轟悠(とどろき ゆう)というお方がこの世には存在している。
 おそらく宝塚歌劇を愛する人なら100%知っていると思うが、そうでない方は100%知らないだろう。轟悠さんは、年齢をアレするのは大変野暮だけれど、1985年に宝塚歌劇団に入団したそうだから、恐らくわたしと同じぐらいかチョイ上の年齢で、すでに芸歴35年ってことかな、いまだ現役の専科スターとして活躍する、いわゆるタカラジェンヌ、である。既に2003年には、宝塚歌劇団の理事職にも就いておられ(よって、通称:理事)、これは要するに普通の会社で言う取締役のようなものだと想像するが、とにかく、現役ジェンヌすべてが尊敬しているものすごいお人だ。
 そんな轟理事は、年に1回は主演作品が上演され、人気もまたすごいわけだが、一部のファンからは、轟理事が降臨すると贔屓のスターが喰われてしまうため、若干敬遠されてる気配も感じることもある。しかしわたしは声を大にして、轟理事はすげえからいいの!と擁護したい。何がすごいか。これはもう、生で観た方なら誰でも感じることだと思うが……ズバリ、その存在がすげえのである。全く説明になっていないが、そうとしか言いようがないのだ。
 というわけで、わたしは昨日は日比谷で雪組公演を観てきたわけだが、今日は、クソ暑い中をJR千駄ヶ谷からトボトボ15分ぐらい歩いて、建設中の国立競技場を横目で観ながら、日本青年館へと赴いたのである。目的はコイツを観るためであります。
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 見てよ、このポスター。もう完全に、あの有名な「チェ・ゲバラ」っすよ! すごくない? マジで。
 現在月組は、TOPスターたまきちこと珠城りょうさん率いるチームが梅田で別の公演(今年初めに国際フォーラムで上演された『ON THE TOWN』を再演中)を行っており、東京では若手主体で、轟理事のもとでこのミュージカル『チェ・ゲバラ』を公演中だ。明日もう千秋楽かな? わたしはそもそもこっちの轟理事チームの方に、月組で応援しているジェンヌが多かったので、こちらを観たいと思ったのだが、とりわけその中でも、月組で随一の美形、月城かなとさん(以下:れいこ)を目当てにこの公演チケットに申し込んだのだが、残念ながられいこはいまだ怪我が完治せず、休演となってしまった。うおお、そいつは残念だし心配だなあ……とか思って、友会の抽選が当たったので、劇場にチケットを発券に行ったら、席は、メールにも示してあったはずだけど全然見てなくて、実際にチケットを見てびっくりした。なんと奇跡の前から2列目!! である。うおお、ま、マジかよ、友会でもこんなすげえ席が当たることあるんだ!? と大いに驚いた。
 というわけで、今日、実際にその2列目を体験してきたのだが、やっぱり想像以上に迫力が増して、群衆シーンで舞台わきで一生懸命演技しているみんなの生の声まで聞こえてくるし、すげえ体験であった。
 で。物語は、「チェ・ゲバラ」でお馴染みの、エルネスト・ゲバラ氏が盟友フィデル・カストロと出会い、キューバ革命を成功させるまでが第1幕、そして第2幕は、理想に燃えるゲバラと現実主義(?)のカストロの決定的な別れと、ゲバラの死までが描かれている。ちなみに、ゲバラ氏は広島に来て、平和公園で献花したことでも有名だが、そのエピソードは入っていませんでした。あと、本作で出てくる「グランマ号」でメキシコからキューバにわたるのは史実通りだけど、その時ゲバラは妻子持ちで、本作のヒロイン、アレイダとは、奥さんと離婚してから再婚した相手みたいすね。
 ともあれ、そんな物語なので、ゲバラの理想とする、差別なく誰しもが幸せになれる国を作ろうという想いと、経済的にキューバを支配していたアメリカ打倒のために、アメリカの敵であるソヴィエトと接近していく現実主義のカストロに距離ができてしまうところが最大のポイントなわけだが、カストロとしては、元首として、どうしても理想だけでは国家運営はできず、親友ゲバラを一度たりとも裏切った覚えはなく、断腸の思いだったわけで、本作ではそんなカストロを、れいこに代わって熱演した風間柚乃くん(以下:おだちん)がとても素晴らしかったのでありました。
 というわけで、各キャラと演じたジェンヌを紹介しよう。
 ◆エルネスト・ゲバラ:有名な言葉、「もし私たちが空想家のようだと言われるならば、救いがたい理想主義者だと言われるならば、できもしないことを考えていると言われるならば、なん千回でも答えよう、「その通りだ」と。」が幕が閉じた後、投影されるわけですが、まあ、もう自分で、その通り、何が悪い!というお方なわけで、本人としては1mmも後悔はないんでしょうな。ただ、やっぱり、平和な日本でぼんやり過ごすわたしとしては、社会主義という考え方には賛同できないし、やり方の面では、どちらかと言えばわたしはカストロの方の実務的な行動に共感するっすね。やっぱり、理想を唱えるのはいいとしても、理想だけではどうにもならんのではなかろうか。
 そして演じたのはもちろん轟理事であり、そのビジュアルからしておっそろしくクオリティが高く、とにかく、なんつうか、男にはできない姿勢というか、とにかくピシッとしてるんすよ。ホントさすがであります。轟理事は、現役ジェンヌでは他に似ている人がいないような、シャンソン系の独特の歌い方をするお方ですが、そちらもやっぱりさすがっすね。
 ◆フィデル・カストロ:元弁護士。理想に共感するも、実現のためには毒をも喰らう実務家と言っていいのだろうか? これが現実のカストロ氏とリンクした人物像なのか、わたしには分からないけど、とにかくおだちんはお見事でした。演技もビジュアルも、そして歌も大変良かった! 100期生だから、まだ入団6年目か? 素晴らしい逸材ですね、やっぱり。おだちんは、結構顔の作りが男顔というか、濃い目のラティーノがすごく似合うっすね。大変結構かと存じます。
 ◆ミゲル:カストロの同志で最初はゲバラにキツく当たるも徐々に仲間として友情が芽生える男。演じたのは蓮つかさくん(以下:れんこんくん)。今回の公演は月組フルメンバーではないので、人数が限られていて、れんこんくんもたくさんいろいろな役で出てたっすね。声と顔に特徴があるから、すぐわかったよ。カストロとゲバラが出会うシーンでは、マラリアでブッ倒れてて、一人だけ歌に参加できず、ずっとベッドに横になってましたね。でも中盤からは目立つ役で、芝居としても大変な熱演でした。大変良かったと思います。
 ◆レイナ:ミゲルの妹かな。ミゲルがカストロたちとメキシコに亡命している頃、レイナはキューバに留まり、変態野郎への性接待を強要されちゃいそうになる踊り子さん。演じたのは晴音アキちゃん。彼女も顔に特徴があるからすぐ分かるすね。なんか痩せたような気がします。スタイル抜群で大変お綺麗でした。
 ◆アレイダ:革命に共鳴し女闘士としてゲバラを支え、後に結婚する女性。演じたのは、元男役で月組の前作で新公初ヒロインを演じた天紫珠李ちゃん。彼女もついに轟理事の相手役をやるまで成長したんですなあ。まず何より、芝居がしっかりしてますね。そして歌も大変上等。彼女も今後どんどん成長するでしょう。その行く末を見守りたいですな。
 ◆その他、わたしが月組で応援している方々として、やはり二人あげておかねばなるまい。まずは、なんだかもう、いつも月組公演を観る時に探してしまう叶羽時ちゃん。今回も、いろんな役で出ていて、台詞もしっかりあって、その芝居力は実に上等だと思います。時ちゃんももっともっと活躍してほしいですな。そしてもう一人は、去年入団したばかりのきよら羽龍ちゃん。彼女は今回、男の子というか少年?の役で、目立つおいしい役でしたな。ソロ曲はなかったけれど、今後、その歌声を堪能できることを楽しみにしたいと存じます。結構、普通に女子として可愛いすね。良いと思います。
 とまあ、こんなところかな。もう書きたいことはないかな……。
 では最後に、毎回恒例の今回の「イケ台詞」を発表して終わりたいと思います。
  ※イケ台詞=わたしが「かーっ!! カッコええ!!」と思ったイケてる台詞のこと。
 「国民を守るべき軍が、国民を攻撃している……この国は狂っている!」
 今回は、れんこんくん演じるミゲルの悲しい怒りのこもった叫びを選びました。まあ、昨日観た『壬生義士伝』もそうですが、同じ民族同じ国民で殺し合う内乱というものは、なんともやりきれないというか……内乱に限らず、戦争という名の殺し合いは、人類は永遠に克服できないんすかねえ……。

 というわけで、結論。
 轟理事を主演に迎えた、月組若手メンバーによる公演『チェ・ゲバラ』を日本青年館へ観に行ってきたのだが、まず第一に、やっぱり轟理事はすげえ、のは間違いないだろう。そして第2に、怪我で休養?中の月城かなとさんに代わってカストロ議長を演じた風間柚乃くんの演技は堂々たるもので、歌もとても素晴らしく、実際ブラボーであったと言えよう。しかし、やっぱり月組は「芝居の月組」なんすかね。とても、演劇として上質で素晴らしかったす! そして、国立競技場ももうずいぶん出来上がってきたんすね。間近を通って、すごく実感したっす。まあ、オリンピックを観に行こうとは思わないけど、いろんな数多くの人の努力は、着々と形になってるんですな。そういうのを見ると、ホント人間ってすげえなあと思うけれど、いつか殺し合いをしないで済む日が来るのかどうか、その点は実にアヤシイすね。にんげんだもの、しょうがないんすかね……てなことを考えさせる物語でした。理想じゃ飯は食えないんだよなあ……残念ながら。以上。

↓ わたしのゲバラ知識は、ほぼこの映画によるものです。大変な傑作です。
チェ 28歳の革命 (字幕版)
ベニチオ・デル・トロ
2013-11-26

チェ 39歳別れの手紙 (字幕版)
ベニチオ・デル・トロ
2013-11-26