ついに、次期アメリカ合衆国大統領は共和党のDonald Trump氏に決まったわけだが、わたしとしては、もはや決まってしまったことなので、願わくば周りやバックについている頭のいい連中が「善良」であることを祈るばかりである。少なくとも言えることは、我々日本人から見たら、「なんじゃそりゃ!」と思うような選挙制度であっても、まぎれもなくTump氏は合法的に、誰も文句の言えない方法でアメリカ合衆国大統領になるわけで、その点はもう、受け入れるしかない。ホント、どうなるんすかねえ。
 そして、我々は、世界の歴史において、おそらく今後の歴史において永遠に悪党であると言われるであろう政党Nationalsozialistische Deutsche Arbeitpartei(国家社会主義ドイツ労働者党)、通称「Nazi」が83年前にドイツの政権を「合法的に」握ったことを知っている。もちろん、合法的と行ってもそこは議論の余地のあるもので、裏には恐喝や欺瞞、違法行為があったことは知られているが、表面的であっても合法的で、なおかつ支持した一般市民が大勢いることは紛れもなく事実だろう。日本だって、いわゆるタレント候補が国会議員や知事になる時代だ。まちがいなく、そういった人々を支持した名もなき民衆が大勢いるのは明らかだ。 
 なので、Trump氏に関しても、これから、後の世の人々がその評価をすることになるはずで、今のところは誰も何も言えそうにない。 実は超イイ奴かもしれないし、世界を破滅に導くことになるかもしれない。それはまだ、実際のところよく分からんので、みんな不安なわけだ。主に外国の我々から見たら。
 しかし、既に結果の出ているNaziに関しては、その行為によって、全世界から今もなお悪党として忌避されているわけだが、とりわけ、一番犠牲者の出たユダヤの方々は、現在もその恨み晴らさでおくべきか……!! と復讐の牙を磨いていることは、これまた全世界的にも知られていることであろう。その復讐の炎は永遠に晴れないものなのか、いわゆる「憎しみの連鎖」というものは、果して永遠に断ち切れないものなのか、という問題は、わたしは大いに興味がある。 こうして文字にすると他人事のようになってしまうけれど、実際、わたしは人間の心理・行動において、その点が一番大きな問題だと思っている。
 というわけで、今日、わたしが観た映画は、90歳近いユダヤのおじいちゃんがNaziの当時の将校をぶっ殺しに行く、結構物騒なお話である。そして、その巧妙に練られた脚本にわたしは仰天し、非常なる傑作と認めるにやぶさかでないわけであります。いや、マジで素晴らしかった。映画のタイトルは、『Remember』。観終った今のわたしとしては、ニュアンス的には「忘れるな」という命令形と取るべきのような気がするが、邦題は「手紙は憶えている」というタイトルの作品である。

 物語は、ほぼ上記予告の通りである。
 妻を1週間前になくした老人。彼は軽度(と言っていいだろう)の認知症を患っており、妻を亡くしたショックもあって、毎朝目覚めると、妻を亡くしたことを忘れている。だが、入居している介護施設の職員に諭されれば、ああ、そうだった、と思い出せる程度であるので、まあ軽度であろうと書いたわけだが、1週間の喪に服した後、息子夫婦や孫たちがやってきてユダヤの49日的な集まりが済んだあと、同じ施設にいる別のユダヤの老人から、一通の手紙を渡される。それは妻が亡くなったときに二人で話して決めたことが書いてあり、それを読んで主人公はこっそり施設を抜け出して、手紙に書かれた決断を実行すべく行動開始する。
 その決断とは――二人の老人は、ともにアウシュヴィッツの同じ房の生き残りであり、その収容所の所長的立場にあった男が、戦後身分を偽ってアメリカに移住しているということを知り、「生かしてはおかない」ことを約束し合ったものだった。一方の老人は車椅子と酸素ボンベが必要な老人なので動けない、なので主人公が「殺し」を引き受けるというものらしく、計画はすべて綿密に立てられていて、主人公の老人は旅先で自分がどこにいて何をしようとしていたか忘れてしまっても大丈夫なように、手紙にすべての計画をまとめた、ということになっている。そして、同じ名前の男が4人、つまり容疑者は4人。その4人を一人一人訪ねて回る、というのが主なお話の流れである。
 そしてこの先のお話は、もう一切書けない。実は予告映像にはネタバレになるカットがいくつかあるが、それは観終らないと意味が分からないので大丈夫だと思う。とにかくこの作品はネタバレしては絶対ダメだ。わたしは上記予告は何度か劇場で観ていたので、ここまでの流れは予告から想像できる通りであろうから書いたけど、ここから先は書けない。正直に言えば、見事にやられた! と思うような、わたしの想像した結末とは全く違うシビアなお話であった。書きたいけど……書けない!!! ちょっと冷静に考えると、若干ご都合主義的な部分はある、とは思う。けれど、この驚きの脚本は非常に見事だった。ぜひ、劇場でそのラストは確認していただきたいと思う。いやー、ホントに素晴らしかった。
 しかし……第2次大戦終結から71年が経っているわけで、当時20歳とすれば現在91歳(US公開は去年の今頃らしいので、戦後70年)。18歳だとしても89歳。そりゃあ戦地に出た人間はもう相当なお爺ちゃんか亡くなってるかですわな。そしてその恨みの炎が未だ消えないわけで、人間はそういう生物なんでしょうかねぇ……。そういう恨みを「Remember」、忘れない、憶えているというのは、なんというか、人間は悲しい存在だなあ……とのんきに思うわたしは、おそらくはまだ幸せなんでしょうな。
 わたしも、「あの野郎絶対ぶっ殺してやる!」と思うような奴に今まで何人も出会ってきたけれど、はっきり言って普段はもうすでにとっくに忘れちまっているわけで、結局、あの時のわたしの怒りや、わたしを怒らせたクソ野郎どもなんてのは、大したことがなかったんだろうなと思う。あの時は、ホントにすべてを捨ててもコイツを生かしておかない!!! と頭に来てたはずなのに、すっかりどうでもいいことになちゃってる。まあ、それほどの怒りや恨みの念に捕らわれていないこれまでの40数年の人生を感謝すべきなんだろうな、と漠然と思いました。
 ちなみに、わたしがこの映画で、一番、じゃないかもしれないけど、かなりぞっとしたのは、88歳のおじいちゃんに、しかも使い方が覚えられないから紙に書いてくれ、なんてお願いするおじいちゃんに、余裕でGLOCK17(19だったかも)を売ってしまうアメリカ合衆国の国民性だ。勿論合法なので、US-Citizenでないわたしが文句を言う筋合いは全くないのだが、おっかない国ですよ、やっぱり。彼らの主張の根拠としてよく耳にするのは、西部開拓時代から自分の身は自分で守るのが当たり前、という理論だが、お前らさ……21世紀の法治国家だぜ……? まあ要するに、他人への、人間への信頼がゼロ、ってことなんだろうと思う。怖い国だなあ、本当に。

 さてと。では、お話の部分ではなくて、ちょっとだけ役者と監督について書いておこう。
 まず、主役の老人を演じたのは、大ベテランのChristopher Plummer氏。御年86歳。このお方は、わたしにとっては永遠のトラップ大佐ですよ。え!知らない!? 超名作『SOUND OF MUSIC』のお父さんですよ。目元は全く変わらないすね。そして超美声。元々ブロードウェーでも活躍した人だしピアニスト志望だったそうですね。本作でも、御大がピアノを弾くシーンが何度かあります(その曲が結構重要!!!)。最近では、と言ってももう5年前だけど、ハリウッド版の『The Girl with Dragon Tatoo』のヘンリク・ヴァンゲルでもお馴染みですし、今、Wikiを見て初めて知ったけれど、なんと元部下のYくんが大好きなゲームの『The Elders ScrollsV:SKYRIM』でも声優として声の出演をしてるんですな。もはや何本の映画に出ているか数える意味もないほど数多くの作品に出演されてます。そして今回の演技は実に、実に渋くて素晴らしかったっす。
 そして監督だが、Atom Egoyan氏という方で、正直に告白すると、映画オタクを名乗るわたしでも一瞬、誰? と思う人だったが、調べてみたところ、ちょっと前に観た『DEVIL'S NOT』を撮った監督でした。『DEVIL'S NOT』も非常に重くてシリアスなお話でしたな。わたしがことあるごとに推している、Dane DeHaan君もちらっと出ている秀作ですので、そちらもお勧めです。

 というわけで、結論。
 『REMEMBER』、邦題「手紙は憶えている」は、わたしが想像した結末とは全く違うエンディングを迎える衝撃作であった。傑作と言っていいと思う。素晴らしかった。そしてかつてのトラップ大佐も、すっかりお爺ちゃんなわけで、それでもやはり、Christopher Plummerという役者は今もなお素晴らしいと断言できると思います。
 しかし……憎しみの連鎖というものは、今現在の人類には断ち切ることは出来ないんだろうな。みつを的に言えば、だって人間だもの、ってことなんでしょうね。そして、民主主義というものも、現在の人類にとっては少数意見の切り捨てに過ぎないわけで、かといってそれに代わるシステムというか方法もないわけで、なんというか、人類は少々行き詰ってんじゃねえかしら……と大変不安になりました。
 ところで、全然関係ないですが、この映画はもう2週間前に公開されており、そろそろ終わっちゃいます。なんで今頃観たかというと、今日、TOHOシネマズの6000マイルと引き換えに1か月フリーパスポートをゲットしたからです。あれ、今頃観に行った理由になってねえな。以上。

↓ 最高です。そして、以前もこのBlogで書いた通り、何気に日本語版の平原綾香ちゃんの吹き替えが超絶に素晴らしい。マジで歌も芝居も完璧です。観ていない人は、超必見。
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2015-05-02