わたしは本が大好きで週に数回は本屋さんをのぞいて、なんか面白そうな本はねえかなあ、とかぼんやり渉猟するのだが、実のところ、もう6年前ぐらいから完全に電子書籍にトランスフォームしている。その理由は、電子書籍だと保管場所に困らないとか、読みたいときにいつでも買えるとか、電子書籍ならではのメリットを享受したいため、では決してない。
 わたしが電子書籍野郎に変身した最大の理由は、以前も書いた通り、「本屋が全くダメになりつつある」からだ。つまり、どこかでとある本が発売になっていることを知って、勇んで本屋へ行ったとしても、その本が店頭にないことが多く、嘘だろ売ってねえ!という悲しい事態に遭遇することが、ここ数年超頻繁に起きるからで、いわば、やむなく電子書籍を選択しているのである。
 というわけで、先日、わたしが愛用している電子書籍ストアBOOK☆WALKERから、「あなたがお気に入りに登録している作家さんの新作が出ましたよ!」的なメッセージが届き、うおお、マジかよ全然知らんかった!! と、まずは本屋さんへ行ってみたものの、残念ながら紙の書籍を見かけることができず、ぐぬぬ、という思いで電子書籍を買ったのである。ちなみに、わたしの家から一番近い大きめの本屋さんは、もう数年前からどんどん「本」の売り場面積が減っており、今や半分以上が文房具や雑貨になっちゃった……。
 と、前置きが長くなりました。
 わたしが新刊発売と聞いて、電子書籍版を買い、、超わくわくで読み始めた作品は、Joe Hill先生の『STRANGE WEATHER』という作品であります。
strangeweather
怪奇日和 (ハーパーBOOKS)
ジョー ヒル
ハーパーコリンズ・ ジャパン
2019-09-17

 もう、このBlogで何度も紹介している通り、Joe Hill先生は、わたしが世界で最も好きな作家Stephen King大先生の長男であります(お姉さんと弟がいる真ん中)。そしてHill先生の作品は、父King大先生の血統を完璧に証明するかの如く超最高に面白く、日本でまだ知名度が低いのではないかと思われるけど、ほんと、もっともっと知られてしかるべきだし、売れてしかるべきだとわたしは信じている。
 いやー、しかし、今回の『STRANGE WEATHER』も最高に面白かったすねえ!!
 これまでの、Hill先生の日本語で読める作品は、当然すべて読んでいますが、これはホント、歴代Hill先生作品の中でもTOPクラスに気に入ったすね。なにしろKing先生的空気感が濃厚で、おそらく、作者名を知らずに読み始めたら、あれっ!? これってKing大先生の作品じゃね!? と勘違いする可能性も高いような気がしますな。ちなみに、これまでのHill先生の作品は、わたしの大嫌いな小学館から発売されていたのだが、今回はなぜか、「ハーレクイン」で有名な「ハーパーコリンズ・ジャパン」からの発売となっている。なんでだろ? と思ったら、どうやらあとがきによると、US本国ではまさにHarperCollins社から出版されていたようで、まあ直ルートとでも言えばいいのかな、そういうことだったようだ。これ以降も、小学館なんぞじゃなく、ハーパーコリンズ・ジャパンから発売してほしいすね。

 で。それでは内容をメモしていきたいのだが、近年病的に記憶力の低下しているわたしは、数年後には内容を完璧に忘れる可能性が高いため、各話のエピソードガイド的にまとめてみようと思う。
 そうなんです。今回は、4つの中編からなるアンソロジー的作品なのであります! しかも4つとも、超おもろい!! これはKing大先生の作品が好きなら絶対読んでほしいし、そうでなくても誰しも楽しめる逸品であると断言したいすな。※なお、4つの物語に関連性はなく、完全にそれぞれ独立しています。
 ◆(第1話)『SNAPSHOT』
 この第1話の翻訳は、King大先生の作品の訳者でもおなじみの白石朗氏によるものだ。大変読みやすく、King大先生的なスーパーナチュラル要素アリ、そしてほろりとさせるものアリ、で、わたしはもうのっけから大興奮であった。
 お話は1988年の夏、カリフォルニアに住んでいた主人公が10代前半(小学生か中学生頃)に遭遇した謎の事件と、その後大人になって成功者となって暮らすまでが、短いながらも凝縮されて描かれている。
 謎の事件――それは、主人公が子供のころ子守してもらってお世話になっていた夫人が、痴ほう症めいた状態で道をふらふらしているのを、少年時代の主人公が見つける場面から始まる。主人公はデブで科学オタクで若干イジられ系の少年だったが、その夫人には大変な恩があるので、放っておけなかった。何をしてるのか聞いてみると、どうやらもはや痴ほうらしく、話が若干通じない。なので、主人公は優しく夫人を家まで送り届けるのだが、夫人は「ポラロイド・マン」から隠れているの、と謎の言葉を残す。なんのこっちゃ? と思う主人公だったが、数日後、主人公は車のダッシュボードにポラロイドカメラを置いている、「フェニキア語のタトゥーを入れた男」と出会い、偶然そのポラロイドカメラで撮影してしまう。すると、謎の現象が起きて―――!! てなお話だ。空気感と、「アヤシイ男と謎アイテム」という点で、わたしはKing大先生の『Needful Things』に似てるな……と思いながら読んでいたけど、結論としては全く似てませんでした。
 わたしがちょっと特徴的だと思ったのは、この事件後、主人公がどう成長していったか、が結構長めに続くんだな。その点が、短編集などではバッサリエンドになるKing大先生と違うような気がしましたね。しかもその長めの「その後」が、ちょっと泣けるいいお話なんすよ。実に面白かったっす。
 ところで、わたしがKing大先生の作品に現れる特徴で一番好きなのが、King先生独特の「下品なDirty Word」のセンスなんですが、これはもう、完璧にHill先生にも遺伝されてますね。お話の中で、痴ほうになってしまった夫人の旦那さんが出てきて、この人はフィットネスクラブを経営しているボディビルダー的な人(だけど、超優しいイイ人)なんですが、そういう人にありがちな、ピツピツのビキニパンツを履いてるわけですよ。そのビキニパンツを、Hill先生はこう描写してます。
 「金玉専用ハンモックといえそうなタイトな黒い下着一枚でストレッチにはげんでいた」
 もう最高っすねw
 ◆(第2話)『LOADED』日本語タイトル「こめられた銃弾」
 第2話は、うって変わってスーパーナチュラル要素はナシ。そして主人公(?)が3人いる。一人は、1993年にあこがれの男子(黒人)を警官(白人)に誤射されて殺された黒人女性。現在時制では、新聞記者になっている。もう一人は、宝石屋のオーナーのおっさんと不倫をしていて、Hと銃が大好きな、若干頭弱い系女子(宝石屋の店員さん)。そして3人目が、かつてイラクだかアフガンだか、どっかに出征した退役軍人で、ほんとは退役後は警官になりたかったのに、軍人時代ちょっと問題を起こしてしまったために警官にはなれず、とあるショッピングモールの警備員をしている。彼は、現在DV(本人的には全くそんな気はない)によって、妻(というより妻の姉)から離婚協議を起こされていて、愛する息子にも会えないでいる。
 ある日、宝石屋のおっさんが頭の上がらない奥さんから「あの娘をクビにするザンス!」とキレられ、おっさんはまるでごみを捨てるかの如く頭弱い系女子に別れを切り出すのだが、ふざけんなとブチギレた女子は銃を持ってショッピングモール内の宝石屋に乱入し、とんでもない事態に―――てなお話でありました。
 そしてこのお話も、「事件後」が結構長いです。つうかむしろ、事件後の方が本題とも言えると思う。けど、衝撃のラストを、ざまあと思うのか、なんてこった……と思うのかは、読者によって違うと思います。わたしはかなり退役軍人が気の毒に思えたので、少しすっきりしましたが、間違いなくこの作品は、現代US社会の病巣の一部を描いているわけで、かなり社会派でもあると思う。実に面白かったす!
 ◆(第3話)『ALOFT」日本語タイトル「雲島」
 そして第3話は、かなりファンタジーっぽさのある作品だ。主人公は20代のヘタレ野郎のミュージシャン。トリオで組んでいるバンドの女子Aが大好きなのだが、もう一人の女子Bががんで亡くなり、そのB子の追悼のために、仲間で彼女がやりたかったことリストの「スカイダイビング」に行くことに。そしてヘタレ野郎は、いろんな言い訳をしながらスカイダイビングなんてしたくないと駄々をこねるも、タンデムでつながってるインストラクターはそんなことにはお構いなしに空へ!! しかし、数秒後、彼は謎の「雲」の上に着地して置き去りにされてしまう(インストラクターは慌ててすぐ離脱)。しかもどうやらこの「雲」はなにやら生き物のように自意識を持っているようで―――てなお話であります。
 この話も、意外と長くて、果たして「雲」はいったい何なのか? そしてヘタレ野郎は無事地上へ戻れるのか!? という緊張感あふれる物語になっていて、極限状態からの脱出という意味で、すごく強いて言うならば、King大先生の超名作『Gerald's Game』に似てなくもないと思いました。やっぱりこの作品も、最高に面白かったす。
 ◆(第4話)『RAIN』日本語タイトル「棘の雨」
 最後の第4話は、ある日突然、「棘の雨」が降り、人々が大勢死んでしまったデンヴァーを舞台に、生き残ったレズビアンの女子のサバイバル(?)を描いた作品であります。いや、サバイバルは言いすぎかな? ある種のディストピア的な世界観で、わたしはこの作品はKing大先生の日本語仮タイトル「携帯ゾンビ」でおなじみの『CELL』に似ているように感じたっすね。
 ただしこのお話は、スーパーナチュラル要素はなく、一応、事件の真相は明かされるので、その点ではすっきりしている。そして謎のカルト集団なんかも出てきて、極限状態での人間心理という点では、すごく強いて言うなら『The Mist』っぽくもあるように感じたす。ちゃんと調べてないけど、この第4話が一番短いかな?

 とまあ、こんな感じの4つの中編なのだが、Hill先生自身によるあとがきに、執筆の動機とかいろいろ書いてあって、こちらも大変興味深い内容になっていました。このあとがきの内容にはあえて触れないでおきます。
 あと、もう一つ、とても素晴らしいと思ったのが、話の冒頭とラストに、非常にいいイラストがついているんすよ。それぞれ4人の別々のイラストレーターが担当しているのだが、これも、読み終わった後で改めてみると、とても味があるというか、アレの絵なんだ、と、非常にセンスを感じるイラストが添えられていることもメモしておきたい。とても素晴らしいイラストです。

 というわけで、もう書いておきたいことがなくなったので結論。

 わたしの大好きなJoe Hill先生の日本語で読める新刊『STRANGE WEATHER』という作品が発売になったので、マジかよ!と慌てて本屋さんに行ってみたものの、店頭に置いてなくて、やむなく電子書籍版を買って、すぐさま読みだしたのだが、ズバリ、超面白かった!! です。4編の中編からなるこの作品集は、実に父であるStephen King大先生の空気感に似ていて、King大先生のファンならば絶対読むべき作品であると断言したい。また、King大先生の作品を読んだことがない人でも、もちろん最高に楽しめると思う。まあ、内容的に「楽しめる」というのは若干アレかな。決してホラーではないと思うよ。ただし、きわめて、Strangeな状況であって、それぞれ、微妙に「天気」に関係があって、『STRANGE WEATHER』というタイトルも、実にセンスあるタイトルだと思った。また、添えられているイラストも実にセンスがあって、要するに、Joe Hill先生はまごうことなく父King大先生の才能を受け継ぐ、すごい作家であるとわたしとしては称賛したいと思う。ま、本人はお父さんがどうのとか言われたくないだろうけど、そりゃもう、読者としては比べちゃうのはしょうがないよ。そして、全く引けを取らない筆力は、ファンとしては「次の作品マダー!?」と期待させるに十分すぎると思います。以上。

↓ Joe Hill先生による原作小説も最高ですが、実はこっちの映画版もかなりキてます! 最高っす!