James Cameron監督と言えば、現代最強映画作家の一人であることは、おそらく誰も異議を唱えないだろう。現在Cameron氏は、せっせと『AVATAR』の続編を製作中とのことだが、恐らくはきっと、またすごい、今まで観たことのなかったような映像を見せてくれるのだろうと、今からとても楽しみだ。
 そしてCameron監督が真にすごいというか、偉大な点は、「既存のハードウェア・ソフトウェアで自分が撮りたい映像が撮れないなら、自分で作る!!」という点にあると思う。そう、この人は、自分でカメラや編集ソフトを、ハードメーカーやソフトメーカーを巻き込んで、自分で作っちゃう男なのだ。
 わたしが思うに、その点がChristopher Nolan監督と大きく違う点で、Nolan監督がIMAXにこだわり、既存技術の延長線の中でその限界を極める、最強クリエイターである一方で、Cameron監督は、ゼロから作っちゃう最強イノベーターである、とわたしは考えている。
 というわけで、このたびCameron監督が脚本を書き、製作を担当した作品『ALITA: Battle Angel』という映画が公開されたので、わたしもさっそく観てきた。本作は、Cameron監督が惚れこんだという日本のコミックのハリウッド映画化作品である(※パンフによると、25年前に、Cameron監督にこの漫画を紹介したのは、日本カルチャー大好きなオタクでお馴染みのGuillermo del Toro監督だそうです)。そのコミックとは木城ゆきと先生が1990年に発表した『銃夢』という作品だが、わたしは恥ずかしながら『銃夢』を読んでおらず、ま、別に構わんだろ、と思って『ALITA』を観てきたのだが、観終わり、劇場を出た瞬間におもむろにタブレットを取り出し、電子書籍で『銃夢』を買って読んだ。まさか全9巻だとは思っていなかったので、お、おう、とか思ったものの、映画に合わせてなのか全9巻セットが6冊分ぐらい?の値段にお安くなっていたので、問答無用でポチり、そのまま近くのカフェで読んでみたところ……意外なほど、映画は原作に忠実で(勿論違う点もいっぱいあるけど)、なるほど、これは原作者の木城先生がこの映画を観たら、うれしいだろうな、という仕上がりであったことを知ったのである。そしてわたしも、映画『ALITA』には大満足であった。いやあ、面白かったし、とにかく、アリータがカワイイんすよ! 大変良かったと思います。

 というわけで、物語は25世紀(?忘れた!26世紀だっけ?)、The FALL=(没落戦争)なる大きな戦争が終わった後の世界を舞台にしている。唯一残った空中都市ザレムの下に、荒廃した地上世界が取り残されていて、そして地上では、生身の人々だけではなく、体の一部あるいは全部を機械に置換したサイボーグがともに普通に暮らしており、サイボーグ手術を生業とする元ザレム市民イドが、ザレムから落っこちてくる鉄くずを漁っている時、1体の女性型サイボーグの頭と胸から上のボディを拾うところから物語は始まる。そのサイボーグのパーツともいうべき頭は、完全に機能は停止しているものの、脳は無事らしいことが分かり、イドは拾って来たサイボーグに、かつて亡くした娘のためのサイバネティックボディを与える。そして目覚めたサイボーグは完全に記憶を失っていて、名前すら覚えていない状態だったのだが、娘の名前「アリータ」と仮に呼ぶことにする。目覚めたアリータは何もかもが新鮮で、無邪気だったのだが、その心臓は大戦前のすでに失われた高度な技術で作られており、どうやら300年以上前に製造されたことが判明する。また、古代の武術「機甲術(パンツァー・クンスト)」の技を使って戦うこともできるアリータ。それらの謎は、どうやらザレムの「ノヴァ」なる人物に繋がっているようで……てな展開である。いつも通りテキトーにはしょりました。
 だが問題はラストのエンディングで、若干、ジャンプ打ち切り漫画的な、ここで終わり!? 感があって、わたしは結構びっくりすることになった。それゆえ、きっとこの先の物語がコミック原作にはあるに違いない、つうか、これはコミックを読まないとダメだ、と思ったから全巻まとめ買いをしたのだが、どうやら結論としては、映画はコミックの2巻、いや3巻冒頭かな、その辺りまでのようで、やっぱり続きの物語は明確にあるみたい。
 だけど、うーん、まあ、やっぱり似て非なるものというか、別物と思った方がいいのかな。コミックでは、後半に行くにしたがって、ザレム側のキャラも出てくるけれど、映画のようにザレム=悪ではなく、それなりにイイ人も出てきます。つうか、映画を面白いと感じた人は、コミックも全部買って読んでみるといいと思います。
 というわけで、ざっとキャラ紹介して終わりにします。
 ◆アリータ:コミックでは「ガリィ」という名前ですが、まあ、別にアリータでも全然問題ナシ。映画のアリータは、目が普通の人間よりもデカイわけですが、やっぱり最初は何となく違和感があるわけですよ。しかしですね、物語が進むにつれ、全然気にならなくなっちゃうんだな。つうかむしろ、カワイイとさえ思えてくるから不思議です。わたしは『AVATAR』の時も、ナヴィ族のネイティリが、観ながらどんどんかわいく見えてきてしまったわけで、あれと同じすね。無邪気で、恋にウキウキしている様子なんかがそうわたしに思わせたのだと思うけれど、だんだんと記憶を取り戻して、表情が変わっていく様子は、やっぱり映画の強みというか、コミックよりも物語的にうまくまとまっているようにも思えた。やっぱり脚本がしっかりしてるのが、本作のクオリティを担保してるように思える。長いコミックの重要な要素をきっちりと抑えつつ濃縮してる、みたいな印象です。
 映画版では印象深い、血を目の下に塗るシーンなんかも、コミックではちょっと違う形で出てきたりします。実際、物語のカギとなる「モーター・ボール」に関しては、コミックではとてもカッコイイキャラが出てくるけれど、本作には登場せず、だったり、いろいろ物語(の順番)や設定は違うんだけど、それでも映画版はきっちりまとまっていて、映像的にも凄いし、大変楽しめました。
 で、演じたのはRosa Salazarさん34歳。34歳!? マジかよ。CG加工されているので全然印象が違うけれど、この人は『MAZE RUNNER』の2作目から登場したブレンダを演じた人なんすね。なるほど、写真を見ると、たしかに鼻と口はアリータっすね。まあほんと、アリータだけでなく、街の様子や数多く登場するサイボーグたちなど、どうやって撮影したのか全然想像もできない映像はすごいす。
 ◆イド:元ザレム市民で医師。現在は地上に住み、サイバネ手術を行い、人々から信頼されている。コミックとは年齢も違うし、アリータ(コミックのガリィ)への想いも結構違うけれど、たしかにイドでした。地上世界には警察がなくて、「ファクトリー」なる組織が取り仕切るセキュリティがあって、犯罪者を狩る「ハンター・ウォリアー」と呼ばれる賞金稼ぎたちがいるわけですが、イドがハンターとして犯罪者を狩る動機は、コミックとはちょっと違っていて、映画の方が共感できるものとなっていると思う。演じたのは、助演男優賞ハンターとわたしが勝手に呼んでいるChristoph Walz氏。とても雰囲気が出てて、コミックのイドの面影も感じますな。大変良かったと思う。
 ◆ヒューゴ:元々イドと知り合いで、便利屋的にいろいろ調達してくる仕事の早い青年。アリータはヒューゴがどんどん好きになっていくのだが、ヒューゴは「ファクトリー」の地上ボス?の男に利用されて、結構悪いこともしていて……というようなキャラ。なんつうか、若干ゆとり臭は漂ってましたな。もうチョイ、分別があれば……ちなみにコミックのヒューゴはもっと子供っぽく、生い立ちももっと気の毒な感じです。まあ、まだ世の中のことを知らず、本当の善悪を見抜けない子供だったんだろうとわたしは思うことにします。演じたのはKeean Johnson君。23歳、かな? 妙に健全な、つるっとした肌の青年でした。演技的には……まあ普通す。
 ◆ベクター:地上では偉そうにしている悪党だけど、実はラスボスのノヴァの操り人形、という若干かわいそうな人。このキャラは、その見かけもすごくコミック版のキャラと似ていて、大変良いと思います。演じたのは、明日のアカデミー賞で助演男優賞にノミネートされているMahershala Ali氏45歳。雰囲気バリバリで悪人オーラが漏れ出ていますが、普段のこの人の笑顔は大変優しそうなお方ですな。
 ◆チレン:元イドの妻。ベクターと組んで悪いことをしているが、最終的には改心するも、残念なことに……さっきWikiで初めて知ったけど、チレンというキャラはOVAに出てたんすね。まあ別人だけど。コミック版には映画のチレン的キャラは出てこないす。演じたのは、かつて絶世の美少女だったJennifer Connellyさん48歳。今でも大変お美しいお方ですよ。この人を観ると、なんかいつも宮沢りえさんを思い出すっすね。美女なのは間違いないす。
 ◆ノヴァ:本作のラスボス。登場シーンはごく少なく、謎のゴーグル的なものを着用しているのだが、ラストでそのゴーグルを外したとき、あ! Edward Norton氏じゃないか! と驚いたすね。一切クレジットにも出てこなかったけれど、あの顔を見間違えるはずもないので、間違いないす。しかし本作のエンディングは……続編を作る気満々なのだろうか……? というぐらい、ここで終わりかよ!エンドでした。
 あとは……わたしが観ていて、あれっ!? こいつって……? と思った人が一人いたのでその人を紹介して終わりにしよう。
 ベクターとチレンの手下で、アリータに何かとちょっかいをかけてきて、最終的には負けるゴッツイ、凶悪なサイボーグのグリュシカというキャラがいるのだが、まあ、体は全部機械で顔だけ俳優の顔が張り付けてあるようなキャラなんですが、この顔にわたしはピンと来て、まさか? と思ったらまさしくJackie Earle Haley氏であった。わたしの大好きな映画『WATCHMEN』の主人公、ロールシャッハを超熱演した彼ですな。コミックのグリュシカとは若干設定が違うんだけど、あの地下での、腕一本になっちゃったアリータの戦いぶりはまさしくコミック通りで、映画を観てからコミックを読んだわたしとしては、すげえ、このまんまだったな、と驚いたす。
 そして監督は、Robert Rodoriguez氏だったのだが、わたしはこれまで4本ぐらいしかRodoriguez監督作品を観てないので、それほど語れることはないけれど……なんか、堂々たる大作だったな、という感想です。血まみれなヴァイオレンスアクションの印象が強いけれど、まあ、本作はそれほどでもないので、健全な皆さんにも楽しめること間違いなしだろうと存じます。

 というわけで、書いておきたいことがなくなったので結論。
 まず第一に、面白い、です。そして、この映画を観たら、原作もぜひ読んでみてもらいたいすね。結構なシーンが原作コミック通りだというのは、ちょっと驚いたす。そしてなにより、観ているとアリーがどんどんかわいく見えてくるんすよ! それは、キャラ設定だったり、表情だったりと様々な要素から湧き上がるものだと思うけれど、とにかく、アリータが本当に人間の少女のような、純粋で、無邪気で、よく泣くとてもイイ子なのです。アレっすね、わたしのようなおっさん客にとっては、少女の涙には有無を言わせぬ保護欲的なものを感じさせますな。ホント、アリータには幸せになってほしいのだが……ここで終わりかよエンドなので、続きはコミックで堪能するのもアリだと思います。だいぶ話は違いますが。そして映画ということで、その映像もきわめて高品位なCGがふんだんに使われており、映像的な見どころも満載だと存じます。結論としては、大変楽しめました。続編は作られるのか知らないけれど、作るなら、希望のある明るいエンドにしてほしいす。以上。

↓ とりあえず映画が気に入ったならおススメです。まずは(1)巻をどうぞ
銃夢(1)
木城ゆきと
講談社
2014-01-31