わたしが映画オタクとして様々な映画を観ていることは、このBlogの過去ログを見ていただければ恐らく十分証明可能だろう。そんなわたしが、今現在も現役として活躍している監督たちの中でで、たぶん、一番好きな監督が、Clint Eastwood御大である。わたしは尊敬と愛をこめて、Eastwoodおじいちゃんと勝手に呼んでいるのだが、御年87歳、全く衰えることのないスーパーおじいである。ほぼ毎年1本以上作品を発表しているし、2本の年だってあるんだから恐れ入る。
 わたしがEastwoodおじいちゃんの作品が好きなのは、その極めて冷徹?な、客観的というか、感情を載せないシビアな視線や、特徴的な色彩の薄い画作り、そして、音楽のつけ方が超絶妙、とか、とにかくいっぱいポイントがあって、毎回、観終わると、やっぱEastwoodおじいちゃんはすげえ、という結論に至るのである。
 というわけで、わたしは今日、会社帰りにEastwoodおじいちゃん最新作『The 15:17 to Paris』を観てきたのだが……これはどう評価したものか難しいな……うーーーん……これは傑作というべきなのだろうか……どうなんだろう? ちょっと、この記事を書きながら、考えてみたい。
 以下、ネタバレ全開になる予定なので、気になる方は読まないで退場してください。全くネタバレを配慮するつもりはありませんので。

 上記予告の通り、本作は2015年8月21日に起きた、アムステルダムからパリへの特急列車内で起きたテロ事件において、犯人にとびかかってとっ捕まえた、勇気あるアメリカ人青年3人のお話だ。
 そして、本作最大のポイントは、な、なんと! その3人を、実際に犯行を止めたド素人の本人その人に演じさせているという驚くべき点にある。おまけに、事件で唯一撃たれて負傷した人とその奥さんも、本人そのものとしての出演だ。要するに、関係者本人による再現フィルム、ということだ。エンドクレジットには、本作は事実である、ただし会話やキャラクターはドラマチックに仕上げるためにちょっといじってます、という文字が(もちろん英語で)流れていた。ま、そういうことである。
 なので、本作はそのテロ事件が起きるまで3人は何をしていたのか、そしてどんな子供時代を経て、そういう勇気ある青年に育ったか、をさかのぼって追った物語である。
 演出としては、冒頭、犯人が列車に乗りむシーンはとても上質だ。犯人の足元だけをカメラは追い、ほとんど上半身は映さない。その怪しげでいて、妙に緊張感ある、客観的な映像は、確かにEastwoodおじいちゃんの作品の目印といってもよさそうだ。そして場面は時をさかのぼって10年前の2005年、3人がまだ中学生(?)のころに移り、のちにテロを止める青年と成長する子供たちの日常が描かれる展開となる。ちなみに彼らが育ったのはカリフォルニア州サクラメントだ。
 わたしが本作の評価を決めかねているのは、第一に、この3人が全く普通、いや、ひどい言葉で言えばむしろ普通より断然下の、何をやってもダメな3バカトリオ、であったことにも起因しているのかもしれない。いや、3バカはちょっとひどすぎるか。いずれにせよ、ちょっと普通じゃない、校長室に呼び出される常連の、ちょいデブ(白人)、チビ(白人)、ヒョロガリ(黒人)の親友3人組である。見た目も全くパッとしない。わたしの目には、彼らの母親は若干過保護のようにも思えたが、まあ、とにかく残念な子供である(そしてそれぞれの子役が超イイ感じ!!)。そして少し時が移り、それぞれ成長した姿となるが、最も時間を割いて描写されるちょいデブ君は、子供のころから軍オタで、サバゲ―大好き少年であり、長年?の夢として、軍への入隊を決意するに至る。しかし、ヒョロガリの親友(彼は一般企業に就職してるっぽい)は、お前は何やっても途中でやめちまうし、無理だろ、大体その太鼓腹で軍に入れると思ってんの? という趣旨のことを優しく告げる。それを聞いたちょいデブは一大決心して体を鍛え、1年後にはすっかりたくましい野郎へと変身し、晴れて軍への入隊がかなうが、一番入りたかった空軍のパラレスキュー部隊には、目の検査に引っかって(空軍は目が命!)入れず、配属された隊でも寝坊はするわ手先は不器用やらで落第の憂き目となり、また別の隊へ配属されてしまう。要するに軍でも落ちこぼれ君だ。そして少年時代チビだった彼もまたすっかりたくましくなって、軍(どうやら陸軍らしい)へ入隊するが、アフガンへ派兵されてももはやテロとの戦いも終わりかけていて、全く暇な毎日。
 こんな、ある意味普通か普通以下のアメリカ人青年3人。彼らはスカイプで連絡し合いながら、休暇でヨーロッパ旅行を計画し、イタリアから始まる休暇旅行の模様が描かれる。そして、実際のところ、何も起こらない。まあ、そりゃそうだ。普通に観光しているだけだし。そしてアムステルダムでの羽目を外した夜ののち、二日酔いで頭痛を抱えながら、次の目的地パリへと向かう、運命の列車に乗るという展開となり、3人の人生を大きく変える事件に遭遇するのであった―――てな展開である。
 なので、彼らのバカ騒ぎや、全くもって普通な観光に付き合っても、観ている観客としては、何一つ面白くない。いや、当たり前ですわな、そりゃ。人の観光を画面で観ても、面白いわけがないよ。おまけに3人は全く大したことのない連中だし。
 なので、わたしはこの映画が面白かったのか、判断に困っているのだが、強いて好意的に言うならば、そんな、ダメ野郎3人が、いざというときに勇気を奮った事実には、やっぱり心に響くものがあったと思うべきなのかもしれない。自らを省みて、もし自分がその場に居合わせたら、同じような行動がとれただろうか? と。
 そういったことを考えさせる力がある作品だったのは、これは否定できないだろう。平和な日本で平和に普通に暮らすわたしが、彼らを見て、なんだよ、ダメ小僧3人組じゃねえか、と偉そうに思うのも事実だが、お前、あいつらみたいに動けたか? と聞かれれば、それは分からん、としかわたしには答えようがない。YESかもしれないし、NOかもしれない。少なくともYESであってほしいとは思うが、どうだろう、実際無理だったかもな……。
 しかし自己弁護するつもりはないが、軍で訓練を受けた連中と自分を比較しても仕方がないような気もする。そして、偉そうに言っていることを自覚したまま書くけれど、あの突撃は、あまりに無謀すぎにも見えた。だって、突撃した元ちょいデブ君が命を失わずに済んだのは、はっきり言って運が良かっただけだよ。犯人のAK-47が不発だったから死なずに済んだだけで、あれが不発でなく、普通に発砲されていれば、100%確実に死んでたぞ、あれは。真っ正面から突っ込むか、普通? 
 まあ、結果としてはホント良かったね、なわけで、そんな点も、わたしとしては本作が傑作なのかどうか判断できないポイントの一つであったように思う。もうズバリ言うけど、バカですよ、この3人は。
 ただし、である。その3バカトリオが英雄的行為を成し遂げたのは紛れもなく事実であり、恐らくはわたしよりもずっとずっと、すごい勇気の持ち主だったことも間違いないので、その点はやっぱり、よくやったこのバカども! と賞賛すべきなんでしょうな。ホント良くやったよ、君たち。
 で、物語はラスト、ひょっとしたら実際のニュース映像なのか、ニュース映像っぽく取り直したのか分からないけれど、当時のフランス大統領オランド氏から勲章を授与されて、アメリカに帰国したのちも故郷のサクラメントでパレートで称えられるという映像で締めくくられる。このニュース映像っぽい画面には、オランド大統領も登場するのだが、あれは……CGだったのかな? エンドクレジットのキャストの一番最後に、オランド大統領役として知らない役者の名前がクレジットされていたので、撮影はその役者で行って、あとでCGでオランド氏を合成したのかもしれないな。わからんですが。そう、Eastwoodおじいちゃんは結構CGをバリバリ使うおじいなんすよね。でもその映像の質感はさすがのハリウッドクオリティでお見事でした。あと、演出として、一切犯人の内面に触れないという潔さも、ある意味Eastwoodおじいちゃんぽいようにも思う。音楽の使い方も、今回もとても良かったすね。ポイントに絞った最小限の音楽は、非常に上品で、そんな点もEastwoodおじいちゃんらしい音楽使用法でありました。
 というわけで、最後にその3バカトリオを紹介して終わりにしよう。
 ◆スペンサー:わたしが言う「ちょいデブ」君。演じたのはくどいけど、Spencer Stone君本人。デカくてごつい。身長193cmだそうだ。ちょいシャクレてるふつー(よりチョイ下)な白人青年。よく頑張りましたね。3人は1992年生まれだそうでまだ25歳。事件当時23歳か。若いなあ。
 ◆アレク:わたしが言う「チビ」君。もちろんAlek Skarlatos君本人。大人になった彼は、具体的な身長データが載ってないけど180cm以上はありそうで、ぜんぜんチビじゃないです。
 ◆アンソニー:わたしが言う「ヒョロガリ」君。唯一軍人じゃない。WikiによるとAnthony Sadler君本人は現在テレビ役者なんかもやってるみたいですな。へえ~。まあ、アメリカンヒーローだしね。
 どうやら本作は、この3人が出版した手記?をベースとしていて、一応脚本にもクレジットされてましたな。まあ、子供のころはダメ男でも、人間、頑張って生きて、勇気を試される場面で勇気を示すことができれば、人生変わるってことなんでしょうな。そういう当たり前ともいえる気付きを与えてくれる映画、という見方をすれば、本作はやっぱり、Eastwoodおじいちゃんがこのところずっと描き続けている「ヒーロー」の系譜に連なる、重要な作品ってことになるんでしょうな。わたしはこの物語の主人公の3バカ青年は、結局、Eastwoodおじいちゃんのスーパー・ウルトラ大傑作『AMERICAN SNIPER』で描かれたクリス・カイルと同じ人間なんだ、ということに、当たり前だし今更だけど、気が付いた。となると、Eastwoodおじいの大ファンのわたしとしては、本作はアリ、と判定しておきたいと、ついさっき、思った。

 というわけで、もうさっさと結論
 わたしの大好きな、Clint Eastwood監督最新作『The 15:17 to Paris』をさっそく観てきたのだが、まさかの本人を起用した豪華な再現フィルムで、事件にかかわった3人のアメリカ人青年の幼少期から事件直前までの行動を追っただけ、の珍しい物語で、観終わっても、これは面白かったのか、傑作だったのか判定できずにいたわたしだが、こうして思ったことをつらつら書いているうちに、Eastwoodおじいちゃんがここ数作品でずっと追いかけている「ヒーロー」を描いた、まぎれもないEastwood作品であることは間違いなく、やっぱり面白かったんだな、という結論に至った。Eastwoodおじいちゃんのファンとしては、やっぱり観ておいてよかったと思う。ひょっとしたらこの映画は、わたしがウルトラ・スーパー大傑作と認定している『AMERICAN SNIPER』と対になる重要な作品かもしれないす。え? Eastwoodなんて知らない? そういう人は……観に行ってもあまり意味がないと思います。以上。

↓ あっ! なるほど、日本語訳も出てるんすね。さすがわたしの愛する早川書房! これは読んでみたいかも。