昨日は冷たい雨の中、会社が終わってから神宮球場の横にある日本青年館へ行ってきた。それはわたしの愛する宝塚歌劇団宙組公演『群盗―Die Räuber―』を観るためであります。
 こちらがポスター画像ですが、まあ、なんつうか……美しいですなあ……。。。
raeuber
 わたしはこの公演に関して、2つの点で大変興味を持っていたので、友の会の抽選に申込み、超ラッキーなことにあっさり当選となって観に行くことが出来たのだが、その2つの点とは以下の通りである。
 1)マジかよ! シラーの『群盗』キタ!
 わたしの周りの人々にはおなじみな通り、わたしはドイツ文学科出身である。そして大学院での専門は18世紀~19世紀のドイツ演劇・戯曲だ。つまり、Friedlich von Scillerと言えば、世の大半の人は知らないだろうけど、ドイツ文学を学んだ人間にとってはGoetheに次ぐ知名度(?)を誇る、ゲーテとほぼ同時代人の偉大なる劇作家なのであります。ゲーテより10歳若いSchillerの戯曲は当然わたしも何作も読んだことがあるわけで、とりわけ有名な『群盗』は超知ってる作品なのである。
 ちなみにさっき会社の若僧に質問されてびっくりしたのだが、そもそも普通の人は「戯曲」という日本語さえ知らないのかもしれない。まあ、会社のガキがアホだっただけの可能性も高いけれど、「戯曲」とは要するに台本、であり、台詞とト書きからなる文学作品だ。Shakespeare作品も戯曲ですわな。そして『群盗』こそ、Schiillerの処女作であり、世界の演劇史上においても相当の回数上演されている有名な作品なのだ。
 そんな『群盗』が、愛する宝塚で上演されるなんて話を聞いて、ドイツ文学を学んだ者としては、じっとしていられるわけがないのです! おまけに主演は、今、超キラキラしている芹香斗亜さん(以下:キキちゃん)である。ここが2つ目のポイントだ。
 2)キキちゃん……ホントに宙組に移って良かったなあ……!
 わたしは2010年に初めて宝塚歌劇を観て以来のファンで、1番最初に観たのが当時のTOPスター柚希礼音さん率いる星組公演だ。なので、とりわけ星組には思い入れがあるわけだが、キキちゃんは当時星組で、正直わたしはそれほど注目しておらず、キキちゃんが2012年に花組に異動になった時、あ、あの子、花組行っちゃうんだ、ぐらいのことしか思わなかった。しかし、その後の花組公演を観る時はいつも、キキちゃんは元気だろうか、と妙に気になり、その後、明日海りおさん(以下:みりお)が花組TOPスターになって以降、キキちゃんも順調に大きめの役が付くようになって、花組の2番手まで出世したわけだけど……ズバリ、花組時代のキキちゃんは、超地味!だったように思う。なにかと華やかな3番手(?)の柚香光さん(以下:ゆずかれー)が目立って、どうにもキキちゃんは上級生だし番手も上のはずなのに、そして歌も芝居も(わたし主観では)全然キキちゃんの方が上なのに、いかんせん地味、みたいなことをわたしは思っていた。なので、2年前に、キキちゃんが今度は宙組へ異動になった時は、ある意味飛ばされた的に感じていたのである。
 しかし!!! わたしの愚かな感想はまったくの見当違いだった!!! ことが、宙組異動後のキキちゃんが自ら証明してくれたのであります。とにかく、宙組異動後のキキちゃんは、大変失礼ながらもう別人じゃねえかと思うぐらいキラキラしていて、超カッコイイ! じゃあないですか! わたしはさっき、日刊スポーツのこの記事を読んで、なーるほど、そういうことだったのか、と超・腑に落ちた。 ※記事自体はこちら→https://www.nikkansports.com/entertainment/column/takarazuka/news/201902280000137.html

 つまり、このインタビューによると、キキちゃんは花組に異動した時は「おとなしく、上級生らしくしなくちゃ」と思っていたそうである。そうだったんですなあ……そして花組で5年半「花男」としての経験を積み、宙組TOPに星組時代の仲間であり1期先輩の真風涼帆さんが登極されたタイミングで、宙組へ異動となって今に至るわけだ。下級生時代を共に過ごした真風さんの存在も大きいのでしょうな。とにかく、宙組異動後のキキちゃんのキラキラぶりは、とても眩しく、まるで生まれ変わったかのように輝くキキちゃんを観るのは、もはやお父さん目線のおっさんファンとしては、もう大変うれしいことなわけですよ。なんか、凰稀かなめさんが星組2番手時代は超地味だったけど、宙組TOPになったら超キラキラになった時を思い出すというか、ちょっとだけ似てるっすね、境遇的に。
 わたしはサラリーマンとして今年で25年目だが、思うに、やっぱり部署異動の経験のない奴って、もう職人的に固まっている奴(=別の言葉で言えば成長の目がなくつぶしの気かねえ使えない奴)が多いような気がしますね。わたし自身も6部署ぐらい渡り歩いてきたけれど、異動ってとにかくエネルギーを使うんすよ。前の部署でエースだったとしても、新しい部署で新しい仕事を始める時は一兵卒に戻らざるを得ないし、人間関係も気ィ使うし。
 だけど、やっぱりサラリーマンは異動をしないと成長しないと思うな。異動で潰れちゃうダメな奴もいっぱい見てきたし、自分の代わりはいないと勘違いして異動辞令に駄々をこねるようなやつもいっぱい見てきたすね。まあはっきり言って、代わりはいくらでもいるんだよ。問題は、自分がいなくなっても大丈夫なように、下の人間に「自分の背中」を見せてきたかどうか、であり、そして、新しい場所に行った時に自分が成長するチャンスだととらえられるかどうか、という点だ。この観点から見ると、キキちゃんは超立派にその役目を果たしているようにわたしには思えるのであります。

 とまあ、以上のことから、わたしは↑に張り付けたポスター画像を見た時から、これは観てえぜ! と超楽しみにしていたのであります。ヤバイ、まったく関係ない話が長くなり過ぎた……。
 ええと、ズバリ結論から言うと、キキちゃんを中心とした宙組の若手キャスト達はとても良かったと思う。とりわけ、やっぱり3度の新公経験のある瑠風輝くんは今回初めての悪役だったのかな、とても光っていたし、物語の狂言回し的役割のヴァールハイトを演じた101期首席の鷹飛千空くんも良かったすねえ! もちろん群盗メンバーのみんなも超頑張っていたし、さらにはヒロインを演じた天彩峰里ちゃんも健気で良かったすなあ。こういう外箱公演は、普段の大劇場公演では小さい役しか付かない若手の頑張りをチェックできるので、やっぱり面白いすね。
 しかし、物語としては、わたしはとても意外に思ったことがあった。若き頃に読んだ時の印象と全然違うのだ。これには一つ、心当たりがある。それはズバリ、わたしが「年を取ってしまったため」だ。以前も、例えばそうだな……わたしは大学生当時、夏目漱石にドはまりで、『彼岸過迄』『行人』あたりはもう感動して泣いたぐらいなのに、40過ぎて再読した時、まるっきり泣けない、どころか、キャラクター達のガキっぽい心情に呆れるというか……まあとにかく、感想がガラッと変わってしまったのである。
 というような同じことが、今回『群盗』を観てわたしの身に起こった。約30年前にSchillerの『群盗』を読んだ時は、そのキャラクター達の熱い想いや行動にグッと来たはずなのに、今回まったく共感できなかったのである。バカなガキども……みたいな冷ややかな想いを抱いてしまったわたしとしては、なるほど、これが世にいう「老害」か……と自分がなんだか悲しかったすね……。
 というわけで、最後は毎回恒例の今回の「イケ台詞」を発表して終わりたいと思います。
  ※イケ台詞=わたしが「かーっ!! カッコええ!!」と思ったイケてる台詞のこと。
 「ゆがんだ世を、ゆがんだ方法で正そうとしてしまった……!」
 今回は、正確なセリフは覚えられなかったけど、キキちゃん演じる主人公カールがラストに嘆くこのセリフを選びます。そうなんだよ、それじゃあダメなんだよ! どんなに周りがインチキで汚ねえ奴らばっかりでも、自分も同じことをしてちゃあダメなんだよ! どんな状況でも、自分は清く正しく美しくないと、ダメなんだよ!! このラストの台詞はとてもグッと来たっすね! ホント、美しくキラキラしているキキちゃんの、心からの慟哭が刺さったすわ……。結構原作と設定が変わっていたけれど、このセリフ、原作にもあったんだっけ……。まったく思い出せん……。

 というわけで、クソ長くなってしまったけど結論。
 ドイツ文学を学んだわたしとしては、Schillerの『群盗』が宝塚歌劇で上演されるというニュースは、もう超ドキドキワクワクだったし、おまけに主演が星組時代から知ってて、今、最も旬を迎えている(?)芹香斗亜さんともなれば、これは絶対観ないと! と期待していたわけだが、確かに、キキちゃんをはじめとする宙組の若い衆はとても熱演だったのは間違いない。その意味では期待を上回る素晴らしい作品だったと称賛したい……のだが、どうもおっさん化してしまったわたしには、約30年ぶりの『群盗』という物語は、共感できるポイントが少なく、若者たちの無軌道ともいえる行動には眉を顰めざるを得ず、その最終的な悲劇エンドには、そりゃそうなるわな、としか思えなかったのである。ただ、イケ台詞にも選んだ通り、最終的にはきちんと自らの過ちを悔いて嘆くのはとても良かった。遅すぎたな……分別ある大人の味方が必要だったんだろうな……。まあ、それがいないから「群盗」と化したわけで、実に悲しい、まさしく悲劇だったと思う。原作を持っているような気もするので、本棚あさってみるか……。以上。

↓ たぶん持ってる……はず。探してみよっと。
群盗 (岩波文庫)
シラー
岩波書店
1958-05-05