よおおーーし! 機は熟したぜ! さあ、反撃だ!!
 おそらく、わたしと同じようにワクワクした方が日本全国で数万人はいらっしゃることでしょう。そうです。わたしの大好きな、高田郁先生による時代小説『あきない世傳』シリーズ最新(10)巻がいよいよ発売になりました!!

 わたしは今回の『合流篇』というサブタイトルを見ただけで、すごく嬉しくなったわけなんですが、それはもう、前巻までを読んできた方なら同じなのではないでしょうか。
 前巻では、主人公の幸(さち)ちゃんは、あろうことか実の妹の結ちゃんによる捨て身の攻撃を受け、深く深くダメージを負ったわけですが、一方では、大坂より心強い味方の来訪も予告されておりました。その、最強とも言える味方が、ついに江戸に到着ですよ! こういう「合流」は、もうアベンジャーズ並みに大興奮しますなあ!!
 さてと。以下は完全にネタバレに触れると思いますので、まずはご自身で読んでからにするか、まだ未読の方は今すぐ退場してください。

 はい。それではよろしいでしょうか? もう前巻までの状況は説明しませんが、最新(10)巻冒頭での状況としては、我らが「五鈴屋」は、こんな状況にありました。すなわち、
 1)呉服屋協会から強制退会の処分を受けた
 2)結果、呉服(=絹製品)の取り扱い不可、よって、太物(=綿製品)しか商えない
 3)太物は安いので、商売的には厳しい、が、需要は高い
 4)ので、太物での商品開発が急務である
 とまあ、こんな感じで、前巻では、「風呂上がりに着て、そのまま風呂屋から家に帰れるような着物」があれば売れるんじゃね? とひらめくところまでは描かれていたわけです。当時の「湯帷子(=ゆかたびら)」から、まさしく現代のわれわれが知っている「浴衣(=ゆかた)」の誕生の瞬間なわけですな。当然、太物(綿織物)なら、濡れたって平気だし、洗えるし、コイツは行けるかも!? とひらめく展開は読んでいてわたしも「それだーーー!!」と膝を打ったわけですが、とはいえ、そこは「粋」を最も大切にする江戸社会、カッコ良くないとイカンわけです。さらに言えば、メンズでもレディースでもイケないとダメ、で、老若男女問わずの製品にしたいわけです。
 というわけで、今回の(10)巻で問題となるのは、
 1)どういうデザインにする? 小紋で培った技術を生かす「図案」とは??
 2)カッコいいのが出来たとして、どうやって製造し、売る? しかも一時の流行じゃなくて、ずっと定番商品にするにはどうすべか??
 という2点について、今回は幸ちゃんたち五鈴屋関係者一同の奮闘が描かれているわけで、さらに心強い味方の合流もあって、実に興味深く、面白いお話でありました。
 【1.デザイナーの苦闘】
 まあ、まずはとにもかくにも、図案がないと話にならないわけで、ここは当然五鈴屋江戸店のチーフデザイナーの賢輔くんの出番なわけですが、せっかく編み出した自信作を悪の大魔王となり果てた結ちゃんに持ち逃げされた賢輔くんとしては、「アレを上回るデザイン……くっそう、思いつかねえ!!」とずっと悩むことになるわけです。しかも、結ちゃんの堕天は、(強いて言えば)賢輔くんが結ちゃんの恋心を「あっしは仕事がまず第一なんで」とごくあっさり振ったことに根本原因があったとも言えるわけで、悩みに悩んで行き詰る日々を送る賢輔くん。しかしです。そんな苦闘の日々にあっても、大坂からやってきた味方がいろいろ連れ出してくれたり、大川で毎年開催される恒例の「あのイベント」に行ったりすることよって、「これだ!」とひらめくに至る展開は、とても心地よいものがありましたな。どんな図案をひらめいたのかは、ご自身で読んでお確かめください!
 しかし問題は、その図案だと、それまでの常識の中では、実現できないハードルが2つあったのです。それは、サイズの問題と、型彫師の技術の問題でありました。
 サイズの問題は、つまり従来の染付の型を作る「型地紙(=伊勢型紙)」では、賢輔くんのひらめいた図案が入りきらないような、小さいものしかないのです。でも、そもそも従来の型紙は、もっと大きいものを裁断して販売されているので、裁断前の型紙をGetすればイケるんじゃね? ということで、まあ、結果として無事にそのデカい型紙を入手するわけですが、その経緯がまた今回もイイ話なんすよねえ!! 読んでいて、とっても嬉しくなるような、よーし、これで準備OKだぜ! とわたしも興奮したっすわ。
 で、デザインも決まり、型紙もGetした、けど、このデザインを彫るには相当のテクが必要だぜ!? というときに、これまた彫師の梅松っつあんの技(=基本的に錐で穴を空けて彫る技)だけではできない、というタイミングで、梅松っつあんの故郷から若手彫師が江戸にやってきて(正確には郷を捨てて半死半生でたどり着いた)、その技術の問題もクリアされるわけです。ご都合主義というか出来すぎだけど、いいんだよそんなこたあ! 最高に面白いんだからケチをつけるのは粋じゃあないぜ!
 そしてデザイン完成→型紙完成、ときたら、次は染付ですな。そして当然染付は、五鈴屋の強い味方である力造兄貴が「両面糊付け」の技(型を抜いた部分に糊を置いていく、けど、片面だと裏からにじんできれいにならない、ので、両面に糊を置く必要がある)でやってくれるわけで、こうして五鈴屋待望の「新商品」が出来上がるわけです。最高じゃないですか!
 【2.宣伝販売戦略】
 といういわけで、みんなの頑張りで、製品の製造ラインの稼働は実現できましたが、さて、それをどう告知して販売するか? が主人公・幸ちゃんのメインミッションであります。
 本シリーズで何度も出てきますが、当時の宣伝活動には、1)引き札を配布する(=現代で言うチラシの配布)、2)読売に取り上げてもらう(=現代で言う新聞広告)、3)幸ちゃんが大阪時代に実行した草紙本に載せる(=現代で言う雑誌広告)、4)幸ちゃんが大坂時代に実行した無料サンプル・景品の配布(=現代で言うCI、ノベルティ)、5)幸ちゃんが江戸店開店時に実行した、どこかに寄進して使ってもらったり、役者に着てもらう(=現代で言う口コミ、プロダクトプレイスメント)なんかがあるわけです。
 結論から言えば今回の新製品に関しても、5)の口コミをメインとして採用するわけだけど、そのサンプル提供先、そしてタイミング、さらにその量! にはとても見事だと拍手を送りたい気持ちっすね! ホント、ついに新製品が世にお披露目された瞬間は最高にうれしくなりましたな! なお、今回は冒頭からお披露目まで、2年?というかなり長い時間が流れますが、今回のキーワードである「秘すれば花」が極めて効果的であったと思います。
 そして、今回わたしがとても素晴らしいと思ったことが二つありました。
 一つは、大量のサンプル製造のために、お針子のおばちゃんたちを動員する流れと、お披露目後殺到するお客さんに、「ああ、なんなら仕立ても承りますよ!」とそのお針子のおばちゃんたちを継続雇用する流れだ。当時、服というものは反物から仕立てる、あるいは古着を買う、しかないわけだけど、せっかく反物を買っても、仕立てはまた誰か別の人に頼むのが一般的(? 一般的かどうかわからんけど、出来ない人もいっぱいいるし、男一人暮らしな場合もある)で、そこも五鈴屋は引き受け、さらに雇用も生み出しちゃったわけですな。これはとても素晴らしいと思うすね。ちなみに、この前段階として、五鈴屋では恒例の「無料の帯締め教室」を発展させた、反物・布地の「無料裁ち方教室」を始める流れも、ホントに顧客第一の商売に叶った、素晴らしいアイディアでしたなあ。
 そしてもう一つは、大量の商品ストックや仕立てのための作業スペース確保のために、なんと五鈴屋は店舗拡大も実現するのです。そして! その店舗拡大に超大きな貢献をしてくれたのが! 大阪からやってきてくれた最強の味方、菊栄さんですよ!! もうキャプテン・マーベル並みの大活躍は最高でした!
 菊栄さんは、シリーズを読んでる人ならわかりますよね。大坂・五鈴屋4代目(=とんでもないクソ野郎)に嫁いで、幼かった幸ちゃんにとっても優しくしてくれた、けど、クソ4代目に離縁されたあのお方で、実家に戻ってからは自らのアイディアで「鉄漿」の販売で大きく商いを展開した、けど、アホな弟夫婦に邪険にされて、いよいよ満を持して江戸に進出する決意を前巻で固め、ついに江戸到着となった菊栄さん。今回はもう、菊栄さんの活躍が随所に光りましたなあ!! 経済的な支援、そして精神的な支えとしても、幸ちゃんを大いに助けてくれたのがホント嬉しいす。ついでにやってきた大阪本店のお梅さんも、まあキャラ的に三枚目なので大活躍はしてないけど、ムードメーカーとして幸ちゃんたちの心の癒し(?)に貢献してくれたし、とにかく今回の「合流」は、ホントに良かったなあと読んでて笑顔になったすね。
 もちろん、菊栄さんは自分のビジネスのために江戸にやってきたわけで、その仕込みもキッチリ、順調に整っているようなので、菊栄さんの成功も、とても楽しみであります! わたし的には、菊栄さんはシリーズで一番好きなキャラっすね。絶対美人に決まってるよね!

 というわけで、わたしは今回の(10)巻も最高に楽しませていただいたのですが、今後の気になるポイントは、もう当然この2つです。
 1)あの5代目、惣司あらため井筒屋保晴氏の動向は?
 いやあ、菊栄さんと惣司の20数年ぶりの再開は最高だったすねえ! こんなこともあるんだ、と爆笑して受け入れる菊栄さんのハートの強さに乾杯! ですよ! わたし的には、惣司はビジネスにおいてはそれなりに有能だと思っているし、実際キッチリけじめをつけてから失踪したわけで、実はそれほど悪い奴じゃないと思っています。そして菊栄さんも、今や両替商となった惣司をきっちり利用しているわけで、ビジネス的にはある意味Win-Winな関係を作り上げてるわけですが、今後、惣司がどう動くか、目が離せないですな。非常に気になるっす。
 2)悪の大魔王、結ちゃんの動向は?
 今回姿を現しませんでしたが、まあ当然、大魔王も黙ってはいないでしょう。どういうイヤらしい反撃をしてくるか、楽しみじゃないけど気になるっすね。和解ってあり得るのかなあ……?? あり得ると思います? わたしはナイとは言わないけど、相当難しいだろうなあ……。。。間に立てる人がいないもんね、もはや。。。まあ、とにかく結ちゃんの動向も、非常に気になるっすね!!

 というわけで、もう長いので結論!

 わたしの大好きな時代小説『あきない世傳』の最新(10)巻が発売され、すぐさま買って読んだわたしですが、一言で言えば今回はもう、全編嬉しいことばかり(?)、だったような気がします。面白かったですねえ! 今のところ、模倣者のパクリは出てきてませんが、普通に考えて、五鈴屋の独占・独走状態が続くわけもなく、ズバリ言えば五鈴屋の独占状態では「一時的な流行ではなくずっと商える定番商品」にもなりにくいわけだし、まあ、高田先生の作品ならば間違いなくまたも大ピンチな事態が勃発するのでしょう。なので今回はある意味での「凪」の訪れとも言えるかもしれない。でもさ、頑張ったらやっぱり報われてほしいすよね。そして報われた幸ちゃん達が、一時の幸せをかみしめる時間はとても嬉しいですな。次のピンチまでに、会社として五鈴屋にはしっかり備えていただきたいものです。それにしても、いやー、『あきない世傳』は最高っすね! 以上。

↓ やっぱり、まったく現代でも色あせない、美しいデザインが多いですなあ。