わたしはもうほぼ完全(?)に電子書籍野郎にトランスフォーム完了しているわけで、いわゆる漫画単行本(=コミックス)は勿論のこと、小説に関しても、ほぼすべて、電子書籍で買って読んでいる。
 理由は様々あって、もちろんそりゃわたしだって、紙の本の方が圧倒的に好きだし、とりわけ小説の場合は、読んでいる分量が実感としてすぐわかること(電子は数値として分かるが実感に乏しい)、そして、すぐに、これって前に書いてあったな……とぱらまら前の方を参照できること(電子はページめくりがめんどい)、など、紙の本の方にもアドバンテージがあることはよく分かってはいる。
 だがしかし、現代の世の中において、わたしが電子書籍を選択する最大の理由は、「本屋の衰退」にある。どういうことかというと、おおっと新刊キタ!とかいう情報を得て、本屋に買いに出かけても、「マジかよ置いてねえ……!」という事態が非常に頻繁に起こるのである。
 そうなのです。わたしが電子書籍を選ぶ理由は、勿論「いつでもどこでも買えて便利だから」とか「買った本を置く場所がいらないから」という電子書籍のメリットも理由の一つだけれど、それよりなにより、「本屋に売ってねえから仕方なく電子書籍で買う」という理由の方が大きいのである。わたしは何でもかんでもAmazonで買うような人間ではない(そもそもAmazonはKonozamaを喰らって以来憎悪していると言ってもいい)し、本屋に行くことは大好きだ。だが、悲しいことに、街の本屋がどんどん衰退して、欲しい本が置いてない!! ことがあまりに頻繁に起きるのである。
 こんなわたしが、紙の書籍を買うのは、現状では2つの場合だけだ。1つは、最も愛するStephen King大先生の作品である。これはもう、本棚にずらりと並べて悦に入りたいからという理由以外にない。ちなみに電子でも買い直すほどの信者なので、これはもうどうにもならん習性だ。
 そしてもう1つは、もう単純に「電子では販売されていない」作品を買う場合だ。残念ながら未だ電子書籍に抵抗を感じている作家先生は存在しており、紙でしか販売されない作品もそれなりに多いのが現実である。
 というわけで、以上は前振りである。
 先日、わたしがずっとシリーズを読み続けている大好きな作品「ジャック・ライアン」シリーズの最新刊が発売になったので、よっしゃキタ! とさっそく本屋に出向いたわたしなのだが……。。。
 まず、わたしの大嫌いな新潮社という出版社は、きわめて電子書籍への対応が遅れており、おそらく近い将来、破たんするのではないかとにらんでいるが、「ジャック・ライアン」シリーズの版権を国内独占している新潮社は、当然のように電子書籍で販売していない。これはおそらく、担当編集が電子書籍の権利を獲得する努力をしてないか、獲れなかったか、あるいは新潮社の方針で最初から取得しないか、理由は謎だが、US本国では普通にKindle版が発売されているので、作家の意向(作家が電子はダメと嫌がる)では決してなく、単に新潮社の怠慢・無能・無策ぶりによるものであると推察する。
 なので、やむなく紙の本を買いに本屋に出かけたのだが……びっくりしたことに、最初に行った近所の一番デカい本屋では、なんと売ってなかったのだ。驚いたなあ……だって、新聞に広告が出てた当日に買いに行ったんだぜ? 信じられないよ。店員さんに聞いてみたら、平台にぽっかり空席があって、「ああ、すみません、売り切れてしまったようです……」だって。よっぽど配本が少なかった(=初版が少ない)んだろうな……。ちなみにこれは(3)(4)を買いに行った時の話だ。そもそも、いつも全4巻に分冊し、発売をズラす無駄な販売施策も実に気に入らないね。上下本同時発売で十分だろうに。
 というわけで、今回もまた、全4巻に分冊されて2カ月分割で発売されたジャック・ライアンシリーズ最新作が、『TOM CLANCY'S TRUE FAITH AND ALLEGIANCE』である。日本語タイトルは『イスラム最終戦争』とされている。まあ、完全に原題とかけ離れた日本語タイトルだが、分かりやすさとしては仕方ないので批判はしない。が、読み終わった今、やっぱり考えてしまうのは「真の信念(TRUE FAITH)」と「その信念に忠実であること(ALLEGIANCE)」の意味だ。
 本作では、3種類の悪党が登場するが、それぞれの思惑は完全に別物で、お互いを利用して自らの「真の信念」に「忠実」であろうと画策する。
 【1.イスラムジハーディスト】
 彼らは基本的に、いわゆるイスラム原理主義者でテロリストだ。わたしはその「原理主義」たるものに詳しくないので、彼らの行動がその主義とやらに忠実なのか、実は良くわからないのだが、憎しみと殺意に支配されている時点で、彼らを容認するわけにはいかないと思う。あまりに原始的すぎるというか……人類としてなんらかの進化が遅れているのではなかろうか。
 【2.ソシオパスのハッカー】
 そしてジハーディストたちに、US市民のパーソナルデータを渡すハッカー的人物の目的は、ズバリ「お金」である。幼少期の体験から、金こそすべてと思い込むようになり、USAという国家に深い恨みを抱いていて(その理由は自分にあるので完全なる逆恨み)、US国家を痛めつけることが最高に楽しいイカレたガキ。自らのことしか考えない完全なる反社会性パーソナリティー障害者。同情の余地は一切ナシ。
 【3.国家の利益のために暗躍するサウジアラビア人】
 彼は、ハッカー的人物からの情報をジハーディストに渡す仲介者なのだが、その狙いは実に単純で、現在US国家は石油を自家生産できるようになってしまい、アラブの油が必要なくなっちゃったわけで、原油価格は下落しているわけだが、サウジとしてはそれは(これまでのオイルマネーに守られた贅沢三昧の生活を続けるためには)死活問題なわけで、原油価格を吊り上げる必要があるわけだ。その手段として、USにはIS討伐のための全面戦争をしてもらい、イラク~シリアに地上部隊を派兵させたがっている。また、スンニ派のサウジにとってシーア派のイランは敵なので、US派兵はイランへのけん制にもなると。こうして考えると、国家戦略としてはまっとうのようにも思えるが、まあ、アウトですわな、世界の平和のためには。
 というわけで、これらの悪党どもに共通するのは、自らの「信念」に「忠実」であるためには、他人の犠牲は厭わない、つまり自分以外はどうでもいい、という思考だ。そういった自己の利益のみを追求し、あまつさえ殺人もいとわないという姿勢こそが、「悪」と定義せざるを得ないのだろうと思う。残念ながら現代の人類社会においては、容認できないものだ。
 そして一方、彼ら悪党と戦うのが、われらがジャック・ライアン大統領と「ザ・キャンパス」のごく少数のキャラたちである。本作およびこのシリーズを読んで、いつも思うのは、こんなたった数人のチームに守られているUSAって、どうなのよ? というぐらい、ダメ官僚が登場するし、明らかに違法というか超法規的な活動をするわけだが、ま、フィクションだし、読んでて痛快だから深く突っ込まなくていいんすかね。それにしても今回もまあ、数多くの人々が死んでしまい、大変痛ましいのだが……なんというか、本当にUSAという国はもうダメなんじゃないかと思うすね。
 しかし、彼ら正義の側と描かれる人々も、敵に対しては容赦なく、裁判なしでぶっ殺しまくるわけで、実は悪党どもと同じなんじゃないの? 何が違うの? という問いも当然投げかけずにはいられない。悪党は問答無用で殺していいのか? 単に信じるものが違うだけ、「信念」の違いだけで悪党どもを「悪」断罪し、自らを「正義」としていいのか?
 おそらく、彼ら主人公サイドの「信念」とそれに「忠実」であろうとする姿が一番の問題なのではないかと思う。そしてそれは何かと問われれば、わたしが思うに、彼らが信じるものは、たった一つで、「合衆国憲法に従うこと」がかれらの「信念」なのではなかろうか。
 実のところ、わたしは「合衆国憲法」を読んだことなんてないので、その内容は全く知らないのでその是非は問題としないが、少なくとも国際的に認められた国家であるUSAが定め順守している憲法は否定できないわけで、それを守り従うという「信念」もまた、否定できないし、悪とは思えない。
 そもそもUSAという国家は移民で成り立つ多民族国家なわけで、何をもってアメリカ人と規定するか、これって答えられますか? わたしは以前観た『BRIDGE OF SYPIES』という映画で、Tom Hanks氏演じる主人公がこう言ったのがとても印象に残っている。
 「アメリカ人とは、合衆国憲法を尊重・遵守する人のことを指すのだ」
 まあ、要するにそういうことなんだと思う。実際の行動は相当超法規的で「法律」からは逸脱しまくっているけれど、「憲法」は尊重し遵守しているからセーフ、なんでしょうな。ま、実にギリギリセーフというか若干アウトなのは大問題だけれど、人殺しを放置していいわけがなく、無責任な読者としては、悪党が殺られれば心の底からざまあとスッキリするわけで、そう言った点において、やっぱりエンタテインメントとして本作はとても面白かったと思う。
 というわけで、主なキャラをまとめて終わりにします。つうかキャラが多すぎるので、ごく少数にまとめたいけど無理かな……。
 ◆ジャック・ライアン:現役合衆国大統領。結構すぐにブチギレるけれど、まあ、ブチギレる事態が勃発しすぎてお気の毒です。どうやら任期もあと2年なのかな? 引退生活を待つ望むおじいちゃんキャラになりつつある。同盟国に圧力かけまくりで押し通すパワーは、US市民としては頼もしいのでしょうな。イランと中国とロシアが大嫌い。
 ◆ジャック・ライアン・ジュニア:大統領の長男で「ヘンドリー・アソシエイツ」に勤務する青年。かの名作『Patriot Games』事件の時、お母さんのおなかの中にいたのがコイツですな。基本的にゆとり小僧だが、前作でやらかして、現場工作員(戦闘員)からは離れ、本職のデータアナリストになるかと思いきや……本作でももちろん、戦闘に参加します。
 ◆「ザ・キャンパス」のメンバー:「ザ・キャンパス」とは、ヘンドリー・アソシエイツ(表向きは金融業)の真の姿で、政府機関に属さない独立諜報組織で戦闘行為も得意技。働いている人数は数百人(?)いるが、現場に出て工作活動(戦闘行為)に従事するのは、本作の開始時点では、クラーク、シャベス、ドミニク、ジュニアの4人で、クラークは指揮官として現場引退しているし、ジュニアもなるべく現場に出したくないので、実質的にはシャベスとドミニクの二人だけになっちゃった。元々はドミニクの双子の兄であるブライアン、それからブライアンの補充で入ってきたUSレンジャー(だっけ?)出身のサム・ドリスコルというキャラがいたのだが、二人とも残念ながら殉職してしまったのです。なので、本作では冒頭、人員補充が急務ということで二人の候補者が出てくる。なお、その候補者を挙げる時に、ジュニアはCIAのアダム・ヤオ君(米朝開戦などで大活躍したナイスガイ)を推薦するのだが、メアリ・パットと現CIA長官のキャンフィールドに、アダムはダメ、あげない! と拒否されたのが残念でした。というわけで、新たに「ザ・キャンパス」工作員チームに入ったのが……
 ◆ミダス:『米露開戦』かな、一度登場した男で、元US-Armyデルタフォースの指揮官。38歳。退役後、CIA入りを希望していたけれどポーランド系ということでCIAの身元調査が遅れていて、その隙にシャベスが推薦、クラークが直接スカウトに。本作では新人ということで活躍は控えめでしたが、かなり強そうな頼れる男っぽいすね。次回作以降の活躍を期待します。
 ◆アダーラ・シャーマン:ご存知「ザ・キャンパス」の運輸部長兼衛生兵兼兵站担当の超絶美人女子。ついでに言うとドミニクと付き合っているが、そのこともあってドムは本当は推薦したくなかったのだが……能力はもうずば抜けていることは我々読者にはお馴染みなので、とうとうアダーラも現場出動となってしまうのは、男としてはドムの心配もわかるだけに若干心配す。アダーラも今回はそれほど活躍せずでしたかね。
 ◆ISの悪党たち:普通の日本人的には驚きなのだが、今回、US国内でのテロを行うのは、ISのイエメン人に率いられた、れっきとしたUS市民なんだな。そいつらが原理主義に傾倒して、志願し、訓練を受け、テロリストとしてUS国内に戻って悪事を働くわけだが……その心理は全く理解できないすね。それはもちろん、わたしがここ日本で平和にボケっと暮らしているからなんだろうけど、彼らは例えば親しい隣人が巻き込まれることになっても、自爆ベストのスイッチを押せるものなのだろうか。わからない……とにかく、欧米諸国にはなるべく近寄らない方がいいんだろうな、としか思えないすね。誰がイカレたテロリストか分からないもの。まあ、無事に彼らは掃討されるので、良かった良かったということになるけれど、それにしても今回は犠牲者が多すぎますよ……。。。
 ◆アレクサンドル・ダルカ:ポーランド人。問題のソシオパス・ハッカー。まあ、「邪悪」と断ずるしかないでしょうな。でも、コイツは実のところハッカーではなくて、大量の個人情報ファイルをハックしたのは中国の依頼を受けた別の会社で、その会社からデータを盗んだのがこのダルカの勤めている会社で、ダルカは、そのデータをもとに、SNSなどの公開情報を使って、その人物の「現在」を割り出す作業をしていたわけですが、一番恐ろしいのは、SNSで自分や周りの人の情報を平気でさらし続けている一般ピープルなんだろうな、と思う。ホント、個人情報を平気でインターネッツに垂れ流し続ける人々の神経が理解できないですな。まあ、このダルカも無事にキッツイ運命に放り込まれたので、心の底からざまあであります。あのお仕置きはヤバいすね……どんなことになるかは是非本作をお読みください。
 ◆サーミ・ビン・ラーシド:サウジアラビア人。すべての元凶と言っていい悪党だと思うが、一方で前に書いた通り、自国の利益を最大化することに邁進しただけ、でもあって、そういう意味では有能な人物とも言えるかも。しかし現実世界では、USAとイランは超仲が悪いわけですが、サウジともいろいろあるんでしょうな。ジャーナリストを自国の大使館に拉致してぶっ殺す恐ろしい国だしね。この国にも行きたくはないですな。
 
 とまあ、この辺にしておきます。
 最後に、著者のMark Greaney先生について一言書いておくと、Greaney先生と言えば、わたしの大好きな『暗殺者グレイマン』シリーズの著者で、そっちの新刊もわたしは心待ちにしているのだが、なんと本作をもって「ジャック・ライアン」シリーズからは引退されるそうです。急逝されてしまった巨匠、Tom Clancy先生の後を継ぎ、ここまでシリーズを書き続けてくださって本当にありがとうございましたと申し上げたいすね。プレッシャーもすごかっただろうし、ホントにお疲れさまでした。ま、本シリーズは今後別の先生が引き継いで書いてくれることが確定しているので、そちらも楽しみにしつつ、Greaney先生の『グレイマン』新作も楽しみに待ちたいですな。『グレイマン』シリーズはわたしの大好きな早川書房から出ており、当然電子書籍版も発売されるので大変ありがたいす。また夏かなあ、次の新刊は。とても楽しみっす!

 というわけで、書いておきたいことがなくなったので結論。
 わたしがもう20年以上読み続けている「ジャック・ライアン」シリーズ最新刊『TOM CLANCY'S TRUE FAITH AND ALLEGIANCE』の日本語訳が『イスラム最終戦争』という捻りのないタイトルで発売になったので、さっそく買って読んだのだが、まあ、結論としてはちゃんと面白かったと思う。しかしなあ、もうライアン大統領は中国はやっつけたし。北朝鮮もブッ飛ばし、ロシアも片づけたわけで、今回のIS掃討が完了した後の敵はどこになるんでしょうかねえ。おおっと!? なんだ、もう本作の後に2作発売されてるじゃん!! ホント、新潮社の仕事はおせえなあ! しかもだぜ? 次作の『POWER AND EMPIRE』の相手はまた中国、そして舞台は今月開催のG20サミット(どうやら作中では大阪じゃなくて東京開催っぽいね)じゃねえか! 新潮社!! 今出さなくてどうすんだよ!! あーあ、さっさとシリーズの版権を早川書房様が獲得しないかなあ……というどうでもいい情報で終わりにします。以上。

↓こちらが次作、みたいすね。はあ……今すぐ読みたい。原書で読むしかないか……。