わたしが新刊を待ちわびる小説は数多いが、その中でも、日本の小説で、ここ数年毎年8月と2月に新刊が発売さてわたしを楽しませてくれているのが、高田郁先生による時代小説である。しかし今年の8月は、一向に新刊発売のニュースが聞こえてこず、おかしいな……と思って、かなりの頻度で版元たる角川春樹事務所のWebサイトを観に行ったりしていたのだが、いよいよ、今年は9月に新刊発売! というお知らせを観た時のわたしの喜びは、結構大きかった。そして、おっと、来たぜ! とよく見ると、なんとその新刊は、現在シリーズが続く『あきない世傳』の新刊ではなく、何と驚きの『みをつくし料理帖』の新刊であったのである。この嬉しい予期しなかったお知らせに、わたしはさらに喜び、9月2日の発売日をずっと待っていたのである。
 しかし―――愚かなわたしは8月末から別の、大好きな海外翻訳小説を読んでいて、すっかりその発売を忘れており、おととい、うおお! 忘れてた!!! と焦って本屋さんに向かったのであった。角川春樹事務所は電子書籍を出してくれないので、ホント困るわ……こういう時、電子書籍なら確実に、新刊出ましたよ~のお知らせが届くのにね。
 というわけで、昨日と今日でわたしがあっさり読み終わってしまった本はこちらであります!
花だより みをつくし料理帖 特別巻
髙田郁
角川春樹事務所
2018-09-02

 そのタイトルは、『花だより』。紛れもなく、高田郁先生による「みをつくし料理帖」の正統なる続編であり、本編の「その後」が描かれた物語である。あの澪ちゃんや種市爺ちゃんたち、みんなにまた会えるとは! という喜びに、わたしはもう大感激ですよ。そして読み終わった今、ズバリ申し上げますが、超面白かったすね。間違いなく、既に完結済の『みをつくし料理帖』が好きな人なら、今回の「特別巻」も楽しく読めるはずだ。それはもう、100%間違いないす。いやあ……なんつうか……最高っすわ!
 というわけで――今回の『花だより』は、シリーズが完結した4年後の1822年から、その翌年1823年が舞台となっている。軽くシリーズのラストを復習しておくと、主人公の澪ちゃんは宿願であった、幼馴染の野江ちゃんことあさひ大夫の身請けに成功し、超お世話になった大金持ちの摂津屋さんの助力を得て、夫となった源斉先生と、自由の身となった野江ちゃんとともに大坂に旅立ったわけである。もちろんそこに至るまでの道のりが、まさしく艱難辛苦の連続で、数々の超ピンチを乗り越えての幸せGETだったわけで、読者としてはもう、本当に良かったね、幸せになるんだぞ……と種市爺ちゃんのように涙したわけです。
 あれから4年が過ぎ、はたして澪ちゃん去りし後のつる家は、繁盛しているだろうか? 澪ちゃん&源斉先生夫婦は大坂で元気にやってるだろうか? そんな、読者が知りたいことが知れる、まさしく高田先生から読者への「お便り」が本作であります。
 本作は、これまでのシリーズ同様、短編4本立てで構成されていて、それぞれがそれぞれの人々を描く形で、それぞれの「その後」を教えてくれるものだ。というわけで、まあ、ネタバレになってしまうかもしれないけれど、簡単にエピソードガイドをまとめておこう。ネタバレが困る方はここらで退場してください。つうか、こんな文章を読んでいる暇があったら、今すぐ本屋さんへ行って、買って読むことをお勧めします。絶対に期待を裏切らない内容ですので。
 ◆花だより――愛し浅蜊佃煮>1月~2月のお話
 主人公は種市爺ちゃん。もう74歳となって、体もきかねえや、てな爺ちゃんだが、とある事が起きて、もうおらぁダメだと超ヘコむ事態に。すっかり気落ちした爺ちゃんは、年に1回は必ず届いていた澪ちゃんからのお手紙も届かず、いよいよ心はふさぐばかり。しかし、そんな爺ちゃんに、恩師を喪って同じく気落ちしていた清右衛門先生が大激怒!! 「この戯け者どもが! 真実会いたいのなら、さっさと会いに行けば良いのだ! それを遠いだの店がどうだ、と見苦しい言い訳をするな!」 というわけで、清右衛門先生、坂村堂さん、種市爺ちゃん&ちゃっかり(小田原まで)同行するりう婆ちゃんの、東海道五十三次珍道中の始まり始まり~!!!  つうか、やっぱり清右衛門先生の言う通りですなあ……会いたい人には会っとくべきですし、行きたいところには行っとくべきですよ。人間、いつどうなるかわからないものね……。
 ◆涼風あり――その名は岡太夫>5月~6月ごろ(梅雨時)のお話
 主人公は、かつての想い人、小松原さま、こと小野寺数馬、の奥さんである乙緒(いつを)さん。17歳で数馬のお嫁さんとなって早6年だそうです。この乙緒さんは、侍女たちからは「能面」と呼ばれるような、超クールで感情を表に表さないお方だそうで、別に冷たい人では決してなく、まあそういう教育を受けてきたからなんだけど、きっちりと真面目にコツコツやるタイプのようで、亡くなった小松原さまのお母さん(里津さん)が、亡くなる前に「小野寺家の掟」のようなものをきっちり伝授し、里津さんからも、この娘なら大丈夫と思われていたようなお方。そんな乙緒奥さんが、夫の「かつての想い人」である「女料理人」のことを聞いてしまい、おまけに2人目の子供の妊娠が発覚し、身も心もつらい状況になってしまう。しかし、そんな時にふと思い出したのは、里津お母さんから聞いた、とあるお話だった――てなお話です。まったく、不器用な夫婦ですよ……!
 ◆秋燕――明日の唐汁>8月のお話
 主人公はかつてあさひ大夫だった野江ちゃん。野江ちゃんは、摂津屋さんの助力で大坂で商売を始めていたのだが、これは高田先生の『あきない世傳』でも何度も出てきた通り、大坂商人には、「女主人はNG」というルールが当時あったわけで、摂津屋さんが業界組合を説得して3年の猶予をもらっていたけれど、その3年が過ぎようとしているという状態。要するにその3年間で、結婚して旦那を主として据えろ、というわけだ。しかし、野江ちゃんの心には当然、野江ちゃんをその命と引き換えに火事から救った又次兄貴がいまだいるわけでですよ。というわけで、又次兄貴との出会いの回想を含んだ、野江ちゃんの心の旅路の物語であります。泣ける……!
 ◆月の船を漕ぐ――病知らず>9月ごろから翌年の初午(2月)までのお話
 お待たせいたしました。主人公は澪ちゃんです。大坂へ移って料理屋「みをつくし」(命名:清右衛門先生)をオープンさせて早4年。大坂には死亡率の極端に高い流行病(コレラ?)が蔓延していた。源斉先生をもってしても、治療法が見つからず、数多くの人々が亡くなっていたのだが、「みをつくし」がテナント入居していた長屋のオーナーお爺ちゃんも亡くなり、後を継いだ息子から、つらい思い出は捨て去りたいと、長屋を売りに出すことになり、「みをつくし」も立ち退きを要求されてしまう。さらに追い打ちをかけるように、日夜患者の元を駆け回っていた源斉先生も体力的にも限界、おまけに医者である自分の無力さにハートもズタボロ、その結果、愛しい源斉先生もブッ倒れて寝込んでしまう。こんな艱難辛苦に再び見舞われた我らがヒロイン澪ちゃん。何とか料理で源斉先生を元気にさせようと頑張るも、まったくもって空回り。下がり眉も下がりっぱなしな状況だ。そんな時、とあることがきっかけで、澪ちゃんは忘れていた大切なことを思い出すのだが―――てなお話であります。
 というわけで、まあ、なんつうか……まったく澪ちゃんの人生はこれでもかというぐらいの艱難辛苦が訪れるわけですが、それを乗り越えるガッツあふれるハートと、とにかくキャラクターたちみんなが超いい人という気持ちよさが、やっぱり本作の最大の魅力だろうと思います。やっぱり、頑張ったら報われてほしいし、そういう報われている姿を読むことは、とても気持ちのいい、読書体験ですな。わたしとしては、久しぶりに会うみんなの、「その後」を知ることが出来て大変うれしかったです。まあ、控えめに言って最高すね。高田先生、素敵な「お便り」を有難うございました!

 というわけで、さっさと結論。
 高田郁先生による人気シリーズ『みをつくし料理帖』。既に物語は美しく完結していたわけだが、この度、各キャラクターの「その後」を描いた最新作『花だより~みをつくし料理帖 特別巻』が発売になったので、さっそく読んで味わわせていただいたわたしである。読後感としては、大変好ましく、実に面白かったというのが結論であります。我々読者の心の中に、キャラクター達は生きているわけで、既に完結した物語の「その後」が読めるというのは、やっぱり本当にうれしいものですね。高田先生、ありがとうございました! そして、次の『あきない世傳』の新刊もお待ち申し上げております! 以上。

↓ ドラマは結局あまり見なかったす。澪ちゃんを演じた黒木華ちゃんは最高だったんすけど、又次兄貴と種市爺ちゃんのイメージが、あっしが妄想していたのと違い過ぎて……。。。