わたしはどうもイギリス史にはほぼ無知というか興味もあまりないため、18世紀初頭のステュアート朝最後の君主、アン女王に関してはほぼ何の知識もなかった。ましてや、アン女王の晩年の側近であった、アビゲイル・メイシャムなる女性に関しては、聞いたこともなかったことを白状しよう。
 なので、わたしが昨日観てきた映画『THE FAVOURITE』は、意外なほど史実に沿ったお話であることを、実は観終わってパンフレットを読みつつインターネッツで調べて、初めて知ったのである。
 映画としては、若干クセのすごい演出や、キャラのクセもすごくて、なんだかイマイチ好きになれない……というかキモチワルイのだけれど、どうやらお話自体は、結構史実通り、のようだ。へえ~。そうだったんだなあ……と、実は鑑賞後に初めて知ったのであります。
 というわけで、来週には発表されるアカデミー賞でも最多10部門にノミネートされているということで、わたしも興味を持って観に行ったわけだが、実のところわたしがこの映画を観ようと思った理由はただ一つ。わたしが愛してやまないハリウッド美女のEmma Stoneちゃんが出演しているから、であります。ただ監督が、以前WOWOWで観て、こりゃ微妙すぎんな……と思った作品『THE LOBSTER』を撮ったギリシャ人Γιώργος Λάνθιμος(=アルファベットだとYourgos Lanthimos)氏であったので、若干イヤな予感はしたのだが……まあ、実際、演出やキャラ造形は前述のようにまったくわたしの趣味ではなくアレだったんすけど……キャスト陣の演技合戦は大変見ごたえがあって、結論としては結構面白かった、と思う。
 というわけで、まずは予告編を貼っておこう。そしていつも通りネタバレに触れる可能性があるので、気になる方はここらで退場して、劇場へ観に行ってください。それなりにおススメ、です。

 ま、上記予告にあるように「アカデミー賞最有力」なのかどうかは知らないけれど、確かに、この映画は若干のシャレオツ臭というか、玄人受けというか、まあ、普段のわたしなら、ケッ!とか言ってあまり見たいとは思わないような雰囲気を醸し出している。
 そして物語はほぼ上記の予告通り、と言ってもいいだろう。しつこいけれど、わたしは本作でアン女王の「お気に入り」を争う(?)ことになる二人の女性、アビゲイル・メイシャム嬢とレディー・サラ・チャーチルが実在の人物なのか、よく知らないまま観ていたのだが、どうやら、二人の確執は実際にあったようで、本作は結構歴史通り、らしい。そりゃもちろんすべてじゃないだろうけど。
 というわけで物語は、アン女王と肉体関係さえ持っていた幼馴染のレディー・サラが取り仕切る宮殿に、若くてかわいいアビゲイルがやってきて、やがてアン女王の「お気に入り」となってゆくお話であるのだが、わたしは観ていて、2つのことに生理的な嫌悪を感じたものの、これまた前述の通り、キャスト陣の演技合戦は大変お見事で確かにこれはアカデミー賞クラスかも、と思うに至った。というわけで、わたしが感じた嫌悪とキャスト陣についてまとめてみよう。
 1)とにかく汚くて不潔な18世紀イギリス
 日本で言うと江戸時代、5代将軍の綱吉の時代あたりのイギリスなのだが、なんつうか、きったねえし不潔な宮殿・社会インフラがわたしとしてはかなりゾッとした。道は泥道、そして服も薄汚れている、さらに宮殿内も、なんか……ぜんぜん華美ではない。恐らくこれらは、本当にそうだったのだろうと思う。そういう意味ではリアルなのだが……もちろん日本の同時代もそんなに変わりはないんだろうけど……たぶん、江戸という街、ましてやその頂上たる江戸城はもっときれいで清潔だっただろうし、将軍家に仕える武士たちや市井の江戸庶民たちはもっとこざっぱりしてたんじゃなかろうか……と根拠なく感じた。そういう意味では、日本とは違う、西洋の小汚い宮殿というのは実に興味深く思うし、また、日本人で良かった……とか思った。アレかな、やっぱり西洋人は風呂に入らないんですかね? おそらく、耐えがたい悪臭ぷんぷんだったのではなかろうか……。キツイ香水で隠すのはホントやめてもらいたいよね。これは現代でも言えることだけど……。
 そしてもう一つ、わたしが不潔できたねえ、と思ったのは、性に対する描写である。そもそも、男も女も、なんか知らないけど若干肥満気味な人々が多く登場したからというのもあるかもしれないけれど……豚みてえな野郎たちのSEXはホント、おえっ! と思うような不潔感を感してしまうのである。そして薄汚れてるし、ちょっとだけ娼館の描写もあるし、またアン女王(しかもなんか小汚いおばちゃん)のHシーンもあったりと、性的な、なんというか……アニマル的な性欲は、そりゃまあリアルで当たり前なんだろうけど、キモチワルイもんだ、と現代日本人のわたしは感じざるを得なかったすね。
 2)TOPに媚びへつらう姿の気持ち悪さ
 わたしはこれまで、会社員としてもう何人も、TOPに媚びへつらう奴らをみてきたが、あれほど醜いと思う者もなかなか世には存在しないような気がする。本作は「女王陛下のお気に入り」となるために、本当にもう何でもする女性の姿を追ったものだが、その動機は分からんでもないけれど……やっぱりどうしても共感は出来ないですなあ……。キモチワルイんだもの。
 ただ、現実として、TOPにいる人間は、そりゃ何でもやってくれて、自分の聞きたいことを耳に吹き込んでくれる人間を可愛がって、重用してしまうのは、もう、にんげんだもの、しょうがないよ、とは思う。いつも自分に反抗的なことをいう人間に対して、仮にそれが正論で正しいことであっても、イラッとしてしまうのは、どうしようもないことだろうと思う。なので、本作では何でも聞いてくれるアビゲイルと基本的に正直&正論派のレディー・サラは、両極端で、元々は幼馴染で何でもあけすけに言ってくれるレディー・サラを重用していた女王が、やがてアビゲイルの甘い言葉に傾いて行ってしまうのは、もう仕方ないことだとは思った。
 でもなあ……アビゲイルの言動は、ほとんどが自らの野望のためで完全なる私欲であるのに対して、レディー・サラは、もちろん彼女も清廉潔白というわけでは全然ないけれど、恐らくは国のことを真面目に考えていたように見えるわけで、なんかとても残念です。まあ、所詮TOPに立つ人間というのも、人間であることに変わりはなく、一人の人間に権力を集中させていいことはないってことなんだろうな、とわたしは感じた。おまけに世襲でTOPになった人間なんてのは、基本的にもってのほか、なんだろうな。かといって、合議なんてのも時間の無駄な場合も多いわけで、ホントに難しいすね……。
 3)キャスト陣の演技合戦は凄くて、これは超見応えアリ。
 ◆アン女王:基本的に精神的にも肉体的にも、「疲れ果てている」女性。その背景には17人(?)の子供を喪った母としての無力感のようなものがあって、亡くした子供の代わりにウサギを飼っている心淋しい女性として描かれている。歴史上、本作で描かれたころは40歳ぐらいのはずだが、ぱっと見50歳ぐらいのおばちゃんとして描写されていた。で、演じたのはOlivia Colmanさん45歳。このお方は本当は結構美人なのに、まあとにかく、疲れたおばちゃんでしたよ。それはきっと、人間としてリアルな造形であったのだろうとは思う。そして、ある意味超わがままな言動と、時に、妙にキリッと決断というか宣言をする姿は、演技として大変上質であったように思う。なんつうか、子供のような繊細なハートと、女王としての威厳ある姿という二面性は、見事な演技によって表現されていたと思う。【2019/2/25追記】というわけで、アカデミー主演女優賞おめでとうございます!
 ◆アビゲイル・メイシャム:元々下級貴族だったけれど、父が放蕩野郎で落ちぶれ、ある種の地獄を見た女性。遠い親戚のレディー・サラを頼って宮殿入りするも、当然下働きから始まり、ちょっとした機転を聞かせることで女王に取り入っていく、したたかな、というか……気合と根性のある女性。彼女の野望は再び上流階級の暮らしをすることで、みごとその野望を果たすことに成功する。演じたのは、わたしの愛するハリウッド美女の中でも天使クラスにかわいいEmma Stoneちゃん30歳。やっぱりイイすねえ……はっきり言えば本作での役どころは、まったく好きになれない女性だし、自分の体さえ武器にする強力なガッツあふれる女性なのだが、演技としては、たまーーに「チッ……」っと本心を見せるような表情が極上だったですな。ラストのあのシーンも、可愛らしさを封印したかのような、非常にいろいろな意味のある表情でお見事だったと思う。
 ◆レディー・サラ・チャーチル:アン女王とは幼馴染。夫は軍人でフランス従軍中(スペイン継承戦争)。そして大蔵卿シドニー・ゴドルフィンと通じていて、戦争継続を女王に進言するが最終的には宮殿から追放され、国外退去に。しかし、レディー・サラも「もうこんな国はたくさんだわ……」と愛想をつかしてしまうのだが、歴史上はこの映画の物語の後、ドイツやオーストリアの宮殿で厚遇されるも、イングランドに再び戻って活躍したそうです。そうだったんだ……なるほど。演じたのはRachel Weiszさん48歳。天下のイケメン007でお馴染みDaniel Craig氏の奥さんですな。キッとした表情や、アビゲイルを小娘が……的に見下す眼差しなど、大変印象に残る芝居ぶりだったと思います。Emmaちゃんとともに、アカデミー助演女優賞にWノミネート。わたしとしては、EmmaちゃんよりRachelさんの演技を推したいところすね。
 ◆ロバート・ハーレー:戦争終了和平派のトーリー党の若手議員で、女は力づくでヤるもんだと考えているチャラ男くん。勿論実在の人物。ただ、歴史をちゃんと勉強していないわたしには、コイツがどうして和平を唱えたのかは若干良くわからなかった。映画上では、若干、何でも反対する野党の若僧にしか見えなかったす。アビゲイルと利害が一致していて、お互いを利用し合う関係。演じたのは、X-MENの若きBeastでお馴染みNicolas Hoult君29歳。本作では、18世紀イギリス貴族らしく派手な鬘を着用し、白塗り&メイクのほくろ、という若干傾奇者めいたいでたちだったけれど、彼独特の笑顔は一発でNicolas君だと分かりますな。
 とまあ、大体わたしが思ったことは以上なのだが、やっぱり、この監督の作品は、クセがすごくてあまり好きにはなれないですな……今回は『THE LOBSTER』のように、訳が分からん不条理系ではなくて、お話がきちんとしているから面白かったと結論付けたいけれど、魚眼レンズのような歪んだ画を多様するのは、なんかイマイチ好きになれないす。いや、それほど多用してないか。でも印象に残っちゃうんすよ。とにかく、特徴的というよりも、クセがスゴイ!と言った方がいいと思います。

 というわけで、結論。
 来週発表されるアカデミー賞で10部門にノミネートされている『THE FAVOURITE』という映画を観てきたのだが、まず第一に、監督のクセがすごくて、どうも好きになれないというのが一つ。ただし、お話は今までの監督の作品のような訳の分からん不条理系ではなく、史実に添った物語で、ちゃんとしていたし、何よりキャスト陣の演技合戦がとても見応えのある作品であった。まあ、登場するキャラそれぞれがことごとくクセがすごい! 作品であったけれど、歴史的に、実際そうだったのだろうと思うことにしたい。結論としては大変面白かったと思う。そしてやっぱりEmma Stoneちゃんはかわいいですな。本作では、天使と悪魔的な、Emmaちゃんの両面が楽しめると思います。あと、脱いでます。Emmaちゃんが脱いでるのを観るのは初めてじゃないかな? 以上。

↓ アン女王って、意外といろんなことをした人なんすね。全然知らなかった。世界最初の著作権法である「アン法」を制定してたりするんすね。ちゃんと勉強しないと……