昨日の朝、行きの電車内で、ひとつ海外翻訳小説を読み終わった。電子書籍なので自動的に記録される読書ログによると、129分での読了。実のところ、これはわたしの読むスピードが速いわけでは決してなく、わたしも、アレッ!? もう終わり! と思うほど、分量的に短い作品で、わたしの読んでいるフォーマットで47W×21L×139Pしかなかったことに、読み終わる直前に気が付いた。
 その作品は、いわゆる「北欧ミステリー」の 『Blod på snø』という作品で、その原語たるノルウェー語の意味は、Blod=blood=血、på=英語のon、 snø=snow=雪だろうから、Blood on snow ということで、「その雪と血を」という日本語タイトルとなって早川ポケットミステリーから発売されている作品である。しかしポケミスはホント高いなあ……この分量で1,500円超か……まあ部数はわたしが想像するよりきっと少ないだろうから、仕方ないか……でもこのページ数だと、ポケミスのフォーマットだと相当薄い本なのではなかろうか……。現物を見てないのでわからんす。
 というわけで、以下、ネタバレに触れずには何も書けないので、気になる方は読まないでください。結末までのネタバレに繋がるかもしれないので。
その雪と血を (ハヤカワ・ミステリ)
ジョー ネスボ
早川書房
2016-10-15

 わたしが本書を買って読んでみようと思った理由は、例によって例のごとく、わたしが愛用している電子書籍販売サイトBOOK☆WALKERで約半額のコインバックフェアがあった時に、なんかねえかなあ……と渉猟していて、出会ったためで、そのカバーデザインのCOOLさと、あらすじが面白そうだったから、というだけである。結論を言うと、なかなか個性的なキャラで結構面白かった。が、やっぱりちょっと短いというか、短編~中編で、もう少し複雑な展開で読みごたえがあったらなあ、と言う気はした。ただし、逆に言うと、実にストレートかつスピーディーに展開するお話は、これはこれでアリかもな、と言う気もするので、要するに、結構面白かった、という結論に間違いはない。
 物語は、オーラヴという、とある殺し屋(始末屋)の男の一人称語りで、ボスに、どうも浮気をしているらしいボスの若い奥さん(後妻)を殺せ、と命じられたオーラヴが、監視をしているうちに奥さんにちょっと惚れてしまって(?)、命令を無視して浮気相手の男をぶっ殺してしまい、ボスに、奥さんじゃなくて相手をぶっ殺しました、と報告したところ、バカモーーーン!それはわしの息子じゃぞ!と激怒されてさあ大変、というなかなか面白い展開であった。え? 意味が分からない? 要するに、奥さんはボスの息子=義理の息子と浮気してたってことです。
 本書の最大のポイントは、主人公オーラヴというキャラクターで、これがまたかなり変わっているというか興味深い人物で、わたしは最後まで本書を楽しめたのである。
 オーラヴは、最初の方でなぜ現在「始末屋」稼業をしているか、自ら語るのだが、その言葉によると、オーラヴにはできないことが4つあるらしい。曰く――
 1)逃走車の運転はできない
 車の運転はできるが、どうしても、職質を受けないで済む目立たない運転の仕方が分からない、らしい。
 2)強盗ができない
 なぜなら、強盗に遭うという経験をすると人は精神に問題を抱えることになるそうで、そんな罪悪感には耐えられん、らしい。
 3)ドラッグがらみの仕事もできない
 とにかく無理、だって俺は意志薄弱で、依存してしまうもの(宗教・ボス、兄貴タイプの人間、酒にドラッグ)をつい探してしまうし、計算もできないし、そんな俺がドラッグを売ったりツケを取り立てたりしようなんて馬鹿げている、それはもう火を見るより明らか、だそうです。ここは読んでて笑っちゃった。
 4)売春――ポン引きもできない
 女がどんな方法で金を稼ごうと構わないけれど、女に惚れやすいし女に暴力をふるうことも、暴力を振るわている現場を見ることも、どちらも無理、だそうで、かつて配下の売春婦にひどいことをしていた上司たるポン引きを殴り倒したこともある。
 そんなわけで、主人公オーラヴは始末屋と呼ばれる殺し屋稼業をやっている。変な奴だな~と読み始め、最後までオーラヴは変な奴であった。彼の過去としては、母親にDVをかましていたクソ親父をスキーのストックで刺し殺したこともあり、なかなか凄惨な少年時代を過ごしていたようなのだが、ちょっとポイントになるのは、実はオーラヴは結構な読書家で、妙な豆知識に詳しかったりもする。本人は、識字障害があって、本は多少は読むが、知識はろくにない、と語っているけれど、どうしてどうして、やけに博学なのである。このギャップがオーラヴを妙に愛嬌があるというか、興味深い人物にしており、それ故に破滅へ至るわけで、物語の筋道はちょっとおかしくて、その実なかなか悲しい、読者としては少し同情してしまうような物語となっていた。殺し屋なのに。また、主人公の一人称語りという形式は、ちょっと往年のハードボイルド風でもあって、どうにも憎めない雰囲気があって、大変良かったと思う。

 で。著者やこの作品については、あとがきに結構詳しく載っていたので、情報をまとめておこう。
 まず、著者のJo Nesbø氏だが、ノルウェー国内ではなかなかのベストセラー作家らしいですな。おまけにロックバントを率いるボーカリスト兼ソングライターでもあるんですって。へえ~。どうも、もう10冊ぐらい出版されている有名な刑事ものシリーズが一つと(その中の7作目が今度ハリウッド映画化もされるみたい。しかもMichael Fassbender氏主演!)、幾つかの単発モノを書いていて、本国ノルウェーではかなり人気者らしい。日本語訳も、集英社文庫や講談社文庫辺りでぽつぽつ出ているみたい……だけど、ダメだこりゃ。今年出た作品以外はどうやらことごとく「品切れ重版未定」という名の絶版ぽいな……amazonに在庫がないだけか、ちょっと分からんな……あ! なんだ、今年発売の本のプロモーションで来日もしてたみたいだな。へえ~。でもその本、日本発売は今年の2月だけど、本国では2003年発売、14年前だぞ……集英社も良く呼べたもんだ。著者本人のWebサイトFacebookではかなりプロモーション関連は熱心に告知しているようだけれど、来日の件は全く触れられてないな……。今さら過ぎたのだろうか。
 ところで、ちょっと面白いのが、本書『その雪と血を』が生まれるきっかけだ。どうやら本書は、作家を主人公としたとある作品があって(※その作品はまだ刊行されてない)、その作品の中でその主人公が書いた作品、という設定らしいんだな。だから短いのかもしれない。なので、本書はそのキャラの名前で出版しようと思ったんだけど、どうやら弁護士にそれはダメ、と言われたそうで、結局自分名義での出版になったらしい。へえ~。面白ですな、作者自身も。

 というわけで、もう結論。
 ふとしたきっかけで買って読んでみた、ノルウェーの小説『Blod på snø』(英題「Blood on Snow」邦題「その雪と血を」)は非常に短いが展開によどみがなく一直線で結構面白かった。そのキモは主人公たるオーラヴというキャラにあり、短いながらも大変楽しめました。しかし著者のJo Nesbø氏もなかなか面白そうな方ですな。シリーズの途中の巻を読んで面白いのかわからないけれど、ちょっと興味が出てきたっす。以上。

↓ これが日本語で読める新刊、だけど、これ、本国では2003年刊行のシリーズ5作目みたい。うーん……。
悪魔の星 上 (集英社文庫)
ジョー ネスボ
集英社
2017-02-17

悪魔の星 下 (集英社文庫)
ジョー ネスボ
集英社
2017-02-17