せず、実に紳士的で、健全なお付き合いが始まる。そんなエイリッシュの変化を、職場(デパートの店員さん)のちょっと怖い主任的なお姉さんも、好意的に捕らえてくれて、実はかなりいい人だったことも描かれる。
 そんな風にして、エイリッシュのNY、BROOKLYN生活は徐々に彩りを取り戻していく。二人で海水浴に行くデートなんて、非常にほほえましくて良かったし、その水着選びも、職場の主任のお姉さんが張り切っていろいろ手伝ってくれたり、あるいは初めてトニーの家に行って家族と食事することになったときも、寮の女子たちが皆で、イタリア料理はこうやって食べるのよ、とパスタを食う練習まで付き合ってくれたりして、もう観ているわたしとしては、完全に田舎から上京した娘が東京で頑張っているさまを観ているようで、嬉しくて、ほほえましくて、大変もうニヤニヤしながら観ていたと思う。完全に変態ですが、暗いから誰にも見られてないと思うので大丈夫だったと思います。
 しかし――故郷のアイルランドから、突然の悲報がエイリッシュにもたらされる。ネタバレすぎるので何が起こるかは書かないで置くけれど、ネタバレを心配するにはもう手遅れかな。とにかく、その悲報で、一時アイルランドに戻るエイリッシュ。そして、そこで出会ったイケメンに、次第に心引かれていくわけで、端的に言えば、アイルランドに残るか、NYへ戻るか、という人生の岐路に立ってしまうわけだ。
 物語がこういう展開となったとき、わたしが観ながらずっと考えていたことが、冒頭に書いた「男と女の恋愛に対する想いの違い」だ。そうだ、女は「上書き保存」だった、と観ながらわたしは思い出したのである。なので、NYのイタリア男、トニーは振られちゃうのか? あんないい奴なのに? マジかよ……? やっぱり女は常に「最新Verの恋」ただひとつなのか……? と、もうなんだかわたし自身が振られた気分がして、ずーーんとしょんぼりである。
 最終的に、エイリッシュが採った決断は、書かないでおく。どちらを選んだかは、劇場で確認してください。ただ、彼女の決断が、とある外的要因によるものであったのではないか、ということには、わたし的にどうにもまだ整理できていない。もし、あのイヤな出来事がなければ、選択は変わっていたのだろうか? それは彼女にも、二人の男にもまったく関係のない出来事で、冒頭に出てきた故郷の嫌味なクソババアの悪意が彼女の決断に影響を及ぼしたのは間違いないのではないかと思うのだが、どうなんだろうか?
 というわけで、お願いです。わたしの周りの女性の皆さん。どうかこの映画を観に行って、女性の視点からの意見をお聞かせいただきたい。はたしてエイリッシュの決断は、女性から見たらどうなのか。その点は、おっさんのわたしには、どうしても、やっぱり分からんのです。いい悪いの問題じゃなくて。こういうものなんでしょうか、女心というものは。それが分からんから、わたしはモテないわけですか、なるほど。納得……したくねえなあ……。

 さて、物語の説明は以上である。
 とにかく、本作は、主役のSaoirse Ronanちゃんが抜群にイイ!! しょんぼり顔愛好家のわたしにはたまらないし、非常に繊細で、可愛らしくも美しく、わたしとしては最高級に褒め称えたい。彼女は、13歳でアカデミー助演女優賞にノミネートされた『Atnement』(邦題;「つぐない」日本では2008年公開)で世界的に有名になった女優だが、実はわたしがSaoriseちゃんを初めて観たのは、2009年公開の『The Lovely Bones』(邦題「ラブリー・ボーン」)だ。映画としては、タイトルからは想像できないほど重苦しい、キツイ映画だけれど、あの映画でわたしは、なんて綺麗な目をした女の子なんだ、と非常に驚いた。調べてすぐに、ああ、この娘がちょっと前に13歳でオスカーノミニーになった娘か、と知ったわけで、以来、Saoriseちゃんはずっと注目している。とにかく目が綺麗。吸い込まれそうな美しいBlue Eyesの持ち主で、世界最高の美しい瞳だとわたしは勝手に認定している。まあ、順調にキャリアを重ねているSaoriseちゃんだが、まだ22歳。若いですなあ。ただ、10代前半の超絶美少女から、順調に欧米人にありがちな大人顔になりつつあって、最近はさほど気になる存在ではなかったのだが(サーセン)、やっぱり芝居ぶりは若手No.1の評判は伊達じゃないすね。本当に素晴らしい演技でした。Sarioseちゃん自身も、アイルランドの人(生まれはNYだけど幼少時に両親の故郷のアイルランドに移住)で、ロンドンへ上京した時のことを思い出しながら、演技をしたそうですよ。
 ほかの役者は、正直あまりメジャーな方ではないようだけれど、本当に各キャラクターは素晴らしかったと思う。わたしは特に、エイリッシュのお姉ちゃんを演じたFiona Glascotさん、職場の主任のを演じたJessica Pareさん、そして、NYへの船中で出会う女性を演じた女優、役名を忘れちゃったから誰だかわからないんだよな……そもそも役名あったっけ? たぶん、Eva Birthistleさんじゃないかと思うけど、いや、この人は同じ寮に住んでいるバツイチの彼女役かな……ま、とにかく、この3人の女性がわたしはとても気に入った。みな、エイリッシュを助け見守る大人の女性で、とても心に残る演技だったと思います。特に、お姉ちゃんが本当に素晴らしい演技だったと思います。
 で、エイリッシュに恋する二人の男は、NYのイタリア男・トニーを演じたのがEmony Cohen君26歳。知らない役者だけれど、実に良かった。実にお前はいい奴だよ。イタリア訛りの英語も大変似合っていて、ちょっと今後注目したいすね。そしてもう一方の、一時帰京したアイルランドで出会うイケメン君を演じたのが、今や多くの話題作にちょこちょこ出て有名になりつつあるDomhnall Gleeson君33歳だ。『STAR WARS』のへなちょこ将軍ハックスや、『The Revenant』でのカッコイイ商隊の隊長、あるいは『Ex Machina』でAIロボ・ガールに心惹かれる青年など、多彩な芝居ぶりですね。どうやらちゃんと次の『SW』にも出るようだから、無事にスター・キラーから脱出していたようですな。わたしはまた、スター・キラーもろとも殉職しちゃったかと思ってたよ。今回の役は、とても物静かな紳士的なイケメンで、これまた今までとちょっと雰囲気が違ってましたね。お前も実にカッコ良かったよ。彼は今後、きっとどんどんいろいろな作品に出演していく注目株なんでしょうな。
 で、最後に監督と脚本をチェックして終わりにしよう。まず、監督はJohn Crowley氏。どうもアイルランドで舞台中心に活動してたっぽい人ですな。まだ映画もそんなに多くないすね。正直知らない人ですが、本作の演出は非常に、なんというのか、しっかりとしていて、堅実な感じですな。ちょっと名前は憶えておきたいです。そして今回は、脚本が非常に良くて、かなり名言と言うか、心に残るセリフが多く、大変良かった。その脚本を書いたのが、なんとわたしが去年絶賛した『Wild』(邦題:わたしに会うまでの1600キロ)を書いたNick Hornby氏だった。アカデミー脚色賞ノミネートも納得の素晴らしいDialogがとても多くて、もう、どのセリフを紹介したらいいか迷うけど、やっぱりこれかな。
 You'll feel so homesick that you'll want to die, and there's nothing you can do about it apart from endure it. But you will, and it won't kill you... and one day the sun will come out and you'll realize that this is where your life is.
 「あなたはきっと、ホームシックにかかるわ。それも重症。死にたくなるぐらいに。何をしても耐えられないでしょうね。でも、きっと耐えられる。ホームシックでは人は死なないの。……いつか、太陽が顔を見せるし、ここがわたしの生きる場所なんだって、分かる時が来るわ」
 ま、わたしのテキトーな訳で、字幕は覚えてないけれど、エイリッシュがラスト近くで、まるでかつての自分のように元気のない少女に向かって言うこのセリフが、そしてこのセリフを言うときのSaoriseちゃんの表情が、わたしにはとても強く心に残った。いやあ、ホントに素晴らしい映画でした。

 というわけで、結論。
 本作『BROOKLYN』は、とにかく多くの女性に見ていただきたい傑作である。特に、地方から上京して一人暮らしをしている女性には、初めて上京した時のことを思いだして、かなりグッとくるんじゃなかろうか? それから、さっき、インターネッツでこの映画のことを、実写版『ZOOTOPIA』だ、と評しているレビューを見かけた。確かに物語的に似ているかも。なので、『ZOOTOPIA』が好きな女子たちにもオススメです。わたし的には、ほぼ同じ時代のNYを描いた『CAROL』と非常に対照的?というか、別の道筋をたどったキャロル、というようにも感じた。キャロルも、本作のエイリッシュも、二人ともデパートガールだし(※ただし性格はかなり違うし、キャロルはマンハッタン、エイリッシュはブルックリン、かな)。なので、『CAROL』にグッと来た人にも、強くオススメしたいと思います。FOXも、さっさと公開すべきだったんじゃなかろうか。いやー、ホント、素晴らしい作品でした。以上。

↓ 原作小説は、パンフレットによるとアイルランド現代文学の巨匠Colm Toibin氏によるものだそうです。知らなかった……
ブルックリン (エクス・リブリス)
コルム トビーン
白水社
2012-06-02

 

 

 というわけで、毎週月曜日は恒例の週末映画興行データです。
 今日は、第88回アカデミー賞の発表があったので、週末興行ランクはさらっと流して、後半はアカデミー賞ネタをお送りします。

 ではさっそく、いつもの興行通信社の大本営発表から。
 1位:『黒崎くんの言いなりになんてならない』が公開土日2日間で1.9憶。講談社別冊フレンド連載中。ほぼ興味なし。
 2位:『オデッセイ』:25日間累計で27億超か。アカデミー賞にかすりもせずだが、わたしの2016年暫定ナンバーワン。最終30億±2億ぐらいの当初予想より上に行きそうな気配。
 3位:『信長協奏曲』:37日間合計で40億間近。まだチョイ届いてないぐらいと見る。40億程度とした当初予想を大幅に超えそう。43~45億着地ぐらいは確実?
 4位:『ザ・ブリザード』が公開土日で0.9億。スクリーン数からするとかなり厳しめ。5億に行くか微妙。
 5位:『Born in the EXILE 三代目J Soul Brothersの奇跡』:16日間合計で5億を超えたか。凄い!
 6位:『X-ミッション』:9日間合計で3億以上4億未満。予測よりもチョイ上かも。
 7位:『スターウォーズ/フォースの覚醒』:73日間合計で112億。120億はちょっと厳しい情勢。
 8位:『さらば あぶない刑事』:30日間合計で14億。うーむ、18億届くかどうか?
 9位:『ヘイトフル・エイト』が公開土日で0.47億。上映館が少なくて、観に行きたいのに困る……。
 10位:『ガールズ&パンツァー』がまだランクイン。13奥は越えてるはず。ホントにすごい。

 ほか、『SHERLOCK/忌まわしき花嫁』:10日間合計で2億行ったかぐらい。わたし激賞の『キャロル』は18日間合計で2億程度と厳しい。アカデミー賞もかすらず、非常に残念。でもオススメですので、ホントにもっと売れて欲しいです……。とまあ、今週末のランクはこんな感じのようでした。

 で。今日は第88回アカデミー賞の授賞式が行われました。ちらちらと、WOWOWメンバーズオンデマンドで観ていましたが、字幕版を後ほどゆっくり見てみようと思います。
 以下、受賞リストです。主要賞だけでいいよね? また、基本的に各賞は個人に与えられるものですが、役者と監督以外は、作品名だけでお許しいただければと。
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■作品賞:『Spotlight』 邦題『スポットライト 世紀のスクープ』4/15(金)公開予定
■監督賞:Alejandro Gonzalez Inarritu 『The Revenant』 邦題は『レヴェナント 蘇えりし者』4/22(金)公開
■主演男優賞:Leonard DiCaprio  『The Revenant』 
■主演女優賞:Brie Larson 『Room』 4/8公開予定。邦題はそのまま『ルーム
■助演男優賞:Mark Rylance 『Bridge of Spies』 公開済み。
■助演女優賞:Alicia Vikander 『The Danish Girl』 邦題『リリーのすべて』3/18公開予定
■脚本賞:『Spotlight』
■脚色賞:『The Big Short』 邦題:『マネー・ショート 華麗なる大逆転』3/4(金)公開
 ※脚本賞と脚色賞ってどう違うのと聞かれることがありますが、英語にすれば一目瞭然です。
 脚本賞はWriting Original Screenplay→オリジナル作品ってことですな。
 脚色賞はWriting Adapted Screenplay→つまり原作アリ作品ってことです。
■撮影賞:『The Revenant』
■編集賞:『MADMAX:Fury Road』 公開済み
■美術賞:『MADMAX:Fury Road』
■衣装デザイン賞:『MADMAX:Fury Road』
■音響編集賞:『MADMAX:Fury Road』
■録音賞:『MADMAX:Fury Road』
■作曲賞:『The Hateful Eight』 公開中
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 というわけで、わたしは特に予想は立ててなかったけれど(いや、だって観てない映画ばかりだし)、もちろん、Stallone隊長が取れなかったのは残念ですが、それでも、助演男優賞をわたしが激賞した『ブリッジ・オブ・スパイ』のおじさんが受賞したのは嬉しいですな。素晴らしい演技でした。
 それから、制作系の主要部門を何気に『MADMAX』が独占したのは驚きだし(衣装デザイン賞まで獲るって、どうなのよ? という気もしなくもない)、 作曲賞に、スーパー大ベテランのEnnio Morricone氏が獲ったのも、これが初受賞だと知って驚いた。もうとっくに受賞したことがあるのかと思っていたほど数多くの作品を手掛けているので、ご本人も嬉しかったでしょうな。
 ほか、監督賞、主演男優賞を『The Revenant』チームが獲ったのは、まあ大本命ってことでいいんでしょうな。DiCaprio氏も助演1回主演4回のノミネートを経てようやくのオスカー像ゲット。良かったですね。監督も2年連続受賞は史上3人目だそうで、歴史に残る偉大な監督となりましたな。当然、わたしも4月公開の『The Revenant』は観に行きます、つーかさっさと公開してもらいたいものですね。あと、助演女優賞を受賞した、Alicia Vikander嬢が高度なAIを搭載したアンドロイド役で出演している『Ex Machina』は果たして日本公開はいつなんだろう? 今回、視覚効果賞も受賞したし、わたしはそっちを観たくてたまらないんですけど……日本公開しないつもりかな? US国内では2015年4月にとっくに公開されているのだが……なんか事情があるのかな!? さっさとGAGAあたりが買い付けて、公開していただきたいものだ。
  
 ところで、ほとんど根拠はないが、今後の日本公開で、大ヒットと言えるほど興収を稼ぐのは、おそらく『The Revenant』だけだと思う。今まで、アカデミー賞を獲った作品でも、そのほとんどが、日本ではそれほど大きなヒットにはなっていない。恐らくその反省から、今年のノミネート作はそれぞれ賞の発表から少し時間をおいての公開が組まれていると思うのだが、結局賞を獲れなかった作品は、ほとんど売れずに終わってしまうんだろうな……。それなら、ノミネートの時点で公開して、もっと国内でもUSアカデミー賞合わせで盛り上げた方が、よっぽどお客さんは来るんじゃなかろうか。作品賞が『Spotlight』となったのは、わたしとしては若干驚いたわけだが、観ていないので何も言えないけれど、きっと日本じゃ売れないと思う。わたしもあまり見る気になっていない。なぜならキャスト的にも、内容的にも、イマイチわたし好みでないからだが、全く若者を呼べそうにないし、公開も1カ月以上先だし、興行の行方が心配だ。それでもきっと、作品賞を受賞したので、期待を込めた厚いプロモーションを行うような気がするけれど、まあ、やめておいた方がいいと思いますよ。金をかけすぎて、それが回収できるとはあまり思えないので。……ま、余計なお世話ですかね。

 というわけで、結論。
 とりあえず、この週末の動きは新作が順当にランクインするも、まだまだ『オデッセイ』『信長協奏曲』が上位で頑張っていますね。アカデミー賞で受賞した作品群がどれだけ日本で売れるかを注目していく予定です。

↓ もういっそ、海外版のBlu-ray買っちまおうかな……どうやらスペイン版は日本語字幕が入ってるっぽいので。


  「このうえもなく美しく、このうえもなく不幸なひと、キャロル」
 わたしとしては、近年まれにみる、美しくて素晴らしいキャッチコピーだと思う。加えて、去年観た『The Monuments Men』 において、突如Cate Blanchett様の美しさに目覚め、それまで何本もCate様主演作を見ているのに、なんて綺麗な人なんだということを今更ながら認識していたため、わたしとしては非常にこの映画の公開を待ち遠しく思っていた。
 ので、さっそく観てきた『CAROL』。US国内では、MetacriticRotten Tomatoesなどの格付けサイトでも軒並み非常に高い評価がされており、その期待を裏切らない、素晴らしい演技と美しさで、わたしはもう大満足&大興奮である。

 恐らく、上記予告を観ても、どんな物語なのか想像が付きにくいと思う。ある意味予告通りの物語だし、一方ではまったくこの予告では物語が描かれていないとも言えるだろう。わたしも、一度物語のあらすじを書いてみたのだが、やっぱりここには記さないことにした。何故なら、ネタバレとかそういう意味ではなくて、文字で物語の流れを書くと、実につまらなそうなまとめになってしまうからだ。ただ、この作品の舞台となる時代と、原作小説の書かれた時期が同じだということは、注目に値する。この作品は、『見知らぬ乗客』『太陽がいっぱい(別名『リプリー』)』などのサスペンス・ミステリー系小説で有名な、Patricia Highsmith女史による小説が原作で、書かれたのは1952年、物語の舞台と全く同じである。日本で換算すれば昭和27年という戦後間もない時期に描かれた作品であることを考えると、当時はおそらくセンセーショナルだっただろうし、今の我々が読んでも、この物語の現代性にはかなり驚くと思う。しかし、現代人の感覚からすると、やっぱり物語としては出来事自体はそう目新しいものではなく、それほど面白そうだとは思えないかもしれない、と、自分でストーリーをまとめてみて良くわかった。

 では何がわたしをしてこの映画は素晴らしいと思わせたか。
 それはやはり、キャラクターと、そのキャラクターを演じた女優陣の演技がお見事だったからであろうと思う。何度かここで書いたような気がするが、映画や小説において最も重要なのは、わたしはやはりキャラクターであると思う。描かれているキャラクターを好きになれるかどうか、が、その作品に対する好悪の決定的なポイントとなるはずだ。その点において、わたしはこの映画で描かれた二人の主人公、キャロルとテレーズの二人にもうぞっこんである。
 まず、キャロルのように、「心に従って生きる」ことを旨とする、強くて、たまに弱い女性に出会ったら、完璧に惚れてしまうだろうと思う。キャロルは現代用語でいうところの「バイセクシャル」であり、当時の社会風俗からすればかなりとんでもない存在であろう。しかし、「そんなの知ったことか」と強く見える一方で、どうしてもそういう社会の眼に勝てず、愛する娘の養育権を手放さなくてはならない事態を前にしては、嘆き悲しむ弱さを見せる。わたしとしては、そりゃあそうだよ。だって人間だもの。と、みつお風に思わざるを得ないわけで、わたしはそのような、強くて弱い女性を見かけると、とても放っておけない気持ちになる。そんなキャロルを演じたCate Branchett様の演技は完璧だったと思います。本当に素晴らしかった。
  一方、キャロルに一目ぼれしてしまうテレーズといううら若き女子を演じたRooney Mara嬢も、実にお見事だった。わたしにとって彼女は、どうしても『The Girl with the Dragon Tatoo』のリスベット役が忘れられないが、どうもいつもあまり笑わない役が多いような気がする。そんな彼女が今回、たまーに見せる、ちょっと幸薄そうで、恥ずかしがるような笑顔は絶品であったと記録に残しておきたい。わたしはテレーズにも惚れました。
 テレーズがキャロルに視たのは、おそらくは「こうなりたい自分像」だろう。地味だし日々迷っているし何よりもまだ先がまったく真っ白なテレーズ。キャロルは、自分とは正反対のテレーズを「My Angel, flung out of space」と呼ぶ。「宇宙から放り出された、わたしの天使」。既に母親であるキャロルには、最愛の娘がそのまま大人になったような、愛さずにはいられない、宇宙から放り出された一人ぼっちの女の子と見えたのだろう。この相思相愛の関係は、他人からどんな目で見られようと、もはや分かつことのできないもので、わたしは今回のエンディングは、非常に良かったと思う。パンフレットによれば、監督は決してこの作品をバットエンドに撮りたくなかったそうで、良かった良かった、で、この後はどうなるんだ? という終わり方にしたかったそうだ。その意図は、見事に表現できていると思う。
 また、今回の映画で、わたしが画として、お、これは、と思った点が二つある。一つは画の質感の問題。今回は非常に柔らかさと粗さの混ざったような、現代の超高画質時代には珍しい画になっている。どうやら、撮影はコダックのスーパー16フィルムで撮影したようだ。それをアップコンバートしているらしい。それが全編なのか、ポイントだけなのか分からないが、時代を感じさせる画作りは物語の空気感をよく反映していると思う。もう一つは、この作品では非常に「手」の動きをとらえた画が多いように感じた点だ。しかもそれがとても効果的で、「手」の動きに非常に感情が込められているように思った。こういった手先までの動きの美しさは、とりわけ舞台役者やダンサーで重要だとわたしはいつも思っているが、映画でここまで「手」を意識した演技と演出を観るのは珍しいように思う。特に、ラスト近くでのキャロルとテレーズの「手」の演技に、是非とも注目していただきたいと思う。監督Todd Haynes氏の作品を観るのは、わたしは今回が初めてだが、非常に技巧派のように感じられた。ちょっと過去作もチェックしてみたいと思った。
  ところで。男同士の関係を描いた映画で、『Brokeback Mountain』という傑作がある。まあ正直、男のわたしから見ると、ええーー!? ヤっちゃうんだ!? と激しく衝撃的でドン引きしてしまったのが現実だが、直接的な男同士SEX描写がなければ、わたしとしては万人にお勧めしたい映画である。アレはちょっとマジ衝撃的なのであまり万人にお勧めしていいのか自信がないのだが、今回の『CAROL』にも、女性同士の直接的描写がズバリ出てくる。しかし、なんでなんだろう、非常に美しく、全く普通に受け入れられたのは、わたしが男だからなのか?? 女性が観たらまた全く違うことを思うのかもしれないので、一応、そんなシーンがあることだけはお伝えしておきます。

  ……あーあ、やっぱり上手くまとまらない。実は今回、この記事を書くのに何度も書き直したり、順番を変えたりしているのだが、全然うまくいかない……。このBLOGを初めて早半年。今回、これまでで最も時間がかかってしまった。なんでだろうな……この『CAROL』という映画、わたしは非常に素晴らしいと思うのに、その素晴らしさを上手に伝えることができない。それほど複雑な話じゃないし、うーん、要するにこれはアレか、あまりにわたしの心に響くものが多すぎて、まだわたしの頭の中でまとまってないという事か。難しいのう。いずれにしても、わたしとしては、一人でも多くの方が、この映画『CAROL』を劇場に観に行っていただけることを祈ってやみません。

 というわけで、結論。
 映画『CAROL』は、このうえなく美しく、このうえなく切ない素敵なお話です。
 今回のアカデミー賞で、主演女優賞と助演女優賞の両方にノミネートされた二人の愛の物語を、ぜひ劇場で堪能してください。わたしは本当に素晴らしいと感じました。今年暫定2位です。
 ※1位はまだ『The Martian』かな。

↓ 以前も紹介した原作小説。Highsmith女史の作品で唯一日本語訳されてなかったそうで、今回の映画に合わせての発売です。初版時のタイトルは『The Price of Salt』。実際これを書いた時のHighsmithさんは、テレーズのようにデパートでバイトしていたそうですよ。
キャロル (河出文庫)
パトリシア ハイスミス
河出書房新社
2015-12-08

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