おととい、わたしが世界で最も好きな作家であるStephen King大先生の日本語で読める最新刊『FINDERS, KEEPERS』がもう店頭に並んでねえかなあ(正式発売日は今日の9/29)、と神保町の一番デカい本屋さん(と言えばきっとわかりますよね)に行ったところ、1階の新刊書・話題書のコーナーには見当たらず、ちょっと早すぎたか、とガッカリしたのだが、いつ入荷するんだろうな、と思って店内検索機で探してみて、ひょっとしたら入荷情報とか載ってるかも、と期待を込めて検索したところ、ごくあっさり、「店内在庫アリ」と出てきた。な、なんだってー!? と興奮し、良く見ると2階の文芸の棚にあるという表示なので、マジかよと慌てて2階に行ってみたところ、検索機の表示する番号の棚にきちんと置かれていた。というわけで、すぐさまGetしたのだが、その時同時に、げえーーーっ!? いつの間にか新刊が発売になってる! 超抜かってた! と慌てて買った作品、それが今回感想をこれから書こうとしている『空也十番勝負 青春篇 恨み残さじ』という作品である。
 わたしとしては、正直King大先生の新刊の方が読みたくてたまらないものの、100%間違いなく本作『空也十番勝負』の方が早く読み終わることは確実なので、先にこちらを読むことにした。その結果、3~4時間ぐらいだったかな、実にあっさり読み終えてしまった。結論から言うと、今回も大変楽しめたので、シリーズファンが読まない理由はないと存じます。というわけで、以下ネタバレ全開になると思うので、ネタバレが困る人は読まないでください。

 もう既に発売から2週間経ってたのか……くそう、抜かってたというか、ホントにわたしもダメな奴になっちまったもんだ……。
 ま、そんなことはさておき、本作は、かの佐伯泰英先生による一大人気シリーズ『居眠り磐音 江戸双紙』の直接の続編にあたる。主人公が前シリーズの坂崎磐音から、その息子の空也くんに代替わりしている作品で、今回はその第2巻にあたる。
 ちょっとまず振り返っておくと、前作、この『空也十番勝負 青春篇』の1巻目である『声なき蝉』は、『居眠り磐音』シリーズ最終第51巻のラストで、九州の関前藩(※架空の藩で、磐音の故郷)から武者修行の旅に出た空也くん16歳が、最初の修行の場として選んだ薩摩藩での様々な出来事が描かれており、確か2年(3年だっけ?)ぐらいの時間経過が描かれていたはずだ。
 薩摩藩は完全に異国であり、国境警備も厳しく、なにより、空也くんが一番の目的として考えていた、島津家御家流の「東郷示現流」も、門外不出で、とても道場に弟子入りすることはできない。まあ、結局空也くんは示現流を学ぶことはできなかったのだが、代わりに、運命的な2人の人間と出会うことになる。
 一人は、薬丸新蔵という男で、空也くんとは剣を通じて知り合い、新蔵の遣う「野太刀流」は空也くんに大きな影響を及ぼす。示現流ではない、けれど、源流は同じというか、まあ詳しいことは省くけれど、空也くんは新蔵と知り合って、示現流の基礎である技の修練法を身に着けていく。そして新蔵はとある事件があって薩摩を出奔し、江戸へ旅立ち、空也くんとは別れることに。
 もう一人は、おそらく将来的に空也くんの嫁となるであろう、お姫様だ。名を渋谷眉月といい、江戸の薩摩屋敷の生まれ&江戸育ちの美少女である。彼女は、おじいちゃんが島津家八代目の重豪(=天璋院篤姫のひい爺さんかな?)の側用人であったのだが、藩主代替わりで薩摩へ戻ったおじいちゃんに付いて来て、初めて薩摩暮らしとなったのだが、そんな彼女は、とある事件に巻き込まれて意識不明の半死半生となって川に流れついた空也くんを救い、献身的に看護したため、空也くんにとっては命の恩人でもある。まあ、若いお二人さんはもう完全にお互いぞっこんLOVEなのは言うまでもなかろう。
 で、1巻ラストでは、空也くんは姫にも別れを告げ、薩摩を去るわけだが、今回はまさしくその続きで、隣国の人吉藩~熊本藩が今回の舞台となっていた。もちろん、時折江戸にいる父の磐音や、母のおこんさん、また妹の睦月ちゃんといった、シリーズのファンなら絶対にご存知のメンバーもちらほら出てきて、ファン大満足の物語であろうと思う。わたしとしても、大変うれしい限りだ。さらに、江戸にたどり着いた新蔵のその後も語られており、後半ではとうとう新蔵は尚武館道場に現れ、磐音と対面もしたりして、大変わくわくする展開でもあった。どうやら新蔵は今後もちらほら江戸の場面では登場するようですね。
 しかし、問題は空也くんである。
 わたしとしては、やっぱりそうなるか……とある意味予想通りではあるのだが、空也くんは前作ラストで、示現流の達人と果し合いをして勝利、相手を死に至らしめたため、またしても「恨みは晴らさでおべきか!」と怒りに燃えた示現流の刺客に追われる身となってしまったのである。なんというか、完全なる尋常な勝負であり、死んでしまった達人も遺書に遺恨残すなかれ、と書いていたし(?)、現藩主たる九代目藩主の斉宣も復讐禁止を命じているのに、どうしても示現流の皆さん及び親族は許せない。その気持ちは痛いほど理解できるけれど……やっぱりちょっと悲しいすね。
 どうも、今後の展開としては、やっぱり空也は追われる身で、ゆく先々で死闘が待っているようだ。なんか……ますます『密命』シリーズの金杉清之助くん的な物語になっていきそうで、ちょっと心配だ。わたしは『密命』も好きだけれど、もう後半の清之助は強すぎというかスーパーマンになっちゃったからなあ……なお、空也くんは今回のお話で、下段から斬りあげる(?)必殺技を身に着けようとし始めており、ますます「寒月霞斬り」を思わせるような気もした。
 ところで、わたしが今回、んん? と思ったのは、中盤での空也くんの「山賊退治」のエピソードだ。空也くんは、人吉藩のタイ捨流丸目道場での修行を許されて、その長屋を仮の住まいとするのだが、何度か、その長屋から出て山籠もりの修行をしに行く。まあ、元々空也くんは高野山の奥の山の中で生まれ育った青年なので、どうも丸目道場が物足りないらしい。そんな彼が山奥で出会った人々の住む集落で、用心棒的な働きをするエピソードが出てくる。村人曰く、非常に貧しい村だけれど、年に一度、村の木材(?)を売ったお金が支払われるそうで、その金目当ての山賊がいるらしい。しかもどうやらその山賊には、その村の出身者がいるというのだ。そこで空也くんは山賊撃退チームを編成して待ち受け、返り討ちにしてやるわけだが、それがですね、妙にエピソードとして浮いているんだな。確かに、お話し的には『七人の侍』的で面白い、のだが、示現流とも何も関係がなく、ズバリ言うと本筋には全く関係ない。後々関係してくる……とも思えない。どうして佐伯先生はこのエピソードを入れたのか分からないけれど、正直あってもなくてもいいものだったと思う。特に得たものもないのだが、強いて言えば、こういう暮らしをしている人もいるんだ、というような、空也くんの見識が広がった、ぐらいな意味合いしかないような気がする。なんかオチも特になかったし。
 で。やっぱり薩摩とモメている空也くんとしては、人吉藩に迷惑をかけるわけにはいかず、本作ラストでは人吉を発って、熊本の八代へ向かうことになる。そこから、どこへ行くか聞かされていない船に乗って旅立つという計画を丸目道場に立ててもらい、それに乗っかったという形だが、一足違いで、人吉へやってきた眉月ちゃんと会えない。わたしは、ああ、こりゃあきっと、「吉川英治版・宮本武蔵」の、武蔵とおつうさんのように、これから先はずっとすれ違いの二人で、江戸の尚武館で、何年後かにやっと再開できる展開なのかな、と思っていた。
 しかし! 眉月ちゃんはわたしが想像していたような、か弱い女子じゃあなかった! 超積極ガールで、空也くんを追って船で先に八代入りし、空也くんの到着を待ち受けるという攻めの女子だった! そして今回もまた示現流との死闘を終えた空也くんが八代に到着、結果的に結構あっさり二人は再会、という展開であった。これも、わたし的にはちょっと驚いた。というか、あれっ!? と肩透かし? 的な気持ちになった。なんだよ……空也くん、君は武者修行のわりに、すげえリア充じゃん! やるじゃないの!
 というわけで、愛しい女子との再会も無事果たし、いつの日か江戸で、と約束も交わし、再び行先も知らぬ船で旅立つのであった、というエンディングであった。なお、その後、本書の一番終わりは、新蔵のその後が描かれ、なんと小梅村に逗留するようで、新蔵のことも含め、大変今後も楽しみな終わり方であったと思う。

 というわけで、なんかまとまらないのでもう結論。
 大人気シリーズ『居眠り磐音 江戸双紙』の直接の続編である『空也十番勝負 青春篇』の第2巻『恨み残さじ』が、いつの間にか発売になっており、抜かっていたわたしは発売から2週間たってやっと買い、そして結構あっという間に読み終えた。感想としては、もちろん今回も面白かった。しかし、タイトルにある通り「十番勝負」なわけで、残りはあと八番。いったいどんな強敵と戦うことになるのか。そして戦いの末に、空也くんはどんな男になるのか。現在空也くんは19歳ぐらいまで成長しているはずだが、もうすでに相当強く、父・磐音を超える男になれるのか。その成長を楽しみに見守りたいと思うわたしであった。八代からどこに向かうんだろうなあ……まずは長崎あたりなのかなあ……もっと進んで出雲の方まで行っちゃうのかな……それとも南下して九州をぐるっと回って、四国~紀伊方面なのかな……瀬戸内に回り込むのは遠回りすぎるし……尾張まで行っちゃうとかもありうるかもな……ともあれ、大変楽しみであります! 以上。

↓ こういう本もあるんですなあ……。東郷示現流といえば、やっぱり「チェストーー!」が頭に響きますな。