先日の第92回アカデミー賞は、韓国映画の作品賞&監督賞受賞で幕が下りたわけだが、わたしとしてはあの映画にはほぼ興味はなく、また、ノミネート作品の大半をまだ観ていなかったので、実のところ今年のアカデミー賞にはそれほど興味が持てないでいた。まあ、『JOKER』のJoaquin Phoenix氏の主演男優賞はカタイだろうとは思っていたけれど。
 しかし、作品賞にノミネートされていた、とある作品に関しては、わたしは早く観てえなあ、ととても興味を持っていた。その映画とは『1917』のことであります。なんでも、全編ワンカット、に見えるような編集で、戦場に放り込まれたような臨場感ある体験を得られる凄い作品らしい。
 というわけで、やっと日本でも公開となったのでさっそく観てまいりました。
 結論から言うと、大変面白く、ドキドキがすさまじい傑作であることを確認した次第である。これはすごいや。なんつうか、あのウルトラ大傑作『GRAVITY』にちょっと似てるような気がしますね。題材は第1次世界大戦の戦場と、宇宙空間、とまるで違うんだけど、一つのMISSIONのために一人の人間があらゆる努力を積み重ねていく姿は、非常に近いものがあるように感じたっす。いやー、面白かったわ!

 まあ、物語は上記予告の通りだ。そして字幕が全然台詞と合ってないことは一応突っ込んでおこう。この予告でチラッと現れるBenedict Cumberbatch氏演じる大佐のセリフは、まったく字幕と違うよこれ。
 というわけで、物語は1917年4月6日のフランス(あるいはベルギー)の、第1次世界大戦におけるいわゆる「西部戦線」での出来事を追ったものだ。かの名作『西部戦線異状なし』は、ドイツ軍視点の物語だったが、この映画はイギリス軍視点の「西部戦線異常あり」というべき物語だ。
 この日は、Wikiによるとアメリカ軍が参戦した日だそうだが、状況をまとめておくと、前年のヴェルダンの戦いを経て、ドイツ軍はアルベリッヒ作戦を発動し、西部戦線から戦略的撤退を始めていた。これは、後方のヒンデンブルグ線で待ち受けて連合軍を一網打尽にしようという罠の一環なのだが、前線にいたイギリス軍は、そのことを航空写真ですでに分かっていた。分かっていたのだが、全軍に伝える手段がなく、最前線のイギリス軍人たちは、チャンス、一気にドイツの奴らをぶっ飛ばすぜ!と追撃戦に移ろうとしていた。そのため、まんまと罠に引っかかってしまうのを防ぐべく、作戦本部から二人の若者が伝令として最前線へ向かうのだった―――てなお話である。なお、この物語は本作の監督、Sam Mendes氏のおじいちゃんから聞いたお話をベースとしたフィクションなのだが、そのおじいちゃんは実際に1次大戦に従軍した伝令兵だったそうです。
 現代のような情報伝達手段の発達していない当時において、全軍へ指示を行き渡らせるのは極めて難しく、当時すでに「有線」の電話網はあったけれど、有線は文字通り電話「線」を切断されたら使えないわけで、戦国時代の日本のように、伝令兵を使うしかない。軍組織は大きければ大きいほど、統一した意志をもって行動するのが難しくなるわけだが、その意思統一のための情報連絡は極めて重要だ。
 わたしは映画オタクとして、中学生の時に「GALLIPORI(邦題:誓い)」という映画を観ている。これは、たしか『MAD MAX2』が公開された後、Mel Gibson氏の人気が高まって日本でも公開された作品だが、あの映画も第1次世界大戦の「ガリポリの戦い」(1915年)を描いたもので、主人公が伝令兵として戦場を駆けるお話で、わたしは『1917』のストーリーを知った時、真っ先にこの映画のことを思い出した。『GALLIPOLI』はなあ……泣けるんすよ、すごく。Mel Gibson氏も若くてすごいイケメンで……でもラストがなあ……ダメだ、これは重大なネタバレなので書かないでおこう。とにかくエンドクレジットの映像がショックというか悲しいウルトラ傑作なのだが……わたしは今回の『1917』も、ラストまで大丈夫だろうか……とドキドキしながら観ていた。
 が……まあ、その予感は半分だけ当たっていたと言っておこう。詳しくはもう、今すぐ劇場へ行って確認してください。とにかくこの映画最大のポイントは、やっぱり「撮影」であろうと思う。監督がレッドカーペットで話していたけれど、実際には最大の長回しは8分ほどだったそうで(と言ってもそれでもすげえ長い!)、実際には超うまくつなげているのだが、よーく見ていると、ここでつないでいるな、というのは実は結構わかる、けど、もう見事としか言いようがないすね。そういう技術面では、すさまじい技量で、これはもう世界最高峰レベルだと思う。本当に戦場にいる感覚は半端ないす。
 というわけで、各キャラと、何気に豪華なチョイ役陣を紹介しておこう。
 ◆ウィリアム・スコフィールド:通称「スコ」または「ウィル」。主人公。正直、彼が何故、故郷に帰りたくない的なことを言っていたのか、その背景はよく分からない。最初は、もう戻ろうぜ、とか任務に消極的だったが、とあることから、その任務に全力をかける! 大変な熱演でした。素晴らしかったすね。ザ・フツーな青年だったのに、だんだんとその表情が鬼気迫っていくのがとても良かったと思います。演じたのはGeorge MacKay君27歳。彼はわたし的には「How I Live Now」の彼氏だとか、WOWOWで観た『Ophelia』でのハムレット役だとか、意外と見かける顔で、なんつうか、いかにもイギリス人っぽい顔っすね。もちろん本物のイギリス人です。
 ◆トム・ブレイク:最前線に兄がいるため、兄を救うべく伝令兵に選ばれた上等兵。友達のスコを相棒に、戦場を駆ける若者。演じたのはDean-Charles Chapman君22歳。彼も意外と見かける役者で、映画デビュー作は『Before I Go to Sleep』での主人公Nicole Kidmanさんの息子役だったみたいですな。優しすぎたトム、君は立派だったよ……。。。
 ◆エリンモア将軍:二人に伝令を託す作戦司令部の将軍。出番は数分だけど演じたのはイギリス王でお馴染みColin Firth氏。
 ◆スミス大尉:道中でスコと出会い、スコを途中までトラックで送ってくれるカッコいい士官。わたしはこの人が本作に出てることを知らなかったので、画面に登場した時は、おおっと! これはこれは、イギリスの誇るセクシーハゲ、Mark Strong兄貴じゃないすか! と大歓喜したっすw なお、本作ではずっと軍帽着用なので、ハゲ具合は観られません。
 ◆マッケンジー大佐:最前線で今にも特攻しようとしている司令官。伝令の届け先。演じたのは前述の通り、ドクター・ストレンジあるいはシャーロックでお馴染みBenedict Cumberbatch氏。この人も出番は数分だけど、存在感ありましたなあ。
 ◆ジョセフ・ブレイグ中尉:トムの兄貴でマッケンジー大佐の連帯に所属。演じたのは、Game of Thonesでお馴染みらしいRichard Madden氏。もちろんイギリス人。次のMCU『THE ETERNALS』に出るらしいすね。彼もまた本作での出番はほんの数分です。
 というわけで、ホントに数分しか出ない士官として大変豪華なキャストがチラッと出てきますので、その点は要チェックすね。
 で、監督は『007』の『SKYFALL』と『SPECTRE』の2作を撮ったSam Mendes氏だが、わたしとしてはその007作品はあまり好きではなく、Mendes監督作としては『JARHEAD』や『ROAD TO PERDITION』の方が好きっすね。しかしまあ、本当に本作は凄い映画でした。大変満足です。

 というわけで結論。

 惜しくもオスカー作品賞と監督賞は逃してしまった『1917』という作品を観てきたのだが、噂にたがわぬ凄い撮影で、ある意味映画の醍醐味としてはもう、最上級にすばらしく、極めてハイクオリティの作品であったと思う。実に面白かった。まあ、殺し合いの戦争を描いた作品だし、悲しい部分もあるので面白かったというのは若干アレだけど、でも、やっぱり映画として見事で、面白かったと結論付けたいす。これはなるべくデカいスクリーンで、大音響で観たいただきたい作品すな。でも、ちょっとThomas Newman氏による音楽が主張しすぎなところもあるんだよな……まあそれでも、大音響で観る環境は必須かと存じます。いやあ、ホント素晴らしかった。以上。

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