「先月勤め先がなくなった 再就職先など気遣ってくれる口もないではなかったが まあ色々思う所あって 一年間何もせずにいようと決めた」
 こんな出だしから始まる漫画、それが『34歳無職さん』という漫画であり、わたしは(1)巻が出た時から読んでいて、今日(?)発売になった(8)巻でめでたく完結した。
34歳無職さん 8<34歳無職さん> (コミックフラッパー)
いけだたかし
KADOKAWA / メディアファクトリー
2016-07-23

 主人公は女性である。34歳。無職。何もしない毎日をただ追うだけの漫画である。
 だから正直、ヤマ場がない。毎回のオチも実に弱い。おまけに、主人公も、毎日ダラダラしていて、毎日を規則正しく生きているわけでもない。要するに、クソ真面目と周りから言われるわたしが、魅かれる要因はほとんどない、はずなのだが、どういうわけかわたしは、彼女の生き方から目が離せなくなっていたのである。
 それはなぜか、と考えると、やはり、彼女が「真面目だから」であろうと思う。 
 実は最終話まで、結局主人公の名前すら明らかにされなかったのだが、巻を追うにつれて、彼女の謎がいろいろ明かされてくる。どうやらバツイチで、おまけに娘までいるらしいことが明かされたときは非常に驚いた。「勤め先がなくなった」としか説明されていないので、おそらくは会社が倒産した・清算した、ということであり、自分の意思で会社を退職したわけではないようだが、一体なぜ、「何もしないことに決めた」のか。別に、精神を病んだということもなく、心身ともに健康である。離婚がその原因の一つであろうことは間違いないと思うけれど、それ以外は最後まで、一切説明されなかった。ほぼ、投げっぱなしで終わり、である。
  なので、好意的な読者であれば、その余韻を味わいながら、さまざまに感じるものがあるんだろうと思うけれど、わたしはいろいろ不満というか、若干、唖然としてしまった。一体彼女は、何者だったんだろう、と、よくわからないでいる。
 たとえば、わたしがぼんやり考えるのは、「もし彼女の会社がそのまま存続していたら、彼女はどう生きていたのだろう?」ということだ。たぶん、そのまま、なにもなく、つつがなくOLを続けていただろう。そう思うのは、最終(8)巻のラストで、再就職を果たし、「無職さん」でなくなるからだ。
 では、彼女にとって、約1年の無職生活は何だったのだろう。描かれている範囲でいえば、何もない。別に何かをしようともしないし、後に残る具体的なものもない。ちなみに、もちろんというか、男っ気も皆無である。ただただ、毎日を「生きる」姿が描かれるだけだ。
 こうして書けば書くほど、わたしとは対極にある、全く興味を抱かない人物のように思えてくるが、わたしが魅かれたのは、おそらく「何もしないことを決めた」意志の強さだろうと思う。その、意地とも言えそうな「何もしない」ことの徹底さ、そこだけが、実に真面目なのだ。だからわたしは、主人公をそう決意させたものは何なのか、それだけが知りたくて、彼女の毎日に付き合ってきたのだが、結論から言うと、そこは明確には示されない。それは読者自身がいろいろ考えてくれという余地が残るまま、物語は終了した。
 というわけで、正直、わたしはがっかりである。結果論として言えば、その無職生活は彼女に何の変化ももたらさず、何も得るものもないまま、ある意味惰性で再び働きだした、としか言えない。元夫のもとで暮らす娘との関係性も、何も変わらず、ズバリ厳しく言えば、この無職生活の約1年は、完全な無駄だったとさえ言えそうである。
 もちろん、世の「優しい」人々からすれば、それは無駄じゃないのよ、そういう無駄こそが彼女には必要だったのよ、と言うのが現代の優しい世間体だろう。だが、残念ながら私はそういう人間ではないので、そうであるならば、もうすこし、ドラマを描いて欲しかったと思っている。わたしはそういった、優しい風潮には何も思うことがないし、世の中が厳しいことは身にしみてわかっているので、やはりもう少し、2,3の大きな出来事が起きてほしかったのだが、結局は娘との誕生日イベントぐらいしかなかったのは、最終巻まで買って応援していた読者としては、本作のエンディングは、正直、残念だなあとしか思えない。なので、もうこれ以上書くことがない。

 というわけで、もう結論。
 『34歳無職さん』が完結した。ラスト、結局無事に再就職に至る主人公。彼女はこの1年にわたる無職暮らしで得たものは何だったのか。わたしも約8か月の無職生活を経験したことがあるが、まあ、ちょっと甘いだろうな、と思う。現実の世の中は、本当に「無職」には厳しいですよ。ホント、想像してなかったような、世の中の厳しさを味わうことになるんだなあ、というのが、わたしの無職生活で得た教訓であります。わたしのように、全く金に困らなくても、とにかく、世の中は「無職」に冷たいもんですよ。それは、わたしは本当に身に染みました。きっとそのことは、主人公も痛感したことだと思います。以上。

↓ いけだ先生のほかの作品もちょっと読んでみたい、とは思ってる。これはアニメ化されたらしいすね。
ささめきこと 1<ささめきこと> (コミックアライブ)
いけだ たかし
KADOKAWA / メディアファクトリー
2012-12-01