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 いやあ……今回もマジ最高に面白かったですねえ!!
 というわけで、日本国内に推定15,000人ぐらいは存在するであろう、『グレイマン』ファンの皆さん、お待たせいたしました! いつもなら、毎年8月か9月に新刊の出る「暗殺者グレイマン」シリーズ最新第11作目が、やっと発売になりました!! やったーーー!!
暗殺者の回想 上 グレイマン (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2022-10-18

暗殺者の回想 下 グレイマン (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2022-10-18

 ついでに、わたしが電子書籍から勝手に上巻と下巻の表紙を合体させた画像ものっけておきます。何らかの法令違反であるようならすぐ削除いたしますので。
GRAYMAN-2022
 まあ、いつも通り、早川書房様のセンスのなさには悲しくなる、テキトーな表紙だと思いますw
 さて。
 わたしはいつも通り、電子書籍で予約していたので、発売日の00:00に自動購入され、その日の通勤電車で読み始めました。もう、このblogの読者ならご存知だと思いますが、わたしはこの「暗殺者グレイマン」シリーズが大好きで、とにかく新刊が年に1回のお楽しみでありまして、超楽しみにしておりました。今年は、ついにNetflixで映像化されたため(わたし、観てないんす。実は。理由はいろいろあるけど、WOWOWでそのうち放送されるのを待ちます)、その影響で第1作目を早川書房様が「新版」とか称して出し直したため、今年はまさか新刊ナシなのかなあ……と不安に思ってましたが、ちゃんと出ましたよ、待ちに待った第11作目となる新刊が!
 そして、これももう、皆様にはお馴染みだと思いますが、わたしは真っ先に、冒頭の人物表をチェックして、今回はどんな話かなあ、と妄想しようとしました。が……アレっ!? ゾーヤがいねえじゃん!? 今回は出番ナシかよ!? という事実を発見いたしました。そしてよく見ると、「現在」と「12年前」で別れているじゃあないですか。
 こ、これは一体……? と思って、わたし、初めて今回の新刊が、『暗殺者の回想』というセンスのない日本語タイトルであることに気が付きました。回想……とな? そしてUS原題は、シリーズを読んできた我々なら絶対知っている単語「SIERRA SIX」。こ、これはひょっとして、いわゆる「エピソード・ゼロ」的な過去話か?? とか思いながら、わたしは読み始めたのであります。おそらく、わたしと全く同じように思った方は、日本国内に10人ぐらいはいるのではないでしょうか。
 ともあれ。
 もう、のっけから感想を言ってしまいますが、わたしとしては本作は、シリーズ屈指の泣けるお話であったと断言いたしたく存じます。泣けたっすねえ……いやあ、マジで最高でした!
 まず、前巻のラストを復習しておくと、前巻のファイナルバトルの地、ドイツでの作戦が終了し、一応めでたしめでたしとはなったものの、わたしの大嫌いなクソ・スーザンが自らの昇進のために上司であるマットの行動をチクって、マットはCIA作戦本部長からパプア・ニューギニアへ左遷され、さらに、我らがグレイマンこと、コートランド・ジェントリー、暗号名ヴァイオレーター、通称シックスもまた、再びCIAに追われる身となったのでした。
 そして本作では、アルジェリアでの作戦行動から開幕します。どうやらまたしても、フリーランスの暗殺者として仕事中のグレイマン氏。請け負った仕事は楽勝、なんだけど、どうやらグレイマン氏は、そこに現れるはずの男に何やら因縁がある様子。そして作戦中にグレイマン氏が目撃した男は、「12年前」に死んだはずの、「絶対に許せない」男でありました。
 というわけで、「12年前」に何があったのか、そして「現在」そいつが生きていることを知ったグレイマン氏が、「12年前」の落とし前をつける、てのが本作の大筋なわけですが……マジで「12年前」の出来事が悲しくて、切なくて、泣けるんすよ……。
 「12年前」……それは、グレイマン氏が25歳の時であり(つまりコートは現在37歳!これって初めての情報? 前にも出てたっけ?)、初めてザック率いるGS=ゴルフ・シエラに6番目の男「SIERRA SIX」として加入した時のお話で、マットとも初めて出会った時の、まさしくエピソード・ゼロ的物語でありました。そして、その時であった女子と、後のグレイマン氏、当時25歳と若造(キッド)と呼ばれていたコートとの、甘酸っぱい(?)、悲恋が描かれるわけです。
 まあ、はっきり言って、「現在」においてコートが「12年前」の事件をいまだに忘れられず、絶対に許せない相手がいる時点で、おそらく「12年前」の事件は悲劇的な結末だったのだろう、つまりこの女子は……と連想は誰でもできちゃいます。さらに、今回の「12年前」と「現在」が交互に語られる構成は、はっきり言って若干読んでいてストレスが溜まります。なにしろ、どちらの時制でも、肝心なところでブツッと切れて、「12年前」と「現在」を行き来するので、ど、どうなった!? という読者のテンションをことごとくぶった切られてしまうため、です。
 でもね……頑張って読み続けてほしい! 最後にはもう、ホント泣けますから!!
 もうね、わたしはよくわかりました。いままで、さんざんコートのことを純情BOYと小馬鹿にしてきましたが(サーセン! 褒めてるつもりです!w)、コートは12年前から、ずっと純情BOYだったんですなあ……。だからこそ、12年前の悲劇がすっごく胸に刺さるんすよ……そしてついでに、ザックは何気に、ずっとコートの味方で、コートを見守ってきてくれた兄貴分なんだなあ、ってこともよくわかりました。
 マジで、本作はとっても面白かった! そして泣けた! と断言いたしたく存じます!
 ところで一つ、本作を理解するうえで重要なポイントを一つだけメモしておきます。それは、第二次大戦後のインド・パキスタン分離独立の経緯です。
 実はわたしもそれほどその状況を理解していなかったんですが、今年Disney+で放送された『MS. MARVEL』を観た時勉強し直したので、わたし的にはタイムリーな歴史でした。要するに、イギリスがインドから撤退するにあたって、インド国内で主流派のヒンドゥー教徒と、少数派のイスラム教徒を、地理的に分割して、イスラム教徒はパキスタンに強制的に移動させられて分割された、って話なんですが、本作ではその恨みが根本にあるわけです(ちなみにMS.MARVELというスーパーヒーローになる少女はイスラム教徒で、お婆ちゃん世代がインドからパキスタンに強制移住させられて、親世代がアメリカに移住したUS移民2世)。誰もが知ってるガンジー氏は、統一インドを目指したんだけど、イスラム教徒に宥和的だったのでヒンドゥー教徒に暗殺されたわけですが、もう、ヒンドゥーもイスラムも、どっちが善でどっちが悪だとか、そういう問題では全然ないし、どちらもが被害者と言えるかもしれないけれど、だからと言って、テロという手段で恨みを晴らそうとする本作のイスラムの連中は、完全なる悪としか言いようがないのは明らかだと思います。
 というわけで、以下、いつもの通りキャラごとにまとめておこうと思いますが、今回はかなり多くのキャラがいるので、またすげえ長くなるかも……。
 ◆コートランド・ジェントリー:我らがグレイマン氏。元々は父親が法執行機関の教官的仕事をしていて、それを手伝う(?)うちに銃器などの扱いを覚え、凄腕となる。コロンビア人のドラッグディーラーの悪党を3人ぶっ殺してムショに入っていたところで、その腕を見込まれて(?)CIAのシングルトン=独行工作員に。そして一人じゃ絶対無理、みたいな伝説的な仕事をやり遂げていたところで、「12年前」にCIAの特殊活動部(SAD)の地上班ゴルフ・シエラ(GS)に入る。今回は、その経緯が詳しく描かれてわたしは大興奮でした。しかもGSに入れたのがシリーズ前半の悪のラスボスたるカーマイケルだったのも、前にも書かれていたかもしれないけど、記憶力の乏しいわたしなので、お得に楽しめちゃいました。この経緯で重要なのは、そもそもGSは、元軍人でシールズやデルタ出身の屈強な者、あるいは元FBIのHRT出身者だけなのに対して、ジェントリーはそれまで「チーム」で動く経験がゼロだったってことです。なので、作戦に出る前にザックをはじめとするGSのみんなに特訓を受けるわけですが、それもまた興味深かったすね。
 ◆モーリス・ケイヒル:コートに最初にシングルトンとしての訓練を施した教官。元スパイ。シリーズ第1作で銀行家として登場して、コートを助けるために時間稼ぎをして殺された。コートが1作目で「あなたはおれのヒーローだ。それはぜったい変わらない」と断言したほど。今回そのモーリスが「12年前編」にちらっと登場します。モーリスが教えたのは、諜報技術=トレードクラフトなので、軍人の技術とは全然違うわけですが、これまで何度もグレイマン氏を救って来たのは、グレイマン氏の根っこに流れるモーリスの教えなわけで、その名は我々としては忘れられない人物ですな。
 ◆マット・ハンリー:シリーズで数少ないグレイマン氏の味方。前述の通りCIAで出世し続けたけど、コートが離脱する事件でパラグアイ?に左遷され、その後本部に復帰して出世して作戦本部長まで登りつめた、けど、前作ラストで再び左遷。本作では、若き日の初めてコートと出会った時、それから現在篇にもチラッと出てきてちょっとだけコートを助けてくれました。一応言っておくと、クソ女のスーザンも、現在編のラストで、事件の後片付けでチラッと出てきます。現在どこまで出世したのか分からないけど、マットの後任になったのかな。なお、マットは現在編で58歳らしいので、コートより20歳ぐらい上、みたいすね。
 ◆ザック・ハイタワー:ご存知コートの心強い味方。コートより15歳ぐらい年上らしい。わたしはまた、超ピンチに颯爽と登場してくれるかな……と思ったけれど、今回は現在編では一切登場しません。ザックはまだスーザン配下にいるのかな……ザックは、ムカつく感情を抑えてキッチリ命令を守る軍人気質(2作目でザックは自分のことを「おれはただの働き蜂だ」と言っている)なので、そこはコートと大きく違うところですな。そして12年前編では、SIERRA-ONE(ワン)として若きコートを訓練し、ラストではもう、超泣かせる男前なところも見せてくれましたね! ザック、アンタ最高だよ! きょうだい! なお、本作ではGS-2~5のGSオリジナルメンバーも登場します。S-2ケンドリック・レノックス、S-3キース・モーガン、S-4ジム・ベイス、S-5ディノ・レダス(リーダス)。彼らはなあ……コートに殺されるか殉職したかなんだよな……。ちょっと2作目を改めてチェックしてみると、2作目でザックは、モーガン・レダス・リンチの3人がコートに殺されたと言ってますが、リンチは12年前にはいないメンバーみたいですね。あと、8作目の『暗殺者の追跡』(ゾーヤのお父さん事件の話)で惜しくも殉職したジェナー君も、12年前編では若き姿でチラッと登場します。
 ◆ブリヤンカ・バンダリ:現在編で事件に巻き込まれるインド人女性。まだ20代かな。ITスキルが高く、コートからも信頼される。ラストの別れ方も、コートらしくてカッコ良かったすね! 彼女はとてもいいキャラクターだったので、今後、コートのピンチに登場して来てもいいぐらいだと思います。
 ◆ジュリア(ジュリー)・マルケス:12年前編でコートと淡い恋愛模様を綴る女性。元々軍の情報部門にいたが、その強力な情報分析能力を買われてCIA入り。マットも一目置くその能力で、現場チームを支える。若干サヴァン的な変わり者で社交的ではないが、同じく心の孤独を抱えるコートと意気投合し、シリーズ屈指の悲劇のヒロインとして描かれていたと思います。この、12年前のコートとの純情・純愛物語はとてもグッと来たっすね。。。いまだ純情BOYのコートよ、いつかゾーヤに、12年前に出会ったジュリーのことを話し、ゾーヤの胸に顔をうずめて泣ける日が来るといいね……。そんな日が来るのを、祈ってるよ……。ちなみに、GS(ゴルフ・シエラ)に「特務愚連隊<グーン・スクワッド>」というあだ名を付けたのもジュリーであることが今回判明。大変見事なキャラクターでした。

 とまあ、キャラ紹介はこの辺にしときます。悪党とかメモしてもあまり意味ないし。
 そして、最後にわたしとしては本当にグッと来た、いくつかの会話を記録しておこうと思います。しつこいけど、マジでグッと来たなあ……
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 (ジュリー)「わたしに惹かれているのなら」ジュリーが平然といった。「それなら、わたしにキスするタイミングじゃないの。惹かれていないのなら、ただの友達になろうっていえばいい。どちらでも、わたしは納得する。決めるのはあなた――」
 ジェントリーは身を乗り出し、口に激しいキスをした。
 →わたしの感想:コートよ、お前、女子にこんなこと言わせんなよ! この純情BOYめが!w でもキスで答えたのは満点だ! よくやった、きょうだい!!
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 ジュリーがすばやく身を乗り出して、ジェントリーの頬にキスをしてから言った「戻ってきて」
 ジェントリーはうなずいた。「戻ってくる」
 →わたしの感想:ここは、いよいよラストバトルに向かう、緊張した若きコートがジュリーを引き寄せてキスしてからのシーンですが、わたしはマジで泣きそうになりました。いや、泣いてないすけど。すごい映画的ないいシーンですよ……。ちなみにその後、ザックからは「若いもんが色気づきやがって」と笑われ、GSメンバーからは、「悪運だぞ、お前」「作戦前に女房といちゃつくことさ。映画観たことないのか? そういう男は帰ってこないんだぞ」と冷やかされますw
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 「おれはあんたのシックスでいたいんだ、ザック」「おれを先鋒にしろ。おれはドアを通る最初の人間になりたい。あらゆるドアで」
 「ジェントリー、おれは何日も前に肚に決めたんだ。お前はどこにも行かない。おれのシックスだ」
 →わたしの感想:12年前編のラストのコートとザックのやり取りは、感動的だったすねえ……ジュリーを喪ってしょんぼりしているコートにそっと寄り添うザックの男前は最高ですよ、きょうだい!! 
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 「ジュリー。あなたが話した人のこと。今度のことで、少しは痛みが和らぐかしら?」
 「わからない」「彼女の死は、不思議な因縁で12年後にもっと大勢の命を救ったといえるのかもしれない」
 「あなたも気を付けて」ブリヤンカは付け加えた。「コートランド」
 「おれが死ぬのを望んでいる連中は、コートランドと呼ぶんだ。他にもいろいろな名前で呼ばれている。コートと呼んでくれ。おやすみ、ブリヤ」
 「おやすみなさい、コート」ブリヤンカはそういって電話を切り、にっこりほほえんだ。
 →わたしの感想:これは今回のラストシーン、現在編のラストですが、なんて素敵なエンディングでしょう。こんな殺伐とした血みどろの話なのに、こんなさわやかな終わり方をするなんて、本当にGreaney先生の手腕は見事っすねえ!! もう、わたしとしては次の新刊早よ!!と思わざるを得ないっす! 最高でした!!

 というわけで、長くなったけど結論!
 わたしの大好きな小説シリーズ「暗殺者グレイマン」の最新刊でありシリーズ11作目の『SIERRA SIX』(邦題:暗殺者の回想)が発売になり、さっそく楽しませていただきました。もう、一言で言えば感動作であり、泣ける見事な物語でした。 グレイマンなのに、感動しちゃったわたしですが、これは歳を取ったせいでしょうか? どうやらわたしはザックと同じ世代みたいですけど、純情BOYコートの悲しみと決意がとても胸にしみたっす。そして大人として、寄り添うザックもまた最高でした。わたしとしては、次回作では当然またゾーヤに登場してほしいし、ザックの活躍も読みたいですね! そして前作で書いた通り、クソ女スーザンには、しめやかに失禁するほどの恐怖を与えてやってほしいす。今回、コートはスーザンに対してそれほど怒ってないみたいでしたが、まあ、一度キッチリ落とし前をつけてほしいですな。スーザンがゾーヤやザックを乱暴に使ってたら……コートの怒り爆発は間違いないでしょう。震えて眠るがいい……!w まあとにかく、「グレイマン」シリーズは最高であります!!  以上。

↓ こういうのをちゃんと読んで、なぜパキスタンが核保有国になったのか、勉強しておきたいす。

 はあ……いいっすねえ……とても見事な大団円、グッとくるラストでありました。
 というわけで、わたしが第(1)巻から読み続けてきた、大好きな小説『あきない世傳 金と銀』が、最新刊である第(13)巻「大海篇」をもって完結いたしました。

 毎回書いているけど、マジで電子書籍で出してくれないかなあ……そうすれば持ち歩いていつでも読み直せるのに……。。これまで、何度も書いてきたように、本作『あきない世傳』シリーズは、現代ビジネスマンが読んでも非常に示唆に富んだ面白い作品であり、最終巻でもその面白さは当然味わえるものでありました。はあ……幸ちゃんも9歳(だっけ?)で大坂天満の呉服屋さんに奉公に出て、最終的には44歳だったかな、立派な美魔女になりましたなあ。絶対、美人に決まってるよね。
 さてと。
 前巻をおさらいしとくと、いよいよ再び呉服を扱えるようになった五鈴屋江戸店は、呉服取り扱い再開にあたって「呉服切手」という一種のギフトカードを考案して大ヒット、しかしその結果、顧客層が太物(=綿織物)オンリーだったときは町のおかみさんたち中心だったけれど、呉服(=絹織物)再開によって武家の奥様の顧客も増え、店頭に華美な呉服をディスプレイし始めることによって、町のおかみさんたちは「いいなあ、きれいだなあ、でも一生買えないなあ……」としょんぼりした顔を幸ちゃんに見せるようになってしまったのでした。
 顧客の満足とビジネス的成功、要するにお客さんと五鈴屋、さらに生産者の各段階のみなさんのWin-Win-Win-Winを目指す幸ちゃんとしては、おかみさんたちのしょんぼりフェイスは非常に心苦しく、さてどうしたものか、というのが、前巻で残った宿題でありました。さらに、前巻ラストでは、現代風に言えば「お江戸コレクション」的ファッションイベントである「吉原衣装競べ」へ出展し、単に華美なだけでなく、身にまとう人に寄り添った、「その人らしい衣装」で勝負する決意もしました。
 というわけで本作は、まずはその吉原ファッションショーですが、これは比較的あっさり終わります。まあ、大方の我々読者が想像する通り、歌で勝負する歌扇さん(花魁の皆さんに比べると若干イケてない女子)に似合った、凛とした紋付で大人気を博すも、若干の不正めいた投票で惜しくも2位に終わりますが、その後歌扇さんは大人気芸者として生きる道を得たのでした。歌扇さん、ホントよかったね!!
 そして一方の顧客層の拡大ですが、こちらも想像通り、店舗を分けることで決着をみます。すなわち、浅草田原町の従来の店舗は町のおかみさん向け商材を店頭で商う「店前現銀売り」、そして新店を日本橋呉服町にオープンし、こちらはお武家様への、現代用語でいう「外商」、つまり家に出向いて御用を聞く「屋敷商い」と形態を変えることでそれぞれの顧客に合ったスタイルをとることにしたのです。まあ、これが正攻法というか、とりあえずの最適解でしょうな。
 というわけで、相変わらず勧進相撲の浴衣は大人気だし、江戸本店も呉服町店も順調で前巻「出帆」篇で大きく航海に出た五鈴屋さんですが……航海には嵐にも遭遇するわけで、「大海」に出たとたん、ヤッバイ事態が2つも起こります……が、それは皆さん自分で読んで、ハラハラしながら、ラストの爽快なエンディングを心行くまで味わってください。わたし、ラストの気持ちよさにとても感動いたしました。そして、早くも高田先生の新シリーズが早く読みてーなー、と無責任に思いました。『みをつくし』も『あきない世傳』も、マジ最高だったっすね!
 というわけで、以下、各キャラごとにメモをしておきます。ネタバレは避けられないので、もう読み終わっていることを前提とします。
 ◆幸:しっかし波乱にとんだ人生を送ってますねえ、幸ちゃんは。9歳で奉公にあがり、10代前半で1回目の結婚、そして2回目、3回目と嫁いだ後、女子では店主になれない大坂を離れ、江戸に出て、見事な「女主人」となりました。元々頭がイイ女子だったし、きっと美人でしょう。つうか、幸ちゃんに対しては、もう書くことがありません。恐らく幸ちゃんは、1723年生まれだと思うんだけど、250年後の1973年生まれぐらいだったとしても、間違いなく有能なビジネスパーソンになっていたでしょう。有能な経営者として、大きな会社を引っ張る社長になってたんじゃないかなあ。本作で幸ちゃんの物語は終わるけれど、間違いなく五鈴屋は益々の繁栄をしていくことでしょう。今後、「その後」を描く作品が発売されることもあるかと思いますが、再会を楽しみに待ちたいですな!
 ◆賢輔:五鈴屋のデザイン本部長であり、まあ、間違いなく彼は幸ちゃんが大好きなんでしょう。でも、恋愛を超えた幸ちゃんとの関係性はとても禁欲的で、最後に明かされる本作「金と銀」というタイトルの意味は、とても心にしみたっすね! 初登場時はまだ全然子供でガキだった賢輔。ひょっとしたら、シリーズで最も成長した人かもしれないすね。幸ちゃんのことは、君に任せたぞ!
 ◆お竹:五鈴屋の総務部長であり、チーフスタイリストであり、幸ちゃんの秘書室長でもあるしっかり者。大坂からともに労苦を分け合った幸ちゃんのお姉さん兼お母さん的存在。お竹さんがいれば、五鈴屋は安心です! 本作最後の発明品となりそうだった冬でも暖かいヒートテック的素材開発も、元々はお竹さんが「あったらいいなあ」と思ってたものだもんね。きっと開発に成功し、また大ヒットとなるでしょう。お竹さんも、幸ちゃんのこと、よろしく頼みます!
 ◆佐助:五鈴屋の営業部長。佐助の恋の話も今回チラッと語られましたね。佐助どんにも幸せが訪れることを願ってます!
 ◆菊栄:五鈴屋4代目(=幸ちゃんの最初の夫)の初代妻。数年で離婚し、実家に戻って実家の傾きかけた商いを立て直す、が、兄夫婦に厭われ江戸進出を決意し、すでに江戸店をオープンさせていた幸ちゃんと江戸で合流し、自らのアクセサリーショップを見事成功させる敏腕女子。幸ちゃんにとっては強い強い味方で、何度も精神的に助けてくれました。菊栄さんも、間違いなく現代でも通用する経営者になっていたでしょう。菊栄さんにも、いつかまた、再会したいっすね!
 ◆惣次:大阪五鈴屋の5代目であり、幸ちゃんの2番目の夫。冷徹なビジネスマン。が、冷徹過ぎて大坂時代に大失敗し、失踪。その後、江戸に進出した幸ちゃんと江戸で再会。しかも両替商井筒屋三代目として大復活。幸ちゃんのピンチには、なにかとさりげない助言をして助けてきたが……わたしは、何度もこのBlogで、惣次こそ、物語のラスボスとして幸ちゃんの前に立ちはだかるんじゃないか説を唱えてきましたが、やっぱりわたしの想像なんぞ、まるで浅いものでしたね! 惣次よ、疑って悪かった! まあ、実際君は有能だからな、君も現代で十分通じる経営者になっていたでしょう。実際のところ、やっぱり惣次も幸ちゃんのことをずっと大好きなんでしょうね。イイ奴でした。今後も陰ながら助けてくれよな! 頼んだぜ!
 ◆結:幸ちゃんの妹で、若干ゆとり恋愛脳で賢輔くんにも惚れていたが、あっさりと振られたことが直接の原因(?)で、幸ちゃん&五鈴屋を裏切り、憎き変態オヤジ音羽屋の嫁となって恐怖の大魔王と化してしまった恐ろしい子。わたしは正直、いまだに結の心情は理解できません。最終的には、やっぱり和解はなかったすねえ……それはちょっとだけ残念に思うけど、まあ、無理だよなあ。。。ラストで毅然とした態度をとるのは、ある意味すがすがしいけれど、逆にどうしてそこまで……とも思わなくもないすね。。。憎しみなのか、意地なのか……やっぱりわたしにはわからんす。。。
 ◆力造&お才:五鈴屋が全面的に「染め付け」を任せている職人夫婦。二人がいなかったら、五鈴屋さんの発展はなかったと断言してもいいぐらいの活躍をしてくれました。力造さんも、ずっと課題だった「色」を開発できて本当に良かったね!
 とまあ、こんなところかしら?
 とにかく、『みをつくし』もそうだったけれど、高田先生の描く物語の主人公は、常に「まっとう」で、インチキやズルをせず、地道でサボることもせず、ただひたすらにド真面目に生きる姿を見せてくれるわけで、とっても共感できますなあ。
 わたしも、真面目に生きよう、ということを生きる信条としており、それは結構周りの人々にも認知されているようで、まあやっぱり、インチキしたりズルい生き方よりも、ずっとずっと「いいこと」が廻りまわって訪れてくれるような気がしますね。なので、わたしもこれからもずっと、回り道であっても地道に真面目に生きてゆこうと改めて思いました。

 というわけで、結論。

 わたしの大好きな小説『あきない世傳 金と銀』がシリーズ第(13)巻で完結しました。そしてその物語は、大団円と言ってよいでしょう。とてもすがすがしく気持ちの良いエンディングは、本当に楽しかったすね。いろいろあったけれど、幸ちゃんをはじめ、かかわったみんながその後の人生でも、幸せで生きたのだろう、と心から願う次第であります。幸ちゃん最後のビジネスプランは、現代で言ういわゆる商店街の形成、というよりも、20世紀で言えば百貨店、そして21世紀で言うとショッピングモールの原型になるのかな。きっと大成功でしょうなあ。みんなが笑顔で生き生きと商いしている情景を想像して、わたしの感想を終わりにしようと思います。お見事でした! そして高田先生、次の新作はいつですか!!? 楽しみに、お待ちしております!! 以上。

↓↓巻末の「講座」によると、力造さん開発のあの色のモデルは↓これだそうです。

 わたしが初めて上橋菜穂子先生の作品を読んだのは、『鹿の王』でありました。単行本発売当時、わたしのもとに見本誌が回って来たから読んだのだが、その面白さはもう、夢中になってページをむさぼるほどで、その後本屋大賞を獲得したり、様々に注目されて大ヒットになったのも納得であった。
 わたしは基本的に、うお!すげえ面白い!という作品に出合うと、その著者の作品を片っ端から読みだす習性があるが、わたしはすぐに『獣の奏者』を読みはじめ、さらに『精霊の守り人』から始まる「守り人シリーズ」も読破し、守り人シリーズはNHKのドラマシリーズも観て、ついでに2016年に世田谷区文学館で開催された『上橋菜穂子と<精霊の守り人>展』にも行ってみるなど、すっかり大ファンになったのでありました。なので、まあズバリ言うと、上橋先生ファンとしては、わたしはまるっきり新参者であります。
 しかし、上橋先生はその後新刊をあまり出しておらず、鹿の王や守り人のスピンオフ的外伝的作品が何冊か出たぐらいであったと思う。たしか、眼を悪くされて、ちょっとゆっくりなさる的なことを聞いたような気がします。
 が、今年2022年3月、ついに! 上橋先生の完全新作が発売となったのであります。わたしもすぐ読みたかったんだけど……いかんせん、現在のわたしは日々地獄の毎日を送っており、じっくり小説を読むという心の余裕に乏しい毎日なので、今月のGWが終わったころに、やっと読み始めることが出来ました。その新作のタイトルは――もうそのタイトルだけでも、なんか素敵な予感を感じさせる素晴らしいタイトル――『香君』であります。

香君 上 西から来た少女 (文春e-book)
上橋 菜穂子
文藝春秋
2022-03-24

香君 下 遥かな道 (文春e-book)
上橋 菜穂子
文藝春秋
2022-03-24

 表紙デザインもとても美しく、わたしは電子書籍で買って読んだのですが、これは紙の単行本で買って、本棚に並べたい美しさですなあ……! ちょっとわたしが加工した画像ものっけとこう。
koukun
 で。まず、結論から言うと、超最高に面白かった!のは言うまでもないでしょう。わたしは、本来の意味における「ライトノベル=10代の少年or少女が主人公であり、10代の少年or少女が共感できる小説作品」の最高峰だと思いました。現代のいわゆるライトノベルは、もう完全に質の悪い、低クオリティなどうしようもない作品が多くて、もはや自滅の道をたどっているとわたしは思っていますが、この作品『香君』は、1990年代後半から2000年代初頭の、本当に質の高い、本物のライトノベルの数少ない血脈を感じさせる見事な作品であると断言できます。
 ここまで完全なるファンタジーで、わたしのような初老のおっさんをも興奮させる作品は、もう本当に絶滅危惧種だと思いますね。見事、実に見事な世界観とキャラクターたちにわたしはもう読みながらずっと心躍っておりました。
 物語は、様々な「匂い」を「言葉のように聞き取ることが出来る」能力を持った少女の数奇な運命をたどるものです。ちょっと何を言っているか分からないと思うので、例を出すと、人の感情も匂いで聞き取ることが出来るわけです。この人は怒ってるな、とか。あるいは、植物から発せられる匂いで、葉っぱがアブラムシに食べられちゃうから、天敵のテントウムシを呼んで助けを求めてるな、とか、とにかく様々な「匂い」を感じ、その意味を理解できる能力なわけです。
 「香道」においては、香りを「聞く」と表現しますが、まさに、そういうことですな。
 
 さてと。物語を要約してもあまり意味はなさそうなので、基本的な設定と、各キャラ紹介をしてみようかな。とにかく、世界観、キャラクターがお見事ですよ。とっても楽しめる作品でありました。
 【1.世界観】
 ◆帝国支配の世界
 舞台となるのは、ウマール帝国という国で、周辺の4つの王国を「藩王国」として藩王の統治を許しつつ、属国としている強大な帝国だ。当然、創建の祖の血脈である皇帝がいる。ちょっと判然としないのだが……帝国建国からどのくらいの時を経ているのか、よくわからない。。。
 ◆オアレ稲
 帝国の支配は、「オアレ稲」をその従属の枷としている。オアレ稲は、海岸部以外のどんな地でも収穫できるし、年数回の連作も可能。このオアレ稲によって、食糧事情が激変し、安定的に収穫できるスーパー米なのだが、厳格に決められた肥料だったり、種籾が獲れないという特殊な性質を持っている。そしてその肥料は帝国から「下賜」されるものしかなく、種籾も、帝国のごく一部しか製法を知らず、肥料の製法も種籾の秘密も、厳重に秘匿されている。また、一度オアレ稲を栽培すると、土壌の成分組成(?)が変化し、ほかの穀類は一切栽培できなくなってしまう。そのため、一度でもオアレ稲を栽培して、食糧危機を乗り切った藩王国たちは、帝国に従属するしかない、という状況。
 ◆香君
 帝国創建のもととなったオアレ稲をもたらした、「香りで万象を知る」伝説の女性。神格化されていて、その後、歴代香君を帝国は「活き神」として信奉している。ただし、初代以外の香君には重大な秘密があり、これも皇帝と、皇帝と共に国を築いたカシュガ家の人間しか真実を知らない。香君は神様として扱われているんだけど、亡くなると「13歳の少女に魂が移る」といわれている。
 ◆香使
 帝国全土を巡回し、オアレ稲の管理監督を行う役人。香君の住まう「香君宮」に所属する。カシュガ家の「旧」カシュガ家が管掌している。
 ◆富国ノ省
 帝国の頭脳集団と言えばいいのかな、要するに内閣官房と財務省などが一体化したような、行政の官庁。「新」カシュガ家が管掌している。

 【2.キャラクター】
 結構な数のキャラクターが登場するけれど、まあ、この9人だけ紹介しておこうかな。
 ◆アイシャ:物語の主人公。物語開始時点で15歳。6つ年下の弟がいる。祖父は帝国本土の西にある西カンタル藩王国の藩王だったが、オアレ稲を自国で栽培することを最後まで反対したために、飢餓が発生し、民衆の暴動を招いて王位を追われる。その後、アイシャは両親とともに落ち延びていたが、両親はすでに亡くなっている。亡き母とアイシャには、匂いを感知する強力な力が備わっていて……とまあ、こんな背景を持つ女の子。そして性格的には、とても賢く、とてもまっとうな心を持つ、非常に魅力的なキャラクターだと思う。冒頭では旧王族の生き残りとして殺されそうになり、その時点ではかなりトゲトゲハートな若干やさぐれキャラなのかな、と思ったけれど、物語が進むにつれてどんどんと、本来の性根の良さがわかってきますね。とにかく一生懸命な頑張り屋さんですよ。とてもいいと思います!
 ◆マシュウ:新カシュガ家の男だが、母が異邦人だったため、官僚一直線な人生は送っていない。軍にいたこともある。現在は藩王国視察官として、各藩王国の動向をつぶさに皇帝へ伝える仕事。彼もまた、匂いに敏感。アイシャと初めて会った時、アイシャの異能に気づき、保護する。少年時代から、オアレ稲に依存する食糧事情を憂慮していて、初代香君の言動録的な文書に記されている危機が訪れた時のために、様々な手を打とうとしていた。頭はいいし、おそらくイケメンだろうし、性格も物静かで熱い、本作のヒーロー的存在ですな。とてもカッコイイ! 
 ◆オリエ:当代の香君。とある藩王国の普通の娘だったが、13歳の時、香君の生まれ変わりとして見いだされ、香君となる。ウルトラ超美人。性格も実にまっとうで、ある意味普通の人。マシュウが大好き。そしてマシュウも密かにオリエが大好き。二人の恋の行方も、実にしめやかで、控えめで、そして熱い想いで最高です。
 ◆ラーオ・カシュガ:旧カシュガ家当主で香使を束ねる大香使。マシュウと共に、いつか来るかもしれない危機に備えて様々な実験を行う農場を管理している。
 ◆イール・カシュガ:新カシュガ家の当主で富国ノ大臣。皇帝の右腕。クールな切れ者。若干悪役テイストはあるけれど、まあ、実際のところ、帝国維持のために全力を傾けているわけで、悪い奴ではないと思う。イールの父とマシュウの父が兄弟なので、本来は従弟だけど、諸事情あってマシュウはイールを兄上と呼んでいる。
 ◆オードセン:ウマール帝国皇太子。上巻の途中で皇帝に即位。若いのでまだまだ盤石な権威を得ていないが、なかなか頭はいい。イール同様、悪い奴ではない。ちゃんと人を見る目はあるし、情勢を読むこともできる男。
 ◆ミジマ:ラーオの娘で上級香使。超デキる女性。何かとアイシャを助けてくれる頼りになるお姉さま。
 ◆ミリア:海岸沿いにあり、島々からなるオゴタ藩王国の藩王の母(=前藩王の王妃)。超やり手で、何とかオアレ稲を自家栽培できないものかと実験をしていて、反帝国支配をもくろんでいる怖い女性。だけど、実際彼女も悪い人ではない。わたし的にはとても気に入った、キャラの立った人です。
 ◆ヂュークチ:現在の西カンタル藩王。アイシャの祖父を追い出して王位に就いた男をクーデターで倒して(?)王位に就いたばかり。旧王族であるアイシャ(の弟)を担いで権力を狙う奴が出ないように、冒頭でアイシャと弟を殺そうとする人。でも彼もまた、実際悪い奴ではなく、礼を尽くそうとするなどちゃんとした男だと思う。冒頭とラストだけにしか出て来ないけど、結構印象に残る人ですな。

 とまあ、こんなところかな。
 本作は、やっぱり現在我々が直面しているCOVID-19の影響を感じる物語でもあって、学者としてフィールドワークを続けた上橋先生ならではの、実に興味深い物語とも言えます。本当に面白かった。
 一つだけ、言うとすれば……結局、初代香君はどこから来たのか? という点が明らかにされていないので、その点はちょっと謎が残ります。異郷から来たというけれど、その異郷とはどこなのか。でもまあ、それは謎のままでいいのかな。つうか、明かされたらやっぱり興ざめというか、明かす必要はない、かな。うーん、ちょっとまだわたしも考えがまとまらないですが、そういうことで納得します。
 あと、植物がわれわれ人間には分からない世界での戦いを繰り広げているというのは、わたしも以前読んだ『たたかう植物―仁義なき生存競争』という本でも詳しく書かれていたっすね。化学物質を放出して敵の植物を攻撃するとか、種を運んでもらうために鳥を呼ぶとか。面白いよなあ、そういうのって。ある意味、人間同士の戦いよりも、よっぽど無慈悲で徹底的だよね。まあ、人類が滅亡しても、植物は生きながらえるわけで、人類はまだまだ、地球上では弱者なんじゃなかろうか。
 てなことを思いましたとさ。

 というわけで、結論。

 現在の日本の作家の中で屈指の筆力を誇る上橋菜穂子先生の、7年ぶりの完全新作となる『香君 <上>西から来た少女/<下>遥かな道』をやっと読み終わりました。もう結論としては、超最高に面白かった!! に尽きます。まだ読んでいない方は、全く何も疑うことなく、今すぐ買って読んだ方がいいと思います。わたしはほぼ事前知識なしに読み始めましたが、まあ、わたしがここまで書いてきたことを読んだ後でも、全然大丈夫……だと思います。肝心なことは特に書いたつもりはないので。とにかく、こんなBlogを読んでいる暇があるなら、今すぐ本屋さんへGO!でお願いします。電子書籍なら今すぐポチって読めますよ。それにしても、本当に上橋先生の世界構築能力は素晴らしいですね! マジ最高でした! 映画の『鹿の王』は正直イマイチすぎましたが、『香君』を映像化する際は、きっちり原作通りでお願いしたいものです。以上。

↓ かなり面白いです。

 というわけで、今年も無事2月に新刊が出ました。わたしが大好きな小説の最新刊、『あきない世傳』の(12)巻、「出帆篇」であります。

 もう読み終わったのは数日前ですが、なんつうか、マジで電子書籍で出してくれないかなあ……もちろん、紙の文庫本も大好きではあるんだけど……老眼の進行する初老のわたしには、文庫だとどういうわけか「夜、ベッドで読むのがつらい」んすよね……通勤の電車内では全然普通に読めるのに、なぜか暗いと、てきめんに読みづらいんだよなあ。。。
 ま、そんなことはともかく。
 ついに(12)巻までお話が進んだ我らが「五鈴屋」の幸ちゃん一行ですが、今回はそのタイトルの「出帆」の通り、ついに、やっと! 再び呉服を扱う商いが可能になりました。よかったねえ! そしてまた、今回もいろいろなエピソードがいちいち面白いし、グッとくるし、大変満足な一冊でありました。
 さてと。本作『あきない世傳』シリーズは、わたしはずっと現代ビジネスに通じる面白さがあると感想を綴ってきたわけですが、今回のビジネスネタは2つあります。
 一つは、現代で言うところの「ギフトカード」です。
 ちょっと前、つってももう20年以上前かな、わたしは当時役員秘書をしてたこともあったのですが、あの頃、よく取引先の役員人事にお祝いを送ってたことがあったんすけど、その時、結構定番として、「ワイシャツお仕立券」なんてものを贈っていたことがありました。秘書同士は各企業間で結構つながりがあって、電話するとその役員の自宅住所を教えてもらえた、という、個人情報保護の現代ではちょっと考えられないようなゆるい世の中だったわけですが、そうして得た自宅住所に、贈り物を贈ってた時代だったのです。
 そういった、ギフト需要ってのは、どうやら江戸時代(※今回の(12)巻は1702年暮れから1704年2月まで)にもあったようで、作中では、毎年暮れ、五鈴屋開店記念日に祝い酒をもらっているんだけど、その中に、「酒切手」というものがあって、その札を酒屋さんにもっていくとお酒と交換できるという仕組みがあることが紹介されます。その仕組みを、自分のビジネス、すなわちアパレル業であり、いよいよ再開する呉服販売にも使えないか、と幸ちゃんはひらめくわけですな。
 もう何度も書いてきたから短く記しますが、幸ちゃんは7年前(かな?)、とあるクソ野郎の陰謀で、呉服(=絹織物)を扱うことを禁じられ、太物(=綿織物)しか扱えなくなってしまったわけで、太物だけでも商いを成長させるために、現代のわれわれが知る「浴衣」を発明したり、当時の大人気イベントである「相撲」の力士ネーム入り浴衣というファンアイテムの製造販売に関する独占許諾を得たりと、大奮闘してきた一方で、当然、「いつかまた、呉服を商う」ことを願い続けてきたわけです。
 それが、前巻のラスト近くで、所属する浅草太物仲間(=要するに浅草綿織物販売組合的なもの)が、ようし、おれたちも呉服を扱えるよう、浅草呉服太物仲間にクラスチェンジしようじゃねえか! ということになり、お上に申請をしているところでありました。
 そしてまあ、お役所仕事は現代も江戸時代もおんなじで、とにかく時間がかかるというか、金を出せとかいろいろな経緯があって、今回ついに「浅草呉服太物仲間」の結成がお上に認可され、その呉服販売の目玉となる販売企画をずっと考えてた幸ちゃんが、そうだ、ギフトカードだ!! とひらめく流れが描かれたのでした。しかも、そのギフトカードは、「呉服切手」として販売され、五鈴屋だけでなく、浅草呉服太物仲間所属の店ならどこでも呉服1反と交換可能なもので、仲間みんながハッピーになれる優れモノなのです。
 いやあ、ほんと、読んでいてとても痛快・爽快・やったぜ!的にとても気持ちのいい展開だったすねえ!
 しかし、です。
 こうして呉服を扱えるようになり、結果的に客層も、すこしずつハイターゲット、つまり今までは町の庶民がメイン顧客だったのが、徐々にお武家様の顧客が増えてしまうことになります。それはもちろん、五鈴屋のビジネスにとっては、単価が高く利幅が高い呉服が扱え、武家の顧客が増えるのは喜ばしいこと……のはずなんすけど、果たしてそれが五鈴屋のビジネス、「売って良し、買って良し」の理念に反していないのか、幸ちゃんは悩むことになるわけですな。
 なにより、今までの常連だった町のおかみさんたちにとっては、手の出ない、高価で華美な呉服が店頭にディスプレイされていても、それを眺めるおかみさんたちの眼差しは、「なんてきれいなんだろう、でも、一生着られるわけないよね……」としょんぼりしてしまうわけで、幸ちゃんを悩ませちゃうわけです。この辺は、幸ちゃんのキャラクターとしてとても共感できるし、ここで商売優先、金を稼ぐことに走ってしまっては、当然我々読者も、なんかなあ……と思いますよね。
 ここはとても難しい問題で、恐らく現代であれば、ブランドを分けて、ファストファッションとハイブランドと完全に店舗もわける、みたいなことになるでしょう。トヨタとLEXUS的な。
 もちろん、幸ちゃんも一瞬、そうやって客層ごとにお店を分離した方がいいのか? と悩むけれど、うーん、それも違うよなあ……と悩みは深まるばかり。
 結論から言うと、今回の(12)巻では、この問題は解決されないまま終わります。
 が、ラスト、幸ちゃんは一つの決断をしました。それが今回の2つ目の現代ビジネスネタです。
 それは、現代で言うなら、「東京ガールズコレクション」に参加する! という決断でした。現代の東京ガールズコレクションは、人気タレントやモデルに自ブランドの服を着せて、服を販売するというズバリ金儲けのためのイベントなわけですが(それはそれで立派なビジネスなので、全然悪いことじゃない)、どうやら江戸時代にも同じようなイベントがあったようで、吉原の各見世が、自分のところの花魁に「これぞ」という晴れ着を着せて、人気ナンバーワンを争うというイベント「衣装競べ」が開催されることになり、そこに参加を表明するのです!
 とはいえ、幸ちゃんは、あきないなんだから金儲けは当然目指す、けど、自分ばっかりがウハウハでは、出場する気にもなれないわけで、実際、幸ちゃんは冒頭の方で一度参加を求められた時は、あっさり出場を断りました。まあ、その時は呉服販売を再開したばかりだったし、結局のところ、実際よくわからないイベントだったからなんですが、ラストでは出場を宣言するに至ります。
 そこには、今回の新キャラ、「歌扇」さんの存在がありました。歌扇さんは、以前からちょいちょい登場してきた五鈴屋の常連さんの一人、吉原に出張稽古に通う三味線のお師匠さんが連れてきた女子で、扇屋という吉原の見世に所属する元花魁なんですが、もう年季が明けて自由に外出できるようになっている女子なんだけど……残念ながら容姿が面長で若干ブ……いや、ちょっとアレな方で人気はなかったんだけど、その代り、芸事には真摯に取り組み、「芸者」として身をたてようと頑張っているのです。
 わたし、全く知らなかったんですが、どうやら当時、唄や三味線などの「芸」で生きる「芸者」ってのは、男社会で、女子はいなかったんですね。そんな男社会に、女の身で頑張る姿に幸ちゃんは当然共感しちゃうわけですな。
 歌扇さんは、禿の時代からずっと吉原暮らしだったため、そのファッションセンスが花魁的な派手系で、芸者として生きようとしても衣装が妙に悪目立ちしてしまうというお悩みがあるため、幸ちゃんの優秀な右腕、お竹さんが見立てた「普通だけど歌扇さんによく似合う」反物を買って大喜び、なんてことがあり、幸ちゃんはひらめくわけです。
 「慎ましい太物でも、贅を尽くした呉服でも、その人らしくあるための一反を提供できればいい」。この考えのもと、歌扇さんに似合う一反を用意して「衣装競べ」に出てもらうことで、五鈴屋の理念を世に知らしめるのだ! てな展開で今回は終了しました。
 まあ、大変すがすがしいというか、気持ちのいい展開は本当に読んでて楽しいですなあ! ホント、次の(13)巻が早く読みたいっすね!!
 というわけで、最後に自分用備忘録として、3人の人物の状況をメモして終わりにします。その3人は、五鈴屋メンバーじゃない、けど、幸ちゃんを支える重要人物のお二人と、邪悪な大魔王になってしまったアイツのこです。
 ◆菊栄さんはどうなった?
 菊栄さんのビジネスも順調のようですが、今回、あと2年で自分の見世を独立させて、居候生活を終わりにすると宣言なさいました。菊栄さんは現在、新商品企画として「笄」の新デザイン研究に燃えております。きっとまた、イイのが出来るでしょう。期待したいすね!
 ◆幸ちゃんの前前夫の惣次こと、井筒屋三代目保晴はどうなった?
 惣次は、今回は前半で浅草呉服太物仲間を結成することをお上に申請している時の、お金の話でチラッと登場、今回もきちんと幸ちゃんにアドバイスしてくれて、さらに「俺は何でこんな面白い女房を手放しちまったんだろうなあ~」と苦笑する一面もあり、今後もアドバイザーとして、味方してくれそうな気配ですな。でも、わたし的には、何度も同じことを書いてますが、惣次こそ、幸ちゃんの前に立ちはだかるラスボスになるような気もしてます。いまのことろイイ奴なんだけどね。。。
 ◆悪の大魔王、妹の結衣は?
 今回、結衣が率いる日本橋音羽屋は、もう散々な目に合っていて、心の底からざまあ、なんすけど……一体全体、なにゆえ結衣は幸ちゃんをそれほどまでに憎むのか、実はわたし、その心情がちょっとよくわからんです。まあ、悪は滅びるべし! なので、いいんだけど……姉妹の和解はあり得るのかなあ……今のところ、無理っすね、もはや。

 とまあ、こんなところだと思いますが、今回は「暦」にまつわるエピソードも面白かったすね。それに、何気にお竹さんの「カラースタイリスト」ぶりも非常にイイっすね! 歌舞伎役者と組んで新たな流行を生み出せるかもしれないっすな! 要するに、大変楽しめる一冊であったのは間違いないと存じますので、シリーズを読んできた方は、今すぐ本屋さんへ行って買って読むべきです!

 というわけで、結論。

 わたしの大好きな『あきない世傳』の最新刊、(12)出帆篇が発売になったので、すぐ買って読みました。正式発売日は2/15だったかな、わたしが買ったのは連休の2/11だったと思うけど、わたしとしては、マジで電子書籍でも出してもらいたいっす。紙と違って、電子だと発売日前に買えることはなくなるけれど、なにより、老眼の進行によって、もはや紙より電子の方が読みやすいわたしには、電子版の発売を心から願います。。。ま、そんなことはどうでもいいとして、今回の(12)巻も、大変楽しめました。ついに呉服を扱うことが再開できた五鈴屋。でも、そのことによって、お武家様との商いが増えて、経営状態が良好になるのはいいとしても、その一方では、太物しか扱えない時を支えてくれた町のおかみさんたちをないがしろにしてしまうことにもなりかねず、これは非常に難しい問題だと思います。幸ちゃんが一体次の巻でどんな答えを出すのか。その解答を楽しみに待ちたいと存じます。幸ちゃんが出す回答は、ホント、現代のビジネスにも通じるかもしれないよね。まあ、結論を言うと、『あきない世傳』シリーズは最高っすよ! 以上。

↓ どうでもいいけど、「扇屋」の「花扇」といえば! わたし、国貞の浮世絵でこれを観ました。
KUNISADA_OUGIYA02
 こちらの作品のBOSTONのWebサイトはこちら。これは、「江戸町壱丁目(=吉原の一等地)」にあった、「扇屋」という楼閣のTOP大夫「花扇」さんを描いたものです。この作品は1830年代かな、幸ちゃんたちの時代より100年以上あとですが、「花扇」の名跡はずっと続いてたんでしょうね。
以上、豆知識であります! おしまい。

 はーーー……今回はすごかったすねえ!!
 というわけで、日本国内において推定2万人弱はいらっしゃるであろう『グレイマン』ファンの皆さん、お待たせいたしました! 年1回のお楽しみ、わたしが大好きな「暗殺者グレイマン」シリーズ最新第10作目が、今年は9月に発売になりました! わーーーい!
暗殺者の献身 上 グレイマン (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2021-09-16

暗殺者の献身 下 グレイマン (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2021-09-16

 今回も、上下巻のカバーイラストを1枚に合成してみたんすけど、今回はもう1枚絵にすることは完全に放棄してますね。しかも、微妙に内容と関係ないというか、一応下巻の背景は、これはブランデンブルグ門かな? ファイナルバトルの場の近くですが、なんつうか、愛する早川書房様の微妙過ぎるセンスのなさに笑っちゃったす。
GRAYMAN-10
 さてと。
 以下は完全ネタバレですので、まだ読んでいない人はここらで退場してください。

 はい。よろしいでしょうか。
 実は、このグレイマン最新作の感想を書く前に、同じく大好物の「ジャック・ライアン」シリーズ(の日本語で読める)最新刊の感想を書こうと思ってたんですが、そちらは、とうとうGreaney先生が降板し、新たな著者に引き継がれたせいなのか、はっきり言ってあまり面白くなかったので、ちょっとほったらかしにしております。
 しかし! やっぱりMark Greaney先生のオリジナルシリーズであるこちらの「グレイマン」最新作は、まあ、控えめに言って最高でしたね!
 何が最高かというと、
 1)キャラクターが素晴らしい!
 2)数多くの勢力が最終的に入り混じっての大バトルになるのが素晴らしい! 無駄なキャラが一人もいない!
 3)あり得そうであり得ない、あり得なそうであり得るかも、と思わせる国際的陰謀のリアリティが素晴らしい!
の3点であります。まあ、1)のキャラクターに関しては、今回は愛しのゾーヤも出てくるし、そもそも主人公、グレイマンことコート・ジェントリー氏と、元上官ザックの二人のキャラが最高すぎるし、わたしが大嫌いな腐れ女、スーザンの野望がついに成就してしまうしで、とにかく最高なのはもう、ファンの皆さんなら同意してくださるでしょう。
 しかし本作において、わたしが一番「こう来たか!」と爽快だったのは、2)の各勢力がファイナルバトルで入り乱れて戦うまでの筋道っすねえ! ちょっと久しぶりに図を描いてみるか。
GRAYMAN-10
 ううむ、これじゃ読めないか。。。一応、クリック(タップ)すると拡大できます。
 要するに、今回はUAE=アラブ首長国連邦=スンニ派に、イラン=シーア派根絶の代理戦争を仕組んだ悪党がいて、それに巻き込まれてゆくお話なわけですが、その計画が非常に巧妙で、UAEとしては、欧州諸国がイランに対する経済制裁を緩めつつあるのが非常に気に入らないと。なので、欧州に対して、イランはヤバいことを実感してもらいつつ、USAを怒り狂わせて、イランに派兵させたがっている。なので、欧州及びUSAへのテロをイランの仕業にするために、UAE自身はUSAの同盟国だし、イスラエルとも仲良くなったので、いろんな奴を利用しながら「とにかくイランはつぶすべき」という流れを作ろうと暗躍するわけだ。しかもその過程が非常に複雑、なんだけど、実は根っこが単純というものなので、クライマックスへの流れは極めてスピーディーかつ、カオスな状況にまっしぐらとなり、とても読みがいがありました。
 実のところ、最新ジャック・ライアンシリーズは、その複雑さが読みにくさに直結しているような気がします。だから、ラストに向かって、どんどんとパズルのピースが埋まっていく感じが薄くて、イマイチに感じたのではなかろうか。そこが大きな違いだと思いました。
 それでは、恒例のキャラごと紹介に移りましょう。誰から書くかな……今回はまずはこの人からにしよう。
【USAサイド】
 ◆マット・ハンリー:CIA作戦本部本部長。CIAに繋がらない、独立契約工作員運営プログラム「ポイズン・アップル」の責任者。元軍人で現在は太鼓腹。本当は、というか、根っこはとても正義感。だけど今回のラストはヤバいすねえ! ついに部下であるクソ・スーザンの反乱の牙がマットに襲い掛かっちゃったわけで、マットには大変気の毒だけど、読者としては、今後のシリーズ展開が実に楽しみっす!! 
 ◆スーザン・ブルーア:マットの部下で、ポイズン・アップルの工作員たちと直接やり取りをする「調教者(ハンドラー)」。初登場時からわたしはこの腐れ女が大嫌いでしたが、ついにこの馬鹿がやりおった! のが実に腹立たしいです。2作前でゾーヤに撃たれたことがマットへの反乱の直接的なきっかけなんだろうな。自分の出世が一番の関心事で、マットのことは大嫌いだし、ポイズン・アップルの3人のことも大嫌い。本人は一応、USAという国家のために働いているという自覚はあるんだろうと思う。ので、そういう意味では悪者ではないけれど、まあ、嫌いっすね。いつか必ず、失禁するぐらいの恐怖を味わっていただきたいですな。コートを怒らせてタダで済むと思うなよ……。
 ◆コートランド・ジェントリー:いろんな異名があり、業界的には伝説のアサシン「グレイマン(=平凡な男)」でお馴染み。ポイズン・アップル1号であり、暗号名「ヴァイオレーター」。恐ろしく根っこが善良で、そこが暗殺者という仕事にミスマッチなんだけど、さらに言うと、愛するゾーヤに首ったけの極めて純情ボーイでもあって、そこはとても笑える。
 前作で刺された傷から感染症に罹患しており、抗生物質の投与が必要なフラフラな状態で今回は戦うことに。でも、前作では登場しなかったゾーヤとまた一緒に戦えてよかったね! 戦闘中、ゾーヤのことを「Z(ジー)!」と呼ぶのもイイっすねえ!
 わたしが今回一番気に入ったシーンは、ゾーヤがベルリンで豪華なディナーを(任務上の行動として)バカな男と同席しているのをひそかに監視している時に、「この世で一番大切な人間が、通りの向かいで人生を楽しんでいる時に、<ダンキン・ドーナツ>が自分の夕食だったことに怒っていた」とメラメラとジェラシー感情に支配されるところっすね。コートよ、ゾーヤがあんなバカ男と理由なくイチャつくわけないだろ? まったく純情ボーイは困ったもんだぜ笑。
 そして毎回毎回、このBlogに書いていますが、わたしとしてはどうしてもコートのビジュアルイメージはJason Statham兄貴なので、ハゲマッチョであってほしいんだけど、今回も普通に髪がある描写があってぐぬぬ、っす笑。Netflixで進行している映像化では、無口イケメンのRyan Gosling氏が演じますが、確かに似合ってるとは思う、けど、イケメン過ぎだと思うな。。。いずれにせよ、今回も満身創痍の大活躍で、めでたしめでたしかと思いきや、ラストでスーザンの裏切りが明らかになり、コートは再び逃亡者生活へ……。まあ、その方が物語は新展開となって面白くなるとは思うけど、ホント、コートには必ずスーザンを恐怖のどん底に落としてほしいすね。
 ◆ゾーヤ・ザハロワ:元ロシアSVR局員で、現在はポイズン・アップル2号(3号かも?)、暗号名「アンセム」として活動するウルトラハイスペック美女。一応ゾーヤもコートのことが大好き。今回はクソ・スーザンからの指令で、ベルリンで活動する民間インテリジェンス企業に潜入するが、そのことで生きていることがロシアにばれてしまい(ロシアはゾーヤが死んだと思っていた。そしてロシアにチクったのはスーザンか? それともパワースレイブでバレて、密告されたのか、よくわからんかった)、ロシアから恐ろしい暗殺者がやって来ることに。
 この暗殺者チームは、本筋には関係ない第3勢力なんだけど、肝心なところで邪魔に入ったりして、非常にいい味付けだったと思います。そして今回のゾーヤは、少しだけ「普通の女子」っぽいところも描写されていたように思います。まあ、男なら間違いなく二度見するような美女なんでしょうね。コートが何かとゾーヤを危険から遠ざけよう、助けようとすることに、若干イラッとしているのがほほえましいす笑。今回のゾーヤのセリフで一番気に入ったのはこれっすね。
 「わたしたちはだめよ」
 いやいや君たち二人は全然ダメじゃあないぜ!? いつか、コートと共に安寧が訪れてほしいですなあ。。。
 ◆ザック・ハイタワー:元コートの上官で、コートのことをその時のコードネーム「6(シックス)」と呼ぶ、パワフルで頼りになる男。ちなみに自分は「1(ワン)」。現在はポイズン・アップル3号(2号かも?)で、暗号名はロマンティック。ザックとしてはその暗号名が気に入っていないのが笑えますね。確か、自分としては「ナイト・トレイン」って呼ばれたいんだっけ笑。
 わたしは、冒頭の尾行ミッションを行っている「資産=アセット」はてっきりコートなのかと思ったらザックでした。結果、ザックは冒頭でいきなりベネズエラの刑務所に拘禁されてしまう。そして後半で、「ザックが必要だ」というコートのリクエストに、ザックを助けにベネズエラに行くのがゾーヤですよ! やっぱりゾーヤは最高っすね! そしてその後ザックも大活躍で、特にファイナルバトルでの活躍はカッコ良かったす!
 そしてその後のロシア人対決の前の、ゾーヤとコートのやりとりにぼぞっと漏らす一言が最高でしたね。<ザックが沈黙を破って、弱々しく言った「彼女は妬いているのさ」「ちがうわよ!」ゾーヤが弁解した「妬いてるロシア人は危険だぞ」ザックが、かすかな笑みを浮かべて言った> ザック、アンタ最高だよ、きょうだい! 
 ◆クリス・トラヴァース:正式なCIA特殊活動班の若きリーダーで、コートやザックの後輩。なので、実際のところ、トラヴァース君はコートが嫌いじゃないし、味方ではある。今回はあまり見せ場はないけど、きっと今後はヴァイオレーター狩りに駆り出されるんでしょうな。気の毒。。。
 ◆ライアン・セジウィク:ベルリン駐在のアメリカ大使。アホ。US大統領と親しい大物政治家。どうやら、マットがベルリンに飛んだことをコイツに密告したのもスーザンらしい。マジでスーザンは腐れ女ですね。スーザンがしめやかに失禁して命乞いするところが見たいですな。
【ドイツ】
 ◆ルドルフ・シュパングラー:元DDR(東ドイツ)シュタージの将校で、統合後も山あり谷ありの生活を経て、現在は「シュライク・グループ」という民間インテリジェンス(諜報)企業を立ち上げてその社主となっている。ターリクという謎のクライアントから莫大な資金を与えられ、ドイツ国内のイラン工作員の動向を追っていた。ルドルフはターリクのことをイスラエル人だと思っていたが、大いなる勘違いで自滅。コイツの部下たちも、みんなまさかUAEのために働いているとは思っていなかった。そしてミリアムと呼ばれる女性以外はことごとくほぼ巻き添えで死亡。気の毒。。。
 ◆アズラ・カヤ:全くの民間人で、医師(の卵)。トルコからの移民でベルリン在住の苦労人の彼女ですが、本文の記述によると「三年半前」「イギリス人調教師のもとで暗殺者の仕事を」やっていた時にコートは彼女の世話になっているらしい。わたしは、あー、これ、第1作目のことかな、たしか獣医の女の子に傷の手当てを受けたことがあったような……と思って調べたのですが、わたしが覚えてたのはフランス人の女子で名前も全然違ってたので、どうもアズラとは別人みたいでした。くそう、今まで出てきた人なのか、初登場キャラなのか分からなかったです。
 いずれにせよ、今回登場したアズラは、非常にナイスキャラで、コートを治療してくれ、ゾーヤに焼きもちを焼かれてしまうほど、コートも信頼している感じで、とても良かったすね。今回の事件でもう闇診療からは足を洗っちゃうかもですが、また会いたいと思わせるキャラでした。
【UAE=アラブ首長国連合】
 ◆スルタン・アリ=ハプシー:暗号名ターリク。UAEの首長の次男。兄と弟は戦死。立派に死んだ兄と弟に比べてお前はダメな野郎だ、と父からは冷遇されていて不満に思っている。現在はCIAが設立に助力し、教育をして育てたUAEの情報機関SIAの副長官。つまり、マットもよく知る人物でUSAのためにこれまでいろいろ情報を流していたUSAの味方、のはずだったが、父の念願であるシーア派の根絶を実行することで大嫌い、だけど愛している父に認められ、次期元首に指名されることを狙っている。
 その計画は、イスラエルの振りをして民間インテリジェンス企業に欧州のイラン工作員の情報をつかませ、イラン人たちを扇動してテロを起こさせ、USAと欧州を激怒させ、イランに対して経済制裁強化と対イラン戦争を起こさせたい、というもの。邪悪なクソ野郎ですな。まあ、最終的にはすべての計画は失敗に終わり、人生も終わるので、ざまあ、です。
 ◆キース・ヒューレト:暗号名ヘイディーズ。ターリクに雇われた傭兵軍団のリーダーで、アメリカ人。ずっとターリクに騙され、自分たちはCIAにやとわれていると思い込んでいて、イランのテロを防ぐ正義の味方だと思い込まされていた気の毒な連中。コートと何度も戦わされ、ロシア人にも襲われ、最後は雇い主のターリクに裏切られ、全滅。気の毒すぎる。。。
【イラン】
 ◆ハズ・ミールザー:凶暴で過激な狂信者。ドイツに送り込まれ、平凡な生活を強いられていたスリーパーたちのリーダー。ターリクからの情報と支援でテロを起こそうとするが、イラン本国から絶対にダメだと釘を刺されていた、にもかかわらず、自爆しようとベルリンのアメリカ大使館に突入しようとするが、仲間は全滅したけどターリクにそそのかされて、ターリクがUAEからこっそり密輸した、UAEに捕虜として捕まっていたイラン人部隊と対人兵器を搭載したドローンを与えられて、再びアメリカに対するテロを実行する。まあ、使い捨てのコマだったにすぎないけど、気の毒とは全く思いません。
【ロシア】
 ◆マクシム・アクーロフ:ゾーヤもその恐ろしさを知っている、ロシアの伝説的アサシン。ゾーヤが生きてベルリンにいることを知ったロシアが派遣した暗殺者チームのリーダー。ベロベロの酔っぱらいで精神的にぶっ壊れていて、華々しく死にたいと思っている。ゾーヤ殺害の一歩手前まで行くが、コートの乱入で失敗。以降は、伝説のグレイマンと戦うことに生きがいを見出し(?)、最後まで超しつこく狙ってくる。本筋にはほぼ関係ない第3勢力だが、4階(欧州では5階のことだっけ?)から飛び降りても死なないゾンビ系アサシン。おそろしあ。。。
 なお、マクシムのチームには、情報担当としてゾーヤの旧知の女性、インナというキャラが出てくるが、ロシアにはゾーヤが生きていることがバレたので、今後もインナはゾーヤを狙って登場してくるかもしれないすね。

 とまあ、こんな感じかな。もう長いのでさっさと結論!

 毎年わたしが大変楽しみにしている小説、「暗殺者グレイマン」シリーズの第10作目にして最新作が発売になったので、すぐさま買って読みふけったわたしであります。結論はもう、最高でした! に尽きますね。非常に複雑な対立構造を見事に描き切ったMark Greaney先生の筆力はさすがだと思います。今回は「ポイズン・アップル」の3人がそろい踏みであり、彼らと対立する多くの勢力が入り乱れての大乱戦は実にワクワクドキドキいたしました。そしてエピローグでは、ついに腐れ女スーザンの計画がまんまとはまり、マットをはじめ、コートたちも苦境に落ちて終了、という、こ、これからどうなっちゃうんだよ!的な見事な幕引きでした。まあ、このぐらいの大転換がないと今後の展開もマンネリ化してしまうので、実にアリ、だと思います。コートにはつらい日々が続きそうですが。。。次巻が超楽しみっすね! ゾーヤVSコートとかそういう展開もあり得るのかなあ……ヤバいす、ワクワクが止まらねえ!! 以上。

↓ 1作目をもう一度ちゃんと読むべきか?
暗殺者グレイマン
マーク グリーニー
早川書房
2014-06-10


 わたし的に2月と8月は、毎度楽しみにしている小説が発売される月なのです。
 そして、今年はちゃんと8月に新刊が出ました! そう、このBlogでお馴染みの、高田郁先生による『あきない世傳』の最新第11巻の発売であります!

 正式発売日は今日、8/10(火)ですが、連休前の金曜日には書店店頭に並んでいましたので、連休中に読み終わってしまいました。実質読書タイムは3時間かかってないかもっす。読みやすいし、もう物語に引き込まれてグイグイ読んじゃうんすよね。
 わたしは今回のサブタイトルが『風待ち篇』ということを知って、ああ、きっとちょっと小休止的な感じなのかな? と思っていましたが、いやいや、主人公の幸(さち)ちゃん率いる五鈴屋さんは、小休止どころかもう順風満帆じゃあないですか。今回も大変楽しめるお話でしたねえ。これまで、チラッと登場してきたキャラの正体が判明したり、また、先にちょっと言っておくと、わたしは相撲が大好きなんすけど、相撲にかかわる部分も非常に興味深かったすね!! 今回は、1759年12月14日の、五鈴屋江戸店出店8周年記念日から1761年11月25日までの約2年間が描かれていました。
 というわけで、今回のポイントをちょっとまとめておこう。以下、ネタバレに思いっきり触れている部分もあるので、まずは本作を自分で読んでからの方がいいと思いますよ。まだ読んでいない人はこの辺で退場してください。さようなら。

 はい。それでは行きます。
 ◆「浴衣」の発明は大成功したが、流行に終わらせず、ずっと定番化するには?
 現代のわれわれが知る「浴衣」が、まさか幸ちゃんの発明だったとは驚きだけど、実際、現代においても「浴衣」は存在しており、幸ちゃんの「老若男女にずっと着てもらう」定番化の努力は、幸ちゃんの奮闘から260年が経た今でも実っているわけですが、今回はその過程として、2つ、すごい現代人のビジネスに近い試みが描かれている。もちろんそれはすべて大成功するわけですが、痛快でしたなあ!!
 1)定番化への道その1:特許の解放
 現代ビジネスにおいては、特許や商標という形で、自らのビジネスを防衛するのが当然というか必須の自衛手段だろう。じゃないとパクられてしまうわけで、巨大資本にまねされたら中小企業は生き残れないよね。しかし、だ。自分の発明を、自分だけで独占していても、巨大な資本がない限り、市場の拡大にはつながらないし、事によっては事業拡大の妨げにもなりかねない。だから現代では、「使っていいよ、けど、金は貰いまっせ」という「許諾料」、いわゆるロイヤリティ商売があるわけだ。
 しかし! 幸ちゃんは、せっかくの染付技術を所属する綿織物小売協会(=浅草太物仲間)に無償公開しちゃうんだな。ここには、幸ちゃんの「浴衣普及への想い」が込められていて、五鈴屋だけで独占しても世間的な「定番」になり得ない、という判断なんだけど、この決断は現代人にはかなり難しいというか……できないものだとわたしは強く感服しました。これは、短期的にみると、経済的な得には全然ならないだろうと思う、けど、長期的にみると、幸ちゃんには全然その気はなくても、太物仲間からすれば、もう明確に、五鈴屋に借りを作ったことになり、義理人情と「粋」を旨とする江戸人にとっては、五鈴屋には世話になった、という心理は明確に五鈴屋の味方を増やすことになるわけで、「敵を作らない」という戦略は非常に理にかなっているし、現代でもアリ、な行動だろうと思う。そしてそれは、後々経済価値に算定できないような大きな利益につながるわけで、経営判断として幸ちゃんの決断は実に見事だとわたしは思いました。ただ、せっかく染付の技術を仲間に公開した時、実はクソ音羽屋のスパイが紛れ込んでいて、技術を盗まれるという産業スパイのようなお話もあって、今回はそれほど大ごとになってないけど、今後ちょっと心配っすね。。。
 2)定番化への道その2:キャラクタービジネスへの参入!  
 今回のメインは、もうこの「キャラクタービジネス」でしょう。なんと今回、幸ちゃんは、江戸庶民に大人気の「勧進相撲」のキャラ版権を一手に引き受けることになるのです! そもそものきっかけは、江戸に進出し、江戸店を出店してから、毎年出店記念日に必ず来てくれてた老夫婦が、8年前から五鈴屋のビジネスを見守り、信頼をしてきたという伏線があって、あの老夫婦の正体がとうとう明かされるわけです。9年越しに! なんとその老夫婦の旦那さんは、元力士で、現在は勧進相撲のプロモーター、興行責任者であることが判明し、力士用の浴衣を発注してくれたのであります!
 力士たちが揃って着てくれる、しかも勧進相撲は当時の江戸の最大のエンタメイベント! 8日間開催され、1日当たり1万人の観客を集めるってんだからすごいよね。そんなイベントの、公式ユニフォームを発注されたわけで、これはビックビジネスだし、しかも幸ちゃんは、同じものを浅草太物仲間所属の店でも売らせてほしいとお願いしちゃうのがスゴイ! そう、現代で言えばレプリカユニフォーム、まさしくキャラクタービジネスですよ。ファンなら同じものを着て応援に行きたいのは現代でも同じだし、18世紀の江戸人だって同じ気持ちなわけで、相撲の開幕初日に販売を開始して、おいなんだあの浴衣は! 粋じゃねえか! なんだと、浅草の太物屋でもおんなじモンが売ってるだとう!? そいつは買わねえと! オレもおんなじのを着てえに決まってんじゃねえか! と、大繁盛となるわけです。最高っすね!!
 しかも、その公式ユニフォームのデザインが力士のしこ名入り浴衣というのが、もう相撲ファンのわたしには最高すぎるアイディアですよ! 現在でも、力士のしこ名入り浴衣は定番ですが、アレは幕内力士でないと許されないもので、その点も幸ちゃん時代に生まれたってのも、フィクションだろうけど最高でしたね。
 そのしこ名をデザイン化するにあたっては、当然五鈴屋のチーフデザイナー、賢輔くんが頑張るわけですが、なかなかうまくいかないところに、ヒントとなるのが、恐らく、現代の我々の知る「相撲文字」のフォント、あのぶっといアレですが、どうやらあれの元祖らしきものが今回登場するのも最高だったすね! 作中では、深川親和なる書家のおっさんが、そこらじゅうの店の看板やのぼりを書いていて、そのフォントに「これだ!」とビビッと来て、その深川親和というおっさんに会いに行くんだけど、あのおっさんのキャラもとても良かったすね! そりゃ面白い、金を出せば書いてやるぜ、と乗ってくれたのも、とても気持ち良かったです。
 かくして、五鈴屋はまたしても大成功!となり、商いは潤うわけですが、その背景で、今回は結構いろんなことが起きました。
 ◆宝暦の大火(1760年2月)! 
 今回は冒頭、五鈴屋の8年目の出店記念日にお梅さんのお嫁入りというおめでたい話題から始まるものの、年明けすぐに「宝暦の大火」が起き、浅草田原町にある五鈴屋は無事だったものの、神田明神下の「神田旅籠町」から出火した大火災は江戸を半分ぐらい焼け野原にしてしまう。そうです、神田旅籠町といえば、高田先生の『みをつくし料理帖』でもお馴染み、源斎先生のおうちがあるところで、初代「つるや」のある神田御台所町のすぐそばですな。現在の秋葉原のはじの方です。この火事によって、日本橋の悪の大魔王、妹の結(ゆい)の本拠地「音羽屋」も焼けてしまった。まあ、結は無事だったし、音羽屋も金にものを言わせてすぐ復活するんだけど、幸ちゃんは結の消息を心の底から心配していたのに、ばったり会った結はとんでもなく性格がねじ曲がっていて、実に不愉快でした。
 結(と音羽屋のスケベジジイ)に関しては、今回も性懲りもなく邪悪なたくらみを何度も仕掛けてくるけれど、ことごとく幸ちゃん勝利に終わるので、まあ正直どうでもいいです。が、今回の江戸の大火事によって、江戸の物価が跳ね上がってしまう展開となるのは当たり前とはいえつらい話でした。物資がない、つまり需要に対して供給不足、というわけで、インフレが起こるのは当然の経済原理なのだが、五鈴屋は消費者の味方なので、値段を変えずに頑張るんだけど、五鈴屋で安く買って、高い値段で転売する、といういわゆる「転売ヤー」まで出てきちゃうのは、現代もそうだけど実に腹立たしい思いがしました。ただしこのインフレも、時が過ぎれば(=供給が元に戻れば)収まってゆくので、こちらもそれほどの大問題とはならなかったので安心しました。
 ◆さらに、木綿花の生産地の不作→供給不足による価格上昇
 そして火事だけでなく、木綿の生産地の不作という不幸も相まって、さらに木綿製品の値が上がってしまうのもつらかった。しかも、邪悪な音羽屋の買い占めも背後にあって、実に不愉快でありました。ただ、このピンチにも、幸ちゃんはとあることをひらめくことになる。かつて呉服を売った北関東のおじさんちは木綿もやってるって言ってたな、と思い出し、以前、大坂時代に絹の生産地に出資したときと同じく、木綿も江戸近郊で作ればいいんじゃね? というわけだ。しかもあのおじさんの住む土地からは、船で利根川~江戸川(いや、荒川→大川(隅田川)だったかも)を下れば物流もスムーズじゃん! といいことずくめだし。
 とはいえ、さすがにまだ江戸五鈴屋単独での出資は難しい……ならば、浅草太物仲間のみんなで共同出資するのはどうかしら? と話がつながっていくのもとても気持ちが良かったですな。実に現代的なビジネスセンスをお持ちですよ、幸ちゃんは。この話も、今後見事に花開くだろうから、その時が楽しみっすね!
 ◆五鈴屋は呉服=絹製品の扱いをあきらめたのか?
 いやいや、諦めちゃあいませんよ、もちろん! というわけで、これまた以前からちらちら登場していた、とある母娘の家が、浅草界隈で唯一の呉服屋「丸屋」さんであることを幸ちゃんは知ることになる。丸屋さんと言えば、大坂から江戸に来たばかりの時に一度挨拶に行ったことがあることを思い出す幸ちゃん。そして丸屋さんは、非常に手ごろなお値段で、堅実な商いをしていたお店。だけど、どうやら丸屋さんの仕入れ先が強硬な値上げをしていて、もう呉服はやめて、太物を扱おうか、ならば浅草太物仲間に入れてもらえないか、と組合に相談に来たそうな。すると、仲間の最長老である河内屋さんが、じゃあ、おれたち浅草太物仲間は、浅草呉服太物仲間に生まれ変わろうじゃねえか、お上にお願いしようぜ! という展開になるんすけど、ここには、幸ちゃんの五鈴屋が、呉服を扱うのをあきらめなきゃならなかった事情をよく知っていて、今回大きな借りが出来た幸ちゃんに、再び呉服を扱うチャンスをあげたいという気持ちが込められてるわけですよ! こんな気持ちを知ったら、佐助どんじゃなくても泣くっすね! まさしく災禍は糾える縄のごとし、そして情けは人の為ならず! ですなあ! こういうところが、わたしが高田先生の作品が好きなところであります!
 ◆ところで菊枝さんはどうなった!?
 もちろん、菊栄さんもついに江戸ビジネスにデビューですよ! ただ、デビュー寸前に火事によって準備してきた商品は燃えてしまうし、さらに商品のお披露目は音羽屋の極悪コンビによる邪悪な妨害活動にあってしまうけれど、今回、菊枝さんを助けたのは、幸ちゃんの2回目の結婚相手の元旦那で、失踪して江戸で両替商・井筒屋となって再登場した惣次と、もう一人は日本一の女形、歌舞伎俳優の中村富五郎さんのサプライズ東上・登場だ! 富五郎さんは実にさりげなく、そしてカッコ良かったすねえ!
 そして惣次はこれまでも、直接的ではないにしろ幸ちゃんを導くようなヒントをくれてるし、菊栄さんとは、大坂時代に全く仲が良くなかったけれど、現在はお互いに「ビジネス上の有能な取引相手」として認めあっていて、この関係もなんかいいっすよね! 菊栄さんは、幸ちゃんが唯一精神的に頼ることが出来る大人として、とても重要な存在っす。間違いなく、美人でしょうなあ! バリバリなビジネスパーソンとして、今後の菊栄さんの商売繁盛も期待したいっすね。そして惣次も、大坂時代とすっかり変わりましたなあ。元々、人の気持ちが分からないダメ男ではあっても、ビジネスセンスはピカイチだったわけで、今のところは非常に頼りになる男に変身したっすね。わたしは惣次が幸ちゃんの前に立ちはだかるラスボスになるんじゃないかと若干心配ですが、そうならないことを祈ります。

 というわけで、もう長すぎるしまとまらないので結論!

 わたしの大好きな小説『あきない世傳』の最新11巻が発売になりました! 今回のサブタイトルは「風待ち篇」ということで、小休止的なお話かな、と思いきや、今巻の中でもう風待ちから、風が吹いて順風満帆な勢いまで描かれ、とても面白かったです。相撲好きとしては、相撲のネタはとても興奮しました。そして、実直に、誠実に、あきないに邁進する幸ちゃんには次々と味方が現れ、助けてくれるし力になってくれるので、とても心地いっすね。悪の大魔王と化した妹、結は、なんかもう、なんでそんなに幸ちゃんを嫌うのか、理由を忘れてるというか、憎むこと自体が目的になってしまったような気もするっすね。。。実に哀れというか、浅はかというか、もうよくわからんですな。。。これはもう、和解の道はないかもしれないすね。。。残念ながら。そして気になる惣次も、今後も何気にイイ奴であっていただきたいすね。本作も大変よろしゅうございました! 早く続きが読みたいです! 以上。

↓ 要するにこれに近いもの、なんでしょうかね??

 やっと来ました!
 わたしが世界で最も愛する小説家、Stephen King大先生による長編小説、『THE OUTSIDER』の日本語版の発売であります!!!
TheOutsider
 毎回同じことを書いていますが、わたしはほぼ完全に電子書籍野郎に変身済みで、コミック単行本だけではなく、小説もほぼ電子に移行しているのですが、その中で例外的に「まずは紙の本で買う」のは、最も愛するKing大先生の作品だけ、であります。何故かって? そんなの、本棚にずらりと並べて悦に入るためですよ! そしてもちろん、いつでもどこでも読めるよう、あとで電子でも買い直しますけどね! さらに言うと、かつて金のない若者時代は、文庫になるのを待つ、ということもしてましたが、今や金に困らない大人なわたしは、いち早く読めるための特急券として、単行本で出たら即買って読む! ことにしています。どうせ文庫になっても3分冊ぐらいになって1000円ぐらいするので、実はそんなに値段的には変わらないしね。
 おっと、相変わらずKindle版は紙の書籍よりちょっと安いな……実に不愉快!
アウトサイダー 上 (文春e-book)
スティーヴン・キング
文藝春秋
2021-03-25

アウトサイダー 下 (文春e-book)
スティーヴン・キング
文藝春秋
2021-03-25

 というわけで。今回の新刊『THE OUTSIDER』は、実のところUS本国では2018年に発表され、既に映像化もなされている作品なので、そういう意味では全くもって「最新刊」ではありません。事実、わたしの元部下の英語ペラペラガールのA嬢は、もう数年前にとっくに読んでおり、King大先生をオススメしたわたしとしては悔しい思いでしたが、やっとわたしも読める日本語版が発売になったのでした。
 わたしがこの作品についてて事前に知っていた内容は、もうただの1点だけです。それすなわち、あの、「ホッジス三部作」で活躍したホリーが再登場する!! という、それだけでもう白米3杯行けちゃうようなワクワクする情報だけでありました。
 なので、もうとにかく大興奮しながら読んでいたわけですが、前半の、「こ、この事件は一体……?」という謎に満ちた展開から、まさか後半がKing大先生の真骨頂(?)たる「Super Natural」な展開になっていくとは! というハラハラドキドキ感で、読み終わった今言えることは、とにかく最高に面白かったぜ! という一言に尽きると思います。ええ、この作品、まぎれもなくKing大先生の作品ですよ。たぶん著者クレジットなしでも、わたしは作者がKing大先生だと分かったと思います。
 というわけで、まずはわたしがパワポでテキトーに作った前半の人物相関図を載せてみます。しかし思うのは、わたしが大好きなホリーというキャラは、上巻のラストでいよいよ名前が登場するんすけど、上巻の終わり方が超超絶妙で、ここで上巻を終わらせた文芸春秋社の編集者は非常にUDE、腕のある野郎ですなあ! 褒めてやってもいいぞ! まあ、元々はKing大先生のワザマエが素晴らしいからだけどな!
 なお、どうしてもネタバレを避けられないので、まずは自分で読んでからの方が絶対いいですよ。少なくとも、下巻の展開は絶対に知らないで読んだ方が楽しめると思います。未読の方は、ここらで退場してください。
TheOutsider_character0


 はい。ではよろしいでしょうか?
 というわけで、もうあらすじも画像の中に書いてしまったけど、超端折って説明すると、オクラホマの片田舎の街で、少年が惨殺されると。そしてその現場には指紋やDNAなどの大量の残留証拠物があって、さらには目撃証言もバッチリそろっており、警察は全く疑うことなく、容疑者を特定し、衆人環視のもとに容疑者を逮捕する。しかし、その容疑者は学校の先生であり、街では少年野球のコーチとしてもよく知られた真面目人間であり、変態極悪人とは程遠い存在であった。さらに言うと、彼には、犯行時刻に他の先生たちと共に全く別の街で講演会に出席していたという完璧なるアリバイがあった。どう考えてもおかしいこの事件。その裏には、恐るべきSupar Naturalな超自然的存在=THE OUTSIDER(よそ者)が!! てなお話である。
 で、上巻のラストでは、弁護士チームがとある調査を依頼するために、そうだ、旧知のビル・ホッジスに連絡を取ってみよう、という展開になるのだが、我々読者はもうよく知っている通り、既にビルは亡くなっており、代わりにホリーに繋がる、となるわけです。もうこの展開が超見事で、King大先生の作品を読み続けている人なら、この上巻ラストは大興奮したと思う。しかも上巻ではとんでもない事態が起こりまくって大参事になってしまうので、そのハラハラドキドキ感は抜群だ。
 そして問題は下巻ですよ。下巻になると、ホリーがほぼ主人公というか、「実際に超自然的存在と戦ったことのある経験者」として捜査を牽引し、最終的にはテキサスの砂漠で人外の存在との戦いとなるわけで、まあ、結論から言うと最高に楽しめました。
 キャラ紹介も上記画像に書いちゃったので、もう書くことがほぼなくなっちゃったんだけど……自分メモとして、3つ、挙げておこう。
 ◆「OUTSIDER」と言えば……
 まあ、普通の映画オタで50代に差し掛かったわたしのような初老のおっさんたちなら、「THE OUTSIDER」というタイトルを見てまず第一に思い起こすのは、1983年公開の映画『アウトサイダー』でしょう。Francis Ford Coppola監督による青春映画の名作だ。わたしも公開時、中学生でしたが劇場で観ました。以前、会社の若者に、おれ、劇場でその映画観たぜ、と言ったら、凄い尊敬されたっす。でも、本作はあの映画には全く関係がない。
 しかし、実はわたしがKing先生の新刊が「THE OUTSIDER」というタイトルだということを知った時、真っ先に思い出したのは、大学の学部生時代に読んだCollin Wilson氏による名作『The Outsider』の方だ。この本は、小説じゃあないよな……あれはなんだろう、思想書というべきかな? 超ざっくりいえば、社会というか基本的な秩序の外側にいる「局外者」という意味で、ゴッホやヘミングウェイ、ニジンスキーといった芸術家を論じたもので、若かったわたしは激しく感動しちゃって、おれもこのクソみたいな社会の外にいる、アウトサイダーだな……とか青臭いことを、当時は本気で思ってた思い出の作品であります。
 で、なんでこんなことを書いたかというとですね、上巻冒頭のKing先生による引用が、まさしくCillin Wilson氏の著作の言葉から始まっているのです! わたし、なんかのっけから興奮しちゃったす。そして念のため申し上げておきますが、本作はあまりCollin Wilson氏の言うアウトサイダーとは関係なかったすね。ただKing先生は、常に「日常のすぐ隣に存在する闇」を描くお方なので、そういう意味ではKing作品に出てくる「邪悪なる存在」はまさしく「アウトサイダー」そのものかもしれないす。今回は明確な「Super Natural要素アリ」の「黒キング」作品と分類して良いと思います。
 ◆キタ!!「輝き=Shine」そして「Ka=カ」
 下巻のラスト近くでは、我々のようなKing大先生のファンなら大歓喜の、あの用語が出てきますよ!! まず、今回の邪悪なる存在であるアウトサイダーなるものは、おそらくはKing作品お馴染みの「ロウメン=Raw Men」の一種なんだろうとわたしは思いました。この、Rawってのは、直訳すれば「生」ってことで、要するに焼いてない生肉とかのRawで、King作品で言うと『Hearts in Atlantis(アトランティスのこころ)』に登場する「下衆男たち」でお馴染みですな。もちろん「The Dark Tower」シリーズにおける「中間世界」の住人だ。本作では、変身途中(?)の「生」な状態で出てくるし、さらに、「黄色のシャツ(!)」がちょっとしたキーアイテムとしても出てくるので、ロウメンの一種に間違いないと思う。
 さらに、アウトサイダーとホリーの直接対決の場面では、「輝き」と「カ(Ka)」についてアウトサイダーは言及している。アウトサイダー曰く、死体は「輝き」を発していて、それは情報であり、血筋であり、食べ物ではないが間違いなく力の源泉、であるらしい。そして魂―「カ」―はもう消えていても、それでも残っているものが「輝き」らしい。
 この部分は、非常に興味深いですね! 今までのKing作品で出てきた「輝き」能力は、もちろん『The Shining』あるいは『Dr.Sleep』のアレで、要するに超能力的な特殊な力(予知とか遠視とか)なんだけど、ロウメンにとっては目印、のようなもの? なのかもしれないす。正直よくわかりませんが。そして「Ka=カ」については、もうこれは『The Dark Tower』を読んでもらうしかないですな。今までわたしは「カ」とは『The Dead Zone』における「Wheel of Fortune=運命の車輪」つまり、「運命のような抗いがたい力」のようなものだと思ってたけど、今回は「カ」=「魂」と語られたわけで、そこも非常に興味深いす。しかも、下巻でホリー率いるチームは、まさしく「カ・テット」のようでもあって、この辺は『The Dark Tower』を読んでいないと全く意味が通じないと思うけど、とにかく、今回のホリーはまるでローランドのようで、とてもカッコ良かったと思います。
 ◆ホリー! ホントに成長したね! ホッジスもきっと喜んでいるよ!
 最後は、下巻で大活躍のホリー・ギブニーというキャラクターについてだ。ホリーは40過ぎで、精神的に問題を抱えていて、なかなかつらい人生を送ってきたわけだけど、『Mr.Mercedes』事件でホッジスと出会い、君は君のままでいい的に認めてもらえたことで、大きく成長していったわけですが、ホッジス亡き今も、懸命に生きているわけで、わたしはそれが本当にうれしいです。またホリーの出番はありそうですなあ。きっと、King大先生もお気に入りのキャラなのではなかろうか。また、別の作品でホリーには会いたいですな! でも、それってアレか、またもホリーはヤバい事件に出会うってことになるのか。それはそれで気の毒だけど……大丈夫! きっとジェローム君たちが助けてくれるよ! 今回、いい人チームでも殉職者が出てしまったけど、King先生、どうかホリーとジェロームはずっと生きていられるよう、お願いいたします!!

 というわけで、もう長いのでぶった切りで結論!

 わたしが世界で最も好きな小説家は、Stephen King大先生である!!! これはもう、揺るがないですな。それにしても、King先生は今年の誕生日でもう74歳だぜ!? それなのに毎年1冊以上新刊刊行を続けてるんだから、本当にすごいよなあ!! そして日本語で読める最新作『THE OUTSIDER』は超最高に面白かったです!! 文春よ、早く『The Institute』を日本語化してくれ! もう観翻訳作品が4本ぐらい溜まってるのではなかろうか? 頼むよ! そして願わくば、King先生! またホリーが登場する物語が読みたいっす! 待ってます!! 以上。

↓ 超Sci-Fiで、超ヤバイお話だとA嬢が言ってました。はよ読みたい!
The Institute (English Edition)
King, Stephen
Hodder & Stoughton
2019-09-10

 よおおーーし! 機は熟したぜ! さあ、反撃だ!!
 おそらく、わたしと同じようにワクワクした方が日本全国で数万人はいらっしゃることでしょう。そうです。わたしの大好きな、高田郁先生による時代小説『あきない世傳』シリーズ最新(10)巻がいよいよ発売になりました!!

 わたしは今回の『合流篇』というサブタイトルを見ただけで、すごく嬉しくなったわけなんですが、それはもう、前巻までを読んできた方なら同じなのではないでしょうか。
 前巻では、主人公の幸(さち)ちゃんは、あろうことか実の妹の結ちゃんによる捨て身の攻撃を受け、深く深くダメージを負ったわけですが、一方では、大坂より心強い味方の来訪も予告されておりました。その、最強とも言える味方が、ついに江戸に到着ですよ! こういう「合流」は、もうアベンジャーズ並みに大興奮しますなあ!!
 さてと。以下は完全にネタバレに触れると思いますので、まずはご自身で読んでからにするか、まだ未読の方は今すぐ退場してください。

 はい。それではよろしいでしょうか? もう前巻までの状況は説明しませんが、最新(10)巻冒頭での状況としては、我らが「五鈴屋」は、こんな状況にありました。すなわち、
 1)呉服屋協会から強制退会の処分を受けた
 2)結果、呉服(=絹製品)の取り扱い不可、よって、太物(=綿製品)しか商えない
 3)太物は安いので、商売的には厳しい、が、需要は高い
 4)ので、太物での商品開発が急務である
 とまあ、こんな感じで、前巻では、「風呂上がりに着て、そのまま風呂屋から家に帰れるような着物」があれば売れるんじゃね? とひらめくところまでは描かれていたわけです。当時の「湯帷子(=ゆかたびら)」から、まさしく現代のわれわれが知っている「浴衣(=ゆかた)」の誕生の瞬間なわけですな。当然、太物(綿織物)なら、濡れたって平気だし、洗えるし、コイツは行けるかも!? とひらめく展開は読んでいてわたしも「それだーーー!!」と膝を打ったわけですが、とはいえ、そこは「粋」を最も大切にする江戸社会、カッコ良くないとイカンわけです。さらに言えば、メンズでもレディースでもイケないとダメ、で、老若男女問わずの製品にしたいわけです。
 というわけで、今回の(10)巻で問題となるのは、
 1)どういうデザインにする? 小紋で培った技術を生かす「図案」とは??
 2)カッコいいのが出来たとして、どうやって製造し、売る? しかも一時の流行じゃなくて、ずっと定番商品にするにはどうすべか??
 という2点について、今回は幸ちゃんたち五鈴屋関係者一同の奮闘が描かれているわけで、さらに心強い味方の合流もあって、実に興味深く、面白いお話でありました。
 【1.デザイナーの苦闘】
 まあ、まずはとにもかくにも、図案がないと話にならないわけで、ここは当然五鈴屋江戸店のチーフデザイナーの賢輔くんの出番なわけですが、せっかく編み出した自信作を悪の大魔王となり果てた結ちゃんに持ち逃げされた賢輔くんとしては、「アレを上回るデザイン……くっそう、思いつかねえ!!」とずっと悩むことになるわけです。しかも、結ちゃんの堕天は、(強いて言えば)賢輔くんが結ちゃんの恋心を「あっしは仕事がまず第一なんで」とごくあっさり振ったことに根本原因があったとも言えるわけで、悩みに悩んで行き詰る日々を送る賢輔くん。しかしです。そんな苦闘の日々にあっても、大坂からやってきた味方がいろいろ連れ出してくれたり、大川で毎年開催される恒例の「あのイベント」に行ったりすることよって、「これだ!」とひらめくに至る展開は、とても心地よいものがありましたな。どんな図案をひらめいたのかは、ご自身で読んでお確かめください!
 しかし問題は、その図案だと、それまでの常識の中では、実現できないハードルが2つあったのです。それは、サイズの問題と、型彫師の技術の問題でありました。
 サイズの問題は、つまり従来の染付の型を作る「型地紙(=伊勢型紙)」では、賢輔くんのひらめいた図案が入りきらないような、小さいものしかないのです。でも、そもそも従来の型紙は、もっと大きいものを裁断して販売されているので、裁断前の型紙をGetすればイケるんじゃね? ということで、まあ、結果として無事にそのデカい型紙を入手するわけですが、その経緯がまた今回もイイ話なんすよねえ!! 読んでいて、とっても嬉しくなるような、よーし、これで準備OKだぜ! とわたしも興奮したっすわ。
 で、デザインも決まり、型紙もGetした、けど、このデザインを彫るには相当のテクが必要だぜ!? というときに、これまた彫師の梅松っつあんの技(=基本的に錐で穴を空けて彫る技)だけではできない、というタイミングで、梅松っつあんの故郷から若手彫師が江戸にやってきて(正確には郷を捨てて半死半生でたどり着いた)、その技術の問題もクリアされるわけです。ご都合主義というか出来すぎだけど、いいんだよそんなこたあ! 最高に面白いんだからケチをつけるのは粋じゃあないぜ!
 そしてデザイン完成→型紙完成、ときたら、次は染付ですな。そして当然染付は、五鈴屋の強い味方である力造兄貴が「両面糊付け」の技(型を抜いた部分に糊を置いていく、けど、片面だと裏からにじんできれいにならない、ので、両面に糊を置く必要がある)でやってくれるわけで、こうして五鈴屋待望の「新商品」が出来上がるわけです。最高じゃないですか!
 【2.宣伝販売戦略】
 といういわけで、みんなの頑張りで、製品の製造ラインの稼働は実現できましたが、さて、それをどう告知して販売するか? が主人公・幸ちゃんのメインミッションであります。
 本シリーズで何度も出てきますが、当時の宣伝活動には、1)引き札を配布する(=現代で言うチラシの配布)、2)読売に取り上げてもらう(=現代で言う新聞広告)、3)幸ちゃんが大阪時代に実行した草紙本に載せる(=現代で言う雑誌広告)、4)幸ちゃんが大坂時代に実行した無料サンプル・景品の配布(=現代で言うCI、ノベルティ)、5)幸ちゃんが江戸店開店時に実行した、どこかに寄進して使ってもらったり、役者に着てもらう(=現代で言う口コミ、プロダクトプレイスメント)なんかがあるわけです。
 結論から言えば今回の新製品に関しても、5)の口コミをメインとして採用するわけだけど、そのサンプル提供先、そしてタイミング、さらにその量! にはとても見事だと拍手を送りたい気持ちっすね! ホント、ついに新製品が世にお披露目された瞬間は最高にうれしくなりましたな! なお、今回は冒頭からお披露目まで、2年?というかなり長い時間が流れますが、今回のキーワードである「秘すれば花」が極めて効果的であったと思います。
 そして、今回わたしがとても素晴らしいと思ったことが二つありました。
 一つは、大量のサンプル製造のために、お針子のおばちゃんたちを動員する流れと、お披露目後殺到するお客さんに、「ああ、なんなら仕立ても承りますよ!」とそのお針子のおばちゃんたちを継続雇用する流れだ。当時、服というものは反物から仕立てる、あるいは古着を買う、しかないわけだけど、せっかく反物を買っても、仕立てはまた誰か別の人に頼むのが一般的(? 一般的かどうかわからんけど、出来ない人もいっぱいいるし、男一人暮らしな場合もある)で、そこも五鈴屋は引き受け、さらに雇用も生み出しちゃったわけですな。これはとても素晴らしいと思うすね。ちなみに、この前段階として、五鈴屋では恒例の「無料の帯締め教室」を発展させた、反物・布地の「無料裁ち方教室」を始める流れも、ホントに顧客第一の商売に叶った、素晴らしいアイディアでしたなあ。
 そしてもう一つは、大量の商品ストックや仕立てのための作業スペース確保のために、なんと五鈴屋は店舗拡大も実現するのです。そして! その店舗拡大に超大きな貢献をしてくれたのが! 大阪からやってきてくれた最強の味方、菊栄さんですよ!! もうキャプテン・マーベル並みの大活躍は最高でした!
 菊栄さんは、シリーズを読んでる人ならわかりますよね。大坂・五鈴屋4代目(=とんでもないクソ野郎)に嫁いで、幼かった幸ちゃんにとっても優しくしてくれた、けど、クソ4代目に離縁されたあのお方で、実家に戻ってからは自らのアイディアで「鉄漿」の販売で大きく商いを展開した、けど、アホな弟夫婦に邪険にされて、いよいよ満を持して江戸に進出する決意を前巻で固め、ついに江戸到着となった菊栄さん。今回はもう、菊栄さんの活躍が随所に光りましたなあ!! 経済的な支援、そして精神的な支えとしても、幸ちゃんを大いに助けてくれたのがホント嬉しいす。ついでにやってきた大阪本店のお梅さんも、まあキャラ的に三枚目なので大活躍はしてないけど、ムードメーカーとして幸ちゃんたちの心の癒し(?)に貢献してくれたし、とにかく今回の「合流」は、ホントに良かったなあと読んでて笑顔になったすね。
 もちろん、菊栄さんは自分のビジネスのために江戸にやってきたわけで、その仕込みもキッチリ、順調に整っているようなので、菊栄さんの成功も、とても楽しみであります! わたし的には、菊栄さんはシリーズで一番好きなキャラっすね。絶対美人に決まってるよね!

 というわけで、わたしは今回の(10)巻も最高に楽しませていただいたのですが、今後の気になるポイントは、もう当然この2つです。
 1)あの5代目、惣司あらため井筒屋保晴氏の動向は?
 いやあ、菊栄さんと惣司の20数年ぶりの再開は最高だったすねえ! こんなこともあるんだ、と爆笑して受け入れる菊栄さんのハートの強さに乾杯! ですよ! わたし的には、惣司はビジネスにおいてはそれなりに有能だと思っているし、実際キッチリけじめをつけてから失踪したわけで、実はそれほど悪い奴じゃないと思っています。そして菊栄さんも、今や両替商となった惣司をきっちり利用しているわけで、ビジネス的にはある意味Win-Winな関係を作り上げてるわけですが、今後、惣司がどう動くか、目が離せないですな。非常に気になるっす。
 2)悪の大魔王、結ちゃんの動向は?
 今回姿を現しませんでしたが、まあ当然、大魔王も黙ってはいないでしょう。どういうイヤらしい反撃をしてくるか、楽しみじゃないけど気になるっすね。和解ってあり得るのかなあ……?? あり得ると思います? わたしはナイとは言わないけど、相当難しいだろうなあ……。。。間に立てる人がいないもんね、もはや。。。まあ、とにかく結ちゃんの動向も、非常に気になるっすね!!

 というわけで、もう長いので結論!

 わたしの大好きな時代小説『あきない世傳』の最新(10)巻が発売され、すぐさま買って読んだわたしですが、一言で言えば今回はもう、全編嬉しいことばかり(?)、だったような気がします。面白かったですねえ! 今のところ、模倣者のパクリは出てきてませんが、普通に考えて、五鈴屋の独占・独走状態が続くわけもなく、ズバリ言えば五鈴屋の独占状態では「一時的な流行ではなくずっと商える定番商品」にもなりにくいわけだし、まあ、高田先生の作品ならば間違いなくまたも大ピンチな事態が勃発するのでしょう。なので今回はある意味での「凪」の訪れとも言えるかもしれない。でもさ、頑張ったらやっぱり報われてほしいすよね。そして報われた幸ちゃん達が、一時の幸せをかみしめる時間はとても嬉しいですな。次のピンチまでに、会社として五鈴屋にはしっかり備えていただきたいものです。それにしても、いやー、『あきない世傳』は最高っすね! 以上。

↓ やっぱり、まったく現代でも色あせない、美しいデザインが多いですなあ。



 はーーー……やっぱり最高すねえ!
 というわけで、日本国内において推定2万人ぐらいはいらっしゃると思われる『グレイマン』ファンの皆さん、お待たせいたしました!! 例年夏に発売される「暗殺者グレイマン」シリーズ最新作がやっと発売となりました! やったーーー! わーーーい!
暗殺者の悔恨 上 グレイマン (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2020-11-19

暗殺者の悔恨 下 グレイマン (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2020-11-19

 せっかく上下巻で一枚絵になってるから、ちょっと編集したのを置いとくか。
annsatusyanokaikon02
 OH、NO! 全然背景が一枚絵になってねえじゃん。どうなの早川書房様……。
 さて。今年は、早川書房様からGreany先生の別の作品『RED METAL』が4月に発売になっていた影響で、少し遅れての登場となったわけなんすけど、なんつうか、わたしが愛する早川書房様は、致命的な弱点が一つあって、宣伝告知プロモーション活動がド下手くそなんすよね……。公式Tweetもろくな情報流してないし、全くセンスがないんだよな……。なので、要するに、いつ新刊が出るのか? という、最も重要な情報を、積極的にパトロールしないとつかめないんだな。
 わたしは、「グレイマン」新刊が早く読みてーなー、とずっと思ってたし、早川書房の公式Webサイトもかなりな頻度でチェックしていたのに、なんと今回の新刊発売情報をキャッチしたのは、公式発売日の2日ぐらい前で、まあ、わたしが抜かってただけかもしれないけれど、うおっと、まじかよ!? と思って近くの本屋さんに行ったら、もう紙の本が棚に並んでた、という驚きの状況でありました。なので、すぐさま愛用している電子書籍サイトBOOK☆WALKERにて予約しようと思ったのに、まだ登録されておらず、おのれ! とギリギリ歯を食いしばること2日。公式発売日の早朝0400に買ってやりましたよ! 誇張でも何でもなく、目を覚ました60秒後には購入完了いたしました。
 ところで、一応、『RED METAL』のAmaリンクも以下に貼っておきます。
[まとめ買い] レッド・メタル作戦発動
H リプリー ローリングス四世

 こちらの作品はですねえ、要するに、Jack Ryanの登場しないRyanモノ、のようなお話で、物語的には、ロシアがアフリカのレアメタル鉱山(から生じる富)を支配下に置こうとして、周到に計画された作戦=「レッド・メタル作戦」を実行する話なのだが、中国と台湾を一触即発の状態にさせてUSAをそっちに陽動しつつ、ポーランド経由でヨーロッパに侵攻して大規模戦闘が繰り広げられたり、最終決戦地のアフリカ(ケニア)では、大掛かりな陸戦が行われたり、という感じで、わたしにはかなりトンデモ展開のように思えてしまったんすよね……。まあ、Ryanモノもすでにトンデモ展開ですが、Ryanモノのように、明確なヒーロー=主人公、の存在しない群像劇なので、それはそれで面白いんだけど……とにかく読み終わって非常に疲れた作品でありました。もちろん、感想をこのBlogに書こうと思ってたんすけど、とにかくキャラが多いし、舞台も世界中なのでまとまらなくて、放置していたのでありました……サーセン……。
 ともあれ、「グレイマン」新刊であります!
 今回、わたしは真っ先に<上巻>冒頭に掲載されている人物表を見て、ちょっとびっくりしました。というのも、ゾーヤもいないし、ザック・ハイタワーもマット・ハンリーもいないじゃあないですか! およよ? こ、これは一体?? と思いながら最初のページに入ると、舞台はボスニア・ヘルツェゴヴィナであります。登場する男は75歳のおじいちゃん。そしてそのおじいちゃんの胸に、470m先からピタリと照準を当てている男。即、その男がわれらがグレイマンこと、コート・ジェントリーであることはピンとくるわけですが、どうやらそのおじいちゃんは1995年の「スレプレニツァ虐殺事件」の首謀者だったらしい。そんなかつてクソ野郎だった男を殺そうとしている我らがグレイマン氏ですが、今回わたしが一番驚いたのは、物語そのものではなくてですね、なんと! 今回は! 「1人称現在形」での語りなのです!! なので、グレイマン氏の愚痴が満載なのです!w 
 この点は、はっきり言って最後まで読んでもなんか違和感があったんですが、その、随所にダダ洩れるグレイマン氏ことコート・ジェントリー氏の愚痴がおもろいんすよ。
 グレイマン氏は、ここで引き金を引けば殺るのは簡単だし脱出も容易だけど、それじゃあダメで、「おれがやつの心臓をとめる前に、やつが取り乱すように、じわじわと責める」必要があると考えている。それはなぜかというと、「安易なことはやるな。正しいことをやれ。道義的に正しいことを。」と、グレイマン氏の心の指針(コンパス)が示しているからであります。
 つまり、くそう、オレは馬鹿だ!! とか言いながら、ものすごく苦労しても、「正しいことを」をオレはやるんだ、とずっと言ってるわけで、まあ、それこそがこの「グレイマン」シリーズ最大の特徴であり魅力であるわけですな。人殺しのくせに。今回は、1人称で語られることによって、そういったグレイマン氏の心情がより一層、強調されていたように思います。
 で、物語としては、当然この冒頭のおじいちゃんは見事グレイマン氏に殺られるわけですが、おじいちゃんが潜伏していた農場には、「性的人身売買」の「商品」として監禁されていた女性たちが大勢いて、どうやっても一緒に連れていけないし、そもそも女性たちも、自分が脱走したら家族が殺されると言ってグレイマン氏についていかず、その場に残ることを選んでしまう。結果、グレイマン氏は一人で脱出するも、自分が襲撃したことで、女性たちはより一層ひどい扱いを受けることになってしまうことが確実なので、よーし、じゃあ、この組織をぶっ潰してやろう!! と移送された女性たちを追う、てな物語でありました。まあ、それが日本語タイトルにある「悔恨」なのではないかしら。
 なお、どうやらこのおじいちゃん殺しは、25年前の虐殺を許さないでいる誰か(?)、から依頼された「フリーランス」の仕事らしく、CIAとは無関係で、完全なる単独行動であるため、<上巻>にはお馴染みのメンバーは一切出て来ないわけです。
 また、グレイマン氏が追う組織なんすけど、、女性たちを捕獲・監禁・移動させるルートは「パイプライン」と呼ばれ、組織自体は「コンソーシアム」、そしてそのTOPにいる人物は「ディレクター」と呼ばれている。要するにもう、完全なるビジネス、というテイを取っているわけで、パイプラインが通っている街の警察や政府の高官を買収済みで、完全に黙認されて年間数億ドルの利益を上げているわけですが、おそらく想像するに、そういった女性を拉致して売買する市場ってのは、本当に、現実の世界に存在しているのだろうと思うすね。そして、極めて残念だし心からの怒りを感じるけれど、日本人女性も確実にそういったクズどもの毒牙にかかって被害に遭ってるだろうな、と思います。遺体が見つかっておらず、ヨーロッパあるいは東南アジアで失踪した女性はほぼ間違いなく、そういった犠牲者なのではなかろうか……。ホント許せないよ。なので、わたしとしてはコートの大活躍は読んでいていつも、スカッとするし、悪党どもの死にざまには心の底からざまあ、と思うわけですが、まあ、そんなわたしも平和ボケなんすかねえ……。とにかく、女性一人でヨーロッパや東南アジアには絶対行かない方がいいと思います。セクハラでサーセンなんですが、特に美人の一人旅は危険すぎますよ。
 というわけで、今回の登場人物紹介をしておきましょうか。
 ◆コートランド・ジェントリー:われらが「グレイマン」。もう紹介の必要ないですよね? 冷酷な暗殺者のくせに、超イイ奴という矛盾した男。それが魅力なんですが、こんな奴はいねえだろうなあ……。その意味では、本作も相当なトンデモストーリーですが、面白いからいいの! なお、今回のグレイマン氏は比較的大怪我せず、でした。いやいや、ラストバトルでは相当血を流したか。でも、それ以外は、比較的無傷だったすね。
 ところで、このBlogを読んでいる「グレイマン」ファンの皆さんならご存じだと思いますが、ついに映像化企画がNetflixで本当に始動したみたいすね。でもさあ! なんでコートを無口イケメンのRyan Gosling氏に演じさせるんだよ……!? 確かにね、わたしもRyan氏がコートを演じると聞いたときは、おお、確かに、恐ろしく平凡かつ存在感が薄い、というコートの特徴にはピッタリかもな、と思いましたよ? なので実はわたしも、超適任だと思ってますよ? でもさあ、やっぱりコートは、セクシー・ハゲでお馴染みのJason Statham兄貴に演じてほしかったなあ……! 本作でも、コートはハゲじゃない描写があったように思いますが、第1作からずっとStatham兄貴をイメージしていたわたしの夢が崩れ去って、極めて遺憾であります。。。でもまあ、監督はAnthony & Joe Russo兄弟ということで、数年前からGreany先生の公式サイトでRusso兄弟が映像化の企画開発中と発表されてたから、それが現実に向けて動き出したことだけでも喜ぶとします。Russo兄弟は、とにかく「近接戦闘」というより「近接格闘」というべきかな、素手・ナイフなどを使ったクロス・コンバットを撮らせたら世界一レベルの監督なので、迫力は満点でしょうな。Netflixってのがアレだけど、期待したいすね! あー、でも、Statham兄貴に演じてほしかったなあ……。
 ◆ザック・ハイタワー&CIAの人々:はい! もちろん我らがザックも<下巻>で登場します! にっちもさっちもいかなくなったグレイマン氏が、仕方ねえ、正義の味方を呼ぶか、とクソ・スーザン経由でマットに連絡を取るのですが、マットとしては、「ポイズン・アップル1号」として、グレイマン氏にやらせたい仕事があるのにまたフリーで仕事しやがって! と大激怒&連れ戻せ! と「ポイズン・アップル2号」こと暗号名「ロマンティック」のザックたちを派遣するわけです。この時、「ポイズン・アップル3号」の「アンセム」=愛しのゾーヤは前作で受けた傷の治療中(?)だそうで、今回は登場せずだったのが残念!
 で、ザックはいつも通り、「どんなに理不尽な命令でも」忠実に守る男なのに、今回はグレイマン氏がやっていることを聞き、さらに! 唯一の弱点のことも持ち出されて心情的にはグレイマン氏を支援する方向で、自分は動けないけれど、心強い仲間を紹介してくれたりと(そのメンバーがラストバトルで結構殉職しちゃったのは悲しい……!)、いつもよりちょっと優しかったすね。そしてとにかく、ザックは登場するシーンがいつもカッコ良く、今回も、「元気か? シックス。乗り物を探しているのか?」とか言いながらグレイマン氏と再会するシーンは最高でした! なお、今回は前作の冒頭に出てきたCIA専用機のCAを務める結構強い系女子、シャロンがチラッと登場しますが、どうやら前作でグレイマン氏に助けられたので、若干好意を持ってるようですね。でも、二人が話している時に、ザックが「おまえがスチュワーデスに惚れられるわけがないだろう?」とグレイマン氏をからかうのは最高だし、シャロンに「わたしはスチュワーデスなんかじゃないわよ! 馬鹿たれ!」と怒鳴りつけられるザックも最高だったすね。もうコートとザックの二人、超仲良しじゃん!w 
 で、CIA関係で最後に挙げるのは、トラヴァース君ですな。まだ若いけれど、前作でCIA地上チームのベテランメンバーが結構殉職してしまって、現在はトラヴァース君が隊長になったようです。もちろん、トラヴァース君もクソ・スーザンは大嫌いだし、グレイマン氏のことは友達だと思ってるので、指令には従いたくないんだけど今回も何気に頑張ってくれました。そして、ラストバトルが終わって、ようやくコートと話す機会を得たトラヴァース君の一言は最高だったすね。「こんなふうに会うのは、やめようぜ、きょうだい」。まったくだよw
 ◆タリッサ・コルプ&ソフィアのルーマニア人姉妹:今回単独行動のグレイマン氏を、主に頭脳面で支援してくれたタリッサ。ユーロポールで金の動きから犯罪行為を摘発するアナリストなので、戦闘力ゼロだし、そもそも現場にも出たことがないので、最初はもう、超おどおどしてたのに、どんどんグレイマン氏のヴァイオレンス手法に慣れた(?w)のか、ラスト近くでは超がんばる女性に成長したのがうれしいすねえ! 彼女の動機は、妹で超美人のソフィアを、人身売買組織に囮として近づけさせてしまった結果、美人過ぎで注目を与えてしまい、まんまと拉致され、商品として「パイプライン」に乗せられてしまったためなんですが、この姉妹は、姉は顔はアレだけど頭がいい、そして妹は超美人だけど頭が人並で、と、お互いにないものを持っていて、そのため、何となく関係がぎくしゃくしてたわけなんすけど、妹のソフィアとしては、頭が良くてデキる姉の仕事に役立って、認められたい! と健気に思っていて、勇気ある行動に出たわけだ。お互い、実際は愛し合ってる姉妹なのに、難しいですなあ。そしてソフィアは、女性にとって最悪の地獄に放り込まれてしまったにもかかわらず、一度作戦中のグレイマン氏に出会って、そこでもう救出されて助かるチャンスがあったのに、自ら情報収集のために現場に残ることを決め、グレイマン氏にも「この女は覚悟があるッ!」と認められたガッツあふれる美女で、実によろしいキャラでした。二人とも、ホントによく頑張りましたね! ラストの抱擁はホントにほっとしました。そういや、一番最初のボスニア・ヘルツェコビナで出会ったリリアナは無事に故郷に帰ることができたんすかねえ。タリッサ&ソフィアのように、元の生活に戻れたならいいんだけど。。。
 ◆ケネス・ケイジ:今回の悪党の親玉。ただし、見かけはフツーのメリケン人のおっさんで、小柄&小太り&ハゲであり、年齢も50代と、まあ、ぱっと見はさえない野郎なんですが……コンピューターと金融に関する天才的才能から、「コンソーシアム」を立ち上げ、巨億の富を得る。しかし、ビバリーヒルズのウルトラ大豪邸に妻と3人(だっけ?)の子供と幸せ暮らす、周りもうらやむスーパーリッチ野郎、というのは仮の姿で、とにかく邪悪かつドスケベで間抜けな変態。
 しかも実は、コイツのことはCIAもとっくに知っていて、ゲス野郎だけど見逃してやっていたという背景が明らかになる。それは、コイツは顧客たちのマネーロンダリング情報をCIAに流していて、ある意味既にコイツはCIAのアセットでもあったから見逃されていたんすけど、グレイマン氏からすれば、そんなの関係ないすわな。コイツの失敗は、もう一言、性欲旺盛過ぎたということに尽きると思う。コイツはLA郊外に広大な「農場」という名の女性を監禁した施設を持っていて、気に入った「商品」を「味わう(なんて嫌な言い方!!)」ことを楽しみにしてるわけですが、ソフィアの美貌&生意気な性格が気に入ってしまい、まあ、それで身を滅ぼしたわけで、実にざまあ、であります。ちゃんとボディーガードたちの言うこと聞いてれば、逃げ切れたかもしれないのに……心の底から愚かなゴミクズ野郎でした。ホント、わざわざバイアグラ飲んでまでヤリまくらなくったっていいじゃねえか……どうしようもないアホだな、と思ったす。
 なお、我らがグレイマン氏は、結局マットの顔を立てるためにも、コイツを処刑することは諦めるのですが、「おれは殺されたくないから、おまえを殺さない。でも、おまえに一生消えない傷をつけるくらいなら、連中(=CIA)はただ激怒するだけだ。それに、連中がおれに激怒するのは、毎度のことなんだ」とカッコいいセリフを言ってから、グレイマン氏がコイツに科した罰は、大変キッツイお仕置きでありました。最高ですね! そしてマットはグレイマン氏の予想通り大激怒しますw
 マット「おまえの首をへし折りたい」
 グレイマン氏「列に並んでくれ、ボス」
 要するに、「おれを殺したがってる奴らが順番待ちしてるんだから、アンタもその列に並んでくれ」って意味なんですが、このセリフももう何度目か、すね。なんだよコート、お前、マジでカッコイイじゃんか!! ゾーヤの前では純情ボーイのくせに!w 
 ◆ケネスのボディーガード軍団:まず、「パイプライン」全体の警備を担当する(?)のが南アフリカ人のヤコ・フェルドーン。元々軍人かつ情報機関員で凄腕のアサシン。彼は伝説の「グレイマン」が活動しているのを知り、是非戦ってみたい!と闘志を燃やす。そのためにはボスであるケネスをも囮にしようとするぐらいの超ストイックなバトルマニア。まあ、残念ながらグレイマン氏に勝てるわけないす。最後まで戦ったのはあっぱれですが、もう一人の、ケネス個人を守るボディガード、ショーン・ホールは、メリケン人で元SEALsの凄腕のくせに、アル中気味で、最終バトルであっさり降参しちゃったのは驚いたす。その辺はメリケン人っぽいテキトーさが出てましたね。まあ、純粋に金だけのために動いてたので、こんなの割に合わねえ!と思うのも無理はないすな。まあ、ゲス野郎ですよ、彼も。
 とまあ、メインキャラはこんな感じでしょうか。
 もう長いのでそろそろぶった切りで終わりにしたいんすけど、やっぱり、ゾーヤも出てきてほしかったですなあ! わたしはタリッサがピンチの時、颯爽と現れてタリッサを助けてくれるんじゃないかと期待したんすけど、そうはならなかったす。まあ、ゾーヤの活躍は次作に期待したいと存じます。

 というわけで、もう結論。

 1年数カ月ぶりに発売された日本語版「グレイマン」シリーズ最新作、『ONE MINUTE OUT(邦題:暗殺者の悔恨)』ですが、いつも通り大変楽しめました。2作ぶりに、CIAの仕事ではない、ジェントリーの「心のコンパス」が指し示す「善、のようなもの?」のために戦うフリーお仕事編でありました。相手は変態「性的人身売買」組織の親玉で、コートが許すわけがない相手であり、コートに狙われてタダで済むわけがないわけで、ラストのお仕置きはとても心すく思いがしました。もう、性犯罪者はみんな同じお仕置きを受ければいいのにな……。ともあれ、グレイマン氏、今回もお疲れ様でした! しかしまあ、今回もいろいろとギリギリで、読んでいる読者としては面白いんだけど、コートはいつ死んでもおかしくないですな。コートよ、せめてゾーヤとちゃんと幸せになってくれよな。年に1回、コートに会えるのが、わたしはホント楽しみであります。来年の夏、また会おうぜ、きょうだい! 以上。

↓ 次回作はもう10作目か。どうやら2021年2月にUS発売のようです。くそー!早よ読みたい!
Relentless (Gray Man)
Greaney, Mark
Sphere
2021-02-18





 はあ……読み終わったす……。
 なんだけど、実は読み終わったのはもう2週間ぐらい前で、なかなかこの感想を書くまでに時間がかかってしまいました。
 というのも。
 まあ、はっきり言いましょう。ちょっとですね……なんかイマイチだったすね、結論としては。何の話かって!? そんなのコイツのことに決まってるでしょうが!!
King_sleepingbeauty
 そうです。わたしがこの世で最も好きな小説家、Stephen King大先生の「日本語で読める」最新作『SLEEPING BEAUTIES』のことであります。
 上巻を読み終わったのは前回の記事の通り10/29のことで、今回の下巻を読み終わったのは11/3ぐらいだったかな、まあ、もはや結構前なのだが、なんつうか、後半、ちょっと厳しかったすね……。
 本作は、謎の「オーロラ病」なる現象が世界を包み込む、という、現代のCOVID-19を思わせるようなお話なんすけど、「オーロラ病」というのは、「眠れる森の美女」でお馴染みのDisneyプリンセス、オーロラ姫、から命名された謎の現象で、女性しか罹患せず、一度眠ってしまうと、体からなにやら糸状組織が分泌され、繭の様なものを形成してしまう、というものだ。しかも、その繭を破って、女性を助けようとすると、クワッ! と目覚めて、繭を破った人間(及びその時周りにいた人)をブチ殺そうとする凶悪な行動に出て、ひとしきり暴れた後は、また繭を形成して眠りに落ち、目が覚めない、というような、おそろしい病(?)だ。
 で、上巻では、ついに主要人物である主人公の妻であり、町の警察署長を務めていた女性が、ずっと眠らないよう頑張って来たのに、ついに!眠ってしまう、というところまでが描かれたわけです。詳しい人物関連図は、前回の記事を観てください。
 というわけで、上巻読了時には、これからどうなる!? 的なドキドキ感でわたしは大変ワクワクしていたわけだが、一方では、上巻の終わり時点ですでにこの「オーロラ病」現象が、完全にSupernaturalな存在によるもの(?)であることもはっきりしたので、若干、嫌な予感もしていたのは事実であります。
 Supernaturalとは、すなわち超常現象であり、科学の及ばない謎現象、なわけで、その原因となる謎の存在、「イーヴィ―」という女性の姿をした謎の存在(上巻時点で完璧に「人間ではない」ことが確定していた)は、いったい全体、何者なのか、何が目的なのか? が本作で一番のカギであったと思うのだが……まあ、結論から言うと、最後まで「まったくわからねえ!」というエンディングだったのは、正直かなりガッカリいたしました。
 この肝心な部分が分からないので、なんていうかな、「勝利条件」がよく分からず、その結果、主人公はいったいなぜ、イーヴィ―をかたくなに守ろうとするのかがピンと来ないんすよね……。
 物語は、下巻に入って、こんな感じの対立構造となるのだが……。。。
beauties02
 はっきり言って、なんで殺し合いにまで発展するのか、わたしには全く理解できなかったす。イーヴィ―を渡せ! それはできん! どうしてもか!? どうしてもだ! よろしい、ならば殺し合いだ! という展開は、ホントに読んでいて、アメリカって国は本当にどうしようもないというか、我々日本人では絶対こうはならんわな、と、わたしとしては相当冷ややかな目で物語を追うことになったす。殺し合う前に、もうちょっと普通に、クリント側もフランク側も、話し合う余地はあったと思うのだが……。完璧にお互いケンカ上等だもんね。メリケン人はみんなこうなんすか?
 おまけに、クリントが信じた勝利条件(?)である、「イーヴィ―を火曜日まで守り抜く」ことも、ほぼ意味がなかったし、眠ってしまった女たちが謎世界から元の世界の戻ることにしたくだりも、イーヴィ―はほぼ何のしてないし(女たちは、結局、男がどうとかそういうことでは全くなく、単純に元の世界に帰りたがった)、結局、何のために女たちは眠り、謎世界で生活することを強いられたのか、についても、ほぼゼロ回答だったと思う。
 もちろん、普通に読んで、イーヴィ―の目的は、「虐げられた女たち」に「虐げ続けた男たち」のいない世界を提供し、どっちがいいか選ばることだった、的に理解することはできるけれど、それって意味があるのかな? 「元の世界」がいいか「男のいない世界」がいいか、という強制的な二択は、どう考えたって、最初から答えが出てると思うんだけど。まあ、5万歩譲って、そりゃ聞いてみなきゃわからんぜ? 選択肢を与えてみる意味はあるんじゃね? と考えたしても、アメリカ北東部の小さな町の数百人(?)の人々に、ある意味人類の運命を背負わせる意味って、ある? 全くないよなあ、やっぱり。だいたい、メリケン人どもの判断に世界を託すなんて、まあ、ズバリ言えば、まっぴらごめんだね!
 また、結局男たちは殺し合い血を流し合い、女たちは話し合いで全会一致の結論を得た、とかそんな読み方もできるんだろうとは思う。けれど、「男たち」にひとからげにされるのも、やっぱり不愉快すね。メリケン人と一緒にしないでほしいし、とにかく、なんつうか……これは日本人が読んで面白いと思える物語ではないんだろうな、というのがわたしの結論です。なんなんだろう、本作はアレかな、息子のOwen氏との共著なわけで、Owen成分が混ざったのがわたしの気に入らなかったんだろうか? とにかく、なんか、いつものKing大先生作品とは、どこか味わいが違っていたように思えてならないす。
 で、最後に一つ、King大先生の他の作品との比較なんですが、わたし、最初は謎の病が蔓延する世界だし、Supernaturalな存在も出てくるということで、『THE STAND』に似てるのかな……と思いながら読んでいたのですが、まあ結論としては全く似てなかったし、一方で、閉鎖空間に閉じ込められた人たちの対立と狂気、という点では、『UNDER THE DOME』的な? と思いつつ読み進めた結果、やっぱり『UNDER THE DOME』とも全然似てなかったすね。わたしはもちろん、『UNDER THE DOME』の方が面白いと思います。なにしろ、悪党がものすごい悪党で、主人公なんてもう心身ともにボロッボロになって、からの、大逆転だったし、謎のドームに閉じ込められるという謎現象にも、ちゃんと回答があったもんね。まあ、結局「謎の宇宙人によるいたずら(ってことでいいのかアレは?)」という口あんぐりな結末だったけど笑。少なくとも、今回のイーヴィ―よりは納得性(?)はあったと思います。いや、ないか!? まあ、そこは個人のお好み次第ってことでお願いします。

 というわけで、もうさっさと結論。
 わたしがこの世で最も好きな小説家はStephen King大先生であるッ! というのは永遠に変わらないと思いますが、実はたまーに、コイツは微妙だぞ……という作品もありまして、今回の『SLEEPING BEAUTIES』という作品は、その「微妙作」であったとわたしの心に刻まれると存じます。うーん、やっぱりなあ、イーヴィーをどう理解するかでこの作品に対する評価は変わると思うっすね。わたしはダメでした。一体全体、何をしたかったわけ?? ぜんっぜん分からんかったす。そしてわたしが明確に理解したのは、アメリカ合衆国ってのはホントにアカン国ですな、という無責任かつテキトーな事実であります。銃社会ってさ……アンタらいつまで西部開拓時代のつもりだよ。21世紀の現代において、明確に否定していただきたいですなあ、マジで。ドラッグもいい加減にやめて、みんな真面目に生きなよ。話はそれからだ! 以上。
 
↓↓文春よ、速くこっちを日本語化しておくれ! 頼むよ!
The Outsider: A Novel
King, Stephen
Scribner
2018-05-22

The Institute (English Edition)
King, Stephen
Hodder & Stoughton
2019-09-10

 わたしがこの世で最も好きな小説家は、Stephen King大先生であるッッッ!
 と、いうことは、もう既にこのBlogにおいて30回ぐらい書いていると思いますが、来ましたよ! 新刊が!! 今回日本語化されて出版されたのは、なんと共著として息子のOwen氏の名前がクレジットされている『SLEEPING BEAUTIES』であります。とっくに電子書籍野郎に変身したわたしですが、いつも通り、KING作品に限ってはまず紙の本を買いました。もちろん、「本棚に並べて悦にいるため」だけの行為であり、電子版もそのうち買うつもりです。
King_sleepingbeauty
眠れる美女たち 上 (文春e-book)
オーウェン・キング
文藝春秋
2020-10-29

眠れる美女たち 下 (文春e-book)
オーウェン・キング
文藝春秋
2020-10-29

 Beauties、美女たち、と複数形なのがミソ、なんですが、まあそれはともかく。本作はWikiによれば2017年刊行だそうで、実はわたしとしては、今すぐ読みたいと思っていたのは、この作品の後にもうとっくに刊行されている2作品の方でありまして、2018年の『The Outsider』と、2019年の『The Institute』の方だったので、なあんだ、Beautiesか、とほんのちょっとだけがっかりしました。まあ、文春はちゃんと、1年後ぐらいには日本語訳を発売してくれるだろうから、待つしかないですな。。。。だってさあ、『The Outsider』はなんとあのホリー(ホッジス三部作のあのホリー!)が主人公の話なんだぜ!? もう今すぐ読みたいに決まってるよね。おまけに『The Institute』はバリバリSci-Fiらしいじゃないですか。もう超楽しみにしてたんすよ……。。。
 まあ、そんなに読みたきゃ英語の原本を読めってことすよね……わたしの元部下の英語ペラペラガールのA嬢は、もうとっくに両作を英語で読んでいて、感想として超ヤバイ! とおっしゃっていました。はあ、くそう、早く読みたいのう……。
 とまあ、そんなこともともかくとして、だ。『SLEEPING BEAUTIES』であります。
 本作のあらすじは、もう帯にもおもいっきり書いてあるけれど、ある日、女性だけが罹患する謎の「眠り病」(=Disneyの眠り姫でお馴染みオーロラ姫にちなんで「オーロラ病」と呼ばれる)が蔓延した世界を描くものだ。その「オーロラ病」にかかり、一度眠ってしまうと、体内から何やら未知のたんぱく質で構成された糸状組織が発生し、「繭」のように全身が包まれて、眠り続けてしまう。そしてその「繭」を破って起こそうとすると、全く別人格のような凶暴な性格となって繭を破った人間(および周囲にいる人間)に襲い掛かり、しばらくすると再び繭を形成して眠りにつく、という恐ろしい奇病だ。
 こんな物語なので、わたしはKing大先生の長男Joe Hill先生(※姉がいるので第二子。本作の共著者Owen氏の5歳年上の兄貴)が書いた『THE FIREMAN』に似てるな、という予断を持って読み始めたのだが……まあ、似て非なるものすね。つうか全く別物すね。そして、ズバリ言うと、完璧にSupernaturalな存在が登場し、むしろ『THE STAND』に似た趣(?)でありました。
 で。どうしようかな、まだ上巻を読み終わった段階で何かを書くのは、ちょっとアレなんだけれど、とにかく今回も登場人物が多いので、ちょっとだけ、キャラをまとめておこうかと思います。下巻を読み始める自分のために。図で示してみるとこんな感じでしょうか。まあ、各キャラの詳細な紹介は全部読み終わってからにした方がいいかな。現状では下記の図で十分でしょう。なお、全員ではないし、上巻の段階ですでに死亡したキャラも含まれてます。
sleepingbeauties
 本作は、ある意味では現在の我々が直面しているCOVID-19パンデミックとも共通する面はあるものの、もっと深刻かつ謎が多すぎていて、科学で立ち向かえないのが恐ろしいところだろう。さらに言うと、全世界で「オーロラ病」は蔓延しているものの、描かれるのは舞台となるアメリカ東部、アラパチア山脈にほど近い田舎町(Washington D.C.まで車で数時間)での出来事がメインなので、よりパーソナルというか、人類VSオーロラ病というスケールではなく、あくまで登場人物たちそれぞれの個人的な動きが描かれている。
 結果として、極めて生々しいというかですね、まあ、ホント、アメリカって国はマジで終わってんなあ、という感想を抱かざるを得ないですな。ドラッグや銃が普通に生活の中にあって、科学的な話を誰もせず、勝手な思い込みでみな行動するわけで、本作ではもう、どうしようもなく邪悪、どうしようもなく自分勝手、どうしようもなく愚かな人物が数多く登場します。とにかく、他人はどうなろうと自分さえよければいい、ってのが根本にあるのが、とにかくまあ、恐ろしいというか、不愉快ですなあ。おりしも現在US大統領選が始まり、4年前、US大統領の椅子は金で買えることを証明した国家なので、読んでいてホントに暗い気持ちになる物語ですよ。これが後半、どう終息、あるいはどう破滅していくのか、もうホントに超ドキドキワクワクで下巻を読み始めようと思います。

 というわけで、さっさと結論。

 わたしがこの世で最も好きな小説家はStephen King大先生である! そして日本語で読める最新刊『SLEEPING BEAUTIES』は、想像してたのとは全然違う、Supernaturalなお話、のようです。上巻読了時点においては。いよいよもって主人公は、King大先生の作品ではお約束の通り、もうどうしたらいいかわからないほど「のっぴきならない事態」に陥りつつあり、これから後半、どう物語が展開していくのか、ホントにわくわくが止まらないですな! 結論から言うと、最高であります! まだ上巻ですが! 以上。

↓ ホントはこっちが読みたいんだよオレは。。。早く日本語版でねーかなあ。。。

The Institute: A Novel (English Edition)
King, Stephen
Scribner
2019-09-10

 マジかよ……なんてこった……!!!
 おそらく、わたしと同じように呆然とした方が日本全国で何万人かいらっしゃることでしょう。そうです。例年2月と8月に新刊が発売となる、高田郁先生による小説『あきない世傳』シリーズ最新(9)巻のことであります。
 たぶん、高田先生の『みをつくし料理帖』がめでたく映画化されたことで、いろいろお忙しかったのか、あるいは、本作の中でちらほら垣間見えるCOVID-19の影響のようにも読める部分の書き足しや推敲に時間がかかったのか、いずれにせよ、いつもより1カ月遅れで発売された(9)巻は、冒頭に記した通り「マジかよ……!!!」という驚愕で幕を開けたのであります。

 というわけで、以下、ネタバレに完璧触れざるを得ないので、気になる方はまずはご自身で読んでからにするか、今すぐ退場してください。また、もう既に読まれた方なら通じると思いますが、わたしは「裏切者」に対して激怒しておりますので、結ちゃんファンの方も、読まずに退場された方がよろしいかと存じます。


 はい。よろしいでしょうか?
 いやーーーそれにしても……それにしてもマジかよ、であります。
 前巻は、主人公「幸」ちゃんの妹である「結」 ちゃんによる、とんでもない行動で幕が閉じ、わたしとしてはもう一刻も早く続きが読みたい!! と思っていたわけで、いよいよ発売となった今巻を昨日本屋さんで発見した時は、もう大興奮で購入し、読み始めたわけですが……まさかの展開に、うそだろ!? うそって言ってくれよ結ちゃん!! と手が震えるほど心が高ぶってしまったわけです。
 もうお読みになった皆さんもきっと同じでしょう。そう、結ちゃんは、マジで、本気で、信じられないけどマジで、姉である幸ちゃんを、そして五鈴屋のみんなを裏切ったのでありました……。これがフェイクで、実は……という展開がありうるのかな!? ないよね? てことは、マジ、なんだと現状では思います。
 そこに至る過程は、もう前巻までで語られているので、多くは書きません。が、はたして結ちゃんを「にんげんだもの」と仕方ないことと許せる読者はいるのだろうか?
 現代ビジネスに置き換えて考えてみると、今回描かれるのは、主に以下の2つのことだ。
 【1:身内による裏切り】
 まあ、創業メンバーの分裂なんてものは、世の中的にごく普通に良くある話だろうと思う。結ちゃんは創業メンバーではないけれど、代表取締役の妹として勤務し、仲良し姉妹だった二人だが……まあ、現実世界でも親が子を殺し、子が親を殺し、きょうだい同士殺し合う事例には事欠かないのだから、残念ながらそんな分裂は珍しいものではない。
 分裂に至る過程は、きっとさまざまではあろうと思うけれど、たぶん、「嫉妬」と「傲慢」というものがその根底には共通しているのだろうとわたしは考えている。
 この二つは、表裏一体で、主に残る側から出ていく奴を観ると、「あの野郎は嫉妬してるのさ」と見えるだろうし、逆に出ていく側から残る奴を観ると、「あの野郎の傲慢さには耐えられん」ということになるのだろうと思う。これはもはや、いい悪いの問題ではなく、完全にハートの問題で、当事者以外には理解できまい。そして、人間としてホントに困るというか、うんざりするのは、ハートの問題は「理屈」や「正論」では解決不能なのが人間のサガであろうと思う。
 残念ながらそんな「ハートの問題」で分裂する会社はいくらでもあるし、まあ、バンドや友達関係でもそうですわな。正論としての「正しさ」ならば、第三者から判断できることもあるだろう。けれど、感情の問題になってしまうと、どっちが正しいか、なんてことはもう関係なくなってしまう。とにかく、嫌なものは嫌! ってやつだ。
 ただし、だ。嫌なら嫌で、さっさと分裂して出ていけば、サヨナラ~、で終わるのに、世の中にはそれでは腹の虫がおさまらない人々が多く、いわゆる「立つ鳥跡を濁」しまくる輩が多く存在しているのが現実だ。そんな行動は、まあ、にんげんだもの、と、500万歩譲って理解するとしても、ビジネス世界では絶対に許されないことがある。それは、「商売のネタを勝手に持ち去ること」だ。
 「商売のネタ」とは、例えば顧客リストだったり、古巣の機密情報だったり、さまざまだろうと思う。これらは、いわゆる「ビジネスモデル」とまとめていいかもしれないが、要するに、どうやって金を稼ぐか、に直接つながる事柄を、出て行ってそのまま使う、のが一番のタブーだと思う。
 今回、結ちゃんはまさしくその禁忌に触れまくる行動を起こしてしまった。五鈴屋の最新商品設計図を持ち逃げし、あまつさえライバル企業に転身、さらに新店オープン時には、店内のディスプレイも丸パクリ、接客スタイルも完全コピー。さらに言えば、これはビジネスにはまったく関係ないことだけど、人間的に完全なるスケベおやじのクソ野郎の嫁にちゃっかり収まり、高笑いするという、もうこれ以上ないだろ、というぐらいの悪党となってしまうのでありました。この心理は、わたしにはまったく、1mmも理解できません。わたしが男だからなのか??
 しかも、わたしがどうしても許せないのが、「自分は何も悪くない。悪いのは傲慢な姉」と自ら信じ込んで一切の反省・自省がない点だ。救いようのない邪悪な精神とわたしは断ずるにやぶさかではないすね。「かんにん」の一言は、悪いことをしているという自覚の表れだったのだろうか? さらに言うと、その動機が「自分を追い詰めた傲慢な姉を困らせる」ことに尽きる(ように見える)点も、救いようがないと言わざるを得ないだろう。そのためなら誰を巻き込み、犠牲にしてもいいと思っているのだから恐ろしいよ。おまけに、結ちゃんは、好きでも何でもないキモイおっさんに抱かれることを前提としていて、いわば自らも犠牲にしている投げやりさが、ホントに痛ましいというか、悲しいというか……だからって許さないけど、まあ、とにかく、あんまりだよ……。
 恐らく現代であれば、結ちゃんの行為は……実際勝つのは難しいかもしれないが、窃盗あるいは業務上横領として刑事告発可能だろうと思うし、民事的にも賠償訴訟は可能なレベルの「裏切り」だと思う。はっきり言って、わたしはこれまでの過去のいきさつを理解していても、結ちゃんを到底許すことはできません。もちろん、結ちゃんをそそのかした音羽屋も、断じて許すまじ、である。全然関係ないけど、出版業界人的には、音羽屋ってネーミングの意味を勘繰りたくなりますな。
 しかし、だ。たとえ許せない行動を取られ、実際に経済的不利益を被らされてしまったとしても、同じことをしてやり返す行為は、まさしく地に落ちるというもので、たとえどんなに嫌な目に遭っても、自らはルールに則った「正しさ」を意識しないと、あっさり自らもダークサイドに落ちてしまうわけで、我らが主人公、幸ちゃんは、もちろん愚かな妹に対しても、直接的攻撃を仕掛けることなく、真正面から大魔王になり果てた妹(の店の攻撃)と対峙していくわけで、そこにカッコよさや美しさがあるわけです。はあはあ、書いていて血圧上がるほど腹が立つわ……。
 【2:やっかいだけどどうしても切れない業界団体】
 そしてひたすら耐え、自ら信じる正しさ・公平さを頼りに、真面目にあきないに邁進しようとする我らが主人公幸ちゃんだが、さらに追い打ちをかけるように困った事態が巻き起こる。それは、業界団体からの制裁だ。
 今巻で描かれた、直接的な原因は、とある同業者の重要な顧客を五鈴屋が奪ったことに対する制裁、ではある。たしかに、幸ちゃん本人も反省している通り、若干の油断というか無自覚な部分が制裁を引き起こしてしまったという点は間違いなくある。しかし、どうやらその裏には、クソ音羽屋=結ちゃんの逃亡先、が絡んでいるのはもう読者には分かりきっているわけで、もうホント、今巻は読みながら何度怒りに拳を握ったかわからないぐらい、イラつきましたね……。
 業界団体というものは、はっきり言ってビジネス上、うっとおしいことの方が多いと思う。もう、そんな団体に所属する意味ないじゃん、とか思うことだってある。しかし、そんな業界団体であっても、やっぱり存在意義はちゃんとあって、しぶしぶ、とか、うるせーなあ、とか思っても、やっぱり所属しておいてよかった、と助けてくれることがあるのもまた間違いなく、その付き合い方は非常に難しいし、理事とかに選ばれちゃうと少し見方も変わってくるのだが、要するに、商売は完全にスタンドアローンでやるより、同業者のネットワークはどうしても欠かすことが出来ないのが現代ビジネスだ。
 その業界=呉服屋協会からの追放令は、いかに幸ちゃんに打撃を与えたか、考えるに忍びないほどなわけだが……。この究極ウルトラ大ピンチに、5代目こと幸ちゃんの前に現れたのが! あの! 前々夫の惣次ですよ!! ここはまあ、予想通りの登場かもしれないけど、やっぱりコイツはデキる奴なんだな、と思わせるシーンでしたなあ!
 惣次は、幸ちゃんにズバリ言う。追放なら、いっそ自分で新しい業界団体立ち上げちゃえば? と。たしかに、それはやり方の一つとして十分アリ、ではあろうし、現代でもそういった「業界団体の分裂」は、よくあることだ。しかし、惣次の言葉は幸ちゃんを試すものでもあって、幸ちゃんは、(おそらく惣次が期待した)100点満点(?)の回答をしてのけるわけです。それがどんなに茨の道でも、きっちり正道を行こうとする幸ちゃんにわたしとしては大変感動しちゃうわけですな。
 そして―――幸ちゃんは、業界団体追放=呉服(=絹製品)を扱えなくなる=太もの(=綿製品)しか扱えない状況となってしまうわけだが、めげない幸ちゃんは、新たな商品開発に頑張ろうとするのだが、ここで一つ、またちょっと泣けるエピソードも入る。それは、大好きだったお兄ちゃん、18歳で逝ってしまったお兄ちゃんに関わるエピソードで、実に感動的でありました。また、久しぶりに大阪に戻って再会した菊栄さんの境遇と、菊栄さんのガッツあふれる計画にも心から応援したいと思うし、とにかく幸ちゃんと菊栄さんの再会だけでも、なんかうれしくって感動しちゃうすね。
 まあ、正直に言えば、いつも通り、美しすぎるだろうし、出来すぎなのかもしれない。現実にはそうはいかない、超・茨の道かもしれない。でも、それでも、やっぱり真面目に地道に頑張る幸ちゃんは、報われてほしいし、幸せになってほしいわけで、素直に応援したくなりますな。そして心のねじ曲がったわたしは、このあとで結ちゃんには地獄を味わってほしいし、決して和解なんてしてほしくないすね。でもまあ、最後には美しい和解が描かれるのかな……どうでしょうかね……。

 とまあ、こんな感じの今巻は、ラストに新たなる新製品のめどが立ちそうで、希望を感じさせるエンディングで幕を閉じる。そういえば冒頭に記した通り、本作の中では随所で現実世界のCOVID-19感染蔓延による世界の変化、を反映したような描写も多かったすね。歌舞伎役者の富五郎さんのセリフ「歌舞伎や芝居…(略)…などは、生死が左右される状況になってしまえば、人から顧みられることがない」「それでも…(略)…ただ邁進するしかありません。悪いことばかりが、永遠に続くわけではないのですから」という言葉には、宝塚歌劇を愛するわたしとしては大変グッときましたね。
 あと、今回わたしが、ああ、そういうことなの? と初めて知った豆知識は、ズバリ現代の「浴衣」ってやつの誕生(?)物語すね。なるほど、浴衣ってのは、「湯帷子(ゆかたびら)」から来てるんですなあ……これはどうやら今後、五鈴屋を救う大ヒット商材になりそうで、大変楽しみであります! そして、菊栄さん考案のかんざしも、どうやらキーアイテムになりそうだし、なにより、菊栄さんと、あのお梅どんがとうとう江戸にやってくるなんて最高じゃないですか!!
 要するにですね、今巻の感想としては、もう前巻同様に「高田先生! 次はいつですか!!」ってことで終わりにしようと存じます。はあ、早く続きが読みたいっすねえ!

 というわけで、結論。

 いや、もう結論まとめちゃったけど、ついに牙をむいた妹、結の想像を超える大魔王変身ぶりにわたしは強く憤りを感じつつ、それでもめげない、いやそりゃめげそうになってるんだけど、それでも頑張る幸ちゃんの姿に、大いに感動いたしました。もちろん、結をそそのかし、ダークサイドに引きずり込んだ音羽屋が一番の悪党であろうとは思うけど、それにまんまとハマった結の、あまりに考えの薄い愚かさ、日本語で言う「浅はか」さにも当然罪があるわけで、わたしは断じて許せないす。しかし、もうどうしようもないことに腹を立てても仕方ないわけで、わたしとしては、どんどんと善人が周りに集まってくる幸ちゃんの今後を心から応援いたしたく、次の新刊を心待ちにいたしたく存じます。今回も、腹は立ったけど最高でした!! 以上。

↓ まあ、観に行かんといかんでしょうなあ。どこまで描くのかしら……?




 というわけで、今週の『もういっぽん!』であります。
 前回感想を書いた第66話から3週間、今週の週刊少年チャンピオン2020年第16号掲載の『もういっぽん』は第69話まで進んでおり、とうとう、わたしが最も応援する「神童」こと南雲ちゃんVS中学女子柔道埼玉チャンピオン、雨宮凛選手の戦いの決着まで描かれました。いやあ、まさかこんな素晴らしい結末とは……!
 まあ、普通に考えて、いくら何でも出来ちゃう完ぺき超人の南雲ちゃんとは言え、柔道は完全なる初心者なわけで、埼玉チャンピオンに勝てるわけがないだろう、と思っていたし、さらに、先週終わりの段階では、残り10秒、そして技ありを取られ、さらに指導も食らっている絶体絶命のピンチだったわけです。
 さらに言うと、相手の凛選手は、コーチたる父の若干過干渉気味な指導を振り切って、ある意味初心に帰るような、精神的な成長あるいは解放、がなされ、要するに相手の気合は十分で付け入る隙なしか? とも思えたわけですが、今週はそんな凛選手の、勝つ!!という気持ちのこもった「おおおっ」という雄たけびから開幕しました。残り10秒、さあ、南雲ちゃんも「はあああ!!!」と気迫十分! 読んでいるわたしも、行け! 安奈! と完全に観客席で見守る南雲ちゃんパパ同然の気持ちであります!
 そして対峙する南雲ちゃんはすっと目を閉じ……考えます。今まで(仲間たちの戦いで)「見てきたこと」、そしてそこから「やるべきこと」を導き出し、今までの自分の剣道で培ってきたことなどから「できること」を絞り出そうと集中モードだ!!! 今週わたしが一番気に入ったのはこの見開きであります! 村岡先生、秋田書店様、ここだけ画像で紹介させてください!! 南雲ちゃん、なんてカッコイイんだ!!
nagumochan
 おそらく現実時間ではほんの一瞬のことだと思いますが、これができるからこそ、南雲ちゃんはスポーツも勉強も超優秀なスーパーガールなわけですよ!! お父さん的視点からすると、まったく、主人公たる未知も見習ってほしいものです!
 そしてページをめくると「踏み出せ」と目を見開く南雲ちゃん。神速の踏み込み、つうか、飛び込みで凛選手の懐に入り込みます! この、後ろに引いた右足の、とりわけ親指にかかるバネから生まれるダッシュ力は、明らかに剣道に打ち込んできたからこその賜物だ! 剣道選手の「間合いへの飛び込み」は伊達じゃないぞ! 
 しかし凛選手もさすがに埼玉チャンピオン、高度な柔道思考がフル回転し、すかさずあびせ倒して迎え撃つ! しかし南雲ちゃんはそれすらも織り込み済みか!? 青西エースの永遠ちゃんも驚きの表情だ! そして南雲ちゃんの頭の中には、永遠ちゃんから借りた柔道教本に書いてあったことが浮かんでいます! すなわち、「相手を引き出し 跳ね足を相手の内ももに添わせて 軸足を伸ばすと同時に」!! そうだ、南雲ちゃん、跳ね上げろ!!! 基本に忠実、南雲ちゃんまじかっけえ!
 とページをめくると、ああーーーっと! 透かされた!! ヤバイ! さすが凛選手、間髪入れずすぐさま迎撃態勢、そしてこれは体落としか!? イカン! 投げられる!
 おおっと!! 次のページでは「生み出せ 私にしか できないこと」と、凛選手の右足を飛び越える南雲ちゃんの図であります!! 柔道的な思考の上を行ったか!? そして着地するや否や! 「きいいい…ええええええい」の雄たけび一発!! 凛選手をブン投げたああああーーーー!!!
 一本!!!! 完全なるビューティフル・いっぽん!! 勝負ありいいい!!!!
 はあはあ、うおー、ヤバイ、すげえ燃えたっすねえ! 血圧上がるわ!!
 もう、このあとの南雲ちゃんの表情は、ぜひチャンピオンを買って直接ご確認ください。主人公未知は、試合前、南雲ちゃんに言いました。「ああいう強い相手ぶん投げたら 超超気持ちいいぞ」。だけど、南雲ちゃんの脳裏には「それだけじゃないじゃん」という思いが溢れます。それは、「友達(あんた)と一緒に 喜び合えるって 嬉しすぎじゃん」という強い想いでありました。
 はーーー……ヤバイ……超カッコ良かったよ……そして最後のこの「嬉しすぎじゃん」という表情が、もう超最高過ぎて、最高 of 最高です! 声にならないこの喜び! という編集部のつけたアオリも、とてもいいすね! いやー、本当に素晴らしい勝利でありました。もうきっと、観客席で見守るお父さんも「見たか!? あれがうちの娘だ!!」と喜び爆発でありましょう。いやー、ホントにもう、マジ最高でした! 南雲ちゃん、やったね!!!

 というわけで、結論。

 今週はついに南雲ちゃんVS雨宮凛選手の戦いに決着がつきました。南雲ちゃんは柔道初心者の白帯、いっぽう凛選手は中学時代の女子柔道埼玉チャンピオン。この圧倒的な経験の差は、いかんともしがたい、埋めがたいものと思って毎週ハラハラしながら読んでいましたが……やっぱりですね、南雲ちゃんはこれまでの全てをフル動員して、今まで見てきたこと、今の自分にできること、そして、今、自分がやるべきこと! と見事に整理、検討することで、活路を見出しました。それもほんの一瞬のうちに、ですよ。なんてすばらしい女子高生なんでしょうか! スポーツ万能で勉強もトップクラス、そんなパーフェクト・スーパーガールの南雲ちゃんの活躍を、毎週応援いたしたく存じます。もうなんつうか、わたし的には『もういっぽん』の主人公は完全に南雲ちゃんなんですけど、いいんでしょうか……。まあ、『もういっぽん』のキャラクターたち全員に、それぞれ素晴らしい魅力があるわけですが、わたしは完全に南雲ちゃん派であります。さーせん、これ以上書くと完全に気持ち悪いおっさんなので、この辺にしておきます。もう手遅れじゃん……。以上。

↓ 最新(7)巻は4/8発売! もちろん、わたしは電子と紙の書籍、両方買っています! まとめて読める単行本も必携かと存じます。


 というわけで超久々に、今週の『もういっぽん!』であります。
 わたしたちが愛した『鮫島』の無念の未完後、わたしが週刊少年チャンピオンを買い続け読み続けているのは、もちろん『弱虫ペダル』や連載当初から応援している『BEASTERS』などを読むため……ではあるものの、現在一番楽しみにしている漫画が、村岡ユウ先生による『もういっぽん!』であります。あっ! いつのまにかWikiでページが作られてる! 作った人偉い!
 『鮫島』ファンなら、もうそのタイトルだけで泣けるというか、故・佐藤タカヒロ先生の連載デビュー作(だっけ?)『いっぽん!』の遺志を明確に受け継ぐ、女子柔道漫画であります。とにかく、キャラたちが大変共感できる、とても素晴らしい作品でわたしはホントにそこらじゅうで絶賛し、宣伝しております。佐藤先生の『いっぽん!』の主人公の魂を受け継いでいると思うし、村岡先生の前作(ではないか、ちょっと前の作品)『ウチコミ』で登場した学校が出てきたり、チャンピオンをずっと読んできた人なら絶対楽しめると思うな。
 で。
 詳しいキャラ紹介は、誰かが作ったWikiを読んでもらうとして、この『もういっぽん!』という作品でわたしが一番惹かれるキャラは、南雲安奈ちゃんであります。通称南雲ちゃん、あるいはナグ、ちゃんは、元々剣道部でインターハイ出場の腕前で剣道部期待のルーキーだったわけですが、小さいころからずっと友達でいる本作の主人公、園田未知ちゃんとともに高校生活を楽しみ、一緒に戦いたいという強い衝動から、剣道部をやめて未知が頑張っている柔道部に転部したわけですが、当然柔道は未経験の素人で、まだ白帯、のため、全国の高校柔道部員が集う夏の「金鷲旗」は出場できず、情報収集やみんなの乱取りパートナーとして参加したわけですが……いよいよ季節は2学期となり、2週前の第64話から、埼玉県の柔道新人戦が始まったわけであります!
 そしてついに! そう、ついに!! 南雲ちゃん出陣の時が来たのです!!
 今週はまさしく南雲ちゃん主役回、とうとう南雲ちゃんの初陣の模様が描かれたわけですが、もう、わたしは観客席で見守る南雲ちゃんパパと同じ思いで、今週号を堪能して大興奮しているわけであります。
 いやーー素晴らしいすねえ!!!! つうか南雲ちゃんがカッコよすぎます!!
 南雲ちゃんは、水泳大会優勝、球技大会のソフトボール(だっけ?)でも6打数6安打、おまけに成績も上位ヒトケタ、さらに中学時代は生徒会長だったという、通称「神童」であり、「何でもできる完ぺき超人」なわけです。警官であるパパの影響で始めた剣道は、前述のようにインターハイ出場レベル。しかも、南雲ちゃんは明らかに「努力の人」であり、天才とか特別な才能とかそういうのではなくて、常に全力! でまっすぐな、非常に魅力的な女子なのであります。だいぶ前、家で勉強する姿も描かれてましたが、南雲ちゃんはそういう真面目で元気で明るい素晴らしいキャラなわけです。はあはあ、ヤバイ、熱弁ふるいすぎて血圧上がったわ。
 こんなウルトラハイスペック・ガールの南雲ちゃんの初陣の相手は、なんと元中学女子柔道チャンピオン選手。しかし、先週未知が言った通り、相手が強いほど、ぶん投げた時は超超気持ちいい、と、南雲ちゃんも全くひるんではいないし、むしろ「私がやってやんよ!」的凛々しい表情で今週は始まりました。
 そして始まった戦い。開始からほんの一呼吸、の次の瞬間、南雲ちゃんの神速ダッシュ! いきなり相手の間合いに飛び込み、先制の大内刈りがさく裂!!! さすが剣道選手、間合いへの飛び込みは超速いぞ!! ついでにこの時の絵が最高にカッコいい! いけ!! 安奈!! とわたしも完全にお父さん目線であります!!
 しかしさすがに相手は中学チャンピオン、大内刈りを耐えます……が、間髪入れず大外刈りだ!!! しかしその大外も相手は対応、さらに一気に背負う! あかん! 南雲ちゃん、投げられた!! に見えて、ページをめくると南雲ちゃんの抜群の運動神経は、ひねりを入れて受け身着地! 技あり!は獲られたけどまだまだ! 相手はすかさず寝技を狙いますが、それも南雲ちゃんは織り込み済み、素早く転がって退避完了、体制を整えます!
 が、さすが俺たちの南雲ちゃん、またしても素早い飛び込みで間合いをつめる! 早苗ちゃんの焦らなくていい……というアドバイスは完全無視だ!
 そしてページをめくると、南雲ちゃん、姿勢を低くして相手の下半身にタックルに行く!の図であります。しかし! 未知から「バカ! 相手の下半身を持つのは反則……」という声が飛ぶや、南雲ちゃんは急ブレーキで「そうだっけ!?」と停止、おーーっと、身を起こしたので、南雲ちゃんの後頭部がアッパー気味に相手の顎を強力にヒット! 相手は痛そうだが南雲ちゃんは無傷! どうやら、エース永遠ちゃんが南雲ちゃんに貸した柔道の教本が古く、下半身タックル禁止のルール改正前ものだったようです。さあ、相手のナンバーワン選手も、南雲ちゃんのスピードや抜群なボディバランスに「何 この子…」と若干動揺気味だぞ! そして最後のページは、南雲ちゃんの攻勢に、チームのみんなが驚き興奮しつつ、さすがは神童! と期待するカットインと、南雲ちゃんの戦う凛々しい表情でありました。
 村岡先生、秋田書店様、サーセン、このページだけ画像を貼りつけることをお許しください!
 俺たちの南雲ちゃんの雄姿は、ぜひお見せしたいので……!
nagumo

 というわけで、結論。

 『鮫島』後の週刊少年チャンピオンでわたしが一番楽しみにしている漫画、村岡ユウ先生による『もういっぽん!』。今週はとうとうわたしがイチオシの南雲安奈ちゃん出陣の巻でありました。いやー、マジ最高っすねえ! いけいけぼくらの南雲安奈!! わたしもお父さん目線で応援いたしたく存じます。とにかくカッコ良かった! さすが「神童」南雲ちゃん! でもまあ、冷静に考えると相手は中学チャンピオンであり、勝てるとは考えにくいわけで……この試合後の南雲ちゃんがどんな表情を見せてくれるのか、そこをわたしは楽しみにしたいと存じます。きっとまた、村岡先生が超グッとくる美麗な絵を見せてくれることでありましょう。楽しみっす! 以上。


↓ 現在最新刊は(6)巻、わたしは当然電子でも紙書籍でも、両方買って応援しております。今ならまだ追いつけますよ! 超オススメ!










 はーー……ヤバいす。前巻の時も書きましたが、今回も、結論をのっけから言ってしまうと、「高田先生!! 次の(9)巻はいつですか!! 今すぐ読みたいんすけど!!」であります。なんのことかって!? キミィ! わたしが毎度新刊を楽しみにしている『あきない世傳』の最新(8)巻のことに決まってるでしょうが!! いやー、マジ面白かったし、今すぐ続きが読みたいす!

 しっかし今回のお話はヤバかったすね……今回は、ズバリ主人公「幸」ちゃんの妹である「結」ちゃん主役回だったように思う。今までの流れはもうまとめないので、過去記事をご覧ください。
 この(8)巻冒頭の段階では、五鈴屋のビジネスの面では2つの大きな問題解決が急務となっている。
 1つは、ずっと先送りになっていた「女名前禁止」に対する回答だ。これは、大坂においては女性は商家の店主になることができない、というお上の定めたルールがあって、主人公幸ちゃんは9歳で五鈴屋に奉公に上がってから、4代目(クソ野郎・死亡)、5代目(冷酷野郎・失踪)、6代目(優しいけどだめんず野郎・死亡)の妻として五鈴屋を支えてきたわけだが、6代目の死亡によって五鈴屋は後継ぎがおらず、実際存亡の危機に陥っている。現状では猶予をもらっているところで、その猶予期間もいよいよ期限切れが迫っているわけだ。幸ちゃんとしては、この問題はとにかく何とかしないといけない。
 そしてもう1つは、新規商材の開発だ。前巻で、「江戸紫」カラーの「鈴の小紋」という商材開発に成功し、大ヒット!になるものの……江戸において「小紋」は武士が着るものあるいは女子向け、ということで、まだまだ普通に市中の一般男性が着られるものではない。鈴(や今巻で開発したコウモリ)の柄が可愛すぎるのだ。老若男女が普通に着てくれないと、五鈴屋のビジネスとしては脆弱だし、そもそも既に「小紋」をパクったライバル店もすでに出現しつつある。五鈴屋ならではの、オリジナル小紋がどうしても必要な状態である。
 こんな状況なので、幸ちゃんはじめ、五鈴屋江戸店のみんなはいろんな努力をするのだが……今回、そんな五鈴屋に二人の男がかかわってくる。
 まず一人は、大阪五鈴屋時代にあまりに冷酷なビジネスで信頼を損ねてしまい、失踪していた5代目だ。彼は、前巻だったかな(前々巻だったかも)、ふらりと江戸、浅草で目撃情報がもたらされていたのだが、今回とうとうその姿を幸ちゃんの前に現す。ただ、5代目は、確かにちょっと問題アリではあったけれど、実際、ビジネス面では極めて有能な男であり、幸ちゃんのこともマジで好きだったんだと思うし、要するに、悪党では決してない、とわたしは思っている。
 実は、五鈴屋のみんなは、5代目が現れて、ワイこそ正当な店主じゃい!と主張されたら困るな……と戦々恐々に思っていたんだけど、今回、その心配は明確に否定される。この5代目の動向は今後も要チェックだけど、わたしとしては、結構味方になてくれるんじゃないか、そして正々堂々と戦う最終ラスボスにもなり得るかも、と思います。楽しみですな。
 そしてもう一人が、今回の超問題キャラ、音羽屋だ。音羽屋は日本橋の両替商で、もう50近い(?)おっさんなのだが……なんと、27歳の結ちゃん(幸ちゃんの妹)に一目ぼれ?してしまう。しかしその様がですね……どう考えても単にヤリたいだけのスケベ野郎で、完全に性的な目で結ちゃんを見ていて、ズバリ、気持ち悪いんだな。さらに、どうやらこのゲス野郎は、五鈴屋のビジネスにも実は背後でいろいろ妨害工作をしているようで……まあ、とんでもないクソ野郎であることはもう確定です。
 そしてその様子を幸ちゃんは目撃していて、うわあ、コイツ最低!と思っているのだが、当の結ちゃんがですね……これまた途方もなくゆとりあふれた恋愛脳で、もちろん結ちゃん自身も音羽屋にはまったく気がないのに……余計なことばっかりしてしまって幸ちゃん激怒!という展開になってしまうのだ。そして、こういう時、ダメ人間にはありがちなことに、ダメな結ちゃんはどんどんダメな方向に行ってしまい……今巻ラストは、結ちゃんのとんでもない行動で幕が下りることになる。もう、なにやってんだよ結ちゃん!! つうか続きが今すぐ読みたい!! と思ったのはわたしだけではないだろう。恐らく、本作を読んだ読者全員が思ったはずだ。
 わたしとしては、結ちゃんの行動に対しては、姉たる幸ちゃん同様に、もう、何やってんの! という気持ちが大きい。今回の結ちゃんは、とにかくネガティブ方面に気持ちが行ってしまっているし、「デキる姉」と比べてなんて自分はダメなのかしら、的な気持ちが強いし、さらに言うと、恋愛脳で、大好きな賢輔くん(年下のデキるイケメン君)に対しても、余裕でフラれかけてしまっていて、もう精神的にヤバい状態だ。恐らく賢輔くんも結ちゃん大好きなんだろうけど、ド真面目過ぎて、いや、オレは今は仕事が大事で恋愛してる場合じゃないんすよ……的な対応で、結ちゃんはますますしょんぼりが募る。
 言ってみれば、そういう精神的な隙に音羽屋はお恐らく「悪意を持って」つけ込んでくるわけなんすけど……ま、音羽屋が最低なのは間違いないとしても、結ちゃんはもうチョイしっかりしてほしいし、一方で幸ちゃんも、仕事第一過ぎて、妹ケアがが若干甘かったんだろうな、と思った。結ちゃんだけをダメ人間と断罪するのは、やっぱりちょっと気の毒ではあると思う。結ちゃんは江戸に出て、帯締め教室だったり店頭だったりで、モデルとして活躍して、自分の居場所を自分できちんと見つけていた、と思っていたのに、なんつうか、ままならないですなあ、ホント。
 というわけで、本作は冒頭時点での2つの大問題である、跡目問題及び新規商材開発問題は、何とかクリアできそう、だが、新たに結ちゃん問題が勃発してしまい、それが新規商材開発に大きく影響してしまいそうで、わたしとしては、もう何度も書いて恐縮ですが、「今すぐ続きが読みたい!!」であります。
 最後に、本作で沸き上がった(けど解決の見込みの付いた)大問題である、お上からの「上納金」納付命令についてメモしておこう。どうやら、当時の江戸(作品時間としては18世紀末かな?)では、「運上金」という名の、今でいう法人所得税的なものがあるのだが、今回、幸ちゃんが代表取締役を務める五鈴屋江戸店は、その運上金とは別に「上納金」を納めよ、というお上からの命令を受けてしまう。しかもその額1500両! ときたもんだ。この問題に対して、幸ちゃんは、姿を現した5代目のちょっとしたアドバイスで知恵を絞り、見事クリアするんだけど、わたしがへええ、と思ったのは、この上納金納付命令の理由だ。五鈴屋さんは前巻で一躍江戸アパレル界に名を成したわけだけど、それがお上まで届いてしまい、儲かってるならもっと金をよこせ、と、それだけの理由で、かなり理不尽というか、もう言い分が完璧にヤクザなんすよね。。
 わたしは去年、久しぶりに会社の税務調査に立ち会ったのだが、税務署の言い分はまさにこれで、もう、ホントヤクザと変わらない言いがかりばっかりで、ホント腹が立ったすわ。しかも税務署は全く法的根拠は示さないし、担当が変われば言い分も変わるし、ありゃホントに合法ヤクザそのものだね。木っ端役人のくせにムカつくほど態度デカいし。
 まあ、五鈴屋さんに降りかかった上納金問題は、どうやらクソ野郎の音羽屋の陰謀っぽいし、実際何とかクリアできそうだけど、わたしとしてはもう、幸ちゃんには、そういう「お上というヤクザ」には負けないでほしいと心から応援したくなるっすな。わたしも税務署の木っ端役人どもには負けん!

 というわけで、書いておきたいことがなくなったので結論。

 わたしが毎回新刊を楽しみにしている、高田郁先生による『あきない世傳 金と銀』の半年ぶりの新刊(8)巻「瀑布篇」が発売となったので、さっそく読みました。今回も大変面白く、興味深く、とても満足であります。そしてラストは非常にヤバいところで終わっており、マジで今すぐ続きが読みたい! が結論であります。そのサブタイトル通り、まさしく「瀑布」のような怒涛の展開でありました。つうか、ハルキ文庫も電子書籍を出してくれないかなあ……。すっかり電子野郎になってしまったわたしとしては、電子で出してくれるととても助かるのだが……今回も、この人誰だっけ? とかアホな疑問も、電子ならその場で前の巻とか参照出来ていいんだけどな……。もし電子で出し始めたら、ちゃんと最初から買い直すので、ご検討のほど、よろしくお願いいたします。以上。

↓ こういうの、眺めるだけでも楽しいすな。小紋の型職人は切り絵作家みたいすね。

 というわけで、毎週木曜日は『鮫島』ニュースのお時間です。
 ――と、132週間書き続けた日々は2018年の7月、作者の佐藤タカヒロ先生の急逝により、終了しました。いまやもう、あの日から1年5カ月が経過したんすね……。
 この間も、わたしはずっと『週刊少年チャンピオン』を買って読み続けております。
 『もういっぽん!』は相変わらず最高に楽しませてもらってますし、現在『バキ道』は相撲をメインテーマにしてるんすけど、ちょっと前(2019年44号)の巻末著者コメントで、板垣恵介先生はこんなことを書いてくれました。
 相撲を描きながら、今更ながら思う。佐藤タカヒロとバチバチやりたかった…。
 はあ、ほんと、いまだ悲しみが募るばかりっすね。。。

 で。
 本日発売の週刊少年チャンピオン2020年4+5合併号ですが、『鮫島』を愛する皆さんにはぜひ手に取っていただきたい作品が掲載されています。
 『チャンピオンズ~週刊少年チャンピオンを創った男たちの物語』という作品で、今週の第10話が最終話なんですが、この作品は、これまでの歴代『チャンピオン』編集長がいかにして50年の歴史を作って来たかという物語です。若干、誰得なんだこの漫画? と思わなくもないですが、それぞれの編集長たちのキャラが立っていて、毎週楽しませていただきました。そして……今週の最終話は、2017年27号から現在も編集長を務めている第10代編集長、武川氏のお話であります。
 そして、ズバリ、内容は2018年7月のあの日のことが、そして、その後の、わたし的にはもう伝説ともいうべき気合の入った「追悼号」の制作秘話が描かれています。
 もうね……わたし、朝の電車の中で、ちょっぴり泣いちゃったす……。。。
 1枚だけ、画像をここに貼りつけることを許して下さい秋田書店様!
champion20194-5
 もう、今すぐチャンピオンを買って、読んでいただきたいす……。

 なんつうか、人間悲しいことがあっても、実際フツーーに生きていけるし、わたしだって、そりゃ毎日毎日、『鮫島』のことを考えてるわけではないけれど、やっぱり、毎週『チャンピオン』を読むと、どうしても思い出してしまうわけで、やっぱり忘れられないですなあ……。
 まあ、我々ができることは、ほんと、「ずっと忘れないでいること」しかないので、これからもわたしは佐藤タカヒロ先生に対して、追悼の念を抱いて生きてゆくだろうと思います。

 というわけで、結論。

 今週の『週刊少年チャンピオン』2020年4+5合併号は、『鮫島』を愛した我々は読まねばならない義務があるように思えます。そして漫画としてあの日のことを描いて、掲載してくれたチャンピオン編集部の心意気は、本当に素晴らしくあっぱれだと存じます。ぜひ、お近くの本屋さんかコンビニで買って読んでください。タイミングを逃した方は、電子書籍ならいつでも買えると思います。そして結論としては、もう当たり前ですがこれっすね。
 いやあ、『鮫島』はマジ最高っすね!!! 以上。

↓ 一応貼っときます。


 とうとう発売になりました! 2015年から2年ごと、ちょうど『STARWARS』の新作の公開が近づくと発売になる『ミレニアム』シリーズの新刊『Millennium6:Hon som måste dö』であります!
ミレニアム6-01
ミレニアム 6 上: 死すべき女
ダヴィド ラーゲルクランツ
早川書房
2019-12-04

ミレニアム 6 下: 死すべき女
ダヴィド ラーゲルクランツ
早川書房
2019-12-04

 わたしは今回、発売日に、本屋さんが開店するのも我慢できず、AM5時ごろに電子書籍版で買いました。そして、ええい、ままよ! とこれまでのシリーズ全巻も電子版で買い直しました。なぜなら、よっしゃ、買ったるわい! と思ったタイミングで、わたしの愛用する電子書籍販売サイトBOOK☆WALKERにて、50%コインバックフェアが実施中だったからであります。ありがとうB☆W!
 というわけで、発売日から約5日で読み終わってしまったのだが、感想をつづる時間がなくて、やっとこれを書き始めようと思います。
 まず結論としては、十分面白かったと言って差し支えなかろうと思います。ついに、とうとう、リスベットの宿敵である妹のカミラと完全決着ですよ! ただし、その決着は、結構ビターというか、今までのリスベットのキャラからは違った決着であったように思う。リスベット本人も動揺したりするわけで、当たり前だけど、リスベットも人間だったってことでしょうなあ……そしてその決着の前には、ミカエルが超ヤバイ拷問を受けたりして、アレはもう読んでるだけで痛そうだったすね。
 物語を簡単にまとめると、今回は2つの物語が同時並行で進む。一つは、リスベットVSカミラのお話。ただしこれは、ある意味では今回のメインではない、と言っていいだろう。今回の本筋は、もう一つの、ストックホルムの街中で死んだ、とある男のお話だ。この二つのお話は、実は根底ではつながっていて、ズバリ言うと諸悪の根源(?)は、リスベット&カミラ姉妹の父である悪党ザラチェンコであって、そこが共通点としてはあるのだが、実際のところ、今回のお話ではあまり明確なつながりはなく、それぞれ別のお話、と思ってもいいかもしれない。うおお、説明が難しい!
 今回、物語の舞台は8月、北欧スウェーデンとはいえ、夏真っ盛りだ。そんな季節なのに、ストックホルムの街中で、ダウンジャケットを着た、何やらアジア人のような男が静かに息を引き取る。調べてみると、彼のポケットには、我らが主人公ミカエルの電話番号が……という導入から始まる。
 そして一方そのころ、リスベットはモスクワで、カミラを監視していたが、すべての決着をつけるつもりで銃を手にカミラの前に! というところで、リスベットはどうしても引き金が引けず、撤退、という出来事が起きる。
 こうして、死んだ男の謎を追うミカエルと、カミラを「見逃してしまった」リスベットは、カミラの行動を監視しながらも、片手間(?)にミカエルの調査に協力し、最終的に二人の物語が交わっていく展開となるわけです。
 なお、タイトルの『Hon som måste dö』はいったいどんな意味なのかをGoogle翻訳してみたらこんな結果になりました。
ミレニアム6
 ははあ、なるほど、つまり今回の邦題「死すべき女」は、もうド直球の訳だったみたいすね。まあ、読み終わった今となっては、その「死すべき女」とはカミラのこと?だったのだろうとは思う。しかし、それだけではないような気もしますね。今までリスベットは常に「女の敵」を相手に戦ってきたわけで、そこが今までと決定的に違うと思うのだが、それが、冒頭でカミラを目の前にしながら引き金を引けなかったリスベットの気持ちに現れているのではなかろうか。
 リスベットは、ずっとカミラを「死すべき女」だと思っていたわけだけれど、今回、リスベットは女として、同じ女でしかも妹であるカミラに対して、ひょっとして自分は思い違いをしていたのでは? と気づく。カミラも助けを求めていた、カミラも、今までリスベットが守ってきた多くの女同様、守ってやるべき女だったのでは? と思うのだ。そもそも妹だし!
 こう思った時、リスベットは引き金が引けなかった。それが自分では納得不能?な感情で、リスベットはずっとイライラしている。そんな自分を直視したくないと思ってる。ちょっと逃避したい。そんな時、またミカエルが色々調べ物をしていて、困っている。じゃあ、そっちを調べてやるか、みたいに、なんつうか微妙に渡りに船で、今回のリスベットはホント、片手間にいろいろ手伝っただけ、な感じがとても面白い。
 そしてミカエルが追う、ストックホルムで死んだ男の話も面白かったすねえ。今回、結構スウェーデンの政治家も出てくるわけだけど、スウェーデン人が読んだら、これってアレのことだ、とか分かるようなモデルはあるんだろうか。スウェーデンの政治に全く無知なわたしには分からんかったす。しかし、それにしてもミカエルはいつもモテモテですな。わからん……描写的にはそれほどイケメンじゃなさそうだし、性格も結構問題ありそうなんだけどね。
 まあ、なんにしても、最終的にはリスベットは過去の呪縛から解放され、それが若干ビターな味わいもあったけれど、終わった今となっては晴れ晴れと、前を向いて生きはじめたみたいだから、結論としては大団円、だったと言えそうな気がしますね。本作をもって、「新三部作」は完結し、急逝されたオリジナル三部作の著者、Stieg Larsson先生からバトンを引き継いだLargercrantz先生も、役割を終えてホッとしているでしょう。今後については、あとがきに詳しく書いてありましたが、なんでも版権を持ってた出版社と、著作権を継承した遺族がまたもめて、別れてしまったそうで、別の出版社に移るみたいすね。ま、どうせ遺族が強欲なんでしょうな……。そんな遺族に印税が渡るのは不愉快ですが、わたしとしてはまだまだリスベットの活躍は読みたいし、リスベットにまた会いたいものですな。その意味では、想像を絶するプレッシャーの元、「新三部作」を書きあげ、我々にリスベットと再会させてくれたDavid Largercrantz先生には最大級の賛辞を送りたいと思います。いろいろ評価はあるけど、わたしはとても楽しめたし、面白かったです。

 というわけで、短いけど結論。

 シリーズ第6弾にして、新三部作最終章となる『Millennium6:Hon som måste dö』が発売となったので、今回初めて電子書籍で買ってみた。ついでにシリーズ全作も電子で買い直したわたしである。まず、今回の『6』に関していうと、リスベットがなんか人間味があって、今までとちょっと違うように感じる作品であった。そしてその違いは、より一層、物語を面白くしているようにも思うし、よりリスベットの魅力が増しているように思うす。完全なるデスゾーン、エベレストの描写も、ちょっと怖かったすね。ただ、このエベレストの件はリスベットの過去と、繋がってなくはないけどほんのりとしたつながりで、その点だけちょっとアレだったかな……でも、それでもそちらの死んだ男の話も実に面白かったす。あーあ、マジでこの先のリスベットに会いたいもんだなあ。きっとスーパーヒーロー的な正義の味方として活躍してんだろうなあ。正直ミカエルはどうでもいいんですが、リスベット・サランデルというキャラクターは、歴史に残るキャラクターだと思います。以上。

↓ このVerのミカエルは、もうホントにイケメンです。だって、007ことDaniel Craig氏だもの! そりゃモテるわ!


 

 はあ……もう読み終わって2週間。余韻がいまだ抜けないですなあ……。。。
 なんのことかって!? そんなの『十二国記』の話に決まってるでしょうが!!
 と、半ばキレ気味に、とうとう読み終わってしまったシリーズ最新刊『白銀の墟 玄の月』(1)(2)(3)(4)について、思ったことや考えたことをまとめようと存じます。
 しかし、ああ、くそう、なんて幸せな読書時間だったんだ……それが終わってしまって、大変な喪失感ですよ……そして内容的にも、絶望から希望への期待、そしてあとはもう、一気に行くぜ、からの、超絶な絶望への突き落とし、そして終局へ、という山あり谷ありの激しい展開には、本当にもう、何て言えばいいのかな……結論としてはやっぱり、最強最高のエンターテインメントだったな、ということになるのかな……はあ……もう、ずっと読んでいたかったよ……。
12koku
 というわけで。先月、(1)巻(2)巻の発売日は前回書いた通り、台風に襲われて近所の本屋さんは軒並み臨時休業と相成り、やむなくわたしは翌日やっと手に入れたわけだが、今回の(3)巻(4)巻は、わざわざ07:30開店の上野駅構内のブック・エキスプレスまで発売当日の朝に買いに行き、07:31からむさぼるように読み始めた。結果、(3)巻をその日のうちに読み終わってしまい、(4)巻は、ちょっと落ち着つけオレ! と言い聞かせたものの、我慢できず2日で読み終わってしまった。
 構成をまとめるとこんな感じだったように思う。
 ◆(1)巻:「起」であり、物語の始まり
 ◆(2)巻:「承」であり、数々の謎投入&まさか?的な軽い絶望も
 ◆(3)巻:「転」であり、ついに主要メンバー集合、反撃だ!的希望にあふれる
 ◆(4)巻:「結」であるけど、残り100ページぐらいですべてがパーになり、うそでしょ、ど、どうなるんだよ!? 的な深い絶望とハラハラ感を抱かせつつ、結末へ!
 てな感じで、まあとにかく、(4)巻がヤバかったのは、読んだ方なら全員が同意してもらえるのではなかろうか。わたし、マジでバットエンドもありうるのか!? と超・超・絶望しちゃったす。
 読み終わった今となっては、そんなハラハラを味わわせてくれた物語に深く感謝しつつ、やっぱり十二国は最高だな! と能天気に思うわけだが、わたしが思うに、本作の最大の問題は、【誰が一番悪いんだ?】ということに尽きるのではないかと思う。実はこの2週間、読み終わってからいろいろなことを書いては消し、書いては消し、と試行錯誤してきたのだが、やっぱりわたしが一番考えてしまったことは、いったい誰が一番悪い奴だったのか、ということだ。なので、もうそのことだけに集中して、備忘録として記しておこうと思う。
 【阿選と驍宗さま】
 本作では、これまでの「十二国記」シリーズで最大の謎とされていた、阿選の謀反と驍宗さまの失踪についての謎が明かされるわけだが、(2)巻を読み終わった段階では、実は阿選は謀反を企んだのではないのかも? そして驍宗さまはマジで逝っちまったのかも!? とさえ思っていた。
 が、ズバリ言うと阿選の謀反は真実で、驍宗さまもちゃんと生きてました。
 そして阿選の謀反の動機としては「嫉妬」それから「怒り」と「絶望」のようなものがキーワードとして挙げられている。
 「嫉妬」と「怒り」そして「絶望」……自らが対等のライバルと思っていた驍宗さまが王座に就いたことへの嫉妬。そしてその「怒り」と「絶望」が阿選をして狂わせた、というのが解答だったわけだが、この嫉妬心を、にんげんだもの、しょうがないよ、と読者が思えるかどうかが問題だろうと思う。わたしとしては、わからんでもない、けど、正直なところ、ほんの若干、納得はできないでいる。
 たしかに、自分が同等と思い、自分がライバルだと思ってた奴がいて、さらに言うなら、ちょっとだけ俺の方が上だぜ? と思っていたのに、先に出世し、なおかつ、永遠に自分はその地位に昇格できない、と決まってしまったら、もうそれは深く真っ暗な絶望の闇に落ちてしまうだろう、と想像はできる。わたしも確かに、そんなことが今までの会社員生活でなかったとは言えないし、ちくしょうと思った経験はある。たいてい自分とは別の部署の人事に対してだったけど。
 しかし、わたしの場合で言うと、そのライバルの昇格を決めた上司や社長に対して、怒りを感じることはあっても、そのライバル自身に何か嫉妬を感じることは、あまりなかったような気がする。いや、そんなことないかなあ……後で逆転して、ざまあとか思ったりしたもんな……てことはやっぱり、嫉妬してたのかもしれないな……。まあ、わたしなら、追いつき、抜くことが「永遠に不可能」だと言われてしまったら、そんな会社は辞めますね。そんな天には従わない。仕える天は自分で決めるだろうな。
 しかし、阿選は驍宗さまを王とした「天」に対して、それを無条件に受け入れるしかない身だ。わたしのように「天」に従わず、別の「天」を求めることもできない。そこが阿選の悲劇であり、「十二国」最大の特徴だろう。そう、「十二国」世界の「天」は、我々の言ういわゆる「神様」のような、実体のないものではない。「十二国」世界には、明確に「天」が存在しているのだ。その「天」は、人間には何も声を届けない。
 そういう意味では、いわゆる「神の沈黙」に近いものがあって、なんでだよ、どうしてだよ! というような、人間がどうしても感じてしまうある種の不条理に対して、十二国世界も、我々の世界も、具体的な救いがないのが、人間にとって、そして読者にとって、とてもつらいのである。
 この点で、阿選は天の犠牲者とも言えるのかもしれない。なぜ自分が選ばれなかったのか。それを知ることができて、納得できていれば、悲劇は起こらなかったかもしれない。
 とはいえ、いずれにしても、阿選の謀反によって、数多くの罪なき民が苦しみ、亡くなっていったという結果を見れば、やっぱり阿選はもう、悪い奴、と断じるほかないだろう。阿選に同情して許せるほど、被害は全く軽くないわけで、阿選=悪党の図式は崩しようがないと思う。おまけに、謀反自体の心情を汲んだとしても、クソ野郎の烏衡を使ったり(→それが阿選最大のミス!)、無能な張運に冢宰を任せて、6年間引きこもっていたりと、罪状をあげるときりがないのは、読者ならだれでも感じたことだろうと思う。阿選……国を出て、いざというときに駆け付けるカッコイイ男であってほしかった……。
 そして。一方で、驍宗さまはどうだろうか。
 被害者として、おとがめなしで、いられるだろうか? 
 わたしとしては、どう考えても、驍宗さまにも非があったと言わざるを得ないと思う。それは、王としての器にかかわるぐらい、大きな問題だ。
 驍宗さまが王座に就いた手続きにおいては、実は阿選に対して、一緒に昇山しようぜ、と誘ってすらいたわけで、公平だったのは間違いない。けど、やはり、驍宗さまには、他人の心への配慮、のようなものが足りなかった、あるいは無頓着?だった、と言わざるを得ず、事件の要因の一つであったと考えるべきだろうと思う。TOPたる者、残念ながらすべての結果に対して責任を負う義務があるわけで、わたしとしては驍宗さまを悪党とは言わないけど、やっぱりおとがめなしには到底できない。今回は登場&復活してもほぼ全く活躍できずでしたが、まあ、今後の永い治世で、今回の事件の責任は善政という形で民に施してほしいです。今回亡くなった人々が多すぎて、ほんと悲しいす……どうか驍宗さま、彼ら彼女らの魂を弔ってください……。
 【琅燦と「天」】
 とまあ、阿選と驍宗さまは、ある意味では「人間」に過ぎず、嫉妬やミスや欠点は、そりゃあ、にんげんだもの、あったんだろうことは想像できるわけだが、問題はやっぱり、「王を選んだ存在」=「天」だ。
 「天」の意思は、例外を許さない(?)明確なルールに則った「システム」として機能している。例えば、十二国世界では、他国へ軍事侵攻はできない。もしそのルールに反してしまうと、王は「急にぶっ倒れて死ぬ」ことになる。ほかにも、2代続けて同じ姓の人間が王になることはない、というルールなんかもあって、いろいろ、誰が決めたかわからない謎ルール=天の理なるものが存在している。そしてそれは、完全に「自動的に」機能しているのである。
 そこには、「何で?」という疑問をさしはさむ余地は一切なく、誰も「天」に疑問を投げかけることはできないのだ。なぜ、あいつを王に選んだのか? なんてことは、一切、問いただすことはできない(※裏ワザとして、これは大丈夫ですか? と問い合わせるルートはある)。
 しかし、わたしには「沈黙する天」が悪いとはあまり思えない。なぜなら、おそらく天なるものは、人間の尺度で測れるものではないからだ。良いも悪いもなく、十二国世界の人間たちはその意思を受け入れざるを得ず、そのルールの下で生きるしかないのだから。なので、阿選はそんな「天」に対する反逆を起こしたとも言えるわけだが、それで数万の民を犠牲にしていいわけがない。ゆえに、阿選はやっぱり悪党としか言えないと思う。思うのだが……問題はやっぱり琅燦だよ。
 わたしの結論は、今回の物語で、最も罪の重い悪は、琅燦だ。
 琅燦の意図は、突き詰めて言えば「天への実験」であったのだろうと思う。阿選はその実験台にされてしまったのだ、というのがわたしの結論だ。明らかに琅燦は、阿選のくすぶる心に油を注ぎ、火を焚きつけた張本人だ。琅燦には全くそのつもりはなかったとしても。
 琅燦こそが、阿選は絶対に王になれないことを阿選に教え(=驍宗さまと同じ姓なのでアンタは王になれないとズバリ教えた)、阿選の絶望と嫉妬をより深め、行動させた張本人であろう。あまつさえ、阿選の謀反にいろいろと手を貸している(たぶん妖魔の使い方とかも教えている)。どう考えても、琅燦が身近にいなければ、阿選は反逆することはなかったはずだよね、きっと。
 そもそも、たぶん普通に読めば玄管=耶利の主公=琅燦なんだろうけど、じゃあなんで、阿選に妖魔の使い方教えたりしたんだよ!! すごくしっくりこないというか、わたしとしてはいまだに、玄管=耶利の主公はいいとしても、それが琅燦だったとは認めたくない気持ちです。ひどすぎるよ!
 琅燦……ホント、わからんわ……この人は。

 とまあ、読み終わって2週間も経っているのに、いまだ上記のようなことをくよくよと考えてしまうわたしであります。ホントはほかにもいっぱいあるんすよ。あのキャラのこと、このキャラのこと、いろいろ語りたいのだが、もういい加減長いので終わりにします。
 でも一言だけ! 「鳩」!! 鳩が阿選の放った妖魔だったというのは、いいよ、それはよく分かった。でも、せめて駆除したら魂を抜かれた人間は正気に返る設定であってほしかったすねえ……! あの鬼設定は悲しかったよ……。。。恵棟と帰泉の二人は本当に気の毒でしたなあ……いい人だったのに……飛燕の最後も泣けたっすねえ……ご主人さまの李斎を守り抜いて逝ってしまうなんて悲しいよ……。それから朽桟や鄷都のラストも泣けました……。ホント、多くのキャラクターが逝ってしまって悲しいす……。
 あと、どうしてもわからなかったのだが、(3)巻で登場した「博牛」はいったい何者だったのでしょうか……。わたしは博午こそが臥信、あるいは剛平とか基寮だと思ってたのだが、まるで別人だったようで……。あと巖趙はラストどこ行っちゃったんだよ! 知っている人がいたら教えてください。。。

 というわけで、もういろいろな想いが尽きないのでぶった切りで結論。

 18年ぶりの発売となった、小野不由美先生による「十二国記」シリーズ最新刊、『白銀の墟 玄の月』(3)(4)をむさぼるように読んだのだが、まず第一に、最高に面白かったのは間違いない。そして読み終わって2週間も経つのに、いまだにいろいろ考えてしまうわけで、要するにわたしは「十二国記」が大好きだ! が結論であろうと思います。まあ、いろいろ本作から生まれた謎もあるし、「その後」も大変気になるわけで、来年発売になるという「短編集」が猛烈に楽しみっすね! 願わくば、クソファッキン新潮社が全シリーズ電子書籍で出してくれることを祈ります。いつでもどこでも読み返したいので。いやあ、本当に面白かったなあ……『十二国記』は最高です! 以上。

↓ Ck先輩は買ったそうです。くそう、おれも録画したのをDVD(!)に焼いたはずなんだが……どこに埋もれてるのかわからん……。
十二国記 Blu-ray BOX
久川綾
NBCユニバーサル・エンターテイメントジャパン
2015-11-26

↓ つうか、わたしはこっちを買うべきかも。山田章博先生のイラストも最高です。はよ「第二集」出してほしいのだが……クソファッキン新潮社には期待できない……。

 わたしはこのBlogで何度も、世界で最も好きな作家はダントツでStephen King大先生であると表明しているが、日本人作家に限定すると、恐らくは上遠野浩平先生、田中芳樹先生、そして、小野不由美先生が、TOP3だと思っている。このお三方に順序は付けられない。このお三方が、わたしにとって日本人作家で最も好きな作家である。
 わけても、小野不由美先生による『十二国記』シリーズは、日本の作品でわたしにとっては完全なる別格であり、大好きな作品なのだが、いかんせん、現在物語は、すっごいヤバイところで終わっていて、先が気になる作品ナンバーワンなのである。先が読めるなら500万出しても一向に構わん! とさえ常々いろんなところで発言してきたぐらいだ。
 というわけで、もう前置きはやめた。何が言いたいかというと、その『十二国記』の最新刊が、18年の沈黙を破ってとうとう発売されたのであります!!
 ※ちなみに短編集はその間に1冊、間違えた、2冊になるのか、出ていたので、本編の長編としては18年ぶり、だそうです。もうそんなに経つんだなあ……そりゃオレも年取るわ……。

 しかし、だ。
 『十二国記』シリーズは、その源流たる『魔性の子』は置いとくとして、そもそもは講談社のホワイトハートX文庫から出ていたものが、どういう経緯か知らないけれど、わたしが一番嫌いな新潮社から出し直され、今回も当然のように新潮社からの刊行となったわけだが……わたしとしてはもう本当に、新潮社はさっさと崩壊してほしいと思っている。その理由は2つあって、一つは、今どき電子書籍に全く無関心であること、もう一つが、営業販売施策が非常に不愉快だからだ。
 まず電子書籍に関していうと、今回、発売日と大々的に打ち出した日は、あろうことか10/12(土)、すなわち台風19号が日本を荒らしまくった日である。もちろん台風に新潮社は何の責任もないが、わたしは大雨の中、朝から近所の10km圏内の本屋さんを車で駆け回っても、すべて「臨時休業」。ほんと、電子書籍版を出してくれていたら、今頃読み始めていたのに……と憤死寸前であった。結局わたしは発売日に買うことができず、翌日の昼過ぎにやっと開店してくれた本屋さんで入手した。ありがとう、ときわ書房様! 以上はまあ、言いがかりです。はい。
 そしてわたしが気に入らない営業施策とは、新潮社はいつも、バカみたいに分冊するのである。分冊はまあ許してやってもいい。けど、我々読者目線からすれば、分冊にして、月をずらして刊行する意味は、100%ゼロ、だ。なんで一気に全部出さねえんだよ!! といつも頭にくる。恐らく理由はあるんだろう。だけどそんなこと知ったことか!!! 分冊になって喜ぶ読者なんているとは思えないわけで、そういう点がわたしが新潮社を嫌う理由である。
 まあ、これだけ本が売れない世の中で、電子もやらないで、今後会社として存続できるわけがないとわたしはにらんでいるので、早晩、どこかにM&Aで買われてしまうだろうと予想している。想像するに、所詮売上規模200億もない中小企業で、しかも未来がなければ、必衰間違いなしだろうと思う。いわば、新潮社はもう完全に失道している。おそらく現経営陣に立て直しはもう不可能だろう。

 はーーー。とにかく言いたいことは言った。
 では、さっそく味わい、大興奮した『十二国記』シリーズ最新刊『白銀の墟 玄の月』(1)(2)巻について語ろう……と思うのだが、現状、まだ物語はどのような結末をたどるのか、全く分からない。いろんな妄想がわいてたまらないのだが、今回は、自分用覚書として、(1)(2)巻に登場した人物リストをまとめるだけにしようと思う。けど多いからなあ……たぶん、膨大な分量になると思う。
 それからいくつか、地図と、ちょっとした豆知識もまとめておこう。大前提となる、十二国って何?とか、戴って? 驍宗さまって? とかそんなことはもう書きません。つうか、知らない人がこの本を読むわけねえし、このBlogに興味を持つわけもなかろうから。
 最初は地図から行ってみるか。少しネタバレも含んでいるけど全くクリティカルなものではないので、構わないだろう。今回、(1)巻(2)巻ともに、冒頭に舞台となる「戴」国の地図が掲載されているのだが、ズバリわかりにくく、センスゼロなので、頭にきたからパワポで簡単に作り直してみた。↓タッチまたはクリックすると拡大します。
戴
 こんな感じかな。若干、東の方がスペースがなくて位置がずれちゃったかも。だけど、この地図を理解しないと、今回のお話は分かりにくいし、逆に理解していると、こういうルートを取ったんだな、と、途端に分かりやすくなります。
 で。次に、問題の『驍宗さま失踪までのタイムライン』を本作の中で語られた内容でまとめると、どうやらこういうことだったようだ。
---------驍宗さまの軍の進軍と失踪までの流れ----------
<弘始元年暮れに、土匪が「古伯」を占拠した>
◆年明け、第1陣として英章/項梁たちの派兵が決定
 (※この直前に、泰麒と阿選は漣から帰国したばかりだった)
◆英章たちは首都・鴻基から出撃、半月の行軍で琳宇に到着、陣を張る。そしてその後すぐ古伯を包囲、まずは掃討完了。
◆しかし、完了のチョイ前に、近隣三か所で暴動発生、その後、次々に暴動がおこり、鴻基から援軍として霜元が派遣されることになり、さらに驍宗さま自らも出陣へ(縁の深い轍囲に火が回りそうなため)
◆三月初め、霜元&驍宗さま、英章たちに合流
 ※その時驍宗さまは阿選の軍勢5千を率いていた。
 ※阿選自身は連から帰って来たばかりということで、鴻基に留まる。
◆軍勢は豊沢(地図にないが轍囲の南らしい)へ進軍することに。その際、英章軍(先頭は俐珪)、驍宗軍、霜元軍の順番で出撃。
◆進軍3日目、驍宗さまがいないことが判明。
◆驍宗さまは、後から来る霜元と合流すると言って25騎の選卒(せいえい)を従え消えた。
◆4日目、驍宗さまの騎獣「計都」が陣に戻る。どうやら戻ってきたというより、驍宗さまを探してとりあえず陣に戻ったが、驍宗さまがいないのでイラついてる様子。
◆その後すぐ、鴻基から「白圭宮で蝕が起きた」知らせが入る
◆霜元はすぐに騎獣で鴻基へ飛んで帰る
◆驍宗さまについていた阿選軍は品堅に率いられて鴻基へ戻る
◆代わりに鴻基から土匪討伐のため臥信が派遣される
◆5月、文州の乱は一応平定。だがすぐに承州辺境に乱アリとの報が入り、李斎が派遣される。またその支援のため、霜元が手勢の半分を率いて承州へ(その指示は阿選によるもの)
◆半月後、臥信へ、手勢を半分残して帰還命令が下る
◆6月、李斎から「阿選、謀反」の報が各将に届く
 そして阿選と反阿選の戦いが各地で勃発、阿選側が圧倒して終わる。
----------------------------------------------------------------
 とまあ、こういう流れだったらしい。その後、6年がたった世界が、本作の舞台だ。
 この間のことは、本作でいろいろな人物から語られるが、問題は、一体全体、驍宗さまに何が起こったのか、そして6年経過した今現在、どうしているのか、であろう。
 まだ死んでいないことは、我々読者は知っている。泰麒もとうとう帰還した。さあこれから反撃のターンだぜ!? という期待に胸膨らませて、我々は本作のページをめくったはずだが……その結果が分かるのは来月である。ホント、新潮社が嫌いになるでしょ、誰だって。
 というわけで、以下、本作に出てくる人物表である。出てくる順にしようかと思ったけど、それだと関係のある人物が離れ離れになっちゃうので、いくつか、グループ分けしてまとめてみよう。なお、実際に登場しないけど、回想で言及されるだけの人もいっぱいいます。一応、(1)(2)巻で出てくる名前は全部書き出してみた。
 なお、もちろんネタバレも少し混じっていますが、これは来月(3)(4)巻を読む際のわたしの覚書なので、いいよね、別に。つうか、ここまでこのBlogを読んで、本編を読んでいない人もいないだろうし。

 が……ダ、ダメだ! Windowsの機種依存文字を使う名前が多すぎて文字化けしちまう!! ことに気づいたので、ちくしょう、こうなったら画像にするしかねえな……それぞれタッチ/クリックで拡大しますので。
【1.泰麒と李斎の旅の仲間と、協力してくれる人々/話を聞いた人々】
人物表01
 ※追記:そうだった。泰麒の使令は、穢れを払うために王母様預かりなんだった。CK先輩ご指摘あざっす!
で。次が、【2.驍宗さま失踪前の軍人たち】。ほぼみんな、実際には登場してこない。
人物表02
そして【3.驍宗さま失踪前の官僚たち】がこちら。これまたすでに故人多し。
人物表03
 ※追記:そうか、(2)巻P204で琅燦が「選ばれない理由がある」と言ったのは「同じ姓は連続で王になれないルール」があるからダメ、のことかもしれないすね(※驍宗さまや阿選の本姓はどちらも朴)。CK先輩あざっす!
で、【4.現在の白圭宮にいる人】
※2.3.で触れた人の中には現在も白圭宮にいる人もいるけど、それらは除外します。
人物表04
最後は【5.謎の人物】と【6.謎現象】について。
人物表05
 さてと。あとは、本編で李斎がたどる捜査ルートと聞き込みの内容を手元にまとめてあるのだが……これはもう、相当膨大なので、このBlogに載せるのはやめておきます。この捜査ルートも、地図がないと本当に理解しにくいので、上の方に貼り付けたわたしが作った地図がとても役立ちました。ただ、本当は山がいっぱいあって、それらも入れたかったのだが……ごちゃごちゃになりすぎてやめときました。

 はあ……マジで早く続きが読みたいですなあ……!!
 驍宗さま……マジなのかよ……わたし的には「耶利」がいったい何者なのかが一番知りたいすねえ! 来月が楽しみだなあ! 常々、わたしはこの世に未練はない、いつ逝っても構わん、とか言ってるけど、少なくともあと1カ月は生きていたいと思います!

 というわけで、もう結論。
 わたしの大好きな『十二国記』の最新刊がいよいよ発売となり、もう、むさぼるように読んだわけですが、言いたいことは2つ。まず、小野不由美先生、『十二国記』を書き続けてくださって本当にありがとうございます! マジ最高です!!! まだ途中ですが、超最高です!! ホント、読めてうれしいっす!!! そしてもう一つは、新潮社はホントにどうしようもない出版社で、早晩M&Aでもかまされていただければと思う。さっさと銀行に見放されればいいんだけどな。遠くない将来そうなるでしょう。ま、そんなことはどうでもいいとして、とにかく! 早く! 続きが読みたい!! に尽きますな。まだラストでは景王、延王、その他オールスターにならないかなあ! 楽しみだなあ!! もうこれ以上言うことがないので、以上。

↓ アニメ版も面白かったすね。アニメオリジナルキャラも結構出てきて、原作ファン的には、コイツ誰?的な部分もありますが、わたし的にはアリ、す。

 わたしは本が大好きで週に数回は本屋さんをのぞいて、なんか面白そうな本はねえかなあ、とかぼんやり渉猟するのだが、実のところ、もう6年前ぐらいから完全に電子書籍にトランスフォームしている。その理由は、電子書籍だと保管場所に困らないとか、読みたいときにいつでも買えるとか、電子書籍ならではのメリットを享受したいため、では決してない。
 わたしが電子書籍野郎に変身した最大の理由は、以前も書いた通り、「本屋が全くダメになりつつある」からだ。つまり、どこかでとある本が発売になっていることを知って、勇んで本屋へ行ったとしても、その本が店頭にないことが多く、嘘だろ売ってねえ!という悲しい事態に遭遇することが、ここ数年超頻繁に起きるからで、いわば、やむなく電子書籍を選択しているのである。
 というわけで、先日、わたしが愛用している電子書籍ストアBOOK☆WALKERから、「あなたがお気に入りに登録している作家さんの新作が出ましたよ!」的なメッセージが届き、うおお、マジかよ全然知らんかった!! と、まずは本屋さんへ行ってみたものの、残念ながら紙の書籍を見かけることができず、ぐぬぬ、という思いで電子書籍を買ったのである。ちなみに、わたしの家から一番近い大きめの本屋さんは、もう数年前からどんどん「本」の売り場面積が減っており、今や半分以上が文房具や雑貨になっちゃった……。
 と、前置きが長くなりました。
 わたしが新刊発売と聞いて、電子書籍版を買い、、超わくわくで読み始めた作品は、Joe Hill先生の『STRANGE WEATHER』という作品であります。
strangeweather
怪奇日和 (ハーパーBOOKS)
ジョー ヒル
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2019-09-17

 もう、このBlogで何度も紹介している通り、Joe Hill先生は、わたしが世界で最も好きな作家Stephen King大先生の長男であります(お姉さんと弟がいる真ん中)。そしてHill先生の作品は、父King大先生の血統を完璧に証明するかの如く超最高に面白く、日本でまだ知名度が低いのではないかと思われるけど、ほんと、もっともっと知られてしかるべきだし、売れてしかるべきだとわたしは信じている。
 いやー、しかし、今回の『STRANGE WEATHER』も最高に面白かったすねえ!!
 これまでの、Hill先生の日本語で読める作品は、当然すべて読んでいますが、これはホント、歴代Hill先生作品の中でもTOPクラスに気に入ったすね。なにしろKing先生的空気感が濃厚で、おそらく、作者名を知らずに読み始めたら、あれっ!? これってKing大先生の作品じゃね!? と勘違いする可能性も高いような気がしますな。ちなみに、これまでのHill先生の作品は、わたしの大嫌いな小学館から発売されていたのだが、今回はなぜか、「ハーレクイン」で有名な「ハーパーコリンズ・ジャパン」からの発売となっている。なんでだろ? と思ったら、どうやらあとがきによると、US本国ではまさにHarperCollins社から出版されていたようで、まあ直ルートとでも言えばいいのかな、そういうことだったようだ。これ以降も、小学館なんぞじゃなく、ハーパーコリンズ・ジャパンから発売してほしいすね。

 で。それでは内容をメモしていきたいのだが、近年病的に記憶力の低下しているわたしは、数年後には内容を完璧に忘れる可能性が高いため、各話のエピソードガイド的にまとめてみようと思う。
 そうなんです。今回は、4つの中編からなるアンソロジー的作品なのであります! しかも4つとも、超おもろい!! これはKing大先生の作品が好きなら絶対読んでほしいし、そうでなくても誰しも楽しめる逸品であると断言したいすな。※なお、4つの物語に関連性はなく、完全にそれぞれ独立しています。
 ◆(第1話)『SNAPSHOT』
 この第1話の翻訳は、King大先生の作品の訳者でもおなじみの白石朗氏によるものだ。大変読みやすく、King大先生的なスーパーナチュラル要素アリ、そしてほろりとさせるものアリ、で、わたしはもうのっけから大興奮であった。
 お話は1988年の夏、カリフォルニアに住んでいた主人公が10代前半(小学生か中学生頃)に遭遇した謎の事件と、その後大人になって成功者となって暮らすまでが、短いながらも凝縮されて描かれている。
 謎の事件――それは、主人公が子供のころ子守してもらってお世話になっていた夫人が、痴ほう症めいた状態で道をふらふらしているのを、少年時代の主人公が見つける場面から始まる。主人公はデブで科学オタクで若干イジられ系の少年だったが、その夫人には大変な恩があるので、放っておけなかった。何をしてるのか聞いてみると、どうやらもはや痴ほうらしく、話が若干通じない。なので、主人公は優しく夫人を家まで送り届けるのだが、夫人は「ポラロイド・マン」から隠れているの、と謎の言葉を残す。なんのこっちゃ? と思う主人公だったが、数日後、主人公は車のダッシュボードにポラロイドカメラを置いている、「フェニキア語のタトゥーを入れた男」と出会い、偶然そのポラロイドカメラで撮影してしまう。すると、謎の現象が起きて―――!! てなお話だ。空気感と、「アヤシイ男と謎アイテム」という点で、わたしはKing大先生の『Needful Things』に似てるな……と思いながら読んでいたけど、結論としては全く似てませんでした。
 わたしがちょっと特徴的だと思ったのは、この事件後、主人公がどう成長していったか、が結構長めに続くんだな。その点が、短編集などではバッサリエンドになるKing大先生と違うような気がしましたね。しかもその長めの「その後」が、ちょっと泣けるいいお話なんすよ。実に面白かったっす。
 ところで、わたしがKing大先生の作品に現れる特徴で一番好きなのが、King先生独特の「下品なDirty Word」のセンスなんですが、これはもう、完璧にHill先生にも遺伝されてますね。お話の中で、痴ほうになってしまった夫人の旦那さんが出てきて、この人はフィットネスクラブを経営しているボディビルダー的な人(だけど、超優しいイイ人)なんですが、そういう人にありがちな、ピツピツのビキニパンツを履いてるわけですよ。そのビキニパンツを、Hill先生はこう描写してます。
 「金玉専用ハンモックといえそうなタイトな黒い下着一枚でストレッチにはげんでいた」
 もう最高っすねw
 ◆(第2話)『LOADED』日本語タイトル「こめられた銃弾」
 第2話は、うって変わってスーパーナチュラル要素はナシ。そして主人公(?)が3人いる。一人は、1993年にあこがれの男子(黒人)を警官(白人)に誤射されて殺された黒人女性。現在時制では、新聞記者になっている。もう一人は、宝石屋のオーナーのおっさんと不倫をしていて、Hと銃が大好きな、若干頭弱い系女子(宝石屋の店員さん)。そして3人目が、かつてイラクだかアフガンだか、どっかに出征した退役軍人で、ほんとは退役後は警官になりたかったのに、軍人時代ちょっと問題を起こしてしまったために警官にはなれず、とあるショッピングモールの警備員をしている。彼は、現在DV(本人的には全くそんな気はない)によって、妻(というより妻の姉)から離婚協議を起こされていて、愛する息子にも会えないでいる。
 ある日、宝石屋のおっさんが頭の上がらない奥さんから「あの娘をクビにするザンス!」とキレられ、おっさんはまるでごみを捨てるかの如く頭弱い系女子に別れを切り出すのだが、ふざけんなとブチギレた女子は銃を持ってショッピングモール内の宝石屋に乱入し、とんでもない事態に―――てなお話でありました。
 そしてこのお話も、「事件後」が結構長いです。つうかむしろ、事件後の方が本題とも言えると思う。けど、衝撃のラストを、ざまあと思うのか、なんてこった……と思うのかは、読者によって違うと思います。わたしはかなり退役軍人が気の毒に思えたので、少しすっきりしましたが、間違いなくこの作品は、現代US社会の病巣の一部を描いているわけで、かなり社会派でもあると思う。実に面白かったす!
 ◆(第3話)『ALOFT」日本語タイトル「雲島」
 そして第3話は、かなりファンタジーっぽさのある作品だ。主人公は20代のヘタレ野郎のミュージシャン。トリオで組んでいるバンドの女子Aが大好きなのだが、もう一人の女子Bががんで亡くなり、そのB子の追悼のために、仲間で彼女がやりたかったことリストの「スカイダイビング」に行くことに。そしてヘタレ野郎は、いろんな言い訳をしながらスカイダイビングなんてしたくないと駄々をこねるも、タンデムでつながってるインストラクターはそんなことにはお構いなしに空へ!! しかし、数秒後、彼は謎の「雲」の上に着地して置き去りにされてしまう(インストラクターは慌ててすぐ離脱)。しかもどうやらこの「雲」はなにやら生き物のように自意識を持っているようで―――てなお話であります。
 この話も、意外と長くて、果たして「雲」はいったい何なのか? そしてヘタレ野郎は無事地上へ戻れるのか!? という緊張感あふれる物語になっていて、極限状態からの脱出という意味で、すごく強いて言うならば、King大先生の超名作『Gerald's Game』に似てなくもないと思いました。やっぱりこの作品も、最高に面白かったす。
 ◆(第4話)『RAIN』日本語タイトル「棘の雨」
 最後の第4話は、ある日突然、「棘の雨」が降り、人々が大勢死んでしまったデンヴァーを舞台に、生き残ったレズビアンの女子のサバイバル(?)を描いた作品であります。いや、サバイバルは言いすぎかな? ある種のディストピア的な世界観で、わたしはこの作品はKing大先生の日本語仮タイトル「携帯ゾンビ」でおなじみの『CELL』に似ているように感じたっすね。
 ただしこのお話は、スーパーナチュラル要素はなく、一応、事件の真相は明かされるので、その点ではすっきりしている。そして謎のカルト集団なんかも出てきて、極限状態での人間心理という点では、すごく強いて言うなら『The Mist』っぽくもあるように感じたす。ちゃんと調べてないけど、この第4話が一番短いかな?

 とまあ、こんな感じの4つの中編なのだが、Hill先生自身によるあとがきに、執筆の動機とかいろいろ書いてあって、こちらも大変興味深い内容になっていました。このあとがきの内容にはあえて触れないでおきます。
 あと、もう一つ、とても素晴らしいと思ったのが、話の冒頭とラストに、非常にいいイラストがついているんすよ。それぞれ4人の別々のイラストレーターが担当しているのだが、これも、読み終わった後で改めてみると、とても味があるというか、アレの絵なんだ、と、非常にセンスを感じるイラストが添えられていることもメモしておきたい。とても素晴らしいイラストです。

 というわけで、もう書いておきたいことがなくなったので結論。

 わたしの大好きなJoe Hill先生の日本語で読める新刊『STRANGE WEATHER』という作品が発売になったので、マジかよ!と慌てて本屋さんに行ってみたものの、店頭に置いてなくて、やむなく電子書籍版を買って、すぐさま読みだしたのだが、ズバリ、超面白かった!! です。4編の中編からなるこの作品集は、実に父であるStephen King大先生の空気感に似ていて、King大先生のファンならば絶対読むべき作品であると断言したい。また、King大先生の作品を読んだことがない人でも、もちろん最高に楽しめると思う。まあ、内容的に「楽しめる」というのは若干アレかな。決してホラーではないと思うよ。ただし、きわめて、Strangeな状況であって、それぞれ、微妙に「天気」に関係があって、『STRANGE WEATHER』というタイトルも、実にセンスあるタイトルだと思った。また、添えられているイラストも実にセンスがあって、要するに、Joe Hill先生はまごうことなく父King大先生の才能を受け継ぐ、すごい作家であるとわたしとしては称賛したいと思う。ま、本人はお父さんがどうのとか言われたくないだろうけど、そりゃもう、読者としては比べちゃうのはしょうがないよ。そして、全く引けを取らない筆力は、ファンとしては「次の作品マダー!?」と期待させるに十分すぎると思います。以上。

↓ Joe Hill先生による原作小説も最高ですが、実はこっちの映画版もかなりキてます! 最高っす!

 わたしがシリーズをずっと読んでいて、新刊が出るのを楽しみにしている小説に高田郁先生の『あきない世傳』というシリーズがある。これは、時代的には18世紀中ごろの大坂商人のお話を描いた作品なのだが、実にその「あきない」が、現代ビジネスに置き換えられるような、現代の会社員が読んでも示唆に溢れた(?)いわゆる「お仕事モノ」としての側面もあって、読んでいて大変面白いのであります。
 というわけで、その最新刊である第7巻が発売になったので、わたしもすぐ買った……のはいいとして、ちょっと他の小説をいくつか読んでいたので若干後回しになっていたのだが、いざ読みだすと、いつも通り2日で読み終わってしまった。実に読みやすく、そして内容的にも大変面白く、わたしとしては非常にお勧めしたいシリーズであると思っております。

 もう、これまでのシリーズの流れを詳しく解説しません。詳しくは、過去の記事をご覧いただくとして、本作第7巻がどんなお話だったかというと、まあ一言で言うと、いよいよ念願の江戸に店を開いた主人公・幸(さち)ちゃんが、江戸に来て1年がたつまでに過ごした奮闘の日々、が描かれています。
 まあ、本作に限らず、小説を読んでいるといろいろな、知らないことを知ることが出来て、「へええ~?」な体験こそ読書の醍醐味の一つだと思うけれど、例えば、「呉服」と「太物」ってわかりますか? これはわたしは前の巻だったかな、初めて知ったのですが(単にわたしが無知だっただけだけど)、「呉服=絹100%」「太物=綿製品」なわけで、大坂では明確に扱う店舗が違っているけど、江戸では両方扱ってもOK、と商慣行が違っていたりするわけです。おまけに、大坂では「女名前禁止」というお上の決めたルールがあって、女性は店主になれない=代表取締役の登記が出来ないんだな。ま、それ故、幸ちゃんはそのルールのない江戸に支店を出すことを決めたわけですが。
 で、幸ちゃん率いる「五鈴屋江戸支店」は、要するにアパレル小売店なのだが、当然幸ちゃんたちは大坂人故に、江戸のさまざまな生活カルチャーや、江戸人の考え方自体にも不慣れだし、いきなり店を出店しても商売がうまくいくわけないので、いろいろな工夫を凝らすわけです。その工夫が、現代ビジネスに通じるモノが多くて、大変面白いわけですよ。
 要するに、まず新店OPENにあたっては、いかにしてお店のことを告知していくか、という宣伝広告戦略が重要になるし、いざ知ってもらっても、「五鈴屋」で反物を買ってもらうためには、どうしても「五鈴屋オリジナル」商品が必要になるわけです。いわゆる「差別化戦略」ですな。
 ちょっと五鈴屋のビジネスモデルというかバリューチェーンをまとめると……
 ◆生産者:養蚕家(絹の生糸の生産)、綿農家(木綿糸生産)
  →大坂時代に確保済み&信頼関係構築済み
 ◆加工者(1):織職人(布に織る人、模様を入れて布に仕立てる人)
  →大坂時代に確保済み&信頼関係構築済み
 ◆加工者(2):染付職人(模様や柄を染め付ける人)
  →NOT YET。本作冒頭ではまだ不在
 ◆卸売事業者:製品を仕入れて小売りに卸す人
  →大坂時代に確保済み&信頼関係構築済み。一部は五鈴屋が自ら仕入れ
 ◆小売事業者=五鈴屋=お客さんに売る人
  →江戸店は開店した。が、どうお客を集めよう?
 ◆顧客=お客さん=武家から市井の人々まで様々
  →どういう嗜好を持った人? どんなものを求めている? か研究中。
 ◆加工者(3):仕立て屋さん(布を裁ち、縫製する人)
  →基本的に五鈴屋さんは反物を売っておしまいで、反物を買ったお客さんが、どこかの仕立て屋さんに頼むか、あるいは自分で「服」に加工するので、五鈴屋は現代的な意味でのアパレルショップではない。けど、頼まれれば五鈴屋さんは仕立て屋さんを紹介したり自ら縫製もします。ちなみに、そのため、最初から「服」になっている既製服屋さんとしての古着屋さんもいっぱいあるのです。
 てな感じに、18世紀半ばの時点で、既にこういう分業がキッチリなされているわけですが、五鈴屋の「あきない」のモットー=企業理念は明確で、「買うての幸い、売っての幸せ」を目指しているわけで、つまり上記の関係者全員=ステークホルダーがHAPPY!であることを目指しているのです。
 どうですか。いいお話じゃあありませんか。
 で。今回の第7巻では、主にオリジナル商品開発がメインとなっています。もちろん、宣伝広告も頑張るんだけど、それはもう前巻までにやってきたことなので、説明は割愛します。お店を知らしめるために、神社仏閣の手水場に、五鈴屋のコーポレートロゴである「鈴」の絵柄付き手ぬぐいを寄進しまくったり、来てくれたお客さんのカスタマーロイヤリティ向上のために、無料の「帯の巻き方教室」を開催したりと引き続き頑張り、そこで得たお客さんとの縁が、今回鍵になるわけです。いい展開ですなあ! わたし、これも知らなかったけれど、大坂と江戸では、帯を巻く方向が逆なんすね。そんなことも、幸ちゃんたちとともに読者は「へええ~?」と学んでいくわけです。おもろいすなあ。
 そして今回メインとなるオリジナル商品開発のカギとなるのが、上記ビジネスモデル(バリューチェーン)の中で、唯一まだ縁のなかった「染付」でありました。
 これも大坂と江戸の違いなんだけど、大坂は商人の街であり、江戸は武士の町なわけですよ。で、大坂では普通で誰もが当たり前に着る「小紋」というものが、江戸では基本的に武士のためのもので、あまり町人の着るモノじゃないらしいんですな(※絶対NGではないみたい)。そしてその「小紋」の柄も、どうやら武家のオリジナル模様があって、それはその家中の人間以外は着てはならんというルールもあるらしい。
 だけど、江戸人は「粋」を愛する人種なので、遠目には無地かな? と思わせて、よーく見ると模様が「染められている」小紋はOKなのです。めんどくせえけど、そういうことらしい。なので、売れるのは無地や縞(ストライプ柄ですな)ばっかりだけど、実は「小紋」もいけるんじゃね? つうか、江戸人好みの小紋をつくったらヒット間違いなしじゃね? とひらめくわけです。
 そして、どんな柄にしよう? と考えた時、当然もう、全員が「鈴」の模様で異議ナシ、なわけですよ。だけど、それってどうやって作ればいいの? というのが今回のメインでありました。
 染付職人をどうしよう? つうかその前に、染付の「型」って、誰がどんな風にして作ってるんだろう? というのが段階を経て実を結んでいき、さらに、完成した「五鈴屋オリジナル小紋」を、どうやって世に知らしめよう? と考えた時、思わぬ縁が繋がってーーーという流れはとても美しく、もう読者たるわたしは、正直できすぎだよ、とか思いつつも、良かったねえ、ホント良かった、と完全に親戚のおじさん風にジーンと来てしまうわけで、もうさすがの高田先生の手腕には惜しみない称賛を送りたく存じます。ホント面白かったす!
 そして今回は、重要な未解決案件である「女名前禁止」に関する進展も少しあり、さらには妹の結ちゃんが満を持して江戸へやってきたり、さらには、失踪した5代目がついに姿を現し……といった、今後の引きになる事柄もチョイチョイ触れられていて、結論としては、高田先生! 次はいつですか!! というのが今回のわたしの感想であります。はーー面白かった。

 というわけで、結論。

 わたしが新刊が出るとすぐに買う、高田郁先生による小説シリーズ『あきない世傳 金と銀』の最新7巻が発売になったのでさっそく楽しませていただきました。結論としては今回もとても面白かったです。なんつうか、やっぱり人の「縁」というものは、大事にしないとイカンのでしょうなあ……一人では出来ないことばかりだもんね……そこに感謝をもって、日々暮らすのが美しいんでしょうな……わたしも真面目に生きたいと存じます。そして、5代目の動向が大変気になるっすねえ……! まず間違いなく、次の巻では五鈴屋の存在が江戸に知れ渡ることになり、5代目が「幸が江戸にいる!」ことに気が付くことになるような気がしますね。どこまでシリーズが続くか分からないけど、全10巻だとしたら5代目とのあきないバトルがクライマックスなんすかねえ……! 早く続きが読みたいっす! 以上。

↓ そういや映画になるらしいすね。キャストはNHK版からまたチェンジしたみたいですな。この特別巻が出てもう1年か……あ!映画の監督があの人じゃないか!マジかよ!
花だより みをつくし料理帖 特別巻
髙田郁
角川春樹事務所
2018-09-02

 はーーー……面白かった……。
 なんのことかって? それは、わたしの年に1度(?)のお楽しみである、『暗殺者グレイマン』シリーズの新刊が発売になったので、わーい!とさっそく買って読み、味わった読後感であります。わたしの愛する早川書房様は、とうとう紙の文庫本と同時発売で電子書籍版をリリースしてくれたので(これまでは1週間後ぐらいだった)、大変ありがたいすね。
 というわけで、わたしが待ちに待っていた新刊の日本語でのタイトルは、『暗殺者の追跡』。英語タイトルは『MISSION CRITICAL』という、Mark Greaney先生による「暗殺者グレイマン」シリーズ第8作目であります。いやあ、結論から言うと今回も最高でした。つうかですね、先日書いた通り、わたしはもう、最初の人物表を見た時点で大興奮ですよ! なんとあの、ゾーヤが! ゾーヤの名前が人物表にあるじゃあないですか!! 本作シリーズは、その主人公ジェントリーの、人殺しのくせに妙に良心のあるキャラ設定が大変面白いわけですが、まあ基本的に悪党は即ぶっ殺せの恐ろしい男である一方で、女子に対しては全くの朴念仁かつ純情ボーイぶりがおかしいという面もあるわけです。その朴念仁ジェントリーが、2作前の物語で出会い、お互い惚れちゃった超ハイスペック女子がいて、けど、俺と一緒にいると危険だぜ、男は黙ってクールに去るぜ、みたいな態度で別れたものの、1作前ではもうずっと、その女子のことをクヨクヨと思い悩み、これじゃあイカン、ちゃんとしろ、オレ! と涙ぐましい決断(?)のもとに、超危険なシリアに潜入するヤバいミッションに取り組んできたわけですが……そのウルトラ美女、ゾーヤが待望の再登場!! となれば、もうファンとしては大興奮間違いなしなわけです。たぶん!
 というわけで、わたしとしては人物表をみて、な、なんだってーーー!? ゾーヤ再登場かよ! しかもザックも当然出るみたいじゃねえか! コイツは最高だぜ! と即、読みふけったわけですが、その結論が冒頭の、「はーーー……面白かった……。」であります。控えめに言って最高でした。
暗殺者の追跡 (上) (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2019-08-20

暗殺者の追跡 (下) (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2019-08-20

 というわけで、まずは物語をざっと紹介しますか。いつも通り、もうネタバレにも触れてしまうと思うので、まずは作品を読んで、興奮してから以下をお読みください。

 はい。じゃあいいでしょうか?
 物語は冒頭、CIAの用意したビジネスジェットに乗り込む我らがグレイマン氏の様子が描かれます。CAの女子もなかなかデキる工作員っぽく、まあ、DCまでの空路を寝て過ごそう、と思ったグレイマン氏。しかし、どうも他にも乗客(もちろんCIA工作員チーム)が乗り込んできて、おまけに偉そうに指図され、チッ、めんどくせえ……と思いながら勝手にしろと一人寝入るグレイマン氏。しかし飛行機はDCの前に、イギリスに立ち寄ると、同乗していたグループは一人の「捕虜」を抱えており、イギリス政府にその捕虜を渡そうとしたところで、謎の武装集団に捕虜を奪われてしまうというオープニングアクションが描かれます。※追記:すっかり忘れてたけど、前作のラストを読んでみると、どうやらこのオープニングは、前作ラストから時間的に繋がってるのかな、という気もしました。
 そして一方そのころ、US本国では、愛しのゾーヤがCIAのセーフハウスで、数カ月間にわたり収容されていて、グレイマン氏が大嫌いなスーザンが、なにやらゾーヤを教育?中であった。しかし、うっかりスーザンがゾーヤにとある写真を見せたことで、ゾーヤはセーフハウスを脱走する決意を固め、行動に移そうとした矢先に、謎の武装集団がそのセーフハウスを強襲。ゾーヤは辛くも脱出に成功、自らの「やらねばならないこと」のためにUSを脱出しまんまとロンドンへーーー。
 となればもう、我々読者としては、グレイマン氏とゾーヤが、いつ、どのように、再会するのか、とワクワクしてページをめくる手が止まらないわけですが、グレイマン氏は飛行機を襲った連中を追い続け、ゾーヤはとある人物を追い続け、とうとう、再会に至って、最初にしたことはもう抱き着いて熱いキス! な展開で、読者としてはもうずっと夢に見ていた「最強のカップル」が動き出すのです。
 さらに! 逃走したゾーヤを当然CIAは追跡するわけですが、それよりも、二つの事件はCIAに「モグラ=内通者」がいることを示しているわけで、マット・ハンリーとスーザンがモグラ探しに放った「第3の男」、暗号名「ロマンティック」もまたロンドンへ! となるわけです。そして、この「ロマンティック」も、最初に登場した時点で我々読者が「キターー!」と思うような知ってる人物なんすよ。いや、登場前から、言及された時点で、まさかアイツか? と思ったわけですが、もうですね、例えて言うならアベンジャーズ並みと言って差し支えないと思うっすね!! イカン、書いててまた興奮してきたわ!
 とまあ、大筋としては、CIAにモグラがいて、そいつのせいでとある悪党が暗躍するのを阻止しようとするアベンジャーズの3人なわけですが、その悪党の計画が極めて危険で、いったいどうなる、という緊張感が続く物語となっております。さらに、その悪党は、実はーーという正体も、まあ誰しも途中で気が付くと思うけれど、その正体や動機もまた丁寧に(?)描かれていて、わたしとしてはシリーズで一番面白かったような気もします。ただ、動機に関してはちょっと逆恨みというか……よくわからんかも。そして最終的な決着も、最後の大バトルはごちゃごちゃしちゃったような気もするし、サーセン、ちょっとほめ過ぎたかもっす。
 ただ、とにかくグレイマン氏とゾーヤの夢の共演は最高に興奮したし、「ロマンティック」合流後のやり取りも実に良かったすねえ! キャラクターが実にお見事で、その点では本当に非の打ちどころなく最高だったと思います。いやー、ほんと面白かったすわ。
 それでは、恒例のキャラ紹介と行きますか。関係性が分かりやすいように、まずはこの人から行ってみるか。
 ◆マット・ハンリー:元US-ARMYデルタの特殊部隊(グリーンベレー)に所属していた軍人で、現在は太鼓腹のCIA工作部門本部長。シリーズに何度も登場しており、グレイマン氏を信頼しているほぼ唯一の味方。本部長に昇進してから、CIA長官の暗黙の了解のもと、「ポイズン・アップル」計画という極秘プログラムを運営中。それは、「記録に残らない任務」をこなす凄腕工作員を運用するプログラムで、グレイマン氏がその筆頭として計画されている。今回、マットは唯一事件を正しく理解していて、ラストの大バトルでは戦闘にも参加! 太鼓腹のくせに!
 ◆スーザン・ブルーア:マットの部下で、CIA局員。グレイマン氏や「ポイズン・アップル」を構成する工作員たちのハンドラー(=管理官)。これまでのシリーズ通り、スーザンはマットのことも大嫌いだし、グレイマン氏のことも大嫌い。ついでに言うと読者のわたしもスーザンは大嫌い。でも、一応ちゃんと仕事はするので許してもいいんだけど……基本的に彼女は危険な任務は大嫌いだし出世したい気持ちが強すぎて、今回、何度かマットやグレイマン氏を裏切ろうと行動に出る……けど、すべて不発で、ラスト大バトルでは負傷。正直わたしとしては、まったく好きになれないので、ざまあ、です。
 ◆コートランド(コート)・ジェントリー:通称「グレイマン」と呼ばれるシリーズの主人公。CIAでの暗号名では「ヴァイオレーター」。ポイズン・アップル1号として、スーザンにこき使われるが、スーザンとのやり取りもいいっすねえ! スーザンの無茶振りに、こいつ、絶対俺に死んでほしいと思ってんだろ、と思いながら「あんたと一緒に仕事をすると、スリル満点だな」と返すコートは最高です。そしてゾーヤを前に「俺は恥ずかしがり屋なんだ」とか抜かす純情ボーイ、グレイマン氏に乾杯! すね。前作では、ゾーヤのことが忘れられずクヨクヨしていたグレイマン氏ですが、今回は再会してやる気十分、本領発揮の超人ぶりですが、本作でもまた、手ひどくやられて何度も満身創痍になります。良く生きてたな……ホントに。そういや、ロンドンということで、今回も第1作のハンドラー、フィッツロイおじいちゃんも登場します。そして第1作でグレイマン氏が守り抜いたあのかわいい双子も! なお、わたしはずっと書いてきたように、今回もグレイマン氏=セクシーハゲでお馴染みのJason Statham氏のイメージで読んでました。が、今回もちゃんと髪がある描写アリで、断固異議を唱えたいと存じますw コートはハゲじゃないと!w
 ◆ゾーヤ・ザハロフ:2作前、グレイマン氏がようやくCIAと緊張緩和(デタント)して、請け負った仕事で出会った、元ロシアSVRの工作員。27歳(?)で身長170cmほどだそうです。以前語られていたかまるで覚えてませんが、お母さんはイギリス人なんすね。そしてUCLAに通っていた過去もあるんだとか。そうだったっけ? 身体能力が高く、射撃や格闘なども当然こなすハイスペック美女。その2作前の物語では、最終的にCIAの資産となることに同意し、その際、表向きは死亡したことになっていた。が、US本国でCIA資産として、ポイズン・アップル2号、暗号名「アンセム」としての教育(?)を受けているところだった。今回のゾーヤの最大のモチベーションは、死んだはずの父が生きていることを見抜き、父は生きているならどこにいるのか、何故、死んだ偽装をしたのか、の謎を解くこと、そして父の野望を知った後半は、その恐ろしい計画を阻止することに全力を尽くす。しかしゾーヤはいいですなあ! わたしは、冒頭のセーフハウスで初めて登場した時のゾーヤは、まるで『TERMINATOR2』のサラ・コナー初登場シーンのようだと思いました。ビジュアルイメージは、正直あまりピンと来なかったけど、絶対美人だよね。途中まで、ああ、こりゃあゾーヤは最後まで生き残れないな……と思ったオレのバカ! 今回のラストも、とてもグッときます! なお、スーザンがラストで負傷したのは、スーザンがどさくさに紛れてグレイマン氏を殺そうと銃を向けたからで、ゾーヤに撃たれたからです。まあ、ざまあっすな。
 ◆ザック・ハイタワー:元ジェントリーの所属していたCIA特別活動部のチームリーダー。だが、いろいろヘマをやって(すべてジェントリーのせい)、解雇されていたが、3作前(かな?)でヴァイオレーター狩りに呼び戻される。どうやら以後はマットとスーザンの配下として、ポイズン・アップル3号として活躍していたらしいのだが、「ロマンティック」という暗号名なのが気に入らないご様子なのが笑える。「ナイト・トレイン」と呼ばれたいのだが、誰もそう呼んでくれなくて拗ねるザックが最高です。なので、ラストのジェントリーとの会話には、わたしはとてもグッときました。ザックとジェントリーは、お互いの「腕」はよく知っていて信頼している間柄ですが、状況次第で敵になったり仲間になったりと、とにかく敵に回すと恐ろしいけど、味方としては最も頼りになる男すね。今回初対面の時は、「おまえをシックスと呼ぶやつが、ほかにいるか、間抜け?」といつもの調子でとてもワクワクしました。ザック、あんたも最高だよ、きょうだい!
 ◆ジェイソン:今回初登場の、CIAロンドン支局在籍の若者。とてもイイキャラだったし、何度も助けてくれて活躍したのに、ホント残念な最期を……今回、わたしとしては一番気の毒です。
 ◆ジェナー、トラバースたち現役のCIA特別活動部地上班のメンバー:彼らはザックやジェントリーとも顔なじみで、久々?登場。でも一部メンバーは残念なことに……
 ◆フォードル・ザハロフ:ゾーヤの父親。元々GRU長官(だったっけ?)のスパイの元締めだったが、若き頃出会ったイギリス女子と恋に落ち、結婚。一人息子とゾーヤという子宝に恵まれるが、妻をイギリスの諜報部に殺され(ロシアスパイたちのイギリス浸透のために語学や文化を教える教官を務めていたため)、その復讐に燃え、死んだことにしてイギリスへ移住。しかし、自分のうっかりミスで息子(ゾーヤの兄)も亡くし、おまけにゾーヤも死んだ(ことになっていた)ことで、理性のタガがブッ飛び、恐ろしい計画を実行に移す決断をする今回のラスボス。イギリス人としての偽名はデイヴィット・マーズ。若干、その動機はスケールが小さいというか……まあ、完全なる逆恨みと言わざるを得ないでしょうな……。
 ◆プリマコフ:ロンドンの暗黒街を仕切るロシアンマフィアの頭目。イギリス人としての偽名はロジャー・フォックス。冷酷でかなり頭のいい男。しかしラストは意外とあっけなく……。まあ、もっと苦しんでほしかったと思うほどの悪党でした。
 ◆ハインズ:プリマコフ(フォックス)の専属ボディーガード。元ボクサー。超強くて、今回2回、グレイマン氏をボッコボコにする活躍を見せる。ま、もちろん最後はやられますが。コイツはとてもキャラが立ってましたなあ! なんだか80年代の007映画に出てくる悪党っぽかったすね。グレイマン氏がこれほどタイマンでやられたのは珍しいぐらい、ボッコボコにされました。まあ、やられたグレイマン氏は、ゾーヤに甲斐甲斐しく手当てしてもらって、ちょっと嬉し気でしたけどねw
 ◆元薔美:ジャニス・ウォンを名乗る北朝鮮人。細菌学者。狂信者。殺人BC兵器を作って喜んでいるのが怖い。ラスト近くでCIAに拘束されたはずだけど、その後の運命は不明。どうなったんすかねえ? ま、US本国でずっと監獄入りなのかな……。
 とまあ、こんなところでしょうか。
 今回は本当に、いろいろグッとくるシーンがあって、ちょっといくつか引用しておこうと思います。
 <第1作で守り抜いた女の子が元気でいるのを見たグレイマン氏>
 ふたりを見ていると目が潤みそうになるのを、ジェントリーはこらえた。
 ※わたしも目が潤みそうになったよ、コート!
 <ハインズにボコられて、ゾーヤに手当てしてもらって(ついでに熱いSEXして)目覚めたグレイマン氏が隣で寝ているゾーヤを見て思ったこと>
 ジェントリーがこの世でいちばんやりたいのは、転がってゾーヤの上になり、愛撫で目覚めさせることだったので、こんな状態にした大男のボクサーを呪った。
 ※コート、お前の気持ちはよくわかるぜ!w
 <目覚めたゾーヤに、コーヒーを渡しながらグレイマン氏が思ったこと>
 「インスタントだよ」いってから、すぐに後悔した。「うまいインスタントなんだ」あまり上手な取り繕いかたではなかったが、ジェントリーは色事が得意ではなかった。
 ※へったくそ!w コート、がんばれ!w
 <兄の死の真相を知って、善良な兄はあなたに似てたわ…とゾーヤが言ったのを聞いて>
 「それは、おれの自分に対する見方とはちがう(=つまりおれは善良じゃない)」
 ゾーヤは涙をぬぐった。「わたしのほうが、あなたをよく理解しているのよ。あなたは、自分が善人の最後の生き残りだということに気づいていない」
 ※これを聞いたグレイマン氏は仕事の話を再開させちゃいますが、おいコート! ここはゾーヤを抱きしめる場面だぞ! 
 <ゾーヤは、自分が父を殺す!と燃えていたのに、グレイマン氏にその役を奪われ……>
 「あなたなんか大嫌い!」ゾーヤは叫んだ。
 「あとにしろ。このコードは?」
 ※おいコート、ここもゾーヤを抱きしめるとこだぞ! 爆弾処理より先に!w
 <カンカンに怒っているゾーヤに、もう一度、話をしに行こうとするとザックが現れ……>
 「おまえのためを思っていっているんだ、きょうだい。おまえたちふたりはうまくいくかもしれんが、きょうはぜったいにだめだ、おれは彼女と話した。目つきを見た。いまあのドアをはいっていっても、いい結果にはならない。断言する。作戦休止だ、シックス。このままにしておけ」
 ※今回のザックはずっとグレイマン氏を助けてくれたし、恋のアドバイスまでくれるとは、ザック、ありがとうな、きょうだい!

 というわけで、もうクソ長いので結論!
 わたしの大好きな『暗殺者グレイマン』シリーズの最新刊が、今年も早川書房様から発売になりました。毎年8月の楽しみとして、わたしはずっと待っていたのですが、とにかくもう、冒頭の人物表だけで大興奮しましたね! そして物語もその期待を裏切ることなく最高でした!! 超面白かったす!!! まあ、きっといずれは映像化されるでしょうが、その時はマジで主役をJason Statham兄貴にお願いしたいです! そしてザックはやっぱりStephen Lang氏ですかねえ、わたしのイメージは。ゾーヤは誰がいいのかなあ……ちょっと、ビジュアルイメージがわかないんすよね……ロシア美女ってことで、ザキトワちゃん的なイメージを持ったんですが、もっとクールで気が強そうじゃないとダメかな……ゾーヤ役には誰がいいか、いいアイディアがあれば教えてください! 以上。

↓ どうやらUS本国では、全く別の新刊が出たっぽいすね。第3次世界大戦勃発的な物語?のようです。きっとおれたちの早川書房様が翻訳してくれるはず!
Red Metal (English Edition)
Mark Greaney
Sphere
2019-07-16

 まったく世の中便利になったもので、わたしが今朝起きると、電子書籍専用として愛用しているタブレットに、メールが来ていた。曰く、「あなたがこれまでシリーズを買ってきた『暗殺者グレイマン』の新刊が出ましたよ!」
 当然わたしは新刊が発売になることは、もう事前に知っていたけれど、ちゃんと発売日にお知らせしてくれるなんて、というのが、冒頭に書いた「全く便利な世の中」の意味であります。
 わたしは今、これまたずっと追いかけている作家Claire North女史の新作を読んでいて、ようやく半分ぐらいまで読んだ途中なのだが、即座に『グレイマン』を読み始めるべく、メールを見た60秒後には電子書籍で購入を完了し、さっそく読もうと思っているところであります。
 ↓これが読んでたClaire North女史の新刊。はっきり言って主人公女子のキャラがイマイチ好きになれず、やたら読むのに時間がかかっております……。
ホープは突然現れる (角川文庫)
クレア・ノース
KADOKAWA
2019-06-14

 ↓そしてこちらが、われらが「グレイマン」氏の最新刊
暗殺者の追跡 (上) (ハヤカワ文庫 NV ク 21-11)
マーク グリーニー
早川書房
2019-08-20

暗殺者の追跡 (下) (ハヤカワ文庫 NV ク 21-12)
マーク グリーニー
早川書房
2019-08-20

 しっかし、早川書房様は本当に素晴らしい出版社ですなあ。以前は、紙の本が出た1週間後ぐらいの電子版発売だったけれど、今回はどうやら紙と同時発売のようだ。さすがおれたちの早川だぜ!
 そしてさっそく購入し、ダウンロードし、上巻の表紙をめくり、人物一覧を見てわたしはもう、朝から大興奮ですよ!!! やっばい!! ゾーヤが!! ゾーヤが出てるっぽい!!! やったーーーー!!! おまけに元上官ザック・ハイタワーや、ゾーヤのお父さんまで出てくるっぽいぞ! こいつは最高じゃんか!!
 ゾーヤというのは、2作前の作品で登場した、元ロシアSVRの女子工作員で、なんとまさかのグレイマンとぞっこんLOVEっちゃうあの女子ですよ! やった、ゾーヤ登場だぜ!! と、もう冒頭の人物表からして大興奮なのは、恐らく日本国内で30人ぐらいいるんじゃないかしら。
 ああ、でもなあ、心配だ……著者のGreaney先生はキャラを結構あっさり死なせてしまうので、ゾーヤが本作ラストまで生き残ることを祈ります……! 今回まだあらすじすらチェックしてないけれど、あらすじは読まずに突入いたしたく、さっさと読み始める所存であります!!

 というわけで、結論。
 おれたちの「グレイマン」新刊キターーー!! そしてゾーヤが出てるっぽいぞ! やったーーー!! 以上。

 物理学における「三体問題」というのをご存知だろうか?
 そう言うわたしも知らなかったので、Wikiから軽く引用しつつ、超はしょって言うと、万有引力によってお互いに作用する3つの天体の軌道を数学的にモデル化しようとするもの、で、コイツはもう計算できない! とされている問題だ(たぶん)。正確には、いろんな条件下では、こうだ、という解はそれぞれあるようだが(?)、わたしも実は良くわかっていない。ガンダム世界で言う「ラグランジュポイント」ってのがあるでしょ? アレは地球と月(と太陽?)の重力(引力?)の均衡が取れているポイントのことで、この「三体問題」のひとつの解であるらしい。いや、サーセン、わたしもまるでニワカ知識なので、正確にはよくわからんですが。大森望氏によるとそういうことらしいです。
 というわけで、話題の小説『三体』がとうとう日本語化されたので、わたしも遅まきながらやっと読んでみたわけなのだが、これがまた強力に面白く、大興奮であったので、今から感想などを書こうと思っているわけです。
 この小説『三体』は、中国人作家の劉慈欣(日本語読みで りゅう・じきん)氏によるSF小説であり、中国のSF雑誌に2006年5月から12月まで連載され、単行本として2008年に刊行された作品だ。その後、「The Three-Body Problem」として英訳もされ、2015年のヒューゴー賞長編小説部門をアジア人作家として初めて受賞、2017年には当時のUS大統領Barack Obama氏がすげえ面白かった! とインタビューで発言したことなんかもあって、話題となっていた作品だ。
 それがとうとう、日本語訳されたわけですよ! さすがわたしの愛する早川書房様! 当然電子書籍版も、各電子書籍販売サイトで取り扱っていると思うので、自分の好きなところで買って、読み始めてください。Kindle版も当然発売になってます(しかも若干お安い)。
三体
劉 慈欣
早川書房
2019-07-04

 で。―――もしこれから読んでみようかな、と思う方は、以上の前知識だけにして、今すぐ作品自体を読み始めた方がいいと思います。恐らく、ある程度のネタバレは事前に知っていても十分楽しめるとは思うけれど、なるべくまっさらな状態で読み始めた方がいいと思いますので、へえ、そんな小説が発売になったんだ? と興味がわいた方は、以下は読まず、今すぐ退場してください。その方がいいと思いますよ。

 はい。じゃあ、いいでしょうか?
 本作は、冒頭は1967年(たぶん)、文化大革命真っ盛りの中国から開幕する。そこで一人の女性、葉文潔(推定25歳ぐらい?)に降りかかった悲劇と、その後の体験が描かれるのだが、これがまたかなり生々しくて非常に興味深い物語となっている。わたしは、ああ、今の中国って、文革のことを書いてもいいんだ、とちょっと驚いた。勝手な先入観として、天安門事件のように、誰も口にしてはならないことなのかと思ってたけど、そういやいろんな本が散々出てるんですな。
 そしてこの文革での体験が、葉文潔の生き方、そして人類に対する観方を決定づけるわけだが、すぐに物語は「40数年後」の現代に移り、もう一人の主人公、汪森の話が始まる。汪森は、とあるナノマテリアルを研究している科学者なのだが、彼の元に警察と人民解放軍の軍人がやってきて、「科学フロンティア」なる団体に、加入して、その内部を探るよう依頼してくる。実は最近科学者の自殺が相次いでおり、その対策本部があって、そこにはNATOの軍人やCIAまでおり、「今は戦時中だ」とか言っている。汪森は、なんのこっちゃ? と思いつつも、科学フロンティアに加入することを受諾するが、すると謎の「カウントダウン」が始まり、その謎を解くために科学フロンティアの主要メンバー?である女性科学者を訪ねる。が、逆に「今すぐあなたのやっているナノマテリアルの研究を中止しなさい」とか謎の言葉ばかりかけられ、やむなく汪森は、ふと思いついて女性がプレイしていた「三体」というVRゲームをプレイしてみるのだが、その背景には恐るべき秘密が隠されていた!! という展開となる。
 ここから先の物語は、もう書かないで読んでもらった方がいいだろう。正直わたしは、えっ!? と思うような、トンデモ展開だと感じたのだが、とにかくディティールが非常に凝っていて、わたしのようなまるで知識のない人間でも、だんだんと何が問題になっているのかが分かる仕掛けになっている。
 その理解を助けてるくれるのがVRゲーム「三体」だ。
 これは完全没入型のゲームの形を取っていて、3つの恒星を持つ惑星、という謎の異世界を体験しながら、「三体問題」がどういうものか、理解できるようになっている。なお、このVRゲームは、VRスーツを着用してプレイする(=READY PLAYER 1的なアレ)ものなので、この描写されている現在は、今よりちょっと先の近未来なのかな、とわたしは思ったのだが、思いっきり「40数年後」って書いてあったし、よく考えてみると、本書が最初に発表されたのが2006年なんだから、まだiPhone発売前の世であり、その当時の状況からすると、執筆時に想定されていた作中での現在は、2010年代後半ぐらいなのかもしれない。
 で、とにかくこのVRゲームの部分がすっごい面白いわけですよ。いろんな歴史上の人物が出てきて「三体問題」に挑むのだが、クリアできないで文明は滅んでリセットされ、また次の人物が挑んで……を繰り返しているらしく、200文明目ぐらいでフォン・ノイマンが出てきて、「人力コンピューター」が登場するくだりは最高に面白かったすねえ!
 そしてこのVRゲームによって「三体問題」の基本理解が出来たところで、このゲームが実は謎組織のリクルーティングのためのものであることも判明し、汪森は謎組織の中に入り、驚愕の事実を知るわけだが、同時に冒頭の文革で悲劇に遭った葉文潔の半生が語られていき、如何にして文潔が「人類に絶望したか」が、じわじわと生々しく読者に理解できるようになっている。
 そして文潔の「人類に対する裏切り」がどんなことを引き起こしているのか、という怒涛のラストになだれ込むのだが、わたしはもう、ラスト辺りで語られる異星人の話には大興奮したものの……ここで終わり!? というエンディングには、若干唖然とせざるを得なかったす。これは電子書籍の欠点?かも知れないけれど、自分が今どのぐらい読み進めているか、自覚がなくて、わたしの場合、興奮してページをめくったらいきなりあとがきが始まり、えっ! ここで終わり!? とすごいビックリしました。
 そうなんです。本作は、実は3部作の第1作目、ということで、この先がまだまだあるんすよ! あとがきによれば第2巻の日本語訳は来年発売だそうで、オイィ! 続き早よ!! と恐らくはラストまで楽しんで読んだ人なら誰しもが、思うのではなかろうか。そして一方では、ラストまでついて来れなかった人も多いとも思う。まあ、最後の1/4ぐらいの異星人話はちょっとキツかったかもね……。
 というわけで、もういい加減長いので、来年続きを読むときのために、主要キャラをメモして終わりにしよう。
 ◆葉文潔:冒頭の1967年の文革期で25歳ぐらいで、元々、父と同じく天文物理学を勉強していた。作中現在では70代のおばあちゃん(※作中に「60代ぐらい」という容姿の描写アリ。てことは作中現在は2000年代後半か?)。文革後、「紅岸プロジェクト(=実は地球外生命体探査計画)」に半強制参加させられたのち、名誉回復が叶い、大学教授となってその後引退。人類に対して深く絶望しており、とある「人類に対する裏切り行為」をしてしまう。物語の主人公の一人。
 ◆楊衛寧:文潔の父の教え子だった男。文潔を紅岸に引き抜いて救う。後に文潔と結婚するも、実に気の毒な最期を迎える。
 ◆雷志成:楊とともに文潔を紅岸に引き抜いた男。政治委員。文潔の研究を自分の名前で公表して地位を築いたりするが、わたしの印象としては悪い奴ではない。楊ともども気の毒な最期を迎える。
 ◆汪森:もう一人の主人公。妻子アリ。ナノマテリアルの研究をしている科学者で、いわば巻き込まれ型主人公。ただし、ラスト前で彼の研究していたものがスゴイ役立つことに。実はそれゆえに、最初から「科学フロンティア」勢力は汪森の研究を中止させたがっていた。つまり巻き込まれたのは偶然では全然なかったというわけで、読者に代わってえらい目に遭う気の毒な青年と言えるかも。
 ◆史強:元軍人の警官。汪森をつかって事件の真相に迫る。キャラ的には強引で乱暴者で鼻つまみ者で脳筋、と思わせておいて、実はどうやらすごく頭はイイっぽい。非常に印象に残るナイスキャラ。
 ◆楊冬:文潔と楊の娘で科学者。「これまでも、これからも、物理学は存在しない」と書き残して自殺。
 ◆丁儀:楊冬の彼氏で同じく科学者。酔っ払い。なかなかのリア充野郎で、チョイチョイ汪森と行動を共にするが、正直イマイチよくわからない野郎。
 ◆申玉菲:中国系日本人科学者。超無口。元三菱電機勤務で、当時は汪森と同じくナノマテリアルの研究をしていた。汪森が初めて会いに行ったとき、VRゲームをしていた。科学フロンティア会員で、汪森に対して「プロジェクトを中止しなさい」と謎の言葉をかける。
 ◆魏成:申玉菲の夫。数学の天才。ものぐさで浮世離れしたふらふらした男。紙と鉛筆で三体問題を解こうとしていた過去があり、それで申玉菲と知り合った。VRゲーム「三体」のモニタリングと追跡を、それがどういう役目か知らないまま担当していた。
 ◆潘寒:有名な生物学者。科学フロンティア会員。化石燃料や原子力などをベースとした「攻撃的」テクノロジーを捨て、太陽光エネルギーなどの「融和的」テクノロジーを提唱している男。実は謎組織「地球三体協会=Earth Trisoralis Organization=ETO」の「降臨派」で、申玉菲の属する「救済派」と対立しており、ついに申玉菲を射殺するに至る。「オフ会」の主催者。
 ◆沙瑞山:文潔の教え子で、現在は北京近郊の電波天文基地に勤務。汪森が「宇宙の明滅」を確かめるために会いに行った男。たいして出番ナシ。
 ◆徐冰冰:女性警官でコンピューターの専門家。VRゲーム「三体」の謎を警官として追っていた。たいして出番ナシ。
 ◆マイク・エヴァンズ:文潔と同様に、人類に絶望した男。文潔と結託し、ETOを設立し、父親から受け継いだ莫大な遺産で、タンカーを改造した「ジャッジメント・デイ号」を「第2紅岸基地」として運用し、場所に縛られない移動可能な送受信設備を使って宇宙と交信する。
 ◆林雲:丁儀の元カノで、丁儀の研究のカギとなる貢献をした人物で、軍人? らしいが、本作では姿を現さず、丁儀の台詞にだけ登場。今は「あるところに……もしくはあるいくつかの場所にいます」と言われていて、ひょっとしたら第2作以降登場するかもしれないのでメモっときます。
 はーーーーとりあえずこんな感じかな。もう書いておきたいことはないかな……。

 というわけで、結論。
 話題のSF大作『三体』の日本語訳が早川書房様から発売となったので、わたしもさっそく買って読んでみたのだが……ズバリ言うと、面白い! けど、ここで終わりかよ! 感がとてつもなく大きくて、若干ジャンプ10週打ち切り漫画っぽくもある。わたしとしては、ホント続きが早く読みたい!気持ちがあふれております。相当歯ごたえ抜群のSFであることは間違いないけれど、それ故に、まあ、万人受けするかどうかは相当アヤシイとも思う。特にラスト近くになってからの怒涛の展開は、かなりトンデモ世界で、ちょっとついて行くのが大変かも。そういう点では、普通の人には全然おススメ出来ないけれど、SF脳な方には超おススメです。つうか、続きは450年後の世界が舞台なんだろうか?? すげえ気になるっすなあ……! まあ、おれたちの早川書房様は確実に第2作、第3作を発売してくれるのは間違いないので、楽しみに待ちたいと存じます。いやー、スケールでけーわ。なんつうか、すげえ読書体験でありました。以上。

↓ 英語版はとっくに最後まで出てます。読む? どうしよう……。


 

 わたしはもはやすっかり電子書籍野郎となって久しいのだが、それでも本屋という存在は大好きだし、毎日はそりゃ行ってないけれど、少なくとも週1では本屋に行って、面白そうな本はねえかなあ……と渉猟している。そんなわたしだが、先日本屋の店頭で、えっ、うそ、マジ!? と驚き、すぐさま買って読んだ本がある。
 それは、寡作で有名なメリケン国の作家、Tomas Harris先生の新作『CARI MORA』という作品で、わたしはホントに、あのTomas Harris先生の新作が出ていることなんて全く知らなかったので、とても驚き興奮したのであった。
カリ・モーラ (新潮文庫)
トマス ハリス
新潮社
2019-07-26

 どうやら7月には発売になっていたようで、発売後1週間ぐらい経っていたのかもしれないが、さすがにわたしの大嫌いな新潮社である。まったく告知を見かけなかったので、売る気もほぼないんじゃないかと疑いたくなるほどだ。これがわたしの愛する早川書房様だったら、100%確実に電子書籍でも発売になっていただろうし(実際US版はKindle版も売っているのだから、Harris先生が電子を嫌がることはないはず)、そうであれば確実にわたしも気づいたはずだが……ホント、新潮社は使えないというか、おっくれってるぅーーー!である。
 (※追記:後で知ったのだが、どうやら電子版は2019/08/09に配信開始されたらしい。そしてわたしが紙の文庫を買ったレシートを見たら、わたしが買ったのは08/02だったようだ。くそう、1週間待っていれば電子で買えたのに……!)
 ところで、Tomas Harris先生についてはもう説明の必要はないだろう。恐らく誰しもが知っている、『The Silence of the Lambs』日本語タイトル「羊たちの沈黙」の著者である。Harris先生は、あれほどのウルトラ大ヒット作品の原作を書いた小説家であるにもかかわらず、とにかく作品数が少ないことでもお馴染みなのだが、今まで全5作しか発表しておらず、その5作すべてが映像化され、その筆頭である『The Silence of the Lambs』は予想外のアカデミー作品賞すら受賞しており、その知名度は抜群だろう。しかし、最後の『Hannibal Rising』を2006年に発表して以来だから13年ぶりの新作ということになる。それが本作、『CARI MORA』だ。
 ただし、である。わたしはHarris先生のすべての作品を読んでいるし映画版も観ているのだが、正直、『HANNIBAL』『Hannibal Rising』の2作は相当イマイチだと思っている。映画も同じで、この2作はかなり微妙だった印象が強く、わたしとしては一番好きなのは、小説も映画も『RED DRAGON』なのだが、いずれにしても、もうレクター博士モノはいいんじゃね? とか思っていたのだ。なので、本作を本屋さんの店頭で発見した時は、Harris先生の新作であることにまず大興奮したものの、まーたレクター博士モノだろうか?とかいらない心配をしたのだ。
 というわけで、まず手に取り、おもむろにカバー表4を見て、さらに驚いたのである。そう、本作『CARI MORA』は、全く新しい、完全新作で、そのタイトルであるカリ・モーラという25歳の女子を主人公としたヴァイオレンス(?)小説だったのである。たしかHarris先生はもう、今頃70歳とっくに超えてるよな……? とか思いながら(後で調べたら御年79歳!)、マジかよ、完全新作とは恐れ入ったぜ! とレジに向かったあのであった。
 で。読んだ。読み終わった。
 一言で言うと、面白かった。ほんのりと、Harris先生っぽさもある。だけど、うーん、これが全く知らない作家のデビュー作であるなら、わたしは非常に面白かった! と言い切るだろうけれど、いかんせん、「あの」Tomas Harris先生の作品であるということを考えると、そうだなあ、フツーに面白いレベルにとどまるような気がする。キャラクターは抜群にイイんだけど……全然活躍しなかったり、ラストに全然絡まなかったりと、物語としてやや、スッキリしないというか……いや、最終的に一番悪いゲス野郎は見事昇天し、ヒロイン勝利になるからスッキリはするか。なんと言えばいいんだろうな……物語の本筋は、かつてのコロンビアの麻薬王パブロ・エスコバルがマイアミに築いた大邸宅に隠された金庫とその中に眠る3000万ドル相当の金塊を奪おうとする悪党どもが殺し合う、というものなのだが、キャラが多すぎて若干消化不良?な感じを受けた。もうチョイ、頭脳バトルが描かれればもっと面白かったのだが……。なんか結構、キャラクターが皆、筋肉バカだったような印象かも。
 そんな物語を彩る悪党どもばかりのキャラたちを紹介したいのだが、これはなあ……陣営をまとめて相関図を作った方がいいと思うんだけど……めんどくさいからもう文字でまとめてみるとしよう。
 ◆カリ・モーラ:物語のヒロイン。25歳。コロンビアからマイアミに逃れて来た移民。獣医を目指す真面目な美人。いとこのフリエーダとともに、その母の介護をしている。少女時代、コロンビアの反政府左翼ゲリラFARC(コロンビア革命軍)に両親を殺され、自らも拉致されて、ゲリラ兵としての訓練を受けていた過去がある。なので銃の扱いや、サバイバル知識なども身に付いたスーパーガール。彼女のそういった凄惨な過去も比較的丁寧に描かれているが、若干テンポが悪いというかアンバランスというか……うーん、まあ、とても魅力的なヒロインなのは間違いなく、彼女の活躍は今後も期待したいものですな。彼女を主人公に、何本もお話を作れそうな気がしますね。
 【十の鐘泥棒学校メンバー】
 この「十の鐘泥棒学校」というのは、コロンビアのドン・エルネスト配下の人間ということなのだが、エスコバルのお宝を狙う勢力の一つ。れっきとした悪党軍団だが、本作ではカリを助ける側の人々として、比較的イイ人っぽく描かれている。
 ◆キャプテン・マルコのチーム(マイアミ定住組)
 ・アントニオ:チームの中では若い元US海兵隊員で、現在はプール修理人。カリが大好きで、カリを守ってあげたいと思っているとてもいい奴なのだが、残念ながら中盤で惨殺され退場。
 ・ベニート:おじいちゃんでベテラン。今は庭師としてカリとも仲良し。
 ・キャプテン・マルコ:チームリーダーでカニ漁師。アントニオとベニートを配下として、ドン・エルネストの指令で金庫強奪をもくろむ。カリに好意を抱いていて、カリを何とか守ろうと奮闘(?)。イイ人。イグナシオ、ゴメス、エステバンという手下がいる。
 ・ファボリト:ラスト近くに登場する車いすの男で、元米軍(陸軍か海兵隊か不明)爆弾処理班在籍。35歳。イイ奴。マルコの依頼で金庫に仕掛けられた爆弾を処理する役を引き受ける。どうやら爆弾処理?で負傷したらしく、普段は入院していて、その病院でイリーナという元陸軍兵士に惚れてちょっかいをかけているナイスガイ。
 ◆エルネスト本隊
 ・ドン・エルネスト:表向きはビジネスマン、なのかな、コロンビア国内では人望がある(?)っぽい描かれ方。ただし、彼の目的はエスコバルのお宝であって、カリのことはどうでもいいと思っている。ラストも、カリを変態に売ってその代り金塊を手にすることに成功、したのかな? 若干消化不良。
 ・ゴメス:ドンの側近のゴッツイ男。言動が荒っぽく印象に残る男だが、ほぼ活躍せず。
 ・ビクトール/チェロ/パコ/キャンディのUS在住チーム:エルネストの命を受け、金庫強奪ミッションに派遣される男女チーム。変態野郎チームをあと一歩まで追い詰めるが、残念ながらやられ役として全員死亡。
 【変態野郎チーム】
 ・ハンス・ペーター・シュナイダー:ドイツ系南米人。つまりナチ残党の子孫ってことなのかな。全身無毛。人体を切り刻むのが大好きな変態で、臓器売買をしている。アルカリ溶液を使って人体を溶解するマシンで死体処理をする恐ろしい変態。この変態の描写がいちいち細かく、非常にキャラは立っているのだが、このどす黒い精神の持ち主は見事昇天しますのでご安心あれ。コイツのキャラはとてもHarris先生っぽさがあると感じられると思う。
 ・フェリックス:変態ハンスに雇われた不動産屋。エスコバル邸は映画やCMのロケとかに貸し出されていて、ハンスたちが金庫を掘り出すためにレンタルしているが、その手続きなどをやっている。カリは元々エスコバル邸の管理人であったため、フェリクスとも知り合いだった。見事使い捨てにされて死亡。
 ・ウンベルト/ボビー・ジョー/フラッコ/ホッパー/ボースン/マテオ:変態ハンスの手下ども。見事昇天。
 【故エスコバルの元配下】
 ・ヘスス・ビシャレアル:かつてエスコバルの指示で、マイアミの大邸宅地下に金庫を設置した老人。厳重なトラップの解除法を知る唯一の人物だが、その秘密を変態ハンスとドン・エルネスト双方に売ろうとするが……
 ・ディエゴ・リーバ:ヘススの顧問弁護士。ヘススの隠していた図面をドン・エルネストに渡すが、細工をしていて、本当の情報を知りたければ金をよこせと脅迫する小悪党。最終的にどうなったかよくわからん。
 【その他勢力】
 ・テリー・ロブレス:マイアミ市警の刑事。どうやら変態ハンス一味に自宅を襲撃されたらしく、妻ダニエラは一命をとりとめるも脳に障害を負い、自らも負傷して休職中。変態ハンスをとっ捕まえたいが……残念ながらほぼ活躍せず。
 ・イムラン:変態ハンスの臓器売買の買手で、人体加工収集家?の変態野郎、グニスという大富豪の代理人。グニスもハンスも変態だが、このイムランも狂った変態で、ハンスが納品した腎臓を我慢できずむしゃむしゃ食べちゃう狂人。まあ、この辺はレクター博士的なHarris先生っぽさ満載ですな。出番は少ないけど強烈な印象を残す。
 とまあ、主なキャラは以上かな……とにかくページ数がそれほど多くない割に、キャラは多いですが、お話は基本的に一直線で、チョイチョイ過去の回想が交じる程度なので、それほど混乱せずに読む進められるとは思う。
 そして主人公、カリ・モーラは大変魅力的なキャラクターなのだが、カリは現在合法的(?)にUS滞在が認められているけれど、その許可証は、ちょっとしたことがあればすぐに取り上げられてしまうようなもので、これは明確に現在のUS大統領の政策を反映した、あやうい立場であることが一つのカギとなっている。しかしまあ、USAという国家は、本当に、大丈夫じゃあないですな。密輸や殺人といった犯罪行為がいともたやすく行われており、どんなに真面目に暮らそうと思っても、そのすぐ横でこうした犯罪が日常茶飯事なのだから、どうにもならんでしょうな……と、平和な日本でぼんやり暮らすわたしは他人事のように、無責任に感じましたとさ。

 というわけで、もうクソ長いのでぶった切りで結論。
 「あの」Tomas Harris先生の10年以上ぶりの新作が、ポロっと発売になったので、さっそく買って読んでみた。その作品『CARI MORA』は、これまでのレクター博士モノとは全く別の完全新作で、そのこと自体には大変興奮したのだが、内容的には、多くの悪党がお宝をめぐって争奪戦を行う悪漢小説と言っていいだろう。それはそれで面白かったし、その争奪戦に翻弄?される主人公、カリ・モーラのキャラクターは大変魅力的だったのだが……なんつうか、若干消化不良のようなものを感じるに至った。おそらくそれは、多すぎるキャラクター全てを描き切れていない点に原因があるような気がする。もうチョイ、レクター博士とクラリスのような、そしてダラハイドとウィル・グレアムのような、頭脳バトルだったらもっと面白かったんじゃないかなあ……今回の悪党、変態ハンスがイマイチ頭が良くないのが残念です。主人公カリは、クラリスに匹敵するぐらい(?)魅力的な主人公だっただけに、残念感は強いです。以上。

↓ わたしとしては『羊』よりこちらの方が好きです。
レッド・ドラゴン (字幕版)
アンソニー・ホプキンス
2015-11-05

 わたしはもうほぼ完全(?)に電子書籍野郎にトランスフォーム完了しているわけで、いわゆる漫画単行本(=コミックス)は勿論のこと、小説に関しても、ほぼすべて、電子書籍で買って読んでいる。
 理由は様々あって、もちろんそりゃわたしだって、紙の本の方が圧倒的に好きだし、とりわけ小説の場合は、読んでいる分量が実感としてすぐわかること(電子は数値として分かるが実感に乏しい)、そして、すぐに、これって前に書いてあったな……とぱらまら前の方を参照できること(電子はページめくりがめんどい)、など、紙の本の方にもアドバンテージがあることはよく分かってはいる。
 だがしかし、現代の世の中において、わたしが電子書籍を選択する最大の理由は、「本屋の衰退」にある。どういうことかというと、おおっと新刊キタ!とかいう情報を得て、本屋に買いに出かけても、「マジかよ置いてねえ……!」という事態が非常に頻繁に起こるのである。
 そうなのです。わたしが電子書籍を選ぶ理由は、勿論「いつでもどこでも買えて便利だから」とか「買った本を置く場所がいらないから」という電子書籍のメリットも理由の一つだけれど、それよりなにより、「本屋に売ってねえから仕方なく電子書籍で買う」という理由の方が大きいのである。わたしは何でもかんでもAmazonで買うような人間ではない(そもそもAmazonはKonozamaを喰らって以来憎悪していると言ってもいい)し、本屋に行くことは大好きだ。だが、悲しいことに、街の本屋がどんどん衰退して、欲しい本が置いてない!! ことがあまりに頻繁に起きるのである。
 こんなわたしが、紙の書籍を買うのは、現状では2つの場合だけだ。1つは、最も愛するStephen King大先生の作品である。これはもう、本棚にずらりと並べて悦に入りたいからという理由以外にない。ちなみに電子でも買い直すほどの信者なので、これはもうどうにもならん習性だ。
 そしてもう1つは、もう単純に「電子では販売されていない」作品を買う場合だ。残念ながら未だ電子書籍に抵抗を感じている作家先生は存在しており、紙でしか販売されない作品もそれなりに多いのが現実である。
 というわけで、以上は前振りである。
 先日、わたしがずっとシリーズを読み続けている大好きな作品「ジャック・ライアン」シリーズの最新刊が発売になったので、よっしゃキタ! とさっそく本屋に出向いたわたしなのだが……。。。
 まず、わたしの大嫌いな新潮社という出版社は、きわめて電子書籍への対応が遅れており、おそらく近い将来、破たんするのではないかとにらんでいるが、「ジャック・ライアン」シリーズの版権を国内独占している新潮社は、当然のように電子書籍で販売していない。これはおそらく、担当編集が電子書籍の権利を獲得する努力をしてないか、獲れなかったか、あるいは新潮社の方針で最初から取得しないか、理由は謎だが、US本国では普通にKindle版が発売されているので、作家の意向(作家が電子はダメと嫌がる)では決してなく、単に新潮社の怠慢・無能・無策ぶりによるものであると推察する。
 なので、やむなく紙の本を買いに本屋に出かけたのだが……びっくりしたことに、最初に行った近所の一番デカい本屋では、なんと売ってなかったのだ。驚いたなあ……だって、新聞に広告が出てた当日に買いに行ったんだぜ? 信じられないよ。店員さんに聞いてみたら、平台にぽっかり空席があって、「ああ、すみません、売り切れてしまったようです……」だって。よっぽど配本が少なかった(=初版が少ない)んだろうな……。ちなみにこれは(3)(4)を買いに行った時の話だ。そもそも、いつも全4巻に分冊し、発売をズラす無駄な販売施策も実に気に入らないね。上下本同時発売で十分だろうに。
 というわけで、今回もまた、全4巻に分冊されて2カ月分割で発売されたジャック・ライアンシリーズ最新作が、『TOM CLANCY'S TRUE FAITH AND ALLEGIANCE』である。日本語タイトルは『イスラム最終戦争』とされている。まあ、完全に原題とかけ離れた日本語タイトルだが、分かりやすさとしては仕方ないので批判はしない。が、読み終わった今、やっぱり考えてしまうのは「真の信念(TRUE FAITH)」と「その信念に忠実であること(ALLEGIANCE)」の意味だ。
 本作では、3種類の悪党が登場するが、それぞれの思惑は完全に別物で、お互いを利用して自らの「真の信念」に「忠実」であろうと画策する。
 【1.イスラムジハーディスト】
 彼らは基本的に、いわゆるイスラム原理主義者でテロリストだ。わたしはその「原理主義」たるものに詳しくないので、彼らの行動がその主義とやらに忠実なのか、実は良くわからないのだが、憎しみと殺意に支配されている時点で、彼らを容認するわけにはいかないと思う。あまりに原始的すぎるというか……人類としてなんらかの進化が遅れているのではなかろうか。
 【2.ソシオパスのハッカー】
 そしてジハーディストたちに、US市民のパーソナルデータを渡すハッカー的人物の目的は、ズバリ「お金」である。幼少期の体験から、金こそすべてと思い込むようになり、USAという国家に深い恨みを抱いていて(その理由は自分にあるので完全なる逆恨み)、US国家を痛めつけることが最高に楽しいイカレたガキ。自らのことしか考えない完全なる反社会性パーソナリティー障害者。同情の余地は一切ナシ。
 【3.国家の利益のために暗躍するサウジアラビア人】
 彼は、ハッカー的人物からの情報をジハーディストに渡す仲介者なのだが、その狙いは実に単純で、現在US国家は石油を自家生産できるようになってしまい、アラブの油が必要なくなっちゃったわけで、原油価格は下落しているわけだが、サウジとしてはそれは(これまでのオイルマネーに守られた贅沢三昧の生活を続けるためには)死活問題なわけで、原油価格を吊り上げる必要があるわけだ。その手段として、USにはIS討伐のための全面戦争をしてもらい、イラク~シリアに地上部隊を派兵させたがっている。また、スンニ派のサウジにとってシーア派のイランは敵なので、US派兵はイランへのけん制にもなると。こうして考えると、国家戦略としてはまっとうのようにも思えるが、まあ、アウトですわな、世界の平和のためには。
 というわけで、これらの悪党どもに共通するのは、自らの「信念」に「忠実」であるためには、他人の犠牲は厭わない、つまり自分以外はどうでもいい、という思考だ。そういった自己の利益のみを追求し、あまつさえ殺人もいとわないという姿勢こそが、「悪」と定義せざるを得ないのだろうと思う。残念ながら現代の人類社会においては、容認できないものだ。
 そして一方、彼ら悪党と戦うのが、われらがジャック・ライアン大統領と「ザ・キャンパス」のごく少数のキャラたちである。本作およびこのシリーズを読んで、いつも思うのは、こんなたった数人のチームに守られているUSAって、どうなのよ? というぐらい、ダメ官僚が登場するし、明らかに違法というか超法規的な活動をするわけだが、ま、フィクションだし、読んでて痛快だから深く突っ込まなくていいんすかね。それにしても今回もまあ、数多くの人々が死んでしまい、大変痛ましいのだが……なんというか、本当にUSAという国はもうダメなんじゃないかと思うすね。
 しかし、彼ら正義の側と描かれる人々も、敵に対しては容赦なく、裁判なしでぶっ殺しまくるわけで、実は悪党どもと同じなんじゃないの? 何が違うの? という問いも当然投げかけずにはいられない。悪党は問答無用で殺していいのか? 単に信じるものが違うだけ、「信念」の違いだけで悪党どもを「悪」断罪し、自らを「正義」としていいのか?
 おそらく、彼ら主人公サイドの「信念」とそれに「忠実」であろうとする姿が一番の問題なのではないかと思う。そしてそれは何かと問われれば、わたしが思うに、彼らが信じるものは、たった一つで、「合衆国憲法に従うこと」がかれらの「信念」なのではなかろうか。
 実のところ、わたしは「合衆国憲法」を読んだことなんてないので、その内容は全く知らないのでその是非は問題としないが、少なくとも国際的に認められた国家であるUSAが定め順守している憲法は否定できないわけで、それを守り従うという「信念」もまた、否定できないし、悪とは思えない。
 そもそもUSAという国家は移民で成り立つ多民族国家なわけで、何をもってアメリカ人と規定するか、これって答えられますか? わたしは以前観た『BRIDGE OF SYPIES』という映画で、Tom Hanks氏演じる主人公がこう言ったのがとても印象に残っている。
 「アメリカ人とは、合衆国憲法を尊重・遵守する人のことを指すのだ」
 まあ、要するにそういうことなんだと思う。実際の行動は相当超法規的で「法律」からは逸脱しまくっているけれど、「憲法」は尊重し遵守しているからセーフ、なんでしょうな。ま、実にギリギリセーフというか若干アウトなのは大問題だけれど、人殺しを放置していいわけがなく、無責任な読者としては、悪党が殺られれば心の底からざまあとスッキリするわけで、そう言った点において、やっぱりエンタテインメントとして本作はとても面白かったと思う。
 というわけで、主なキャラをまとめて終わりにします。つうかキャラが多すぎるので、ごく少数にまとめたいけど無理かな……。
 ◆ジャック・ライアン:現役合衆国大統領。結構すぐにブチギレるけれど、まあ、ブチギレる事態が勃発しすぎてお気の毒です。どうやら任期もあと2年なのかな? 引退生活を待つ望むおじいちゃんキャラになりつつある。同盟国に圧力かけまくりで押し通すパワーは、US市民としては頼もしいのでしょうな。イランと中国とロシアが大嫌い。
 ◆ジャック・ライアン・ジュニア:大統領の長男で「ヘンドリー・アソシエイツ」に勤務する青年。かの名作『Patriot Games』事件の時、お母さんのおなかの中にいたのがコイツですな。基本的にゆとり小僧だが、前作でやらかして、現場工作員(戦闘員)からは離れ、本職のデータアナリストになるかと思いきや……本作でももちろん、戦闘に参加します。
 ◆「ザ・キャンパス」のメンバー:「ザ・キャンパス」とは、ヘンドリー・アソシエイツ(表向きは金融業)の真の姿で、政府機関に属さない独立諜報組織で戦闘行為も得意技。働いている人数は数百人(?)いるが、現場に出て工作活動(戦闘行為)に従事するのは、本作の開始時点では、クラーク、シャベス、ドミニク、ジュニアの4人で、クラークは指揮官として現場引退しているし、ジュニアもなるべく現場に出したくないので、実質的にはシャベスとドミニクの二人だけになっちゃった。元々はドミニクの双子の兄であるブライアン、それからブライアンの補充で入ってきたUSレンジャー(だっけ?)出身のサム・ドリスコルというキャラがいたのだが、二人とも残念ながら殉職してしまったのです。なので、本作では冒頭、人員補充が急務ということで二人の候補者が出てくる。なお、その候補者を挙げる時に、ジュニアはCIAのアダム・ヤオ君(米朝開戦などで大活躍したナイスガイ)を推薦するのだが、メアリ・パットと現CIA長官のキャンフィールドに、アダムはダメ、あげない! と拒否されたのが残念でした。というわけで、新たに「ザ・キャンパス」工作員チームに入ったのが……
 ◆ミダス:『米露開戦』かな、一度登場した男で、元US-Armyデルタフォースの指揮官。38歳。退役後、CIA入りを希望していたけれどポーランド系ということでCIAの身元調査が遅れていて、その隙にシャベスが推薦、クラークが直接スカウトに。本作では新人ということで活躍は控えめでしたが、かなり強そうな頼れる男っぽいすね。次回作以降の活躍を期待します。
 ◆アダーラ・シャーマン:ご存知「ザ・キャンパス」の運輸部長兼衛生兵兼兵站担当の超絶美人女子。ついでに言うとドミニクと付き合っているが、そのこともあってドムは本当は推薦したくなかったのだが……能力はもうずば抜けていることは我々読者にはお馴染みなので、とうとうアダーラも現場出動となってしまうのは、男としてはドムの心配もわかるだけに若干心配す。アダーラも今回はそれほど活躍せずでしたかね。
 ◆ISの悪党たち:普通の日本人的には驚きなのだが、今回、US国内でのテロを行うのは、ISのイエメン人に率いられた、れっきとしたUS市民なんだな。そいつらが原理主義に傾倒して、志願し、訓練を受け、テロリストとしてUS国内に戻って悪事を働くわけだが……その心理は全く理解できないすね。それはもちろん、わたしがここ日本で平和にボケっと暮らしているからなんだろうけど、彼らは例えば親しい隣人が巻き込まれることになっても、自爆ベストのスイッチを押せるものなのだろうか。わからない……とにかく、欧米諸国にはなるべく近寄らない方がいいんだろうな、としか思えないすね。誰がイカレたテロリストか分からないもの。まあ、無事に彼らは掃討されるので、良かった良かったということになるけれど、それにしても今回は犠牲者が多すぎますよ……。。。
 ◆アレクサンドル・ダルカ:ポーランド人。問題のソシオパス・ハッカー。まあ、「邪悪」と断ずるしかないでしょうな。でも、コイツは実のところハッカーではなくて、大量の個人情報ファイルをハックしたのは中国の依頼を受けた別の会社で、その会社からデータを盗んだのがこのダルカの勤めている会社で、ダルカは、そのデータをもとに、SNSなどの公開情報を使って、その人物の「現在」を割り出す作業をしていたわけですが、一番恐ろしいのは、SNSで自分や周りの人の情報を平気でさらし続けている一般ピープルなんだろうな、と思う。ホント、個人情報を平気でインターネッツに垂れ流し続ける人々の神経が理解できないですな。まあ、このダルカも無事にキッツイ運命に放り込まれたので、心の底からざまあであります。あのお仕置きはヤバいすね……どんなことになるかは是非本作をお読みください。
 ◆サーミ・ビン・ラーシド:サウジアラビア人。すべての元凶と言っていい悪党だと思うが、一方で前に書いた通り、自国の利益を最大化することに邁進しただけ、でもあって、そういう意味では有能な人物とも言えるかも。しかし現実世界では、USAとイランは超仲が悪いわけですが、サウジともいろいろあるんでしょうな。ジャーナリストを自国の大使館に拉致してぶっ殺す恐ろしい国だしね。この国にも行きたくはないですな。
 
 とまあ、この辺にしておきます。
 最後に、著者のMark Greaney先生について一言書いておくと、Greaney先生と言えば、わたしの大好きな『暗殺者グレイマン』シリーズの著者で、そっちの新刊もわたしは心待ちにしているのだが、なんと本作をもって「ジャック・ライアン」シリーズからは引退されるそうです。急逝されてしまった巨匠、Tom Clancy先生の後を継ぎ、ここまでシリーズを書き続けてくださって本当にありがとうございましたと申し上げたいすね。プレッシャーもすごかっただろうし、ホントにお疲れさまでした。ま、本シリーズは今後別の先生が引き継いで書いてくれることが確定しているので、そちらも楽しみにしつつ、Greaney先生の『グレイマン』新作も楽しみに待ちたいですな。『グレイマン』シリーズはわたしの大好きな早川書房から出ており、当然電子書籍版も発売されるので大変ありがたいす。また夏かなあ、次の新刊は。とても楽しみっす!

 というわけで、書いておきたいことがなくなったので結論。
 わたしがもう20年以上読み続けている「ジャック・ライアン」シリーズ最新刊『TOM CLANCY'S TRUE FAITH AND ALLEGIANCE』の日本語訳が『イスラム最終戦争』という捻りのないタイトルで発売になったので、さっそく買って読んだのだが、まあ、結論としてはちゃんと面白かったと思う。しかしなあ、もうライアン大統領は中国はやっつけたし。北朝鮮もブッ飛ばし、ロシアも片づけたわけで、今回のIS掃討が完了した後の敵はどこになるんでしょうかねえ。おおっと!? なんだ、もう本作の後に2作発売されてるじゃん!! ホント、新潮社の仕事はおせえなあ! しかもだぜ? 次作の『POWER AND EMPIRE』の相手はまた中国、そして舞台は今月開催のG20サミット(どうやら作中では大阪じゃなくて東京開催っぽいね)じゃねえか! 新潮社!! 今出さなくてどうすんだよ!! あーあ、さっさとシリーズの版権を早川書房様が獲得しないかなあ……というどうでもいい情報で終わりにします。以上。

↓こちらが次作、みたいすね。はあ……今すぐ読みたい。原書で読むしかないか……。

 数日前、このBlogのログを見ていたとき、わたしが新刊が出ると毎回せっせと感想を書いている『あきない世傳』シリーズの記事のPVがやけに上がっていることに気が付いた。そして電撃的に、これって、まさか……? と思い、すぐさま版元たる角川春樹事務所のWebサイトをチェックしてみると、まさしくその予感は当たっていることが判明して愕然としたのである。そう、2月に、新刊第(6)巻が発売になっていたのだ。

 うおお、まじかよ! 超抜かってた!! と思い、すぐさま本屋さんへ向かって確保し、帰りの電車から読みはじめ、翌朝、翌夕、そしてその次の朝、と、わたしの通勤電車2往復分で読み終わってしまった。わたしが電車に乗っているのは片道30分ほどなので、2時間ほどで読み終わったということだ。たぶんこれは、わたしがとりわけ早いわけではなく、おそらく誰でもそのぐらいで読めると思う。実にすらすらと読みやすいのが高田先生の作品の特徴だ。
 で。わたしは読み始めて、冒頭で、えっ!? と思った。そう、ズバリ言うと前巻のラストを完璧に忘れていたのである。そうでした。前巻は、非常にヤバいところで終わったのでありました。
 それを説明する前に、このシリーズのおさらいをざっとしておこう。
 本作は、現在の兵庫県西宮市あたりの村から、大坂は天満橋近くの呉服屋さん「五鈴屋」に下働きの下女として奉公に出た少女が、その持ち前の頭の良さと心の真っ直ぐさで成り上がってゆく物語で、実に現代ビジネスマンが読んでも面白いような、現代ビジネスに通じる様々な「あきない」ネタが大変痛快な物語なのであります。
 そして主人公・幸ちゃんは、まあとにかく凄い激動の人生を送っているわけですが、下女だったのに五鈴屋4代目と結婚し、「ご寮さん(=大坂商人の店主の奥方)」にクラスチェンジし、次に5代目、そして6代目とも結婚してようやく幸せになったかと思いきや……というところで、前巻(5)巻ラストで大変な悲劇に幸ちゃんは見舞われてしまったのでした。
 どうして結婚相手がころころ変わったかと言うと……
 ◆4代目:長男で放蕩野郎。店の金を使い込むクソ野郎。死亡
 ◆5代目:次男で商才はあるが人の気持ちを読まない残念系社長。取引先を激怒させ失踪。
 ◆6代目:三男。作家を夢見るだめんず野郎だけど人としては超イイ奴。
 という感じで、商才盛んな幸ちゃんが自らもう、女社長としてバリバリやればいいんだけど、それが出来ない理由があって、結婚せざるを得なかったわけです。それは、大坂には「女名前禁止」という謎ルールがあって、大坂においては「女は店主になれない」というもので、現代風に言うと男しか代表取締役の登記が出来ない、のです。だから、どうしても男の社長を立てる必要があるわけですな(一応その理由は、女に財産分与して資産隠しや税逃れをする奴がいたから禁止になったらしい)。
 時代背景としては、1731年だったかな、そのぐらいから始まって、最新刊である本書(6)巻では1751年ぐらいまで経過していて、幸ちゃんも少女から現在28歳まで成長している。これは、高田先生の『みをつくし料理帖』が最終巻の段階で1818年ぐらいだったはずだから、それよりも70年近く話で、ついでに言うと『出世花』の2巻目が1808年ぐらいの話だから、やっぱりそれより50年以上前ってことになる。ちなみに、『みをつくし』は1802年ぐらいから始まるので、主人公・澪ちゃんと『出世花』の主人公・正縁ちゃんは江戸の町ですれ違っててもおかしくないぐらいの時代設定だ。
 なんでこんなことを書いたかと言うとですね、そうなのです。ついに! 幸ちゃんが江戸に進出することになったのです!! この、江戸進出はもう既に前から野望として描かれてきたのですが、この、大坂の女名前禁止をどうしても打ち破ることが出来ないなら、江戸進出を急ごう!ってなことで、急がなくてはならない理由、それは前巻ラストでブッ倒れた6代目が逝ってしまったからなのです。
 というわけで、本作(6)巻は、いきなり6代目の初七日の模様から始まります。わたしは6代目がブッ倒れたことを完璧忘れたので、最初のページを読んで、えっ!? と思ったのでした。まあ、すぐ思い出したけど。
 で、今回の物語は、江戸店のオープンまでの様子が描かれるわけですが、今回は、現代ビジネス的な面白エピソードは1つだけかな。それは、江戸店オープン前の宣伝告知活動だ。
 幸ちゃんはバリバリ関西人で、もちろんお店の仲間たちも同じ関西人。当然、江戸の町ににも商慣習にも不案内で、だんだん理解していくことになるわけだが、「引き札(=現代で言うチラシ)」はやらず、彼女の取った方法とは――てのが今回一番面白かったすね。幸ちゃんは今までも、宣伝告知活動には色々な策をとって来て、それがいちいち現代風で面白かったけれど、今回の策も、大変良かったと思います。もちろん、その作戦は大成功で、オープン当日から江戸店にはお客さんがいっぱい来てくれて、ホント良かったね、と思いました。
 あと、今回から、幸ちゃんは本格的に「太物(ふともの=木綿製品)」も扱いを始めようとする。これは常識かも知れないけど、わたしは愚かなことに本作シリーズを読むまで知らなかったのだが、いわゆる「呉服」ってのは、「絹100%製品」のみを指す言葉なんすね。大坂の五鈴屋本店が加盟しているアパレル業界団体は、あくまで呉服屋組合であるため、木綿製品は扱うことが出来ないこともポイントで、江戸の組合にはそんな縛りはない、ってのも、江戸店出店の動機の一つもでもあるわけです。
 さらに言うと、幸ちゃんの出身地では、綿花の栽培が特産でもあって、木綿は絹よりも圧倒的に安いし、洗えるし軽いし、と使い勝手がいい、要するにコストパフォーマンスに優れているわけで、「買うての幸い、売っての幸せ」を目指す幸ちゃんは、木綿に大変思い入れがあるわけですな。
 あ、あと、今回幸ちゃんが江戸店の、商品ディスプレイに工夫する話も面白かったすね。まあ、やっぱり、こうすりゃいいんじゃね!? とひらめく瞬間はとても気持ちいけれど、普通のサラリーマンにはそれを実行するにはいろんな邪魔が入るわけで、上司に恵まれないと、毎日毎日同じ作業を繰り返すことを仕事と勘違いすることになるわけだが、ま、お店を出すことの面白みの一つでしょうな、そういうひらめきの快感は。大変今回の(6)巻も楽しめました。

 というわけで、さっさと結論。
 大変抜かっていたことに、わたしがシリーズをずっと読んできた『あきない世傳』の新刊が、なんと1カ月以上前に発売になっていたことにハタと気が付き、慌てて買ってきて読んだわけですが、まあ、今回も大変面白かったと思う。これからは江戸を舞台に、またいろんなビジネスプランが展開されるんでしょうな。そしてわたしとしては、主人公幸ちゃんに幸あれと思うわけです。ところで、今後の展開としては、確実に妹の結ちゃんも江戸にやってくることになるだろうし、おそらくは、失踪した5代目と江戸で再会することになるんじゃないすかねえ……。そもそも江戸進出は5代目の夢でもあったわけだし。5代目が現れた時、幸ちゃんはどうするんすかねえ……今さら元サヤはないよ……ね……? どうなるんだろうなあ。そのあたりは、これからもシリーズを読み続けて、楽しみにしたいと思います。つうか、ハルキ文庫も電子で出してくんねーかなあ……。そうすりゃ100%買い逃すことないのに……。以上。

↓ 五鈴屋江戸店は、浅草の近くの「田原町」にオープンです。現代の今は仏具屋さんがいっぱい並ぶあの街っすね。銀座線で浅草の隣す。


 というわけで、今週の『もういっぽん!』であります。
 このところサボっていましたが、もちろんわたしは毎週楽しみに読んでおります。このところの著作権法の動きからして、わたしのBlogは完全アウトじゃねえか、という気がしていたので、なんだかキーボードをたたく手が止まってしまうような、若干アレな世間的風潮でありますが、今週は書かざるを得ない、素晴らしい展開でありました。
 今週号の週刊少年チャンピオン2019年第15号では、すでにインターハイ予選も終わり、柔道部の3人組は高校1年1学期の中間テストの時期であります。そして、先週号では、テストに向かって勉強に励む? 主人公、未知の様子からスタートしました。
 親友の早苗ちゃんは入試トップ合格、そして永遠ちゃんも成績優秀、さらに、わたしがイチオシの剣道部の南雲ちゃんも中学時代は元生徒会長で学年ヒトケタランカーです。そんな中、未知は青葉西高校補欠合格ということで……まあ要するに未知だけがバイヤーのズイマーなわけで。そんな様子が冒頭描かれましたが、先週の本命は、ようやく「南雲ちゃん(主人公)回」で、南雲ちゃんの切なげな表情の理由?に迫ろうかという?回でありました。
 わたしとしては、とにかく南雲ちゃんの、未知を見つめる眩しそうな、そして切なそうな表情が最強にグッとくるわけで、先週号では南雲ちゃんに関するいろいろなことが明かされたのです。
 まず、南雲ちゃんの家庭は、どうやらお父さんが南雲ちゃんを溺愛していて(そりゃこんなかわいい娘なら誰だってそうなるよ)、父も剣道をやっていたとか。そして父の果たせなかったインターハイ(=全国)出場に大喜びのお父さんが描かれました。
 さらに、南雲ちゃんはきちんとお家で勉強する賢い子である様子も、描かれました。この、夜、真面目な顔で机に向かって勉強している表情も良かったすねえ!
 そして、きっと遅くまで勉強頑張ったんでしょうな、あくびをしながら、まだ誰も来ていないような時間に登校すると、体育館からバンバァンという男が聞こえてくるじゃあないですか。?と思う南雲ちゃんがのぞくと、そこには、未知が一人で受け身?の練習中。どうやら未知は、勉強に煮詰まったのか、体を動かしてリフレッシュ中だった模様です。
 ここでの、未知を見つめる南雲ちゃんの表情も超最高ですよ! くそう、画像を載せたい!
 そして未知は南雲ちゃんに、インターハイ予選で大活躍した南雲ちゃんのことを、もう直球で誉めまくりです。超すごかった、カッコ良かったなあ~、と。未知は南雲ちゃんに言います。
 「初めて会った頃からず~~っと頑張ってんもんな~」
 そんなことを言われた南雲ちゃんは、ちょっと恥ずかしそう。そして柔道部の次の目標が福岡で開催される「金鷲旗」であることを聞かされた南雲ちゃんは、未知に言います。
 「もし…もし私が…剣道部やめるって言ったら…どう思う?」
 とまあ、こんな、な、なんだってーー!? な台詞で先週は終わりました。これを受けての今週の第20話「めちゃめちゃ」であります。はーー前置きが長すぎた……。
 さて、南雲ちゃんの衝撃的な台詞は、実は体育館の外でのぞいていた早苗ちゃんと永遠ちゃんの耳にも聞こえたようです。そして未知も、いやいや、なにいってんの、と突っ込みますが……南雲ちゃんの表情はどうも冗談ではない、真剣な表情。ここの表情もイイんすよ! そしてページをめくると……また「なっとらん!!」のあのゴツイ先生の登場です。うおぃ! 邪魔すんな! 
 慌てて逃げる未知と南雲ちゃんですが、ちょうど夏目先生も登校したようで、その横を走って通り抜ける二人。未知は「夏目先生おはざーす!!」とお気楽ですが、南雲ちゃんは夏目先生を見て、以前夏目先生が言った言葉を思い浮かべていました。
 「たった3年間の貴重な時間 棒に振るようなことになったら辛いからね」
  まあ、高校生にとって3年間はながーーく感じるだろうけど、おっさんになるとあっという間なんだよなあ……。。。でも、そのあっという間かもしれない3年間は、後の人生で宝物になる可能性が高いわけで、おっさん読者としては後悔はしてほしくないわけですよ……南雲ちゃん、君は一体……とか考えながらページをめくると、どうやらお昼休み、購買のカツサンドが売り切れでしょんぼりする南雲ちゃんですが、おばちゃん曰く、あの子が買った2つがラストだったとか。そのあの子とは、永遠ちゃんでありました。永遠ちゃん、アンタ何で柔道着着てるんすか!? ハッ!? 「勇気を出して」何かしようということですか!?
 というわけで、永遠ちゃんに1つ譲ってもらって二人してカツサンドを屋上でぱくつくの図であります。南雲ちゃんのスマホには、お父さんから、おじさんもインターハイ応援に来るぞ、とのメッセージが。どうやら南雲家は南雲ちゃんのインターハイ出場に盛り上がっている模様です。
 そしてオドオドな永遠ちゃんが声をかけようとしたところで、南雲ちゃんがかぶせ気味に声をかけます。あんた、変わってるよ、全国行けるぐらいの実力があるのに、あんな弱い奴と部活やるために同じ学校に来るなんて、と。
 この時、実は二人は仲良く肩を並べてカツサンドを喰っていたわけではありません。永遠ちゃんは入り口付近に座り、南雲ちゃんは屋上のへりから、下を見ていたようです。その視線の先には、未知が竹刀で男子のケツにカンチョーしてる様子が。未知、お前何やってんの!w 
 すると永遠ちゃんもヘリにやってきて、言います。それは、今までオドオド過ぎて、いろんな後悔をしてきた、けど、「もう…後悔したくなかったから…」青葉西に来たという言葉。そして続けて言います。
 「私…南雲さんが羨ましい あの時も…いや…いつも…いつも自分の気持ちに正直で…堂々と行動してて…カッコいいから…」
 ま、そんなこと言われちゃ照れますわな。南雲ちゃんは、やっぱあんた変わってるわ、と言ってクールに去ります。南雲ちゃん、あんたホントに素晴らしい女子高生だよ! 
 そして場面は夜、お風呂に入っている南雲ちゃんの図です。風呂の中でもスマホをいじる南雲ちゃん。そこには、未知と南雲ちゃんの、いままでのいろんなツーショット写真が。と、そこにまさに未知から着信です。風呂に入ってんだけど、と言う南雲ちゃんに、お構いなしでしゃべり始める未知。しかし内容は、今朝の南雲ちゃんの「剣道部やめるって言うとしたら……」発言に対する回答でした。
 未知は言います。南雲がマジならいいんじゃん? めちゃめちゃ頑張ってめちゃ強くなったわけじゃん? そんくらい、あんた剣道めちゃ好きなわけじゃん なのに、そのあんたがもしマジでやめるって言うとしたら たぶん、いや絶対、ほかにめっっっちゃ好きなもんでもできたってことじゃん? だったら しゃあなくね?
 未知よ、お前は天然でそういうことが言えるんだな……そういうところが、お前のすごいところなんだよ! そしてそんな言葉を聞かされた南雲ちゃんの表情は、もう最高、極上、この上なしにかわいいじゃあないですか! まあ、未知はその「好きなもん」を、彼氏でもできたのか、とこれまた天然のボケをかますわけですが、最高っすね、この二人は。
 そして庭で竹刀を振るお父さんに、決意の表情で南雲ちゃんは言います。
 「パパ 大事な話がある」
 と、今週はここで幕切れでありました。
 なんつうか、最初からずっとわたしが気に入っていた南雲ちゃんの主人公回は、わたしにとっては、控えめに言って最高の神回であります。来週いかなる決断をお父さんに告げるのか、超楽しみですなあ!! こんなに次号が楽しみなのはマジで『鮫島』以来っす!

 というわけで、結論。
 今週の『もういっぽん!』は、先週から続いての「南雲ちゃん回_Part 2」でありました。そしてどうやら、南雲ちゃんの決断が来週描かれるようで、大変楽しみであります。まあ、誰がどう見たって、南雲ちゃんは未知が大好きなわけで、ある意味、百合的な展開とも言えそうですが、わたしとしては素直に、女子高生同士の友情物語を楽しみたいすね。まさかの柔道部入りはあるのか? どうなんでしょうなあ……チャンピオンのコミックスは基本9話収録なので、先週の19話から第3巻収録なんでしょうな。コイツは……単行本は紙と電子、両方で買わないといけないようだな……(1)巻の電子しか買ってないので、紙も買ってこよう、と思うわたくしであります。くそう、来週号が今すぐ読みたい!!! 以上。

↓ というわけで(1)巻は絶賛発売中であります。 おっと! Amazonでは(2)巻の予約も受付中っすね。これは買いです!





 去年劇場公開された映画『孤狼の血』を、まんまと劇場で観逃してしまい、先日やっとWOWOWで観て、こりゃあ面白い、劇場に観に行かなかったワシはホントダメじゃのう……と思ったわけだが、そのことを会社の若者に話したときの会話は以下の通りである。
 わたし「いやー、『孤狼の血』やっと観たんだけど、すっげえ最高だったね。マジで劇場に行くべき作品だったよ。超抜かってたわ……!」
 若者「お、観たっすか。おれ、劇場で観たっすよ。いやあ、マジ最高だったすね。続編が楽しみっすねえ!」
 わたし「えっ!? 続編!? やるの!? マジで!?」
 若者「いや、わかんねーすけど」
 わたし「なんじゃい! でもアレだろ、原作小説があんだから、そっちの続編が先に出ないと……」
 若者「いや、だからその小説の続きが出たんすよ。アレじゃないかな、去年映画が公開されるちょっと前じゃなかったかな、単行本で出たはずっす」
 わたし「うぉい! マジか、全然知らんかった! 超抜かってた!!」
 というわけで、わたしと若者はその場ですぐ調べて、あ、これっすね……と見つけたのが柚月裕子先生による『孤狼の血』の正統なる続編『凶犬の眼』という作品である。
凶犬の眼
柚月裕子
KADOKAWA
2018-03-30

 わたしはこの本のことを知って、約60秒後にはすぐさまその場で電子書籍版を買ったのだが、実は、ポチっと購入する15秒前には、ちょっと待て、原作の『孤狼』を先に読んだ方がいいんじゃね? という逡巡があった。だが……ええい、いいんだよもう! 今すぐ読みたいの! という欲がまさって購入に至り、読み始めたのである。
 結論から言うと、この判断は、ナシではなかったとは思うけれど、やっぱり本来的には小説原作の『孤狼』は読んでおいた方がいい、と思った。というのも、どうやら映画『孤狼』と、原作小説『孤狼』とでは、若干設定や物語が違うらしい、と思えるような点が、『凶犬の眼』を読んでいるといくつか見受けられたからである。
 例えば映画『孤狼』で江口洋介氏がカッコ良く演じた、おっかない若頭「一之瀬」というキャラは、ラストで物語の主人公である日岡くん(以下:広大=広島大学出身のため「ひろだい」と呼ばれている)に裏切られることになるが、どうやら原作小説ではその展開はなかったらしく、『凶犬』では広大と信頼関係が続いていることになっていた。また、映画では真木よう子さんが演じた恐ろしくエロいクラブのママは、『凶犬』では登場せず、全然別の小料理屋のおかみさんが出てきて、どうやら真木ようこさんの演じたあのキャラは映画オリジナルで、小説では『凶犬』のおかみさんがその役に相当する、みたいな、微妙な違いがチラホラ出てくるのである。
 なので、やっぱり小説の『孤狼』を読んでから『凶犬』を読む方が正しい行為だとは思うのだが、映画を観た後すぐに『凶犬』を読んだわたしでも、『凶犬』という小説はとても面白く、大変楽しめた作品であったのは間違いないのである。
 というわけで、物語をざっとまとめてみよう。
 物語は『孤狼』の事件の2年後が舞台だ。それはつまり、世は平成となっており、主人公の広大こと日岡秀一巡査は1年前から広島の山奥の駐在所勤務である。要するにあの事件の後始末が終わったところで、いろいろ「知りすぎた男」の広大は警察にとっても都合の悪い存在で、へき地勤務に飛ばされたのだ。そんな、ある意味鬱屈していた毎日を平和に送っていた広大くんは、ある日、私用で広島市内にやってきていて、ちょっと寄り道となじみの小料理屋で飯を食う。するとこそには、あの一之瀬がなにやら客と話し込んでいて、その客は、全国指名手配中の男だった。一之瀬は、マズいとこ見られちゃったな、と思いつつも、やむなく、広大のことを警官だけど信頼できる男だし、あの「ガミさん」の一番弟子だ、と客に紹介する。すると客は、「まだやり残したことがある。それが終わったら、必ずあんたにワッパをかけてもらうよ」と約束。広大は、その男の眼を見て、その約束を信じるがーーーてな展開である。
 どうですか。少なくとも映画『孤狼』を面白いと思った人なら、読みたくなるでしょ。わたしとしては本作でのポイントは2つあって、まず一つは、とにかく広大くんがきっちり「ガミさん」の教えを守って大きく成長している点だ。肚が坐ってるんすよ。非常に。とてもカッコいいし、非常に共感しやすいと思う。そしてもう一つは、本作の最大のポイントなのだが、その客の男がやけに「仁義」の男で、これまた大変カッコイイんだな。凶悪な人殺しの極道で、純然たるBAD GUYなのに、完璧に筋が通っていて、広大くんならずとも、男なら誰しも、心魅かれてしまうような人間なのです。頭もイイしね。こういう、二人の筋の通った仁義の男の行動ってのは、もう鉄板というか、読んでいて実に気持ちのいいものだ。
 
 というわけで、以下は完璧ネタバレなので、知りたくない人はここらで退場してください。絶対知らないまま読む方が面白いと思いますので。



 はい、じゃあイイですか?
 最終的に、広大と極道の男は、「兄弟」分として強く結ばれるわけだが、その過程がとても共感できる流れだったと思う。その盃を交わした瞬間、冒頭で描かれる旭川刑務所で話し合う二人が何者かがわかる仕掛けになっていて、それが分かった時は、そういうことか、と思わず最初を読み直してしまうほどだったすね。実にお見事でした。
 最後に、キャラ紹介を短くまとめて終わりにしよう。
 ◆日岡秀一:主人公。『孤狼』で「広大」と呼ばれていた彼も、もはやそう呼んでくれるガミさんは亡くなっているので、本作では広大と呼ばれるシーンはありません。田舎の駐在所に飛ばされて、ちくしょうと思っていて、指名手配犯を逮捕して県警本部に戻る野望を胸に秘めている。基本的に今でも善人ではあるけれど、ガミさんに叩き込まれた、毒には毒を、の気持ちも習得しているし、世の中は清濁併せ呑むことで成立していることを骨身にしみて理解している。そんな彼が、極道と盃を交わす決断の瞬間も、ガミさんならどうしたか、を考え、行動に移すわけで、実に男らしかったと思う。わたしは映画版を観終わった時、きっと現在の広大は、50代半ばを過ぎて、警察機構の中で出世してるんだろうな……と妄想していたけれど、本作の事件を経て、さらに広大は大きく成長しただろうな、と思います。
 ◆国光寛郎:読んでいるとかなりおっさんな印象を受けるけれど、まだ30代半ばだったはず。高校時代からやんちゃだったが神戸商船大学に進学するなど頭はイイ。が、あっさり辞めて極道入り。極道に入ったのも、とある親分に人間として惚れたためで、金を稼ぐのが上手いインテリヤクザとして活躍していたが、仁義を絶対に守る男として、親分のために人殺し&服役も経験。現在日本最大規模の抗争の首謀者として逃走中。彼がやりたいのは、親を守ることとケジメをつけることで、それが叶えば満足。自分がどうなろうとも……な男。まあ、読んでいれば誰だって、広大のようにコイツを外道とは思えなくなってしまうでしょうな。極めて筋が通っていてカッコイイ。手下にも大変優しいのもポイント高し。そして手下たちも、国光に惚れているため、まったく道に外れたことはしようとしない、極道だけどイイ奴らです。
 ◆晶子:ガミさん行きつけの「小料理や志乃」のおかみさん。今では広大の行きつけに。どうやらこのキャラが、映画版で真木よう子さんが演じた里佳子さん、なのかも。元々一之瀬(?)の奥さんだったのかな? 元極道の妻で、とても面倒見のいいおかみさん。美人に間違いないでしょうな。映画版にも出てきた、ガミさん作成の警察内部の不正をまとめたノートは、広大が晶子さんに預かってもらっている模様。広大はいざとなればその極秘資料があるので、今頃は警察で成り上がっててほしいすな。なんかこの設定は、『新宿鮫』に似てますな。
 ◆一之瀬守孝:現在は尾谷組の組長になっている。映画版では広大に見事はめられて裏切られたけれど、ありゃどうも映画オリジナルなのかもしれない。本作では、広大を信頼しているし、広大も一之瀬を信頼している、っぽい。まあ、信頼と言っても、お互いを利用しているだけなんだけど、本作では何かと情報源としてチラホラ登場します。ちなみに、映画版でピエール瀧氏が演じたギンちゃんこと瀧井銀次も冒頭に登場します。元気そうで何よりです。
 ◆畑中祥子:広大の勤務する駐在所近辺の豪農の娘で女子高生。頭がイイ。父親は広大と祥子を結婚させてがっていて、祥子の家庭教師を広大にやらせている。そして祥子も、広大が大好きなのでまんざらでもなし。しかし、彼女の「女」としての本能は、広大に会いに来た晶子の姿を観てめらめらと嫉妬の炎を燃やしてしまい……な感じ。わたしはまた、彼女が人質とか、ひどい目にあわされるんじゃないかと心配でならなかったのだが、全くそんなことにはならず、むしろ彼女の攻撃?の方が事件を大きく動かす結果をもたらしてしまったことに大変驚いた、というか、祥子も立派な女だったな、と腑に落ちたっすね。恐らく超絶カワイイ女子だと思います。
 他にも登場人物は多いけど、上記を押さえておけば大丈夫だろう。
 
 というわけで、結論。
 映画『孤狼の血』を劇場で観逃して、やっとWOWOWで観て、くっそう、コイツは最高に面白いじゃねえか、劇場に行かなかったおれのバカ! とか思っていたわたしだが、会社の若者にその続編小説『凶犬の眼』という作品があると聞いてさっそく読んでみたところ、まず第一に、とても面白かったと思うし、こりゃあ最初の小説版『孤狼の血』も読まないとダメなんじゃね? と現在思っている。仁義を通す、ということは、何も極道の世界だけでなく、平和にのんきに暮らす我々にも求められてしかるべきだと思うけれど、まあ、なんと世には「仁義」を守らない奴の多いことか。実に嘆かわしいというか、そういうクソ野郎には本当に頭に来ますな。本作で描かれた二人のように、「仁義」なるものを通すには、相当の代償が必要となるわけで、まあ実際難しいことも多いのだが……それでもやっぱり、だからと言って「仁義」を守らないクソ野郎にはなりたくないっすね。たとえどんな艱難辛苦があろうと、仁義を最優先で生きていきたいものです。というわけで、本作はわたしは大変楽しめました。実にカッコイイす。以上。

↓ そのうちちゃんと読もっと。ガミさんが小説ではどんな感じなのか、楽しみっす。
孤狼の血 (角川文庫)
柚月裕子
KADOKAWA
2017-08-25

 はーーー……面白かった……。
 そして、もうくどいけど、何度でも言います。
 わたしが世界で最も好きな小説家は、Stephen King大先生である!
 というわけで、先週買って来たKing大先生の日本語で読める最新刊『REVIVAL』を実質4日で読み終わってしまった……はーー……ホント、終わりそうになると、もう終わりか……と悲しくなっちゃうわたしだが、もちろんのこと結末を読みたい気持ちに勝てるわけもなく、あっさりと最後まで読み切ってしまったわけだが、のっけから結論を言うと、超面白かった! けど、若干ラストの後味はビターというか、何となくモヤッとしているのがアレかなあ……と感じている。
 まずはもう一度、買ってきたときに興奮しながら張り付けた書影をのっけとこう。そして、以下は完全にネタバレに触れると思うので、まだ読んでいない人はここらで退場してください。
revival
 しかし、改めて思うに、この日本語タイトルは、極めて微妙というか、ギリギリOK、な気がしている。確かに、日本語として『心霊電流』といわれると「な、なんだそれ!?」と、とても興奮するのは間違いない。そういう意味ではいい日本語タイトルじゃん、とは思う。おまけに、最後まで読み終わった今となっては、たしかに内容には合致しているとも言えそうだ。
 でもなあ……US原題の『REVIVAL』から遠すぎるというか……まあ、対案が出せない言うだけ詐欺なので、タイトルに関してはもう何も言うまい。いずれにせよ、さっさと文春が日本語版を出してくれたことには感謝したいが、それでも、やっぱり遅いんだよな……ちなみに本作『REVIVAL』は、去年大興奮した『END OF WATCH』より前の2014年に刊行された作品で(END OF WATCHは2016年刊行)、既にもう長編は2作品発表されているし、今年の9月にもさらに新刊が予告されているので、文春でもどこでもいいから、さっさと日本語化してもらいたいものだ。つうか、やっぱり英語で読めってことかも知れないな……。
 ともあれ。
 本作『REVIVAL』は、久しぶりに(?)King大先生ワールドにかかわる若干ホラーチックな部分のある作品で、わたしとしては大変楽しめたわけだが、冒頭に書いた通り、エンディングは若干モヤッとしている。物語としては比較的単純で、本作は現在(2017年かな?)60歳を超えた男が、6歳のころからの人生を振り返る年代記的なものである。そして6歳の時に出会った牧師がその後何度も主人公の人生に現れ、謎の「電流治療」を行うことによって起こる、謎の現象が物語のキーとなるお話で、一体全体、この「電流治療」によって牧師は何を求めているのか、がカギとなっている。ちなみに牧師は、主人公と出会った3年後に牧師を辞めちゃうので、正確には牧師じゃない、つうか、神を憎むようになってしまうけど。
 で。わたしが読んでいてい一番困ったというか、むむ?? と何度も前に戻って確認してしまったのは、回想が結構飛び飛びに語られていて、え、じゃあ、アレはこの事件より後? とか、編年体で描かれていないのが若干読みにくかったような気もする。いや、読みにくさはないんだけど、サラッと読んでいると、ふと、じゃああれって……と、気になってしまうのだ。
 わたしは、つい頭にきて、おもわず年表を作ってしまったほどなのだが、その年表は、あとで乗せようと思います。その年表の前に、登場人物をまとめておいた方がいいと思うので、最初はキャラからまとめてみよう。
 ◆ジェイミー:主人公。5人きょうだいの末っ子。物語の冒頭の1962年時点で6歳(8月生まれなので冒頭の10月には6歳にすでになってる)。後にミュージシャンとなるも、ドラッグ漬けのダメ人間となるが、1992年にジェイコブス牧師と再会、謎の「電流治療」を受けてドラッグ依存から回復。その後音楽スタジオに就職するが、ジェイコブスとの縁は最後まで切れず、とんでもないエンディングへ……。
 ◆ジェイコブス:ジェイミーと初めて会った時は牧師。当時25歳ぐらい?らしい。そしてその3年後、大変な悲劇に遭い、信仰を捨てる。その後は、自らを魅了してやまない「神秘なる電気」の研究をしながら全米を放浪し、各地で見世物的な奇術師→インチキ霊能牧師となって多くの人を「治療」することで金を稼ぐ(そしてその金は全部研究につぎ込む)。そして、ついに稲妻の電流パワーと、自らの命を代償として「その先」を見ることに……。ズバリ、ネタバレですが、なんと「妖蛆の秘密」まで言及され、まごうことなきクトゥルフ展開となって超絶衝撃的!! 本作は冒頭に多くの作家への献辞がささげられてますが、もちろんラヴクラフト大先生の名もあって、まさかの展開でした。そして献辞の作家の筆頭に挙げられているのはメアリー・シェリー。もちろん、「フランケンシュタイン」ですな。その意味も、本書を読めば理解できます。
 ◆クレア:ジェイミーのお姉ちゃん。5人きょうだいの一番上。わたしの計算では多分8つ年上。美人でやさしいが、のちに悲しい運命に……(※ただしクレアの悲劇は本筋には関係ない)。どうでもいいけど、本書では「姉貴」と訳されていたけど、わたしなら「姉さん」と訳しただろうな……。みんなの自慢のお姉ちゃんなので、なんとなく雰囲気的に。
 ◆アンディ:ジェイミーの兄(5人きょうだいの2番目)。わたしの計算ではたぶん6つ年上。信仰心の篤い男。ほぼ出番ナシ。のちに51歳でガンで亡くなる。
 ◆コンラッド:ジェイミーの兄(5人きょうだいの3番目)。通称「コン」。4つ年上。兄弟では一番よく言及される。頭がイイし、運動神経抜群。のちにハワイの天文台勤務。最後まで存命。4つ上。
 ◆テレンス:ジェイミーの兄(5人きょうだいの4番目)。通称「テリー」。2つ年上。一番父になついていて、現在実家を継いで故郷のメイン州ハーロウに住んでいる。ちなみにハーロウは、King大先生作品でお馴染み「キャッスル・ロック」のすぐそば。
 ◆父と母:父は年齢不明だが80過ぎまで生きた。燃油販売業を興した人で、かつては貧しいこともあったがその後は裕福に。母は1977年ぐらい(?)に51歳でがんで死去。
 ◆アストリッド:ジェイミーの初恋の女子で初体験の相手。可愛く美人。結構イケイケ系。大学入学で付き合いは自然消滅。しかし2014年に約40年ぶりに再会することに……
 ◆ヒュー:ドラッグを克服したジェイミーが就職したスタジオの社長。実はヒューも、1983年にジェイコブスと出会って「治療」を受けていた。
 とまあ、主な重要人物としては、上記で十分かな。
 で、出来事を年表にまとめたのが以下です。どうTableタグを駆使してもスマホで閲覧するとガタガタになっちゃうので、頭にきてJPEG画像にしてみた。
REVIVAl_year_l
 USの学校は9月はじまりだし、誕生月の影響もあってか、どうもズレているような気がするけど、大体合ってるのではないかと思う。
 さて、もういい加減クソ長いので、以下にわたしが思ったポイントをまとめて終わりにしよう。そのポイントとは、ズバリ言うと「King大先生ワールドとの関連」である。
 1)JOYLANDとの関わり
 上記の表に書いた通り、なんとジェイコブスは一時期JOYLANDでも奇術師的なショーをやっていた模様。それがいつのことかは書いていなかったが、小説『JOYLAND』で主人公が学生時代に働いていたのが1977年だったと思うので、すれ違っていたかも、である。わたしは、ひょっとして『JOYLAND』にジェイコブスがチラッと出てたのかな? とか思って『JOYLAND』をパラ見してみたけど、どうも存在は確認できずであった。
 2)Itとの関わり
 どうやら、ラストに現れる謎の昆虫めいた存在は、「It」なのかもしれない。わたしはその展開に大興奮して、はっ!?と年代に注目したのだが(そのために上記年表を作ってみたともいえる)、『It』の子供時代編が1958年、大人編が1985年なので、ドンピシャでは全然なかった。そして1985年から「27年後」は2012年なので、これも若干ズレている。なお、2年前公開されてウルトラ大ヒットとなった映画版『It』は子供時代編が1988年に変わっていたけど、それとも一致せずでした。なので、だから何だという結論はないけど、なにも「It」がメイン州デリーだけにいたとは限定出来ないかもしれず、とにかくわたしとしては「It」の登場に、やっべええ!!と大興奮したっすね。
 3)その他の作品との関わり
 まあ、謎の邪悪な存在が「日常のすぐ隣にいる」的な世界観はKing大先生にはお馴染みの設定で、本作のクリーチャー的存在でわたしが思い出したのはやっぱり『The Mist』や『From a Buick 8』あたりの作品だ。そして本作で言及された『妖蛆の秘密』は、『Salem's Lot』での重要アイテムでもある。
 しかし、電流による覚醒(?)によって「何かが起こり」、その世界への扉が開いちゃう的な展開は、わたしとしては超最高だとは思ったものの、本作は開いた扉を慌てて閉じて、ふーーあっぶねえ……で終わってしまったわけで、その、ふみ込み具合がわたしとしては若干物足りないというか、モヤッと感じた最大の要因のような気がする。
 本来?と言うのもおかしいけれど、エピローグで語られる「治療」経験者たちのその後、の方が事件として興味深くて、主人公がそれを知って、探っていくうちに、少年時代のあの牧師の存在が明らかになって、その謎を解き明かしていく――的な流れもアリだったのではなかろうか。つうか、どうもエピローグで「その後」をさらっと流されちゃったのが、少し物足りないような気もするんだよな……。
 そして思うに、ジェイコブスは狂っていたとはいえ、誰だって、亡くした愛する者のREVIVAL=復活につながるなら、何にだってすがるんだろう。そもそも死者のREVIVALというモチーフは『PET SEMATARY』でもKing作品ではおなじみだし。ジェイコブスの場合は、たまたまそれが「神秘なる電流」だっただけで、おまけにそれが人の謎パワーを増幅して病気を治してしまうと知ったら、そりゃ使うだろう。たとえそこに、深刻な後遺症があっても。結局、本作ではその後遺症についての明確な解明はなかったように思える。一度でも「向こう側」と繋がっちゃったら、絶望して生きていけなくなるってことなのかな……わたしとしては、その後遺症をもうチョイ深く描いてほしかったような気がします。
 ま、とはいえ、やっぱりKing大先生の描く「少年時代の回想」というのはめっぽう面白かったので、結論としては大満足、であります。

 というわけで、もうクソ長いので結論。
 わたしが世界で最も愛する小説家、Stephen King大先生の日本語で読める最新刊『REVIVAL』(日本語タイトル「心霊電流」)が発売になったので、即買って読んだところ、結論としては超面白かったと言いたい。が、若干のもやもやが残るエンディングで、超傑作判定は出来ないかな……。ただ、この物語はとても映像映えすると思いますね。映画あるいはTVシリーズになるような気がします。なんつうか、わたしとしては若干ジェイミーのキャラに反感を感じたのかな……イマイチ好きになれない奴であったような気もする。むしろジェイコブスの方が共感しやすいような……宗教なんて、安心を与える生命保険と同じだ、というセリフには考えさせるものがありましたな。まあ、いろいろ書いたけど、結論としては、KING大先生のファンならば、今すぐ本屋へ行って買って読むべきだと思います。文庫化を待っても意味ないすよ。数百円しか違わないし、そんなの特急料金と思えば、今すぐ読んで興奮する方をお勧めします。わたしはすっかり電子書籍野郎に変身しましたが、本作は電子書籍だとさらにお安く買えます。が、わたしはKING大先生の作品は本棚に並べて悦に入りたいので、紙の書籍で買いました。ぜひ、紙でも電子でも、今すぐ読んでいただきたく存じます。以上。

↓ このところ、電子だと紙より200円以上安い本が多いんだよな……。お好みでどうぞ。
心霊電流 上 (文春e-book)
スティーヴン・キング
文藝春秋
2019-01-30

心霊電流 下 (文春e-book)
スティーヴン・キング
文藝春秋
2019-01-30

そしてすでに発売済み、だけど日本ゴミ翻訳はこちらの2作です。あらすじが超そそる……早く読みたい!!
Sleeping Beauties (English Edition)
Stephen King
Hodder & Stoughton
2017-09-26

The Outsider (English Edition)
Stephen King
Hodder & Stoughton
2018-05-22








 このBlogでもう30回ぐらいは書いていると思うが、今回も言おう!
 わたしが世界で最も好きな小説家は、Stephen King大先生である!
 そして日本語で読める最新刊が1/30(水)発売と、文春から発表されたときの喜びは極めて大きく、昨日本屋に寄ったら思いっきり売っていたので、さっそく買ってきたのであります! やったーー! 超嬉しい!!
 US原題は『REVIVAL』。わたしは今回、まったくどういう内容の作品か、あらすじすら読まずに買って、読み始めているのだが……相変わらずヤバイすねえ! この、日本語タイトルをご覧ください!
revival
 なんと文春から発売された日本語版は、『心霊電流』という、超そそる謎のタイトルになっております!! 心霊……電流……な、なんのこっちゃ?? US原題の『REVIVAL』と併せて考えると……復活的な? 電気でビリビリ的な……? と全く謎の妄想がわきますが、現在<上巻>の90ページほどを読んでいる段階で、とある人物が電気にやけに詳しいというか、電気に並々ならぬ興味をもっていて、そしてはやくも超悲劇が勃発しており、こ、こいつはページをめくる手が止まらねえ! 状態になりつつあります。
 というわけで、今日は、都内のデカい本屋さんならもう売ってるよ!の第一報まで。そして、ヤッバイほど面白そうな展開で興奮が止まらん! 状態であることのご報告でありました。

 というわけで、さっさと結論。
 わたしが最も愛する小説家Stephen King大先生の日本語で読める新刊『REVIVAL(日本語タイトル「心霊電流」)』が発売になっていたので、さっそく買って読み始めたわたしであります。実は、発売を知ったのは、わたしが愛用する電子書籍販売サイト「BOOK☆WALKER」から、新刊出ますよメールが先週届いたためなのだが(ありがとうBW!)、当然、King大先生の作品は紙で、単行本で、出たらすぐ!買うことにしております。なぜって!? そりゃあもう、早く読みたくて我慢できないからですよ! 文庫化まで待ってられんのです!! 特急料金として高くてもいいんだよもう。それではお先に堪能させていただきまーす! 以上。

↓ もちろん電子版は発売日がきっちり守られており、配信は明日1/30からです。そして電子版の方が200円以上安いみたいです。でもわたしは本棚に並べて悦に浸りたいので、King大先生作品だけは「紙」っす!
心霊電流 上 (文春e-book)
スティーヴン・キング
文藝春秋
2019-01-30

心霊電流 下 (文春e-book)
スティーヴン・キング
文藝春秋
2019-01-30

 出版界において、ある出版社から刊行されていたある作品が、時を経て別の出版社から再び出し直される、ということはフツーにあることだ。ま、元の出版社からすればいろいろ思うことはあるだろうけど、別に読者にとってはほぼ関係ない。ちょっとだけ困るのは、出し直されたときにタイトル変更をされると、やった、新刊キタ!とか喜んで買って読んだら、これもう読んだやつじゃん!ということが分かった時のイラ立ち感は、経験したことのある方もおられるだろう。わたしもあります。つうか、タイトル変わってないのに、新刊かと勘違いして買ったことすらあるっすね。まあ、ちゃんと奥付近くに「本書は●年に●文庫から刊行されたものを改題したものです」とか書いてあったりするけれど、買うとき気が付かなきゃアウト、である。自己責任なんだろうけど。
 というわけで、わたしがずっとシリーズ第51巻まで読み続けた時代小説『居眠り磐音』シリーズが、元々刊行していた双葉社から、どういう経緯か知らないけど、今年の2月から文藝春秋社に移籍して出し直されることとなった。そして恐らくはそれを盛り上げるため?に、このお正月に文春文庫から『磐音』にまつわる「書き下ろし新刊」がまさかの発売となったのである。まあ、シリーズを愛してきたわたしとしては、これは買って読まない理由は皆無であり、さっそく楽しませていただいたわけである。
 そのタイトルは『奈緒と磐音』。まあ、このタイトルだけで、ファンならば「おっ!?」と思うだろう。わたしはマジかよ、と思った。主人公磐音の幼少期からの幼馴染であり、許嫁であり、悲劇によって引き裂かれてしまった奈緒。ここで奈緒と磐音の物語かよ、これは……切ない予感がするぜ? なんて思い、コイツは読みたいぜ欲がムクムクと立ち上がったのであります。

 しかし―――もう最初にズバリ言っておくと、物語はわたしの想像とまるで違っていて、本書は1754年~1770年ごろの、主人公磐音が9歳の頃から江戸勤番で佐々木道場に入門して1年半ぐらい過ぎたころまで、が描かれていて、折々の出来事が語られる5つの短編から構成されるものであった。
 なお、上記の年代は、本書のP.262に、1769年に24歳の磐音が初めて江戸に行ったことが書いてあったので、逆算したものです。なので、±1年ズレてるのかも、です(そして以下、この情報から年を逆算して記しています)。
 では、さっそく本書の感想をまとめていきたいのだが、その前に、自分用備忘録として簡単に年代と磐音の年齢を記しておこうかな。ちょっと既刊本が手元にないから確かめられないので、ホント単純逆算です。そしてネタバレにも触れてしまうかもしれないので、まだ読んでいない方はここらで退場してください。ファンならば、こんなBlogを眺めるよりも、今すぐ本屋さんへ行って買って読んだ方がいいと思います。
 ◆1772年:磐音27歳:『磐音』1巻での悲劇が起きた年。
 ◆1795年:磐音50歳:『磐音』51巻の年かつ『空也十番勝負』の開幕、だったと思う。
 ◆1798年:磐音53歳:『空也十番勝負』最新刊の時代。空也20歳でいいのかな(?)
 ええと、なんでこれを書いておいたかというと、前述の通り本書はある意味短編集なのだが、それぞれのお話の冒頭は、磐音が還暦を過ぎていて(=1805年以降ってことになる)、穏やかな毎日を過ごしつつ、若き日を回想する、という形式をとっているためであります。つまり、還暦をすぎた磐音が暮らす江戸には、まず間違いなく空也くんが武者修行を終えて帰ってきている可能性が高い、とわたしは思ったのだが、勿論本書には、空也くんは一切登場しません。そりゃまあ、ある意味当然でしょうな。登場したら十番勝負の方が台無しになっちゃうしね。ま、読者としては、無事に修行を終え、眉月ちゃんと幸せにしている思いたいですな。
 さてと。それでは本書で語られたエピソードをまとめておくか。
 【第1話:赤子の指】
 磐音9歳の頃(1754年)の話。磐音・慎之輔・琴平の三人が湾内の無人島へ、いわばキャンプに行くお話だ。幼い3人組は、どこの道場に入門するかということがもっぱらの関心事で、各々考え方が違っていて、三人それぞれの性格が良くわかるエピソードになっている。また、この段階で早くも『磐音』シリーズ序盤の大問題、関前藩の財政破綻と宍戸文六の暗躍もほのめかされていて大変興味深い。なんつうか、ズバリ言ってしまうと、磐音の生涯でずっと続くことになる苦労は、ほぼすべて藩主たる福坂実高の無能によるものだったわけで、ある意味、主を選べない侍ってのもつらいですなあ……ホントに。そして磐音は9歳にしてすでにしっかりしたお子様だったことが分かるこのお話は、大変面白かったと思います。そしてタイトルにある「赤子」とは誰なのか、は読んでお楽しみください。ここも大変良いエピソードでありました。運命って奴なんですかねえ……。
 【第2話:梅雨の花菖蒲】
 磐音13~14歳の頃(第1話の4~5年後=1758~1759年ぐらいか?)の話。ちなみに磐音の母は、妹の伊代ちゃんを妊娠中。お話としては、いよいよ三人が中戸信継先生の神伝一刀流道場に弟子入りした日に起きた出来事が描かれている。さらに、ここでは琴平の家の窮状や、奈緒(4歳!)の「磐音様のお嫁になります」宣言なんかもあって、たれこむ暗雲の気配と後の悲劇への序章的な、なんとも心苦しい部分も感じられて、ちょっとつらい気持ちになったす。
 【第3話:秋紅葉の岬】
 磐音17歳(1762年)の話。豊後15家の大名家が数年に一度、主催する大名家の城下に若侍を集めて「豊後申し合い」というトーナメントをしていて、それに磐音たち三人が関前藩福坂家代表として出場するお話である。この時すでに磐音の剣術家としての基礎というか、ベースがしっかり築かれている様子が語られるけれど、まだ磐音は、これでいいのか、と絶賛悩み中でありました。そしてこの話でも、小林家の窮状は悪化していて、ホント、読んでいて、こりゃあいろいろとマズいなあ……と後の歴史を知るだけに、気の毒な想いがしました。かと言って、磐音はこの時に出来る、おそらくは最善のことをしたわけで、後の悲劇を避けるための分岐点はとうに過ぎていたんだなあ……的なことも感じたお話であった。
 【第4話:寒梅しぐれ】
 磐音22歳(1767年)の話。関前に100年に一度ぐらいの大雪が降った日のこと。そんな雪の中、他の門弟はみんな来れない中、中戸先生の道場にやってきたのは磐音一人。磐音は中戸先生の提案で雪見酒をご相伴するが、その時中戸先生は、いよいよ江戸勤番が決まりかけた磐音に対し、とある極秘ミッションを託すのだった―――的なお話で、この雪見酒の半年後に初めて磐音は中戸先生から「そなたの構えはなにやら春先の縁側で居眠りをしている年寄り猫のようじゃな」といわれたそうです。そしてこの話のラストは、磐音初めての真剣勝負が! 大変面白かったすね。そして、この話で初めて、後の磐音と行動を共にすることが多くなる中居半蔵様が登場して、わたしは興奮しました。この頃からの付き合いだったんですなあ。
 【第5話:悲劇の予感】
 磐音24歳(1769年)で初めて江戸勤番として東上し、佐々木玲圓先生と会い、住み込み弟子となる。そしてそれから1年半後には、関前から慎之輔・琴平も江戸へやって来て合流、住み込みをやめて通い弟子となって、藩政改革の第一歩を踏み出した頃のお話。もうタイトル通り、悲劇の予感ですよ……。
 
 とまあ、こんな5話構成で、なるべく肝心なことは書かなかったつもりだが、とにかく思うのは、磐音というキャラクターは本当に子どものころからよく出来た人間で、すげえや、ということです。そして本書は、そんな磐音が、どうしてそうなったのか、ということも分かるような物語になっている。しかし、一つだけ、タイトルの『奈緒と磐音』が示すような、奈緒との大恋愛エピソードのようなものはなくて、生まれた時からの縁、のようなものだったのがやや心残り……かも。何といっても、奈緒は生まれた時から磐音が大好きで、ずっと一途に惚れぬいている。そして磐音もその想いに応えていた、というような感じで、とりわけきっかけめいたものはなかった。
 でも、だからこそ、のちの悲劇と数奇な運命が残酷に感じられるのかな……。いずれにせよ、磐音は子供のころから凄かったというのがはっきりとわかるお話であり、わたしとしては大変楽しめましたとさ。
 ところで! この『居眠り磐音』と言えば、かつてNHKでドラマ化されていたわけですが(わたしは全然観てませんでしたが)、ついに! 映画化が決定ですよ! しかも磐音を演じるのは、わたしが若手俳優で一番イケメンだと思っている松坂桃李くんです。カッコイイ……けど、どうなんだろう、磐音にあってんのかな……そして他のキャラはどうなのかも気になるし、これは観に行って確かめようと思います。予告によればシリーズ2000万部だそうで、それすなわち、印税は、640円×10%×2000万部=12億8千万円てことですな。すげえなあ! 本当にスゲエや! 


 というわけで、さっさと結論。
 双葉社から文春文庫へ移籍となる『居眠り磐根』シリーズ。物語は完結しているし、現在では磐音の息子、空也くんの新シリーズが展開されているわけだが、移籍&出し直しに合わせて、磐音の子供のころから青年期にかけての書き下ろし新作が発売となった。タイトルは『奈緒と磐音』。二人は大変な悲劇に見舞われ、結ばれることはない、という運命を知っている我々読者としては、幼少期の奈緒と磐音、そして慎之輔や琴平の、懐かしい過去を読むことができたのは大変うれしいことであり、実際大変面白かったと思う。悲劇の裏には、故郷関前藩内部の権力闘争があったわけだが、ま、ズバリ言うと藩主である福坂実高が無能だったわけで、のちに奥さんの反乱(というべき?)も出来して、ホントダメな殿様だと思うな……。しかし、かつての親友との日々を読むと、ホントに『磐音』1巻の悲劇が悲しいすね……なんか、また51冊、読み返したくなりますな。文春版を買い直す気はまったくありませんが。以上。

↓ 文春の「決定版」とやらは来月発売です。


 はーーー……やっぱ面白いすなあ……
 というのは、今朝読み終わった小説の感想である。そうです。わたしがずっと読み続けてきた『居眠り磐音』シリーズの続編ともいうべき『空也十番勝負』最新刊が発売になったので、すぐさま買って読み始め、もったいないからちょっとずつ……とか思ってたのに、上下巻を3日で読み終わってしまったのでありました。たまには書影を載せとくか。こちらであります。
kuuya05


 というわけで、もはやこのBlogでも散々書いてきたので詳しい説明はしないが、本作『空也十番勝負 青春篇 未だ行ならず<上><下>』は、磐音の息子、坂崎空也くんの武者修行の旅を追ったもので、今回は5作目となるわけだが……上記に貼りつけた写真の帯に書かれている通り、「完結編」と銘打たれている。なので、わたしはその「完結」という文字を見た時、おいおい、十番勝負なのに、5番勝負で終わりなの? うそでしょ!? うそって言ってください佐伯先生! ぐらいわたしは大きなショックを受けた。
 この「完結」ということに関しては、ズバリ言うと<下巻>のあとがきに佐伯先生自身の言葉で理由が明確に記されているので、まあそちらを読んでいただければと思う。ただし、本編を読み終わった後に読んだ方がいいと思いますよ。そして、せっかちな方に申し上げておくと、あくまで「青春篇」の完結であって、空也の旅はまだ続くものと思われますので、ご安心いただければと思う。つうかわたしが安心しました。
 さてと。物語としては、前作の続きで、平戸から長崎へ向かい、五島で出会った長崎会所の高木麻衣ちゃん、そして対馬で出会った長崎奉行所の鵜飼寅吉くんと再会し、長崎に結構長く逗留することになるのだが、その逗留期間で空也くんが出会った人や出来事、そして当然、空也くんを狙う東郷示現流の酒匂一門との対決へ、という流れで締めくくられる。まあ、それはもう、シリーズを読んできた人なら誰でも想像がつくことですな。そしてもちろん、愛しの眉月ちゃんとの再会もあるし、一方そのころ江戸では、という部分も丹念に描かれ、薬丸新蔵くんのその後も描かれるのだが、まあとにかく、今回は上下巻ということで、様々な出来事が起こり、非常に読みごたえのある物語だったと思う。
 今回は物語の流れについて記すのはやめにして、本作を読んで、わたしの心に残った出来事について、箇条書きでまとめておこうと思う。書いていく順番は、物語の流れとは一致しません。単に思いついた順に記します。
 ◆福岡藩士・松平辰平はさすが空也の兄弟子ですよ!
 空也くんが長崎へ到着し、長崎には福岡黒田家と佐賀鍋島家が長崎警護のために詰めている、ということを知って、わたしとしては当然、かつて自らも武者修行の旅に出て、途中で磐音一統に合流した佐々木道場の弟子、松平辰平くんが登場するものかと思っていた。辰平くんは、博多のとあるお嬢さんと恋に落ちて、黒田家に仕官して福岡住まいとなったのに、『磐音』シリーズのラストで磐音たちが九州にいた時は入れ違いで江戸に赴任していたため、空也くんの旅立ちには立ち会えなかったのがわたしはとても残念に思っていたのだが……いよいよ長崎で会えるか!? と期待したわたしの考えは、まったくもって甘すぎたのであります。どういうことかというと、ズバリ、会いたい、けど会えない、けどやっぱり会いたい……という思いの詰まった「ぶ厚い」手紙だけを託して、辰平くんは空也に会いに来なかったのです。それは、空也が物見遊山で長崎にいるわけではなく、武者修行の身であり、そんな旧交を温めてる場合じゃねえ、と思うからなわけです。さすが辰平、こういう点が、空也にとっては尊敬する兄弟子なわけですよ。あれっすね、これが利次郎だったら、きっと普通に会いに来てるでしょうな。そして辰平の手紙に書かれていた「初心を忘れるな」が空也くんの胸にも響くわけです。真面目な朴念仁だった辰平らしいと、わたしはとてもグッと来たっすね。
 ◆狂剣士ラインハルトとの死闘は意外と(?)大事だった。
 前々巻で闘ったラインハルトは、長崎会所と長崎奉行所のおたずね者で、空也くんは見事勝利したわけだが、そのことは結構大きなことだったようで、空也くんは長崎の様々な場所で、あのラインハルトを倒した男か、と歓迎を受けることになる。中でも印象的だったのは、出島の阿蘭陀商館からも大歓迎を受けて、オランダ製(?)の短刀を頂くことに。この時、空也くんは麻衣ちゃんが用意した南蛮衣装を着せられていて、その情景が非常にわたしの脳裏に印象に残ったすね。ちなみにその衣装と短刀は、江戸へ向かった眉月ちゃんに託され、磐音やおこんさんのもとに届けられました。この、眉月ちゃんと磐音たちの対面も、とても良かったすね。そうなのです。今回、とうとう眉月ちゃんは江戸へ戻ることを決意し、まずは長崎へ行って空也くんと再会したのち、眉も長崎に残りとうございます、的な泣かせることを言いながら、江戸へ先に向かったのです。超積極的な眉月ちゃんと空也くんが江戸で再会できるのはいつの日でありましょうなあ……その日が楽しみですなあ……。
 ◆長崎と言えば……奈緒どのの悲劇のスタート地点でしたなあ。
 作中時間で20数年前、身売りした奈緒が最初に連れていかれた場所であり、そして、その後を追って若き磐音が、医者の中川順庵先生とともにやってきた地でもあるわけです。しかし奈緒の超絶美人ぶりに、こりゃあ長崎じゃもったいない、江戸の吉原へ、とすぐに連れていかれ、長崎には数日しかいなかった奈緒。そして入れ違いに会えなかった磐音。そして磐音は、奈緒が描いた絵と句を見て運命の残酷さを知った若き日。今回、そのかつての悲恋がちょっとだけ触れられ、そんなことは全く知らなかった空也くんは初めて父の若き日のことを知るわけです。このエピソードは、今回折に触れて語られ、わたしとしては非常に時の移ろいを感慨深く思ったし、空也の心のうちにも、非常に大きなものを残したようですな。大変結構なことかと存じます。
 ◆武左衛門、お前って奴は本当に……。
 今回、江戸パートでは、新蔵が新たに自分の道場をたてることになるけれど、江戸の人間からすると新蔵の道場は土間で稽古も裸足という点で、ちょっとアレだなあ、と全然弟子希望者が集まらないような状況に。そこで武左衛門が、かわら版屋にテキトーで盛りに盛った話をして、そのおかげで弟子殺到、みたいな展開となるのだが……ホントに武左衛門よ、お前って奴は……まあ、ある意味今回は結果オーライだけど、わたしはこの男を『居眠り』シリーズの時からどうしても好きになれないす。こういう奴って、ホント、いるんだよなあ……いつの時代も……。
 ◆憎しみの連鎖は、一体どうすれば……酒匂家の運命は……。
 空也くんと新蔵には非はないとしても、憎しみや恨みというものは理屈ではないわけで、今回も当然、酒匂一派に狙われているわけだが、本当にどうしようもないことなんだろうか……。
 酒匂家当主:空也1番勝負で敗北。尋常な勝負であるときちんと理解していた。
 長男:謎に包まれた酒匂家最強剣士。今回とうとう登場。結果は本編を読んでください。
 次男:江戸在府の剣士。今回、新蔵に挑む! 結果は本編を読んでください。
 三男:兄弟で一番体がデカイ剣士。空也2番勝負で敗北したが、空也に一太刀浴びせ重傷を負わす。
 しかしまあ、なんというか、死をもってしか決着できないというのは、現代人としてはとても悲しく、つらいすね……。剣術は、どうしても「人殺しの技術」に過ぎないんすかねえ……だとすれば、それを極めようとするってのは、非情に尽きるのかなあ……。
 今回の空也くんは、端的に言えば「武者修行」ってなんなんだ? という壁に突き当たることになる。折しも時代は銃や大砲が実用化され、武力としての「剣術」も、形骸化しつつある世の中だ。そんな時代に「剣の道」を征こうとする空也くん。おまけに言うと、空也くんは、武者修行と言いながらも、相当な超リア充でもあって、行く先々で人々の好意に助けられ、お互い愛しあう人もいて、さらに今回の長崎では、そのリア充ぶりは拍車がかかっているようにも思える。カステイラを食して喜んでる場合じゃないだろうにね。
 こんなリア充の空也くんが、いかんいかん、こんなんじゃダメだ、と思うのは、自らが命を狙われているからであって、逆に言うと、酒匂一派との因縁がなければ、果たして空也くんは厳しい「武者修行」を続けることが出来たのだろうか、という気すらしてくる。空也くんは、当然のことながら無用な戦いはしたくない、けれど、命を狙われている状況だからこそ、武者修行にも魂がこもる、とも思えるわけで、わたしは今回の空也くんの悩み?に対して、実に皮肉だなあ……と感じたのでありました。まあ、その皮肉な運命にケリをつけようと、空也くんは今回長崎へ来たとも言えるわけだが……この後どうするのか、続きがとても楽しみですなあ!
 ◆「捨ててこそ」とは?
 この言葉は、武者修行を行う空也くんが一番心に留めているものだ。「捨ててこそ」。超リア充である空也くんには、いろんな「捨てたくない」ものがあるはずで、眉月ちゃんへの愛、そして偉大なる父に感じる無意識のプレッシャーなど、背負っているものがいっぱいある青年だ。決して、失うものなど何もない、ような状況ではない。そんな空也くんが思う「捨ててこそ」とは、一体いかなるものか。これが、わたしが思う本作の最大のポイントである。本作を読んで、わたしはまだ空也くんが悩みまくっているように思えたし、そりゃ当たり前だとも思っている。だからこそ、本作はタイトルが「未だ行ならず」なわけだしね。
 空也くんは、高野山の奥で生まれたことから、大師様=空海からその名を「空也」と名付けられたわけだけど、「くうなり」とも読めるのがわたしとしては大変興味深い。仏教でいう「空(くう)」。この概念をわたしは理解しているとは言い難いし、大学時代、「空」について卒論を書いた哲学科の友達の受け売り程度の知識しかないわたしだが……別に全てを捨て去ることが「空」ではないと思うのだが……空也くんの考える「捨ててこそ」は、若干、命すら投げ捨てる方向のようにも感じられて、かなり心配である。まあ、それが正しい解釈なのかどうか分からないけど……難しいというか、まだわたしにはわからんすね……。とにかく思うのは、空也よ、お前は絶対に、生きて江戸に戻らないとダメなんだぞ! という親心のようなものです。きっとそれは、この作品を読んでいる人全員が思ってることだと思います。

 というわけで、もう長いしまとまらないので結論。
 シリーズ5作目にして最新作『空也十番勝負 青春篇 未だ行ならず<上><下>』が発売になったのでさっそく買って読んだところ、やっぱおもしれえなあ、というのが第一の感想でありました。そして主人公・坂崎空也くんの5番勝負が終わったところで、作者の佐伯泰英先生のあとがきによれば、次作の刊行はちょっと時間が空くらしいことが判明した。「青春篇」はこれにて完結だそうで、続く「再起篇」を期待したいですな。しかしなんつうか、わたしとしては長崎会所の高木麻衣さんが大変気に入っております。間違いなく美人でしょうな。空也くんはホントにリア充だなあ……。リア充で武者修行が出来るのかはともかく、ホントにマジで! 生きて江戸へ戻って来るのだぞ! そして眉月ちゃんの愛に応えるがいい! その日を楽しみにしたいと存じます! 以上。 


↓ なんと!『居眠り磐音』は文春文庫から出し直し&双葉文庫版は絶版になるらしく(?)、その新装版刊行に合わせて、こちらの描き下ろし新作も発売になるそうです。マジかよ……文春め……!

 というわけで、今週の『もういっぽん!』であります。
 先週はサボりましたが、今週はやります。今週のタイトルは「どっきどき」。まあズバリ言うと、いよいよインターハイ予選当日の朝の、それぞれの「どっきどき」な模様であります。
 冒頭、いつもおとなしい永遠ちゃんが、一人電車内で何やらスマホを見てにんまりしているご様子。そうでした。永遠ちゃんだけ、遠くに住んでるのでした。思うのは、家でお母さんとのやりとりです。お風呂上り、スマホ片手にニヤつく永遠ちゃんですが、お母さんの話によると、私立の推薦を蹴ってまで埼玉県立青葉西高校へ進学したのだとか。それが心配だったお母さんですが、ニヤける娘、永遠ちゃんを見て、良かったみたいねと一安心。好きな男でもできたかとお母さんはツッこむものの、永遠ちゃんがニヤけていたのは、仲間の柔道部員、未知と早苗ちゃんとのグループラインであります。
 まあ、友達ができてうれしいんでしょうなあ。それはつまり、今まではそういうことがなかったってことなのでしょう。大変結構なことであります。
 と、そんなことを思い出して一人電車に乗る永遠ちゃんの前に、来ました! 南雲ちゃんの登場です! 上半身はジャージ&ジップを上までしっかり締めたりりしい姿の南雲ちゃん。下は制服のスカートですが、南雲ちゃんはストイック系&強気系剣道部員。
 「な~~んだ アンタか…って顔 すんなっつーの」
 とよく分かっていらっしゃるご様子。若干気まずげな永遠ちゃん。南雲ちゃん曰く、剣道部も同じ場所でインターハイ予選で、期待のルーキーである自分が5年ぶりに女子剣道部をインターハイに連れて行く、と強気なお言葉です。そして、若干優しげな表情で言います。
 「柔道部は! あんたが連れてってやりな」
 そのタイミングで電車に乗って来る未知&早苗ちゃん。
 「あの2人とじゃきついだろうけど」
 と若干ヤレヤレな南雲ちゃんに、永遠ちゃんは言います。
 「そうかな…とっても心強いよ」
 二人を見つけて満面の笑みで寄って来る未知。まあ、この笑顔にはパワーがあるわけですよ! ちなみに未知のいでたちは、ジャージ&Tシャツ&下は制服スカート、とテキトーな感じ、そして早苗ちゃんは眼鏡っ子真面目女子なので、きっちり制服を上下着こなしております。そして永遠ちゃんは、ジャケットの代わりにカーディガンですが、きちんとブラウス&リボンタイと制服着用です。この違いも、性格が出てますなあ!
 そして会場に到着。そこにはすでに夏目先生がスタンバイ。おおっと、夏目先生は白シャツ&黒のパンツスーツという「SP」の真木よう子さん的なファッションで大変颯爽としています。そして当然会場にはいろんな学校の柔道部員がいて、未知は勝手な品評会をしています。ドキドキが高まってまいりました! おおっと、どうやら早苗ちゃんは緊張でみんな強そうとネガティブ方向へ。でも、未知を高校でも柔道に誘ったのは早苗ちゃんなわけで、
 「しっかりしなきゃ…わたしが言い出しっぺなんだから…うう…ケガするイメージが次から次に沸いてくるよ…」とドキドキは加速です。中学時代は試合で骨折した経験のある早苗ちゃんですが、イカン、トイレに直行だ!w なんか『ぺダル』の鏑木くんみたいすねw
 と、そんな3人ですが、前からやってきたのは! あれは永遠ちゃんの中学時代の! 来ました、霞ヶ丘高校の3人組です! 永遠ちゃんはまたも困ったフェイス。怒れるツインテールでお馴染み、天音さんが「約束通り中堅で出てくるよね?」と詰め寄ります。永遠ちゃんの困ったフェイスは一層曇りますが、未知は永遠ちゃんのバックから柔道着を取り出し、むりやり上だけ永遠ちゃんに着せました。
 そうです。いつもオドオドぎみの永遠ちゃんは、柔道着を着ると「ちょっとだけ 勇気が出る」のであります。それを覚えていてくれた未知の想いに応えるように、キリッとした表情で永遠ちゃんは、おっかないツインテール天音さんに宣言します!
 「青西の中堅は私…氷浦永遠です」
 とまあ、そんな感じでいよいよインターハイ予選開幕!で今週はおしまいでした。
 なるほど……何かやっぱり各キャラの表情が豊かでいいですなあ……しかし、物語はこののち、どう進むんすかねえ……スポコン的シリアス展開なのか、日常系のほっこり系なのか、想像がつきませんが、わたしとしてはこの可愛い娘っ子たちの青春をしばらく追いかけようと存じます。

 というわけで、結論。
 今週の『もういっぽん!』は、いよいよインターハイ予選開幕直前の、各キャラクター達の「どっきどき」な心情が描かれ、また、永遠ちゃんの決意的な、キリッとした表情が描かれました。まあ、完全にお父さん目線で読んでいるわたしとしては、怪我しないよう、魂燃やしてらっしゃい! と見守りたく存じます。しかし、やっぱり絵がとてもイイすね。大変魅力的なキャラクター達の、それぞれの表情が大変良いと思います。そして南雲ちゃんがやっぱりイチオシっすね! 以上。

 というわけで、2回にわたって「今週の『もういっぽん!』」なる記事を書いてみましたが、今週号はわたしが気になっているキャラクター、南雲ちゃんが出てこなかったのでお休みにしよう、と思い、今日は書くことねーや、と思っていたところ、さきほど、コイツが秋田書店から届いたので、写真だけ載せておこうと思うに至りました。見て下さい! ジャジャーーン!!
ku-ryu-
 いや、今自分で書いといて「ジャジャーン!!」はねえだろ、とか思いましたが、そんなことはどうでもいいとして、来ましたよ! 『鮫島』最終巻の帯に告知されていた、『空流Tシャツ』であります! 白と黒の両方買ったりました! サイズはSにしてみましたが、さっき試着してみたところ、まあ丁度良し、でありました。わたしは身長172cm体重55㎏なんすけど、Tシャツはやっぱチョイ小さめの方が絶対カッコイイと思うわけで、成人男としては若干ほそ目なわたしにはSで十分でありました。デカいTシャツってすげえカッコ悪いと思うんすよね。ピツピツもダサいけど。
 しかしまあ、季節は冬まっしぐらであり、今、このTシャツをゲットしても実際困っちゃうわけですが、半年後ぐらいすかね、春から夏にかけて、マジでわたしはコイツを普通に着て、街を闊歩しようと存じます。前から見たら分からんだろうし、背中の「空流」も、分かる人に分かれば十分だし、分からん人に「何だアレ?」と思われても全然どうでもいいし。コイツを着て国技館へ相撲見物に行きてえなあ!

 というわけで、結論。
 発注から2カ月で届いた『空流Tシャツ』。なんか嬉しいす。わーい! 以上。

↓ しかし今年の九州場所は……わたしの愛する松鳳山関は勝ち越しどころか10勝まで星を伸ばせたのは超嬉しかったとしても……上位がアレだと、やっぱりなんか、アレっすね……


 というわけで、今週の『もういっぽん!』でありますが、今朝、こんなニュースを見て、これはわたしのBlogも、やっぱり法に抵触しているのだろうか……という気もしております。
漫画あらすじ無断投稿 投稿者情報の開示命じる 東京地裁
 なので、かつての『鮫島ニュース』では、もう本当に興奮してしまったがゆえに、作中の台詞も大量に引用していましたが、今後は控えめにしようと存じます。それでもアウトなら……書くのをやめるしかないのかなあ……。これでも応援しているつもりなんですけどね……

 さて。
 今週の『もういっぽん!』は、巻中カラー扉です! いい絵ですなあ……。そしてまずは、未知&早苗&永遠の三人の、トレーニングに挑む苦しげな表情の3分割アップから開幕です。なにやら三人とも、ぬぎぎ…・・と力が入っている様子。ど、どした!?
 そしてページをめくると、そこは見開きです。なるほど、みんなで古タイヤを引っ張って走る、下半身強化中のご様子。柔道部らしいと言えばらしいけど、いまでもそういうトレーニングってやってるんですな? 顧問の夏目先生の監督の元、頑張る三人ですが、やっぱり永遠ちゃんがダントツの身体能力! この娘はやる子ですよ。早苗ちゃんはもうダメ~的に倒れていますが、永遠ちゃんは「もう一本!」と再びダッシュ。ははあ、なるほど、タイトルにはこの意味もあったんですな。
 というわけで、体力有り余る永遠ちゃんを眺めながら、主人公たる未知ちゃんは、まーた愚痴をこぼしております。高校に入ったらもう柔道はやらない、彼氏を作って楽しむぞ的な妄想をしてたんすけど、お下げ&眼鏡でお馴染みの早苗ちゃんは、そもそも休みにトレーニングしようと言ったのは未知でしょ、と真面目なツッコミ。それに対して未知ちゃんは、えー早苗でしょ、と責任転嫁のテキトーク。どうやら現在はゴールデンウィークの連休のようです。そう、先週描かれた通り、連休明けにはインターハイ予選が始まるものの、二人とも、自分の階級の体重を若干オーバーしているので、調整しないといけないのです。確か、早苗ちゃんは52kg級に出たいのに、先週時点では55.8kg。コイツはヤバいぜ!?
 しかし一方の永遠ちゃんは、先週時点で52kgぴったり、減量の必要なしのはずですが、一番張り切ってトレーニングを続けています。そんな永遠ちゃんを見つめる未知&早苗。二人は、最近よく笑顔を見せるようになった永遠ちゃんに、ちょっと嬉しそうですが……腹の虫がぐぅ…と鳴り、腹ペコなご様子。まあ、そりゃあ15歳でしょ? そらもう育ちざかりですよ。これはもうしょうがないすわ。
 というわけで、再びトレーニング再開、ラスト一本勝負だ!と未知&早苗は元気を出しますが、永遠ちゃんはさらにもう一本、と底なしのパワーです。そんな永遠ちゃんに、夏目先生はそのへんにしときなさい、インターハイ予選前に故障でもしたら元も子もないでしょと、きちんと指導。切りがついたところで、未知ちゃんは、じゃあ帰りにみんなでご飯行こうよ、と声をかけます。
 おいおい、君は体重大丈夫なのか? と心配になりますが、どうやら平日は、永遠ちゃんは遠くに住んでいるため、飯を食って帰ることが出来ないようで、誘われた永遠ちゃんは、静かに熱く喜んでいる模様です。なんか……いいすねえ……! 
 そしてタイヤをしまって帰り支度をしようとしたところで……わたしが注目する剣道部の南雲ちゃん登場です! 今週の南雲ちゃんは真面目モードです! 未知たちがしまおうとしたタイヤを、使うから一個置いといてくれと登場した南雲ちゃん。未知は終わるまで待っとこうか? 一緒にご飯…と誘いますが、南雲ちゃんは「今日はいい どんくらいやるかわからないし」とクールにお断りです。いつもよりだいぶ真剣モードの南雲ちゃんは剣道部期待の新人なのです。インターハイ予選のレギュラーにも選ばれているそうですが、そんな南雲ちゃんを、「……」と見つめる永遠ちゃん。いろいろ思うことがあるご様子です。そして何気に南雲ちゃんの腹の虫も「ぐるるうん」と鳴っていて、腹ペコなのは同じのようですが、今週の南雲ちゃんは真剣ですよ。しかし、余り無茶して、夏目先生が言ったようなことにならないといいのですが……
 そして場面はファミレスにやってきた柔道トリオ、未知&早苗&永遠の図であります。オイィ!? 「山盛りポテト」はマズいんじゃないか!? まあ、40過ぎるとホント謎に思いますが、どうして10代の頃って、たらふく喰っても翌日には元に戻ってるんすかねえ? 謎だよな……。おっと!永遠ちゃんも、超小声で、ライスのお替り行ったーーー! そして大盛りのオーダーだ! しかも恥ずかしそうな表情が大変イイすねえ! まあ、永遠ちゃんは体重制限大丈夫そうだからいいとして、未知はホントに大丈夫なのか? 真面目な眼鏡ちゃん、早苗ちゃんもあんまり食べたらまた体重増えちゃうよ、と若干心配そうですが、天然自由人の未知は、その時はその時、と軽く忠告をスルー。いいコンビですなあ。そして、未知ちゃんからは、「それに…団体戦は無差別級! 少しでも重い方が有利かもしんないしね」という情報が開示されました。なーるほど。そして「団体戦」には早苗ちゃんも思い入れがあります。中学時代は二人しかいない柔道部で、先鋒は不戦敗がいつも確定していたわけで、三人で出る「団体戦」が楽しみな未知&早苗。
 しかし、永遠ちゃんは「私も出て…いいんだよね」と謎の発言です。いやいや、今さら何を?と思ってページをめくると、そこには食い気味で当たり前じゃん!と永遠ちゃんに詰め寄る未知の図であります。このリアクションは、読者としてはそりゃそうだ、なんですが……どうやらなにかあるようで、ここで今週のタイトル「再会」が効くことになります。
 ちょっと離れた席にいた三人組。黒いジャージで、学校名は不明ですが、JYUDOと書いてあります。そしてツカツカと三人のテーブルにやってきたツインテール娘。彼女は「やっぱり氷浦じゃん」と永遠ちゃんを知っている模様。しかもなにやら、怒りの表情。こわごわと「お… お久しぶりです」なんて台詞しか出ない永遠ちゃん。この怒れるツインテール娘は一体……!? というところで今週は幕、でありました。
 なんつうか、日常系かスポーツ系かあいまいというコメントを先週いただきましたが、確かにわたしもそう感じていましたけど……それでもやっぱり来週が気になりますね。そして南雲ちゃんの今後の展開も大変気になります。
 おおっと、いっけねえ!
 まーた無駄に長文になってしまった……ので、ここらでおしまいにします。
 
 というわけで、結論。
 今週は、インターハイ予選に向けたトレーニングに励む三人の様子と、一人頑張る南雲ちゃん、そして、タイトルの通り謎の怒れるツインテール娘と「再会」した永遠ちゃんの模様が描かれました。アレっすかねえ、永遠ちゃんの以前のチームメイトで、ホントはみんなで同じ高校に、とかいう予定だったのに、永遠ちゃんだけ未知の高校に言っちゃっておかんむり。とかそういうことなのかしら。まあ、来週その謎は解かれると思って、来週を楽しみにしようと存じます。以上。

↓ とりあえず買いました。まあ、『もういっぽん!』に似たシチュエーション、ですな。面白いというか、かわいいすね。
やわらか
村岡ユウ
日本文芸社
2015-05-18

 わたしが愛した漫画『鮫島、最後の十五日』の著者である佐藤タカヒロ先生があまりに突然亡くなって、もう4カ月以上が過ぎた。
 いまだわたしは、ふと時間があると、『バチバチ』『バチバチBurst』『鮫島、最後の十五日』のコミックスを読んでしまうのだが、1カ月チョイ前から、佐藤先生の主戦場であった週刊少年チャンピオンにおいて、とある漫画の連載が始まり、わたしは毎週とても楽しみに読んでいる。
 そのタイトルは、『もういっぽん!』。
 女子高校生を主人公とした青春柔道漫画である。そしてこのタイトルを見れば、我々『鮫島』を愛した者ならば、明確に佐藤タカヒロ先生への想いが込められていることに気が付くはずだ。
 佐藤先生のチャンピオン連載デビュー作『いっぽん!』。
 明らかに佐藤先生の『いっぽん!』への敬意が込められた『もういっぽん!』というタイトルに、わたしは連載第1話からもちろん注目しており、そして確かな満足を得ている。コイツは面白い。これは期待できる、と。
 今現在、第1話が無料公開されているので、まずは読んでみていただきたい。
 →こちらです。http://arc.akitashoten.co.jp/comics/ipponagain/1
 で。この『もういっぽん!』を連載しているのが村岡ユウ先生である。村岡先生は、かつて同じチャンピオンにて『ウチコミ!!』という男子高校生が主人公の柔道漫画を連載していて、わたしも結構好きな漫画であったのだが、単行本を買うほどではなかった。また、村岡先生は、柔道が大好きなんでしょうな、チャンピオン以外の媒体でも柔道漫画を描いていて、なんだかそっちも単行本を買わないといけないような気もしている。それほど、わたしとしては現在の『もういっぽん!』がお気に入りだ。
 何がいいって、まず第一に、絵がいい。とても丁寧で、キャラクターも非常に可愛らしい。いわゆる萌え系とは全く一線を画す、正当な「漫画」の絵だと思う。そして、これまでの6話の中で、毎回必ずと言っていいほど登場する、見開きで描かれる「ザ・青春」な絵もとても印象的だ。これがとてもイイんすよ!
mouippon_01
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 おそらく著作権的に違法行為なのではないかと思うけれど、どうしても紹介したいので、上記2枚だけ、貼り付けさせていただきます。どうですか。この絵、とても素晴らしいと思いませんか。
 村岡先生の描くこれらの「ザ・青春」なタッチは、おそらく「放課後特有の光の表現」にあるのではなかろうか。部活終わり、あるいは部活中の、あの夕方特有の光。なんつうかもう、おっさん読者としては、とてもハートに直撃する絵だと思う。
 そしてわたしは「漫画」と「イラストレーション」は全くの別物だと思っているが、この村岡先生の画は、どちらかというと「イラスト」寄りでいて、でもやっぱりきちんと「漫画」の絵になっているようにも思える。こういった、「止めカット」が毎週1枚描かれているのだが、大変素晴らしい、上質な絵で毎週楽しみなのであります。
 というわけで、こうなったら毎週『もういっぽん!』の感想を書いて行こうかしらと思ってはいるものの、かつての「鮫島ニュース」のような熱をもって書けるか自信がないので、まあ、こ、これは! と思った時だけ、感想を綴ろうと思います。
 そして――実はもう何週も前から書こうと思っていたこの「今週の『もういっぽん!』」ですが、今までは、なんつうか、それほどキーボードをたたきまくりたくなるほど興奮はしなかったものの……今週はもう、とってもグッと来たっすね!
 これまでのお話をごく短くまとめると、主人公の【園田未知】ちゃんは、中学最後の試合で【氷浦永遠】という女の子に一本負けをし(しかも締め技でオチた)、これで柔道はおしまい、と区切りをつけ、親友で同じく柔道部だった【滝川早苗】ちゃんとともに高校へ進学。そしてその高校には、まさしく永遠ちゃんも入学していたのだが、柔道部は既に廃部。未知は柔道はもうやらないつもりだったけれど、ついうっかり永遠ちゃんを流れでぶん投げ、綺麗な一本を決めてしまう。そして、「いっぽん」の気持ちよさを思い出してしまい、未知・早苗・永遠の3人で柔道部を復活させることに……てなお話です。
 そして先週、やっと新生・柔道部の顧問の女性教諭が決まって、今週はその先生、【夏目紫乃先生】の柔道の腕前が描かれたわけですが……一つのポイントとして、未知を中学時代から剣道部に誘っている【南雲安奈】ちゃんというキャラがいて、いつも何かと未知に突っかかって来る、ある意味ツンデレ的な女の子がいるわけなんすけど……今週の南雲ちゃんの表情が、超イイ!! のです!
 夏目先生の過去というかいきさつは今後もっと詳しく描かれると思うけど、今週、夏目先生は自ら語りました。過去、どこかの学校で柔道部の顧問をやったことがあるようで、「一生懸命練習に励む生徒たちにみっちり鍛えられ…そして教えられた 知恵と工夫しだいで…権藤先生のような巨漢でも一蹴できるし 氷浦のような強者とも渡り合える それが柔道だと」
 そして先生は、未知たちに、自分が不在の時は乱取り稽古の禁止を通告します。それは、監督者不在だと、つい気が緩んだりして危ないから、だとか。先生は語ります。
 「大事にしなさい たった3年間の貴重な時間 棒に振るようになったら辛いからね」
 こういう先生の言葉が、一緒に体育館を使っている剣道部の南雲ちゃんの心にも刺さるわけです。そして、未知・早苗・永遠の3人組が、ある意味「楽しそうに」練習している姿がとってもうらやましい?のです! そして、その時の南雲ちゃんの表情が、もう、ホントに素晴らしいのですよ!! 今週のベストショットは南雲ちゃんの複雑な表情ですよ!
 今後、南雲ちゃんがまさかの柔道部入りしてもわたしは驚かないすね。でもずっとやってきた剣道から離れるとも思いがたいし、どうなるんですかねえ!? 今週ラストの様子だと、やっぱり南雲ちゃんの柔道部入りはない、かなあ……。
 というわけで、今週の『もういっぽん!』第6話には、「襟懐」というタイトルが付けられています。これは「心の中、胸のうち」という意味です。はたして南雲ちゃんの「襟懐」はいかに、というわけで、未知・早苗・永遠∔南雲ちゃんの4人が体育館で居残り練習する姿で終わりました。いやー、大変結構なお点前でありました!
【※追記:初出時、興奮しすぎたのか南雲ちゃんをずっと園田ちゃんと書き間違えていましたので修正しました。アホでした……!】

 というわけで、結論。
 そのタイトルからしてわたしの心にグッとくる漫画『もういっぽん!』。しかしチャンピオン編集部も非常に分かってますなあ! 連載開始からわたしは大変楽しませていただいている素晴らしい漫画なわけだが、もう、今週の南雲ちゃんの表情にグッと来てしまって、つい感想を書きたくなったわたしであります。村岡ユウ先生を応援するためにも、先生の過去作の単行本をさっそく買って読もうと思います。『ウチコミ』は連載時に読んでいたけど、思えば佐藤タカヒロ先生の『いっぽん!』と非常によく似た漫画だったすね。絵柄は全然違うけど。そしてユウ先生の描く女の子は大変可愛い! のは間違いないと思います。えーと、結論は何だっけ、そう、現在週刊少年チャンピオン連載中の『もういっぽん!』という漫画は大変素晴らしい! であります! 以上。

↓ これはスピリッツ連載だったみたいすね。買いますとも!

↓ こっちはゴラクだったらしい。ええ、買いますよ、もちろん!
やわらか
村岡ユウ
日本文芸社
2015-05-18

 というわけで、本日2018年10月5日(金)、わたしたちが愛した漫画『鮫島、最後の十五日』の単行本コミックス完結巻となる第(20)巻が発売になりました。same_20_FINAL
 こちらは、さっき買った電子書籍版の書影であります。後ほど、本屋さんで紙の書籍を買ってくるつもりでありますが、まだ、紙版ではどんな帯がついているのかわからないです。買ってきたら、追記として帯アリVerもここに掲載しようと思いますが、どうかな、帯ナシもあり得るのでしょうか。まあ、お昼には買って来ますので、少々お待ちを……。
 って、まあ、誰も待ってないと思いますが、一応、最後の、無念の、未完結となってしまったこの第(20)巻の中身を紹介しておくと、収録されているのは第170話から第176話までと、週刊少年チャンピオン2018年第43号にて大特集された「追悼色紙」が掲載されています。残念ながら、この単行本第(20)巻ではモノクロでの収録ですので、やはり、それら色紙が巻頭カラーで掲載された、追悼号のチャンピオンは、わたしにとっては永久保存版ということで、大切に保管しておこうと存じます。なんか、シュリンクしとこうかな。いやいや、シュリンクしたら読めなくなるから、うーん、ジップロックのデカいのでも買って来て、入れてみようかしら……。
【追記:もう待ちきれず、今買って来ました。そしてカバーと帯を外してそれぞれスキャンして、Photoshop合成してみました。つうかですね、いいキャッチだと思うし、なんつうか、本の薄さがもの凄く悲しいす……ちくしょう、薄いじゃねーか! と妙に泣けるっすわ……というわけで、紙の単行本と帯はこんな感じでありました表1折り返しもイイし、帯表4の「空流」Tシャツ販売は、これは買えってことだと理解しましたので、今、即ポチって発注しました。これを着ていく場所があるか分からんけど……】
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 はあ……というわけで、何度か号外として『鮫島』ニュースを書いてきましたが、これで、本当に書くことがなくなりました。
 「その後」に関する妄想記事も、実はそれなりに書いてみたものの、どうしても納得いくものが書けないし、これは技術的なことなので恥ずかしいのですが、PCブラウザでの閲覧を前提として、いろいろなメモを書いてみたところ、スマホで閲覧すると、レイアウトが超崩れるんすよね……何かそれもアレだし、やめておこうと思います。
 もし、ご要望があれば載せてみますが……まあ今のところは、これでお別れといたしたく存じます。

 佐藤先生、本当にありがとう。
 鯉太郎、ありがとう。
 さよならだけど、さよならじゃないぜ!

 ページをめくれば、いつでもまたみんなに会えるもんな。
 本当に、本当にありがとう!

 というわけで、結論。
 結論はもちろんこれしかないす。しつこいですが、もう一度叫びたいっす。
 いやあ、ホントに『鮫島』は最高っすね!
 そして、佐藤タカヒロ先生はマジ最高っす!
 以上。

↓ 本日発売であります! わたしは常に電子書籍で全巻持ち歩いております。
  

 恒川光太郎氏は、わたしが思うに、わたしが大好きなStephen King大先生に、日本の作家で最も近いテイストの作品を描く作家の一人、のような気がしている。その著作の全てを読んでいるわけではないけれど、新作が出ると、かなり気になるお気に入り作家の一人だ。
 というわけで、先日、わたしの愛用する電子書籍販売サイトBOOK☆WALKERにて、コイン還元率の高いフェアを実施してる時に、なんか面白そうな作品はねえかなあ、と渉猟していたところ、おっと、これはこの前単行本で本屋さんに並んでた作品だな、よし、じゃあ、読もう! と買ったのが、恒川先生の新作『滅びの園』という作品である。新作と言っても、2018年5月発売だから、もう半年近く前か、出版されたのは。
滅びの園 (幽BOOKS)
恒川 光太郎
KADOKAWA
2018-05-31

 わたしは読み始めて、何故かすぐに、この話、オレ、読んだことがある、と妙な感覚にとらわれた。その理由は実はいまだに謎なのだが、推測するに、どうもわたしは刊行されてすぐのころに、試し読みかなにかで最初の部分を読んでいたのだと思う。完璧忘れてたけど、それしか考えられない。そして、その時なぜすぐに買って読まなかったのか、その理由も全く記憶にない。もう病気かもしんねーな……この異常な記憶力の低下は。
 まあ、そんなわたしの若年性ボケはどうでもいいとして、物語はというと、結論から言うなら、大変面白かった。つうかむしろ、超面白かった! と絶賛したいぐらいだ。おまけに結構感動作でもある。そして、物語が提示するある種の「究極の選択」に、わたしは非常に心が痛くなったのである。なんつうか……つらいというか……まあ、この世のあらゆるものに関して、ほぼ興味を失いつつあるわたしとしては、どちらかというと主人公サイドの気持ちの方が心地よいというか、理解できてしまうように思うけれど、でもなあ……うーん……。と、読み終わっていろいろ考えてしまうわけで、読者に強烈な問いかけをする物語だということは言えるように思う。
 まずは、物語の構成をメモしておこう。本作は、6つの章からなっているのだが、そのページ分量は結構バラバラで、次のような構成になっている。なお、ページ分量はわたしが読んでいた電子書籍の書式によるもので、紙の単行本とは全然一致しないと思います。
 第1章 春の夜風の町:60ページ分
 第2章 滅びの丘を越えるものたち 80ページ分
 第3章 犬橇の魔法使い 12ページ分
 第4章 突入者 57ページ分
 第5章 空を見上げ、祝杯をあげよう。 13ページ分
 第6章 空から落ちてきた男 33ページ分
 とまあ、こんな感じなので、かなりバラバラでしょ、分量的に。どうやら本作は、元々は第1章、第2章、それから第4章と比較的長い3つはKADOKAWAから出版されている『幽』という雑誌に掲載されたものらしい(※『幽』が定期誌なのかムックなのか分からんす)。そして短い第3章及び第5、第6章が書き下ろしだそうだ。うーん、ひょっとしたら『幽』掲載時に第1話だけ読んだのかもな……。ともあれ、物語は、ある意味短編連作風でもあって、各章で登場人物が違い、全体の大きな世界観を描いた構成となっている。それでは、各章ごとの内容を、ごく簡単にまとめておこう。
 以下は、完全に核心的なネタバレに触れる可能性が高いので、ネタバレが困る方は以下は一切読み進めず、今すぐ退場していただきたい。ネタバレなしに感想は書けないので。
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 ◆第1章:春の夜風の町
 冒頭は外回り営業に心身ともに疲れ切った主人公の様子が描かれる。名前は鈴上誠一。彼は、ほんの些細なきっかけで、ふと電車を降りて、駅の外へ。するとそこは、見たことのない土地で、住民とも微妙に話が噛み合わない。自分がどうしてここで降りたのか、ここはどこなのか、そんなこともわからずぼんやりしていると、電車にかばんを置き忘れたことに「あっ」と気付く。しかし、勤める会社は完全ブラック企業で、ああ、どうしよう、これはまたこっぴどく罵倒される……なんてことを思った時、誠一は、「もういいや」と頭の中で糸が切れ、「このままどこかに消えてしまいたい」と思うに至る。そしてとぼとぼと町を散策すると、そこは誠一にとって妙に居心地がよく、いろいろな「?」がありつつも、住民たちに溶け込み、そこで生活を始めるのだがーーてなお話で、誠一の感覚では6年が過ぎてゆき、その間、誠一はすっかりその謎世界の一員として生活し、友達も出来て、さらには結婚、そして子供までできる。ちなみにわたしは、ま、まさかこの世界は恒川先生の『スタープレイヤー』のあの世界なのか!? とドキドキしたけど、全然そんなことはなく、単にわたしの先走り妄想でした。
 で、幸せが誠一を包み、何の不満もなかったのだが、この謎世界には「魔物」なる存在がたまに出現し、それを住民たちが協力して退治していた。そしてある日、「人間型の魔物」が誠一の前に現れ、驚愕の事実を誠一に告げるのだった――という展開となる。
 まあ、ズバリ言うと、この謎世界の秘密、というか事実、は、明確に説明される。なんでも、地球上空に「未知なるもの」なる謎の存在がやってきて、そこから地表に「プーニー」と名付けられた、白くてスライム上の謎生命体が蔓延し、人類は滅亡の危機にあると。そして主人公の鈴上誠一は、理由は不明だけど、「未知なるもの」のコア(核)に取り込まれていることが観測の結果判明したらしい。そして誠一の前に現れた「人間型の魔物」は、誠一に、核の破壊を依頼しに来たというのだが……その正体はーーというラストに至る。
 問題は、そこで誠一が下した決断はーーということになるのだが、おそらくわたしも、誠一同様の選択をしただろうな、と思う。ま、だからこそ面白いと思ったし心に響いたわけですが、「現状の自分の幸福」を取るか、「将来の人類の幸福」を取るか、そしてこれは両方を同時に選べるものではなく、どちらかを選べば、一方は破棄されるという、サンデル教授的な「強制的な二者択一」である。
 わたしは「どちらがより善」なのか、というよくある哲学問答には、実際のところほぼ興味がない。いわゆる強制的な二者択一、という状況はほとんどが机上の空論であるし、第3の選択、第4の選択、第5の選択、そういった可能性を探るべきだと思うからだ。
 たしかに、ある程度普遍的な「善」なるものが存在するのは間違いなかろうと思う。しかし、その普遍的な善なるものが、自分自身の犠牲を強いるものであった時、それに背を向け、自らの幸福を求めて何が悪いというのだろう。わたしが誠一の立場だったら、まず間違いなく、誠一と同じ選択をしただろうと思うし、それをけしからんと思う人がいるとしたら、その人のことはとても信用する気になれないすね。嘘くさいすよ、自分が犠牲になることを強いるなんて。
 そりゃもちろん、犠牲の程度にもよるだろうし、かかっているものへの愛着?にもよるだろうと思う。わたしだって、今わたしが命を投げ出さねば、愛する者が死ぬ、とかいう状況で、どんなに考えても万策尽きたなら、そりゃもう、命をなげうつのにためらうことはないだろう。でも、誠一の状況はそうじゃあない。なにしろ、誠一は、完全にかつての人類生活を嫌悪し、何の未練もないのだから。要するに誠一にとって、もはや人類は救う価値がないのだ。そこにわたしは、妙に共感してしまったわけで、これは普通の読者なら、誠一の決断は断じて認められないのかもしれないな……という気もする。でも、残念ながらわたしには、人類に救う価値があるとはあまり思えないでいる。誠一ほど、まだ精神がイッちゃってないという自覚はあるけど、ま、実際、ほぼ何の未練らしきものはないすね。こんな感じで、第1章は「選択」を行った誠一の物語が語られて終わる。
 ◆第2章:滅びの丘を越えるものたち
 で、第2章である。今度は、「未知なるもの」がいかにして地球に襲来し、「プーニー」がどのように地球上で増殖していったのか、が「私」の目を通じて語られることになる。ここで事件を物語る「私」は、初登場時中学1年生の女子、相川聖子さんだ。ここでの物語でポイントとなるのは、「プーニ―」への耐性が人によって違っていて、弱い人はもう近づくだけで感染(?)し、自らもプーニ―に同化して死んでしまうのに対し、強い耐性を持つ人もいて、その耐性が検査によって数値化されているという点だろう。耐性100以上がAランク(※最弱のランクDが耐性0~10。100以上というのはかなり数値的に大きい)という中で、相川さんの耐性はなんと400越え。この数値だと、相当なプーニ―に囲まれても平気なレベルであるため、世がプーニ―に溢れ、対プーニ―処理班が結成されると、相川さんは中学生ながらスカウトされ、プーニ―処理の仕事を行っていくことになる。
 そしてこの第2章で描かれるのは、やっぱり人間の醜さ、と言ってもいいだろう。耐性の強い人への嫉妬が世を覆っていくのだ。しかもあからさまではなく、裏でコソコソと、である点がホント嫌になる。相川さんはその嫉妬の対象になっても、あまり動じないメンタルで、実に性格付けが面白い。これは相川さんの中1~成人過ぎまでの時間軸で描かれているのだが、相川さんの言動はかなりぶっきらぼうというか、どうも、あまり執着を持たない人物のようだ。ただし、あくまで「あまり」であって、「全然」ではないのもポイントで、ある意味人間らしいとも思える。
 そしてこの第2章では、プーニ―への耐性の強い人間には、プーニ―を操る能力が発現する可能性も描かれていて、相川さんは救助作業中に、とある「プーニ―使い」の男と出会う。その男、野夏 施(のなつ めぐる)は、相川さんよりもさらに強い、耐性500レベルだったのだが、自分の能力が発現したばかりの頃は、プーニ―の操作をミスって、何十人もの死者を出してしまったのだとか。それゆえ、野夏の存在が世に知られると、世論は「けしからん! 人殺しじゃないか!」と糾弾する人々と、「素晴らしい! せひその力でプーニ―を処理してくれ!」と救世主的に持ち上げる人とに分かれてゆく。なんか、すげえありそうな話ですよ、これは。そして第2章は、野夏の身に起きた事件で幕が下ろされるのだが、まあ、なんつうか、読んでいて実に残念に思ったし、やっぱり人類は救う価値なんてねえんじゃねえかなあ……と軽い絶望を禁じ得なかったす。
 ◆第3章:犬橇の魔法使い
 この章はとても短く、ある意味で幕間的なものだ。ここで描かれるのは、第1章の後の謎世界での誠一の様子で、さらに、第2章の野夏が謎世界にやってきて、誠一と知り合う様子が描かれる。
 ◆第4章:突入者
 この章では、再び地球上の話だ。人類の研究によって、「未知なるもの」がどうやら別の次元に属していて(それゆえ謎世界の誠一の感じる時間の流れと地球の時間はまったく違っていて、誠一は6年と感じていたが地球では20数年時が経っている設定)、「未知なるもの」の観測が進み、最初はモノを、そして次の段階ではヒトを「未知なるもの」へ送ることが可能となる。そして、その次元なんとか装置で送り込まれた人を地球では「突入者」と呼び、完全片道切符だけど人類の英雄として称賛されていることが語られる。そしてプーニ―耐性が強い突入者ほど、自らの姿を保ったまま謎世界で存在できるようで(耐性値が低いと謎世界では人間の形状ではなくなる)、第1章で誠一の前に現れた「人間型の魔物」こそ、人類が送り込んだ「突入者」であることが明らかになる。
 で、この第4章でのメインは、耐性500オーバーの大鹿理剣(おおしか りけん)という少年が突入者となって送り込まれるまでのお話だ。しかし……なんつうか、ここでも、嫌になるぐらい人間の醜さが描かれてゆく。耐性値の高い人間への嫉妬、あるいはクソ野郎の父親など、とにかくまともな人間の方が少ないぐらいの印象だ。そしてこの章のラストで、理剣は突入者となって派遣され、そのままの姿で謎世界で再構成され、さあ、夢の世界をぶっ壊すか! というところで終わる。
 ◆第5章:空を見上げ、祝杯をあげよう。
 この章は再び相川さん視点で、「未知なるもの」が崩壊し、地球が救われるまでの模様が描かれる。
 ◆第6章:空から落ちてきた男
 最後の章は、エピローグ的な物語だ。ここでは、「未知なるもの」崩壊後、空から落ちてきた第1章の主人公、誠一のその後が描かれる。そして誠一視点での、魔物=突入者との最終決戦も語られるのだが、何とも実に悲しいお話であった。しかし、世論としては、またしても「誠一は被害者で、責められるべきではない」とする意見と、「事件の元凶だ、許すまじ!」という意見に分かれるという様相を呈してしまう。
 誠一はラスト近くで、人類を「下劣で醜い生物」と断じる。ま、実際のところ、今の人類は、ごく少数の声のデカい奴が世論を動かし、自分に甘く他人に厳しい連中が常に人を貶めようと隙を狙って攻撃してくるし、闘争に明け暮れ、殺し合いに余念がないわけだから、わたしも、主人公による「人類=下劣で醜い存在」だという断罪にはかなり同意したいようにも思う。
 しかし、そうはいっても、自らもその人類の一員であることは間違いなく、さらに言えば幸福が何らかの「犠牲」のもとにある、とか言われたら、うーん……やっぱりその犠牲に対して、そんなの知るかとほっとくことも出来そうにないだろうな……。なので、どうしてもわたしは誠一サイドに共感してしまう一方で、相川さんや野夏、理剣の行動も十分理解できるし、彼らを善悪の強制的な二者択一で評価したいとは全然思わない。
 おそらく、わたしがこの物語を面白いと思ったのは、実のところキャラクターたちの言動というよりも、キャラクターたちそれぞれが「納得」をして行動しているその姿そのものにあるのではないか、という気がする。もちろん彼らも葛藤する。しかしその葛藤は、「納得」をへて行動に移ってゆくわけで、そこには極限状態であっても、強制されない自由な人間の心があって、その点にわたしはグッと来てしまったのではなかろうか。
 なんつうか、描かれている事件そのものは完全ファンタジーだけれど、一方で描かれる人間の心情は極めてリアルで、そういう点でも、やっぱり恒川先生はKing大先生に通じるようなものがあるように思えますな。いやはや、大変楽しい読書時間を過ごせました。ズバリこの作品は、オススメであります!

 というわけで、なんか同じようなことばかり書いてるしクソ長いので結論。
 わたしのお気に入りの作家の一人である、恒川光太郎先生の新作『滅びの園』を読んでみたところ、実に興味深く、非常に考えさせる物語で、わたしとしては実に面白かったと絶賛したい気分であります。まあ、映画だとこういった「人類共通の敵」のようなものに対して、国家を超えて人類が団結する、みたいな話や設定が多いけれど、わたしはひそかに、そんなことにならないだろうな、と思っている。常に利害が対立して、意志がまとまることなんかないのではなかろうか。もちろん、それが悪いと言いたいのではなくて、まとまることはなくても、どういうわけか、全体としてみると、よりよい善にいつの間にか向かっている、という作用が人類には働くような気がしますな。無責任に言うと、なるようになる、ということかな。いや、そうじゃないな、なるようになっても、何とかなる、というべきか。つまり、どんな状況に陥っても、意外と受け入れられちゃう、あるいは慣れてしまう、ということで、そこに至るまでにはおそらく厳しい選択によって弾かれる人も多いだろうけど、まあ、それが淘汰ってやつで、適者生存なんでしょうかね。何が言いたいかもうさっぱりわからなくなってきたので、以上。

↓ そういやこれも読んでないな……と思いきや、これは双葉社から出ていた作品『金色の獣、彼方に向かう』を改題して」出し直したものだそうです。なーんだ。
異神千夜 (角川文庫)
恒川 光太郎
KADOKAWA
2018-05-25

 いやーーー最高に面白かったすねえ!!
 というわけで、時間がかかってしまったけれど、やっと読み終わりました。なんのことかって? そんなのコイツのことに決まってるでしょう!! わたしが世界で最も愛する小説家、Stephen King大先生の、日本語で読める最新作、『END OF WATCH』のことであります!! ちょっともう一度、わたしが撮影した書影を貼っとくか。これっす!
endofwatch
 もう既にこのBlogで何度も書いていることだが、本作はKing大先生初のミステリー「退職刑事ビル・ホッジス三部作」の3作目であり、堂々の完結編だ。そしてお話は、前作『FINDERS,KEEPERS』のラストで示されたというか、予感させた通り、なんと! シリーズ第1作の『Mr. MERCEDES』でブッ飛ばしてやった犯人であるあのクソ野郎が大復活し、またもや邪悪な行為を開始するというものだ。そのメインプロットはもう最初から分かっていたけれど、かなり予想を超えた展開で、もうホントにハラハラドキドキが止まらない最高の物語でした。
 つうかですね、今回のラストは泣けたっすねえ……そしてタイトルの意味が最後に明確になるところでは、わたし、ホントに眼に涙がこみ上げてきちゃったすわ……。
 さてと。
 ところで、King大先生のファンならばもうお馴染みだと思うが、わたしはKing大先生の作品を、以下のような感じに分類できると思っている。それは、2つの軸によって4つに分けられるとわたしは考えているのだが、その2つの軸とは、「黒キング or 白キング」という軸と、「SUPER NATURAL要素アリ or ナシ」という軸だ。
 図にすると、要するにこういうことである。 
SUPER NATURAL
な存在・現象・能力
アリ
SUPER NATURAL
な存在・現象・能力
ナシ
黒キング作品
どす黒い「邪悪」
との対決物語
【A象限】
UNDER THE DOME
IT、THE STAND
DR.SLEEP など多数
【B象限】
MISERY
Mr. MERCEDES
FINDERS,KEEPRESなど
白キング作品
読後感爽やかな
感動物語
【C象限】
11/22/63
GREEN MILE など
【D象限】
THE GIRL WHO LOVED TOM GORDON、
JOY LAND
など
 まあ、上記の分類には、異論を抱く方もおられるだろう。実のところわたしも、この作品はここでいいのかな、とか、若干迷いながら書いたし。『JOY LAND』なんかは実際には【C象限】に含めるべきかもね……など、明確には分類できないとも思う。しかしわたしがなぜこんな分類をしてみたのかというと、明確な理由がある。それは、この「ホッジス三部作」は、1作目の『Mr. MERCEDES』2作目の『FINDERS, KEEPERS』の作ともにSUPER NATURAL要素ナシの【B象限】に属していたのに対し、第3作である本作『END OF WATCH』では、ついに! SUPER NATURAL要素が極めて重要な要素として混入してきたのである! しかも、敵は、まさしくウッドチャックのケツの穴並みに真っ黒な、邪悪の化身であるので、これはもう、明確に「黒キング」作品なのだが、前述のように、泣けちゃったほどの感動物語で、わたしとしては「白キング」作品にも入れたい、と思えてしまうのだ。こういう、SUPER NATURAL要素アリで、邪悪との対決を描き、ラストは感動で泣ける、という作品は、わたしとしては『THE DEAD ZONE』以来のように思えてしまい、そこにわたしは大変興奮しているのであります。いやあ、ホンットに面白かったす!!
 どうしようかな、物語を簡単にまとめておこうかな……まあ、物語は、シリーズを読んできた方ならば、既に上の方に書いた「あのメルセデス・キラーが大復活! そして再び邪悪な計画が実行に移される!」というだけで十分かもしれないな……。これまた上にも書いたことだが、第2作のラストで、その予告というか予感はさせていたのは、誰しも記憶していることだろう。前作ラストで、事件が終結し、主人公ホッジスがアイツの病室を訪ねた時の描写で、どうやらあのクソ野郎に謎の超能力が発現した……のかも!? 的エンディングは衝撃であった。
 そしてその予感は、本作で現実のものとなってしまったのです。第1作でホリーに頭をブッ叩かれ、脳に深刻なダメージを負って病院送りとなったメルセデス・キラーことブレイディが、なぜそんな謎能力に目覚めたのか。それは本作では明確? には語られない。脳がシェイクされて再組成された結果かもしれないし、バカな医者のバビノーによる新薬実験の結果かもしれない。しかし、原因よりも、あの邪悪なブレイディが念動力めいたパワーを得てしまったという結果がマズいわけで、もうこれはヤバいこと請け合いである。さらに、ちょっとしたものを動かせるだけでなく、他人の脳みそに入り込んで、「人間リモコン」として自由に動かせるようになっちゃうのだから、さあ大変だ! しかも、我らが主人公ホッジスは、もうかなり冒頭でガンに蝕まれていることも判明する。もう70歳直前という年齢のお爺ちゃんだし、ガンの痛みもあって、動きもままならない。果たしてそんな状態のホッジスは、「自殺の設計者」ブレイディを阻止できるのか―――!? というハラハラドキドキのストーリーであります。サーセン、ダメだ、ネタバレなしには書けないので、気にする方はここらで退場してください。
 というわけで、以下、キャラ別に思ったことを羅列していきたい。
 ◆ビル・カーミット・ホッジス:シリーズの主人公。元刑事。1作目の『Mr. MERCEDES』の最初の事件が起きた時は2009年で(物語自体は2010年ごろ?)、2作目の『KEEPRES,FINDERS』が2014年だったかな(※2作目では登場シーンも少なくそれほど活躍しない)。そして今回の『END OF WATCH』が2016年のお話である。まあ、ホッジスは退職後、燃え尽き症候群的な精神的どん底にあったところで、メルセデス・キラーから自殺を誘惑するような手紙がきて、再び闘志を燃やして生きる道を見つけたわけだから、ある意味、第1作目の事件が起きたことに救われたともいえるような気がする。
 今回は、既に69歳、体の異変が起きていて(そもそも第1作ラストでは肝心な時に心臓発作でブッ倒れていた。以後、ペースメーカー着用)、もうかなり序盤で、今回の事件をもってホッジスは天に召されるのだろう、というのは誰しも感じたことだろう。そしてその最後の命の炎も、メルセデス・キラーの再登場によって燃え上がったわけで、その最終的な決着には、まさしくタイトル通り、「END OF WATCH=任務終了」という言葉がふさわしいと思う。ラスト、ホッジスの墓標にそのEND OF WATCHという言葉が刻まれているシーンには泣けたっすなあ……見事な、まさしく、大団円、であったと思う。おそらく、本作は明確にドス黒い邪悪との対決が描かれている「黒キング」作品なのに、それでもこれはやっぱり「白キング」作品に入れたい、とわたしが感じるのは、このホッジスを中心とした「善」の側のキャラクターたちがとても生き生きしていて、そんな彼らが多くの困難ののちに明確に勝利し、爽快な読後感をもたらしているためではないかと思う。
 ◆ホリー・ギブニー:そして、その「白キング」感を一層高めるのに貢献しているのが、ホリーの存在だ。ホリーは第1作目で、ホッジスがイイ仲になる女性の姪で、40代なのだが、精神的に不安定で問題のある女性だ。そんな、超人見知りで、常にビクビクオドオドしていたホリーが、シリーズを追うごとに成長していき、どんどん魅力的になっていくのが読んでいてとてもうれしいんすよね。
 今回もホリーはホントに成長しましたなあ……そして得意技のPCスキルでもちゃんと活躍してくれるし、ホッジス亡き後の「ファインダーズ・キーーパーズ探偵事務所」は任せたぜ。ラストのジェロームとの会話は、ホント、グッと来たっすわ……。
 ◆ジェローム・ロビンスン:第1作の時点では高校生、そして第2作目でハーヴァードに進学した頭が良くて性格もイイ、完璧イケメンの黒人青年。ホリーが成長できたのはホッジスと君のおかげだよ。今回、ジェロームはハーヴァードを休学して、NGO活動をして遠くに離れていたのだが、妹のバーバラが狙われたこと、そしてホリーからホッジスのガンのことを聞いて急遽実家へ戻ってくる。なので出番は後半から。そしてラストでは、当然ここでジェロームの出番だろ、というタイミングで登場して、ホッジスとホリーを助けてくれるナイスガイ。まあ、君はモテるだろうけど、ホリーのことも見守ってやってくれよ……。とにかく、ホッジス&ホリー&ジェロームの三人組は、King大先生の作品史上、とても心に残る「善」のチームでした。ああ、もうこれから新作が出ないなんてホント残念す……。
 ◆ブレイディ・ハーツフィールド:悪名高き「メルセデス・キラー」。第1作のラストで、コンサート会場を爆破しようとした1秒前に、ホリーにボールベアリングを詰めた靴下(ホッジス愛用の武器「ハッピースラッパー」)で思いっきり頭をぶん殴られ、あえなく逮捕、そして昏睡状態のまま病院に拘留された。恐ろしく邪悪で、ドス黒い精神がねじ曲がったクソ野郎で、その後、第2作目では目を覚ましたことが描かれるけれど、完全に脳が破壊されて自力では動けない、言葉もしゃべれない、単に目を開けているだけの廃人、だったはずだが……前作ラストで、なにやら念動力めいた謎パワーを授かっていることが描かれ、我々読者としては、な、なんだってーー!? と大興奮したわけだ。
 今回、フレイディは「他人の脳みそに侵入して自由に動かす」謎能力で、またもや多くの人を自殺に追い込み、大量殺人を実行するのだが、第1作では、たとえばジェロームの家の愛犬をぶっ殺そうと、毒入りハンバーグを準備したのに、それをブレイディが唯一愛するお母さんが夕食に食べちゃって死ぬとか、意外とバカな男だったのに、今回のコイツの計画は、かなり手が込んでいて(何しろ計画を立てる時間だけは存分にあった!)、しかも、おそらくは科学的に立証するのが非常に難しため、こりゃあ、コイツが何かミスをしないと、ホッジス達に勝ち目はないのでは? と相当ドキドキ感は高かったと思う。実際、ブレイディの犯したミスは、フレディの死を確認しなかったことだけだろうし。まあ、最終的に、やっとコイツとの決着がついて、ホントスッキリしたよ。あばよ、悪党!ですな。
 ◆フェリックス・バビノー:ブレイディの謎パワーで精神を乗っ取られ、その肉体は主犯の実行犯「ドクターZ」として操られることになる医者。元々、ブレイディを被検体として新薬実験とかをしていた医師で、まあ、あまり褒められたところのない金持ちで嫌味なおっさん。なんとなく、ハンニバル・レクター博士を利用しようとしていたドクター・チルトンに似てますね。なので、大変気の毒なことになるけど、あまり同情する気になれないす。実際、嫌な人でした。
 ◆アル・ブルックス:「図書館アル」と呼ばれ、病院内で入院患者に本を配ったり雑用をこなしていた老人。彼は何の落ち度もなかったのに、ブレイディにちょっと優しく接していた?がために、精神を乗っ取られ、実行犯の一人「Zボーイ」に変身、そして散々な目に。彼はかわいそうな方でした。その最後も実に気の毒……。
 ◆フレディ・リンクラッター:名前からはイメージしにくいけど女性です。おまけにフレディとブレイディが名前が似ていて紛らわしい! 本人曰く「レズでタチ」ですが。彼女は第1作に出てきた、ブレイディの元同僚でPCオタク。今回、精神を操られながらも金目当てにブレイディの悪事に協力してしまう。その手口が凄くて、「ザビット」という倒産した会社が作っていた携帯ゲーム機を利用して、使用者の深層心理に働きかけ、精神をのっとり、自殺を促すという極めて邪悪なやり口。それを拡散する手伝いをすることに。そして最終的にはドクターZに撃たれるのだが、辛くも命は助かり、ホッジス達に情報提供することに。まあ、この人は操られていたとはいえ、善人ではないですな。
 ◆ピート&イザベラ:ピートは刑事時代のホッジスの相棒で、まだ現役だけど退職間近。そしてイザベラはピートの現相棒の女性だが、コイツがバカなんすよね……。この女刑事が有能なら、もう少し被害は少なかったのにね……。
 とまあ、主なキャラクターは以上かな。
 しかし、それにしてもKing大先生の旺盛な執筆欲旺盛な姿勢は、本当にすごいと思う。現在御年71歳。もうホッジスの年齢を超えるおじいちゃんなわけで、これだけの年齢&大ベストセラー作家という世間的名声があるにもかかわらず、執筆ペースは全く衰える様子もない。ホント、年に1冊以上ペースだもんなあ……これは、日本の作家にはまず見られないものだ。大御所になると、もう作品じゃなくて講演やらなにやらにかかりきりで、作家であることの証明=作品を発表すること、が完全に二の次になってしまう方が多い。そんな中でも、例えば日本で言うと、佐伯泰英先生のように、年に数冊ペースで新刊を発表してくれている立派な方ももちろん存在はしているけれど、基本的にシリーズもので、ゼロからの創作ではない場合が多い。しかしKing大先生は、この「ホッジス三部作」が例外的にシリーズものなだけで、基本的には1冊完結なので、ちょっと比べられないだろう。しかもそのページ数というかボリュームもMAXレベルだし。そしてその著作は次々と映像化され続けているし。この「ホッジス三部作」も、現在『Mr. MERCEDES』はTVドラマとして製作され続けてるし。ほんと、King大先生は偉大ですよ。King大先生とその作品はマジ最高っすわ!

 というわけで、結論。
 わたしが世界で最も好きな小説家、Stephen King大先生の日本語で読める最新作『END OF WATCH』が発売になったのですぐさま買い、むさぼるように読んだ。結果、超ハラハラの展開でページをめくる手が止まらず、おまけにラストはとても感動的で、わたしはうっかり涙を流しそうになったほどだ。どす黒い「邪悪」と敢然と立ち向かい、数々の困難を経ての完全勝利には、とても爽快で気持ちのイイ読後感が得られると思う。コイツは最高に面白かったすね。見事なシリーズ大団円だったと思います。ま、要するにですね、いやあ、Stephen King大先生は最高だぜ! ってことですな。以上。

↓ わたしは観てません。どうも、役者が読んでいた時のイメージと違い過ぎるし、そもそもホリーの設定が全然違うっぽいので。
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ブレンダン・グリーソン
ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
2018-10-03

 わたしがこの世で最も好きな小説家は、ダントツでStephen King大先生であるッ!
 ということは、このBlogにおいてもう何度も書いてきたが、来ましたよ! King大先生の日本語で読める最新刊が! そしてそれは勿論! 「退職刑事ビル・ホッジス」シリーズ第3弾にして完結編の『END OF WATCH』(日本語タイトル:任務の終わり)であります! やったー!
endofwatch
 日本の出版業界の慣例として、書籍はいわゆる「公式発売日」の前日には書店店頭に並ぶことが多く(※都内ならば)、実のところ2営業日前には本屋さんに届いちゃう場合も多くて、わたしは文藝春秋社が公式にアナウンスしている9月21日発売という日付から、ひょっとしたら、今日もうおいてあるかもな、と昨日の会社帰りに本屋さんに寄ってみたところ、実はまだ棚には陳列されていなかったけれど、その近くの運搬用ワゴンにひっそり置かれているのを発見して(誰がどう見ても、もう客が手に取って買っていいような状態だった)、おおっと! あった! やった! わーい! と内心超ニヤニヤしながら、外面は超クールな顔をしてレジに向かい、購入し、さっそく帰りの電車内で読み始めたのであります。
 ズバリ言うと、ファンならもう、のっけから大興奮ですよ、これは。詳しい感想は読み終わってから記しますが、いやあ、コイツは相当面白そうすねえ! 物語には全く関係ないことですが、わたしはとにかくKing大先生のDirty Wordが大好きでありまして、今回、一番最初のp.9で、わたしとしてはもうホント最高だな! と笑っちゃったDirty Wordが二つも! あったのでメモしておこう。なお、まだ英語原文を当たっていないので、翻訳した白石先生の日本語訳です。
 「きょうの朝はウッドチャックのケツの穴並みに真っ暗で、時刻は夜明け寸前だったからだ」
 「(とある人物がマクドナルドの看板を見つけて)やったぞ! アメリカの黄金のおっぱいだ!」

 いやあ、こういう表現が大好物なんす、わたくし。夜明け前の真っ暗闇を「ウッドチャックのケツの穴並みに真っ暗」だとか、マクドナルドのM(ダブルアーチ)を「黄金のおっぱい」と表すなんて、King大先生以外にはいないすよ。ホントに最高すね! 
 そして現在上巻の120ページほどまで読み進めているわたしだが、コイツは相当ヤバいすねえ……! ホッジスは完全に大丈夫じゃなさそうですな。p.35というほぼ冒頭の描写からも、ああ、こりゃあきっと最後は……という予感がひしひしと伝わりますね。そしてタイトルの『END OF WATCH』というのがどういう意味なのかは、p.28に書いてあった。曰く、警官が退職することをEND OF WATCH(任務終了)というそうです。そしてこの言葉の本当の意味は、これからもっと深く明らかになると思うので、そうだなあ、上下巻で1週間はかかるかな、ゆっくりじっくり、味わおうと存じます。

 というわけで、さっさと結論。
 日本全国のStephen King大先生のファンが待ち望んだ『END OF WATCH』日本語版。いよいよ明日発売ですが、まあ、都内近郊なら、本屋さんに行けばもう置いてあるかもしれないすよ! そしておもむろに手にし、自動的にレジへ向かってください。そこには一切の思考は必要ありません。間違いなく今すぐ買いです。文庫になるまで待つのは、もうわたしはやめました。どうせ数百円しか違わないし、特急料金として、単行本ですぐに読む方がいいと思います。そして電子書籍は紙の書籍同様、明日から配信開始ですが、わたしはKing大先生の作品だけは、本棚にずらりと並べて悦に入りたいおっさんなので、さっさと紙書籍を買いました。ちなみに、電子書籍は紙書籍版より結構安い価格設定になってるようです。しかしなんつうか、いやー、やっぱりKing大先生は最高すね! 以上。

↓ ネット書店で買うのではなく、本屋さんへ行かれてみてはどうすか? いち早く読めますよ! たぶん! そしてアマゾンだと、紙版よりも200円以上、Kindle版の方が安いみたいです。
任務の終わり 上
スティーヴン・キング
文藝春秋
2018-09-21

任務の終わり 下
スティーヴン・キング
文藝春秋
2018-09-21






 今日、2018年9月20日(木)は、大相撲平成30年9月場所12日目であります。今日を含め、現実世界の大相撲は残り4番。奇しくも、我々が愛した『鮫島、最後の十五日』は、本当に、心の底から残念ながら、9月場所13日目を描いたところで終了してしまいました……。。。
 というわけで、先週の予告通り、本日発売の週刊少年チャンピオン2018年第43号は「追悼 佐藤タカヒロ先生」と思いっきり背にも明示された「バチバチ特大号」となっております。表紙は、佐藤先生が最後に遺された鉛筆画が用いられており、わたしは……もうその表紙だけで、なんか……泣けそうになっちゃったす……。悲しくて……悔しく?て……。商品画像ということで、著作権的な問題はお許しいただきたく、ここに今週の週刊少年チャンピオン2018年第43号の書影を載せたいと思います。
champ43-01
 これは電子版のスクショですが、紙雑誌版もわたしは当然買いました。ほんの少しだけ、デザインが上記電子版と紙雑誌版は異なっています(※電子版は現在『バチバチ』を再連載中なのです)。そしてわたしは紙雑誌版を買うのに、最寄り駅のセブンとローソンは置いておらず、会社近くのファミマでやっとGetしました。ほんと、すっかり電子に乗り換えちゃったので気が付かなかったすけど、コンビニに置かれる冊数が減ってるんですかねえ……つうか、雑誌コーナー自体がすっごく縮小されてて驚いたす。なので、見かけたら、ぜひ「買い」でお願いいたしたく存じます。
 そして内容ですが、わたしとしては週刊少年チャンピオン編集部の想いが詰まった、素晴らしいものと称賛いたしたく存じます。ここに、その前文として記された編集部の想いを、敬意を込めて全文掲載してご紹介させていただきます。
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 2018年7月3日未明、今号の表紙を飾る鉛筆画を仕事机に遺し、佐藤タカヒロ先生が急逝されました。止むを得ず、7月12日発売の小誌33号にて、誰もが望まない形で最終回を迎え、2009年より約9年間にわたり紡がれてきた、『バチバチ』『バチバチBURST』『鮫島、最後の十五日』の大相撲巨編「バチバチシリーズ」に幕が下りました。
 多くの人に愛され、多くの人を魅了したこの未完の大作に対して、そして小誌を支え続けた作家の真摯な熱筆に対して、我々に出来ることは何か? それはただ一つ、哀悼の意と熱を込めた編集作業のみと思い至り、ここに追悼号を企画しました。
 先生の遺した魂である作品は生き続け、決してなくなりません。読者の皆様のご愛顧に感謝し、また新たな応援をいただけるように、この追悼企画で少しでも未完の大作の持つ、佐藤タカヒロ先生が込め続けた熱量を感じていただけたら幸いです。
 週刊少年チャンピオン編集部
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 はーー……書いてて泣けてきた……編集部の皆さん、ありがとうございました……。。
 そしてその大特集の内容ですが、先週の告知通り、3つの企画から構成されています。
 1)カラー追悼色紙展
 皆さんの選ぶ絵柄も、それぞれで、とりわけわたしとしては、虎城理事長を描いてくれた石黒正数先生の色紙や、阿吽の兄貴を描いてくれた増田英二先生、それから、熱いメッセージをくれた板垣恵介先生の言葉がやけに胸にしみるす……。そして、ジャンプで『火ノ丸相撲』を絶賛連載中&アニメ放送開始直前(鮫島のアニメが見たかった……!)の川田先生も、色紙を描いてくださっています。泣ける……。
 2)シリーズ全カラー掲載録
 眺めていると、ホント、なつかしいというか……つうかですね、ページの随所に、これまでの「名セリフ」がちりばめられているのですが、くっそう……泣けるというか……本当に悲しいす……。
 3)巨弾52P鮫島鯉太郎全取組絵巻
 ここからはモノクロですが、これは気合の入った企画ですよ。担当編集の頑張りをたたえたいと思います。そして改めてこの52ページを読むと、どうしても、胸に迫るものがありますなあ……わたしはやっぱり、泣いちゃったすわ……。。。はあ…………。。。

 そして、今週号にも、カラーで単行本告知が載っていましたので、これも広告ということで、著作権的なものはお許しいただいて、ここに載せておこうと思います。
same_20
 この自社ADによれば、どうやら最後の単行本(20)巻は、カバーには今回のチャンピオンの表紙同様に「最後の鉛筆画」を使用するとのこと。まあ、そりゃそうするしかないすよね。まったく正しいと思います。そして、今回の追悼色紙も収録するそうです。でも、どうだろう、カラー収録はされないすよね、きっと? なので、やっぱり今週のチャンピオンは、わたしとしては永久保存版として、明確に「買い」であると、皆さんにお勧めしておきたく存じます。つうかですね、この追悼色紙の一番最後に、なんと先生の奥様の色紙があるのですが、そのメッセージは……もう泣くしかないす……。

 やっぱり、わたしとしては佐藤先生の作品を、ずっとずっと、忘れないでいたいと思います。そして今後も、周りの人々や、わたしがこれから出会う人々へ、こんなすげえ漫画があるんだぜ! とお勧めしまくろうと思います。佐藤タカヒロ先生、本当にありがとう。先生と先生の作品は、マジ最高だよ!!

 というわけで、結論。
 今週のチャンピオンは、「買い」でお願いします。
 そしてもう、どう考えても、いつも通り、これしかないす。
 いやあ、ホントに『鮫島』は最高っすね!
 そして、佐藤タカヒロ先生はマジ最高っす!
 以上。

↓ わたしがあと何年生きるか知りませんが、生きている限り、佐藤先生のコミックスがわたしの部屋の本棚に存在し続けることは確定的に明らかです。


 現在、劇場公開されている映画『検察側の罪人』。

 3週終わった時点で19億強の興行収入となっているそうで、なかなかのヒットで大変喜ばしいことだが、わたしも、上記の予告を観て、これは観たいかも、とは思っていたものの、監督がわたしの好みではない方なので、まあ、これはWOWOWで放送されるのを待つか……とあっさり見送ることにした。のだが、そうだ、じゃあ、原作小説を読んでみよう、という気になった。
 そして読み終わった今、改めて上記予告を観ると、これはちょっと、ひょっとしたら原作とはそれなりに違うところがあるのかもな……という気がする。ま、その予感が正しいのかどうかは観てみないと分からんので、1年後ぐらいにWOWOWで放送されるのを楽しみにしようと思う。
 というわけで、本稿はあくまで原作小説についての感想だ。大変申し訳ないが、核心に迫るネタバレに触れないと語れそうにないので、ネタバレが困る方はここらで退場してください。ネタバレなしでは無理っす。※追記:さっき映画を観た人と話したら、どうやら映画と小説はかなり結末部分が違うみたいすね。なので、小説のネタバレが困る方は以下は読まない方がいいと思います。
検察側の罪人 上 (文春文庫)
雫井 脩介
文藝春秋
2017-02-10

検察側の罪人 下 (文春文庫)
雫井 脩介
文藝春秋
2017-02-10

 物語としては、極めてまっすぐに進むので、妙な謎解きとか読者をだまそうとするような著者の小手先の惑わしのようなものは一切なく、サクサクと展開していく。非常に心地いい、と言ってもいいと思う。ただし、描かれている内容自体は、全くもって心地よくない。実に重く、苦しいお話だ。
 ごく簡単に物語をまとめると、蒲田で老夫婦が刺殺される事件が起こる。その背景には金の貸し借りがあって、どうやらアヤシイ容疑者は何人かいる模様だ。そして警察及び検察はアヤシイ奴らのアリバイを洗って、容疑者を絞っていくわけだが、その中に一人、23年前に根津の女子中学生殺人事件で容疑者となっていた男、松倉がいた。そしてその根津の事件は、主人公の一人である現在の東京地検検事、最上が学生時代に住んでいた学生寮のお嬢さんであり、最上自身も仲の良かった女の子が殺された事件で、すでに時効が成立していた。蒲田の事件捜査が進む中、松倉は激しい取り調べによって、確かに23年前の事件は自分がやったと自供、だが蒲田の事件は全く無関係だと主張し、否認する。そして捜査が進むと、蒲田の事件には別の真犯人がいることが判明するが、最上はその証拠を握りつぶし、真犯人を自らの手で処刑し、時効で逃れた23年前の事件を償わせるために、松倉を蒲田の事件の犯人として起訴するのだがーーーてなお話である。
 こうまとめると、かなりトンデモ系というか、相当無理やりなお話のように聞こえるかもしれないが、無責任な読者であるわたしは、読みながら最上に共感しつつ、果たして物語はどのような結末に至るのだろうか、とドキドキしながらページをめくる手が止まらない状態であった。
 もうちょっとうまくやれたんじゃね? とも思う。しかし実際無理だろ、と思ってしまうし、最上の行動が正しいのかと問われれば、そりゃあもう、純然たる「犯罪」に他ならない。じゃあ、なんかいい手はなかったのか? と思っても、はっきり言って皆目見当がつかない。もし自分が最上だったら……と考えると、おそらく登場人物の中で最もブレない、最上の行動は、わたしとしては本作の中で最も筋が通っていたように思う。人殺しには違いないのだが……。
 一方で、最上と対峙する若き検事、沖野に関しては、わたしはやっぱり共感できなかった。おそらくは、沖野が最も法に忠実で正しいのだということは認めるしかないだろう。ある意味、沖野の言動や沖野の感じる法感覚は最も「あるべき正義」であったとは思う。でもやっぱり、もはや50に近い、25年以上仕事をしている人間から見ると、ガキは引っ込んでろ! と思ってしまうのも正直な感想だ。ズバリ言ってしまえば、あらゆる経験が足りていないアラサーぐらいのガキにとやかく言われることは、我々アラフィフ世代には一番腹が立つことだ。最上がラストに言う言葉、「君には悪いことをした。君のような将来ある人間を検察から去らせてしまった。そのつもりはなかったが、結果としてそうさせてしまった。それだけが痛恨の極みだ。ほかには何も悔いることはない。俺はそれだけだ」というセリフは、沖野のような若造に対する明確な拒絶であり、「ガキは引っ込んでろ」という別れの言葉に他ならないと思う。沖野がその後、どうなるかは知らないが、絶望しただろうし、それをわたしは、ある意味でざまあ、と思いつつ、妙にすっきりした気持ちで本書を読み終えることができたように思う。
 というわけで、最上と沖野に対して感じるものは、きっともう読者の数だけ違うものがあると思うし、わたしの抱いた思いが相当ズレていて、若造どもからすれば老害と言われるかもしれないという自覚はあるものの、わたしも最上のように、分かってもらおうとは全く思わないし、自らの納得のもとに行動した最上の方に、より共感してしまう事実も否定したくないと思う。要するに、大変面白かった、というのがわたしの感想だ。
 それでは主なキャラをちょっとだけ紹介して終わりにしよう。
 ◆最上毅:主人公。東京地検の検事。40代後半か。恐らくわたしと同世代。経験豊富なベテラン検事。最上がどうして人殺しを実行しようとしてしまったのか、に関してはかなり丁寧に描写されており、わたしとしてはすっかり共感してしまった。なので、これはもうどうしようもなかったと思えてしまう。が、少し穴がありすぎだっただろうな……薬莢、ワゴン車……この二つに関して無頓着すぎたんだろうな……たぶん、ちゃんと薬莢を回収して、車も別の方法で何とかしていれば、最上の計画は完遂できたと思う。でも、まあ、無理だったかな……。なお、映画版で演じたのは木村拓哉氏。これは相当カッコイイだろうなと想像できますな。読みながらわたしの脳内ではずっと拓哉氏のイメージそのものでした。
 ◆沖野啓一郎:もう一人の主人公。30前か、30チョイ過ぎか?ぐらいの前途ある賢い若者。賢すぎたし、まっすぐすぎたんだろうな……。わたしがコイツに対して一番許せないのは、自らの事務官の女子(もちろん美人)とデキちゃうのはアウトだと思う。それはお前、やっちゃあいけねえことだぜ? 双方合意の元とはいっても、現職で検事と事務官がデキちゃうのは凄い違和感があった。この部分はいらなかったような……。また、捜査の当事者であったのに、退職したからと言って弁護側に回るのも、まあ、そりゃあマズいだろうと思う。個人情報保護的に何らかの犯罪行為なんじゃなかろうか? 大丈夫なのかな? また信頼という点においても、その後弁護士となったとしても、誰も信頼しないのではなかろうか。コイツの将来に幸があるとは思えないなあ……一生、後悔することになっちゃうんじゃないかしら……。そういう、自らの行動への筋の通った確固たる決意のようなものが感じられなかったのが、若干残念かも。映画版で演じたのはジャニーズ演技王の一人、二宮和也氏。二宮氏の演技は本当に上手なので、さぞや沖野役にぴったりだったでしょうな。
 ◆松倉:23年前、根津で中学生を強姦して殺したクソ野郎。確かにコイツは蒲田の事件はやっていなかったのだが、いっちばんラストでのこのクソ野郎の真実の姿は、沖野を絶望させるに十分であったでしょうな。時効ってのは、残酷ですよ……。しかし、最上の中に、蒲田の真犯人を普通に逮捕して死刑求刑し、一方で根津の事件を自白した松倉をぶっ殺す、という選択はなかったのだろうか? アホな一般人のわたしは、そういう手も考えてしまうけど、それだと違う、ってことなんでしょうな、検事としては。難しいですのう……。でも、このクソ野郎松倉がのうのうと生きていける世の中は、やっぱりなんか間違ってるとしか思えなかったすね。※コイツの最期は映画版と小説では全然違うようです。映画版のエンディングを聞いて、そりゃあ、ざまあ! だなと思ってしまった……。
 ◆諏訪部:闇社会の調達屋。物は売っても人は売らない、という明確なポリシーを持った、実際悪い人。ただし、本作の中では最上に次いでカッコ良かったと思う。最初と真ん中と最後に、物語を締めるように登場して、登場シーンは少ないのにやけに存在感あるキャラでした。どうやら映画版では松重豊氏が演じたようですな。これもイメージぴったりですよ。※聞いた話によると、どうやら映画ではラストにとある行動を取るみたいですが、それは小説には一切ないです。
 ◆橘沙穂:沖野付きの事務官。沖野よりちょっと年下。美人で冷静沈着で有能。諏訪部からも気に入られるほどの度胸もある完璧美女。ま、はっきり言って沖野にはもったいないすね。きっと、完璧女子からすると沖野の危なっかしさは、母性本能をくすぐっちゃったのだろう、と思うことにします。
 ◆最上の学生時代の仲間たち:丹野は、弁護士から国会議員になった男で、義父の大物代議士の身代わりになって自殺。その死への決意が、最上に影響することに……。前川は細々と自分の法律事務所を経営する弁護士でイイ人。水野はちょっと先輩で、法曹界に進まず根津の事件をずっと追いかけるジャーナリストに。そして小池は出番は少ないけど、企業法務の大手法律事務所に勤務する弁護士。まあ、彼らがきっと最上の味方として動いてくれるから、最上が娑婆に出られるのもそう先ではないんじゃないかしら。
 ◆松倉弁護団:小田島は国選弁護人として、ズバリ言えば松倉の無罪をまったく信じてなかったしがない弁護士。しかし沖野の勢いに負けて、渋々事件を捜査する。ただし決して悪い奴ではなくむしろ人のいい野郎。そして白川という弁護士が出てくるのだが、こいつがまたなかなかのクソ野郎で、人権派・冤罪無罪職人と世間的に知られる有名弁護士。コイツは、松倉が犯人だろうと無罪だろうと、本心ではどうでもよく、単純に裁判に勝てればいいと思っている。そして裁判に勝つ=死刑判決を避けることで、無期になれば勝ちだと思っている。非常にいやーな野郎。どうやら映画版では、この白川弁護士を演じたのは山崎努氏のようですが。読んでるときはもっと若いイメージだったけど、どうなんでしょう。

 とまあこんなところかな。なんつうか、イカン、マジで映画版が観たくなってきたすね! どうしようかな……うーーん……やっぱり、監督がちょっと苦手な人なので、やめとくかな……。物語もちょっと小説と違うようだし。WOWOWで放送されるのを待とうという結論は変えないでおこうと思います。そして、やっぱ劇場に行くべきだった、と1年後ぐらいにWOWOWで観て、後悔すればいいや。

 というわけで、結論。
 わたしは映画が大好きで、その映画に原作があるなら読んでおこうと思うことが多いのだが、映画は観ないけど、原作を読もうと思うことも、結構頻繁にある。そして現在公開中の『検察側の罪人』という作品についても、予告の出来がとても良くて、これは観ようかしら、と思ったものの、監督の前作『関ケ原』が予告は最高に面白そうだったのに、わたしとして相当ひどい映画だとしか思えなかった前歴があるので、今回の映画版は観ず、原作小説を読んでみることにした。結論から言うと、原作小説は実に面白かったと思う。正義とはなんなのか……? それはこの際、読者それぞれの中に答えがあると逃げてもいいと思う。この物語を読んでどう思うか。それが恐らくは読者それぞれの正義感なんだろう、と思うわけで、わたしの場合は、最上に深く共感しつつも、やっぱり最上を正義とは断じることはできないし、沖野もわたしからすれば全然正義とは思えない。じゃあ、どうすればよかったのか……そうだなあ、まず、真犯人をきっちり死刑判決まで持ち込み、そして松倉も、自分の持てる全ての力を使って、社会的に抹殺していた、とか、そんなつまらんものしか浮かばないすなあ……。いずれにせよ、正しく真面目に生きていきたい、という思いが強まる作品でありました。大変面白かったです。以上。

↓ わたし思うに、劇場版シリーズ最高傑作。多分一番ダークで冷酷なお話かと。超カッコイイす。






 夏の間は、便座の電源をOFFにしているのですが、今朝は、便座の冷たさに思わず、ひゃんっ!? とか声を上げてしまうほどびっくりしたわたしですが、もう秋、なんすねえ……。ケツで感じるのも全く風流じゃあないすけど……。また、毎日熱戦の繰り広げられている大相撲9月場所も、稀勢の里関の取組にひやひやしながらも、わたしの愛する松鳳山裕也君は昨日4日目時点で3勝1敗と元気で大変うれしく存じます。
 そして今朝、電車内で今週の週刊少年チャンピオン2018年第42号を読んでいたところ、こ、これは!? というお知らせが掲載されていましたので、『鮫島』ニュース号外として今週もスクショをここに載せておきたいと存じます。広告なので著作権的なアレはどうかお許しください……! コイツであります!
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 なんてこった! わたしは電子版でずっと買っているのですが、来週号は永久保存版として、紙雑誌版も買うしかないすね! この来週の週刊少年チャンピオン第43号「佐藤タカヒロ追悼 特別号 バチバチシリーズ大特集!」の内容をまとめておくと、
 1)最後の描き下ろし表紙!!!
 生前、最後に書き遺された熱き鉛筆画が表紙に!!
 2)巻頭カラー! 追悼色紙展
 第69代横綱・白鵬をはじめ、角界著名人や連載芯による追悼色紙が巻頭カラーを飾る!!
 3)巻頭カラー! 『バチバチ』全カラー掲載!
 雑誌連載カラーを、ロゴや煽り文、当時のレイアウトのままに全網羅!!
 4)鮫島鯉太郎前取組絵巻
 魂を揺さぶる圧倒的超巨弾52P!! 鯉太郎の前取組の熱量を、迫力あるページ構成で再現!!
 という内容だそうです。どうすか、これはもう、マジで買うしかないっショ! こいつはとても楽しみですね!
 そして、単行本最後の(20)巻の告知も正式に出ていましたので、こちらもスクショを貼っておきます。
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 というわけで、最後の単行本第(20)巻は、来月10月5日(金)の発売であります! 話数的に、単行本収録には2話分足りないと思いますので、来週の「大特集」の内容が収録されるような気もしますが、やっぱりカラーで、とわたしとしては思いますので、来週のチャンピオンは絶対買いです。なんなら5冊ぐらい買ってもいいぐらいですが、最近のチャンピオンは、まあきっと部数が落ちてるんでしょうな、近所のコンビニの配本冊数がめっきり落ちていますので、わたしが買い占めてはダメ、と戒め、1冊で我慢するつもりでおります。これはもう、ずっときれいに保存しておきたいなあ……。

 というわけで、結論。
 みなさん!! 来週2018年9月20日(木)発売の週刊少年チャンピオン2018年第43号は、「買い!」でお願いします!! 白鵬関からコメントをもらえるなんて、佐藤先生も嬉しいでしょうなあ……ほかにどんな方が追悼の色紙を書いてくれたのかも気になりますね! ヤバイ、久しぶりにチャンピオンが待ち遠しいっす!! 以上。

↓ 当然こちらも買いです。当然すよね!


 わたしが新刊を待ちわびる小説は数多いが、その中でも、日本の小説で、ここ数年毎年8月と2月に新刊が発売さてわたしを楽しませてくれているのが、高田郁先生による時代小説である。しかし今年の8月は、一向に新刊発売のニュースが聞こえてこず、おかしいな……と思って、かなりの頻度で版元たる角川春樹事務所のWebサイトを観に行ったりしていたのだが、いよいよ、今年は9月に新刊発売! というお知らせを観た時のわたしの喜びは、結構大きかった。そして、おっと、来たぜ! とよく見ると、なんとその新刊は、現在シリーズが続く『あきない世傳』の新刊ではなく、何と驚きの『みをつくし料理帖』の新刊であったのである。この嬉しい予期しなかったお知らせに、わたしはさらに喜び、9月2日の発売日をずっと待っていたのである。
 しかし―――愚かなわたしは8月末から別の、大好きな海外翻訳小説を読んでいて、すっかりその発売を忘れており、おととい、うおお! 忘れてた!!! と焦って本屋さんに向かったのであった。角川春樹事務所は電子書籍を出してくれないので、ホント困るわ……こういう時、電子書籍なら確実に、新刊出ましたよ~のお知らせが届くのにね。
 というわけで、昨日と今日でわたしがあっさり読み終わってしまった本はこちらであります!
花だより みをつくし料理帖 特別巻
髙田郁
角川春樹事務所
2018-09-02

 そのタイトルは、『花だより』。紛れもなく、高田郁先生による「みをつくし料理帖」の正統なる続編であり、本編の「その後」が描かれた物語である。あの澪ちゃんや種市爺ちゃんたち、みんなにまた会えるとは! という喜びに、わたしはもう大感激ですよ。そして読み終わった今、ズバリ申し上げますが、超面白かったすね。間違いなく、既に完結済の『みをつくし料理帖』が好きな人なら、今回の「特別巻」も楽しく読めるはずだ。それはもう、100%間違いないす。いやあ……なんつうか……最高っすわ!
 というわけで――今回の『花だより』は、シリーズが完結した4年後の1822年から、その翌年1823年が舞台となっている。軽くシリーズのラストを復習しておくと、主人公の澪ちゃんは宿願であった、幼馴染の野江ちゃんことあさひ大夫の身請けに成功し、超お世話になった大金持ちの摂津屋さんの助力を得て、夫となった源斉先生と、自由の身となった野江ちゃんとともに大坂に旅立ったわけである。もちろんそこに至るまでの道のりが、まさしく艱難辛苦の連続で、数々の超ピンチを乗り越えての幸せGETだったわけで、読者としてはもう、本当に良かったね、幸せになるんだぞ……と種市爺ちゃんのように涙したわけです。
 あれから4年が過ぎ、はたして澪ちゃん去りし後のつる家は、繁盛しているだろうか? 澪ちゃん&源斉先生夫婦は大坂で元気にやってるだろうか? そんな、読者が知りたいことが知れる、まさしく高田先生から読者への「お便り」が本作であります。
 本作は、これまでのシリーズ同様、短編4本立てで構成されていて、それぞれがそれぞれの人々を描く形で、それぞれの「その後」を教えてくれるものだ。というわけで、まあ、ネタバレになってしまうかもしれないけれど、簡単にエピソードガイドをまとめておこう。ネタバレが困る方はここらで退場してください。つうか、こんな文章を読んでいる暇があったら、今すぐ本屋さんへ行って、買って読むことをお勧めします。絶対に期待を裏切らない内容ですので。
 ◆花だより――愛し浅蜊佃煮>1月~2月のお話
 主人公は種市爺ちゃん。もう74歳となって、体もきかねえや、てな爺ちゃんだが、とある事が起きて、もうおらぁダメだと超ヘコむ事態に。すっかり気落ちした爺ちゃんは、年に1回は必ず届いていた澪ちゃんからのお手紙も届かず、いよいよ心はふさぐばかり。しかし、そんな爺ちゃんに、恩師を喪って同じく気落ちしていた清右衛門先生が大激怒!! 「この戯け者どもが! 真実会いたいのなら、さっさと会いに行けば良いのだ! それを遠いだの店がどうだ、と見苦しい言い訳をするな!」 というわけで、清右衛門先生、坂村堂さん、種市爺ちゃん&ちゃっかり(小田原まで)同行するりう婆ちゃんの、東海道五十三次珍道中の始まり始まり~!!!  つうか、やっぱり清右衛門先生の言う通りですなあ……会いたい人には会っとくべきですし、行きたいところには行っとくべきですよ。人間、いつどうなるかわからないものね……。
 ◆涼風あり――その名は岡太夫>5月~6月ごろ(梅雨時)のお話
 主人公は、かつての想い人、小松原さま、こと小野寺数馬、の奥さんである乙緒(いつを)さん。17歳で数馬のお嫁さんとなって早6年だそうです。この乙緒さんは、侍女たちからは「能面」と呼ばれるような、超クールで感情を表に表さないお方だそうで、別に冷たい人では決してなく、まあそういう教育を受けてきたからなんだけど、きっちりと真面目にコツコツやるタイプのようで、亡くなった小松原さまのお母さん(里津さん)が、亡くなる前に「小野寺家の掟」のようなものをきっちり伝授し、里津さんからも、この娘なら大丈夫と思われていたようなお方。そんな乙緒奥さんが、夫の「かつての想い人」である「女料理人」のことを聞いてしまい、おまけに2人目の子供の妊娠が発覚し、身も心もつらい状況になってしまう。しかし、そんな時にふと思い出したのは、里津お母さんから聞いた、とあるお話だった――てなお話です。まったく、不器用な夫婦ですよ……!
 ◆秋燕――明日の唐汁>8月のお話
 主人公はかつてあさひ大夫だった野江ちゃん。野江ちゃんは、摂津屋さんの助力で大坂で商売を始めていたのだが、これは高田先生の『あきない世傳』でも何度も出てきた通り、大坂商人には、「女主人はNG」というルールが当時あったわけで、摂津屋さんが業界組合を説得して3年の猶予をもらっていたけれど、その3年が過ぎようとしているという状態。要するにその3年間で、結婚して旦那を主として据えろ、というわけだ。しかし、野江ちゃんの心には当然、野江ちゃんをその命と引き換えに火事から救った又次兄貴がいまだいるわけでですよ。というわけで、又次兄貴との出会いの回想を含んだ、野江ちゃんの心の旅路の物語であります。泣ける……!
 ◆月の船を漕ぐ――病知らず>9月ごろから翌年の初午(2月)までのお話
 お待たせいたしました。主人公は澪ちゃんです。大坂へ移って料理屋「みをつくし」(命名:清右衛門先生)をオープンさせて早4年。大坂には死亡率の極端に高い流行病(コレラ?)が蔓延していた。源斉先生をもってしても、治療法が見つからず、数多くの人々が亡くなっていたのだが、「みをつくし」がテナント入居していた長屋のオーナーお爺ちゃんも亡くなり、後を継いだ息子から、つらい思い出は捨て去りたいと、長屋を売りに出すことになり、「みをつくし」も立ち退きを要求されてしまう。さらに追い打ちをかけるように、日夜患者の元を駆け回っていた源斉先生も体力的にも限界、おまけに医者である自分の無力さにハートもズタボロ、その結果、愛しい源斉先生もブッ倒れて寝込んでしまう。こんな艱難辛苦に再び見舞われた我らがヒロイン澪ちゃん。何とか料理で源斉先生を元気にさせようと頑張るも、まったくもって空回り。下がり眉も下がりっぱなしな状況だ。そんな時、とあることがきっかけで、澪ちゃんは忘れていた大切なことを思い出すのだが―――てなお話であります。
 というわけで、まあ、なんつうか……まったく澪ちゃんの人生はこれでもかというぐらいの艱難辛苦が訪れるわけですが、それを乗り越えるガッツあふれるハートと、とにかくキャラクターたちみんなが超いい人という気持ちよさが、やっぱり本作の最大の魅力だろうと思います。やっぱり、頑張ったら報われてほしいし、そういう報われている姿を読むことは、とても気持ちのいい、読書体験ですな。わたしとしては、久しぶりに会うみんなの、「その後」を知ることが出来て大変うれしかったです。まあ、控えめに言って最高すね。高田先生、素敵な「お便り」を有難うございました!

 というわけで、さっさと結論。
 高田郁先生による人気シリーズ『みをつくし料理帖』。既に物語は美しく完結していたわけだが、この度、各キャラクターの「その後」を描いた最新作『花だより~みをつくし料理帖 特別巻』が発売になったので、さっそく読んで味わわせていただいたわたしである。読後感としては、大変好ましく、実に面白かったというのが結論であります。我々読者の心の中に、キャラクター達は生きているわけで、既に完結した物語の「その後」が読めるというのは、やっぱり本当にうれしいものですね。高田先生、ありがとうございました! そして、次の『あきない世傳』の新刊もお待ち申し上げております! 以上。

↓ ドラマは結局あまり見なかったす。澪ちゃんを演じた黒木華ちゃんは最高だったんすけど、又次兄貴と種市爺ちゃんのイメージが、あっしが妄想していたのと違い過ぎて……。。。

 はーーー……面白かった……。
 なんのことかって? それは、わたしの年に1度(?)のお楽しみである、『暗殺者グレイマン』シリーズの新刊が発売になったので、わーい!とさっそく買って読み、味わった読後感であります。わたしの愛する早川書房様は、紙の文庫本で出した1週間から10日後に電子書籍版をリリースするので、紙の文庫が8月21日に発売になって、わたしも本屋さん店頭にて現物を手に取って、くっそう早く読みてえ! けど、あとチョイ我慢だ! と歯を食いしばって耐え、その後8月31日になって電子版が配信開始されたので、すぐさまポチってむさぼるように?読んだのである。しかし早川書房様はホント素晴らしいですな。US発売が2月で、6カ月後にはもう日本語版を出してくれちゃうのだから、マジで他の版元も見習ってほしいものだ。内容的に時事問題が絡んでいるので、どっかの版元のように2年とか時間をかけていては話にならないのである。新潮社、アンタのことだよ!
 というわけで、わたしが待ちに待っていた新刊の日本語でのタイトルは、『暗殺者の潜入』。英語タイトルは『AGENT IN PLACE』という、Mark Greaney先生による「暗殺者グレイマン」シリーズ第7作目である。いやあ、結論から言うと今回も、コートの野郎は相当ヤバい目に遭うものの、ラストへの展開は気持ちよかったすねえ! エピローグは、若干今後への引きのような、ちょっとモヤッとしたエンディングだったけれど、大変面白かったです。おっとヤバイ! これだけでもうネタバレか? 今回はとにかくキッツイ状況で、本当に大丈夫かしらと心配しながら読んでいたのだが、まあ、そりゃあ、大丈夫っすわな。今回も非常に楽しめました。
暗殺者の潜入 上 (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2018-08-31

暗殺者の潜入 下 (ハヤカワ文庫NV)
マーク グリーニー
早川書房
2018-08-31

 ところで今、わたしは思いっきり「面白かった」と能天気な言葉を書いてみたのだが、描かれている物語はまったくもって「面白い」じゃあすまされない、極めて凄惨で血まみれな状況である。なにしろ、今回の舞台は、現在世界で最もヤバイ国、シリア、である。この時点でもう、ヤバすぎることは想像に難くない。しかし、読み始めておそらく小1時間で、今回主人公のグレイマンことコートランド・ジェントリーが、何故シリアと関わるのか、何故単身シリアへ潜入するのか、が判明すると、我々読者としてはもう、正直、「コート、お前って奴は……」と若干呆れつつも、こりゃあヤバイことになってきたな……(ニヤリ)、と妙に心躍ってしまうのではなかろうか。
 そうなのです。もう、さんざんこのBlogで過去作の感想を書いている通り、本シリーズ「暗殺者グレイマン」という作品群は、その主人公に最も特徴があって、まあ、いわゆるハリウッド的な、超凄腕暗殺者であるグレイマン氏は、完全なる人殺しなのでBAD GUYであるはずなのに、おっそろしく人が良く(?)、妙な正義感、あるいは良心、のような「自分ルール」を持つ男で、しかもその自分ルールゆえにどんどんピンチに陥って、どんどん傷も負い、血まみれになっていく男なのである。
 なので、今回の作戦(というか依頼)も、常識的な判断からすれば、シリアに潜入するなんて選択はあり得ないだろうに、グレイマン氏は、何かと文句を言いながら、どちらかというと全く行きたくない、けど、もう、しょうがねえなあ! 的な心境を抱きつつ、死地へと赴くわけです。
 まあ、本作からいきなり読む人はいないと思うけれど、既にシリーズを読んでいる我々としては、グレイマン氏のそんなところに、痺れ、憧れちゃうわけだが、それがどんな読者でも感じるかというと、それはかなりアヤシイことだと思う。ふと冷静に考えるとかなり荒唐無稽だし。でも、こういう、グレイマン氏のような「自らの納得の元に行動する男」のカッコ良さ?は鉄板ですよ、やっぱり。
 あとこれは全くどうでもいいことだが、わたしは第1作目を読んだ時から、どういうわけか、グレイマン氏のビジュアルイメージとして、完全にセクシー・ハゲでお馴染みのJason Statham兄貴に固定されてしまっており、前作で、グレイマンはハゲじゃなかった!というわたしにとっては超残念な描写があったけれど、今回読むときもやっぱり、わたしの脳裏ではコート=Statham兄貴の公式は崩れませんでした。映像化するなら絶対、つうか、この世でコートランド・ジェントリーを演じられるのはStatham兄貴しかいないと思います。
 とまあ、わたしのジェントリー愛はこの辺にして、今回のお話を簡単にまとめておこう。
 物語は冒頭、かの悪名高きISIS団に捕らえられたグレイマン氏が、いよいよ射殺される1秒前の状況が描かれる。そして、どうしてこうなった? と、その1週間前にさかのぼると、舞台はヨーロッパ、フランスのパリのど真ん中?である。フランスのファッションショーに出演するスペイン人のモデル。なんと彼女は、シリアの大統領の愛人であり、おまけに男児を出産しているという恐らくはあり得ない設定だ。そして彼女を拉致し、彼女の持つ情報を利用しようとする亡命シリア人反政府組織の医者夫婦。この夫婦はまったくのド素人だが、夫婦を支援しているフランスの元情報機関の男が、とあるハンドラー経由でグレイマン氏を紹介し、グレイマン氏は、金のため、というのも勿論あるけど、ほとんど反シリアのボランティアめいた動機から、拉致の依頼を受諾し、あっという間にその依頼を果たす。しかし、シリアの情報機関に雇われているスイス人クソ野郎の魔の手は伸び、一方でスペイン人モデルは情報提供に協力してもいいけど、そうなったらシリアのダマスカスに残してきた赤ん坊がヤバいので、現地へ潜入し、無事に連れてきてくれたら協力する、という無茶難題を吹っ掛ける。そしてその無茶に、我らがグレイマン氏が、しょうがねえなあ、くそッ!と行動を開始するのだがーーーてなお話である。サーセン。超はしょりました。
 わたしが今回、一番マジかよ、と驚いたのは、グレイマン氏の心情だ。な、なんと! グレイマン氏は、前作でぞっこんLOVEってしまったロシア美女、ゾーヤのことが忘れられず、悶々としていたのであります!! なんてこった! コート、お前も男だったんだな……!!
 「これは2カ月ぶりの仕事だった。それまでずっと身を隠していた。(略) 精神面で一歩踏み外しているという不安があったからだ。精神を鈍らせていたのは、PTSDや振盪症や若年性痴ほう症ではなく……もっと心を衰弱させることだった。それは女だった。(略) だが彼女への思いは残っていて、彼女と会う前とは自分が変わってしまったのではないかという気がした。(略)ジェントリーはそれをくよくよ考えていた。」
 どうですか、このグレイマン氏の心情は! 最高じゃないですか! そんなことザック(元上官)に知られたら、「シックス、お前の純情に乾杯! でも、だからと言ってシリアに行くのはイカレてるぞ、きょうだい」って絶対言われるぞ!
 要するにグレイマン氏は仕事に没頭することで愛するゾーヤのことを忘れたい、そしてさらに言うと、グレイマン氏は「シリア政府に対抗する戦いを支援するために何かやりたいと、ジェントリーはずっと前から考えていた」ため、今回の物語となったわけです。ホントこの人、いい人すぎるわ……。
 で。問題はシリアの状況だ。今回の物語は、あとがきによれば本当に現在のシリアの泥沼をかなりリアルに描いているようで、数多くの勢力が入り乱れる、極めて複雑なSituationである。現実世界の、いわゆる「シリア騒乱」に関してはWikiを読んでもらう方がいいだろう。わたしもここで説明するのはもうあきらめた。一応簡単にまとめると、(本作では)一番の悪党がシリア大統領で、政府軍(SAA)を持っているし、さらにイランとロシアが支援していると。で、さらに数多くの私兵団(=いわばギャング組織)や、雇われている民間軍事企業が政府側にいて、一方の反政府組織は、自由シリア軍(FSA)やアルカイダ系の連中や、かのISIS団もいて、さらにISIS団をつぶそうとするクルド人たちもいて、アメリカやイスラエル、トルコ、フランス、イギリスなどが反政府側を支援しつつ、クルド人たちにはアメリカもロシアも支援している、ような状況である。ダメだ、説明しきれない。
 恥ずかしながらわたしが全く知らなくて、へえ、そうなんだ!? と驚いたのは、そもそものシリアという国に関してだ。シリアって、宗教的にはかなり寛容、つまり大統領はキッチリスーツを着て、ひげもスッキリ剃って、街行く人も普通にジーンズだったり、女性もヒジャーブを着用してない場合も普通に多いんすね。そして首都ダマスカスのビジネス街は近代的なビルが立ち並んでるんですな。まあ、だからこそイスラム原理主義からは攻撃対象になるわけだけど、考えてみれば当たり前、かもしれないけど、全然イメージと違っていたことはちょっと驚きであった。これはわたしがまるで無知でお恥ずかしい限りであります。そうなんすね……なるほど。
 というわけで、恒例のキャラまとめをしておこうかな。
 ◆コートランド・ジェントリー:主人公で我らがグレイマン氏。通称コート、別名ヴァイオレーター、あるいはシックス。今回、普通なら2回は間違いなく死んでます。今回のグレイマン氏のシリア潜入方法がすごかったすな。なんとドイツ人の民間軍事企業経営者に接触して、シリア政府側の傭兵(=契約武装社員=コントラクター、あるいは武装警備員=オペレーター)となってシリアに入国するわけですが、当然、ドイツ人経営者は、えっと、グレイマンさん、ウチの仕事は、あなた様向きじゃないっすよ……? あなたの「倫理の掟」は知ってるっすよ? どういういきさつで悪役に代わったんすか? と思わずグレイマン氏に質問しちゃうシーンがあったのがちょっと笑えました。なので、表向きは政府側なんだけど、それを出し抜いて赤ん坊誘拐も同時にやってのけてしまうグレイマン氏の大活躍は、大変お見事でありました。そして仲間となる傭兵どものイカレ具合も、グレイマン氏からすると容認できるものではなく、いつぶっ殺し合いになるんだろう……という緊張感も良かったすね。しかしなあ、次は是非とも再びゾーヤに登場してもらいたいですなあ……!
 ◆シリア大統領&正妻シャキーラ&愛人ビアンカ:大統領と正妻シャキーラの間にはもう愛情は薄いものの、大統領にとってシャキーラはスンニ派であるため、政治的重要性が高く、またシャキーラは、ロンドン生まれでヨーロッパで青春を送った女性で、社交性が高く、「砂漠のバラ」と呼ばれるほどの美貌で、そういう意味でも、大統領にとっては「使える駒」でもある。一方でシャキーラにとっては、大統領夫人としての社会的ステータスと経済的な富のためにも、大統領は欠かせないという関係性にある。のだが、男児に恵まれず、将来的な心配をしていたところに、愛人が男児出産という事態になって、このままでは自分の地位が……と焦っており、愛人ビアンカを殺したいと思っているわけだ。そしてビアンカは、元々シリア生まれだけどスペイン育ちでモデルとして活躍してるところをシャキーラの仲介で大統領と出会い、子をもうけてしまう。そしてシリアの内情には全く疎かったため、現状の泥沼を知って情報を渡してもいいというところまで行くけれど、その条件として赤ん坊の脱出を突き付ける、とまあそういう感じです。なんつうか、アレっすね、この3人の関係は、豊臣秀吉&北政所ねね様&淀君の関係に似ているような気がしますね。
 ◆セバスティアン・ドレクスラ:スイス人で世界各国で悪いことばっかりしていた悪党。現在はスイスのプライベートバンクに雇われていて、莫大な金をその銀行に預けているシャキーラを守るために、銀行がシリアに派遣した諜報員。よく考えると、このドレクスラも悪党だけど、一番最悪なのはこのプライベートバンクであるのは間違いなさそう。ドレクスラはシャキーラにビアンカを殺すことを命じられるが、一方で大統領からはビアンカを保護して無事にシリアに連れて帰れとも指令を受け、何とかして自分が生き残る道を模索するある意味苦労人の悪党。結構、計画は杜撰というか行き当たりばったりかも。ま、事態が流動的すぎてしょうがないか。しかし、ドレクスラの最期は……どうなんすかねえ……まあ、後の作品で復讐の鬼となってグレイマン氏の前に現れるのは確実のような気がしますなあ……。
 ◆ヴァンサン・ヴォラン:フランス人で元フランス情報機関の男。69歳だっけ?かなり年はいってる。亡命シリア人夫婦にグレイマン氏を紹介した男。ただし、見通しは甘いし、情報精度も低く、ドジを踏みまくって、グレイマン氏をカンカンに怒らせてしまう。悪気は全くなかったのにね……。よって、グレイマン氏としてはヴォランに対しても、殺意を持っているが、グレイマン氏の恐ろしさをよーく知っているヴォランは、サーセンした! と後半かなり頑張って、一応殺されずに済む。ラスト、グレイマン氏がヴォランに言うセリフがカッコ良すぎなんすよ……。もう二度と会うことはない。会うとしたら、おれが送り込まれたときだ、的な。
 ◆傭兵軍団:シリアでグレイマン氏の同僚となるコントラクターたち。一般人でも虐殺上等な、イッちゃってる人々。当然グレイマン氏から見ると外道。気の毒な運命に……。
 ◆マット・ハンリー:グレイマン氏が唯一信頼(?)している男。前作からCIA国家秘密本部本部長。下巻の超絶ピンチに、マットと連絡がついた時はもう、これからグレイマン氏の反撃のターンだぜ! とわたし的には大変盛り上がりました。
 ◆スーザン・ブルーア:CIA局員で現在のグレイマン氏の管理官(ハンドラー)。基本的にグレイマン氏のことが大嫌い。そしてグレイマン氏はもっとスーザンが嫌い。わたしも、スーザンは嫌いっす。なんか出世欲旺盛な嫌な女に見えるので……。今回は数行だけ、一番ラストで登場する。次回作はまたCIAの作戦なんすかね……。

 とまあ、こんなところかな。おおっと、もうクソ長いし、書きたいこともない……と思うので終わりにします。

 というわけで、結論。
 わたしの大好きなMark Greaney先生による「暗殺者グレイマン」シリーズ最新作、『AGENT IN PLACE』(邦題:暗殺者の潜入)が発売になったので、さっそく買い求め、上下巻やっと読み終わったす。電子書籍の記録によると、上巻423分、下巻319分だったらしい。結論としては、大変楽しめました。いやあ、グレイマン氏のゾーヤへの思いが、意外というか最高ですね! そしてシリアに関しては、本書を読んだことをきっかけにいろいろ調べてみたけれど、なんつうか……本当に人類は殺し合うしかないんだなあと思うと、暗澹たる気持ちになりますな。グレイマン氏を必要としない世界はやって来るんすかねえ……。まあ、現実世界にはグレイマン氏はいないけれど、いないことを喜ぶべきか、嘆くべきか、良くわからんすな。とりあえず、グレイマン氏にまた1年後、会えることを楽しみに待ちたいと存じます。もう、次が来年2月にUS発売されることは決まってるらしいすよ。早川書房様ならまた、来年の今頃、日本語版を出してくれるはず! よろしくお願いします! 以上。

↓ 状況が理解できるようななんかいい本ないすかねえ……池上さん、お願いしますよ!

 早いものでもう8月も終わろうとしています。東京は昨日はちょっとだけ暑さ和らぎましたが、今日はまた暑くなるみたいすね……。
 というわけで、今日発売の週刊少年チャンピオン2018年第40号に、ようやく来週発売の『鮫島、最後の十五日』第(19)巻の新刊告知が載っていましたので、それだけ備忘録として貼っておきます。広告だから、画面スクショ載せてもいいですよね……?
 ちなみに、わたしは電子書籍でチャンピオンを毎週買っているわけですが、先週号から「再連載」と称してシリーズ第1作の『バチバチ』が1話ずつ巻末に掲載されております。今週は第2話でした。
 というわけで、今週のチャンピオンに載っていた新刊ADと、既刊ADを貼りつけておきます。これはアレなのかな、電子版だけ、に載ってるものなのかな? 紙雑誌版は未チェックです。サーセン。
same19
 カッコイイすねえ……第(19)巻は第161話から第169話までが収録されているものと思われます。えーと、【王虎】さんとの闘いの後、部屋に戻った鯉太郎と椿ちゃん、それから【猛虎】先生と田上さんこと【稲虎】関のやり取りのあたりから始まって、VS【猛虎】先生のハッキヨイ、バトルスタート、まで、でしょうか。また(19)巻を買って、一人興奮しようと思います。
 それから、たぶんこれは電子版のみのADだと思われるのですが、『バチバチ』『Burst』のADも、こちらはカラーで掲載されていました。とてもイイ感じっす。
bachibachi
Burst
 わたしは先日また佐藤先生の『いっぽん!』を読み直してみたりなどしているのですが、ホント、既に『いっぽん!』においても、この『バチバチ』『バチバチBurst』『鮫島、最後の十五日』に通じるモノが熱く描かれていて、なんつうか、読んでいて非常にグッと来たっすね……この『いっぽん!』で描かれたものは、すべて『バチバチ』シリーズでさらに深く進化していると思います。
 もし! 『バチバチ』や『鮫島』は大好きだけど、『いっぽん!』は読んでないという方がいらっしゃいましたら、これはもう、マジで今すぐ読んだ方がいいと思いますよ。最高ですので。


 というわけで、結論。
 わたしたちが愛した『鮫島、最後の十五日』のコミックス単行本の最新刊、第(19)巻は来週9月7日(金)の発売であります! ぜひ買っていただければと存じます。
 そして今、電子版の週刊少年チャンピオンでは、「再連載」と称して『バチバチ』が1話ずつ掲載されています。しかし『再連載』ってどういう意味なんじゃろか……まさか最終話まで載せるつもりなんでしょうか? いやいや、それはナイっすよね? わかんねーす。秋田書店の意図が。以上。

↓ わたしはいつも通り、紙と電子の両方を買います。もはや義務っす。

 むおっ!? なんと! Amazonには次の、最期の(20)巻の告知もあるじゃあないですか!? どうやら10月発売、連続刊行のようです! マジかよ!




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 そして以下、追記です。 コメントにて情報提供ありがとうございました!! なんてこった! こ、この表紙は……! これはもう買うしかないっす! 明日買ってきます!!



 2年前、2016年の秋ごろに読んでみて、とても面白かった海外翻訳小説がある。一度死んでも、再び人生をリプレイしてやり直す男の、15回目の人生を描いた『The First Fifteen Lives of Harry August』(邦題:ハリー・オーガスト、15回目の人生)という作品だ。控えめに言ってもこの作品は超面白く、大傑作であるとわたしは認定しているのだが、この作品を書いたのは当時20代の女性で、なんでも10代で作家デビューしていて、そのペンネームも複数使い分けしているそうで、へえ、これはすげえ才能あるお方だなあ、とわたしは結構驚いたのである。
 そして先日、と言っても実は発売になったのは5月で、わたしが発売されていることに気が付いたのが先日、なだけなのだが、ともかく、Claire North先生の新刊の日本語訳が発売されていることに気が付き、うおっとマジかよ! 全然チェックしてなかった! 抜かってた! とあわてて買った本がある。それが、角川文庫から発売されている『TOUCH(日本語タイトル:接触)』であります。
接触 (角川文庫)
クレア・ノース
KADOKAWA
2018-05-25

 おっ、Claire先生自身のWebサイトに、BOOK-TRAILERが置いてあるので、とりあえず貼っておくか。この動画は、英語をよく聞くときちんと物語のあらすじというか、どういう物語なのか想像できるものなので、ちょっとチェックしてもらいたい。YouTubeの設定で字幕自動生成をオンにすると、英語が苦手な方でも大丈夫だと思うな。

 物語はこの動画のナレーションから想像できる(?できないか)通り、人の中に「ジャンプ」して、その人に憑りつき?、誰にでもなることが出来る謎の存在のお話で、まあ、実際のところ今までも似たような作品はいっぱいあると思う。そして本作だが、ズバリ、非常に回りくどくて分かりにくく、読み終わるのにかなり時間がかかってしまった。文庫版で608ページのところ、わたしは電子書籍の記録によれば545分かかったらしい。なんつうか、ちょっとずつ読んだことも悪かったんだろうな、読んでいて、ええと? と何度も前に戻ったりしてしまい、どうもスッキリ頭に入らない物語だったような気がする。
 恐らくその要因は、基本的な設定というよりも、前作『ハリー・オーガスト』でもみられた通り、かなり頻繁に時と場所が移り変わって、場面転換が激しいからではなかろうかと思う。前作では、わたしは別に混乱することなく、物語を楽しむことが出来たのだが……本作においては、明確な「現在」が設定されていて、一本筋が通った物語があるものの、とにかくコロコロと回想が始まってしまって、本筋の進行が遅いのが、わたしの足りない脳みそではついていけなかったのではなかろうか。メインの筋が進みだすのは中盤以降で、そこまで我慢できるかが本作を味わう上でのハードルになっているような気がします。
 さて。どうしようかな、最初に、物語についてまとめる前に、主人公たる「ケプラー」に関して、基本的な設定を短くまとめておこうかな。
 ◆「ジャンプ」能力
 人の肌に直接触ると、その人の体に「ジャンプ」することが出来て、その人の体を乗っ取れるという謎能力。そして乗っ取られた人は、その間の記憶がない。物語の中では、ほんの数秒だったり、数十年の間乗っ取られた状態が続いたような例も描かれている。
 ◆主人公「ケプラー」
 どうやら女性だった、らしい。「ケプラー」という名も、本名なのか不明。もう既に自らのオリジナルの体は消滅していて、自分の体を持っていない。そして正確にはよくわからないが、とにかくもう数100年以上も生きている、らしい。体がなくて「生きている」と言えるのか良くわからないが、これまで、男にも女にもジャンプしてきたので、もはや自分が女だったことすら記憶があいまい、だそうだ。わたしは読み始めた時、どっかにオリジナルBODYは寝てるのかな? と思ったら、もう既に体は持たない存在でした。なので、「ゴースト」と自分で称していて、人にジャンプすることを、その人の体を「着る」と表現している。つうか、まさしくこういう存在を「幽霊」というのではなかろうか。
 ◆実は「同類」が世界にいっぱいいる。
 どうやら、主人公ケプラー同様に、他人の体に「ジャンプ」出来る同類のゴーストが世界にはいっぱいいる。ケプラーが、あ、自分と同じようなゴーストがいるんだ、と初めて知ったのは18世紀、1798年のことらしい。そしてケプラーは、そういったゴーストに、乗っ取る体(=曰く「不動産」)を紹介するエージェント業をなりわいとしていた。乗っ取る体の素性をきちんと調べ上げておかないと、乗っ取ったはいいけど、(元の体の持ち主の記憶がなく、まさしく中身は別人になってしまうため)すぐに周りの人々に、なんか変だぞ?とバレたり、持病があったりするとマズいので、事前調査がとても重要で、ゴーストたちからすると重宝がられていた存在だそうだ。なるほど。そして、ゴーストと契約して、主に短時間だけ、体を貸す協力者もいる。
 ◆彼らを「狩る者たち」がいて、天敵のような存在に追われている
 どうも、ずっと昔から彼らゴーストという存在はごく一部に認識されており、ゴーストを狩る者たちがいて、闘争を繰り返している、らしい。
 とまあ、ごく基本的な設定は以上かな。
 わたしはこの設定がだんだんわかっていく中で、なんだか、あまり売れなかったけどわたし的には結構好きな映画『JUMPER』を思い出した。あの映画では、単に空間移動の「ジャンプ」だけだったけれど、彼らジャンパーを狩る謎の連中が出て来ましたよね。そういう意味で、なんか似てると思ったのだが、本作はそこに『ハリー・オーガスト』的な「永遠を生きる存在」というスパイスが加わっていて、ちょっとした変化球となっている。
 というわけで、物語は現代、トルコのイスタンブールから始まる。「わたし」たる主人公「ケブラー」が銃撃され、瀕死のところで別の人間ににジャンプする。その体にはもう「わたし」がいないことが分かっているのに、襲撃者は「わたし」が「着て」いた人間にとどめを刺す。一体なぜ、自分と、自分が着ていた人間は狙われたのか。その謎を解明すべく、自らを銃撃した男にジャンプして、ヨーロッパを横断する逃避行(?)ののち、真のラスボスとの対決へ、という流れであった。
 その逃避行及び追撃の中で、「わたし」が今までにどんな人間を「着て」、どんな歴史を歩んできたのか、あるいは、同類のゴーストにどんな奴がいたのかなどが語られるわけだが、ほぼ本筋には関係ないようなエピソードが結構面白いのです。
 例えば、時は19世紀末、「わたし」はロシアにいて、とある貴族から、素行の悪い娘の体を「着て」、令嬢らしくしとやかな娘を演じてくれないか、という依頼を受ける。依頼期間は半年間。そして「わたし」は、その依頼通り、娘の体で貴族の令嬢にふさわしくふるまうことで、それまでの周りの悪評を払拭し、半年を過ごす。そして体を返却した後、それまでの半年の記憶がない娘と貴族の父はーーーみたいなちょっとグッとくる話だったり、他にも、同類のゴーストが「不動産エージェント」としての「わたし」に、「一度マリリン・モンローになってみたい」という依頼を持ち掛けて来て、ハリウッドのスタジオ関係者となってモンローへのジャンプを手引きする話だったり(しかも依頼期間が過ぎてもモンローの体を返そうとしないので、ちょっと懲らしめてやったり)、とか、まあ、そういったゴーストならではの不思議で興味深いエピソードがいろいろ描かれている。ただ、くどいけど、そういった面白話はほぼ本筋と無関係です。そこが若干問題と言えば問題なのかもしれないな……。

 というわけで、物語は複雑だし、キャラクターも多いので、その辺りを細かく説明することはもうあきらめた。ので、もう思ったことだけを書くことにする。
 おそらく……前作の『ハリー・オーガスト』と本作において、共通しているのは「人生一度きりじゃない」という状況だろうと思う。特に本作は、永遠ともいえる生を、ずっと過ごしているわけで、「死」を超越してしまっている。もちろん『ハリー』においては「死」が「リセット」のスイッチとして存在していたし、本作でも死の間際に周りに誰もいなくてジャンプする体がなければ死んでしまうんだけど(死にそうになっても誰かの体に逃げて死を回避できる、けどその逃避先の体がなければどうにもできない)、主人公のわたしことケプラーは一度も死んでいない。実際のところ、自らの体はすでになく(その意味では死んでいる)、精神憑依体として在り続けているので、生きていると言えるのかわからんけど。
 そんな状況で、数百年在り続けているわけだが、果たして、人間はそんな孤独の数百年間、正気を保っていられるのだろうか?? 普通に生きる普通人の我々には、ちょっと想像がつかない世界だ。人生についてもはや絶望しているわたしには、生きるというある種の牢獄に、永遠に囚われるなんて、むしろ願い下げというか、ぞりゃもう拷問以外の何物でもないんじゃね? という気すらする。
 たぶん、その永遠を過ごすためには、何らかの明確な「目的」が必要なのではなかろうか? やるべきこと、と見据えたなにか。そういったものが絶対に必要なはずだ。『ハリー』では、その目的がきちんと描かれていて、それ故面白かったと思うのだが、残念ながら本作では、主人公が生き続けるための「目的」が、正直良くわからないんすよね……どういうことだったのか……何のために存在し続けていたのか……絶対、100年もいたら飽きると思うんだけどな……これは、ちゃんと書いてあったのに、わたしが集中できずスルーしちゃっただけかもしれないけど、その辺りの説得力がわたしには感じられなかったのが大変残念だ。
 なんつうか、やっぱり「人生1度きり」でないと、ダメなんじゃないすかね、人間は。永遠の時を生きられる、しかも肉体的には(誰かの体をかっぱらうことで)永遠に若いままでいられる、としたら、普通は喜ぶべきなのかなあ……? わたしはもう、絶対に嫌ですな。無理だよ。絶対に飽きるし、無間地獄とすら思えるすね、わたしには。ふと考えると、ゲームみたいすね。『バイオハザード』でも何でもいいんだけど、ゲームクリア(=目的達成)のために、何度死んでもオープニングに戻るのが前作『ハリー』だったけれど、今回はそのゲームクリア、目的が明確じゃなくて、なんだかやっぱり途中で飽きちゃうすな。本作は、最終的なエンディングは若干のほろ苦エンドで終わるけれど、はたしてケプラーは、その後何をして、何を求めて在り続けるのか。その辺がちょっと想像できないす。

 というわけで、もう長いのでぶった切りですが結論。
 2年前に読んでとても面白かった作品の著者Claire North先生の日本語で読める最新作『TOUCH』が発売されていたので、さっそく買って読んでみたところ、ズバリ言うと若干イマイチ、であったように思う。それは時と場所が入り組む複雑な構造に起因するというよりも、結局はキャラクターの問題ではなかろうか、というのがわたしの結論だ。わたしの浅い脳みそでは、主人公ケプラーに対してどうにも共感を得ることが出来なかった。それはケプラーに、生きる(存在する)意義というか、目的を見出すことが出来ず、どうしてまたコイツは数百年、正気を失わずにいたんだろうというのが実感としてよくわからなかったためではないかと思う。恐らくケプラーは、単に死ねないから存在し続けただけだし、死にたくない(=消えたくない)という、生命の根源的な衝動に従っていただけなんだろうと思う。わたしだって、散々この世に未練はねえなあ、とか思っていても、死の間際には、絶対に「死にたくない」とそれこそ生にしがみつこうとするのは間違いないだろうし。そういう意味では、まあ結局のところ「にんげんだもの」というみつお風な結論なんでしょうな。それが面白いかどうかは別として。はーーしっかし長かったわ……次は、1年ぶりの発売となったわたしの大好きな「グレイマン」シリーズ最新作を読んで、頭を空っぽにして楽しみたいと存じます。以上。

↓ こちらは超傑作です。
ハリー・オーガスト、15回目の人生 (角川文庫)
クレア・ノース
KADOKAWA/角川書店
2016-08-25

↓そしてこちらを次に読みます。電子書籍版は来週ぐらい発売かな……?
暗殺者の潜入〔上〕 (ハヤカワ文庫NV)
マーク・グリーニー
早川書房
2018-08-21

暗殺者の潜入〔下〕 (ハヤカワ文庫NV)
マーク・グリーニー
早川書房
2018-08-21

 先日の土日に、わたしの愛用する電子書籍販売サイト「BOOK☆WALKER」において、かなり還元率の高いコインバックフェアを実施していたため、ほほう、ならばごっそり買ってやろうじゃないか、と面白そうな本を求めて渉猟していたわたしであるが、結果的に20冊近く買った作品のうち、おっと、これって、確か秋からテレビドラマ化されるアレじゃね? と思って買って読んでみた漫画がある。
 それは、日本人女優の中でわたしが現在TOPクラスに好きな、高畑充希ちゃん主演でドラマ化されるという作品である。あれっ? なんだ、既にスペシャルドラマで放送されていて、秋からは連ドラになるってことか? な~んだ、全然知らんかったわ。

 というわけで、わたしが買って楽しんだ漫画、それは阿部 潤先生による『忘却のサチコ』という作品であります。上に貼った動画を見て、そしてこちらのコミックス(1)巻のカバーをご覧ください。なかなかイイ感じに再現されているみたいですな。

 現在、最新巻は第(10)巻まで刊行されているようで、スピリッツに絶賛連載中らしいが(読んでないから知らん)、とりあえずわたしは(1)巻だけ買って読んでみたところ、大変面白かったので、すぐに(5)巻まで一気に買って読んでみた。これはですね、相当イイすねえ! 主人公・幸子さんがかなり可愛いす。
 物語は、わたしの嫌いな小学館から各巻の1話分が試し読みで提供されているので、そちらを読んでいただいた方が早いだろう。URLをメモっておこう。https://shogakukan.tameshiyo.me/9784091866707
 簡単にお話をまとめると、結婚式当日、というか式の最中に、花婿に逃げられてしまった佐々木幸子さんが、傷心を抱きつつ入った店で食べた飯がウマすぎて、何もかも忘却の境地に至り、以降の毎話、つい、なにかにつけてふと思い出してしまう元彼氏のことを忘れるために、おいしい物をモリモリ喰う、というのが基本のストーリーである。
 幸子さんは、元彼氏のことだけじゃなくて、仕事のイライラを忘れるためだったり、まあ、いろんな理由からとにかく毎回食べまくるのだが、そんな幸子さんの心の葛藤もなにもかもすべて、「おいしい」というご飯への感動とともに忘却の彼方にーーーとなるわけです。そしてそんな、無我の境地に至った幸子さんの表情で物語は締めくくられるのがお約束となっている。↓こんな表情。
sachiko02
 まあ、以上の説明だけだと面白さが全く伝わらないと思うので補足すると、要するに佐々木幸子さんが非常に魅力的な、カワイイ女子なのです。というわけで、主人公・幸子さんについてわたしが知り得たことをいくつか挙げてみよう。
 ◆超ド真面目な幸子さん。
 幸子さんは、中学館という出版社のデキる編集部員(小説誌)なのだが、とにかく何かにつけ大げさなほど丁寧でド真面目であり、まあ、一言で言えばかなり常識からぶっ飛んでいる女子である。その結果、いろいろ不器用なのだが、何事にも過剰に全力投球&ド直球であるため、無法天に通ず、的に、担当している作家先生も、編集部のみんなも、幸子さんのことが大好きなのである。もちろん読者たるわたしも幸子さんの魅力にハマったわけだが、空気を読み過ぎて、一周回って読んでない、みたいな、斜め上の行動を取る、ある意味すっとぼけな幸子さんは大変可愛いと思う。よく会社の椅子に正座して仕事をしていて、作家のためならコスプレも辞さない全力プレーが身上。
 ◆お堅い表情ととろける笑顔のギャップがGOOD
 幸子さんは、基本的に常に全力、であるため、その表情も常にキッ!としていて、常にある種の「怒り顔」ではある。しかし、おいしい物をいただいている時の幸子さんのとろけた表情が大変良いのです。まったく本人に自覚はないと思いますが、間違いなく男なら誰しも、そのギャップにグッとくると思う。もはや変態でサーセン。ちなみに幸子さんの上司たる編集長や、担当しているとある作家も、何かにつけ大好きな幸子さんを狙ってる下心満載の変態だが、まあ、男ならやむないでしょうな。可愛すぎる幸子さんは罪な女ですよ……。
 ◆幸子さんのスタイル&ファッション
 常にタイトミニのスーツに準じる服を着ていて(クローゼットに1週間のローテーションがキッチリセッティングされている)、何気にかなり胸はデカい(一緒に温泉に行った先輩女子編集部員曰く「すっごい美乳」らしい)。まあ、こんな人、小説の編集者にいるわけねーよ、という若干のファンタジー的存在である。髪型は肩にかかるぐらいのボブで、前髪は眉ぐらいでパッツン(に近い)。もちろん黒髪。もう最強に理想的じゃねーか、と思う男は世にゴマンといると思います。もちろんわたしもその一人ですが、残念ながら現実には存在しないことも理解しております。
 ◆幸子さんの好み
 幸子さんは高倉健さんが大好き。とりわけ、『幸せの黄色いハンカチ』が大好きらしい。不器用なんで……。
 ◆幸子さんの家族
 どうも実家暮らしなのかな? お母さんは全く普通な常識人のため、幸子さんのぶっ飛んだド真面目さがやや心配のご様子。母は幸子さんのことを「コッちゃん」と呼んでいて、結婚式の事件以来、大丈夫かこのコは、と幸子さんのことを心配している。まあ、大丈夫じゃないんですけどね。

 まだまだ他にも幸子さんの魅力的なところはいっぱいあるのだが、これ以上書くとどんどん変態度が増すのでこの辺にしておこう。この幸子さんを高畑充希ちゃんが演じるなんて、相当ぴったりというか、かなり期待できるような気がしますね。連ドラ版の放送が大変楽しみにであります。ただ、高畑充希ちゃんが可愛いのは間違いないし、幸子さんにも雰囲気は似てるので最高なんですが、幸子さんの何気にセクシーなBODYは、ちょっと再現するのは難しいかもしれないすな……。

 しかし思うに、最近、こういった「ド真面目すぎてズレている」主人公の漫画や小説をよく見かけるような気がしますね。ま、最近じゃなくて昔からあるパターンというべきかな……。また、本作はある種のグルメ漫画でもあり、いわば『孤独のグルメ』的でもあって、そういう意味では、売れる要素をきっちりと掴んでいる作品なんでしょうな。絵も非常に丁寧できれいだし、取材もキッチリされていて、毎回登場する料理の描写もとてもいいし、非常に漫画力の高い作品だと思う。わたしの大好きな有楽町のロメスパの名店、「ジャポネ」も、たしか「ジャンボ」と名を変えて登場してたすね。「ジャポネ」の大盛りを軽く平らげる幸子さん……これは「ジャポネ」を知ってる人なら、すげえ、と思うと思います。小食のわたしには到底食えない量ですよ、あれは。あと、幸子さんは極めて頻繁に出張で地方へ出かけるのだが、まあ、小説の編集者でここまで出張が多い人はまずいないだろうな……しかしそこを否定すると物語は成り立たないので、ファンタジーとしてまったくアリ、だと思います。
 というわけで、もう(10)巻まで発売されている作品ので、超今さらすぎるけど、わたしはこの『忘却のサチコ』という作品が大変気に入りました。まだ(5)巻までしか買って読んでいないので、この後、果たして幸子さんを振った元婚約者が登場してくるのか、そして(4)巻から登場してきた新入社員のゆとり小僧は、少しはましなガキになっていくのか(今のところ典型的ゆとり小僧のクソガキ)、そのあたりも大変楽しみにしたいと思う。

 というわけで、結論。
 ふとしたきっかけで買ってみた漫画『忘却のサチコ』という作品は、映像化されるだけあって確かな面白さを備え、漫画としての出来も非常にクオリティの高い作品である、と思う。大変面白かったので、続刊も買って読みたいと存じます。そして、幸子さんを演じる高畑充希さんの芝居ぶりも、楽しみにしたいと思う。これは期待が高まりますな。大変結構なお点前でした。あと、最後にこんなことを言うのは超今さらなんですが、本作は、ある意味、男目線からの、こんな女子がいたら最高なんだけどなあ、的な男のためのファンタジー漫画なのかもしれず、女性が読んで面白いのか、正直分かりません。根拠はありませんが、女性が読んだら、若干イラッとする可能性があるかも……どうだろうな……分からないので、女性にはお勧めしないでおきます。以上。

↓ ちょっとこれは、すでに放送されたスペシャルドラマを見ておかないとマズいすかね……超気になるっす。

 ふああ……長かった……。
 わたしはおとといの夜、読んでいた海外翻訳小説を読み終わったのだが、読み終わっての偽らざる第一声である。そしてその読み終わった本とは、6日前に買ってきた、コイツのことです。
FIREMAN


 買ってきた6日に前に書いた通りだが、Joe Hill先生による最新長編『THE FIREMAN』であります。わたしとしては、この才能ある作家Joe Hill先生が全然日本で紹介されていないのが本当に残念に思う。かの世界的大ベストセラー作家であり、わたしがこの世で最も大好きな小説家、Stephen King大先生の次男長男(姉と弟がいる第二子)で、なんでも、本人としては、King大先生の息子であることで、ちやほやされるのが嫌でJoe Hillというペンネームを使い出したらしいが、現在ではもう、King大先生の息子であることはまったく隠しておらず、世に知られている。しかし、ここ日本ではさっぱり知名度は低く、その作品が非常に面白くて、優れた才能の持ち主であることは、King大先生の息子であるということを知らなくても、作品を読めば一発で分かると思うのだが……ほんともったいない。もっともっと売れてほしいのだが、いかんせん日本の版元である小学館にはまったくやる気がなく、ほぼ埋もれているのが現状だ。ホント腹立たしいわ。
 それはともかく。まずは『THE FIREMAN』の物語をざっとまとめてみよう。
 物語は、冒頭、学校の保健室から外を眺めた主人公が、「燃える人間」を目撃するシーンから始まる。そしてあっというまに、その人体発火の病気(?)が地球を覆い、一転して世界はディストピア的状況に陥る。まあ、欧米人はディストピアものが大好きですな。で、主人公は「感染者」の押し寄せる病院へ看護師として働くようになるのだが、自らが妊娠していることが判明、こんな状況で妊娠するとは……と若干途方に暮れていると、ついに自らも発症してしまい、そのことで(頭のイカレた)夫にぶっ殺されそうになる。そんな大ピンチを救ったのが、消防士(FIREMAN)の格好をした謎の男と、なぜかキャプテン・アメリカのマスクを着用した少女だった。辛くも難を逃れた主人公は、二人に連れられて、自宅から数kmにあるキャンプ場に集まる「感染者」たちの集団に合流する。しかし、そのキャンプも、その場を仕切る「ファーザー」はいい人だったが、やがて妙な狂信めいた集団心理が醸成されていき、ファーザーが殺されかけ、意識不明に。代わってリーダーとなった女、ファーザーの娘のキャロルは、とんでもない狂信で人々を支配していくのだが……てな展開であります。
 こういう物語なので、Kingファンとしては、なんとなく『The STAND』(超インフルエンザで人類の大半が死に絶えた世界の話)や、『UNDER THE DOME』(謎の隔離バリア空間に閉じ込められた人々の話)、あるいは『The MIST』(謎の霧にスーパーマーケットに閉じ込められた人々が狂信によってイカレていく話)など、父たるStephen King大先生の作品を思い出すのではないかと思う。
 しかし、Joe Hill先生は、一番最初の序文で思いっきりこう表明している。
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 インスピレーション
 J・K・ローリング――その数々の作品が、ぼくに本書の書き方を教えてくれた。
 P・L・トラヴァース――僕に必要な薬をもっていた。
 ジュリー・アンドリュース――その薬を飲みやすくするスプーン一杯の砂糖を持っていた。
 レイ・ブラッドベリ――本書の題名を盗んだ。
 わが父――題名以外のすべてを盗んだ。
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 まあ、こうも堂々と宣言されたら、なんつうか、むしろ期待が高まりますね。ハリー・ポッターとメリー・ポピンズ、それから『華氏451度』と父King大先生に対する敬意をもって書かれたわけで、とりわけ、父からは題名以外の全てを「盗んだ」と記すのは、わたしにはある種の決意表明のようにも感じられる。読者たるわたしとしては、その意気やよし! 父を超えてみせてくれ! とワクワクが止まらない見事な序文だったように思う。
 というわけで、わたしはこの長~~い物語を実質4日間で読み終えてしまったのだが、まあ、やっぱりちょっと、冒頭に記した通り、長げえよ……とぐったりしてしまったのは確かだ。とりわけキャンプでの日々が長いよ……。中盤ぐらいから犯人捜し的なミステリー風味が加わって来て、一体だれが、なんのために?的な興味もわいてきて、面白いことは間違いないのだが、キャラクターも多いし、そしてどんどんと主人公及びファイアマンが心身ともにボロボロになっていく過程は、正直読んでてつらかったす。この辺りのボロボロ具合、もうこれ、逆転できないじゃん!? ぐらい追い込まれていくのは、実に『UNDER THE DOME』っぽさが炸裂してたように思う。そして後半の逃走劇は、なんだか『MAD MAX2』あるいは『MAD MAX:Fury Road』的でもあったように思う。完全にヒャッハー世界ですよ。恐ろしいことに。
 わたしが本作を読んで少し残念に思ったのは、肝心の『FIREMAN』があまり活躍しないんすよね……そして弱い……。まったくもってスーパーヒーローではなく、心身ボロボロで、これでもかというぐらいやられていく様は、ホントつらかったす。
 で、次に、本書でのカギとなる病気についてまとめてみよう。こういうことだと思う。
 ◆竜鱗病<ドラゴン・スケール>:正確には病気というよりも、「竜様発燃性白癬菌」というカビの一種の菌類に寄生された状態。この菌に寄生されると、肌に竜の鱗のような模様がタトゥーのように現れる。そして燃える。発生元は不明だが、温暖化で溶けたシベリアの永久凍土から数万年の休眠から目覚めたという説もあるらしい。そして、保菌者と接触しても感染することはなく、どうやら胞子を含む「灰」が媒介しているようで、菌はその灰を生成して広く増殖するために宿主を燃やす、らしい。
 しかし、この菌と共生する方法があって、燃えないでいられる状態を維持することも可能。それは、脳から分泌される「幸せホルモン」でお馴染みのオキシトシンを感知すると、菌はこの宿主は安全だ、と思うらしいのだ。面白いよな……こういう設定。キャンプでは皆が歌って心を一体化することで、体のスケール(鱗)が発光し、「ブライト(Bright)」と呼ばれる恍惚状態になり、精神的なテレパシーめいたもので「繋がってる」意識を持つ(=こういう人と繋がっている状態が人にとって最も幸せな状態=オキシトシン分泌、らしい)ため、燃えない、ということらしい。この「ブライト」というのも、Kingファンとしては「輝き(Shining)」能力を思い起こさせますな。そして問題は、燃えないだけでなく、炎を自在に操るジョン=FIREMANは一体どうやっているのか? ということになるのだが、これはある種の修行的な訓練で身に着いたそうです。この訓練のくだりはちょっとアレだけど、まあ、とにかくよくできた設定であると思う。そしてどうでもいいけど、<ドラゴン・スケール>というネーミングはセンス抜群すね。
 で、最後に、キャラについてだが、本作は小学館文庫版で<上>が660ページ、<下>があとがきなど含めて637ページ、合計1297ページと膨大で、キャラクターもそれなりに多いので、まずはわたしがパワーポイントでテキトーに作った人物相関図を貼りつけておこう。
FIREMAN
 ◆ハーパー:主人公の女性。30代後半だっけ? 年齢は忘れました。学校の保健室の先生だったが、「竜鱗病」蔓延後は看護師に。彼女の問題点は、果たして何もなく平穏な世界のままだったら、夫の本性に気が付けていたのだろうか? という点だろうと思う。ある意味平均的US家庭の奥様で、保健室のメリー・ポピンズとして厳しく、優しく子供相手に過ごせていたはずで、まさか夫があれほどクソ野郎だったことには気が付かずに終わっていたのではなかろうか。そして、それはそれで、まったくの幸せな人生だったのではないだろうか? そう考えると、若干ハーパーというキャラに対する共感は薄れてしまうような気もするけど、まあ、人間だれしもそうなんでしょうな。普通の人代表として、そして異常事態でも変わることのない善良な魂の持ち主として、主人公の資格を持っていたと思うことにしよう。なんつうか、善良さによるものなのかどうか分からないけど、ハーパーはかなりあっさり人を信用するし、好きになっちゃうという、フツーの女性だと思う。そして妊婦なのに、無茶しすぎだよアナタ……。
 ◆ジョン:元菌類学者のイギリス人。現FIREMAN。消防士の格好をしていて、炎を操る男。フツーの人なので、肋骨は折るわ手首は脱臼するわと、満身創痍。中盤ほとんど出番なし。キャンプにはおらず、すぐそばの小島で一人ひっそり暮らしていて、「ブライト」状態で人と繋がることを拒否している。その理由は―――まあ、書かないでおきます。読んでお楽しみください。
 ◆セーラ:すでに故人。焼け死んだ。が、実はジョンの小屋のかまどの火の中にーーな方なので、わたしは勿論『ハウル』のカルシファーを思い出したっす。
 ◆ファーザー・トム・ストーリー:キャンプの主導者。元学校の先生。セーラとキャロルの父。まあ、なんつうか、いい人なんだけど……あまりに無防備というか、ちょっと危機感が足りなかったのではないかしら……。
 ◆キャロル:セーラの妹で超奥手な女。何歳か忘れたけど処女。ファーザー襲撃&昏睡ののち、どんどんとおかしな方向へまっしぐらなイカレたお方。この人も、この異常事態ではなく、普通な世ならば、普通に生きて行けたかもしれないのに……。たぶん、本人には全く罪悪感のかけらもなく、正しいと思ったことをしただけだと思う。恐ろしい……。
 ◆アリー:セーラの娘。16歳だっかな、絶賛思春期の扱いの難しい娘さん。ジョンを慕っていて、ジョンのFIREMAN活動のサイドキック(相棒)的に、キャプテン・アメリカのマスクをかぶって活躍。しかしキャンプでは、周りに影響されやすいのかな、コロコロと態度が変わる、ホント難しい娘さんですよ。
 ◆ニック:セーラの息子でアリーの弟。聾唖で、読唇術を身に付けていないため(作中で曰く、読唇術なんて映画の世界のモノで、出来っこない)、手話か筆談で意思疎通する少年。しかし「菌」の扱いが実は非常にうまく、2代目FIREMANになれるレベル。基本的に、甘えっ子です。
 ◆ジェイコブ:ハーパーの夫。公務員だが、実はずっと人々をバカにして、オレが世に認められないのはクズどものせいだと世界を憎んでいた。ついでに妻のハーパーに対しても、内心ではこのアホ女め、とずっと見下していて、それを小説に書いてストレス解消していたクソ野郎。ハーパーが感染したことで、自分ももう保菌者なんだと血迷って無理心中しようとするアホ。そしてその際、ハーパー&FIREMANにこっぴどくやられて、ずっとハーパーとFIREMANと感染者をぶっ殺すことを生きがいにする。でもまあ、ジェイコブもまた、平穏な世界であれば、それなりに平穏に生きて行けたんでしょうな……。
 ◆ルネ&ドン:最後までハーパーの味方のいい人。ルネは黒人のおばちゃん、ドンは元軍人のおじいちゃん。詳しくは相関図参照
 ◆ベン:元警官で、コイツはいい人かな? と思っていたけど、どんどんと元警官の血が騒いだのか、圧制側に回ってキャロル陣営へ。「ブライト」中のトランス状態でハーパーのケツをもみまくる変態おやじ。読んでいて、ついドンとベンが、どっちがどっちだかわからなくなるので、気をつけよう!
 ◆マイクル:アリーが大好きな少年で、コイツもいい人だと思ってたのに……単に、ヤリたくてしょうがない男子高校生(童貞)でした。
 ◆ハロルド:既に故人。キャンプでは嫌われ者のキモオタデブの変態野郎。しかし実は、一番事態を把握している賢い奴で、日記を残しており、数々のヒントを残す。なので、実は大変かわいそうな野郎でした。
 とまあ、主なキャラはこんな感じかな。他にもいっぱいいろいろなキャラが出てきますが、彼らに共通するのは、平穏な世界ならば、誰しもが普通の人であったはずだという点で、この「菌」が、あらゆる人に、ある意味平等に、その人の本性をむき出しにする事態へと突き落としたわけで、なんつうか、恐ろしいというか、こういう事態でも変わらない自分でありたいと願わずにはいられないすな。いや、変わらない、というのは違うか? 変わったように見えてもその人そのものなわけで、仮面を無理矢理剥されたってことなのかな……その仮面があまりに別物だと、なんかゾッとするっすね。おれは果たして大丈夫なんだろうか……という怖さは、とても強く感じるに至ったす。

 というわけで、もう長いのでぶった切りだけど結論。
 US発売から2年(?)。待ちに待ったJoe Hill先生の最新作『THE FIREMAN』の日本語翻訳が発売されたので、さっそく買い求め、むさぼるように読んだわたしである。読み終わって、まず第一に、長い! 疲れた! という感想が一番最初にわたしの口から洩れたのは確かだし、実際、途中ちょっとダレるかも……とは思うけれど、それでもやっぱり、結論としては面白かった! と申し上げたい。少なくとも、Kingファンならば絶対に読むべき物語であり、Kingファンに対しては絶対のおススメだ。ただし、Kingファン以外の人々に対しては……どうかなあ……最後まで読み切る気合は必要だと思います。そして、わたしは偶然、今年上演された『メリー・ポピンズ』の舞台を観に行ったし、その予習として映画版も見直しておいたのだが、本書は数多く『メリー・ポピンズ』を知らないと困る描写が多いような気がする。なので、読む前に、ぜひ! 映画版『メリー・ポピンズ』を観ておくことを推奨します。知っていると、ニヤリとしてしまうような場面がいっぱいありますよ! そんなところも、わたしとしては大変楽しめました。つうかですね、King大先生のDNAは確実にHill先生にも受け継がれているのは間違いないですな。すごい才能ですよ。次の新作が楽しみです。以上。

↓ マジで観ておいた方がいいと思います。映画としても最高に楽しいしね。若き頃のジュリー・アンドリュースさんはホントかわええっすな……!

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