わたしが今、日本の小説で一番新刊を待ち望んでいる作品、それが高田郁先生による『あきない世傳』というシリーズである。そして、この度最新の(4)巻が発売になったので、やったー! とさっそく買い求め、一気に読み終わってしまった。というわけで、さっそくネタバレ満載で感想をつづってみたい。本当にネタバレまで書いてしまうと思うので、気になる方は読まない方がいいと思います。

 さてと。一応、発売日は昨日なのかな。わたしはおとといの帰りに本屋さんで売っているのを見かけて、おおっと!新刊キター!とさっそくレジに向かったのだが、おそらくは日本全国でわたし同様に喜んだ方々はきっと70,000人ぐらい存在しているのではなかろうか。何しろ売れている。高田先生の前シリーズ『みをつくし料理帖』はちょっと前にNHKドラマ化も果たしたばかりだし、その知名度も上がっていようことは想像に難くない。しかもそのドラマでの主演は、わたしが高田先生の作品を読むようお勧めしてくれた、当時わたしが大変お世話になっていた美人お姉さまが、映像化するならきっとあの女優がいいわね、と言っていた通りの黒木華ちゃんがヒロインを演じ、わたしもせっせと見ていたが、華ちゃん=澪ちゃんは極めて役柄にぴったりで、大変楽しませてもらったところである(ただしNHKドラマは、え、ここで終わるんだ、という変なところで最終回的な空気もなく結構バッサリ終わっちゃった。まあ、きっと続編が作られるんだろうと勝手に予想している)。

 で。この『あきない世傳』であるが、(1)~(3)巻までの詳しいことは、過去の記事を読んでもらうとして、ざっくり話をまとめると、ヒロインである幸(さち)ちゃんは、現在の西宮あたりの村に住む少女だったが、父を亡くし兄を亡くし、と、立て続けに一家の働き手を失ったため、母と妹を故郷に残し、大坂は天満橋の「五鈴屋」という呉服屋さんに奉公に出る。その時9歳。時代は1733年、かな。その後、幸ちゃんは持ち前の賢さから熱心に商売の勉強をし、皆に可愛がられるのだが、(2)巻で大変な事件が起こり、なんと、その五鈴屋の4代目となったバカ男(長男)の嫁になる。しかしその4代目がとんでもないクズ野郎で、幸ちゃんはどうなっちゃうのよ……とハラハラしていたらそのクズは死亡、そして(2)巻ラストで、その弟(次男)が5代目を襲名してもいいけど、幸ちゃんを嫁としてもらうぜ!宣言が起こる。この時点での幸ちゃんは17歳まで成長している。
 続く(3)巻では、5代目の次男は、冷酷で意地悪なやな奴、かと思いきや、商売には超有能で、売掛金の回収サイトの変更や在庫処分セールの実施など、様々なビジネス構造改革を断行し、いろいろな反発は食らうものの、きちんと成功はするのだが、その成功の要因として、なにかと幸ちゃんの提案する事業計画というか販促宣伝プランがうまくいったこともあって、夫として若干面白くない、と思っていたところに、先行投資として出資していた生糸の生産地の村へ貸し付けが、両替商の倒産でデフォルトとなってしまい(わかりやすく言うと、五鈴屋は生糸の生産地の村に、増産のための設備投資に必要な資金を両替商の発行する約束手形で貸し付けたが、その両替商が倒産したために、村に貸し付けた事実だけが残って、手形は紙くずになり、村は借金だけを背負うことに)、その結果ステークホルダーから、あんたのせいだ、とある意味逆ギレされてしまって5代目は大ピンチに陥ってしまう。この時点で幸ちゃんは21歳まで成長、もちろん、すっかり大変な別嬪さんである。
 で、今回の(4)巻は、その続きである。
 経営企画として長い経験があるわたしにとっては、今回の(4)巻も、ビジネスの観点から見て大変に興味深く、実に面白いという感想を得た。
 まず、メインストーリーをズバリ書いてしまうが、やらかしてしまった次男こと5代目は、この(4)巻冒頭で失踪してしまう。ただし、無責任に姿を消すのではなく、きちんと地元呉服屋協会に「隠居」届を提出し、妻たる幸ちゃんにも離縁状的なものを提出し、まあ、一応きちんと(?)辞任届を提出して筋は通すという次男のキャラらしい失踪の仕方である。しかし、これはわたしは知らなかったが、当時の大坂商人の常識として、女子は店主=代表取締役になれないらしいんだな。というわけで、五鈴屋は存亡の危機に陥るのだが、ここでも次男はちゃんと手を打っていて、弟である三男に、おまえが店を継いで6代目になるんだよバカヤロー! と一発ぶんなぐっていたのであった。
 しかしこの三男が、これまた問題のある野郎で、大変心の優しいイイ奴で、実際、幸ちゃんのことはその少女時代(自分も少年だった時代)から大好きだったのだが、これがまたとんでもなく夢追い人のだめんず野郎で、おれは作家になるんだ!と9年前に実家たる五鈴屋を出て行ったというか追い出された野郎だったわけです。イイ奴なんだけどね。で、散々説得されて、お前ももういい年なんだから、夢見てんじゃねえよ、という趣旨のことを元営業本部長(番頭さん)で現在は引退していた社外顧問的なやさしいおじさんにやんわり諭され、また2代目の女房たる祖母の健康状態も良くないこともあって、ようやく、よし、オレにはビジネスの才はないけれど、大好きな幸ちゃんと一緒になれるなら6代目を就任してもいい、そしてオレは完全にお飾りの、対外的には店主を演じるけれど、実質的には幸ちゃんを代表取締役として、人形のように幸ちゃんに操ってもらうよ! と、こう書くと果てしなく情けないダメ男だけれど、まあ、そういうわけで、なんと(4)巻冒頭で幸ちゃんは3人目の旦那と結婚することになるのであった。
 これは何というか……まあ、わたしとしては、きっと幸ちゃんは将来的にはやさしい三男と結ばれて、幸せになるんだろう、と想像していたので、驚愕はしなかったけれど、まさかこんな早いタイミングで!? というのは驚いた。幸ちゃん、3回目の結婚である。
 そして、まあ二人は仲良く、五鈴屋を大きく成長させていくわけだが、今回の(4)巻でのお話を現代ビジネス風にまとめると、以下の4つのビジネスプランが実行される。これが非常に面白い!
 1)販路の拡大
 これまで五鈴屋は、基本的に大坂内だけの、こちらから品物を持っていって買ってもらうという訪問販売と、お店に来られる常連客への販売が基本ビジネスだったが、それだと当然顧客も限られ、売上拡大にも限界があり、どうしても販路の拡大が必要なわけだ。要するに、こちらから行けない、お店にも来られない、お店を知らないような、遠く離れた人にも売りたい、ってことですな。これは、今で言えば、たとえばWeb通販のようなものと言っていいだろう。お取り寄せ、あるいは移動販売、的な感じかな。まあ、当時は当然Webなんぞあるわけもなく、幸ちゃんが採用した販路拡大作戦は、「行商人への卸売り」だ。つまり、主に東北地方を行脚している近江商人=行商人に、五鈴屋の取り扱う反物も一緒に持って行ってもらって、地方の人々に売ってきてもらう、という手である。競合と戦わない市場開拓、という意味ではブルーオーシャン戦略ですな。確かに、上物の反物は高価なので実際に購入してくれるお客さんは限られているかもしれないけれど、間違いなく日本全国で需要があり、行商人も結構あっさり取り扱いを決めてくれる。しかも委託販売でもなく、回収サイトの長い掛け売りでもなく、現金即金払いと破格の条件で買い取ってくれたのだから凄い。しかし行商人に関しても、わたしの常識? とは違って、天秤棒で担いで売るんじゃなくて、商品を前もって拠点となる宿に先に船便で送って、そこをベースに得意客を回るものなんだそうだ。へえ~~である。まあ、正直出来すぎな展開だが、結果的にこの策は当たり、行商人に卸した商品もきっちり売り切れ、追加発注までもらって五鈴屋は大儲けであった。おもしろいすねえ!
 2)フランチャイズ展開による在庫処分
 行商人がうまくいった幸ちゃんの元に、かつて五鈴屋で頑張っていた、けど、(3)巻だったかな、5代目と衝突して(いや、(2)巻で4代目のクソ野郎と衝突したんだっけ?)、五鈴屋を退職していた二人の手代が、再就職先が倒産して困っているという話が伝わる。彼らを再雇用するというのもアリだが、それよりも、彼らが独立して商売ができるような手はないかしら、と思った幸ちゃんがひらめいたのは、五鈴屋で在庫となってしまった反物を彼らに預け、行商してもらえばいいんじゃね? というアイディアだった。その際、彼らには五鈴屋のロゴ入り風呂敷に荷物を包んでもらって、運んでもらえばブランド戦略にもなるし! みたいな展開である。ここでは、売った分だけでいい、という「委託販売」の方法にを採っている。そうすれば彼らも元手はかからないし、というわけで、これは現代的に言うと、わたしには「フランチャイズ展開」に近いだろうな、と思えた。いわばロイヤリティを取るけど、商品仕入れはこちらでやるし、ブランドロゴも用意し、あとはあなたたちの努力次第、みたいな感じである。ちなみにこの時、大きな助けとなったのが、(1)巻で4代目のクソ野郎に最初に嫁いで後に離婚した菊栄さんで、彼女は現在実家に戻ってお店を弟(兄だっけ?)とやっているのだが、お鉄漿で大ヒットを飛ばし、人気店として頑張っている。そして、そのお鉄漿の生産地には、もうかっているけど田舎なので金を使う道がなくて、きっと五鈴屋の反物を求めている人がいっぱいいるわよ、と紹介状を書いてくれて、それがあって元手代たちは最初の在庫を見事売り切り、みんながハッピー、Win-Win-Winぐらいの大成功となる。まあ、これも正直出来すぎ、ではあるけれど、いいの! 読んでいて楽しいから!
 3)プロダクトプレイスメント
 そして3つ目が、これはビジネス改革というより宣伝プランなのだが、なんと幸ちゃんは、現代で言うところの「プロダクトプレイスメント」までひらめき、実行し、大成功してしまうのである。えーと、まず「プロダクトプレイスメント」ってのは何か説明すると、ごく簡単に言うと、ドラマや映画などで、主人公が何気なく使う品、を提供して、劇中で使ってもらい、さりげなく広告する手法だ。まあ、普通はスポンサーだとかの商品が不自然に置いてあるとか、やけにロゴがアップで写るとか、そういう形で行われるので、下手にやると下品極まりないけれど、幸ちゃんの実行したやり方は実に面白かった。現在の夫は、元作家志望のだめんず野郎だけあって、浄瑠璃の世界にも知り合いがいるわけですよ。その、浄瑠璃の人形に、五鈴屋の「桑の実色」の反物を無償提供するんだな。もちろん、一切、五鈴屋の宣伝をしてくれとかお願いせず、ただ、無料提供するだけである。そして、幸ちゃんが、同じ反物から作った着物を着て、その浄瑠璃を観に行くわけですよ。ここでポイントなのは、そもそも幸ちゃんが超美人で目立つ、ってことですな。お客さんは、おお、あの人形の着物はきれいな色でいいねえ! と思う→ふとみると、おっと!なんだあの別嬪さんは!人形と同じ着物着てるぞ!?まるで人形のような美しさじゃないか!!とざわつく→幸ちゃんは一切しゃべらず、にっこりするだけで去る→これを10日連続で行い、現代的に言うと、完全にBuzzるわけですな。結果、五鈴屋さんには「あの桑の実色の反物をくださいな!」とお客さん殺到。しかも周到なことに、幸ちゃんはあらかじめ「桑の実色」の反物を買い集めておいて、在庫もしっかり確保してるわけですよ。えーと、しつこいですが、やっぱり出来すぎ、ではあると思う。けど、痛快ですなあ! わたしは大変楽しめました。
 4)M&Aによる事業規模の拡大
 そして今回、最大のポイントがラストに待っていました。いままで、かなり五鈴屋の味方になってくれていた同業の桔梗屋さんが、後継ぎもいないし、もう歳だし、ということで、お店を売りに出すことになる。その時、よし、じゃあわたしが桔梗屋さんを買い取りましょう、ちゃんと従業員は継続雇用するし、お店の名前も桔梗屋さんのままでいいですよ、といいことづくめのように見えたが……まあ、実は全然いい話じゃなく、買い手はクソ野郎だった、ということで、桔梗屋さんは激怒&手付をもらっていたために大ピンチに陥る。そこで幸ちゃんが下した決断はーーー! というのが最後のお話で、これは実際に今までさんざんM&Aをやってきたわたしには、超何度も見かけたお話で、とても面白かった。わたしの経験では、M&Aはたいてい失敗しますよ。これは経験上、わたしは断言してもいいと思っている。お互いがお互いを尊敬し思いやるような、心の美しさがM&A成功のカギで、結局のところ、人、がすべてなのだが、最初に言っていたことを反故にするのなんて、もう何度も目にしてきたし、上手くいったのはほんの一握り、なのが現実だ。買収前後のゴタゴタは本当につらいことなのだが、幸ちゃんの決断は実に胸のすくもので、今回はここで終わりか! というエンディングだったので、次の(5)巻が今からもう楽しみでたまらないのであります。次はまた、年明けあたりだろうな……とてもとても、楽しみです!

 というわけで、もう長すぎなので、ここで結論。
 高田郁先生による最新刊『あきない世傳 金と銀(4)貫流編』が発売になったので、すぐさま買い、すぐさま読んだわたしだが、今回も非常に面白かった。高田先生の作品は、おそらく主に女性読者に人気なのだと思うけれど、この『あきない世傳』シリーズは、世のビジネスマンが読んでも大変面白い作品だとわたしは確信している。とりわけ今回のビジネスプランは実に面白かった。そしてとうとうM&Aまでがテーマとなり、これは全国の経営企画室の人々にぜひ読んでもらいたいと思う。そして、自らが手掛ける案件を想い、真面目に、誠実に、まっとうに、嘘をつくことなく、職務を全うしてもらいたいな、と思った。現代ビジネスの世界は、ほとんど契約に縛られているので「情」の出る幕は実はほとんどないのが現実だけど、やっぱり、「情」のない奴との仕事はつまらんというか……そういうやつとは付き合いたくないですな。幸ちゃん……あなた、生まれるのが250年早かったかもね……部下に欲しかったよ、君のような女子が……以上。

↓ お、DVDは発売されてますね。華ちゃん=澪ちゃんはいいすねえ! 華ちゃんは大阪人だから、澪ちゃんにぴったりでおますなあ! 女子のしょんぼりフェイス愛好家のわたしには、華ちゃんの「下がり眉」は最高でした。
みをつくし料理帖 DVD-BOX
黒木華
ポニーキャニオン
2017-11-15