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 先日、チケットぴあから、チケットまだ残ってます的なメールがピローンと来て、ふーん、まだ買えるだ、ということを知ったため、それじゃ、まあ、今からじゃ誰も一緒に行ってくれないだろうから、一人で行ってみっか、と衝動買いしたチケットがある。
 それは、2年前にわたしが一番応援している宝塚歌劇団星組を卒業された、元TOPスター北翔海莉さん(以下:みっちゃん)の出演する松竹喜劇、『蘭 ~緒方洪庵 浪華の事件帳』という作品で、どうやらみっちゃんは男装の麗人を演じるらしく、おまけに歌もあると聞いて、わたしとしてはこれは観たいと思っていたのだが、最初のチケット申し込みを忘れて諦めていたのであります。しかし観られるなら観たいということで、すぐさまチケットを購入し、観てきたわけだが、結論から言うとやっぱりみっちゃんはホントに芸達者で、明らかに出演者の中では抜群に演技や殺陣にキレがあり、発声も素晴らしく聞きやすく、要するに、みっちゃんはやっぱ最高だぜ! という訳で大満足だったのであります。いやあ、ホント最高でした。

 というわけで、昨日は偶然千秋楽だったらしいが、一番最後の夕方の回ではなく、前楽と言った方がいいのかな、12時開幕の回にはせ参じてきた。場所は新橋演舞場。わたしは初めての劇場なのだが、まあ、とにかくシニア率の高い客層に驚きつつ、さらに劇場に併設されている喫茶室や売店などが、ことごとく昭和感あふれるもので、なんだか若干の異世界感のある劇場であった。やっぱり松竹の経営する劇場って、歌舞伎座めいた雰囲気ですな。
 で。物語は、19世紀前半頃、すなわち江戸後期に活躍した蘭学者&医師の緒方洪庵の若き頃を描いたものである。緒方洪庵と言えば、わたし的には大坂に「適塾」を開いた男として、福沢諭吉の師としてお馴染みだが、本作はまだ青年期、緒方章と名乗っていた頃の、当時御禁制のオランダ語→中国語に翻訳された書物(天然痘の種痘法について書かれた本)をめぐるお話で、舞台は大坂である。なお、思いっきり喜劇ですよ。しかもかなりコテコテな関西系ギャグ満載で、まあ大変笑わせていただきました。しかしそれでも、わたしとしてはやっぱりみっちゃんのピシッとしたメリハリの付いた折り目正しい演技と歌に、一番酔いしれたすね。くどいですが、やっぱりみっちゃんは最高です!
 もう面倒なので、主な登場人物と、演じた役者を以下にまとめてみようと思います。
 ◆緒方章(後の緒方洪庵):主人公。大坂の中天游が開いた私塾「思々斎塾」に入門して勉強中の青年(※Wikiによるとこの頃は緒方三平と名乗ってたそうな。へえ~)。師匠である中天游がなけなしの3両を出して、問題の禁書を入手する手伝いをするのだが、そこには何やらいろいろと陰謀?があって……という若干シリアスな展開だが、まあ、キャラとしては大変笑えるものでありました。演じたのは藤山扇治郎氏。はっきり言って東京人のわたしは藤山氏のことを何も知らないが、松竹新喜劇が誇るスーパースター?であろう。藤原寛美氏の孫であり、藤山直美氏の甥、だそうだが、正直両人ともわたしはよく知らない。見た目、かなり小柄な青年。演技ぶりは、なんというか若さがはじける溌剌としたもので、わたしとしてはかなり好感を得た。でもいかんせん、東京ではおなじみではないと思う。もったいないと言うか残念だ。
 ◆中天游:前述の通り後の緒方洪庵の師匠。演じたのは石倉三郎氏。基本すっとぼけオヤジだが、基本イイ人。石倉氏の生演技は初めて見た。この方は今やすっかり渋い役者になったけどお笑いも得意なわけで、今回のような喜劇はお手の物であろう。実に堅実なベテランな味があったすね。大変良いと思います。
 ◆お定:中天游の奥さんでこの人も女医。演じたのは久本雅美女史。初めて生で見たマチャミさんだが、このお方は小柄なんすねえ!? 凄いちびっ子で、凄い可愛らしくてびっくりした。そしてギャグもやっぱり一番場内爆笑だったんじゃないかなあ。いやあ、さすがであります。出番はそれほど多くはないけれど、大変素晴らしかったすね。わたしも大変笑わせていただきました。
 ◆東儀左近:宮廷の雅楽を担う「在天楽所」(四天王寺楽所)に属する楽人。そして大阪の町を守り千年の歴史をもつという「在天別流」の総領。女人禁制なので男装の麗人。演じたのは勿論我らが北翔海莉さんakaみっちゃん。最初に登場する時の、大坂案内の超長口上がウルトラグレイト! 凄い人だよみっちゃんは! 1幕ラストの歌もウルトラカッコイイ! そして殺陣もウルトラキレてる。それから滑舌も、一番しっかり決まってる。本作は、どうも歌以外の普通の台詞はマイクナシ、だったようだが、みっちゃんの声は、かなり後ろの席だったわたしにもしっかり聞こえました。要するにですね、本作におけるみっちゃんはもう、完璧、ですよ。演技的には、女子としての姿も実に女子だし(当たり前だけど当たり前じゃない。ずっと男役だったんだから!)、男装の麗人としてはもう、かつての男役でのみっちゃんだし、まあ、ファンにはたまらないでしょうな。当然、みっちゃんファンクラブは宝塚歌劇の公演のように机を出してチケット出しされてたし、みっちゃんだけ、ブロマイドも売ってました。さすがっすね。いやあ、ほんとみっちゃんは芸達者で、ほかの宝塚歌劇出身役者とは、ちょっとレベルが違うすね。そしてみっちゃんは、わたしが知る限り、必ず、幕が下りるカーテンコールの時に「ありがとうございました」と言うお方なのだが(他のTOPスターはあまり言わない)、今回ももちろんみっちゃんは「ありがとうございました」と言っていたし、千秋楽ということで簡単な挨拶もあって、袖に引っ込むとき、いつもの「まったねーー! バイバーイ!」もあって、わたしとしては大変うれしく思いました。みっちゃんはマジ最高ですな!
 ◆若狭:左近と同じく「在天」のメンバー。忍び風な装束でアクションもあるし、本編中の狂言回し的な役割もあるし、マイクパフォーマンスもお見事でした。演じたのは、わたし的には「ゲキレンジャー」のリオ様であり、ミュージカルテニスの王子様でのデータテニスの男、乾で大変お馴染みな荒木宏文君だ。彼もあれからもう10年以上経って、本当にずっと精進してきたことが分かるような見事なパフォーマンスで、本当に今の活躍がうれしいすね。2.5次元系ミュージカルでの活躍が多いけれど、ぜひ帝劇系の大作にも出てもらいたいですな。声も良く通るし、ホント、たゆまぬ努力を続けてきたんだなあと思うと大変うれしいす。
 えーと、他のキャストの皆さんは正直知らない方なのだが、中天游の息子を演じたのは上田堪大氏と言う方で、とても背が高く、どうやら彼も2.5次元系で経験を積まれている方みたいすな。それから、謎の瓦版屋でありその正体は公儀隠密という役を演じられたのが、佐藤永典氏と言う方で、彼もまた、ミュージカルテニスの王子様で経験を積まれた方だそうだ。あれっ!? あ、財前を演った彼なんだ!? へええ、それなら10年前にわたしは彼を観てるんだな。全然気が付かなかったよ。本作は、歌がみっちゃんの歌しかなくて、どうせならもっと皆さんの歌を聞いてみたかったようにも思うすね。

 というわけで、もう書くことがなくなったのでさっさと結論。
 観たいと思いつつチケットを買いそびれ、その後ぴあからのメールでチケットを買うことが出来た『蘭 ~緒方洪庵 浪華の事件帳』という松竹新喜劇を観てきたのだが、まず、初めての新橋演舞場は非常に昭和感あふれる劇場で、お客さんもシニア層中心で非常に印象深かったのと、なんといっても元星組TOPスター北翔海莉さんことみっちゃんが、退団後もとても精力的に活動されている姿を見ることが出来て大満足でありました。ホント、みっちゃんはすごい人ですよ。まさしく「芸能」人ですな。そこらの芸のない自称タレントとは、まったく次元の違う存在だと思う。とにかく素晴らしかったす。そして生で初めて見た久本雅美さんが超ちびっ子で可愛らしくて驚いたす。お話は松竹新喜劇ということで完全に関西系コテコテ喜劇で、かなり笑えました。くどいぐらいにw それにしても、ホントしつこいですが、みっちゃんは最高です! の一言に尽きますな。以上。

↓ こちらが原作すね。これはちょっと読んでみたいと思います。

 このBlogで何度か書いている通り、わたしは学生時代に19世紀ドイツ演劇を専攻していたのだが、当然のことながらShakespeareやフランス喜劇、ロシア戯曲なども、日本語で読めるものはかなり片っ端から読んでいる。実のところ、わたしが真面目に勉強していたドイツ演劇よりも、面白い作品はよそにあって、やっぱりShakespeareは確実に別格であろうと思う。わたしは中でも『Henry IV』が一番好きなのだが、Shakespeareは喜劇も面白く、中でも『As you like it』、日本語タイトル「お気に召すまま」も、とても面白かった記憶がある。
 記憶がある、と若干逃げた表現をしたのは、実は正直に自白すると、もう細かいことは憶えていないからだ。何度も読んでいるわけではなく、この「お気に召すまま」は1回しか読んでいないので、主人公のおてんばな女子が男装して大活躍する、ぐらいは憶えているけれど、細かいことはすっかり忘れている。今、わたしの本棚を漁ってみたところ、わたしが持っている岩波文庫版の『お気に召すまま』は1989年11月発行の49刷であった。うーん、もう27年チョイ前か……なんてこった、そりゃあオレも鼻毛に白髪も混じるわけだよ……やれやれ。
 というわけで、今日は日比谷のシアタークリエで上演中の『お気に召すまま』を観てきた。何故かといえば、作品が好きだからでは決してなく、単に、主演がわたしが愛してやまない元・宝塚歌劇団星組のTOPスター、LEGENDこと柚希礼音さん(通称:ちえちゃん)であるからだ。ちえちゃんがミュージカルではなく、普通の、しかもShakespeare劇に出る。そりゃあ、わたしとしては観に行くに決まっているのである。当然というか、もはや義務であろう。そして、観終って思うのは、やっぱちえちゃんは可愛いなあ~、という完全に単なるおっさんファンとしての当たり前な感想であった。かなり女子も板についてきた(?)ちえちゃん。最高でした。

 たぶん、世の中的に、ちえちゃんと言えばまずはダンス、そして歌、というわけで、芝居はその次、なイメージというか評価ではなかろうか? いや、どうだろう、わたしだけかもしれないな、そう思っているのは。いずれにせよ、実はわたしは今日観に行く直前まで、今回は『お気に召すまま』をミュージカル仕立てにしてあるのかな? と盛大な勘違いをしていたのだが、全くそれはわたしの勘違いで、実際、全く普通のストレートプレイであった。故に、ちえちゃんがダンスも歌ナシで芝居だけでShakespeareに挑戦すると知ったときは、かなり驚いた。でも、この挑戦は結果的に非常に素晴らしかったとわたしはうれしく思う。また、今日ちょっと驚いたのは、シアタークリエという中規模劇場で、セリフは生声であった。でも、これはちょっと自信がない。時に双眼鏡も使って観ていたのだが、全員(?)マイクを装着していたのは間違いない、が、明らかに声は舞台から聞こえてきていて、生声のように感じられた。ちえちゃんは、元々声が低く、正直、演劇の通る発声ではない。それでも、後半男装の麗人、という女子を元気にかわいらしくカッコよく、演じ切っていたと思う。
 前半の青いワンピースは可愛かったすね。まあ、華奢には見えなかったけれど、十分以上に女子ですよ。あのウルトラカッコイイ男役としての柚希礼音ではなく、明らかに女子のちえちゃんは、男のわたしから見ると実に可愛いと思う。ラストの純白ウエディングドレスも良かったすね。そしてカーテンコール(というべきかアレ?)で一曲歌ってくれたのは、まあサービスなんでしょうな。久しぶりのちえちゃんの生歌、堪能させていただきました。ちえちゃんは、今後もすでに次のミュージカル出演も決まっているし、ホント順調にキャリアを重ねてますね。今回の芝居だけ、という作品の経験は、そしてShakespeare作品ということですげえ多いセリフ量の芝居を演じ切った経験は、きっと今後につながる貴重な経験になったと思うな。ずっと応援していきたい所存であります。
 で。ちえちゃん以外のキャストでわたしが素晴らしいと思ったのは、やはりロザリンドの親友シーリアを演じたマイコさんだろう。妻夫木くんと結婚したことでも最近おなじみだが、わたしはこの人で一番強烈に印象に残っているのは、チョーヤの梅酒「さ~らりとした~梅~酒」のCMだ。まあ、すっげえ美人ですな。あと、草彅剛くんの映画『山のあなた~徳市の恋』も印象的でしたね。今回のシーリアは、わたしのマイコさんのイメージ(=物静かな和美人)とは違う積極的でよくしゃべる役で、その点もとても新鮮に見えたし、実際、ホントセリフ量も多くてお見事でした。
 それから、わたしは今日初めて知った方だけど、オーランド―を演じたジュリアン君もかなりいいですな。パンフレットによると、彼のお父さんがアメリカ人だそうで、10代まで日本で育ってアメリカに渡り、オフ・ブロードウェーでも活躍した方だそうだ。てことは、彼も歌えるんだろうな。ぜひ一度、彼のミュージカルを観てみたいなあ。かなりカッコいい。そしてかなり鍛えているようで、いい筋肉も見せてくれました。ちょっと名前と顔を憶えておきたいすね。
 キャストに関しては、1人わたしがよく知っている方が出演していた。それは伊礼彼方氏。彼をわたしが見るのは、たぶん10年ぶりぐらい。彼は、わたしが初めて見た『テニスの王子様ミュージカル』で六角中の佐伯虎次郎というキャラ役で出ていたので、わたしは知っていたわけです。あれからもう10年。きっと、不断の努力を続けていたんだろうなと思う。今では結構いろいろなミュージカルに出演しているので、名前はちょこちょこ見かけていたけれど、実際に観劇したのは「テニミュ」以来、今回が初めてだ。『エリザベート』でもルドルフを演じたこともあるんですな。今回は歌がないけれど、わたし、佐伯虎次郎の「ひとつやり残したこと」って歌が好きだったんすよね……。上手いかどうかはともかくw
 あと、そうだもう一人。Shakespeareの作品では、多くの場合「道化」という存在が登場して、意外と重要な役割を演じる場合が多い。そして「道化」は、実は作中人物の中で一番頭が切れて物事の本質を、主要キャラに代わってしゃべる場合が多いのだが、今回の『お気に召すまま』にも道化は出てくる。そして今回その道化役であるタッチストーンというキャラを演じたのが、芋洗坂係長だ。驚いたと言ったら失礼だけれど、滑舌もよく、芝居ぶりも楽しく、非常に良かったと思う。さすがというか、きっちり訓練された演技者として、技ありというか大変素晴らしい芝居ぶりだったと思った。この人、元々ダンサーなんすよね。お見事です。

 というわけで、もうなんか書くことがないので結論。
 今日観に行った『お気に召すまま』は、わたしとしてはちえちゃんを観に行ったわけで、その点では大変満足である。ますます女子化が進行しているちえちゃん。アリです。実にアリですよ。ただ、芝居として、時代設定を1960年代終わり(?)に変換したのは、我々日本人には全く通じないと思う。その点では、正直何だったんだという気がしてならない。我々日本人には全くピンとこないというか、ほぼ意味がなかったように思う。いっそ原作ママのコスチュームプレイでもよかったのかもしれないすね。まあ、変に現代化するよりいいのかな。結論としては、ちえちゃんは大変かわいい。それがわたしの一番言いたいことであります。以上。

↓ わたしが持っているのは岩波文庫版。定価310円でした。今は税込み540円だそうです。
お気に召すまま (岩波文庫 赤 204-7)
ウィリアム・シェイクスピア
岩波書店
1974-05-16

 年末に、山田洋次監督の『母と暮らせば』を観て、大いに感動し、その後、『小さいおうち』も観て、まったくもって今さらながら、やはり山田洋次監督はすげえなあ、と思ったわけであるが、同時に、わたしはすっかり黒木華ちゃんにぞっこんLOVEとなり、年末から現在に至るまで、華ちゃんの天然昭和フェイスが頭から離れないわけであります。だいたい、華ちゃんは1990年生まれのれっきとした平成生まれなのに、昭和顔ってなんなんだ、と思われる方も多かろうと思う。敢えて言おう。だが、それがいい。のである。
 で。どんどん華ちゃんが好きになったわたしとしては、当然ながらいろいろ調べさせてもらった。ほほう、大阪出身ね、ほほう、身長164cmね、ほほう、NODA・MAP出身ね、なるほどなるほど、タバコを吸うらしい? いいよ、全然OKだよ、などと、年末ごろのわたしは半ば変態じみた様子であったに違いない。そしてそんな時、華ちゃん主演の舞台演劇が年明けから始まるという情報を得た。……のだが、既にもうチケットは発売中で、わたしが気が付いた時はもう、あまりいい席はなかった。なので、どうしよう、せっかくの生のお姿を見られるチャンスなのだから、席はどこでもいいから行くか? と、かれこれ14日間ほど悩み、いや、やはり行くべきである!! とわたしの内なる叫びが聞こえたような気がするので、チケットを取得し、おととい観てきた。その舞台とは、『書く女』という作品である。
kakuonna
 ↑公演パンフの表紙ですが、どうですか。かわええ……そしてカッコイイ。
 物語は、パンフによれば日本最初の女性職業作家、樋口一葉の生涯を描くものである。しかし、わたしはこれほど樋口一葉のことを知らなかったのかと、若干愕然とし、また同時に情けなくも恥ずかしい思いをするに至ったのである。わたしの周りの人はご存知の通り、わたしは文学修士であり、それなりに勉強してきたつもりなのだが、国文学専攻ではないとはいえ、これほど無知とは、我ながら呆れてしまった。そんなことも知らなかったのか、と大変恥ずかしいのだが、わたしが樋口一葉という作家個人について初めて知ったことを以下にまとめると、大きなものは3つある。
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 ■本名について
 「樋口一葉」がペンネームであることは知っていたけれど、本名が「樋口夏子」ちゃんという可愛らしい名前であることすら知らなかった。なっちゃん……可愛いじゃないですか。どうでもいいけどわたしは、断然●●子という名に魅かれます。
 ■生涯について
 1872年(明治5年)生まれで、1896年(明治29年)に短い生涯を終えてしまったことも知らなかった。わずか24歳。死因は肺結核だそうだ。なんて気の毒な……。なお本舞台では、樋口一葉の『たけくらべ』を絶賛した森鴎外(=お医者さん。樋口一葉の10歳年上)が、腕利きのお医者さんを紹介してくれたことになってました。
 ■作家としての活動期
 一番わたしが驚いたのが、彼女のメジャー作品の大半は1894年12月から1896年2月までの14カ月間に集中して刊行されたものだそうで、その期間は「奇跡の14カ月」と言われているんだそうだ。マジか……全然知らなかった……。
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 おそらく、これらのことは国文学をちょっとでも勉強したことのある人には常識かもしれないけれど、わたしは何よりもあまりに若く亡くなり、そしてあまりに集中した作家生活だったことにかなり衝撃を受けた。
 で。今回の物語は、1891年(明治23年)、樋口夏子ちゃん(19歳)が入門してた歌塾「萩の舎」の内弟子生活から、新たな生活に踏み出そうとするあたりから始まる。この時既に、夏子ちゃんは父を亡くし、若干17歳で「戸主」になっている。つまり、一家の稼ぎ手であり、大きな義務と権限を持つ存在で、現代の世帯主なんかよりももっと重い。母と妹を養うのが義務であり、極めて重いプレッシャーを背負っている。本舞台では、そんな夏子ちゃんが「萩の舎」で出会った親友の伊藤夏子(この人も夏子、なので、この人は「いなつ」と呼ばれ、樋口夏子ちゃんは「ひなつ」と呼ばれる)と田邊龍子から、とある作家を紹介されるところから始まる。常にお金に困っていた樋口家は、「萩の舎」の内弟子としての給料ではとても妹の樋口くに、母の樋口たき、を養っていくことが出来ないため、「プロ小説家」になろうとしたわけだ。そしてその弟子入り先が、半井桃水(なからい とうすい)である。新聞記者でありながら、新聞小説も書いていた半井の元で、最初の修業を始めるのだが、ここでの経験が、どうやら決定的に樋口一葉を形作ったらしい。しかし、この半井という男は残念ながら若干のだめんず気質があり、第1幕は、イケメン半井に心惹かれながらも、半井の元を離れることを決意して、一人でバリバリ頑張るぞー! 行くぜ!! という威勢のいいところまでであった。
 ここまでの上演時間は1時間15分ぐらいだったと思う。そして15分ほどの休憩を経て、第2幕はとにかくお金に困っている樋口家が、夏子ちゃんの稼ぎだけではやっていけず、吉原の近くで荒物屋を開業したり、やっぱりそれではうるさくて集中できないので、店をたたんで引っ越したり、と執筆以外にもなにかと落ち着かない様子が描かれる。また、執筆の方は、「文学界」という雑誌に参加して経験を積んで、作家としての腕はどんどん上がっていく。そして亡くなる直前に出会った斎藤緑雨という小説家兼批評家との文学論争(?)が、おそらくはクライマックスだ。第2幕は上演時間1時間20分ほどだっただろうか。生の黒木華ちゃん体験はあっという間に終了を迎えてしまった。
 というわけで、以下、いろいろ思ったことを書いていこう。
 ■物語構成について
 ちょっとまず、うーむ? と思ったことは、なんとなく山場がないというか、比較的どんどんと話が進むので、盛り上がりが薄い。そういう意味では、劇的=ドラマチックではあまりない。運命の逆転のようなものもなく、いやあるんだけどごくあっさりしている。もちろんだからと言って面白くなかったかというとそんなことは全くなく、各役者の演技も確かで、もちろん、華ちゃんは抜群に良かった。
 ■黒木華ちゃんについて
 やっぱり、わたしは何度か書いているように、声フェチなんだと思う。華ちゃんの声が、わたしはどうも非常に好きなんだなと改めて感じた。今回は当然、ずっと和服、着物なわけだけど、所作もきっちり決まっていて、非常に美しかった。ちょっと笑わせるようなギャグシーンも、とても可愛らしい。やっばいな、マジ華ちゃんいいわ。
 ■競演陣について
 共演陣でわたしがこの人はいい、と思ったのが、やはり半井桃水を演じた平岳大氏と、樋口夏子ちゃんの妹、「樋口くに」を演じた朝倉あきさんだ。もう、平岳大氏は、平幹二郎の息子という看板は全く不要ですね。今回の舞台はたぶん、マイクナシの生声だったと思うのだが、岳大氏の声は明瞭に通るいい声だし、もちろんルックスもいいし、なにより堂々としていてカッコイイ。今回の芝居振りは非常に良かった。そういえば、NHK大河『真田丸』での武田勝頼役も、実に貫禄のある、強いけど悲しく儚い勝頼を演じてくれてましたね。それから朝倉あきさんは姉を支えるしっかり者としてとてもいい演技を見せてくれた。この人、ちょっと今後わたしは応援したいと思います。
 また、競演陣には一人、わたしが特別の思い入れのある人が出演していた。その名も、兼崎健太郎くん。何故わたしが彼に特別なものを感じるかというと、この人、かの『ミュージカル・テニスの王子様』で、王者・立海中学の真田副部長を演じてたのです。約10年近く前、わたしが『テニミュ』を10回ぐらい観に行ったことは以前書いた通りだが、中でもわたしは兼崎くん演じる真田副部長の持ち歌「風林火山」が大好きだったのです。しかも、兼崎くんは『テニミュ』キャストの中でもNo.1クラスに、異様に滑舌が良く、ああ、この人はすげえ訓練を重ねてるんだろうな、と当時から思っていた。なので、今回の再会は、わたしは本当に嬉しく思った。この10年、きっとサボらず常に研鑽を重ねてきたんだろうな、ということがひしひしと伝わる、見事な芝居振りでした。 
 ■音楽について
 今回、音楽として、舞台後方にピアノが置かれ、ピアニストが即興で生演奏する形であった。これはちょっと面白いと思った。
 ■終了後のトークショーについて
 実はわたしがおとといの公演チケットを取ったのは、終了後になんと山田洋次監督と、本舞台の主宰である永井愛さんのトークショーがあったからだ。どうやら、山田監督と永井さんは付き合いが長いようで、今回の舞台に華ちゃんを起用するにあたっては、永井さんが山田監督を通じて声をかけたんだそうだ。実のところ、本作は10年ぶり再演で、10年前の公演は、寺島しのぶさんが樋口一葉、筒井道隆氏が半井桃水を演じたそうです。このトークショーでは、結構、へえ~と思うことが聞けたけれど、もうちょっとだけ、司会進行には頑張ってほしかったな。20分ほどであっという間に終わってしまったのが残念。

 というわけで、結論。
 黒木華ちゃんは当面、わたしの大好き女優第一席として君臨するようです。今回の舞台は、もっといい席で見られたらもっと良かっただろうな……これから全国ツアーで回るそうなので、お近くの劇場へぜひ足をお運びください。わたしはさっそく、樋口一葉の作品を読み始めました。が、やっぱり「雅文調」は読むのが難しいね。やっと少し慣れてきたところです。あと、わたしの大好きな夏目漱石は、完全に同時代人なんだけど、漱石が作品を書くようになる頃にはもう、樋口一葉は亡くなっていたということも初めて知った。ああ、樋口一葉があと10年長生きしていたら、口語体の作品も書いていたかもしれないと思うと、本当に残念です。以上。

↓ まずはコイツから読み始めています。
たけくらべ (集英社文庫)
樋口 一葉
集英社
1993-12

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