約1年ぶりに新刊が発売となりました。何のことかって? そんなの、わたしが大好きな「ジャック・ライアン」シリーズの新刊のことに決まってるでしょうが! と半ばキレ気味に始めたいのだが、なぜわたしが若干キレ気味かと言うと、版元の新潮社に対して軽くイラッとしているからだ。
 というのも、本書『TOM CLANCY'S COMMANDER IN CHIEF』(邦題は「欧州開戦」となかなかセンスのないダサいものになっている)がUS本国で発売になったのはもうかなり前で、ようやくの日本語版発売だし(つまり遅せえ)、おまけにいまだに新潮社は、相変わらず電子書籍では全然発売する気がないようで、今回も紙の書籍(文庫本)でしか発売されなかったためである。そしてもう一つついでに言うと、初期「ライアン」シリーズのように文春から出版されていたならば、きっと本書は上下巻の2冊(あるいは上中下の3分冊)で出されたであろう分量なのに(そして電子版も同時に出していただろう)、F〇〇K'n 新潮社はまたしてもうっすい文庫4分冊、しかも(1)(2)を出した1か月後に(3)(4)を出すという、読者のことを全く考えない営業戦略をとっているのも実に腹立たしいと思っている。以上のことに対して、わたしはイラッとしているわけだが、もちろんのことながらこれは、一言で言うと完全なるいちゃもんであり、言いがかりも甚だしいので、普通の人は何も感じないだろう。ホントになあ……新潮社はおっくれってるー、だぜ。やれやれ、はーーー書いたらスッキリした。
 さて。というわけで、本当は(3)(4)が発売されて読み終わってからまとめて感想をしたためようと思っていたのだが、恐らく、年々記憶力が低下しているわたしとしては、少しメモをしておかないと完璧忘れてしまうのが目に見えているため、こうしてキーボードをたたいているのである。なお、今回の(1)(2)巻は4月末に発売され、GW中にとっくに読み終わっておりました。くっそう、続きが早く読みてえ!
欧州開戦1 (新潮文庫)
マーク グリーニー
新潮社
2018-04-27

欧州開戦2 (新潮文庫)
マーク グリーニー
新潮社
2018-04-27

 というわけで、「ジャック・ライアン」シリーズの日本語で読める最新刊、である。本書は、もうUS版発売時から、次は「眠れる熊」としてシリーズではおなじみの、ロシア大統領ヴォローディン氏がまたやらかすお話として、わたしは早く読みたいなあ、と願っていた物語である。端的に言うと、「ライアン」世界では、ロシアは4作前の「米露開戦(原題:Command Authority。日本語訳されてないJrの単独スピンオフと日本語訳されてるドム単独スピンオフ含めて4作前)」でコテンパン(?)にやられており、ヴォローディン大統領はロシア国内を支配する「シロヴィキ」層からかなり厳しい態度をとられていて、経済政策の失敗(と言っていいのかな?)も重なり、いよいよヤバい状態にあり、ならば殺られる前にせっせと溜めた個人資産80億USドルを安全なオフショア経由で「洗浄」して、クリーンな金として分散させよう、という意図をもって悪だくみをする、てなお話である。サーセン。かなりはしょりましたし、(3)(4)巻でどう展開するか分からないままテキトーなことを言いました。わたし的には、その「洗浄」の手段としてビットコインを利用する展開にはかなり興味深く物語を見守っている段階であります。
 なお、「シロヴィキ」とは、「ライアン」世界の言葉で言うと、要するにソヴィエト崩壊時にちゃっかり多くの利権と権力を握って現在もロシアを裏から支配する「情報・治安機関か国防機関」出身の人々のことで、つまりは元KGBと元軍人を主体とする悪い奴らだ。ソヴィエト崩壊からもう30年、当時若かった彼らももう60代70代に入りつつあり、ほぼあらゆる国営企業の株をごっそり持っていて、いまだロシアを裏で支配しているという設定になっている。
 そしてもう一つ、設定として、対するGOOD GUYチームである「ザ・キャンパス」の状況をメモしておくと(※もうザ・キャンパスなる組織が何者かの説明はしません)、日本語訳での前々作『米朝開戦(原題:Full Force and Effect )』で、ベテランのサムが殉職し、皆かなりしょんぼりな状況である。
 というわけで、さっそく読んで、あっさり読み終わった(1)(2)巻だが、初めて知って、へえ~?と思った点と、現代の現実世界との関わり、それから、各キャラについて思うことをメモしていこうと思う。
 ◆ロシアの飛び地「カリーニングラード州」
 わたしはまったく無知で知らなかったのだが、↓この地図で、ポーランドの北とリトアニアの間に、バルト海に面した国境に囲われてる部分があるでしょ?

 ここは、カリーニングラード州という、ロシアの領土(飛び地)なんですって。これって常識? 全然知らなかった。地図をもっと引いてみると、モスクワとの位置関係が良くわかると思う。で、リトアニアの東にあるベラルーシは、最後の独裁国家と言われている通り親ロシア国家で、ロシアとしては、ベラルーシを通って、NATOに加入した裏切り者リトアニアを進軍してカリーニングラードへの回廊を築こうとしている、というのが本書でのロシアの軍事ルートだ。そしてリトアニアは、もういつ戦争が始まってもおかしくないヤバい状況にさらされているのに、どうせNATOはグズグズして、集団的自衛権が発動されてもまるで頼りにならないため、戦争が大好きな(と思われている)ライアン大統領としては、NATO首脳会議に合わせてリトアニアへの軍派遣を承認してもらいたいと思っている。そして、シリーズではおなじみのメアリ=パットDNI(国家情報長官)は、それに先立って、どうしても要員の足りないCIAを援護してもらうため、直接「ザ・キャンパス」を訪れ、その要請を受けてシャベスとドムの二人が先遣隊として情報収集のために現地リトアニアへ飛び、CIAリトアニア局長と行動を共にしている状態、が(1)(2)巻だ。なんかもう、我々日本人的には全然お馴染みではないけれど、読んでいるともうすごいリアルというか有り得そうな展開が恐ろしいですな。
 ◆眠れる熊ことロシア大統領ヴォローディンの狙い
 もう既に上の方で書いた通り、ヴォローディン大統領は、ロシアを裏で支配しているゼーレ的な「シロヴィキ」会議において、かなり立場が危うくなっている。その原因は、経済政策の失敗によるもので、要するにゼーレの連中は、自分の金を心配しているわけだ。原油価格の下落、主に東欧圏のエネルギー(天然ガス)を支配していたのに、ロシア離れが進んでいること、等によるロシアの影響力の低下はお前のせいだ、と責められてるわけです。
 なので、ヴォローディン氏は、実際殺されるかも、ぐらい心理的に不安な状況で、彼が取る行動は2つある。まず第一に、80億USドルもの個人資産を「洗浄」して、保全しようとしている。要するに完全なる私欲ですな。そしてもう一つが、原油価格をつり上げるような、危機の演出、だ。(1)(2)巻の段階では、様々な破壊活動や軍事行動で世界を不安定にしようとしているわけだが、ついでに、裏切り者のリトアニアもブッ飛ばして領土を広げようとも思っている(ようなポーズを取っている)。さらには、ヴォローディンの天敵ともいえるライアンUS大統領に対する脅しを強化するためにも(?)、現在、最新鋭原子力潜水艦をUS東海岸直近へ派遣・潜航させており、(1)(2)巻の段階では「最新技術で姿を消した」ミサイル原潜が大西洋を南下しつつある状況だ。ヤバし。
 まあ今のところ、わたしにはヴォローディン氏の一番の目的は80億USドルもの資産を安全に隠す(そしてハッピーな引退生活を暮らす)こと、そして何より「シロヴィキ」に殺されないことにあるように思えるので、あくまで「危機を演出」出来れば十分で、実際に戦火が始まる始まらないに関係なく、戦争を本気でやろうとは思っていないのではないかという気がしている。
 しかしそうなると……最終的にはまさかのUS亡命もあり得るんじゃないかと今後の続きをとても楽しみにしております。「レッドオクトバー」や「カーディナル」のように、ヴォローディンが亡命したら面白いのにな。でもその時には、たぶん金は全部取り上げられちゃうか……? でもまあ、ロシアに残っても命の保証はなさそうだし、金より命を取る可能性はナシじゃないような気がしている。ホント続きが楽しみす。
 ◆人材不足の折、ゆとりJrは全く困った奴よ……。
 「ザ・キャンパス」の人員は減ってしまい、シャベスとドムは現場に出ている中で、一方のライアン大統領の長男(Jr.)は、まずローマにて得意の金融情報の調査のために活動しているところから物語は始まる。のだが、まーたこの小僧は仕事をしながら女とイチャつくゆとりを見せ、余裕でヘマをやらかすのはもう読んでてアホかコイツとしか思えなかった。コイツは、そもそもまだガキなので、仕方がないと認めるにやぶさかではないですが、まあ、いまだに(大統領の子息という)立場をわきまえず、現場の工作仕事をしたがるし、女も大好きだし、実際のところ、かなり足手まといなのでは? という気がしてならない。確かに頭が非常にいいし、戦闘力もまずまずだけど、Jr.でなくてはならない理由は、ほぼないと思う。さっさとヘンドリー・アソシエイツはもっと経験豊富で、強くて、頭のイイ男をリクルートした方がいいと思いますね。あるいはアダム・ヤオ君あたりをキャンパスに入れちゃえばいいのにな。いや、彼は頭と度胸は超一流だけど戦闘力は低いかもだし、そもそもメアリ=パットが離さないか。『米朝』で使い捨てられたヴェロニカが生きていればなあ……。まあいずれにせよ、ザ・キャンパスの人材不足はかなり深刻で、人員補充が急務なのは間違いないと思う。
 あ、そういえば、本作では「レインボー」時代のクラークの知り合いが一人出てきて、なかなか良いキャラでした。おばちゃんなので戦闘力はないけど、そういや「レインボー」出身者をリクルートすればいいのにね。それが出来ない理由があるんだっけか?
 ◆ところでDPRK=北朝鮮って……
 まったく本作には関係ないけれど、ライアン世界では、前々作でついにUS大統領の直接暗殺という暴挙に及んだ北朝鮮。しかし現実世界ではまさかの米朝会談開催も見えてきつつあるほど、世界はあっという間に変化してしまった。これは、Tom Clancy大先生がご存命だったら予測しえてのだろうか……Clancy先生が生きてたら、今の情勢は驚いただろうなあ……
 ◆というわけで(2)巻ラストは……
 お話としては、シャベスとドムのいるリトアニアはいよいよキナ臭くなってきており、そしてヴォローディン大統領の資金洗浄のために、手下がビットコイン取引をしようとしている英領ヴァージン諸島には、クラーク直々に、超有能なアダーラ嬢とともに乗り込んでおり、ヘマをやらかしたゆとりJr.はDCに強制送還された状況にある。そしてヴォローディン大統領はお抱え国営テレビで何やら発表しようとしており……というところまでで、要するに、早く続きが読みてえ! という感じです。今のところ。

 というわけで、もうクソ長いので結論。
 いや、もう結論は上記の通り、早く続きが読みたい! の一言に尽きます。もちろんClancy先生ではなく、わたしの大好きな「グレイマン」シリーズの著者Greaney先生による物語だけれど、今のところわたしとしては不満はないです。はい。しかし、ホントJr.はなあ……なんつうか、もっと慎重に行動していただければと思います。そしてヘンドリー・アソシエイツの人材不足はかなり深刻ですよ。サムを亡くしたことは勿論痛いけれど、あと5人ぐらいは必要でしょうなあ……まあ、とにかく、しつこいですが早く続きが読みたいです。以上。

↓ 実はもう、US本国ではかなりシリーズの先の方まで発売になっている。本編は下の1作だけか。テロ系の話みたいすね。他は単独スピンオフかな。新潮社よ、早くしてくれ! 出来ないなら版権を文春辺りに譲れ!