以前から何度かここでも書いた覚えがあるが、2015年の4月にUS国内で公開された映画の予告がもの凄くそそるもので、コイツは早く観たいぜ!! と思っていたものの、全く日本では公開される気配がなく、もう1年が経とうとしている映画がある。どうやらUS国内では全然ヒットしなかったようだが、元々イギリス映画だそうで、UK本国では2015年の1月に公開されていたらしいのだが、Rotten TomatoesMetacriticなどの格付けサイトでも、妙に評価が高く、わたしとしては見られないことを非常に残念に思っていた。折しも、主演女優のAlicia Vikander嬢はこの映画のあとに出演した『The Danish Girl』でアカデミー助演女優賞を受賞するなど、大変な活躍である。何で公開しねえんだよちくしょー、と思っていたら、わたしが心から憎むamazonでは、スペイン版のBlu-rayには、日本語字幕も入っているという口コミもある。くっそう、買うしかねえか、と思っていたところ、友人のMくんがシアトルに出張だと言っていたので、街中でBlu-ray売ってる店見かけて買い物する時間があったら買ってきてくんない? とごく軽く頼んでみたところ、行ったその日に「あったっす~。買っとくっす~」とSkypeで連絡があった。よーし、でかしたぞMくん!! ありがとう!! というわけで、さっそく観てみたわけであります。
 その映画のタイトルは『Ex Machina』。その意味は「機械仕掛けの神」と訳される「デウス・エクス・マキナ」から来ていることは明らかで、デウスが付いていないので要するに「機械仕掛けの」という事になるのだろう。この物語は、ズバリ、AI(=Artificial intelligence 人工知能)の話であります。ああ、調べてみたら、どうも今年の6月11日に日本公開されるみたいですね。日本語公式サイトも出来てるけど何にもコンテンツがないな……なんなんだこの手抜きは。そして、日本語Wikipediaにはやけに詳しく情報が載ってますな。奇特な方がせっせと書いてくれたのだと思うが、とりあえず、予告はこちらです。※20016/05/09追記:さっき、日本語公式サイトを見たら、日本語字幕入りの予告やら、かなりコンテンツが増えてました。

 Mくんが買ってきてくれたのはUS国内の北米版だったので、残念ながら日本語字幕は収録されていない。なので、わたしもきちんと物語を理解したのかかなり怪しいのだが、非常に興味深い物語であった。基本的には、上記予告の通りの進行だし、その後の展開も、たぶん誰もが予想する通りだと思う。ので、びっくりするような意外な展開はないのだが、それでもかなり面白かった。
 この物語には、登場人物が4人しかいない(勿論モブキャラは他にもいます)。
 ■Caleb(ケイレブ):主人公。BLUE BOOKという検索ポータルの会社に勤めるプログラマー。演じたのは、『SW :EP VII』にて、何かとカイロ・レンと手柄を張り合う小者のハックス将軍を演じたDomhnall Gleeson君32歳。今回は非常に繊細でいい演技をしていたと思います。
 ■Nathan(ネイサン):BLUE BOOK創始者。要するに、これはGoogleのことだと思っていいと思います。今回の事件の元凶たるAIを作ったスーパー・リッチな超天才。アラスカの山奥にある恐ろしく豪華でカッコイイLABOに暮らし、研究を続けている。演じたのは、これまた『SW :EP VII』にてカッコイイX-WING戦闘部隊の隊長、ボー・ダメロンを演じたOscar Isaac。今回は坊主頭&メガネ&髭もじゃ、という風体なので、とてもダメロン隊長には見えない怪演が凄い。
 ■Ava(エイヴァ):アンドロイド。ただし劇中ではRobotと呼ばれていたと思う。AI搭載の自立型自意識搭載マシン。演じたのは、『The Danish Girl』でオスカーを手にしたAlicia Vikander嬢。おっそろしく可愛い。 そしてCGが凄まじく、もう本物にしか見えない。彼女のロボットぶりは見ものです。
 ■Kyoko(キョウコ)。謎の日本女子。Nathanの身の回りの世話をする超美人。英語がわからないという設定で、そのため、彼女がその場にいても企業秘密をペラペラしゃべっても大丈夫、というよくわからない設定。彼女の正体については、まあ、想像通りの展開と言えるだろう。演じたのはソノヤ・ミズノさんという東京生まれのイギリス育ちという初めて見る方だったが、有名なのかな? 元々バレエ・ダンサーでモデルさんだそうで、しっかりと鍛えられた女性らしい肉体がすっごくきれい。美しい。フルヌードシーンあり。

 物語は、主人公がある日、社長のLABOに招かれることになる(社内の抽選に当たったという設定)ところから始まる。やったーと喜んで訪れた先は、ヘリでしか行けないアラスカの山奥。こんなところで社長は毎日パーティーとかやってんだろうなー、と、若干のんきにやってきた彼は、社長と会い、そこで社長が一人で行っている実験に協力することになる。その実験とは――自意識をも持つAI搭載ロボットの実験で、既に完成しており、社長はそのロボットと話をしてみてくれ、そして感じたことを教えてくれと頼む。好奇心満々で対面したロボットは、想像を絶する意識を持っており――というお話であるので、そう複雑な話ではない。
 ただ、この物語を面白いと思うには、ちょっといくつかの知識が必要かもしれない。
 一つは、『Turing Test』というものだ。その名の通り、かのAlan Turing博士が考案した、ある機械が知的かどうか(人工知能であるかどうか)を判定するためのテストである。まあ、くわしくはリンク先のWikiでも読んでおいてください。なお、Alan Turing博士といえば、去年公開された『The Imitation Game』の主人公です。あの映画ではBenedict Cumberbatch氏が演じてましたね。ま、それは置いとくとして、ともかく『Turing Test』がどんなものか知らないと、この映画は楽しくないと思う。
 もう一つ、知っておいた方がいい知識としては、AI開発の現状と問題点についての知識だろう。中でも、「AIボックス実験」というシリコンバレーで行われた実験のことと、AIにおける「Singularity(=技術的特異点)」に関して知っていると、この映画はものすごく面白い思う。たぶん、一番手軽なのは、わたしがこれまたここで何度も紹介している本を読むことではなかろうかと思う。つーか、わたしはこの本を読んで「AIボックス実験」のことや「Singularity」のことを知った。
人工知能 人類最悪にして最後の発明
ジェイムズ・バラット
ダイヤモンド社
2015-06-19

 この本については、わたしも去年、ここで取り上げてレビューを書いたのだが……サーセン。もうけちょんけちょんにけなしてしまったので、そのレビューはもう読まなくていいです。そこでも書いたのだが、この本は……致命的に構成が悪いというか、とにかく著者がずーーっと、「AIやベえ!! このままでは人類滅亡じゃ!! とにかくヤバい!!」と、ほざいているだけなので、あまり面白くないのです。しかし、事実としてのAI開発の現状と問題点を知識として得るには非常に良い本だと思うので、今となっては読んでおいてよかったと思っています。あんなひどいレビューを書いてサーセンっした。今回の『Ex Machina』という映画は、まさにこの「AIボックス実験」を映画にしたようなもので(いや、それは言いすぎかも)、非常に興味深かった。
 また、天才Nathanが作り上げたロボットも、そのビジュアルは抜群に素晴らしいし、設定となるハードウェア・ソフトウェアの部分もかなり面白い。まあ、ビジュアルイメージは、予告やパッケージにある通りなので、あまり触れないけれど、Blu-rayに収録されているメイキングで、ああ、こうやって撮ったんだというのが良く分かって、映画オタク的にはとても面白いアイディアだと思った。で、作中ではいろいろな専門用語が出て来るので、英語字幕を出していちいち一時停止して解読しながら観ていたものの、わたしの英語力ではまったく太刀打ちできない部分も多かったのだが、この仕組みを説明する部分は極めて興味深かった。
 作中の設定では、まずハードウェアについては、一つのキーデバイス(?)となる「Structured GEL」というものが出てくる。「構造化ジェル」とでも訳せばいいのかな……そんな言葉だけじゃ全然伝わらないな……要はナノ技術によって精巧につくられた「脳」にあたるものなのだが、実はこれはほとんど説明されなかった。問題はソフトウェアで、その「Structured GEL」にインストールされているというよりも、どうやら作中世界のGoogleにあたるBLUE BOOKの検索エンジンそのものが、AIの本体で、ここはちょっと分からなかったのだが、どうやら常時接続でBLUE BOOKとリンクしているらしい。いや、これが正しい理解なのか全然自信はないけれど、膨大なデータを単一のロボット素体の中に持たせることは、たぶん実際無理であろうというのは想像できるので、なんとなく、実感としては、なるほど? と納得できる設定であった。そして現実世界の、Googleの恐ろしさが妙にリアルに感じられるような気もする。
 わたしは、常日頃から、きっとGoogleが人類を滅ぼすんだろうなー、と結構強い思い込みをしている頭の悪い男だが、いずれにしても、おそらくは、スーパーAIは、間違いなく誕生してしまうと思う。それがヤバいことなのか、便利になってHAPPYなのか、諸説入り乱れているのが現時点での我々の棲む世界なわけだが、この映画が示したビジョンは、Singularityを超えたときの人類への警告を発するようなものではあまりない。もっとかなりemotionalなお話であると思う。だが、AIがそのEmotion、要するに喜怒哀楽という「感情」を持ったときどう行動するか。そう考えると、この映画で描かれた顛末は非常にあり得るような気もするし、いやいやいや、単に登場人物たちが抜かっただけっショ、とも思える、実に興味深いものであった。そういう意味で、この映画は、実に面白い。

 最後に、監督のことだけ備忘録として書いておこう。監督はAlex Garlandという人で、わたしは全然知らないのだが、どうやら元々小説家・脚本家で、本作も彼の手による脚本だそうだ。ちなみに、DiCaprio氏主演の『The Beach』の原作者だそうで、あの映画を撮ったDanny Boyle監督ときっと意気投合したんでしょうな、Boyle監督の『28Days Later』や『Sunshine』の脚本も、Alex氏によるものだそうです。 あっ!! なんてこった!! 2012年版の『JUDGE DREDD』の脚本もこの人なんだ。へー。面白いなこの人。初監督作品としては、非常に画もセンスがあって素晴らしい才能だと思うけれど、かなり淡々とした、冷めた物語進行で、それは画にも表れています。ので、派手派手しいハリウッド的な部分はほぼないと思ってください。ある意味、物語の盛り上がりも非常に淡々としていて、かなり地味です。この映画は。

 というわけで、結論。
 まだ日本未公開の『Ex Machina』を観てみたところ、確かにこの映画は非常に面白く興味深いことが良く分かった。が、これは……確かに、CGによる凄い映像はあるけれど、内容的にある種の特別な知識や好奇心が必要で、一般ウケは難しそうな気がする。単純にキャラクターの行動だけを表面的に理解しただけでは、えっ!? で終わってしまう可能性もあるので、うーーん……これは難しいっすね。日本での配給の買い手がなかなかつかなかったのも、ちょっと理解できました。たぶん、公開規模も非常に少なくあっという間に公開終了になると思いますが、わたしは、かなり気に入ったので、英語の理解度チェックのためにもう一度観に行くかもしれないっす。以上。

↓ スペイン版は日本語字幕入りらしいです。ホントかどうかは分かりませんので自己責任でどうぞ。わたしが買ってきてもらった北米版は、英語とスペイン語字幕だけでした。