物理学における「三体問題」というのをご存知だろうか?
 そう言うわたしも知らなかったので、Wikiから軽く引用しつつ、超はしょって言うと、万有引力によってお互いに作用する3つの天体の軌道を数学的にモデル化しようとするもの、で、コイツはもう計算できない! とされている問題だ(たぶん)。正確には、いろんな条件下では、こうだ、という解はそれぞれあるようだが(?)、わたしも実は良くわかっていない。ガンダム世界で言う「ラグランジュポイント」ってのがあるでしょ? アレは地球と月(と太陽?)の重力(引力?)の均衡が取れているポイントのことで、この「三体問題」のひとつの解であるらしい。いや、サーセン、わたしもまるでニワカ知識なので、正確にはよくわからんですが。大森望氏によるとそういうことらしいです。
 というわけで、話題の小説『三体』がとうとう日本語化されたので、わたしも遅まきながらやっと読んでみたわけなのだが、これがまた強力に面白く、大興奮であったので、今から感想などを書こうと思っているわけです。
 この小説『三体』は、中国人作家の劉慈欣(日本語読みで りゅう・じきん)氏によるSF小説であり、中国のSF雑誌に2006年5月から12月まで連載され、単行本として2008年に刊行された作品だ。その後、「The Three-Body Problem」として英訳もされ、2015年のヒューゴー賞長編小説部門をアジア人作家として初めて受賞、2017年には当時のUS大統領Barack Obama氏がすげえ面白かった! とインタビューで発言したことなんかもあって、話題となっていた作品だ。
 それがとうとう、日本語訳されたわけですよ! さすがわたしの愛する早川書房様! 当然電子書籍版も、各電子書籍販売サイトで取り扱っていると思うので、自分の好きなところで買って、読み始めてください。Kindle版も当然発売になってます(しかも若干お安い)。
三体
劉 慈欣
早川書房
2019-07-04

 で。―――もしこれから読んでみようかな、と思う方は、以上の前知識だけにして、今すぐ作品自体を読み始めた方がいいと思います。恐らく、ある程度のネタバレは事前に知っていても十分楽しめるとは思うけれど、なるべくまっさらな状態で読み始めた方がいいと思いますので、へえ、そんな小説が発売になったんだ? と興味がわいた方は、以下は読まず、今すぐ退場してください。その方がいいと思いますよ。

 はい。じゃあ、いいでしょうか?
 本作は、冒頭は1967年(たぶん)、文化大革命真っ盛りの中国から開幕する。そこで一人の女性、葉文潔(推定25歳ぐらい?)に降りかかった悲劇と、その後の体験が描かれるのだが、これがまたかなり生々しくて非常に興味深い物語となっている。わたしは、ああ、今の中国って、文革のことを書いてもいいんだ、とちょっと驚いた。勝手な先入観として、天安門事件のように、誰も口にしてはならないことなのかと思ってたけど、そういやいろんな本が散々出てるんですな。
 そしてこの文革での体験が、葉文潔の生き方、そして人類に対する観方を決定づけるわけだが、すぐに物語は「40数年後」の現代に移り、もう一人の主人公、汪森の話が始まる。汪森は、とあるナノマテリアルを研究している科学者なのだが、彼の元に警察と人民解放軍の軍人がやってきて、「科学フロンティア」なる団体に、加入して、その内部を探るよう依頼してくる。実は最近科学者の自殺が相次いでおり、その対策本部があって、そこにはNATOの軍人やCIAまでおり、「今は戦時中だ」とか言っている。汪森は、なんのこっちゃ? と思いつつも、科学フロンティアに加入することを受諾するが、すると謎の「カウントダウン」が始まり、その謎を解くために科学フロンティアの主要メンバー?である女性科学者を訪ねる。が、逆に「今すぐあなたのやっているナノマテリアルの研究を中止しなさい」とか謎の言葉ばかりかけられ、やむなく汪森は、ふと思いついて女性がプレイしていた「三体」というVRゲームをプレイしてみるのだが、その背景には恐るべき秘密が隠されていた!! という展開となる。
 ここから先の物語は、もう書かないで読んでもらった方がいいだろう。正直わたしは、えっ!? と思うような、トンデモ展開だと感じたのだが、とにかくディティールが非常に凝っていて、わたしのようなまるで知識のない人間でも、だんだんと何が問題になっているのかが分かる仕掛けになっている。
 その理解を助けてるくれるのがVRゲーム「三体」だ。
 これは完全没入型のゲームの形を取っていて、3つの恒星を持つ惑星、という謎の異世界を体験しながら、「三体問題」がどういうものか、理解できるようになっている。なお、このVRゲームは、VRスーツを着用してプレイする(=READY PLAYER 1的なアレ)ものなので、この描写されている現在は、今よりちょっと先の近未来なのかな、とわたしは思ったのだが、思いっきり「40数年後」って書いてあったし、よく考えてみると、本書が最初に発表されたのが2006年なんだから、まだiPhone発売前の世であり、その当時の状況からすると、執筆時に想定されていた作中での現在は、2010年代後半ぐらいなのかもしれない。
 で、とにかくこのVRゲームの部分がすっごい面白いわけですよ。いろんな歴史上の人物が出てきて「三体問題」に挑むのだが、クリアできないで文明は滅んでリセットされ、また次の人物が挑んで……を繰り返しているらしく、200文明目ぐらいでフォン・ノイマンが出てきて、「人力コンピューター」が登場するくだりは最高に面白かったすねえ!
 そしてこのVRゲームによって「三体問題」の基本理解が出来たところで、このゲームが実は謎組織のリクルーティングのためのものであることも判明し、汪森は謎組織の中に入り、驚愕の事実を知るわけだが、同時に冒頭の文革で悲劇に遭った葉文潔の半生が語られていき、如何にして文潔が「人類に絶望したか」が、じわじわと生々しく読者に理解できるようになっている。
 そして文潔の「人類に対する裏切り」がどんなことを引き起こしているのか、という怒涛のラストになだれ込むのだが、わたしはもう、ラスト辺りで語られる異星人の話には大興奮したものの……ここで終わり!? というエンディングには、若干唖然とせざるを得なかったす。これは電子書籍の欠点?かも知れないけれど、自分が今どのぐらい読み進めているか、自覚がなくて、わたしの場合、興奮してページをめくったらいきなりあとがきが始まり、えっ! ここで終わり!? とすごいビックリしました。
 そうなんです。本作は、実は3部作の第1作目、ということで、この先がまだまだあるんすよ! あとがきによれば第2巻の日本語訳は来年発売だそうで、オイィ! 続き早よ!! と恐らくはラストまで楽しんで読んだ人なら誰しもが、思うのではなかろうか。そして一方では、ラストまでついて来れなかった人も多いとも思う。まあ、最後の1/4ぐらいの異星人話はちょっとキツかったかもね……。
 というわけで、もういい加減長いので、来年続きを読むときのために、主要キャラをメモして終わりにしよう。
 ◆葉文潔:冒頭の1967年の文革期で25歳ぐらいで、元々、父と同じく天文物理学を勉強していた。作中現在では70代のおばあちゃん(※作中に「60代ぐらい」という容姿の描写アリ。てことは作中現在は2000年代後半か?)。文革後、「紅岸プロジェクト(=実は地球外生命体探査計画)」に半強制参加させられたのち、名誉回復が叶い、大学教授となってその後引退。人類に対して深く絶望しており、とある「人類に対する裏切り行為」をしてしまう。物語の主人公の一人。
 ◆楊衛寧:文潔の父の教え子だった男。文潔を紅岸に引き抜いて救う。後に文潔と結婚するも、実に気の毒な最期を迎える。
 ◆雷志成:楊とともに文潔を紅岸に引き抜いた男。政治委員。文潔の研究を自分の名前で公表して地位を築いたりするが、わたしの印象としては悪い奴ではない。楊ともども気の毒な最期を迎える。
 ◆汪森:もう一人の主人公。妻子アリ。ナノマテリアルの研究をしている科学者で、いわば巻き込まれ型主人公。ただし、ラスト前で彼の研究していたものがスゴイ役立つことに。実はそれゆえに、最初から「科学フロンティア」勢力は汪森の研究を中止させたがっていた。つまり巻き込まれたのは偶然では全然なかったというわけで、読者に代わってえらい目に遭う気の毒な青年と言えるかも。
 ◆史強:元軍人の警官。汪森をつかって事件の真相に迫る。キャラ的には強引で乱暴者で鼻つまみ者で脳筋、と思わせておいて、実はどうやらすごく頭はイイっぽい。非常に印象に残るナイスキャラ。
 ◆楊冬:文潔と楊の娘で科学者。「これまでも、これからも、物理学は存在しない」と書き残して自殺。
 ◆丁儀:楊冬の彼氏で同じく科学者。酔っ払い。なかなかのリア充野郎で、チョイチョイ汪森と行動を共にするが、正直イマイチよくわからない野郎。
 ◆申玉菲:中国系日本人科学者。超無口。元三菱電機勤務で、当時は汪森と同じくナノマテリアルの研究をしていた。汪森が初めて会いに行ったとき、VRゲームをしていた。科学フロンティア会員で、汪森に対して「プロジェクトを中止しなさい」と謎の言葉をかける。
 ◆魏成:申玉菲の夫。数学の天才。ものぐさで浮世離れしたふらふらした男。紙と鉛筆で三体問題を解こうとしていた過去があり、それで申玉菲と知り合った。VRゲーム「三体」のモニタリングと追跡を、それがどういう役目か知らないまま担当していた。
 ◆潘寒:有名な生物学者。科学フロンティア会員。化石燃料や原子力などをベースとした「攻撃的」テクノロジーを捨て、太陽光エネルギーなどの「融和的」テクノロジーを提唱している男。実は謎組織「地球三体協会=Earth Trisoralis Organization=ETO」の「降臨派」で、申玉菲の属する「救済派」と対立しており、ついに申玉菲を射殺するに至る。「オフ会」の主催者。
 ◆沙瑞山:文潔の教え子で、現在は北京近郊の電波天文基地に勤務。汪森が「宇宙の明滅」を確かめるために会いに行った男。たいして出番ナシ。
 ◆徐冰冰:女性警官でコンピューターの専門家。VRゲーム「三体」の謎を警官として追っていた。たいして出番ナシ。
 ◆マイク・エヴァンズ:文潔と同様に、人類に絶望した男。文潔と結託し、ETOを設立し、父親から受け継いだ莫大な遺産で、タンカーを改造した「ジャッジメント・デイ号」を「第2紅岸基地」として運用し、場所に縛られない移動可能な送受信設備を使って宇宙と交信する。
 ◆林雲:丁儀の元カノで、丁儀の研究のカギとなる貢献をした人物で、軍人? らしいが、本作では姿を現さず、丁儀の台詞にだけ登場。今は「あるところに……もしくはあるいくつかの場所にいます」と言われていて、ひょっとしたら第2作以降登場するかもしれないのでメモっときます。
 はーーーーとりあえずこんな感じかな。もう書いておきたいことはないかな……。

 というわけで、結論。
 話題のSF大作『三体』の日本語訳が早川書房様から発売となったので、わたしもさっそく買って読んでみたのだが……ズバリ言うと、面白い! けど、ここで終わりかよ! 感がとてつもなく大きくて、若干ジャンプ10週打ち切り漫画っぽくもある。わたしとしては、ホント続きが早く読みたい!気持ちがあふれております。相当歯ごたえ抜群のSFであることは間違いないけれど、それ故に、まあ、万人受けするかどうかは相当アヤシイとも思う。特にラスト近くになってからの怒涛の展開は、かなりトンデモ世界で、ちょっとついて行くのが大変かも。そういう点では、普通の人には全然おススメ出来ないけれど、SF脳な方には超おススメです。つうか、続きは450年後の世界が舞台なんだろうか?? すげえ気になるっすなあ……! まあ、おれたちの早川書房様は確実に第2作、第3作を発売してくれるのは間違いないので、楽しみに待ちたいと存じます。いやー、スケールでけーわ。なんつうか、すげえ読書体験でありました。以上。

↓ 英語版はとっくに最後まで出てます。読む? どうしよう……。