わたしの元部下のA嬢は、NYCに住んでいたこともあるバリバリの英語使いで、当時はよく仕事帰りにBroad Wayに寄って、さまざまなミュージカルを楽しんでいた筋金入りである。わたしもミュージカルが大好きなので、大変うらやましく思うわけだが、彼女は4~5年前、Ryan Gosling氏が大好きだった頃があって、へえ、じゃあこいつを観るがいい、といろいろRyan氏が出演している映画のBlu-rayを貸してあげたりしていたのだが、確か2015年の春ごろに、わたしの大好きなEmma StoneちゃんとA嬢の大好きなRyan Gosling氏が、ミュージカル作品に揃って主役として出演すると聞いて、わたしもA嬢も、そりゃあ楽しみだ、と大変期待していたのである。ああ、そういやEmmaちゃんとRyan氏が共演した『Crazy, Stupid , Love』も貸したことあったっけな。あの映画も面白かったね。
 そしていよいよその作品は去年末にUS公開され、1億ドルを超える大ヒットとなり、あまつさえ、日本時間であさっての月曜日に発表される第89回アカデミー賞において、なんと歴代最多タイの14部門でのノミネートを獲得し、一躍話題になって、いよいよ昨日の金曜日から、満を持して日本公開と相成ったわけである。
 その作品の名は『LA LA LAND』。A嬢に観に行こうぜ!と誘ったらごくあっさり振られたので、やむなく今日、朝イチで一人しょんぼり観に行ってきたのだが、結論から言うと、相当イイ! けど、若干、ちょっとどうなんだ……? という部分もあったのは事実である。これは、おそらく男と女では、かなり感想が違う問題作なのではなかろうか、という気がした。わたしはおっさんなので、二人の主人公の想いはかなりよく分かるというか納得できるので、実のところわたしはとても楽しめた映画であることは間違いないのだが、これは……若いカップルが観たらどう思うのだろうか……と若干心配である。わたしがそう思う理由を書きたいのだが、決定的なネタバレとなってしまうので、核心的なことにはなるべく触れずに、感想をまとめようと思う。あ、あともう一つ。この映画は、「ミュージカルのお約束」に慣れていないと、結構ポカーンとしてしまうかもしれないな。急に歌って踊りだすのは、慣れていない人では、え? と思うかもしれない。でも、あなた、それがミュージカルってやつですよ。わたしは全くその点は気にならないというか、歌が素晴らしいので、むしろキター!とうれしくなったね。
 それでは、まずはお約束の予告動画を貼っておこう。

 まあ、大体の物語は、上記予告で示されている、とは思うが、決定的なことは描かれていない、とだけ言っておこう。ヒロイン・ミアは、女優を目指して頑張る女子。しかしオーディションに行ってもまるで相手にされず、ルームメイトの3人の女子たちはいろいろ誘ってくれて、憂さ晴らしは出来るものの、そんなパーティーへ行ってみても、なんとなくしょんぼりな毎日だ。そして一方の男の主人公・セブ(セバスティアンの略だってさ)は、ガチガチのオールド・ジャズ好きで、いつか自分の店を開いて、もはや絶滅危惧種な本物のジャズを聴かせるんだ、という夢をもってピアノを弾いているが、所詮は定職のない、たまにクラブで弾くのが精いっぱいのピアニスト。こんな二人の双方のしょんぼりぶりが描かれ、たまたま出会った二人が、その後も何度も出会うことで魅かれていき、恋に落ちる――とまあ、そんな、なかなか甘酸っぱいラブストーリーだ。
 こういう場合、よくあるパターンとしては、どちらかがサクセスしてしまい、なんとなく距離ができてしまって――的な展開をよく見かけるような気がする。例えば、ちょっと違うけれど、だいぶ前に観たミュージカル映画『The Last Five Years』もそんなお話だった。なのでわたしもそういう展開を想像したのだが、問題はどっちが成功してしまうんだろう? という点であろうと思う。しかし――ここは書かないでおく。書いたらマズいよね、やっぱり。ただ一つ言えることは、わたしの想像を超えたエンディングであり、かなりわたしとしては、ええっ!? と驚いた、ということである。この点で、わたしは若い観客の理解を得られるのだろうかと心配になったわけで、さらに言うと男と女ではかなり受け取り方が違うんじゃないかな、と思ったのである。
 しかしですね、やっぱりとてもイイすねえ!何がいいって、そりゃあもちろん歌とダンスと二人の芝居ぶりですよ。わたしは観ながら結構足でリズムを取ったり、キメのところでは拍手をしたくなりましたな。まあ、正直、歌は超頑張っているのはよく感じられるけれど、もうチョイ、声に伸びやかさが欲しかったかな。
 まず歌だが、Emmaちゃんの歌声は、結構かすれ声系のしっとり系なんすね。もうチョイ声量が欲しいかなあ。でも可愛いから許す! そしてRyan氏も、やっぱりもうチョイ迫力欲しかったかもなあ。でも、キャラクターには合っていたのかな。決して下手じゃないし、実際かなりいいけれど、もう一声、を望みたいような気はしたのは記録に残しておこう。ハリウッドのミュージカルというと、最近ではやっぱり『Le Miserables』でジャベールを演じたRussel Crowe氏の意外な美声にわたしは非常に驚いたが(歌手活動を行っていたことを全然知らなかったので、歌えること自体驚いた)、EmmaちゃんもRyan氏も、まあ、想定内の歌声だったと思う。ただし、Ryan氏は、この映画のためにピアノを猛特訓したそうで、劇中のピアノを弾くシーンは本当に彼が演奏しているそうだ。カッコいい野郎がピアノ弾けたら、そのカッコよさは5倍増しですな。くそ、オレももしもピアノが弾けたらなあ……。
 そしてダンス! ダンスはもう完璧だったと言えよう。とりわけ、わたしが一番気に入ったのは、やっぱり二人が最初にお互いを意識する、LAのマウント・ハリウッド・ドライブで踊るタップダンスのシーンだ。ここはもう、ホントに夢のような美しさと可愛らしさがあふれてて、最高でしたね。そして撮影もかなり見どころであると言ってもいいだろう。ほとんどのシーンは、やけに長いカットで、ダンスシーンもほぼ長まわしの一発撮りだ。ただこの辺は、技術の発達した現代においては、長まわしに見えるようで実は違う、という場合もこれまたよくあるので、実際のところはよくわからない。しかし、↓こんな動画を観ると、マジで一発で撮ったんじゃねえかという気もする。

 ↑このシーンも、とてもかわいいすねえ! ちなみに、ルームメイトの一人、黄色の服の人は『EX Machina』でミステリアスな「キョウコ」という役を演じたソノヤ・ミズノさんという東京生まれのイギリス育ちのお方だ。国籍としてはイギリス人なのかな。大変お綺麗な方です。オープニングの高速道路でのダンスも、本当に高速道路で撮影したそうで、あれが一発撮りだったら相当凄いと思うけど、ちょっとよく分からない。まあ、この映画はのっけからその魅力にあふれているのは間違いないと思う。
 (※2017/02/28追記:昨日、WOWOWでアカデミー賞授賞式の中継を見たところ、カメラマン氏曰く、オープニングの高速道路のダンスは4カットで構成されていて、そしてわたしが気に入ったタップダンスのシーンは、完全1発撮りのワンカットで、6テイク撮影して、採用されたのは最後のテイク6だそうです)
 で。二人の演技ぶりだが、間違いなくこの映画を観た人は、男ならばEmmaちゃんを可愛いと思うだろうし、女性ならばRyan氏にときめいてしまうだろうと思う。
 まず、Emmaちゃんは今回、わたしの大好物であるしょんぼり顔を多く見せてくれ、もうホントに放っておけない雰囲気がある。そしてそんな彼女がセブに出会ってみせる笑顔の素晴らしさは、もうマジ天使クラスだ。以前このBlogで、Emmaちゃん主演の『Magic in the Moonlight』について書いたときも記したが、Emmaちゃんは「オレ的ハリウッド美女TOP10」の「天使クラス」に入る美女であって、今回の演技ぶりもとても良かった。本作は、「冬」に出会った二人が「春」に愛を確かめ「夏」に愛を謳歌し、「秋」に岐路を迎え、そして「冬」を迎えるという構成になっていて、特に最後の「冬」でのEmmaちゃんの演技が超絶品である。そして超絶品であるがゆえに超せつない物語に仕上がっているので、あさって月曜日、Emmaちゃんが栄光のオスカーウィナーとなってもわたしはまったく驚きません。獲れるといいね、本当に。
 そしてRyan氏であるが、元々この人は無口系キャラが似合うわけだが、今回演じるのはある意味、夢追い人の「だめんず」であり、女性のハートをくすぐるには余りある役を、繊細に演じ切っている。前述のように、ピアノ演奏シーンも非常に良い。そして、愛するミアのために、一念発起してそれまでのこだわりを捨ててだめんずから卒業しようと頑張る姿も、おそらく女性ならキュンとしてしまうのではなかろうか。しかし、その結果として迎える最後の「冬」を、女性客の皆さんはどうとらえるのか、わたしとしては大変興味が尽きない。ぜひこのエンディングは、今すぐ劇場へ確認しに行って欲しいと思う。特に女性の皆さんは。わたし的には、かなり序盤で、素人バンドが若干ダサめに80年代の名曲、a-haの『Take On Me』を演奏しているシーンで、超イヤイヤながら、オレが弾きたいのはこんな曲じゃねえ、という顔をしてキーボードを弾いているRyan氏の表情が最高に良かったと思います。そして、人々の中にミアを見つけ、超気まずそうなRyan氏が絶妙だったすね。
 最後に監督について記して終わりにしよう。監督は2014年の『Whiplash』(邦題:セッション)で一躍注目を集めたDamian Chazelle氏である。やっぱりこの監督は、音楽というかジャズが大好きなんでしょうな。音楽の使い方は素晴らしいですよ。そして前述の通り、長まわしも多用していて、ある意味古き良きハリウッド映画の様式をしっかり再現しているようにも思える。なお、脚本もDamian氏が執筆されたそうで、物語も非常にファンタジックというか、夢のようなお話で、そういう点も古き良きハリウッドの正統なミュージカルであったと思う。しかしまあ、古き良きハリウッドミュージカルであれば、もっと明確なハッピーエンドになっただろうな。かなりわたしとしては唐突感を感じてしまったのが、大絶賛一歩手前、に留まる要因であったのだろう。でもまあ、あれでいいんだろうな、きっと。この点についても、やっぱり女性の意見を聞きたいすね。

 人はきっと、誰しもが「ありえた未来」を想い、あの時なあ、ああしてれば今頃なあ、と考えることがあると思う。場合によっては、あの時のたった一言が、今を決定づけてしまったのかもしれない。そんな風に考えるのは、いわゆる「後悔」というものであり、そしてその後悔は、ほろ苦く、思うたびにどこか痛みを感じるものだ。そしてその痛みを、若干気持ちよく感じてしまうのが質が悪いというか、人間だ。ひょっとしたらそんな傾向は、女性よりも男の方が強いかもしれないすね。わたしはセブが「Seb's」のあのロゴを使った気持ちがすげえ分かる。そしてあのロゴを見た時のミアの表情が、わたしは一番グッと来た。
 しかし、これもきっと明らかなことだと思うけれど、確実に、人には「そうならなかった現在」を肯定できる日がやってくると思う。わたしのような40代後半のおっさんだと、もうほぼ、そんな境地に至っているわけで、それはあきらめではなく、現状肯定だ、とわたしとしてはカッコつけて申し上げておきたい。わたしの場合は、やっぱり40歳になるかならないかって頃だったんじゃないかなあ。
 はたして本作の主人公、セブとミアは、そんな境地に至るまでに、あとどれだけ痛みを感じることだろうか。でも、しょうがないよ。つーか大丈夫よ。だって、にんげんだもの!と、おっさんとしてはアドバイス?して終わりにしたい。
 ※2017/03/13追記:A嬢がやっと観に行ったというので感想を聞き、ちょっとだけ言葉を追加しました。

 というわけで、取り留めもなくだらだら長いのでもう結論。
 製作開始から楽しみにしていた『LA LA LAND』がやっと日本で公開になり、期待に胸弾ませて劇場へ向かったわたしであるが、言いたいことは、以下のことである。
 ◆Emmaちゃんがスーパー可愛い。ダンスもGOOD! 歌声も、意外なかすれ声で可愛い。しょんぼり顔とはじける笑顔にわたしは大満足。マジ天使っす。
 ◆Ryan氏の演技は、男視点から見るとすごく共感できる繊細な芝居ぶりでお見事。
 ◆物語的には、予想外のエンディング。これはぜひ劇場で!
 ◆演出面では長まわしの一発どり など、ダンスシーンをダイナミックに描いている。
 ◆急に歌って踊りだすのが変だって? あんた、なに言ってんの? This is !ミュージカルだぜ!
 以上。

↓ つーかですね、コイツを買って車で聞きまくるのもいいかもしれないな……。
ラ・ラ・ランド-オリジナル・サウンドトラック
サントラ
ユニバーサル ミュージック
2017-02-17

↓ そして今、わたしはEmmaちゃんマジ天使熱が激しく上昇中なので、久しぶりにコイツを観ようと思います。これまた超かわゆい。
ゾンビランド (字幕版)
ウディ・ハレルソン
2013-11-26