というわけで、先日、上遠野浩平先生による「事件シリーズ」を電子書籍で一気買いし、以来、せっせと順番に読んでいるわたしである。作品自体は、発売当時に紙の本で買って読んでいるので、知っている話なわけだが、改めて読んでみると全く忘れていることも多く、実際初めて読むかのように楽しめてしまい、わたしの記憶力も本当に大した事ねえなあ、とやや残念ではあるが、まあ、同じお話でここまでまた楽しめるなんて、おれも随分お得な奴だな、という気もする。とにかく、一度読んだことのある小説なのに、またしてもこんなに面白いなんて、と上遠野先生の作品の素晴らしさをわたしとしては最上級にほめたたえたい。実に面白い作品である。
 そんな感じのわたしなので、また、数年後、記憶が消失することはほぼ確実なので、それぞれの作品に関してメモというか備忘録的に、登場人物や思ったことなどをまとめておこうと思った次第である。
 まず、シリーズ共通の物語の舞台だが、「呪詛」をベースとした「魔法文明」の発達した、「ここではないどこかの世界」である。我々の文明の主要エネルギー源が、太古の生物の死骸が堆積圧縮されて液化した「石油」であるように、その世界では「生命エネルギーの二次利用」だという。つまり、生命エネルギーの1次利用とは「生きていること」そのものだが、それは当然死ぬときに終わる。だがその生命の残滓というものがこの地上に残り、それが「呪詛」と呼ばれる魔法の源になるエネルギーなのだそうだ。で、そのエネルギーは生物の「思考の流れ」に反応するらしく、「呪文」はその思考の流れを整える(?)もので、さらに言うと「呪符」にそのスイッチ的な役割を与えられると。そういった「呪詛」を用いて火をつけたり、冷やしたり、ということをして文明を築いている、そんな世界である。
 まずはこちら、シリーズ第1作の『殺竜事件』から行ってみよう。

 本作は、2000年6月に発売になった作品で、大変失礼な言い方で申し訳ないのだが、上遠野先生の『ブギーポップ』シリーズの人気の最盛期で、間違いなく当時の電撃文庫の不動の4番バッターだった頃だ。なので、わたしの大嫌いな講談社からこの作品が発売されたときは、本当に腹立たしく思ったのだが、読んでみるともう最高に面白くて、くっそう、面白れえ……ぐぬぬ……!! と憤死寸前だったことをよく覚えている。
 で、物語はというと、タイトル通り、今世界に7匹棲息するとされる「竜」のうちの1匹が死ぬという事件が起こり、その謎を解くミステリー(?)である。その謎に挑むのは、以下の3人組で、直近で「竜」に面会した記録の残っている、容疑者と思われる人々のもとを訪れて、話を聞いていく展開である。
 ◆ED:本名はエドワース・シーズワークス・マークウィッスル。世界に23人しかいない、「弁舌と謀略で歴史の流れを抑え込む」と言われる七海連合の特殊戦略軍師「戦地調停士」の一人。常に仮面を着用している男。ヒースとは子供のころからの親友。「オビオンの子供たち」の生き残り。本人曰く、本職は「界面干渉学」を研究する学者。
 ◆ヒースロゥ・クリストフ:本来はリレイズ国の軍人だが、七海連合に出向している少佐。いくつもの勇名を馳せる世界的な有名人。世界最強の戦士の一人。リーゼとはかつて同じ国際学校で学んだ友人。朴念仁。EDは、ヒースを「世界の王」にしようと思っている。
 ◆リーゼ・リスカッセ:カッタータ国の特務大尉。女性。常識人でありEDの奇行・言動に振り回される役回り。ただし、肝の据わった精神的にも肉体的にも非常に強い女性であり、密かにヒースのことが大好き。
 ◆容疑者(1):聖ハローラン公国「スケノレツ」卿
 聖ハローラン公国というのは、このシリーズで何度も出てくる、この世界に存在する大国なのだが、まず3人はこの国へ行く。だが、竜に面会したとされる「スケノレツ卿」は半年前になくなっていることが判明。代わりに、「ハローランの塔に住むとても美しい姫」と半ば伝説化されている「月紫姫」と面会。ハローランの政治的内情を知ることになり、「月紫姫」は一つの決断を下すことに(事件には何の関係もない)。姫は第3作『海賊島事件』で再登場する。
 ◆サロン(宿屋)「水面の向こうがわ」にて情報収集
 3人が次に向かったのは、情報交換の場として有名な港町ム・マッケミート。そこで、サロンを経営するナーニャ・ミンカフリーキィとその娘ソーニャに会いに行く。この母娘の「ミンカフリーキィ」は「暗殺王朝」として有名なレーリヒという国に仕えていた「ザイラス公爵」の末裔で、情報やとしても有名な存在。ここでEDはすべての竜が現在棲息する地を記した「地図」を入手する。また、このサロンは「界面干渉学」の情報交換の場でもあり、いろいろな「この世界に流れ着いたもの」が取集されていて、我々の世界の車や拳銃などもある。また、EDの仮面を製作したのがナーニャであることも語られる。
 ◆容疑者(2)海賊島の領主「ムガントゥ三世」
 この世界での一大歓楽地として有名なソキマ・ジェスタルス島。別名「海賊島」。ここの三代目は一切世間に顔の知られていない謎の男だが、殺された竜に面会した記録が残っていたことから「海賊島」へやってきた3人。そこで出会ったタラント・ゲオルソンとのギャンブル勝負でリーゼが大活躍。それを見張っていたムガントゥ三世は、リーゼを気に入り三人の前に姿を現すのだが――。ゲオルソンやムガントゥ三世は第3作の『海賊島事件』で再び登場する。
 ◆容疑者(3)名もなき空白の地に住む「竜」
 「竜」を殺せるのは「竜」だけか? と、現在生きている別の「竜」に会いに行く3人。ここでの竜との問答で、EDは一つの確信を得る。
 ◆容疑者(4)竜探しの「アーナス」
 竜との面会後、世界に存在するすべての竜をその目で直接視認するという夢をもっている冒険者のアーナス・ブラントと出会う(※竜を見たといううわさを流せば二日以内に必ず現れる男なので、偶然を装って出会うよう仕向けた)。そして3人は、次なる目的地「バットログの森」の道案内をアーナスに依頼する。
 ◆容疑者(5)バットログの森の「ラルサロフ・R」
 3人+アーナスの一行は、300年前にリ・カーズとオリセ・クオルトという二人の超絶魔導士が戦い、その影響で魔法汚染されてしまって生態系に異常をきたしている「バットログの森」へ。殺された竜の面会記録の住所欄に、バットログの森に住むとされる人物の名前があったからだ。そして「ラルサロフ」と出会う。彼は「暗殺王朝」レーリヒの血を継ぐと自称している暗殺者で、EDたちの捜査を妨害するために雇われた刺客だった――。
 ◆容疑者(6)戦士の中の戦士「マーマジャール・ティクタム」 
 最後の容疑者は、「世界最強の男」として名高いマーマジャール・ティクタム。最新刊『無傷姫事件』にも登場する戦士。ヒースよりも戦闘力では凌駕する。わたしはこの人のことをすっかり忘れていたので、『無傷姫』を読んで電撃的に思い出したのだが、やっぱり、この第1作目の『殺竜事件』では、無傷姫についての言及はなかったすね。いずれにせよ、EDはマーマジャールとの対話で、事件の真相に気づく。

 というわけで、本作は犯人捜しのミステリーなので、ネタバレにならないように書いてきたつもりだが、たぶん、わたしのこの無駄に長い文章を読んでも、物語の面白さには一切影響ないと思う。非常に面白いので、ぜひ読んでいただきたい。たぶん、この作品だけでも十分に面白く、いつもの「上遠野ワールド」の基礎知識はいらないと思うな。ほんと、16年前に出版された小説だけど、改めて読んでみて、その面白さを再認識しました。最高です。

 というわけで、いい加減、もう結論。
 上遠野浩平先生は、確実に日本小説界の中でTOPクラスの実力を持つ最強の小説家の一人であろうと思う。そして、先生が2000年に書いた本作『殺竜事件』は、その代表作の一つであり、その面白さは私が保証します。ええ、何の保証にもなってませんが。以上。

↓ シリーズ2作目はこちら。紙の本が出たのが2001年。15年ぶりに読んだけど、ホント面白い。