「倫理」と聞いて、人は何を連想するのだろうか? わたしはそれなりに哲学も学んできた男ではあるが、「倫理」と聞いて真っ先に連想するのは、「人はどう生きるべきか?」的な難問で、要するに正しく良く生きる、道徳的な、何とも言葉に表現しにくいものを思い浮かべる。
 わたしの生きる上でのモットーは、真面目に生きること、そしてまっとうであること、である。これはどうやらもはや周りの人々にもお馴染みになっているようで、わたしは周辺の人々から真面目な男であるという世間体を獲得している、ように思われる。なんというか、わたしは、「それは違うんじゃねえかなあ」と思うようなことや、「それはいけないことだ」というようなことに直面すると、実に気分が悪くなるというか、非常にストレスを感じ、居心地が大変よろしくなくなるのである。なので、やましいことのない、お天道様に顔向けできないようなことはしない(≒なるべくしたくない)、ということを信条として日々を生きている。つもり、である。
 まあ、それが出来たら苦労はないわけだが、思っていても、自分で納得のゆく道を行くのはなかなか難しく、もはやアラフィフのおっさんとなった今でさえ、日々、くよくよするわけであるけれど、わたしが考えるに、そういった信条を抱かないよりも、抱いて、なおかつ、どうあるべきかと常に心に問いただす方がよっぽどましだと思うので、まあ、一応わたしはわたしなりの納得の元に生きているつもりである。
 わたしが残念に思うのは、周りの人々がわたしのことを「真面目だねえ」「すごいねえ」「流石っす」とか評する時、わたしは心ひそかに「じゃああんたもそうすればいいじゃない」と思ってしまう自分にまず嫌気がさすのが一つ。そして、もっと残念に思うのは、わたしをそう評する人々は、わたしを好意的に評してくれても、自分は全く変わらないことである。つまり、わたしが真面目に生き、その様を周囲にさらけ出していても、残念ながらそれが他者の生きざまに影響を及ぼすことが、ほぼない、のだ。
 わたしは既に25年以上サラリーマン生活を送り、その20年以上は部下を持つ身であったけれど、どうもそういった連中ばかりで、わたしはわたしの仕事ぶりを見せつけることで教育してきたつもりだが、まったく力及ばず、であったと反省とともに嘆くほかなく、実に空虚な人生を送っているようにさえ思える。大げさに言うと、これがまさしく「絶望」という奴じゃあないのか、とすら思える。ま、そりゃちょっと被害者意識というか自己否定にすぎるかもしれないし、あるいはひょっとしたら自意識過剰過ぎなのかもしれないな。
 まあいいや。
 というわけで、そんな悩めるおっさんであるわたしが最近買って読んだ漫画にとてもグッと来てしまったので、ちょっと紹介しようと思った次第である。その作品とは『ここは今から倫理です』という作品である。

 主人公は、高校の「倫理」の先生である。その先生が、様々に問題を抱える生徒たちに、ちょっとした道?を示すお話で、大変興味深くわたしはこの作品を味わった。集英社の公式サイトに、第1話の試し読みがあるので、まずはそっちを読んでもらった方が話は早いな。こちらです→http://www.s-manga.net/book/978-4-08-890791-8.html
 今のところ、単行本(1)巻が出ているだけで、宣伝ネームによればTwitterで話題沸騰中、だそうだ。著者は雨瀬シオリ先生という方で、どうやら講談社で連載中のラグビー漫画『ALL OUT!!』という作品はアニメ化もされたそうだ。わたしはまったく存じ上げない先生だが、本作『倫理』は大変面白かったとわたしとしてはかなりのおススメである。
 とりあえず、大プッシュ&宣伝ということで、ちょっとだけ中身をスクショで紹介することをお許しいただきたい。多分違法だけど、無料公開されている第1話からだからいいよね? ダメならすぐに以下の画像は削除します。
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 とまあ、こんな調子で始まる本作だが、高柳先生の趣旨は、非常にわたしの心情に近くて、とても好ましく思えた。曰く、倫理は学ばなくても将来困ることはほぼない。この知識が役立つ場面があるとすれば、死が近づいた時とか、ひとりぼっちの時とか。そういう時、人は宗教に救いを求めたくなるけれど、宗教とは何か。よりよい生き方を考えたり、幸せとは何か、とか、そういったことは、別に知らなくていいけれど、知っておいた方がいい気はしませんか。
 まあ、高校生にそう言っても、確実に通じないだろうし、実際、本作に登場する高校生たちも、最初はピンと来ない。けれど、高柳先生の欠点はあっても揺るがない? ような姿に、だんだんと興味を持ち始め、先生の言葉や先生が引用する哲学者の言葉に、心が動いて行き、行動へ結びついていく。こういう話を読むと、単純なわたしはあっさり、いいなあ、とか思ってしまうのだが、果たしてそううまく行くものなのだろうか。今まで、わたしもかなり努力してきたつもりなんだが……ま、まさか、これはアレか、高柳先生がイケメンだからか!?
 現状の(1)巻を読んだだけでは、主人公の高柳先生が一体何歳ぐらいなのか、そしてどんな過去があるのか、についてはまったく分からない。恐らくは、今は心に傷を負った高校生をいやす存在の高柳先生は、かつて自分もまた心に傷を負い、それを「倫理」によって救われた過去があるのだろう。そして今もなお、「考え続ける」ことで、その傷を克服しようとしているのだろう、と思う。その辺りの過去のお話もきっと描かれるものと期待しながら、(2)巻の発売を待ち続けたい。これは大変いい漫画ですよ。非常に気に入りました。

 というわけで、さっさと結論。
 ちょっとしたきっかけで、試し読みを読み、先が気になったので思わず買った漫画『ここは今から倫理です』という作品は、やけにわたしの心に刺さったのである。それは、おそらく自分の言動が今までまるで他者へ影響を及ぼさなかったんじゃあないかという軽い絶望を感じるわたしが。こうありたかった、と感じたからなのかもしれない。倫理の先生である高柳先生の、とても静かで、そして熱い言葉は、確実に生徒の心に届き、やがて行動に影響を与えるわけで、なんというか、うらやましい? のかな、わたしは。まあ、もはや人生のPoint of No Returnを過ぎてしまったわたしには、大変こころよく、大変グッときました。というわけで、おススメです。はい。

↓ こちらがアニメ化された雨瀬シオリ先生の代表作、だそうです。ちょっと興味が沸いてきたぞ。(13)巻が最新刊のようです。