昨日は外での打ち合わせが3時間コースを覚悟していたのに、ごくあっさり1時間チョイで終わってしまったため、ちょっと早い時間だけど、暑いし、さっさと帰ろ……と炎天下の中、なるべく日陰を選びながら、なんとなくもう生きる気力も失いかけながらトボトボ歩いていたところ、電撃的に、そういや今日は8月1日、映画がお安く観られるファーストデーじゃねえか、と気が付き、ならば映画を観て帰るか、という気になった。そして一番最初に目に入ったカフェにまずは避難して、そういやあの映画って、先週から公開してんじゃなかったっけ、時間は……とチェックしてみた。
 しかし、驚いたことに、全く上映館がない。アレッ!? おっかしいな? とその映画の公式サイトで上映館を調べたところ、わたしが通うTOHOシネマズでは一切上映しておらず、都内でも6スクリーンしか上映していないことが判明した。マジかよ……と思いつつ、一番近い有楽町の上映時間を調べてみると、1時間後に始まる回があるようなので、すぐさま、有楽町BICカメラの上にある、「角川シネマ有楽町」へ向かうこととした。
 と、いうわけで、わたしが昨日の会社帰りに観た映画は『WIND RIVER』という作品である。US版予告を観たのはかなり前で、WikiによればUS公開は去年の今頃だったらしいから、たぶんもう1年以上前だろう。なかなか日本公開されないので、こりゃあお蔵入りになっちまったかと思ったら、ひょこっと公開されたので、さっそく観てみたわけだが、一言でいうと、物語的には、事件の全貌は結構なーんだ、ではあるのだが、なんというか、主人公の苦悩がやけに胸に染みて、予想外にグッとくるものがあったのである。要するに、わたしとしてはなかなか面白かったと言って差し支えないと思う。うまく言えないのだが……物語というよりも、主人公の心もち、にわたしは大変感じるものがあったのだ。
 というわけで、以下、物語の概要などをメモって行こうと思う。なお、決定的なネタバレも触れる可能性大なので、観ていない人はここで退場してください。これは何も知らないで観る方がいいと思う。
 
 上記は日本版予告だが、相当時系列を無視した編集がなされていることだけはつっこんでおこう。まあ、大体の物語は、上記予告から想像される通りと言ってもよさそうだ。そしてこの予告から、何故わたしがこの映画を観たいと思ったか、もうお分かりですね? そうです。わたしの大好きなMARVEL CINEMATIC UNIVERSの”ホークアイ”でお馴染みのJeremy Renner氏と、ワンダこと”スカーレット・ウィッチ”でお馴染みのElizabeth Olsen嬢が出演するから、である。この二人の共演に、ほほう、コイツは観たいかも……とまずは思ったのであった。
 物語は、冒頭、雪の山を「裸足」で、何かから逃げるように猛ダッシュする女子の様子から始まる。そしてこの女子は翌日には死体となって発見されるのだが、一体彼女に何が起こったのか、という事件捜査ミステリーである。
 しかし、ミステリーと言っても、トリックや叙述ミステリーのような仕掛けはなく、まったくオーソドックスに捜査の模様を追っていくだけなので、そこには別に、な、なんだってーー!? と驚くようなものはない。ある意味淡々と、ジワジワと事実が分かっていく展開なので、ストレスなく物語に身をゆだねることはできる。そこを物足りないと思うかどうかは微妙だが、わたしとしてはいろいろと、この映画を観て初めて知った事実があって、大変興味深かった。ちょっと、わたしが知らなかったことをまとめてみよう。
 その1)極寒の氷点下の元で全力疾走すると死ぬ。
 この死ぬ、は、文字通りの「死」である。本作では氷点下20℃(30℃?)という設定だったが、そのような状況で全力疾走を続けると、肺に取り込まれた冷気が露結し、肺に水が溜まって肺胞が破裂、出血を起こし、「窒息死」するんだそうだ(パンフには肺が凍結すると書かれている)。おっかねえ……壮絶な死因だよな……とわたしは非常に恐怖を感じたすね。そして本作では、その死因が大問題で、死体で発見された女性の死因が、氷点下の中で全力疾走を続けたことによる窒息死であるため、それすなわち「他殺=殺人」ではない、ということになってしまう。そうなるとどうなるか。これが次の知らなかったことその2)だ。
 その2)インディアン保留地での警察権
 雪山での死体発見、ということで、当然捜査が行われるわけだが、他殺(=殺人)ならばFBIが捜査にあたり、殺人でないならインディアン保留地を管轄する専門警察が捜査にあたる、というルールらしい。なので、せっかくやってきたFBI捜査官も、これ以上捜査ができないことになってしまうのだが、女性はレイプされ、ひどい暴行を受けており、許せることじゃあない、けど、地元の保留地警察はまったく人員が足りてないし、そもそも土地は広大かつ峻厳で……と困難に突き当たることとなる。
 その3)ワイオミング州とインディアン保留地
 舞台はワイオミングの険しい山に抱かれた「ウィンド・リバー保留地」である。ちなみにどうやらこの作品は全編ユタ州で撮影されたようだが、それはともかくとして、ワイオミング州はWikiによると全米50州の中でもっとも人口の少ない州だそうで、行ったことがないからわからないけど、未知との遭遇でお馴染みの「デビルズタワー」国定公園やイエローストーン国立公園などのある、大自然の地、のようだ。そしてワイオミング州は「カウボーイ州」としてもお馴染みだそうで、どうやら大自然に加えて白人とインディアン部族のキナ臭い歴史も何となく想像は出来るように思える。そして、冒頭にInspired by True Eventと出るし、エンディングでも字幕で説明されるのだが、インディアン居留区では非常に多くの女性失踪事件が現実に起こっているそうで、それらの多くが未解決なままなのだそうだ。その、失踪の原因はいろいろあるんだろうけど、未解決のまま、な理由は、この映画を観るとよくわかると思う。そこにあるのは、やっぱりどう考えても差別であり、格差であり、インディアンのことはインディアン(保留地警察)に任せとけば? という「無関心」だろう。前述のように他殺でない限りFBIは介入せず、失踪だけでは地元警察が動くしかなく、そして全く手が足りてない、そして広大&峻厳すぎる、という極めて厳しい状況のようだ。なんつうか……わたしはこの映画を観ながら、あまりな扱いを受ける人々に悲しくなっちゃったす……。アメリカ合衆国という国は……ホントに世界の一流国なんすかねえ……。。。
 その4)全く物語に関係ないけど……
 わたしは冒頭の製作会社とかのロゴを観ながら、あ、そういうことか、とひとつひらめいたことがあった。本作は、WEINSTEINの作品で、しかも去年の夏US公開ということは……まさしく去年の秋ごろに発覚した大問題、後にMe Too運動のきっかけ(?)となったワインスタイン・セクハラ問題のせいで、お蔵入りになりかけたのかもな? とどうでもいいことに気づいた。帰ってから調べたところ、本作はUS本国ではまったく売れなかったようで、その点は映画の出来に反して大変残念だったと思う。ちなみに、映画としての評価はRotten Tomatoesによるとかなり高いみたいですな。この高評価は、わたしも同意っす。
 さてと。それでは、登場キャラクターを演じた役者とともにまとめておこうかな。
 ◆コリー:主人公。白人。FWS(合衆国魚類野生生物局)に属し、ウインドリバー保留地での(狼とかピューマ?といった)害獣駆除を受け持つハンターで遺体の第一発見者。凄腕のスナイパー。演じたのはホークアイことJeremy Renner氏。コリーはちょっと複雑なキャラで、白人だけどインディアン女性と結婚し、娘と息子をもうけるが、娘が16歳?だかの時に、失踪、翌日死体で発見されるという悲劇を味わっている。その事件はまったく未解決のまま、なんとか哀しみと折り合いをつけて毎日を過ごしているが、妻とは離婚・別居中(まだ協議中だったかも)。そして今回の事件の被害者の18歳の女子は、娘の友達であり、その両親とも親しく、まったく他人事ではないため、事件捜査に手を貸すことに。Renner氏は、これまでの役柄的にちょっと生意気というか不敵なキャラが多かったので、わたしはあまり好きではないのだが、実のところ芝居的にはかなり上質で、今回も非常に静かで、ハートは熱く滾る男を見事に演じていたと思う。なによりも、娘を亡くした父親同士のふれあいのシーンは、猛烈にグッと来たすね。言葉は少ないけど、その朴訥な慰めはとても感動的だったと思う。お見事でした。
 ◆ジェーン・バナー捜査官:派遣されてきたFBI捜査官。白人。たった一人しか寄越さないFBIもアレだし、ジェーンもまるで薄着でナメた格好でやってくるため、コリーたちはイラッとするが、実際とても正義漢で一生懸命に捜査する女子。演じたのはElizabeth Olsen嬢。足手まといにならないよう頑張るOlsen嬢はなかなか可愛かったですな。
 ◆ベン:地元の保留地警察の署長。インディアン。いい人。演じたのはGraham Greene氏ですよ! わたしはこの方の顔を見て、おっと、この人ってひょっとして……と終わってから調べたところ、まさしく名作『Dances with Wolves』の「蹴る鳥」のあの人ですよ! え、知らない!? うそ! ちゃんと観て! 名作だから! 「蹴る鳥」をこの役にキャスティングしたのはかなりファインプレーだとわたしとしては称賛したいす。
 ◆マーティン:遺体で発見された女子の父親。インディアン。超いかついけど、超優しいお父さん。コリーに慰められ号泣するシーンはマジ泣ける。そしてエンディングでは、娘をなくした絶望で、銃を手に、顔にペインティングして登場するのだが、あの二人のシーンもホントグッと来たっすねえ……。
 「何だその顔」
 「死に化粧さ……」
 「そういうもんなんだ」
 「知らねえ。テキトーにやってみた。教えてくれる人がもういないからな」
 「(亡くなった女子の)弟にやさしくしてやってくれよ(※弟はヤク中で警察にいる)」
 「ああ……このバカげた化粧を落として……迎えに行かなきゃな……」
 台詞は正確じゃないけどこんなやり取りのラストシーンは、大変胸が熱くなったす。演じたGil Birmingham氏は他の映画でも何度か見かけたお顔すね。大変いい芝居でした。
 ◆ナタリー:遺体で発見された女子。インディアン。氷点下の中、裸足で10kmの山を走り切って息絶える。その亡骸は戦う意志の表れで、逃げたんじゃあないと分かるくだりはとても感動的であったと思う。演じたKelsey Asbilleさんはとてもかわいかったすな。生きているシーンはごくわずかだけど、非常に印象に残ったすね。
 ◆マット:ナタリーの彼氏で、山深くの掘削場(?)の警備員。白人。まあ、事件のネタバレをすると、要するにナタリーとイチャついていたところを泥酔した掘削場の作業員たちに見つかり、大喧嘩となって……という痛ましくも単純な話なのだが、わたしとしてはどうしてもこの「掘削場」なるものの意味がよくわからなかった。まず第一に、何を「掘削(?)」してる現場だったのかわからんし、ラスト近くで、作業員?のクソ野郎どもが主張する権利(ここはなんちゃら局の管理地だからお前らに従ういわれはない!とほざいて保留地警察に銃を向ける)も、何のことかさっぱりわからなかった。アレって何だったんだろうか……。で、マットを演じたのはJon Bernthal氏で、この人はTV版のMARVELヒーロー・パニッシャー役でもお馴染みですな。最近売れっ子ですが、彼も生きてるシーンはごくわずかす。
 ◆ピート:掘削場の男の一人で、事件の発端となった泥酔してマット&ナタリーにからんだゲス野郎。何で回りは止めなかったんだよ……。結論から言うとキッチリ死ぬのでざまあとスッキリなのだが、主人公コリーがコイツに下した刑が超ヤバイつうか怖い! まあ、悪党は死ねってことで、わたしとしてはアリです。演じたのはJames Jordan氏。主にTV方面の人みたいすね。知らんので省略。
 とまあ、こんなところか。で、本作の脚本/監督がTaylor Sheridan氏で、『SICARIO』の脚本を書いた人だそうです。お、マジかよ、役者としても結構キャリアがある人なんですな。あ!おまけに今年観た『12 STRONG』にも出演してたんだ! へえ~。48歳か。若いというほど若くないけど、今後も期待したい俊英ってことで、名前を憶えとこうと思います。

 というわけで、もう長いので結論。
 ファーストデーということで、ふと映画を観て帰ろうと思ったわたしが観た作品『WIND RIVER』は、US本国での公開から約1年経っての日本公開となったわけだが、まあ、かなり面白かったというのが結論である。この映画が全然スクリーン数が少ない小規模公開なのはとても残念に思う。夏休みということでお子様映画ばっかりな日本の映画興行だが、なんつうか、もうちょっと大人向けもちゃんと公開してほしいな、と思った。だって映画興行を支えてるのは、もはやシニアのおっさんでしょうに。ちなみにわたしが観た、有楽町の角川シネマは、まあファーストデーだからかもしれないけれど結構お客さんが入っていて、しかも年齢層高めでした。しかしそれにしても……アメリカ合衆国って国はなんつうか……ホントに問題山積なんだなあ……と能天気に思ったす。つうかですね、やっぱり広すぎですよ、あの国は。まったく行き届いてないんだもの。ホント、あの国の田舎には行きたくねえすね。何が起こってもおかしくないな、実際。アメリカ……恐ろしい国……というのが結論かもしれないす。以上。

↓ わたしの2018年ナンバーワン作品は今のところコレですが、何気に、テーマとしては近いものがあるような気がします。どちらも現代アメリカの田舎が抱える問題点、でしょうな……。