今を去ること35年前。わたしは中学生ですでに順調に映画オタクの道を歩んでいたわけだが、35年前の夏、わたしは臨海学校で、早く帰りてえなあ……と思いながら、それでいて海を楽しんでいた。そして海から帰ってきた翌日、わたしは一路20㎞程離れた東銀座までチャリをぶっ飛ばし、とても観たかった映画を観に行ったのである。それがまさか、後にカルト的人気作となって、「いや、オレ、中学んときに劇場で観たぜ、ほれ、これが当時のパンフレットと前売券」なんて言って見せびらかすと、若い映画オタクを名乗る小僧どもにはことごとく、うお、まじっすか!と驚かれる作品になるとは全く想像もしていなかった。その映画こそ、Sir Ridley Scott監督作品『BLADE RUNNER』である。
 ↓これが当時のパンフの表紙と、わたしは当時、表紙の内側に前売券の半券を貼りつけてた。
BLADERUNNER01
 当時、わたしは単に、Harrison Ford氏が大好きで、おまけに『Chariots of Fire』でアカデミー作曲賞を受賞して注目されつつあったVangelis氏が音楽を担当しているというので観たかったのだが(※映画『炎のランナー』は、日本では『BLADE RUNNER』と同じ年の夏公開)、35年前に初めて観た時は、『BLADE RUNNER』の描く未来のLAに大興奮し、そのやや難解な物語も何となくわかったふりをしつつ、コイツはすげえ映画だぜ、と夏休み明けに周りの友人たちに宣伝しまくった覚えがある。
 そして時は流れ―――なんとあの『BLADE RUNNER』が描いた未来、2019年はもうすぐそこに来ており、そりゃあIT技術の進歩はもの凄いけれど、実際の街並みなんかは、なんとなく何にも変わってねえなというつまらん未来を迎えようとしているわけである。日本もすっかり国際的プレゼンスを失っちまったし。
 しかし! 何を血迷ったか、元々『BLADE RUNNER』という作品はワーナー作品だが、わたしの嫌いなSONYピクチャーズが権利を買い(?)、その正当なる続編『BLADE RUNNER 2049』という作品を世に送り出した。前作から30年後を描く、本当にまったくの続編である。当然、もはやアラフィフのおっさんたるわたしは狂喜乱舞、であり、まさしく俺得ではあるものの、マーケティング的に考えれば、とうていこの作品が大歓喜をもって世に受け入れられるとは思えない。結果、US本国などでは興行数値的には若干厳しく、失敗作だとかそういう判定をしている批評を見かけるが、そんなの当たり前じゃん、というのがわたしの意見だ。だって、そりゃ無理だろ。今さらスラムダンクの続編を出したって……いや、スラムダンクなら大ヒットするか、えーと、そうだなあ、うーん、マニアックに言うと……今さら楳図かずお先生の大傑作『漂流教室』の続編を出したって、そりゃあ売れんでしょうよ。わたしは超嬉しいけど。
 しかし、そんな世の中の評価なんぞはわたしにとってはどうでもいい。
『BLADE RUNNER 2049』という映画は、わたしとしては絶対に観なくてはならない作品であるわけで、さっそく昨日の土曜日にIMAX-3D版で観てきたわけだが、間違いなく超ハイクオリティであり、実はお話としてはややツッコミたいところはあるものの、演出・撮影・音楽、すべてが満点であり、わたしとしては大満足であった。コイツはすごい。懐古厨のおっさんどもの中には、観てもいないうちから否定している人もいるようだが、紛れもなく本物の続編であるとわたしは断言したい。そしてこの映画を撮り上げたDenis Villeneuve監督は、現時点では、もはや天才Christopher Nolan監督を上回ったんじゃねえかと言うぐらいの実力があるとわたしは強く感じた。

 相変わらずSONYの予告編は字幕がいい加減だが、よーく元の英語を聞いてほしい。チラホラ、ミスリードの翻訳になっていることは一応突っ込んでおこう。だが、映像のすごい出来はこの予告編だけでも感じられると思う。スピナーの超自然な浮遊感なんかは時の流れと技術の進化が物凄く感じられますなあ!
 では、物語を軽くまとめてみよう。以下、完全にネタバレ全開になるはずなので、気になる人は絶対に読まないでください。確実に、何も知らないで観に行く方がいいと思います。
 まずは前作から説明しないとダメなので、前作から。時は2019年。地球は深刻な環境汚染によって、人類は外宇宙への移民を開始、その宇宙での過酷な環境でテラフォーミングするための労働力を確保するために、「レプリカント」という人造人間を製造し、任務にあたらせていたのだが、レプリカントの反乱がおき、数人の武闘派レプリカントが地球に潜入、その専門捜査官「ブレードランナー」がレプリカントを追う、というお話である。ええと、汚染の原因が何だったか忘れました。核戦争とかじゃなくて産業の発達によるものだったような……。
 そしてこの35年、ずっとオタクどもの議論の的になったのが、主人公デッカードもまたレプリカントなんじゃねえか説である。実は、この議論の結論はどうもオフィシャルに出ているようだが、わたしはあくまで35年前に観た「劇場版」を正典だと思っているので、納得はしていないし、その結論もここに書かない。実際どちらでもいいと思っている。
 いずれにせよ、前作『BLADE RUNNER』は、主人公デッカードが、レプリカントであるレイチェルを伴って酸性雨の降りしきるロスから脱出し、緑あふれる地へ逃走するところで終わる。このエンディングでは大変印象的なヴァンゲリス氏のシンセサイザーミュージックが流れて、実に味わい深く仕上がっているわけである。
 そして今回の『2049』は、そのタイトル通り前作から30年後の2049年が舞台だ。この30年間で何が起きたか。このことに関しては、スピンオフ的な短編が公式サイトやYouTubeで公開されているので、できれば観ておいた方がいい。一応作中でも語られるけれど、かなりざっくりとしか説明されないので。その短編は3本あるのだが、まずはこれ。2022年5月に起きた「大停電」のお話。15分もあるアニメです。タイトルは「BLADE RUNNER BLACK OUT 2022」。この「大停電」事件は本作『2049』でも重要なカギになっている。

 次がこれ。2036年に、天才科学者ウォレスが新たなレプリカントを製造した「夜明け」の話。タイトルは「BLADE RUNNER NEXUS DAWN 2036」。撮ったのはSir Ridley Scott監督の息子。

 最後がこれ。特にこれは観ておいた方がいいかも。今回の『2049』の直前のお話で、冒頭のシーンに出てくるレプリカントが何故見つかってしまったのか、が良く分かる重要なお話。地道にまじめに生きようとしても「どこにも逃げ場はない」哀しさが伝わるもので、本編に入っていてもおかしくない。タイトルは「BLADE RUNNER NOWHERE TO RUN 2048」。

 というわけで、2049年までにこういう事件が起きているのだが、もう一つ、「レプリカント」に関しても簡単にまとめておこう。
 2019年(前作):NEXUS-6型アンドロイド。寿命が短い。タイレル社製
 2022年(大停電=BLACK OUT):同じくタイレル社製のNEXUS-8型に進化していて、寿命は長く(不老不死?)なったが、相次ぐレプリカントの反乱に、「大停電」もレプリカントの犯行とされ、この事件ののちレプリカント製造は禁止になった。そのためタイレル社は破綻。
 2036年(夜明け=DAWN):食糧難を解決する発明で財を成し、破綻したタイレル社のすべての資産を2028年に買収していた天才科学者ウォレスは、反逆しない人間に完全服従の次世代レプリカント製造にとうとう成功する。
 ということになっている。はーーー長かった。以上は前振りです。以上を踏まえて、本作『2049』は始まる。依然として世は不穏な空気をはらみ、上流階級はすでに宇宙へ移住し、地球はある意味底辺であって、環境汚染されたまま、食料もウォレスの会社が作る合成たんぱくしかない状況。
 そんな世にあって、NEXUS-6はもうすでに皆、寿命が尽きて絶滅したけれど、長い寿命を持つNEXUS-8は人間に紛れて生活しており、それらの「8」に仕事は終わったよ、と「解任」を言い渡す役割を果たしている者たちがいた。人は彼らを「ブレードランナー」と呼び、主人公のKD9-3.7というコードを持つ男もまた、ウォレス・カンパニー(?)の製造したレプリカントである。彼は、人間に忠実なわけで、冒頭は命令に従って、とある違法な「8」に解任=殺処分を言い渡しに行くところから物語は始まる。そして無事に任務は完了するが、その「8」は謎の「骨」を埋葬していて、いったいこの骨は何なんだ? という物語の流れになる。検査の結果、どうやらこの骨は、古い世代のレプリカントの物らしい。そして、どうやら「妊娠・出産」しているらしい痕跡が発見される。折しも、天才ウォレスをもってしても、現在の従順な次世代レプリカントの製造には時間も金もかかり、需要に供給が追い付かない状態であり、いっそレプリカントも「生殖による繁殖」が可能だったら、と研究しているところだった。というわけで、一体この骨の正体は、そして生まれた子供は今どうしているのか、そして、主人公はいったい何者なのか―――こんなお話である。
 正直に言うと、わたしは最後まで、主人公KD6-3.7(ケーディーシックス ダッシュ スリー ドット セブン。K-9と言えば警察犬。そんな意味も込められてるのかなあ……※わたし勘違いしてKD9だと思い込んでたので、KD6に修正しました)が何者であり、なぜ命令に背いて行動できたのか、良く分からなかった。中盤までのミスリードはお見事で、ははあ、てことは……と思わせておいて、実は違ってた、という展開は美しかったけれど、じゃあ何者? という点に関しては、1度見ただけでは分からなかったです。その点だけ、わたしとしては若干モヤッとしている。また、天才ウォレスの本当の狙い? なるものがあるのかどうかも良く分からなかった。彼って、意外と普通な実業家だっただけなのでは……という気もしているのだが、これもわたしが理解できなかっただけかもしれない。
 しかし、それ以外の点はほぼ完ぺきだったとわたしは絶賛したい。役者陣の演技、演出・撮影・音楽、すべてがきわめてハイレベルで極上であった。
 役者陣は最後に回して、まず監督であるDenis Villeneuve氏の手腕を称賛することから始めよう。わたしは映画オタクとして、映像を観ただけで、これって●●監督の作品じゃね? と見分けられる監督が何人かいる。例えばDavid Fincher監督とか、Christopher Nolan監督とか、Sir Ridley Scott監督とか、画そのものに特徴がある監督たちの場合だ。わたしは本作をもって、Denis Villeneuve監督もその一人に入れられるようになったと思う。
 この監督の目印は、上手く表現できないけれど……ロングショットで画面に入るオブジェクトの巨大感が圧倒的なのと、超自然なCG、それから、「ほの暗いライティング+スポットライト」にあるような気がしている。本作では、かなり多くのシーンが薄暗く、そのほの暗さが超絶妙だ。そう言う意味では、IMAXのきれいな画面で観たのは正解だったように思う。もちろんそういった「画」そのものは、撮影およびライティングの技術の高いスタッフに支えられたものだが、今回も街の壮大さ、建造物の巨大感、そしてもはや本物にしか見えない数々のオブジェクトは完璧だったと思う。35年前のスピナー(※主人公の乗るパトカー)の動きと比較すると、もう完全に本当に飛んでいるようにしか見えないもの。さらに演出面では、そのほの暗い中からキャラクターがだんだん出てくる、と言えばいいのかな……キャラの顔の陰影が凄く印象的で、段々見えてくるような演出が多い? ように感じるが、そのため、役者の表情が非常に物語を表しているというか……苦悩、疲労感、あるいは怒り? が画から伝わるのだ。非常にわたしは素晴らしいと思う。実に上質だ。
 そして、Denis監督で、わたしが一番特徴があると思っているのは、実は音楽だ。いや、音楽というより効果音? というべきかもしれない。とにかく、常に、ビリビリビリ……ズズズズ……といった重低音が響いていて、わたしは以前、Denis監督の『SICARIO』を観た時、この音は要するにJOJOで言うところの「ドドドドド」に近い、というか、そのものだ、と思ったが、今回ももう、漫画にしたら確実に「ドドドドド」と文字化されるであろう背景音のように感じられた。そしてその背景音は、不穏な空気をもたらし、緊張感を高めることに大いに貢献していると思う。とにかくドキドキする! こういう演出は、今のところDenis監督とChristopher Nolan監督作品以外には感じたことがないような気さえする。わたしは本作が、来年2月のアカデミー賞で音響効果賞を獲るような気がしてならないね。【2018/3/6追記:くそー! 録音賞と音響編集賞はダンケルクに持っていかれた! でも、撮影賞と視覚効果賞はGET! おめでとうございます!】
  そして、役者たちの演技ぶりも、わたしは素晴らしかったと称賛したい。わたしが誉めたい順に、紹介していこう。
 わたしが本作『2049』で一番素晴らしかったと称賛したい筆頭は、Dave Batista氏である! 素晴らしかった! MCU『Guardians of the Galaxy』のドラックス役でお馴染みだし、元プロレスラーとしてもおなじみだが、今回はもう、実に疲れ、そしてそれでも心折れないレプリカント、サッパーを超熱演していたと思う。サッパーは、冒頭で主人公が「解任」を言い渡しに行くレプリカントだが(上に貼った短編の3つ目に出てくる大男)、実に、前作でのレプリカント「ロイ」と対照的でわたしは大興奮した。前作でロイは、前作の主人公デッカードに対して、過酷な宇宙での体験を「オレは地獄を見た!」と言い放ち、故にある意味サタンとなって復讐に来たわけだが、今回のサッパーは、「オレは奇蹟を見た」と宣言する。故にエンジェルとして秘密を守り、真面目に暮らしていたわけで、レイとは正反対と言っていいだろう。地獄を見たロイと奇蹟を見たサッパー。この対比はホント素晴らしかったすねえ。あ、どうでもいいけれど、サッパーが養殖している虫の幼虫を、字幕でなぜ「プロティン」としたのか……あそこは「タンパク質」とすべきだと思うんだけどなあ……。イメージが違っちゃうよ。ねえ?
 次。2番目にわたしが褒め称えたいのが、孤独に暮らす主人公の心のよりどころである(?)、3Dホログラムのジョイを演じたAnna de Armasちゃんだ。とんでもなくかわいいし、実に健気だし、最高でしたね。こういうの、早く現実に普及しないかなあ……ジョイちゃんがいれば、もう完全に一人で生きて行けますよ。最高です。Annaちゃんと言えば、わたしは『Knock Knock』しか見ていないのだが、あの映画でのAnnaちゃんは超最悪なクソビッチだったので、印象が悪かったのだけれど、本作で完全にそのイメージは払拭されました。何度も言いますが最高です。
 そして3番目が、主人公たるKD9-3.7を演じたRyan Gosling氏であろう。彼はやっぱり、無口で常に悩んでいるような役が一番しっくりきますねえ。実にシブくてカッコ良かった。KD9-3.7は、「奇蹟を見た」という言葉に、一体奇蹟って何なんだ? そして俺の記憶は……? とずっと悩んでいたわけで、その悩みが、人間の命令をも上書きしたってことなんすかねえ……その辺が良くわからないけれど、彼もまた、ラストシーンは、前作のロイと同じようでいて対照的な、実に素晴らしいエンディングショットでありました。前作でのロイは、デッカードを助け、まあいいさ、的な表情で機能停止するラストだったけれど、今回は、すべてに納得をして、実に晴れやかな、やれやれ、終わった、ぜ……的な表情でしたね。Ryan氏の若干ニヒルな、けど実は大変優し気な、実に素晴らしい表情でありました。前作は雨の中だったけれど、今回の雪の中、というのも幻想的で良かったすねえ!
 4番目はソロ船長ことHarrison Ford氏であろうか。まあ、やっぱりカッコイイですよ。もう75歳とは思えない、けれど、やっぱりおじいちゃんなわけで、実にシブいすね。デッカードは、この30年をどう過ごしてきたのか、若干謎ではあるけれど、実際に35年経っているわけで、その顔にはやっぱりいろいろなものが刻まれてますなあ……。ラストシーンの、お前なのか……? という驚きと感激の混ざった複雑な表情が忘れられないす。素晴らしかったですよ。
 最後に挙げるのは、まあ、物語上良くわからない点が多いのでアレな天才科学者ウィレスを演じたJared Leto氏である。勿論この人の演技は毎回最高レベルで素晴らしいと思うけれど、どうも、わたしには若干雰囲気イケメンのように思えて、その独特のたたずまいで相当得をしているようにも思える。どうしても、物語的に良くわからないんすよね……もう少し、物語に直接自分で介入してほしかったかな……。でもまあ、確かに非常に存在感溢れる名演であったのは間違いないと思います。

 はーーーー書きすぎた。長くなり過ぎたのでもう結論。
 35年ぶりの続編である『BLADE RUNNER 2019』をIMAX 3D版でさっそく観てきたわたしであるが、一つ断言できるのは、まったく正統な完全なる続編であることであろう。これは本物ですよ。懐古厨のおっさんも、まずは観てから文句を言ってほしい。そして前作をDVD等でしか見ていない若者も、少なくとも前作を面白いと感じるなら、本作も十分楽しめると思う。そしてその内容は、物語的には若干良くわからなかった部分があるのは素直に認めるが、それを補って余りある、極めて上質な、とにかくハイクオリティな一品であった。監督のDenis Villeneuve氏は、わたしとしては現代最強監督の一人であると思います。そしてわたしの中では、かの天才Christopher Nolan監督を上回ったんじゃねえかとすら思えてきて、今後が大変楽しみであります。ただ、興行成績的にはどうも芳しくないようで、そのことがDenis監督の今後に影響しないといいのだが……その点だけ心配です。そして最後に、ホログラムAIプログラムのジョイが一日も早く販売されることを心から願います。頼むからオレが生きているうちに実用化されてくれ……車は空を飛ばなくていいから……以上。

↓ うおっと、高いもんだなあ。80年代の映画のパンフ、ごっそりあるんだけど……売るつもりはないす。