昨日の記事で書いた通り、わたしは昨日の土曜日、朝7時過ぎに出勤して、ちょっと気になっていた仕事をさっさと片づけて、9時になったところで一度切り上げ、会社の戸締りをして上野へ向かった。そうです。これを観に行くためであります。
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 そう、ずっと行きたかった、『生頼範義展』であります。今日が最終日かな、もうだいぶ前にチケットを買っておきながら、行く時間が取れずにいたため、昨日はもう絶対行かねえと、というギリギリのタイミングだったのでした。
 ところで、生頼範義(おおらい のりよし)大先生については説明はいらないすよね? えっ!? 知らないだって!? この『STAR WARS Ep-V: THE EMPIRE STRIKES BACK』のポスターを描かれた、日本のイラストレーション界の巨人ですよ! 2015年に惜しくも亡くなられてしまったけれど(享年79歳)、その作品はいまだ強い輝きを放っているのです。
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 映画のポスターや出版物のカバーイラストなど、様々なイラストを手掛け、日本国内ではスーパースターと言っても過言ではない巨匠だが、日本版の小説かな、かの「スター・ウォーズ」の挿絵を担当された生頼先生のイラストが、George Lukas氏の目に留まり、2作目の「帝国の逆襲」の公式イラストに起用されたわけです。もうそのあたりの話は半ば伝説化されていて、有名なエピソードだと思う。わたしはもちろん生頼先生のイラストは大好きで、この「帝国の逆襲」のイラストの下敷きを小学生から高校生ぐらいまでずっと使っていたこともあり、わたしとしては、その原画が来ているなんて、絶対に観に行くしかねえじゃねえか!とワクワクしていたのだ。
 この展覧会は、実は2014年だったかな生頼先生の地元である宮崎で開催され、その後2015年、2016年にも3回にわたって開催されていて、わたしも最初の2014年には、こ、これは行きたい!と周りの部下たちにも散々言っていたものの、2014年はわたしのサラリーマン人生で最も忙しかった頃合いであり、どうしても行けなかった。なので、今年とうとう東京で開催されると聞いて、さっさとチケットも買っていたのだが、最終日前日の昨日、やっと生頼先生の本物の生原画を観る機会に恵まれたのであります。
 一言で言えば、もう圧巻である。とにかくすごくて、もう大興奮であった。
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 わたしが昨日、↑この上野の森美術館についたのが9時25分。列が見えなかったので、お、これはガラガラか? と思ったら、すでに15人ほどの熱心な方々が寒空の中、並んでおられた。でもまあ、15人ならこれは最高の状態で鑑賞できるな、と思い、わたしも列に並ぶこととした。すると、10時の開場にはおよぞ100名弱の列となり、まずまずな盛況であったと言えるだろう。わたしが帰る頃にはもっと混雑していたようで、やはり絵画展は朝イチに限る。
 で、入ると、いきなりの「スター・ウォーズ」コーナーである。もうのっけから大興奮ですよ! ただ、上に貼った「帝国の逆襲」のポスターイラストは、原版はなくて、下絵として構図を試し描きした作品しか展示されてなかった。おそらく原画は、LUCASフィルムの倉庫に眠ってるんじゃないかなあ。分からんけど、きっと買い取られたんだと想像します。でもその下絵でもその迫力は尋常じゃない。そして続く展示は、様々な映画のポスター、となった原画である。
 実はわたしが今回一番観てみたいと思っていたのが、こちらの『MAD MAX2』だ。
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 このイラストは、わたしが持っている『MAD MAX2』のパンフレットに付属していたA3サイズのミニポスターに使われているイラストで(2つ折りで挟み込まれていた)、中学生当時のわたしの部屋にしばらく貼られていたことがある。超カッコよくて、今ではパンフと一緒に大事にしまってあるけど、中学生当時のわたしは無造作に画鋲で貼っていたので、もう結構ボロボロになってしまっているのが悔やまれる。中学生当時のわたしをぶん殴りたい気分だ。
 で、この作品も、本物の原画が展示してあって、わたしはもう失神するんじゃねえかというぐらい興奮した。まず、わたしはそもそも生頼先生の使っている画材は何なんだろう? 油彩じゃあないだろうし……? と思っていたのだが、どうやらほぼすべて、カラー作品に使われている画材は「リキテックス」のようだ。いわゆるアクリル絵の具ってやつですな。油彩のような厚塗りもできるし、とにかくその筆力に放つ迫力は、圧倒的である。これは原画をぜひ見てもらいたいものだ。そして、想像以上に原画のサイズがデカイ! ほぼすべてのポスター作品は、キャンバスサイズP40号であった。つまり、天地1000mm×左右727mmである。要するに、だ、通常の映画のポスターサイズは現代ではB1サイズが一番多く使われると思うけれど、B1=1030mm×728mmなわけで、要するに、「原寸大」で描かれている、ということだ。これって、凄くないですか? 今やイラストレータの大半はデータで描く方が多く、手書きの方もそれほど大きなサイズのイラストを描くことはまれなのではなかろうか。この原画を前に興奮しない奴とは友達になれないすね。ホント最高です。

 というわけで、この後はゴジラや小松左京作品のカバーイラスト、海外SF小説のカバーイラストなどのカラー作品が続き、その後、鉛筆によるモノクロ作品が圧倒的物量で展示されていて、もう窒息寸前、脳の血管ブチ切れ寸前の大興奮の嵐である。総数248点、圧巻である。
 わたしがひとつ、へええ!?と思ったことは、モノクロ作品(主に人物画)にみられる「点描」の手法である。なんと、生頼先生は、新聞広告に使われることを想定して、そのための技法として点描を選んだのだそうだ。これって、意味が分かりますか? 出版に携わったことのある人なら分かるでしょ? つまり、新聞(や印刷物)での、「網点」に、最初から自分で分解していたわけなんすよ!! だから、印刷された時に、原画の迫力がそのまま伝わるわけで、そこまで計算している現代イラストレーターはいないのではなかろうか。
 そしてもう一つ、重要なポイントとしてメモしておくと、生頼先生のイラストの最大?の魅力は、その構図、どのキャラをどう配置するか、というそのコラージュ力にあるわけです。これは、イラストレーターのセンスが一番問われるもので、多くの場合は編集者から、このキャラを真ん中にズドーンと、そしてこのキャラとこのキャラをテキトーに配置してほしい、みたいなオーダーがあって、イラストの構図やキャラが決まっていくものだと思うけれど、その配置や場面描写に、イラストレーターのセンスが強く反映されるわけです。で、生頼先生の場合は、まずは原稿(=小説)を完璧に読み込んで、キャラクターを完全に把握してから考えるのだそうだ。きっと映画の場合は、先に観てから考えるんでしょうな。だから、小説や映画という元の作品の世界観が完璧に再現されるわけで、これも、現代イラストレーターには失われつつある努力だろう。わたしが編集者時代には、先にきっちり原稿を読み込む人と、全く原稿を読まないで、特徴だけ書き出したメモを欲しがる人、両方のイラストレーターがいましたね。まあ、スケジュール感が違うだろうから、後者の人を非難するわけには全くいかないけれど、まあ、生頼先生は、きっちりと世界観をつかまないと描けっこないじゃん、という方だったのでしょうな。そしてその残された作品は、ある意味永遠に輝き続けるわけで、本当に素晴らしい作品群でありました。

 最後に、展覧会の運営としてちょっとどうなの、と思ったことをメモしておこう。ただし以下は完全なるわたしのいちゃもんであり、会期終了間際に訪れたわたしの罪であるので、自戒の意味を込めて備忘録としておこう。
 まず、入場列について。2列で並ばせるのはまあ当たり前だし、4列だっておかしくはない。でも、チケットもぎり要員が一人だけで、入場直前に1列にするのはどうなんだ? おまけに前売りを持っている人と持っておらず当日券を買う人を同じ列に並ばせるのも、まあ間違ったやり方だろうな。簡単に改善できるので何とかしてほしいものだ。
 そして、わたしが非常に困ったのが、普通の絵画展なら必ず入場口に置いてある作品一覧が、置いてなかったことだ。なんだ、ないんだ……とがっかりしていたわたしだが、帰りに聞いてみたところ、当日券を買う窓口に置いてあるから、欲しかったらもう一度、入場列に並べ、なんて言われ、ええっ!? それはひどくないですか? と列整理の女子に軽く文句を言ってみたら、見かねたのか?運営関係者のおじさんが1枚持ってきてくれた。聞くところによると、実はもう用意していた分がなくなってしまい、欲しい人だけ、とりわけ外人客に渡す用に、両面コピーをちょっとだけ用意してあったという。ううむ……まあ、終了直前だったから仕方ないのかな……まあ、めんどくさい客ですみませんでした。今後はやっぱり終了直前に観に行くのは避けないと、とわたしも深く反省します。
 あともう一つ。何と公式図録も売り切れていて、買えなかった。今回は買う気満々だったのだが……まあ……しょうがないか……在庫になるより売切れ御免の方が、ビジネスとしては正しいのは良くわかる。だから運営のせいだとは思わず、終了直前に行ったわたしの愚かさの戒めとして、やっぱり終了ギリギリに行くのはダメという教訓としたい。
 最後にもう一つ。本展は、珍しく一部で撮影OKとなっていた。のだが、やっぱり、撮影OKってどうなんだろう、という気がしますね。確かにね、わたしも興奮して撮影したくなる時は良くあります。なので、ファンとしては嬉しい配慮であるのは間違いないとは思う。しかし、わたしは今回結局撮影はしなかった。というのも、わたしが大興奮で、うおおお!と観ているわきで、一心不乱に撮影をバシャバシャして、ろくに作品を「自分の目」で見ることもなく、さっさと次々に作業のように撮影している人々がいっぱいいて、そいつら観てたら、なんか、ああはなりたくねえわ、と思ってしまったのである。撮影自体が悪いんじゃなくて、まずはその眼で、きちんと作品を味わったらどうなのよ、せっかく「本物」が目の前にあるのに! なんか、一心不乱に撮影している姿は実に気持ち悪かったす。ああ、そういや、本展は、わたしの年齢±10歳ぐらいのおっさん率が異常に高かったすね。そりゃそうだ。70年代以降の映画オタク・SFオタクいはもう、たまらない展覧会であったと思う。ホントに最高でした。

 というわけで、結論。
 日本が誇る稀代のイラストレーター生頼範義氏の作品展『生頼範義展:THE ILLUSTRATOR』を終了前日にやっと観に行くことができた。2014年に宮崎で開催されて以来、やっと御対面がかなった生頼先生の本物の肉筆原画は、想像以上のすさまじい迫力とオーラで、わたしはもう本当に失神しかけ、逝っちまいそうになるほど大興奮であった。とにかくすごいよ。これは本当に、自分の目で見ないとダメでしょうな。印刷や写真じゃ絶対に伝わらないと思う。本当に最高でした。そして、会期終了に行くのは絶対にダメ、という教訓も得られ、図録を入手することはできなかったけれど、自戒として受け止めたい。もうチョイ、長く開催してほしかったなあ。今回の東京展は1か月もなくて、非常にもったいないと思った。もっともっと、多くの方に生頼先生の放つオーラを感じてほしかったすね。はあ……それにしても最高でした。いまだ興奮が冷めないす。以上。

↓ 画集を買えってことなのかもしれないな……。
生頼範義: The illustrator
生頼範義
宮崎文化本舗
2014-02

生賴範義Ⅱ 記憶の回廊 1966-1984
生頼範義
宮崎文化本舗
2015-07

生賴範義Ⅲ THE LAST ODYSSEY 1985‐2015
生頼範義
宮崎文化本舗
2016-12-03