わたしは年間40本ぐらいは映画館で映画を観ているわけだが、そんなわたしが一番好きな映画監督は、現役では間違いなくClint Eastwoodおじいちゃんである。1930年5月生まれだからあと2カ月で89歳だよ? そんなおじいちゃんが、今もなお旺盛に映画を撮っていて、ほぼ毎年、多い年は年2本とか作品を生み出してるんだから、もうマジで信じられないよね。あっ!? ちょっと待って!? うおお、今まで全然気にしてなかったことを発見しちまった!! 1930年って、昭和5年じゃん? てことは、20年以上前に亡くなったわたしの親父より1つ年上じゃん! つうかほぼ同じかよ。すげえ、つうか、親父が生きてたら今年88歳か。そんな歳になってたんだなあ……。そうなんだ……。
 というわけで、わたしは今日、会社帰りにEastwoodおじいちゃんの最新作、『THE MULE』を観てきたのです。Muleってのは、騾馬のことですな。Wikiによると、騾馬ってのは雄のロバと雌の馬の交雑種で、、メキシコに多く生息しているそうだが、まあ、荷物運搬によく使われていたわけで、そこから転じて、メキシコから密輸されたドラッグの「運び屋」って意味で使われているわけだ。本作は、90歳になろうかという老人が、メキシカン・カルテルの末端として「運び屋」となった事件(?)に着想を得て作られたフィクション、のようだ。
 結論から言うと、わたしとしてはもう超最高に面白かったと思う。なお、Eastwoodおじいちゃんが自分で監督して自分で主演を務めるのは2008年公開の『GRAN TRINO』以来だそうだ。マジかよ、もう10年前の映画かよ……はあ……オレも年取ったなあ……。
 というわけで、以下、決定的なネタバレに触れるかもしれないので、まだ観ていない人はここらで退場してください。つうか、今すぐ映画館へGO!でお願いします。コイツは超おススメであります!

 というわけで、もう物語は上記の通りである。なので、問題は2つであろう。
 1つは、なんでまた運び屋になっちゃったのか? そしてもう1つは、最終的にどうなるのか、である。まあ、誰だってそう思うよね。わたしもそう思った。
 そして映画は、まず現在時制である2017年の12年前、2005年のとある情景から始まる。ここで説明されるのは、主人公のおじいちゃんが、ユリの栽培家で、品評会的なものの常連であり、メキシコからの違法移民の労働者と、口は悪いけど楽し気に働く姿だ。そして品評会でも、同業者に口汚いジョークをかまし、女性たちにも軽口を飛ばしつつ、賞を貰ったスピーチでも小粋なことを言って場内から拍手されるような、要するに、「営業トーク」が自然と出る、トークで相手の懐に入り込むのが得意な、口の達者なおじいちゃんという姿が描かれる。しかも、おそらく「狙ってる」ワケではなく、「天然」で面白トークをしてしまうおじいなのである。この点は後々極めて重要になるのだが、わたしは観ていて全然気が付かず、観終わって、そうか、冒頭のシーンにはそういう意味があったんだ、とハタと気づいた。
 そしてこの2005年のシーンではもう一つ、重要なことが描かれる。それは、その品評会のパーティーが、なんと娘(※娘と言っても結構歳がいっていて、既に娘(つまり孫)までいる)の結婚式の日で、思いっきりダブルブッキングしているのだ。だけど、おじいちゃんは結婚式にはいかず、パーティーにとどまる。そう、主人公は完全に「家族を顧みない」男であることが示されるのである。
 そして時は2017年に移る。いきなり映されるのは、12年前主人公が丹精込めて育てていた農園が荒れ果て、家は差し押さえにあい、荷物をおんぼろトラックに積んで出ていくシーンだ。どうやらインターネッツの通販によって事業が傾いてしまったらしい。そして主人公は、そのおんぼろトラックで成長した孫の婚約パーティー(?)会場に乗りつける。孫は唯一、おじいちゃん擁護派で、大喜びするも、娘と妻(しつこいけど孫にとっては母とおばあちゃん)がいて、険悪な雰囲気に。こっぴどくののしられて、しょんぼりなおじいちゃんは、一人おんぼろトラックで帰ろうとしたとき、娘の婚約者の友達(?)から、金に困ってて車の運転が好きなら、いい仕事があるよ、と言われ……てな展開で「運び屋」まっしぐらとなるお話であった。
 というわけで、わたしが観る前に感じていたポイントの、「なんでまた運び屋に?」に関しては、冒頭10分ほどで、なーるほど、と理解できる展開になっている。そして、わたしが一番この映画で面白いと思ったことは、主人公のおじいちゃんが「トークで相手の懐に入っちゃう」その様相だ。
 まず最初に、おじいちゃんの面白トークで篭絡(?)されるのは、街の末端の連中だ。最初はおじいちゃんに、おいおいメールも打てねえのかよこのジジイ! ぶっ殺すぞ!的な悪党どもなのに、3回目ぐらいになると、おじいちゃんの車が入ってくれば、YO!元気かい!みたいにフレンドリーになってて、だからさ、ここをこうやんだよ、的にスマホの使い方を優しく教えてあげちゃったりするんだな。
 そして次はカルテルから直々に送り込まれてきた悪党だ。カルテルのボスが、ちゃんと見張っとけ、というので、おじいちゃんの車に盗聴器を仕掛けて、後ろをついてくるわけだけど、おじいちゃんが超のんきに、ラジオに合わせて歌なんか歌ってると、あのジジイ、のんきに歌ってんじゃねえよと最初はおっかない顔をしていたのに、つい、つられて歌っちゃったりするし、白人しかいないような店に寄って、おいジジイ、みんながジロジロ見るじゃねえか、なんでこんな店にしたんだよ!と凄んでみせると、おじいちゃんは、いやあ、この店のポークサンドは世界一美味いんだよ、どうだ、美味いだろ? なんて返され、まあ、美味いけどね……みたいな、悪党たちの調子が狂うというか、その篭絡ぶりが観ていてとても面白いのです。悪党だけじゃなくて、2回、ブツを運んでいる時に警官と遭遇しちゃうのだが、そのかわし方?が 上手すぎて最高だったし、1回目の時の、ど、どうしよう?という超不安な表情も演技として素晴らしかったすね。
 そして、あまりにおじいちゃんが仕事に次々と成功するので(DEA=麻薬取締局が網を張ってるのにおじいちゃんすぎてノーマークだった)、カルテルのボスが気に入っちゃって、メキシコの大邸宅に呼びつけて、二人で盛大に酒を飲んで女もあてがってもらって(!)、楽しいひと時まで過ごしちゃうんだから凄いよ。
 しかし、後半、そのカルテルのボスが暗殺されて別の人間に交代したことで、完全に空気が変わってしまう。その新ボスは、寄り道禁止、スケジュール通り運ばねえとぶっ殺す、と別の凶悪な手下を送り込んできたのでした。そして折しも元妻が病魔に侵されているという知らせも入り、そっちに行きたい、けど、おっかねえ連中が見張ってる、そこで主人公のおじいちゃんが取った行動とはーーーというクライマックス(?)になだれ込むというお話でありました。
 なので、果たして最終的な結末は―――という最初の疑問は、かなり美しく描かれますので、それはもう、映画館でご確認ください。わたしはあの結末はアリだと思います。大変面白かったすな。
 というわけで、以下、キャラ紹介とキャスト陣の紹介をして終わりにしよう。ホントは篭絡されていく悪党たちを紹介したいんだけど、知らない役者なので、有名な人だけにします。
 ◆アール:主人公のおじいちゃん。朝鮮戦争に従軍した退役軍人。そのギリギリセーフ、つうか若干アウトな毒舌トークで相手の懐に入っちゃうキャラは、Eastwood作品ではかなり珍しいような気がする。いつも、眉間にしわを寄せてる強面おじいですが、今回はちょっと違いますね。ボスの家に招かれたときのシーンも良かったすねえ。「こりゃあ凄い、あんた、この家を建てるのに何人殺したんだ?」なんて、周りの悪党どもがドキッツとしてしまうようなことを平気で口にしてしまっても、ボスも笑顔で「そりゃあもう、たくさんだよ、はっはっは!」と逆に気に入っちゃう流れは、アールのキャラをよく表してましたな。アールは、朝鮮戦争から帰ってきたことで、ある意味もはや「怖いものなんてない」わけで、「したいことをする・思ったことは口にする」男となったわけだ。だけど、一つだけ、どうしても心残りなのが、家族を蔑ろにして生きてきたことで、それが内心ではとっても悲しく、Eastwoodおじいちゃんの表情はもう、最高にそんなアールの心情を表していたと思う。ホントにお見事でしたなあ! あと、最初の仕事の成功でもらった金で、いきなりおんぼろトラックからゴッツイ最新モデルのピックアップ(ありゃクライスラーかな?)に乗り換えちゃうところなんて、わたし的にはとても微笑ましく思えました。ちょっと調子に乗りすぎたかもね……この人……。
 ◆コリン・ベイツ:DEA捜査官。NYやDCで実績を上げてシカゴ支局に異動してきた花形捜査官。「タタ(=じいさん)」と呼ばれる謎の運び屋を追う。このDEAサイドの話も並行して進むのだが、ベイツとアールがとあるカフェで出会う、けど、アールはヤバい!と気付いているのに、ベイツはまるで気付かず、のあのシーンも大変良かったですね。ベイツを演じたのは、Eastwoodおじいちゃんのウルトラスーパー大傑作『AMERICAN SNIPER』で主人公クリス・カイルを演じたBradley Cooper氏。今回は出番はそれほど多くないけれど、大変良かったです。ラスト、あんただったのか……と逮捕するシーンの表情も、実に素晴らしかったすね。そして役名を覚えてないけどベイツの相棒のDEAマンを演じたのがANT-MANのゆかいな仲間でお馴染みMichael Peña氏。彼もEastwoodおじいちゃんのウルトラスーパー大傑作『Million Dollar Baby』に出てましたな。陽気な役が多い気もするけど何気に演技派なんすよね、この人は。それから二人の上司のシカゴ支局の偉い人、をLaurence Fishburne氏が演じてました。相変わらずのすきっ歯でしたね。実に渋いす。
 ◆カルテルのボス:「タタ」と呼ばれる運び屋の仕事ぶりが気に入って、自宅に呼びつけるボス。残念ながらその若干甘い体制が身を滅ぼしたようで……残念でした。演じたのはAndy Garcia氏。すっかり渋くなりましたなあ。一時期トンと見かけなかったような気がするけれど、ここ数年、また出演作が増えてきたような気がするっすね。『The Untachable』はもう30年以上前か……あの頃はイケメンでしたなあ……。
 ◆メアリー:アールの元妻。仕事人間で家庭を顧みないアールに三下り半を突きつけ離婚したらしい。しかし最後の和解は、ちょっと泣けそうになったすね。あの時のEastwoodおじいちゃん演じるアールの表情が超見事でした。この元妻を演じたのがDianne Wiestさん70歳。わたしがこの人で一番覚えているのは、『Edward Scissorhands』のお母さん役ですな。エイボンレディーの仕事をしているちょっと抜けた?明るいお母さんという役だったすね。あれからもう約30年か……はあ……。
 ◆アイリス:アールとメアリーの娘。結婚式に来なかった父と12年口をきいていない。そりゃ怒るよ……。演じたのは、なんとEastwoodおじいちゃんの本当の娘であるAlison Eastwoodさん46歳。この方は過去何度かEastwood作品に出演しているし、自らも監督として映画を撮っている方ですが、顔はあまりお父さんに似てないすね。わたし、実は観ている時はAlisonさんだと気が付いてなかったです。ウカツ!
 ◆ジニー:アイリスの娘であり、アールとメアリーの孫。おじいちゃん擁護派だったけれど、おばあちゃんが大変なのに来てくれないなんて! と激怒してしまうことに。わたしはこの顔知ってる……けど誰だっけ? と分からなかったのだが、エンドクレジットで名前が出て思い出した。この女子はTaissa Farmigaちゃん24歳ですよ! 2013年公開の『MINDSCOPE(邦題:記憶探偵と鍵のかかった少女)』の主役の女の子ですな。あの頃はギリ10代だったのかな、すっかり大人びて美人におなりです。そしてこの方は、『The Diparted』のヒロインを演じたVera Farmigaさんの妹ですね。えーと、Wikiによると21歳年下の妹だそうです。ずいぶん離れてますな。あ、7人兄弟だって。そしてTaissaちゃんが末っ子か。なるほど。

 というわけで、もう書いておきたいことが亡くなったので結論。
 わたしが現役映画監督で一番好きなClint Eastwoodおじいちゃん最新作『THE MULE』が公開になったので、初日の今日、会社帰りに観てきた。ズバリわたしは超面白かったと結論付けたい。とにかく、10年ぶりの主役を自ら演じたEastwoodおじいちゃんの演技が超秀逸です。アカデミー賞にかすりもしなかったのが大変残念ですよ。いつもと違う軽妙さはすごく新鮮だったし、時に見せる、老人らしい慌てぶりの、ど、どうしたらいいんだ?的なオロオロ感は観ててとてもグッと来たっすね。グッと来たというか、毎日、80代のばあ様になってしまった母と暮らすわたしには、こっちまで心配になってしまうような、絶望感のような表情が素晴らしかったと思います。わたしとしては、本作は大いにお勧めいたしたく存じます! 是非映画館で! 以上。

↓ 今週末は久しぶりにコイツを観ようかな。なんというか、キャラ的に今回と正反対、のような気がする。
グラン・トリノ (字幕版)
クリント・イーストウッド
2013-11-26