わたしは映画オタとして、海外に行くときは日本でまだ公開されていない映画をいち早く観ることを楽しみの一つとしているのだが、それは現地に着いてから、だけでなく、ひそかに、搭乗する飛行機内でも、なにかまだオレの観てねえ映画はないかな、と、もう席に着いた直後から、機内端末をいじり出すような男である。
 というわけで、2018/10/19~2018/10/21に台湾へ行ったので、その際も当然、羽田で搭乗し、席についてすぐに端末をいじってみた。JAL便はちゃんと日本語字幕付きが用意されているので、大変ありがたしである。
 すると、「新作」とか「おすすめ」の作品は、映画オタとしてはもうとっくに劇場で観たよ、という作品ばかりで、なんだ、まだ日本未公開作品はないか……と思った3秒後に、何やら見知らぬ映画があるのを発見した。どうやら主演は、わたしがいつもブサカワと若干ヒドイ判定を下しているShailene Woodley嬢らしい。そして、相手役は、わたし的には『The Hunger Games』や『Love, Rosie』での爽やかイケメンスマイルが妙に印象深いSam Claflin君のようだ。あれえ、こんな映画、知らねえなあ? と思い、よし、じゃあこいつを観てみようという気になった。
 その映画のタイトルは、『ADRIFT』。その英語の意味通り、いわゆる「漂流モノ」の映画である。結論から先に言うと、それほど超面白かったとは思わないが、わたしとしては観ることが出来て良かったと思うし、ズバリ言えば想像とは全然違う物語で、機内のヒマつぶしには十分以上の役に立ってくれた作品であった。
 というわけで、以下、どうしても決定的なネタバレに触れざるを得ないので、観たいかも、と思っている人はここらで退場してください。その最大のネタがポイントなので、そのネタバレなしに感想は書けないです。

 この映画が日本公開されるのかどうか、今のところさっぱりわからないので、当然日本語字幕付きの予告はなく、とりあえず、英語字幕付きの予告を貼っておきます。が、この予告は分かりやすく編集されていて、本編の流れとは全く違うことだけはメモしておこう。
 本作は、冒頭、額から血を流したヒロインが、はっ!? と目覚めるところから始まる。ヨットは中破しており、マストも折れ、そして、愛する彼氏がいないことに気がついて愕然とするヒロイン。そしてそこからのサバイバルを描いたもので、どうしてこうなった? という過去が、折々に挿入されるという構造になっている。
 実はわたしは、「漂流モノ」の映画がかなり好きなのです。ここ10年ぐらいで、わたし的ナンバーワン漂流モノ映画と言えば、かのRobert Redford氏主演の「ALL IS LOST」なのだが(というかこの映画は彼以外誰も出てこないし台詞もほぼないウルトラ超傑作!)、他にも、例えばTom Hanks氏の『Cast Away』も大好きだし、なんつうかな、たった一人でその持てる頭脳と肉体をフル活用して頑張る姿にグッとくるわけです。
 で、「漂流モノ」は、大抵の場合、ラストに救助されて、めでたしめでたしとなる事が多いように思うけれど(※この点でも『ALL IS LOST』は独特のエンディングで超傑作)、わたしは『ADRIFT』の再生を始めてから、ま、どうせ最後は助かるんだろうな、なんてことを思いながら視聴していたわけである。
 ズバリこれも言ってしまうと、この予想は正しく、ヒロインは無事に生還する。まあ、この物語はいわゆる「Based on True Story」で、生還した女性の著書が原作なので、死んでしまうわけがないのだが……ひとつ、重大なことが全く予想外に描かれており、ああ、やっぱりそういうことなのか、とわたしは唸ったのであった。
 それは、いわゆる「サードマン現象」というものだ。これはどうだろう、一般常識的に誰でも知っていることなのかな? わたしはもうかなり前に、この本を読んでいたので、これってあれか! とすぐに思い出した。

 わたしは登山をたしなむ男なので、内容に惹かれて買って読んだのだが、要するにサードマンとは、過酷な山岳や海洋事故での遭難のような、生命の危機に至る超絶ピンチの時に、「自分の横に現れて、大丈夫、お前なら行ける!と励まし、奇跡の生還を導いてくれる、謎の同行者」のことである。それが、脳が生み出した幻影なのか、霊的なものなのか、そういったことはこの際どうでもいい。重要なのは、いわゆる「奇跡の生還」を果たした人の大半が、この「サードマン現象」を体験しているという点で、これは本当に共通していることなんだそうだ。へえ~だよね、ホント。
 で、本作『ADRIFT』では……サーセン、ここからほんとに核心的ネタバレですけど書いちゃいますよ? 読むならもう、覚悟してくださいね?
 本作では、ヒロインが目覚めてから、しばらくして、海に漂っている彼氏を発見し、ヨットに引き上げる展開となる。そして彼氏は、足を折っており、あばらも折れててまったく身動きできない状態。役立たずでごめんよ……なんて言う彼氏。そして彼氏は動けないながらも、存在していること自体がヒロインの生きるモチベーションになって行き、当然ヒロインを彼氏は叱咤激励する。ベジタリアンだから魚は喰えないとか、ゆとり脳なヒロインに、ちゃんと魚を喰わないとダメだとか、なにかと励ます。
 そしてーーー実はその彼氏こそ、「サードマン」であり、ヒロインの幻影だったとラスト近くで判明するのだ。わたしはこの展開に、えっ! と驚いたものの、驚きよりも、やっぱりそうだったのか、という納得の方が大きかったように思う。
 というのも、ヒロインが彼氏を発見するのに結構時間がかかったし、正直、え、生きてたんだ、うそだろ、普通もう低体温症で逝ってるだろ、つうか、あんな小さい救命ボートにしがみついていられるわけねえだろ、とか思っちゃっていたのだ。
 なので、これは超傑作『GRAVITY』で、宇宙の果てに流されて逝ってしまった、と思われていたGerge Clooney氏演じるコワルスキーが、突然生還して、我々観客を驚かせたアレにも似ていると思う。アレも、ドクター・ライアンの観た幻影(というか夢)で、サードマン現象と言っていいような気がするけど、まあ要するにそういうことです。
 というわけで、最終的にはヒロインは生還するも、彼氏は行方不明で亡くなってしまわれた、痛ましい事故なわけだが、まさしくサードマン現象を描いたお話であり、たまたまサードマンを知っていたわたしには大変興味深い作品であったと言えよう。つうかですね、本の詳細はもう忘れちゃってますが、ひょっとしたらこの映画の元となった現実の事故の話も、あの本の中で書かれていたかもしれないな……ちょっと本棚を漁って探してもう一度読んでみようかな、という気になりました。
 というわけで、最後に各キャラ&各キャスト&監督に短く触れて終わりにします。
 ◆タミ・オールダム:ヒロイン。現実に海難事故に遭って奇跡の生還を遂げた女性。現在は結婚してタミ・オールダム・アッシュクラフトさんというみたいですな。彼女は、10代後半から世界を旅していて、ハイチで知り合った彼氏と、彼氏の知り合いに頼まれたヨットをLAまで運ぶ航海に出て事故に遭う。まあ、自分探しの旅、なんてことをしている人物には共感は抱けないけど、演じたShailene Woodley嬢の気合の入った演技は結構凄かったすね。ラストはかなりげっそりやつれてたし。まあ、それでもわたしのブサカワ判定は覆りませんが。
 ◆リチャード:ヒロインの彼氏。彼は造船所で働いていたけれど、自分のヨットを造って、それでいろいろ各地を巡っている船乗り。彼もとりわけ共感できる人物ではないけど、やっぱり演じたSam Claflin君の、いつもの爽やかイケメン笑顔は妙に印象に残るすね。身動きできない中での演技も大変結構でありました。
 ◆本作の監督:Baltasar Kormákurというお方で、知らねえなあ? とか思ってたおれのバカ! 帰ってきて調べたら、わたしはこの監督の撮った映画を何本か観ていることが判明してビックリした。なんと、3年前に観て、とても怖かった『EVEREST 3D』の監督ですよこの人は! あの映画も奇跡の生還を扱っているけど、この方はそういう題材がお好きなんすかね? まあ、『EVEREST 3D』にはサードマン現象的な描写はなかったと思うけど、本作の監督はあの映画を撮った人なんだ、というのはなんか納得、すね。

 というわけで、さっさと結論。
 台湾へ行く飛行機内で観た映画『ADRIFT』。まだ日本公開されていないし、これから公開される予定があるのかすらわからないが、主演の二人と、わたしの好きな「漂流モノ」であるという点で興味がわき、観て観たわけだが、まあ、絶賛はしないけれど十分楽しめたと思う。かなり悲劇的?なお話なので、楽しめたってのはちょっとアレか。興味深かった、と言い直しておこう。主演の二人の熱演も、かなり凄いと思うし、映像的にも、大変見ごたえはあると思う。そして、かつて本で読んだ「サードマン現象」なるものについても、改めて興味がわいたっすね。つうかあの新潮文庫、どこにしまったのだろうか……もう一度読んでみたいのだが……。探してみよっと。以上。

↓これは原作のノンフィクションか? それともノベライズか……? わからん……。

↓そして こちらの映画は、みていてほんとに怖かったす……。どこまでCGでどこまでロケなのかもさっぱりわからない映像のクオリティもかなり高いです。
エベレスト (字幕版)
ジェイソン・クラーク
2016-04-08