わたしはもう受験生の頃からずっと朝型で、社会人になってからも当然朝型生活を続けている。わたしとしては全く自然で当たり前のことなのだが、どうも世間的には希少種らしく、わたしの行動を聞いて驚く人が多い。まあ、そんな人はどうでもいいのだが、要するに、わたしにとっては朝の方が何事も集中できるし、電車もガラガラだし、何かとストレスが少なく、快適だからそうしているだけだ。わたしの長年の経験によると、ズバリ言って早起きは誰でもできる。誰でもできない、結構難しいことは、「早寝」の方だ。早く寝ちまえば誰だって朝起きる。ズバリ、いつまでも起きているから朝起きられない。それだけのことなのだが、実は「早寝」はなかなか難しく、習慣化しないとすぐには出来ないことだと思う。ついでに言うと、もうここ20年以上、目覚ましより後に起きたこともない。どういうわけか、自動的に目が覚める。これは普通じゃねえかもな。 
 ま、そんなこともどうでもいいのだが、今朝、1月3日だというのに、わたしは普通にAM6:00に目が覚めた。会社のある日はもっと早く起きているわけだが、休日でも、遅くても6時半には目覚める。それ以上寝ると、もう頭痛がひどくなって一日がパーになる。ので、この正月休みも6時起きがわたし的デフォルトである。
 で。コーヒーを淹れながらTVをつけっぱなしにして、昨日の箱根駅伝の往路の様子を新聞でトレースしながら、あーあ、まーた青山学院が勝っちまうなあ……こりゃあもう6区の山下りで差を縮められないと決まりだろうな……なんて思いながらふとTVに意識を戻したところ、わたしが毎週日曜日の朝見ている、CXの「はやく起きた朝は」という番組が始まってることに気が付いた。あれっ!? 今日何曜日? つか火曜じゃん? と思いながら見ていると、どうやら皆さんお着物だし、正月スペシャルらしい。というわけで、ぼんやり見ていたところ、途中で、磯野貴理子女史がとある映画を激賞しはじめ、森尾由美ちゃんや松居直美ちゃんにも絶対観ろと激しくお勧めしていた。
 その映画は、たしか10月ごろ公開になってとっくにFirst Runは終わってるはずだが、貴理子女史によれば、まだ都内で続映中の映画館があるという。そしてとにかく素晴らしいから観ろ、とのことであった。 わたしも確かに公開時にちょっと気になっていたものの見逃していた映画であったので、そんなに貴理子女史が勧めるならば、まあ、どうせもう箱根は青学で決まりだし、午後はちょっくら観に行くか、と上映館を調べてみた。
 すると有楽町でまだ上映していることが判明したので、すぐさまチケットを予約し、午後観に行くことにした。というわけで、わたしが2017年1本目として観てきた映画は、宮沢りえちゃん主演の『湯を沸かすほどの熱い愛』である。はっきり言ってちょっと出来すぎな美しさはあるものの、確かにわたしも泣かされてしまったのであった。ホント、宮沢りえちゃんは美しく年を取ってますなあ……。以下、いつも通りネタバレを含んでいますので、自己責任でお願いします。

 公開前に予告は何度か見ていたが、まあ、時系列はかなり入れ替わっていたりするけれど、大体物語は上記予告の通りである。余命宣告を受けた主人公のお母ちゃん、が、心残りとならないよう様々なことを頑張るお話である。
 わたしはまた、散々観てきた余命モノとあまり変わらないんだろうな、と思っていたし、実際、それほどこれまでにあったお話と変わるところはない、と言えそうではある。しかし、この映画は、そういった物語よりも、やはり役者陣の芝居ぶりを堪能する映画であろうと思う。主演の宮沢りえちゃんをはじめ、二人(じゃなくて三人か)の子役も素晴らしいし、実に泣けるお話であった。
 ただ、一つだけわたしがイライラムカムカしたのは、やっぱりオダギリジョー氏演じる夫のキャラクターだろう。とにかくスーパーちゃらんぽらん過ぎて、全く笑えないというか、実際おっそろしくひどい男だと思う。ちょっと説明のために、各キャラ紹介を軽くやっておこう。
 ◆双葉:主人公の「お母ちゃん」。前向きポジティブな頑張り屋さん。宮沢りえちゃんの熱演は素晴らしかった。
 ◆一浩:主人公の夫。1年前、実家の銭湯と家族をほっぽり出して失踪。ただし探偵を雇って調べたら隣町に住んでいたことがあっさり判明。すごすご戻ってきたクソ野郎。無責任&無計画。一切情状酌量の余地なし。とにかくひどい男。いくらオダギリジョー氏でも許せん。
 ◆安澄(あずみ):主人公夫婦の娘。高校生。学校でいじめられている。演じた杉咲花ちゃんが素晴らしい!よくもまあ、グレずにいい子に育ったもんだ。ちなみに杉咲花ちゃんは、味の素のCMで回鍋肉をバクバクもりもり食べるあの娘さんです。後半、重大な秘密の暴露があり、泣ける……!
 ◆鮎子:夫が浮気して出来た娘。失踪中の夫が一緒に住んでいた。銭湯に戻った夫についてくる。演じたのは伊東蒼ちゃんという子役で、とにかく彼女の芝居が素晴らしくイイ!!! しょんぼり顔がもうたまらなく悲しそうに見えるし、笑顔も可愛いし、まあ最高すね、おっさん的には。
 ◆拓海:お母ちゃんと安澄と鮎子の三人旅の途中で出会った青年。演じたのはシンケンレッドこと松坂桃李くん。この人はカッコいいですなあ、ホントに。トンデモゆとり青年が、お母ちゃんと出会ったことで変わるのだが、まあ、なんというか、出来すぎというか美しいわけで、ちょっとアレですが、カッコいいから様になるんだよなあ……全然許せちゃうのはさすが殿ですね。

 というわけで、ストーリーは別に説明しなくてもいいと思うのだが、見どころはもう、お母ちゃんそのものですよ。学校でいじめに遭って、休みたいという娘に対して、休んではダメだ、逃げちゃあダメ!!! と叱り飛ばす姿は、たぶん今のお優しい、ゆとりあふれる世の中とは正反対でしょうな。そりゃそうだよ。お母ちゃんには、もう、時間のゆとりがないんだもの。逃げて先送りにしている暇はないわけで、そしてその叱咤激励に応える安澄ちゃんもまあ健気なことといったら、とても勇気のある行動で、本当に素晴らしい演技でした。
 そして、やっぱり、クライマックスで、ちゃらんぽらんな夫がお母ちゃんに見せた心意気に、死にたくない、生きたいと涙するお母ちゃんの姿には、もう場内盛大にみなさんくすんくすんであった。もちろんわたしも泣けました。参ったっす。
 ただ、タイトルの意味が分かるエンディングは、正直ちょっと……という気もしなくもない。引っ張りすぎというか、もうチョイ前で終わりにしても良かったような気もしなくない。社会的通念という常識に照らし合わせても、ちょっと……どうなんだろうという気もする。しかし、どうもこの作品は原作小説などのない、オリジナル脚本のようだが、おそらくはこのエンディングが先にありきで、ここに至る物語を書いたのだろうと想像する。なので、まあ、ちょっとアレのような気もするけれど、このエンディングなしにはこの物語は成立しないんだろうな、と思うので、結論としてはアリとしておきたい。
 しかし、ある日突然、余命宣告をされたら、オレはそれを受け入れられるのだろうか、と、わたしはそんなことを考えながらこの作品を観ていたわけだが、たぶん、どのくらいかわからないけれど、1週間で済むのか1か月以上かかるのかわからないけれど、まずはもう、悲観に暮れてどうしようもなくなるでしょうなあ。けれど、おそらく、ある時点で、受け入れて、残りの時間を大切に使おうという心境に至るんだろうと思う。いや、思いたい、かな。そして淡々とその日に向けて暮らし、その直前に、死にたくない、ともう一度泣きわめくことだろう。わたしはもうかなり、色々なことに達観してしまったおっさんなので、それなりな覚悟――死なない人間はいない――をしているつもりだけれど、まあ、取り乱すだろうな、きっと。そして、この物語の主人公のような、最後の命の炎を燃やすエネルギーというか、オレにはそういうエネルギーになる「強い思いを残しているもの」はないかもしれないな、と思った。まあ、しょうがないよ、もはやどうにもならんし。淡々と受け入れるしかねえかもしれないなあと思うと、やっぱ淋しいもんですね。

 というわけで、なんかぶった切りですが結論。
 TVで磯野貴理子女史が激推ししていた映画『湯を沸かすほどの熱い愛』を、超今更観てきたわけだが、たしかに貴理子女史の言う通り、泣ける素晴らしい映画であった。いろいろ突っ込みどころもあるとは思うけれど、宮沢りえちゃんの熱演に身をゆだねて涙するのも、悪くないんじゃないでしょうか。いやはや、もう場内みんなくすんくすんという状態でありました。そりゃ泣けますよ。間違いないす。以上。

↓ おっと? 一応ノベライズかな? 小説化されてるっぽいすね。著者は監督&脚本の中野氏本人みたい。最近監督本人による小説が流行ってますね。売れてなさそうだけど。