まったく根拠はないけれど、おそらく世間一般的に、『オペラ座の怪人』と聞けば、Andrew Lloyd Webber男爵の作曲したあの曲「The Phantom of the Opera」を思い浮かべる人の方が圧倒的に多いのではなかろうかと思う。ええと、たぶん曲を聞けば誰でも知ってるアレです。
 わたしも、2004年版の映画は観たし、その後2010年だったかな、劇団四季の公演も観に行ったので、それなりに知ってるつもりだが、実は原作小説をちゃんと読んだことはない。そう、あの有名な『オペラ座の怪人』という物語は、ちゃんと原作小説が存在していて、Webber男爵の作曲したミュージカルは、いろいろある翻案Verの一つに過ぎないわけですな。
 一方で、宝塚歌劇を愛するわたしとしては、『ファントム』というタイトルでまったく違うVerの「オペラ座の怪人」を原作としたミュージカルが存在しており、しかもかなり人気が高い、ということは知っていたけれど、2010年にヅカ道に入門したわたしは、2011年に上演された花組Verを観に行かなかったので(当時はまだ星組作品だけしか観に行っていなかった)、まあ、いつか見たいもんだぜ、ぐらいにしか思っていなかった。
 わたしのヅカ道の師匠によれば、とにかく歌が素晴らしく、まさしくThis is Musicalな素晴らしい作品だそうで、このたび、現在の宝塚歌劇団で最強の歌ウマTOPコンビを擁する雪組での公演が決まった時は、おおっと、コイツは絶対観に行かねえとダメじゃん! と思ったものの、さすがに人気の演目であり、最強歌ウマコンビということで、まったく、本当にもう、まったくもって、チケットが獲れず、こりゃあライブビューイングしかねえなあ……と完全に諦めていたのが年末ごろの話である。しかし、わたしのヅカ師匠の美しきお姉さまが「あなた、だいもんのファントムを観ないなんて絶対ダメよ!」とチケットを1枚譲ってくれたので、昨日の17時にわたしは仕事を定時で切り上げ、じゃ、オレ日比谷行ってくらあ!と会社の若者たちにシュタッ!と手を振って、東京宝塚劇場へ向かったのであった。

 えーと。まず、感想としては、演じた雪組のパフォーマンスについて、そして歌についてと物語について、と3つに分かれるので、それぞれ綴っていこうと思う。順番は逆に書いた方がいいかな。まずは物語についてから行ってみるか。
 ◆同じだけど全く違う「オペラ座の怪人」
 わたしは観終わって、というか、1幕が終わった時に、激しく驚いていた。というのも、物語がわたしの知っている「オペラ座の怪人」と大筋は同じ、だけどまるで違う!のである。ラウルはどこ行った!?とか、わたしの知ってるWebber男爵版とは全然違う物語にわたしはとても驚いたのであった。まったくもって、へえ~!? である。
 物語としては、顔が先天性の奇形で醜い有様となっている男エリックが、パリのオペラ座(=ガルニエ宮)の地下洞窟(?)に住んでいて、上演演目に口出ししていたりと、オペラ座には幽霊(=Phantom)が住んでいる的な噂がある中、クリスティーヌという歌ウマ女子がエリックの指導によって歌唱力を増していく中、ほぼ狂えるエリックは破滅に向かってまっしぐらに……というものだ。サーセン。超はしょりました。
 この大筋は、Webber版も共通しているけれど、いろいろと、ことごとく、今回の「ファントム」は違っていて、恐らく大きく違うのは、エリックの父でありオペラ座の支配人でもある、キャリエールの存在ではないかと思う。今回のお話は、冒頭でキャリエールが支配人の職を解雇され、新たに別の支配人とその妻がオペラ座に着任するところから始まるのだが、この新支配人アラン・ショレが妻でプリマドンナのカルロッタの尻に敷かれていて(?)、おまけにそのカルロッタもなかなか香ばしいクソ女で、「そんな歌声でオレのオペラ座で歌うつもりかキサーマ!!」と、エリックの怒り爆発、となる展開である。
 まあ、はっきり言って、相当ツッコミどころは多い。また、エリックも余裕で人殺しをする完全なる狂人、にも見える。そしてわたしが本作で、一番、ええっ! そんな、嘘だろ!? とビックリしたのが、ヒロインであるクリスティーヌが、「どうかあなたの顔を見せて。大丈夫、愛があるから、平気よ」的な歌を歌ってから、エリックが、それなら……と恐る恐る仮面を取って素顔をさらすと……「ぎゃああああ!!!」と絶叫してクリスティーヌは逃げて行ってしまうのだ。一応、クリスティーヌはそのあとで、ごめんごめん、ちょっとびっくりしちゃった的に謝る(?)んだけど、まあ時すでに遅し、でしょうなあ……そのクリスティーヌ絶叫ダッシュで超ショックなエリックの暴走が止まらなくなるわけで、イケてない男のわたしとしては、なんだよ、結局「※ただしイケメンに限る」のかよ……ととても悲しく思った。エリック……お前が狂ってるのが悪いけど、あの全力ダッシュはヒドイよな……そりゃショックだったでしょうよ……つらかったろうて……。
 ◆歌に関してはまったくの別物
 これはもう、当たり前だけれど完全に別物で、わたしは初見なので全然知らない曲ばかりであった。わたしとしては、Webber版の方はCDを買って車で聞きまくっていたので聞きなれているせいもあるけど、Webber版の方がキャッチーというか、映像にも合いそうな気がして好きっすね。今回の『ファントム』の方は、もっと荘厳というか、重厚感のある感じがします。ライブの舞台に合うというか、これは生で聞かないとダメでしょうな。まあ、どちらもとてもドラマチックで、盛り上がりは素晴らしく、ヅカ師匠のおっしゃっていた「歌が素晴らしい」という評は間違いなかったと思う。そしてなにより、やっぱり現在の雪組TOPコンビがとにかく素晴らしすぎて鳥肌モンですよ!
 というわけで、以下はキャラごとにキャストについてもメモって行きます。
 ◆エリック:狂える「怪人」。演じたのは当然雪組TOPスター望海風斗さん(以下:のぞ様)。まあ、間違いなくのぞ様は現在の宝塚歌劇団最強のナンバーワン歌ウマでしょうな。すごいよ。とにかく、すげえ!としか言葉が出てこない。圧倒的なパフォーマンスは、他の誰にもできないでしょうな。わたしが一番応援している星組の礼真琴さん(以下:こっちん)も強力な歌ウマだけれど、のぞ様に半歩届いていないと認めざるを得ないと思う。たぶんそれは、テクニック的なものではなくて、やっぱり、発せられるオーラ的なものの差ではなかろうか。それを身に付けるには、もうチョイ、熟成が必要なんだろうな……と今回ののぞ様を見て思いました。ほんと、圧倒的。ウルトラグレイトでした。もちろんのぞ様は歌だけでなく、芝居もとても素晴らしくて、今回のエリックは自分の一人称を「僕」というのだが、その「僕」のニュアンスが、とてもさまざまで、子供のような弱弱しさを伴った「僕」にわたしはとてもグッと来たっすね。のぞ様は、女子としてもとても整ったお美しい方なので、最強の歌唱力と美貌と演技力で、きっと将来退団してもいろんな活躍が期待できると思うすね。ホント最高でした。
 ◆クリスティーヌ:街で歌っているところをお金持ちの伯爵にスカウトされオペラ座入りするも、意地悪なカルロッタに衣装係にされてしまう……が、その歌声を聞いたエリックにひとめぼれ(ひと声ぼれ)されて大特訓し、大抜擢されるに至るがカルロッタの嫉妬によって大変な目にあう気の毒な女子。そしてエリックの素顔を見て絶叫ダッシュで逃走という、男のわたしからすると若干、そりゃないよ、なお方。演じたのはもちろん雪組TOP娘役の真彩希帆ちゃん(以下:まあやきぃ)。まあやきぃも現在の娘役では最強の歌ウマで、のぞ様とのハーモニーは大変素晴らしかったですな。普段は若干調子に乗った明るさのある、完全陽キャラのまあやきぃですが、今回のあまり笑わないクリスティーヌもとても良く似合っていました。そして演技もとても上手で、言うことなしです。顔は可愛く歌は超上手、さらに芝居もハイクオリティと、極めて高いレベルのTOP娘役ですね。星組にずっといて、こっちんと一緒にTOPになってほしかったよ……。。。
 ◆キャリエール:オペラ座の前支配人でエリックの父。しかしわたしとしては、その過去が結構衝撃的でびっくりしたすね。結婚してたのに、エリック母と浮気して妊娠させて、バックレてたんですな、この人。語られるところによると、全く自分の意に反した結婚をしていたそうで、エリック母に惚れちゃったそうだが……ううーーむ……不倫&バックレはいただけないですなあ……まあ、エリックをきちんと面倒見てたからお咎めナシなんすかね……でも地下にある意味幽閉してたのは現代で言う虐待でもあって、悲劇を生み出した張本人と言ってもいいだろうと思う。演じたのは雪組の正2番手スター彩風咲奈さん(以下:さきちゃん)。うん、芝居も歌も大変良かったと思います。いわゆる若干の老け役なわけですが、とても良かったし、歌も相当レベルは上がってますなあ。さすがですね。キャラ的にはアレだけど、さきちゃんはお見事でした。
 ◆アラン・ショレ:キャリエールに代わって新たにオペラ座支配人に就任した男。物語的にはほぼ重要ではない。今回は役替わりがあったのだが、昨日ショレ演じたのは、美貌のあーさでお馴染み朝美絢さん(以下:あーさ)。わたしはショレという役がどんなものか知らなかったので、あーさがどの役でもいいやと思ってたんだけど、ショレは、芝居的にはおいしい、けど歌がない!ので、若干あーさ推しのわたしとしては、あーさがシャンドン伯爵を演じるVerの方を観たかったかも、とは思った。しかしまあ、昨日観たあーさショレは、なんか今までにないようなあーさの演技で、若干笑わせるような、なんつうか……すごく「小者」感溢れるダメ男でしたな。でも、ひげあーさは相変わらずのイケメンで大変良かったと思います。髭面のあーさは初めて見たかも? すね。
 ◆カルロッタ:ショレの妻でゴリ押しによってプリマに就任する今回の悪役。とにかく、細かいギャグめいた言動と、いやーーな性格で、わたしとしてはぶっ殺されても同情は沸かず、むしろざまあとしか思えないお方でした。演じたのは、ベテランの舞咲りんさんで、この方は……おっと、そうなんだ、85期なんだ? へえ、ちえちゃん(柚希礼音さん)と同期じゃん。さすがに大ベテランとして、歌も芝居もとてもクセがすごかったすね。お見事っす。
 ◆シャンドン伯爵:お金持ちでオペラ座のパトロン。クリスティーヌをスカウトしたイケメン。前述の通り、ショレとこの伯爵の2つの役を、あーさと彩凪翔さんが役替わりで演じているのだが、昨日のシャンドン伯爵は彩凪さんであった。出番はショレより少ない、けどソロ曲がある分おいしい、感じだろうか。彩凪さんの番手は若干不明確だけど、今後も頑張ってほしいですな。カッコ良かったです。
 まあ、メインキャストは以上な感じだが、ひとり、この人のダンスは超キレてる!!とわたしの目をくぎ付けにした方がいたのでメモしておこう。それは92期、彩凪さんと同期の笙乃茅桜(しょうの ちお)さんだ。今回は、エリックの従者(?)という謎のファントム・ダンサーズの一人で、たぶん一番ちびっ子で、髪がソバージュの黒ずくめの人、だったのだが、とにかく! すっごいダンスがキレてる!! 素晴らしかったすねえ!! いやあ、わたしはもうヅカ歴今年で10年なのに、初めて知ったかも。こんなダンスのすごいお方のことを知らなかったのが恥ずかしいす。若手なのかな、とか思っていたけど、パレードで降りてくるのがかなり後で、あれっ!? じゃあ結構なベテランか? と帰って来てからプログラムをチェックして初めて認識したっす。あのダンス力はホント素晴らしかった! 笙乃さんのダンスは今後もちゃんとチェックしようと思います。
 あと、今回は師匠手配のチケットでかなりいい席だったので、双眼鏡を持って行かなかったんだけど、やっぱり双眼鏡がないと、わたしレベルでは下級生の顔は分からんすな……わたしがひそかに応援している雪組の将来のヒロイン候補、潤花ちゃんを見つけられずしょんぼりっす。そして雪組の将来のTOP候補で、新公でエリックを演じる綾凰華くんはちゃんと見分けられました。あーあ……星組に今でもいてくれたら……将来楽しみだったのになあ。まあ、歌をもっともっと鍛えて、雪組の将来を背負えるスターになってほしいすね。

 とまあ、こんなところかな。もう書きたいことはないかな……。
 では最後に、毎回恒例の今回の「イケ台詞」を発表して終わりたいと思います。
  ※イケ台詞=わたしが「かーっ!! カッコええ!!」と思ったイケてる台詞のこと。
 「撃ってくれ! 早く……! 父さん……!!!」
 今回は、ラストのエリックの悲痛な叫びをイケ台詞に選びます。この、「父さん……!!!」というエリックの悲しみが胸に刺さったすねえ……エリックが狂っていたのはもう間違いないけれど、なにもあんな悲劇を味わうこともないだろうに……世の中イケメンが正義なんすかねえ……イケメンに生まれなかったわたしとしては、大変残念に思います。。。つらいすわ……。

 というわけで、結論。
 現在日比谷の東京宝塚劇場では、雪組による『ファントム』が絶賛上演中であります。まあ、わたしの知っているWebber男爵による『オペラ座の怪人』とは、まったくの別物、と結論付けてもいいような気がします。そして現在の雪組TOPスターコンビは最強の歌ウマコンビであり、演目としても『ファントム』はThis is Musical な素晴らしい作品で、その歌声はもう、生で観ないとダメというか、生でこその迫力はすさまじく、まさしく鳥肌モンでありました。まったくもってブラボー、それに尽きると存じます。のぞ様は間違いなく、現役最強の一人でしょうな。まあやきぃもまた同様に素晴らしい歌唱力は強力な武器っすね。星組推しのわたしでも、恐らく、現在の星組ではまず無理な演目だったと思うし、今現在で言うなら、花組のみりおちゃんとゆきちゃんなら出来たかも、ぐらい高度な歌唱力の要求される作品でありました。まあ、今後こっちんがその強力な歌唱力で素晴らしいTOPスターになる日を楽しみにしたいと存じます。別に急がなくていいんだよ……まだ熟成が必要だと思うので、なんならこっちんの前に、みやちゃんが短い期間でも良いので、星組TOPになってほしいす。と、感想が脱線したので、以上。

↓ これを買うべきか? と悩んだんすけど……。今回の雪組Verは、Blu-ray買ってもいいすね。後に伝説となり得る素晴らしいパフォーマンスでした。